彼は自分の幸運に感謝していたはずだった。
やたら身なりの良い二人組が彼らの視界に入ったからだ。
二人とも武装はしている。
遠くから見ても、男の方は腕が立ちそうではある。
が、女連れという点は致命的だ。
しかもこちらの存在に未だ気付いていない。
何やら二人で言い争いのようなものをしているのだ。
隙だらけ、といえる。
金や装飾品はそう持っているようには見えないが、あの剣や鎧は質が良さそうだ。
売ればしばらくの食い扶持は得られるだろうし、この動乱の世を考えれば、自分達で使うという手も有りだろう。
そんなことを考えていたのだ。先程までは。
しかし。
悪い予感が拭えない。
近づくにつれ、その予感は膨らんでいる。
あの男の異様な雰囲気はなんだ?
あの女もどこか普通の人間とは違った空気を纏っている。
もしかしたら、自分はとんでもないものの尾を踏もうとしているのでは?
「アニキ、どうしたんですか?早いとこやっちまいましょう!」
小声で部下が話しかけてくる。
そうだ。部下達の手前、獲物を見逃すことなどあり得ない。
荒くれ者のリーダーで有り続ける為には、力を示すことが必要なのだから。
そうして、彼は相手を威圧するように——自分を鼓舞するように——力強い声を出した。
「おい!そこのお前!!」
「これはどういう状況だ?」
「…あてにもよく分からないよ、おにーさん」
あの瞬間、確かに神は——光は現れたはずだった。
最愛の存在である光への想い、それ以外の全てを切り捨てて辿り着いた結末。
親王殿下、署長、そして村正…彼らの想いを振り切り、六波羅最強の武者をも乗り切って成した神降ろし。
自分はそれを茶々丸と共に眺めていたはずだった。
だがしかし。
「ここはどこだ、茶々丸」
「それも分からないよ、どっか遠くに飛ばされたみたいだねー」
能天気なその声に苛立を覚え、首根っこを強く掴む。
「イタタタタタ!!相棒への暴力反対!!!」
「誰が相棒だ」
じたばたと暴れる茶々丸をそのままに、景明は考える。
神下ろしは成った。
あとは光がその存在に打ち勝ち、飲み込めむだけだった。
そうすれば、光は生きることができる。
期待感と、ある種の達成感を感じながらそれを眺めていたはずだった。
そして、「神」が目がくらむほどに眩い輝きを発したと次に瞬間。
二人は荒野にいた。
「まるで神隠しだな」
「神だけに…ってこと?い…痛い!ほ…本当に首がもげる!!へるぷみー!!!」
いつまでもこうしていては埒があかない。
いい加減五月蝿くなってきたので茶々丸を離す。
「おにーさん、もう少し優しくあてへ接してくれても…」
「うるさい、道具は道具らしく身分を弁えろ」
「あ…」
頬を染める茶々丸。
そうだ、あてはこの人の「道具」なんだ。
万感の想いで胸が満たされる。
「おにーさんと一緒なら、あてはなんでもいいよー!!」
そう言って、抱きつく。
しかし。
ひょい、と景明は身体を動かす。
勢い余った茶々丸は地面と抱擁することになる。
「イタ!!…躱された!?この状況でこの乙女の抱擁を躱すかふつー!!」
「……」
しかし、景明は反応しない。
どこかあらぬ方向に視線を向け、目を細めている。
その様子に、茶々丸も冷静になる。
「おにーさん、誰か近づいてくるね」
「あぁ。とりあえずはこれで事態は動くだろう」
この選択を、後に二人は深く後悔することになる。
しかしこの時点でそれを察することは不可能であった。
それはそうだろう。
自分達がいるのがまさか、数千年前の中国であると気付けというのは酷だ。
結果として。
「おい!そこのお前!!」
縁は結ばれ、存在が時代に固定される。
こうして二人は、容易に元の時代に帰還することはできなくなったのである。
ーーーーーーあとがきーーーーーーーーーーーー
装甲悪鬼村正大好きです!
中でも茶々丸が圧倒的に好きです!
恋姫無双の華琳はどことなく光に雰囲気似てる。
そんなちょっとした思いつきでこんな妄想が生まれました。
時間旅行ネタなんてSS書いてくれと言っているようなもんでしょう!
誰かこんな話書いてくれないかなー
自分で書くのは面倒くさいですw
4/30 指摘があった誤字、茶々丸の自称を修正。陛下の「あて」を間違うとは、これは恥ずかしいw
4/30 さらに誤字修正。すみませんorz