「……太陽炉搭載機とはいえ、やっぱりジンクス程度じゃラメエルの相手にはならないか……ちょっとは期待したんだけどなぁ?」
『……ば、化物め……貴様は、貴様はいったいなんなんだっ!?』
「私?そうねぇ……通りすがりの堕天使よ。それじゃ、こんないい女の手で逝けるんだから感謝してね~♪」
『……すま……ワー……隊長、後は……』
相手のパイロットが何かつぶやいていたけど、私は気にせずにジンクスの胸部をビームライフルで撃ちぬく。周囲にGN粒子を撒き散らしながら、そのジンクスは派手に爆発して炎に包まれる。
……フフッ♪綺麗なものねGN粒子の光は……あぁぁぁぁぁ、サァァァイィコォォォォッッッッ!!にカ・イ・カ・ン♪おっと、いけないいけない。こんな所でチンタラしてたら、メインイベントを見逃しちゃうわね♪
芯から疼く体をなんとか抑えながら、私はラメエルのメインカメラをある方向に向け……その宙域で戦っている、スローネとデュナメスに焦点をあわせる。
優勢なのはデュナメス。スローネが解き放つファングの群れを、自分の周囲を守るように展開したシールドビットで遮りながら果敢にスローネへと向かっていく。どうやら、私からのプレゼントは気に入ってくれたみたいね……最終的にはボロボロになってもらわないと困るんだけど、サーシェスには死んでもらわないと……
だって私、アイツ嫌いだもん。
悪役としては突き抜けてるのかもしれないけど、いずれ世界を支配する身としてはいつ牙を向くか分からない狂犬なんて害悪にしかならない訳だし、邪魔よ邪魔……けど、さすがに戦闘能力は高いわね。あのスローネのスペックはツヴァイとほとんど変わりないのに、強化デュナメスと互角……いや、ロックオンが右目を負傷した事がバレたのか、徐々にデュナメスが押されている。そりゃ、シールドビットをファングと相殺されてたらいずれそうなるわよねぇ?あれかしら、復讐以外にもサーシェスを倒す理由があるから原作以上に血がのぼっているのかしら?
「と、いう訳で……ほんの少しだけ、お手伝いしてあげるとしましょうか♪留美、ちょっと手伝って。」
『……仕方ないわね。私ではラメエルをうまく動かせないのだから、迅速に行動をお願いするわ。』
「はいは~いっと♪」
私は意識を集中させると、スローネにアクセスしスローネの動きを一瞬だけ止める。案の定、その隙が故意に生み出されたものと知らないデュナメスはビームサーベルを構え、スローネの胸部を見事に貫いた。
「どっっっか~ん♪」
後は、スローネの擬似太陽炉を暴走させて爆発を引き起こすだけ。爆発に巻き込まれたデュナメスは炎に飲み込まれたけど……かろうじて、本当にかろうじて生き残っていた。
これで、ロックオンは生き延びた。けれど、毒性を持ったGN粒子を大量に……それこそ、2ndシーズンのラッセなんて目じゃないほど浴びたから、今後戦闘に出る事はない。
まぁ、殺しちゃうと後々トレミーの面子が覚醒しちゃうからね……あの転生者が原作改変を目論んでるなら、こっちだってその気でいくわ。あぁ、思い出しただけでもムカつく。アイツのせいでしばらくラムエルが使い物にならないじゃない。いくら量産体制に入っているとはいえデータ取りがまだなのに……アルマロスはトレミー組にツインドライブのデータが蓄積されないと完成しないし、しばらくはこの機体で頑張らないとね。
おっと、色々考えこんでたらエクシアが来ちゃった……そろそろ退散しないとね。
「……フフフ、CBがどう動くのか楽しみだわ♪」
『まぁ、彼らには頑張ってもらわないといけないわね……いずれ私達が支配する世界の為に。』
「そうね……」
そして『私達』はステルスモードに移行して宙域から離脱する。さぁって、後は色々下準備をしなきゃね……
++++++++
リボンズがサルベージした戦闘記録には、強化武装を施されたデュナメスとスローネの戦闘が映し出される。ファングとシールドビットがぶつかり合い、スローネはデュナメスの右側に回りこむようにして戦っていた。だが、突如スローネが動かなくなった隙をついてデュナメスがビームサーベルをこちらへと突き刺す瞬間で、戦闘記録は終了していた。
『以上が、スローネフィーアに残っていた戦闘記録を可能な限り復元したものだよ。』
「くそっ!!こちらの読みが甘かったって事か。」
『しかし、これで奴の行動に説明がつく……状況は最悪だけどね。』
確かに、リボンズの言う通りだ。サーシェスという貴重な戦力を失っただけではなく、俺達の状況はさらに悪化するものとなっている。
……エクシアがトランザムを発動させた戦闘の後、サーシェスが乗るスローネは武装の補充と共に整備を受けており、その段階では機体に異常はなんら見受けられなかった事を俺も確認している。だから、外部からハッキングでもされない限りスローネが不具合を起こすはずがない。けど、それも本来ならばありえない。CBのガンダムは俺達が使用する機体も含めて、ヴェーダからのサポートを受けれるようになっているのだから機体がハッキングされるという事はヴェーダを経由するしか方法がない。
『だが、起きるはずのない事態が起きてしまった。つまり、敵はヴェーダへ自由にハッキングする事が可能という事だ。』
「リボンズ、そっちでは何かつかめなかったのか?」
『……ガンダム等に対する不審な点は注意すれば見つかるかも知れないけど、それ以外は難しいね。僕達の計画が進めばヴェーダは地球連邦の中核を担う事になる。それほどの膨大な情報の中から不審な点を見出すのは僕一人では不可能だ。』
だよなぁ……CBはヴェーダに依存している部分が多い。イオリアは様々な保険を仕掛けていたようだが、肝心のメンバーがヴェーダに依存していたらいざという時に対応が遅れてしまう。その実例が俺達の行動に対するトレミーのメンバーであり、今の俺達であったりする。
しかし、ヴェーダの動向を監視する為だけの人材を配置する訳にもいかない。
原作後半でイノベイドを量産できたのは、単純な命令を実行するだけの生体コンピュータみたいなものだったからだし、各地に散らばっている情報収集用のイノベイドを覚醒させるのも時間がかかる。となると、俺達が今動かせる人員はごく限られたものになる……いくらトリニティが増えたからといって、転生者の動向に目を光らせていたら身動きがとれない。軍事面はなんとかなるにしても、株価とかに手を出されたら俺達じゃ対応し切れないぞ?
こういう時、外部からヴェーダの動向を分析できる人やコンピュータがあったら……って待てよ?
あげゃげゃげゃげゃげゃ!!
……あいつなら、出来るんじゃね?
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刹那、なんでエクシアに実体剣が装備されているか分かるか?
……GNフィールドに対抗する為だ。計画の中には、対ガンダム戦も入っているのさ。
もしもの時は、お前が切り札になる……本当なら、お前みたいな女の子じゃなくて俺達がやるべきだと思うんだが、エクシアのマイスターはお前だ。
任せたぜ、刹那。
……脳裏には、以前ロックオンから聞かされた言葉が浮かんだ。そのロックオンは今、トレミーで治療を受けている。
「わかっているロックオン……私は、戦うことしかできない破壊者だ。でも、そんな私に……温かさをくれた人達がいる。」
ルイス、沙慈、絹江、マリナ……そして、ヴァニタス。その笑顔が、脳裏に浮かんでは消える。
「戦うことしかできないけど……私達の戦いは、誰かの涙を生むものかもしれないけど……」
次に浮かぶのはロックオンやアレルヤ、ティエリアにフェルト等……大切な、仲間達の顔。
「それでも、守りたい存在がいる……だから、私は戦う!!争いを生むものを倒す為に、この歪みを破壊するっ!!」
叫びと共に私はエクシアを加速させ、目の前にいる金色のMS――アレハンドロ・コーナーが乗る機体のGNフィールドを破り、左腕に、GNショートブレイドを突き立てる。
『き、貴様ぁっ!!』
「武力による戦争根絶……それこそが、CB!!」
金色のMSは右腕のビームサーベルを振るおうとするが、エクシアの左腰に携えられたGNロングブレイドを抜き放つと、その右腕にロングブレイドを突き刺す。それと同時に、金色の機体を包んでいたGNフィールドが……完全に消失した。
『フィールドがっ!?』
「ガンダムがそれを成す……私と、共に!!」
ビームサーベルとビームダガーを胸部に突き立てると、私はエクシアを急上昇させて右腕のGNソードを展開する。
「そう!!私が……」
『ばかな……この私が、貴様ごときにぃぃぃぃっっっっ!!!!』
「私達が、ガンダムだっ!!」
振り下ろされたその刃は……金色のMSを斬り裂く。そして、エクシアのトランザムが終了すると共に……金色のMSが、大爆発を起こした。
「はぁっ、はぁっ……はぁっ……はぁっ……」
みんなは……みんなは無事なの……?
そんな事を考えていると、警告音が鳴り響きこちらへ急接近してくる赤い光が見える。
「……まだ……いるの……?」
まだ、粒子のチャージが完了していない……この状態で、どこまで戦えるか……いや、そんな事を考えていても仕方ないか。
そして、敵機体が視認できる距離まで近づいてくる。その赤い光を撒き散らす機体は……フラッグ!?まさか、擬似太陽炉をむりやり搭載したのっ!?
そのフラッグは左腕の武器を構えると、こちらへ向かって突撃してくる。
ビームサーベル……なんて無茶をっ!!
その赤い刃をGNソードで受け止めると、敵機体から通信が入った。
そこに映っていたのは……アザディスタンでのミッション時に出会った、ユニオンの兵士だった。
「貴様はっ!!」
『なんと、あの時の少女かっ!?やはり、私と君は運命の赤い糸で結ばれていたようだ……そう、戦う運命にあったっ!!』
そんな事を叫びながら、フラッグはエクシアの左腕を切り飛ばす……なんだコイツ?これが、ルイスの言っていた『変態』なのかっ!?
『ようやく理解した……君の圧倒的な性能に、私は心奪われた。この気持ち……
まさしく愛だっ!!』
「愛っ!?」
……駄目だ、気をしっかり持たないと。コイツのペースに巻き込まれていたら……絶対にやられるっ!!
『だが、愛を超越すればそれは憎しみとなる……行き過ぎた信仰が、内紛を誘発するようにっ!!』
「……なぜ……なぜそれが分かっていながら戦うっ!?」
幾多もの斬撃がぶつかり合い、GNソードがフラッグの右足を斬り裂く。それでもなお、フラッグは止まらない。
『軍人に戦う意味を問うとはナンセンスだな!!』
「違うっ!!軍人なら、その戦いは『国家』を……『国民』を守る為のはずだっ!!だが、貴様からは戦いへの狂気しか感じられないっ!!貴様は……歪んでいるっ!!」
『確かに、それは認めよう……だが、そうしたのは君だっ!!』
フラッグのビームサーベルがエクシアの頭部右半分をえぐり、右腕のボディーブローがコックピットを揺らす。
『ガンダムという存在だっ!!』
さらにエクシアは蹴り飛ばされるが、私はGNソードを畳むとフラッグに向かってビームを放つ。だが、そのビームは常人では耐え切る事のできない機動で躱された。
『だから私は君を倒す……世界などどうでもいい。己の意志でっ!!』
「貴様だって、世界の一部だろうにっ!!」
『ならばそれは、世界の声だっ!!』
「違う……貴様は自分のエゴを押し通しているだけだっ!!」
コイツの歪みを創りだしたのがガンダムなら、私自身の手でそれを破壊する!!だからお願いエクシア……力を貸してっ!!
私の思いに答えるかのようにエクシアの太陽炉が唸りをあげ、GNソードを粒子が包みこみ……それは、輝く刃となる。
「……あなたのその歪み、この私が断ち切るっ!!」
『よく言ったガンダム!!』
「『うおおおおおおおおおおぉぉぉぉぉぉっっっっっっ!!』」
そして、2機は一気に接近し……お互いの刃が、その胸部に突き刺さった。
『……ハワード……ダリル……敵は……』
爆発によって、その声は最後まで私の耳に入ること無く掻き消える……いや、聞かなくてよかった。私達の行動で誰かを失った存在……その権化が、奴だったのかもしれない。
「……ありがとう、エクシア……最後まで、私に付き合ってくれて……」
ゆっくりエクシアのモニターをなでると、まるで眠るようにコックピットの光が落ちていく。視界には、球体となって浮かぶ血。座席にゆっくりと身を沈めながら、私は瞳を閉じた。
……マリナは、あのメールをよんでくれるかな……フェルトが今の私を見たら、やっぱり泣くんだろうな……
沙慈とルイスは、どうしているんだろうか……絹江が行方不明になったって聞いたけど……
そして……ヴァニタス。
……会いたい……どうしようもなく、あなたに会いたいよ……
『あげゃげゃげゃげゃげゃげゃげゃげゃ!!こんな所で死ぬにはまだ早いぜ、エクシアのマイスター?』
……その時、まるで音が爆発したかのような笑い声が響く。
「……ガ……ガンダム……?」
薄れ行く意識の中で目を開く私の前に……エクシアに似た、赤いガンダムが居た。
++++++++
「……ようやく、一区切りがついたな。」
「そうだね。けれど、問題はいろいろある。行方不明になったプトレマイオスのメンバーに、ただのテロリストとなったカタロン、未だ姿の見えない転生者等……もう、君の知る“原作”からは大きく道がずれた。」
口調こそ呆れたような口調だが、リボンズの口には笑みが浮かんでいる……その笑みが何を意味しているのかは、俺には分からない。
「けれど、人類の未来はもうすぐ始まろうとしている……僕達はイオリアの計画を継ぐものとして、その使命を果たさなければならない……君には期待しているよ、ヴァニタス?」
「……分かっているさ。」
……あぁ、痛いほど分かっている。ここまで来たんだ……今更引く訳にはいかない。
守りたい世界を、守りたい人を守る為に……俺は、戦う。
++++++++
「ご足労だったなお嬢様……って、1人か?」
「紅龍なら所要で外していますわ……それで、状況はいかがですか?」
「1機目はロールアウトした。今は実戦に向けてのテストに出払っている。」
「他の機体は?」
「予定通り、順次ロールアウトする予定だ。だが、やはりパイロットが足りん。フェルトも頑張ってるんだが、それでもな……せめて刹那さえいてくれば……」
「そうですか、こちらでも可能な限り手を尽くします。ところで、よかったら第1世代の機体を見せてくださらない?」
「ん?了解。」
イワン・ヴァスティがモニターを操作すると、隔壁が上昇して中から灰色と白の装甲を持つ機体が姿を現す。
「これがOガンダム……初めて太陽炉を積んで稼働した機体……」
「太陽炉は取り外して、既に機体に装着してある。だが、こいつを使ってもマッチしなかった……エクシアの太陽炉でも、うまくいくかどうか……」
そう言いながら、イワン・ヴァスティは別の隔壁を眺める。そこに眠っているのは、これからのCBにおいて根幹となる機体……
記された文字は、『GN00 00GUNDAM』
「世界を変える機体……ダブルオーガンダム……」
そして、私達の計画を実現するのに必要な機体……
“ツインドライブの実戦データがまだないから、アルマロスの完成にはコイツが完成してもらわないと困るのよねぇ。はぁ……早く完成して欲しいわほんと”
……すると、私の中からため息と共に声が聞こえる。
焦る必要は無いわリュミナス。私達の野望はまだ始まったばかりなのだから……念入りに準備をしないと。
“それもそうか。でも、大変なのよねぇ……あのクソ野郎のせいでアロウズが大きく変化しちゃってるし、こっちの思い通りにはいかないかもよ?”
あら、ゲームはそれなりの難易度がなければ面白くないと言ったのはあなたよ?それに楽しみじゃない……圧倒的な力でねじ伏せて、相手の絶望した顔を見るというのも。
“……私が言うのもなんだけど、アンタもずいぶん変わったわよねぇ……実のお兄様にあんな事をするし。”
アレはあなたも楽しんでいたじゃない……私だけのせいにしないでほしいわ?まぁ、今は話を止めておきましょう。変な目で見られるのはゴメンだわ。
“はいはい……”
リュミナスが眠ったのを確認すると、私は再びダブルオーガンダムが眠る隔壁を眺める。
……楽しみだわ……この機体が、私の遊技盤でどんな駒となるのか……フフフ♪
++++++++
ルイス、久しぶりにメールを出します。
君から返事が来なくなって、もう2年が立ちました。でも、どうしても伝えたい事があったから……
僕、今年から宇宙で働く事になったんだ。
悲しい事がたくさんあったけど……でも、小さな夢を1つだけ叶えたよ。
だから、もう1つの夢を叶えさせて欲しい……
待ってるよルイス。宇宙で、待ってるから。
―1st season END―
To Be Continued...