——世が混沌に覆われし時、天よりの使者が流星とともに現れ、太平へと導く。
占い師、管路の予言は瞬く間に中華大陸全土へと広まった。
明日の生をも確信できぬ戦乱の世において、救世主願望が民衆の間で高まることは当然のことであった。
そしてその後、各地で天の御使いの噂があがった。
もちろんその多くは偽者と思われたが、中には信憑性のある噂もあった。
白く輝く服を身に纏い、各地で黄巾の賊を成敗して回る御使いの噂。
名門、袁家に降り立った、類稀なる武力を持った御使いの噂。
民衆達は、御使いを手に入れた者こそがこの天下を平定するのでは、と囁いているという。
それを皇帝やその側近の宦官達が面白く思うはずがない。
彼らも彼らで、躍起になって天の御使いを探しているという。
「あてらが天の御使い!?いや、清廉なあてはともかくこのおにーさんが天使ってこたーありえないでしょ。どちらかというと悪魔だよ、悪魔。いや鬼、悪鬼だねー。性豪悪鬼」
「最後のは何なんだ」
自身が天使という存在からかけ離れたものだとは理解している。
光のためならば世界のすべてを敵に回す。
殺し尽くせと言うなら殺し尽くす。
そんな存在が天使だとは、どんな皮肉か。
「…それにしても、予言などという眉唾ものを随分と信じるのだな」
そう、それが疑問だ。
いくら未開の文明とはいえ、予言や占いといった物を、民衆だけでなく皇帝をはじめとした指導者も信じている…
景明の常識から考えて、ありえないことのように思えた。
「力のある占い師の予言であれば、かなり信頼できるのよ。事実、占いを元に行動の指針を決める権力者はかなり多いもの」
そしてそれは私も例外ではない、と曹操は続ける。
「ただ…占いは完全ではないし、運命が定まっていると言うわけではないわ。予言が覆えされたり、占い師が驚愕するような事象が起きたりするもの。とはいえ、やはり能動的に動かなければ大抵は占いの通りの結果になるのだから、流れを読む参考にはなるわ」
「…へぇ〜。おにーさん、どうやらあてらの常識は参考にならないみたいだね」
「あぁ。」
占い師と言う人間は特殊な力を持った人間なのだろうか。
真打が持つ陰義のように。
事実はどうかは分からないが興味はある。
自分たちがこの地に来る事を予言できたほどの者であれば、帰還できるかどうかも知っていよう。
「その占い師というものに会ってみたいものだな。」
「管路は難しいけれども…許邵になら会わせられるわ」
「それも占い師なのか?」
「占い師と言うよりも、人物批評家ね。ただ、人物のその先を言い当てる力はかなりのものよ。」
「会えるよう取りはからって欲しいのだが。」
断られれば出奔する。
「えぇ。そのうちに会わせるわ。その代わり、貴方達には今後天の御使いとして行動してもらうわ」
断られはしなかったが、面倒なことを押し付けられそうである。
「…具体的には何をしたら良い?」
「別に特には求めない。あなたを天の御使いとして、その存在自体を利用させてもらう。具体的なことはこれから桂花と相談して決めるわ」
そこで茶々丸が口を挟む。
「あてらとしては、あまり行動が制限されても困るんだけど」
「——えぇ。可能な限り、貴方達には自由を保障するわ。」
「そう。じゃ、あては出奔しまーす!」
「「「はぁ!?」」」
その場にいたもの達が声を挙げる。
景明も茶々丸の意図が掴めず、頭の中で茶々丸に問いかける。
感覚共有の陰義を持つ茶々丸が相手ならば、容易に行えることだ。
(どういうつもりだ?)
(うん、ちょっとあまり立場が固定されちゃうと後々動きにくくなりそうだから、今のうちに用事を済ませておこうと思って)
(用事?)
(うん。この世界に大和があるかどうか。金神がいるかどうか。ちょっと確認してくる。)
(…わかった。だがそういうことは事前に言え)
(ごめんなさーい)
「ちょっとの期間だけ、あて行きたい所があるんだ。おにーさんはココに残るし、あても用事が済んだら戻ってくるから」
「…わかったわ。まぁ湊斗がいれば天の御使いとしての役割は果たせるでしょうし、ね。ただ残念ね…」
「ん?」
「いえ、今晩にでも、可愛がってあげようと思っていたのに」
固まる茶々丸。
「ど…どういうこと?」
「あら。あなたは嫌?私は気に入った者であれば、男だろうが女だろうが区別しないもの」
「い、いやいやいや!あてはおちんちんとかちゃんと好きだ!そんな特殊な嗜好は持っていないって!!」
「あら残念ね。湊斗がいるからかしら?」
そう言って華琳は景明に目を向ける。
景明の口端が吊り上がっている。
この状況を面白がっているようだ。
茶々丸は助けを求めるように景明を見る。
「そう、あてはおにーさんのものだから!そうだよね、おにーさん?」
「別に俺は構わないが」
「ぎゃー、全然助けにならねー!!」
——そして一方…
「おーほっほっほっほ!素晴らしい、素晴らしいですわ!!」
「そうでしょう。麿は最強の武人ですもの」
「それに強いだけでなく華麗で美しい、というのが何より素晴らしいですわ!」
「…あら。あなた、美しいものを見分ける目は持っているようね。」
「美しいものは美しいものを知る。当然でしょう?」
「そうね。おーほっほっほっほ!」
「おーほっほっほっほ!」
(厄介なのが二人に増えた…頭が痛い…)
——遠く隔てた地にも、天の御使いは降り立っている。
曹操、袁紹、さらに劉備。
3人の英雄の元に降り立った天よりの使者は、この中華大陸の地に何をもたらすか。
––これは、英雄の物語ではない。
英雄を志す者は無用である
ーーーあとがきーーーーーーーーー
今回短くてすみません。
とりあえずここまでで導入部終了。
これからプロット書いてみて、いけそうなら今後も続けます。
その際にはこれまで投稿した分も改訂すると思います。
チラ裏からもうつるかもしれません。
でもこれくらいの僅かな文章量書くだけでもかなり苦労したので、難しいかも。
続ける確率は30%くらいです。