「あ、マリナ様だ!!」
「ほんとだっ!!マリナ様~♪」
「みんな、元気にしていたかしら?」
『うんっ!!』
「大丈夫マリナ様?なんだか疲れてるみたい……」
「大丈夫よ、みんなに会えたら疲れなんか吹き飛ぶから。それじゃあ、今日は何をして遊びましょうか?」
「……今更かもしれませんが、やはりマリナ様が保育士まがいの事を行うのはまずいのでは……?」
「名目上は孤児院の視察という事になっていますし、マリナ様のストレスを発散するいい機会にもなるので問題はありません。それに……」
「それに?」
「……あぁ、気にしないでください。」
子供達と触れ合うマリナを見て、皇女ではなく普通の人生を送った方がよかったのではないかと考えてしまっただなんて、口が裂けても言えるはずがない。今のマリナは、アザディスタンが……いえ、世界が平和になる為にはどうすればいいのかを自分なりに考えて行動している。孤児院の援助だってその一環だ。眉を顰める連中もいるが、ただ喚くばかりで何も行動しない輩よりは偽善だろうと行動する方がマシに決まっている。
――CBが表舞台から姿を消して、もう3年になる。1年ほど前に発生した未曾有のエネルギーテロにより太陽光が遮断され、地上は大混乱に陥った。
そんな時に活躍したのが、今まで太陽光エネルギーの恩恵を受けれずにいた中東諸国だった。マリナの働きかけによって団結した諸国は枯渇しかかっていた化石燃料をなんとかひねり出す事ができ、それを惜しみもなく各国へ提供した。これによって、デブリ処理の為宇宙へと労働者を送れるほどの余力が生まれた各国によって宇宙開発が推し進められ、地球連邦ではテロ対策や国家間を超えた災害救助のための独立治安維持部隊『アロウズ』が結成される事となった。
もちろん、アザディスタンにも影響はあった。マリナの行動は世界各国で高く評価され、連邦による中東への支援が開始される事となる。また、神が味方しているかのように新たな化石燃料の採掘場が発見され、僅かながらも輸出する事が可能となった。そして、アザディスタンは少しずつ……本当に少しずつだが、復興への道を歩み始めた。
……まぁ、嬉しい事だけではないのだが。
同じ頃にマスード氏が病気により亡くなってしまい、暴走した保守派はアザディスタンを離れ反連邦組織『カタロン』へと参入する事になってしまった。本人達は『第二のCB』になるべく活動しているようだが……私からすれば、CBよりもたちが悪いただのテロリストに過ぎない。そんな輩に……ようやく平和の道を歩もうとしている今のアザディスタンを壊させる訳にはいかない。
「~~♪~~♪~~♪~~」
気がつくと、柔らかな旋律が耳に入ってくる。どうやら、マリナが自作した歌を子供達と一緒に歌っているようだ。
……そういえば、少しだけ頭が痛くなる事があったわ。
以前孤児院への視察を行っている際に、たまたま日本の映像作品(いわゆる『ジャパニメーション』という奴で、アザディスタンにもわずかにではあるが知られている事は聞いていた)を鑑賞する事になった。子供向けにしてはよく出来たものだと思い、同時に世界的な大混乱の最中だというのにサブカルチャー文化にまで力を入れる日本の将来を心配したのだが……マリナの感想には驚かされた。
『……シーリン、日本は素晴らしい国ね。』
そのアニメの何処にそう言える部分があったのかと問い詰めたかったが、そんな事をせずともマリナの方から勝手に喋ってくれた。そして、その理由があまりにもズレていて……より頭痛がひどくなった。あろうことか、マリナはアニメの内容に感銘を受けたのだ。
その作品は侵略してくる異星人とロボットで戦うというものだったのだが、なぜか少女が歌を唄う事によって異星人達が戦意を無くしていき、最終的には和解するのだ。私はまぁ、夢がある展開でいいではないかと思っていたのが……この馬鹿皇女は歌で人々は分かり合えると解釈したらしい。現に、その作品を見てからは公務の合間をぬって子供達と唄う為の歌詞を書いていたりする。まぁ、今は孤児院で披露しているくらいなので見逃してはいるが……さすがに国家を挙げて全世界へ発信しようとするのは止めようと心に固く誓った。
……それから数年後、まさかマリナの考えが現実になるとは思いもしなかったのだが。
++++++++
『……それじゃあフェルト、準備はいいな?』
「はい……フェルト・レゾナンス、ガンダムアストレア……ミッションを開始します。」
訓練用のターゲットを確認すると、私はアストレアを駆って一つ一つ正確にターゲットを撃ち落としていく。
【ターゲット接近、ターゲット接近!!】
「はああああぁぁぁぁっっっっ!!」
今度は目の前に現れたターゲットに向かってプロトGNソードを振り下ろすと、ターゲットは一瞬にして爆散した。
――まだだ。まだ、こんなものじゃ足りない。
刹那の傍に居る為にも、ロックオンの代わりに戦う為にも……私は、強くならなきゃいけない。
だからパパ、ママ……力を貸して。
++++++++
「……おいおい、これじゃあ俺の立場ってもんがないんじゃねぇか?」
「まぁ、お前さんが驚くのも無理はない……わしだって、フェルトがあそこまでやるとは思わなかったんだ。」
――フェルトの訓練の様子を眺めながら、俺は思わずそう呟いてしまう。どうやら、おやっさんも同じ意見のようだ。
いくらハロのサポートがあるとはいえ、第2世代のガンダム……アストレアの動きは、エクシアと比べてもなんら遜色のないほどだった。
「……フェレシュテが保管していたアストレアは中身がほぼ第3世代と同等の代物になっとるとはいえ……元々マイスターとしての適性がなかったフェルトがあそこまで出来るのはおかしい。ロックオン、お前さん何か知らんか?」
「さぁね……俺よりはティエリアの方が知っている気がするぜ?なにせ、ここ最近はあの2人が一緒にいる所をよく見るからな。」
ほんと、一時期は険悪なムードが漂ってたってのに女ってのは分からないねぇ?最近はまるで姉妹のように会話してやがるし……まぁ、俺としては問題ないんだが。
「……強い意志と努力で腕をカバーしとるという訳か。これなら、お前さんの抜けた穴を埋められるかもしれんな。」
「よしてくれおやっさん。俺だってまだ戦え……」
「馬鹿な事を言うな、お前さんとラッセが戦場に出るなどモレノが許さんぞ。いや、モレノだけじゃない……わしら全員が許さん。」
その言葉に、俺は口を閉じるしかない……あの戦い以後、俺とラッセは擬似太陽炉のGN粒子を浴びたせいで人体に支障が来ている。なんとか日常生活を送れるほどには回復したが、長時間の戦闘になど耐えられない。つまり、俺はガンダムマイスターとしてはもう……戦えなくなってしまった。
だからこそ、この状況がもどかしい。守らなくちゃいけない人達が戦場に出るのを、ただ眺めているしかできない自分が……憎くてしょうがない。
「……それに、フェルトを止める資格などわしらにはないさ。どんな崇高な目的があろうとも、わしらは子供を戦場に送り出している……それは、変えられる事のない事実だ。」
「おやっさん……」
「今更フェルトを特別視する事はできん……あの子は自分の意志でガンダムに乗る事を決めてしまった。ならば、せめて……あの子が笑顔で帰ってこられる場所を、お前さんが作ってくれ。」
「イアンの言う通りだロックオン。」
「……ティエリアか。」
すると、入り口のドアが開いてティエリアが中へと入ってくる……盗み聞きとは趣味が悪いな?
「聞こえてしまったものは仕方が無いだろう?……それに、フェルトを甘く見るな。彼女は君が思っているほど弱くはない。」
「んだと?」
「もう、守られるだけの少女ではないという事さ。今の彼女はそう……心強い強敵(とも)だ。」
……おいおい、マジでティエリアとフェルトの間に何があった?なんか、誇らしげに笑みを浮かべているんだが……
「……お前さん、罪づくりな男だな。」
「おやっさん、何言ってんだあんた?」
++++++++
「リヴァイヴ、最近の調子はどう?」
「……絹江か。いや、全然駄目だ。ヴァニタスの奴、こちらのアプローチにまったく気づかない。」
「そうよねぇ……他のヒリングはどう?」
「……もうさ、既成事実を作った方が早いんじゃないかって思うのよ。流石に3人がかりで押し倒したらヴァニタスでもなんとか出来るって。」
「ネーナちゃんの方はどうするのよ?」
「とりあえず、声はかけてみる。」
「それじゃ……今夜にでも決行しますか。」
「「了解。」」
++++++++
ゾクッ!!
……な、なんだ?今、寒気が……
「どうかしたかね?」
「い、いえ……なんでもありませんカタギリ司令。」
「そうか。では、報告を続けてくれ。」
「かしこまりました。」
……さて、俺が現在どうなっているのかを教えよう。とりあえず、アロウズは予定通り設立する事が可能となった。まぁ、フォン・スパークなら俺達に感づいて行動を起こすとは思っていたが……事件の規模が原作よりもでかくなったのは予想外だった。
そのおかげという言い方も変なのかもしれないが、アロウズはそのあり方を大きく変化させ……原作通りである対テロリスト用の機動部隊の他に、国家間の枠組みを超えた特別救助部隊が生まれた。
で、俺はホーマー・カタギリ総司令の副官兼アロウズの監視役として派遣される事になった。まぁ、それは問題ないんだが……なぜライセンサーが俺直属という扱いになるのかが分からない。しかも、ビリー・カタギリも既に所属しているしメメントモリは開発されてないし(こいつは元々止める予定だったので問題はないのだが)……完全に俺の知るアロウズとは違うよなぁ。
唯一の救いは、ミスター・ブシドーが相変わらず存在しているという事だった……なぜアイツが居る事に安堵感を覚えなくちゃいけないんだ俺はっ!?
「それと、実験的に投入した新型オートマトンについてですが……作戦行動にはなんら問題ない事が判明しました。」
「……ふむ。君の進言によって造られた、『敵勢力の殲滅』ではなく『敵勢力の完全無力化』を目的としたものだったな?」
「はい。使用される特殊弾丸にコストが掛かりますが、現場の方からはかなり評価が高いようです。」
「そうか……ならば技術部に通達を送り、新型オートマトンの量産化を急がせろ。テロリストに人権等を与えるつもりはないが、兵士達に潰れてもらっても困るのでな……」
「了解しました。」
……さぁて、CBが活動を再開するまであと1年弱。出来る限りの事はやっておきますか。
(つづく?)