…………俺はどうやら死んでしまったらしい。
唐突に何を言いだすのかと思ってしまったあなたは悪くない。俺だっていきなりそんな事を言われたら頭がおかしいんじゃないかと思うだろう。
けれど、頭から血を流しつつ倒れている自分を空から眺めているこの状況では、自分が死ぬという事を否が応にも自覚させられてしまう。
さて、状況を簡単に説明しよう。
俺が死んだ理由は、居眠り運転をしていたトラックに引かれそうになった子供をかばって自分が引かれるという、なんともテンプレ乙といったベタな展開によるものである。
……まぁ、子供は助かっているのがせめてもの救いだ。
なんだか空に引っ張られているような感覚を意識しつつ、今までの人生を振り返る。
高校生活はオタクな趣味を持つ友達や真面目なクラスメイトのおかげで地味だが楽しいものだった。
家族も普通で、だがそれが一番大事だったのだと改めて気づく。父さん、母さん、そして姉ちゃんに妹よ……死んでしまって申し訳ない。だが、なるべく早く立ち直って欲しいと思う。
……あ、そういえば00の劇場版が見れないのか……それはちょっと勿体無いな。
あまりアニメに詳しくなかった俺が唯一見続けていたアニメが、ガンダムシリーズだった。
最新作である00は、劇場版に続くという今時の展開のおかげでグダグダになった感が否めないストーリーはまだしも、MSのデザインには純粋に惚れ込み、久しぶりにガンプラを買った程だ。
ついでに、模型誌で展開している外伝もあらかた目を通していた。
……そんな事を考えていると、目の前が光に包まれていく……死後の世界ってあるんだな。
………でも、死にたくないなぁ………
その願い、叶えてあげるよ。
………………………へ?
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気がつけば俺は、カプセルの中にいた。
……なんだこれ。俺、死んだはずじゃなかったのか?
訳がわからずに戸惑っていると、カプセルが開き外に出れるようになる。
カプセルから出て周囲を見回すと同じようなカプセルがずらりと並べられており、その中には同じように人が入っている。中には、同じような顔をした人もいた。
そんな時、カプセルの表面に映った自分の顔を見る。
一見すると女性にも見えそうな顔と透き通るような黒い髪。
けれど、その顔には……どことなく見覚えがあった。
“目が覚めたようだね、ヴァニタス・ヴィオレント”
…………すると、頭の中に声が響く。その声は、死ぬ間際に聞いたのと同じ声………というか、アムロ。
…………………ヴァニタス・ヴィオレント?
“君の名前だよ。おっと、自己紹介がまだだったね。僕の名前はリボンズ・アルマーク……君の生みの親であり、人類を超越する存在……イノベイターさ”
……マジかよ。トラックに引かれて転生だなんてテンプレにも程があるだろ!?
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結局、あの後俺は何事もなく過ごしている。なんでこんな状況になったのかは分からないが、せっかく人生をやり直せる上にアニメの世界にいるんだ。楽しまないと損だよな。
そんなこんなで2年の月日が流れ……
『ほらほら、ボォっとしてるとやられちゃうよっ!!』
……くそっ、あの貧乳調子こいてんじゃねぇぞ?そんな風に自信過剰だからやられるんだよ。
『誰が貧乳だゴラァァァァァッッッッッ!?!?』
……あ?なんで考えが読まれた?
『……君の思考、脳量子波でダダ漏れなんだが。いい加減、その癖を直して欲しいよ。』
「いつも済まないなリヴァイヴ。」
『あたしに言う事はないのかっ!?』
「大丈夫だヒリング。日本には、『貧乳はステータスだ、稀少価値だ』という言葉があるそうだ。むしろ、誇ってもいいくらいだぞ?」
『……………ぶっ殺すっ!!』
あ、キレたか。
現在俺が何をしているのかというと、イノベイド用の機体を作るための実戦テストを行っている。
俺の乗る機体はブラックプルトーネ。相手は、ヒリングが乗るプロトGNソードを装備したブラックアストレアと、リヴァイヴが乗るブラックサダルスード。
なぜか2対1で戦う事になっており、俺はヒリングの猛攻を避けつつリヴァイヴに攻撃をしかけていた。
……けどなぁヒリング。そんなに嫌ならリボンズに言ってちゃんと性別『女』にしてさらに胸も増量してもらえよ。戦闘用イノベイドだからって、思考が女なんだからそうした方がいいと思うぞ?
“残念だけど、それは僕が却下する。君にからかわれているヒリングを見るのは楽しいし、なにより可愛いからね。”
……リボンズさんや。アンタは自分の面白さのために半身を犠牲にするのかよ。いい性格してるなおい。
“そんなに褒めないでくれ。さすがの僕でも照れてしまうよ。”
褒めてねぇよっ!?
『くそっ、くそっ!!なんで当たらないのさっ!?』
ヒリングの焦る声が聞こえてくるが、俺からしたら当たる訳がないと言いたい。
GNソード系の武器は当たれば強力だがその大きさゆえに取り回しが難しく、俺の言葉で怒り狂ったヒリングは自分では気づいてないのかもしれないが攻撃が単調になっている。
「はい、これで終わり。」
『なぁっ!?』
隙をついてブラックアストレアのコクピットにビームライフルをつきつけると、ブラックアストレアの動きが止まる。どうやら撃墜判定が出たようだな。
まったく……いい加減学習しろよ。何の為に俺が脳量子波をわざと漏らしていると思っているんだ?
“……それに僕を巻き込むのはどうかと思うんだけど?”
甘いなリヴァイヴ。お前はヒリングと行動を共にする機会が多いんだからそこら辺しっかりしないといけないんだぜ?
“……君に負けた後のヒリングをフォローするのが大変なんだよ。まったく、ブリングとグラーベは手伝ってくれないし、ヒクサーは煽るし……”
…………あ、リヴァイヴって苦労人なのな。
++++++++
「……さっきはなかなか楽しませてもらったよ。」
シミュレーションが終わると、俺はリボンズに呼び出された。椅子に座るリボンズは、口元に笑みを浮かべっぱなしだ。
ちなみに、リボンズがなぜここにいるのかというと、あの金ピカ大使の方にはスペアボディに人格を入れて送りつけたらしい。そんなにあの大使が嫌かアンタは。
「……けどなリボンズ、ヒリングのアレはどうにかした方がいいと思うぞ?いや、戦闘用イノベイド全般に言える事だな……人間より優れているという自信が油断と慢心を生んでいる。」
「それは否定しないよ。だから、君に任せているんだ……『原作知識』を持つ君にね?」
…………いや、俺をあてにされても困るんだが。
リボンズには俺が転生者って事はバレてしまっている。まぁ、いろいろやらかしたからなぁ……脳量子波、恐るべしという所だな。
「……だが、ここから先は俺にも想像がつかないぞ?まだイオリアの計画が動いてもいないのに、変化が多すぎる。」
「そこは僕も懸念しているさ。だからこそ、イノベイター用の機体の開発を急がせているんだ。」
……今は西暦2305年。「00本編」開始まではまだ2年もある。刹那・F・セイエイはリボンズの手によってエクシアのマイスターとなる事が決定して、物語の準備は整っている。
けど、既に変化は起きている。
1stシーズンでは武装がなかったはずのトレミーがより戦艦として適した武装を追加されており、GNアームズも既にデュナメス用とエクシア用の開発が終わっている。
フェレシュテの方は変化が見られないものの……あそこにはマイスターハナヨがいる。意図的に情報を遮断する事も可能なハズだ。
「さすがに怪しい存在は見受けられないが……確実に、俺以外の原作知識持ちは存在している。」
「それを探すのは僕の役目だ。君は、君の役目を果たすんだ……イノベイターとしてのね。」
そして、椅子から立ち上がったリボンズが窓の外を眺める。俺も、リボンズの隣に立つと窓の外に視線を向ける。
そこには、アルヴァアロンと共に並んで、胸部だけがクレーンで釣り上げられているIガンダムが存在していた。
それは、Iガンダムをベースに開発されている俺専用のガンダム。そして、未だ開発が始まっていないリボーンズガンダムをより進化させる為のプロトタイプ。
俺の役目……それは、リボンズの計画を成功させる事だ。
本当なら、原作通りに進めるべきなのだろう…………だが、俺はここでイノベイドとして生まれ変わり、皆を仲間と思っている。
たとえ計画が失敗すると分かっていても……俺には、ここで出来た仲間を見捨てる事はできない。
リボンズが俺を駒として使うのならよろこんで使われてやる。これはもう『空想』じゃなくて『現実』だ……俺は、俺のやりたいようにやる。
「……そういえば、やってほしい事があるんだ。君に、日本に行ってほしい。」
「日本に?またどうしてだ?」
「君の『原作知識』では、刹那・F・セイエイは日本を拠点にしていたんだろう?なぜか、彼女がより社会に溶け込めるように保護者代わりの存在を配置してほしいとヴェーダに進言があったらしい……実働部隊と接触できるチャンスだ、君に頼みたいんだよ。」
「別に構わないが…………って待て。『彼女』?」
「どうかしたかい?コードネーム刹那・F・セイエイ。本名ソラ・イブラヒム……れっきとした少女だよ。」
……なん……だと……?
つづく?