――CBの復活から約半年、世界は大きな変革を迎えていた。
世界中に現れた、純粋種のイノベイター。通常の人類よりも優れた、新たな時代を担う存在。
地球連邦政府は積極的にイノベイターを保護するようになり、カタロンはそれまでのテロ組織から反イノベイター組織へと変貌を遂げていった。
CBによって行われた早すぎる『人類の変革』は、皮肉にも新たな火種を生み出すこととなった――
「…………こうしてみると、ナチュラルとコーディネーターっぽい感じだな。あちらほど狂気じみたことにはなってないが。」
「人類は、己を超えた存在を極端に嫌う性質があるからね……それは仕方ないよ。だからこそ、僕らイノベイドが仲介をしなくてはならないんだ。」
「……リボンズ、お前変わったな?あれだけイノベイターに拘っていたお前が、そんなことを言うとは……」
それはきっと、君の影響だろうね。君という存在が居たからこそ、僕もまた変革することが出来たのだから。
……という恥ずかしい台詞は胸の奥に閉まっておいて、僕は彼に対し笑みを浮かべながら、言葉を紡ぐ。
「なに、事実を事実として受け止めただけさ。人類を導く者としては、大きな器を持っておかなければいけないからね。」
「…………まぁ、原作に比べたらはるかにお前の器は大きくなってるだろうな。その分はっちゃけてる感じはするが。」
いやぁ、ストレートにほめられると照れるものだね。これはますます、絹恵達に協力しなくては……
「……いや、余計なことはしなくていいから。というか、絹恵達をけしかけてるのはお前かっ!?」
だって……ねぇ?彼女達の気持ちに気づいていながら放置するなんて鬼畜外道の所業だよ。少しくらい、手助けしたっていいじゃないか。
「その手助けってのが、メイド服のコスプレだったり媚薬の投入だったりか?最近、あいつらの目付きが狩人みたいにギラギラしてて、やたら怖いんだが。」
「自分達のアプローチをことごとくスルーされたら誰でもそうなるよ。いっそのこと、既成事実でも作ってやったらどうだい?」
「断固拒否する。」
……ふむ、なかなか強情だ。まぁ、そうでなくちゃ面白くないけどね?
「ちなみに確認だけど、あの中に本命は居るのかい?」
「………………………………ノーコメントだ。」
ちっ、脳量子波までブロックしたか。これじゃあ、リヴァイヴやヒリングを通じて暴露できないじゃないか。
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「……すごいな、これがダブルオーガンダムの力か?」
「わしも驚いとるよ。ツインドライブがここまで凄まじいものだったとはな……」
――ブリーフィングルームで、私はロックオンやイアンと共に先日行われたミッションの映像を眺めていた。
映像のメインとなっているのは、新装備『セブンソードユニット』を武装したダブルオーガンダム。単騎でカタロンの太陽炉搭載機を破壊していくその姿は、まあに一騎当千と呼ぶにふさわしいものだった。
「でも、刹那に負担をかけるわけにもいかないわ……ただでさえ、私たちには戦うべき敵が多いもの。」
そう言いながら、私はモニターにある映像を表示する。そこには、ガンダムと似たシルエットを持つMSが連邦軍のMSと戦闘を行うシーンが映っていた。
「フォン・スパーク率いる『フォールン』……この組織には最優先で武力介入を行う必要があるわ。彼らは、危険過ぎる。」
「……矛盾してるぜスメラギさん。あいつらと戦うってんなら、それこそ刹那の力は必要だろ?」
私の発言に、ロックオンが眉を顰めて意見を唱える。イアンもまた、同じような表情だ。
それもそのはず――『アンノウン』、『フォールン』の所有するMSもまた……私たちの所有するガンダムよりも遥かに高性能な『ガンダム』なのだ。
イアンがアレルヤ専用機として開発した『アリオス』を発展させたかのようなガンダムに、デュナメスの機体特性に加え大量のビットを装備したガンダム。
そして、明らかに技術体系が違うまるで鳥のような風貌を持つ、紺色のガンダム。対抗できる戦力がダブルオーしか存在しない今……私たちに勝ち目があるのかは分からない。
「……えぇ、だから使える戦力は全部使うわ。イアン、『ケルディム』と『アルテミス』はどう?」
「シェリリンからの報告だと、次回のミッションまでには間に合うそうだ……まさか、こんな事態になるとは想定しておらんかったわい。」
「おいおい、話が全く飲み込めないんだが……パイロットも居ないのに新しいガンダムかよ?アレルヤはまだ見つかってないんだろ?」
「えぇ……でも、問題ないわ。『アルテミス』はフェルトが提案した強化プランを元に廃棄予定の機体を改造して作りあげられたものだし、『ケルディム』はデュナメスと同コンセプトの機体よ。」
私の言葉にロックオンは一瞬驚きを見せ、すぐさま笑みを浮かべる。それを見て、私もまた非情にも思える言葉を告げる。
モレノ医師からの報告を受けなければ(というより、無理矢理にも聞き出した形なのだけれど。最後まで反対していたのは彼なのだから。)、この決断もすることはなかった。
しかし、私たちには迷っている暇などない……私たちが歪めてしまった世界を、元に戻すためにも。
「ロックオン・ストラトス――ガンダムマイスターとして、また戦ってくれるわね?」
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「久しぶりだね、グラハム……いや、ミスター・ブシドーと呼ぶべきかな?」
「皆、勝手にそう呼ぶ……迷惑千万だな。」
……いや、君なりの決意なんだろうけどさ、そんな日本かぶれの格好じゃあ仕方ないと思うよ?
研究施設に訪れた旧友を前にして、僕はコンソールを操作しながらそんなことを考えていた。
「それで……用件はあの新型かな?」
「あぁ、あの2機を私と彼女の色に染めてもらいたい。」
「彼女……?」
旧友の言葉に疑問を感じていると、旧友の後ろから金髪の少女が現れた。確か、あの子は……
「これは失礼、ハレヴィ准尉。そこの彼があまりにもインパクトがあるものだから、気がつかなかったよ。」
「いえ、問題ありませんっ!」
僕の言葉に、ハレヴィ准尉は敬礼で答える……やっぱり、僕は気が進まないな。広告塔としては最適なんだろうけど、こんな子が戦場に出るなんて……
「カタギリ、彼女は立派な軍人だ。師として鍛えた私が保証する。」
「……噂には聞いてたけど、本当だったんだね。ミスター・ブシドーがレスキュー部隊の新入りを部下として引っ張ってきたって。」
おかげで、上層部はてんやわんやだったそうだけどね。彼女の転属を妨害しようとする動きもあったみたいだし……
「彼女は、私の同類だ。ならば、同士として力を貸すこともやぶさかではない。」
……同類、か。君がそんな事を言うなんて、珍しいね。
「…………それじゃあ、何か要望はあるかい?」
「最高のスピードと、最強の剣を所望する。」
「私は――」
「――ガンダムを超える力を。それ以外は、何も望みません。」
(つづく?)