「ただいま……ってあれ?やけに靴が多いわね……友達でも来ているのかしら……でも、いい匂い……今日はカレーなのね。」
……イオリア・シュヘンベルグによるあの衝撃的な宣言から数カ月が立ち、世界は大きく動き出した。
施設武装組織『ソレスタルビーイング』による武力介入は、彼らの宣言通りあらゆる垣根を超えて行われている。最も、行われているのは武力介入だけではなく、単純な人助けも行っているらしいんだけど。
ついこの間も、沙慈達が研修旅行で行った軌道エレベーターの居住区が事故で切り離された際にガンダム達が救助活動を行ったらしい。
「たっだいま~!!沙慈、今日はカレ……」
勢いよく部屋に入った私の思考は、目の前の光景で固まってしまう。
「あ、姉さんおかえり。」
「おっじゃましてま~すっ!!」
「すまんな絹江、邪魔しているぞ。」
「…………」
そこにいたのは、カレーの準備をしている沙慈とヴァン、そしてテーブルに座って笑顔を浮かべているルイスと、見知らぬ少女。
「……沙慈……?どういう事か説明してくれるかしら……?」
「え?……いや、見ての通り食事の準備。」
「そうじゃなくてっ!!ヴァンはまだいいとして、どうしてルイスと知らない女の子がいるのよっ!?」
「え~?そんな言い方ないじゃないですかお義姉様♪」
「あなたに義姉よばわりされる覚えはないっ!!」
「まぁまぁ……刹那については、俺から説明しよう。」
……そして、見知らぬ女の子…刹那さんについてヴァンが説明をしてくれる。
戦災孤児だった刹那さんをヴァンの友人が引き取ったらしいのだが、まだ世間を知らない刹那さんの見聞を広める為にヴァンを頼ったらしい。
友人の頼みを断る訳にもいかず、ヴァンは刹那さんをホームステイさせる事にしたんだとか。
「……だが、彼女は今までの環境のせいかひどく世間知らずでな……沙慈とルイス君の手を借りたという訳だ。」
「それで、今日は街を案内するのと一緒に色々買出しをしていたんだよ。」
「……そ、そうだったの……」
……な、なんだ……ちゃんと話を聞けば納得はいくわね……
カレーを食べながら、私は横目で刹那さんを見る。
「ねぇねぇ刹那、今度は2人でどこか買い物にいこっか?」
「……あ、あぁ……時間が作れたら……」
「それとぉっ!!女の子なんだからそういう言葉遣い禁止ぃっ!!刹那は可愛いんだから、もっと女の子らしくしないと駄目なのっ!!ね、沙慈♪」
「え、えぇっ!?急に言われても……」
「沙慈ったら、そこは賛成する所でしょっ!!」
「そ、そんなぁ……」
……まぁ、大丈夫か。
「刹那、もう少し噛んで食べろ。」
「……わかった。」
それに、ヴァンとの関係も兄妹って感じみたいだし……って、私はなんでこんな小さい子をライバル視しているのかしら……?
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「悪いなリヴァイヴ、俺のミッションに付き合ってもらって。」
『……か、勘違いしないでくれ。別に君の為ではないからな。』
……おい、反応がツンデレヒロインになってるぞ。俺にその気はないんだが?
ともかく、俺はラジエルに乗ってアザディスタンへと向かっていた。もちろん、ラジエルの頭部にはガンダムと分からぬようフェレシュテのようにセンサーマスクを装備させている。
アザディスタンへ向かう目的は2つ。俺が乗っているラジエルの稼動テストも兼ねてCBの活動を視察する事。(リボンズはあの金ピカ大使の所でこの映像を観るらしい……大丈夫か?)
そして、早い段階でのアリー・アル・サーシェスとの接触。目立った動きをしていない他の転生者が行動を起こす前に、サーシェスをこちら側に引き込んでしまおうという訳だ。
……あわよくば、絹江の命も助けられるからな。願ったり叶ったりだ。(絹江の端末にスパイウェアを仕込んでこちらに情報を流すようにしている……悪い気もするがな。)
ついでだが、リヴァイヴは改良されたGNセファーに乗っている。リヴァイヴに交渉面は任せるつもりなので、同行してくれると非常に助かるのである。
……ん?
『ヴァニタス、どうかしたかい?』
「……GN粒子が観測された。近くでガンダムが戦闘を行っているぞ。」
『……ヴェーダに確認した。フェレシュテがこの地域でミッションを行っているようだな。』
……とすると、奴か。
「リヴァイヴ、セファーラジエルにドッキングした後ステルスモードに移行……戦況を確認しに行くぞ。」
『……僕としては、このままアザディスタンに向かいたいんだが?』
「今活動を行っているフェレシュテのガンダムマイスターは人間の中でも『規格外』の奴だ。奴の戦闘パターンがとれれば、お前達の訓練にも役に立つ。」
『君がそこまで言うのなら興味が沸くな……いいだろう。GNセファー改、ドッキングモード』
リヴァイヴの言葉が響くとGNセファーが二つのユニットに分離し、後部ユニットが変形してラジエルの背中にドッキングする。
すると、バックパックとなった後部ユニットからラジエルの肩部をまたぐようにアームが展開されて胸部を覆うとそこにGNセファーの前部ユニットが合体する。
……よし、問題は特にないな。
改良されたセファーラジエルは、GNプロトビットの制御をセファー側のパイロットに任せる事ができる為より柔軟な戦闘を可能にしている。
まぁ、通常のGNセファーよりコストがかかる上にぶっちゃけイノベイドな奴らには意味のない機能なんだけどな……なぜそんな機能をつけたのかは今はまだ俺とリボンズしか知らなくていい事だ。
「……それじゃ、会いに行くとしますか。」
ラジエルの装甲表面にステルス迷彩を展開すると、俺は高度を落として雲に隠れるように地上にカメラを向ける。
しばらくカメラを動かしていると、GN粒子による電波状態の異常が確認されたのでそこに焦点を合わせた。
『……これが、人間の仕業……だと……?』
やっぱりリヴァイヴは驚くか。まぁ、俺も実際に見てびっくりしてるんだけどな。
映し出された映像は、人革連のものと思われるMSの残骸。そして、指揮車が今まさにビームに打ち抜かれる瞬間。
それを行っていたのは……血に濡れたかのように全身を紅く染めた、エクシアに似た機体。
ガンダムアストレアタイプF。フェレシュテが運用するガンダムの一つで、現在のマイスターはフォン・スパーク。
かつて独力でCBの痕跡を見つけ出し、最初のグラーベ・ヴィオレントと戦闘を行って生き残った00で最も恐るべき『人間』。
外伝で描かれていた奴は、もはや超人と呼ぶに相応しいだろう……いくら爆薬の量が必要最低限だったとはいえ、頚動脈を爆破されてMSを操縦するとか化物過ぎる。
そんな事を考えていると、アストレアFがこちらに向けてビームライフルを構えるのが視界に入る。
…………はあっ!?
『ヴァニタスッ!!』
「くっ!!」
間一髪でビームを回避し、そのまま雲の中に隠れる……なぁ、リヴァイヴ?ステルス迷彩はちゃんと機能していたよな?
『あぁ……それに、太陽光で地上に影ができないように気を付けた位置にいたんだ……間違いなく、あの機体のセンサーには僕達は発見できていないはずだ。』
つまり、奴は勘でこっちに攻撃したんだよな………フォン・スパーク、お前はどこの野生児だおい。
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「……ちっ、避けられたか。」
【センサーニ反応ナシ、センサーニ反応ナシ!!敵機確認デキズ、敵機確認デキズ!!】
「本当にそう思うかハナヨ?」
【センサーニ反応ナシ!!センサーニ反応ナシ!!帰還、帰還!!】
「……はっ、わぁったよ。」
オレ様はアストレアを動かすと、合流ポイントへ移動を開始する。どうやら、オレ様の戦いを見てた奴らはガンダムのセンサーすら誤魔化したようだからなぁ……これ以上追っても無駄だろう。
……あの違和感はよぉく知っている。あれは、オレ様がCBにスカウトされる前に見つけた違和感とまったく同種のものだ。
『まったく痕跡を残さない、完璧すぎるが故の違和感』……あんなのができるのは、あの黒髪のニイちゃんだけだと思ってたんだがな……
「まぁいいさ。オレ様が楽しめるんならな……あげゃげゃげゃげゃげゃげゃ!!」
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『……しかし、なかなか奇抜なミッションだね。』
「それには同感だな。まさか、非武装とは……」
俺達は今、上空でアザディスタン王宮の前に現れたエクシアを眺めていた。
原作でも印象的なシーンではあったが、こうして生で見るといろいろ凄まじいな。
サーシェスとの接触は成功し、奴に俺達への興味を持たせる事は成功した。これで、原作よりも早いタイミングで奴を引き入れる事は可能なはず……
とすると、残りはスローネか。ハレヴィ家への襲撃は止めたいんだけどなぁ……最悪、リボンズに介入してもらうか。
おそらく、他の転生者も介入はしてくると思うが……今まで目立った動きをしていないから不気味すぎるな。
だが、相手の行動から考えてCB側についているのは明確だ……ならば、2ndシーズンの事も見据えてこちらの戦力を削る事はやってくるはず。
ルイスが戦場にでなければ沙慈が戦場に出る理由もないしな……願わくば、あの3人には平和な日常を歩んでほしい。
そう思うのは……間違っているんだろうか?
(つづく?)