「うん、これで何とかなりそうだね!」
「はい、桃香さま。ですが兵力に劣ることに変わりはないので、正攻法では難しいと思います。」
「そうだよね。ご主人様はどう思う?…ご主人様?」
そこでようやく問われていることに気付く。
慌てて返答する一刀。
汜水関は…確か、"前の時"は華雄を誘き出して、愛紗が一騎打ちで下したんだったよな。
今回もそれで大丈夫だろう。
「ん?あ、あぁ。そうだな、どうにかして頭を誘い出せると良いんだけど」
「はい、ご主人様の言う通りですね。汜水関の将は勇名を馳せる華雄将軍で…」
後は朱里に任せておけば"前回"と同じ策がとられるだろう。
一刀の関心は、目前の先頭とは別にあった。
この世界は、"前の"世界とは違う。
それは分かっていたはずだった。
自分が務めていた劉備のポジションに、"桃香"という存在がいたから。
だがそうとは分かっていても、自分と同じ、日本から来た天の御使いが他に2人いる。
その事実は一刀をかなり迷わせていた。
もしあの2人が自分と同じ時代から来たとしたら、三国志の知識を持っているはずだ。
それぞれが曹操や袁紹を勝たせるため、未来知識を利用するだろう。
そうなれば、歴史は大きく変わっていく。
自分の最大のアドバンテージである知識が役に立たなくなる…それが恐ろしい。
無論、未来知識という反則技がなくても、桃香や愛紗をはじめとした仲間たちと力を合わせれば何でもできる、という自信はある。
以前の自分とは違う。
力はなくとも、その志と覚悟は桃香たちにも劣らない。
けれども。
先ほどの天の御使いたちは、自分のようなただの日本人にはどうしても見えなかったのだ。
格好も、戦国時代の武士のような出で立ちであったし、何よりその雰囲気が違う。
今の一刀になら分かる。
あれは多くの人を斬ってきた者が纏うものだ。
そんな人間、一刀の時代の日本には、少なくとも一刀の周りには存在しなかった。
未来知識と、抜き出た武。
それが合わさった時、どのような力を生み、それがどれほどの影響をこの世界に与えるのか。
一刀には全く予想がつかなかったのである。
(あまり気は進まないけど、貂蝉に会うしかないよな。あいつなら色々知ってそうだし。後は…白装束か)
マッチョなオカマと厄介な妖術道士たち。
嫌な選択肢を思い浮かべ、一刀はため息をついた。
*
「さて、劉備のお手並み拝見、といったところかしら」
「先鋒を譲っても良かったのか?」
「えぇ。虎牢関も残っているし、そもそも今回の戦いは洛陽での働きが重要。董卓を討ち取ることができた者が、覇道へ一歩先んじることができるわ」
「そうか」
一番槍を預かる名誉…中華の将にとって、武士にとってのそれほど重要なものではないらしい。
そうであるならば実利をとるのみ。
だからこその、弱小勢力への押し付け、か。
「湊斗。あなたは劉備をどう見た?」
「…さて。一見しただけでは、ただの小娘のようにしか見えんが。『天の知識』から言えば…曹操、お前にとって大きな障害になるだろうな」
「へぇ。なら、いくら寡兵とはいえ関一つ落とせない人物ではない、ということね。桂花。劉備はどんな策をとると思う?」
「はっ。あの兵力で篭城戦は無理があります。敵兵を誘き出すことがまずは第一」
「けれど、それは敵も分かっているでしょう」
「はい。敵将の華雄将軍は誇り高く、またその矜持に恥じぬ武の持ち主。しかしあるいはそこが、突き崩す点かもしれません。…春蘭が相手だと思えば、いくらでもやりようが考えられる。そういうことです」
「…ちょっと待て。なぜそこで私の名前が出てくる。」
「武は立つけれど知能は足りない。猪突猛進とはよく言ったものだわ」
「だ…誰が猪だ!」
「ふふ…確かに春蘭なら、挑発でもされればすぐに飛び出していきそうね」
「華琳さままで…」
肩を落とす春蘭。
それを見て優しく笑う華琳と秋蘭。
「華琳さま。どうやら劉備が行動を起こすみたいです」
「えぇ。あれは…確か、関羽。」
劉備軍がゆっくりと、そして堂々と進軍し、関の前に陣を張る。
そして、一人の将が先頭に立つ。
美しく、そして有能そうな武将であったこともあり、華琳はその名を覚えていた。
劉備の一の将、関羽。
その関羽が、敵将である華雄の挑発を始める。
「…さすがに、あれで出てくるような将はいないのではないか?」
景明がぽつりと口にする。
安い挑発だ、あれではさすがに…例え雷蝶でも乗るまい。
「甘いわね湊斗。春蘭だったらあれくらいでも充分よ」
「桂花!だからなぜ私の話になる!」
「まぁ、とりあえず見てみましょう。春蘭も熱くならないで」
「はい…」
華琳に言われては大人しくしているしかない。
戦況を見守りながら、春蘭は敵将である華雄を内心応援していた。
(頼むからそんな挑発に乗るなよ、出てくるんじゃないぞ。出てくるようでは猪武者であると表明しているようなものだぞ。いいか、出てくるなよ)
――しかし。
「敵将、関より出てきました!」
「兵が後に続き、劉備軍に突撃しています!!」
(あぁ!)
春蘭の内心に関わらず、華雄は突撃していく。
その様子を見て、華琳が言う。
「どうやらあなたの予想があたったようね、桂花」
「はい。猪武者に対しては、あの程度の挑発で充分です」
「えぇ。華雄は武はともかくとして、知のほうはかなり足りないみたいね」
(なぜ私がこんな思いをしなければならないのだ…)
華雄に対する評が、そのまま自分に当てはまるように感じ、春蘭は肩を落とした。
――――――――あとがき――――――――――――――――
この一刀君、二週目、正確に言えば無印恋姫→真恋姫の一刀君でした。
覚悟やら何やらは原作よりもありそうですが、他の2人に比べると見劣りしますね。
それにしても短すぎてすみません。
更新ペース上げるんでご容赦を。
6/14 誤字をいろいろ修正