――世界は、いつだって残酷だ。
「アニューさん、大丈夫ですかっ!?」
「な、なんとか……でも、どうしてカタロンがこの区域にっ!?」
――僕から姉さんを……ルイスを奪ってもまだ、足りないというのか?
『これは地球連邦に対する宣戦布告だっ!!我々はこの蜂起をきっかけに、世界をあるべき姿へと戻すっ!!それが……我々の大義だっ!!』
「……ふざけるな、こんな事……認められるかっ!!」
――どうして、僕には力がない?
『――やれやれ、大層な事を言うじゃねぇか……俺は、お前らみたいな奴等が……死ぬほど嫌いなんだよぉぉっっ!!』
――力が……欲しい。こんな理不尽な事に立ち向かえる力が……大切な物を守り抜ける力がっ!!
「あげゃげゃげゃげゃげゃ!!テメェ、世界を変える気があるか?だったらくれてやるよ……世界を変革させる力をなぁっ!!」
――そして僕は…………ガンダムと出会った。
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~目覚める天使~
この世界は既に俺の知る“物語”の道を外れている。
原作通りにフォン・スパークがエネルギーテロを引き起こしたものの、ヒクサーとグラーベはなんとか生還する事ができた。
また、計画の障害になり得る可能性を持つビサイド・ペインについてはヴェーダを駆使してその所在を突き止め、オリジナル・ヒクサー(こちらのヒクサーと区別を付ける為に、こう呼称する事になった)をそれとなく誘導し抹殺してもらった。あちらはオリジナル・グラーベの仇を取れたし、こちらとしてはもう一体Ⅰガンダムを入手できた為にそいつを改良してリボーンズガンダムの建造に取り掛かれたのでばんばんざいだ。
00Iの物語については俺が途中までしか把握できてないのでどう転ぶかは分からないが、リジェネに全てを任せる事にした。なぜかは分からないが、リボンズが計画を徐々にイオリアの計画に沿うように修正を行っているので、こちらではそれほどリジェネとリボンズの腹の探り合いは起きてない(と思いたい)。
アロウズは独立治安維持部隊という名称こそ残ってはいるが、その実態は国の垣根を超えたレスキュー部隊と、原作よりは凶悪さが薄れた対テロ用部隊に分かれている。
一方、原作ではアロウズの非道な振る舞いに立ち上がったカタロンは、もう一人の転生者の手によって太陽炉搭載型MSのデータがばらまかれ、国際的なテロ組織となっている。
そして……CB。
本来アロウズの監視下にある高重力工業区画のあるコロニーに現れるはずだったエクシアは、アザディスタンに侵攻しようとしていたカタロンのMSの前に(しかも、原作通りのリペアではなくビームコーティングを施したマントとアストレアの予備パーツを用いて改修された状態で)現れた。
さらに、まるでそこに現れるのを分かっていたかのようにヴァーチェに似たガンダム――セラヴィーと、白いアストレアが増援として駆けつけた。
結果としてアロウズはCBと協力する形でカタロンを退けたが、CBはアロウズと積極的に戦闘を行う事はせずにエクシアを回収して離脱していった。
アロウズも迅速な行動を行い、CBが合流しようとしている地点を叩こうとしたのだが……
――新たな物語が、動き出してしまった。
モニターに映し出されているのは、宇宙(そら)一面に広がる緑色の粒子。
その中心に居るのは……背後に青白い『∞』の円を携えた、青い装甲を紅く染めるガンダム。
ダブルオーガンダム。
イオリア・シュヘンベルグの計画の根幹を成すCBの機体で……『ガンダムを超えたガンダム』となるべき存在。
そして、人類に変革をもたらす機体。
“……これが、ダブルオーガンダム……なんという力だ……”
脳量子波を通して、リボンズの声が響いてくる。その声色には、歓喜の色が浮かんでいた。
だが……俺には、その輝きは不吉にしか見えない。リボンズは俺の知識という形でしか“原作”を知らないのだから、俺の驚きを共有できないのだろう。
なぜなら目の前で起きているそれは、俺の想定を遥かに超えている事態だったのだから。
「……単独で、トランザムバーストだと?」
あれは、純粋種のイノベイターが搭乗する事で初めて発現するシステムのはず……刹那が、もうイノベイターとして覚醒したというのか?
いや、そんな事はありえないはず……
『ありえない事はありえない』
……ふと、何かの漫画で読んだ言葉が脳裏をよぎる。
同時になぜか俺は……いいようもしれない悪寒を感じていた。
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……リュミナス、これはどういう事かしら?
“それはこっちが聞きたいんだけど?オーライザーも無しにツインドライブが安定するとか……想定外にもほどがあるっての。”
……『敵』が関与している可能性は?
“それもありえない。アイツはイノベイド側についているから、トレミーのメンバーに接触はしないはずよ。いや、できないと言った方が正しいかしら……”
……まぁ、アルマロスの完成により良いデータが手に入ると考えればこちらにとって損はないわね。
“そりゃそうだけど……状況は楽観視できなくなってきたかもね。”
そのようね。こちらも手を考えないと……
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「済まないねヴァニタス。手を尽くしてみたけれど、沙慈・クロスロードは以前として行方不明のままだ」
『少しでも目に届く範囲に入ればと思ってやった事が裏目にでてしまうとはな……くそっ!!』
「少しは冷静になってくれないか?少なくとも、沙慈・クロスロードは死んでいない事は確かだ。」
『……どういう事だ?』
珍しく怒りの感情を爆発させているヴァニタスをなだめながら、僕はヴァニタスのモニターに調査結果の報告書を送りつける。ヴァニタスがそれに目を通すと、先程の意気消沈した表情を一変させて詳しい内容を読み始めた。
……まぁ、怒りを見せるのも無理はない。絹江・クロスロードが生存している事を公にできない上に、防げるはずだったハレヴィ家の悲劇を防げなかった事から、ヴァニタスは沙慈・クロスロードには必要以上に接している。それはまるで、実の兄弟のように。
事実、沙慈・クロスロードが配属された宇宙開発ステーションは僕達の手によって設立されたものだ(と言っても、必要だったから用意したのであって断じて沙慈・クロスロードの為だけに設立したのではないよ?それに、あくまで場所を提供したのであってそこに務める事を選んだのは彼自身の決断だし、そこに務められるだけの実力を持っていた事も確かだ)。さらに、万が一の事を考えて未覚醒状態のイノベイド……アニュー・リターナーも配属させた。
しかし、政府関係の開発ステーションだった事が災いしたのか……カタロンの襲撃を受ける事になってしまった。そして、沙慈・クロスロードはアニュー・リターナーと共に行方不明になっている。
「さて、一通り読み終えたようだけど改めて開設しようか。今回の開発ステーション襲撃の事後処理にアロウズが出撃したのはもちろん知っているだろう?そして、ライセンサー権限で同行したリヴァイヴからの報告だが、被害こそ甚大なものの、奇跡的に死者は出ていない。まぁ、重傷者は出ているけどね。」
『……だが、沙慈とアニューだけが行方不明になった。』
「それだけなら、宇宙空間に投げ出された可能性も考えられる。そこで、破壊されたカタロンのMSに残されていた戦闘記録から抜粋した映像だ。」
そう言いながら映像を再生させると、映し出されるのは……カタロンのMSによって破壊される開発ステーション。
『おい、やりすぎだぞっ!!これでは、民間人にも犠牲者が……』
「あぁっ!?地球連邦に従ってる奴等なんぞ死んでも関係ないだろうがっ!!あいつらは、俺達が苦しんでる中のんきに笑って過ごしてたんだぞっ!?そんな奴等に、現実を教えて何が悪いっ!!」
『あげゃげゃげゃげゃげゃ!!だったら、テメェがここで死ぬのも現実だよなぁっ!?』
――その音声が響くと同時に、赤い影が映り込んで映像が途切れる。これだけで、僕とヴァニタスには共通認識が生まれた。
「捕縛された構成員の証言では、赤と青の『ガンダム』が突然現れてカタロンのMS達を無力化したらしい……さて、この情報から君はどういった見解を導くかな?」
『……沙慈とアニューを、フォン・スパークが連れ去ったというのか?』
「その可能性が一番高いね。少なくとも、沙慈・クロスロードとアニュー・リターナーの死体は見つかっていない。開発ステーションから半径10km内を捜索したが、生体反応すらもね……」
『……だが、奴が沙慈を連れ去る理由がないぞ?』
「それはフォン・スパークにしか分からないさ……ともかく、2人の捜索は僕が引き受ける。君は安心して、アロウズの方に全力を注いでくれ。」
『……分かった。頼むぞリボンズ。』
そう言い残すと、ヴァニタスは笑みを浮かべながら通信を閉じた。まったく、そういった面は彼女達に見せてくれないと困るんだけどね?ただでさえリヴァイヴ達からは睨まれているというのに……
……でもまぁ、こういうのも悪くない。
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~Unknown Encounter~
「はじめましてリジェネ・リジェッタ。僕はレイヴ・レチタティーヴォ――『新たなる監視者』となる者です。」
「御託はいいからさっさと用件を済ませてくれないかな?僕は『監視者』とかそういう物には興味ないんだ……もっとも、『監視者』に与えられる力は別だけどね?」
目の前に立つリボンズに似た青年にそう軽口を叩きながら、僕は冷静に状況を分析する……CBが表舞台から消え去った後にリボンズとヴァニタスから告げられた『事実』とは違う事態になっているけど、これはチャンスだ……イオリア・シュヘンベルグの計画を、僕の手で遂行する為のね?
「……やはり、『異邦人』からの知識をお持ちでしたか。それならば、話は早いですね……」
――すると、彼は『理解できない言葉』を口ずさみながら静かに指を鳴らす。すると、彼の背後にあったモニターに映像が映し出される。
「……なん……だって……?」
――モニターに映し出されていたのは、赤と白のカラーリングに包まれた……僕達がまったく知らないMSだった。
頭部の意匠からガンダムタイプだという事は分かるものの……まるで鳥のようなフォルムを持つそれは、どこか華麗さを感じさせ……それでいて、『異質』な印象を受ける。
これは……なんなんだっ!?
「――型式番号GGF-001『フェニックスガンダム』、それがこの機体の名です。イオリア・シュヘンベルグの計画の根幹を成す、『来たるべき対話』……その先にある、『もう一つの未来』を掴みとる為の『架け橋』となるべき機体。」
「もう一つの……未来?」
いったい……何が起きようとしているんだっ!?
(つづく?)