どうやら華琳は俺が農業だけではなく、他の仕事もやって欲しいらしい。
俺にとっては農業だけでいいじゃんと思うのだが現実はそうもいかないらしい。
そもそも俺を養っているのは華琳及び国民の皆さんなので、ちゃんと働かないと怒られる。
高校も卒業してないのに公務員の身になるとは思わなかった。
ふはは、国家の狗になっちまったぜ。
・・・空しくなってきました。
軍事関連は分からんし、政治なんてもっと分からん。軍人でもなければ政治家でもない俺に華琳が命じたのは、糧食の最終点検の帳簿を受け取ってくることだった。
「とは言うものの・・・俺は監督官の顔も知らないんだけどね」
適当に聞き込みをした結果、どうやら監督官なる人物は馬具の確認をしているとの事だったが、厩の隣にある馬具置き場周辺には人が結構いる。
うむ、そりゃあ、馬の世話とかあるだろうからな。人はいるとも。
「様々な可能性を考慮した結果、髭面のゴツイ貴方が監督官っぽいと思ったのですが」
「違う、違う・・・。私はタダの兵士だから・・・オイコラ!いつまでグダグダやってやがる!」
何かの隊長っぽいが、監督官ではなさそうだ。
皆、出撃前ってことでピリピリしている。
戦だもん、気を抜いたら死ぬしな。農業王になるつもりの俺にはあまり関係ないが。
何かの隊長っぽい人は、部下に指示を出した後、俺のほうを向いた。
「監督官はあの方ですよ」
「あの方?」
隊長っぽい人が指差す先には、耳が四つある女が歩いていた。
いや、四つというか、あれは猫耳フードというのか?どういうセンスをしているのだろうか。
俺は隊長っぽい人に礼を言い、その珍妙な女に声を掛けた。
「すいません」
「・・・・・・・」
おや、聞こえなかったのだろうか?
まあ、周囲は怒号と馬の鳴き声で煩いし、仕方ないか。
「すいませーん!監督官の方ですよねー?」
「・・・・・・」
ふむ、流石に恥ずかしくなってきたぞ。
もしかして俺は担がれているのではないのか?
「おい、そこの耳が四つある女!」
「誰が耳が四つもある化け物よ!?何よアンタは、さっきから何回もどういうつもり!?」
「聞こえてるなら反応しろよ。お陰でゆったりとした気分がピリピリとしてしまった。どうしてくれるんだ!」
「知るか!私はアンタになんか用はないもの」
「俺は用があるから呼んだんですが」
「・・・用って何よ。早く済ませてくれない?」
「糧食の再点検の帳簿を受け取りに来ました」
「何でアンタが受け取りに来るのよ」
「ここの一番偉い人に頼まれたから」
四つ耳女は俺に疑わしい視線を送る。
まあ、どう見ても一般人の俺が華琳直々に頼まれたというのは嘘っぽく聞こえるのだろう。
ところがどっこいこれは事実なのである。
「信じられないわ、アンタのような知性の欠片もなさそうな猿に曹操様が・・・」
「知性はないが、惰性はある」
「駄目人間じゃない!?」
「そんな駄目人間に優しい曹操様が仕事を与えてくれました。そういう訳で出せ」
「盗賊かアンタは!?」
「盗賊ではないが、人の目を盗んでサボることには定評がある。さて、馬鹿な話はこの辺にして、早く帳簿を出せ」
「その辺に置いてるから勝手に持って行きなさいよ。草色の表紙が当ててあるわ」
「その辺に置くとか管理が杜撰だな」
「うるさい!さっさと持って行きなさい!」
随分と沸点の低い女である。
女性が監督官である事には文句はない。
格好は珍妙だが、優秀なのであろう。短気だが。
まあ、目的の帳簿はすぐ見つかったからいいんだが、無駄な時間を過ごしたとは思わんか?
俺は帳簿を兵達が見下ろせる城壁の上にいた華琳に手渡した。
先に仕事を終わらせた春蘭や秋蘭も華琳と共にいた。
・・・というか俺は貴女方も探し回る羽目になったんですが。
華琳は草色の表紙の当てられた紙束を確認し始めた。
・・・心なしか華琳の表情が険しくなっていっている。
ええー?何か問題でもあったのかよ。俺は持ってきただけでその書類に落書きとかしてないし、落としたりもしてないぞ?
「・・・秋蘭。この監督官とは何者かしら?」
「はい、先日志願してきた新人です。仕事の手際に光るものがありましたので、今回の食料調達を任せてみたのですが・・・何か問題でもあったのでしょうか?」
「呼んできなさい。大至急よ」
「はっ!」
そう言って秋蘭は監督官を呼びに言った。
「達也、貴方はその監督官に会っているのでしょう?」
「秋蘭の選んだ人材なら優秀だろうけど、短気だ」
「・・・会ってみない事には分からないわね」
華琳はかなり苛立っているようだ。
その様子を見て春蘭は困惑している。まあ、怒る理由が分からんからな。
短気で言うなら春蘭も相当だからな。
短気だからこそ仕事を早く終わらせているのかもしれないし。
しばらく経って、秋蘭が先程の女を連れて戻ってきた。
あ、さっきのデカ耳フード外してる。
女は俺の存在を認めると凄く嫌そうな表情をした。
「お前が食料の調達を行なったのか?」
「はい。必要十分な量は用意しましたが、何か問題でもありましたでしょうか?」
「どういうつもりかしら?指定した量の半分しか準備できていないようだけど?このまま出撃すれば行き倒れになるところだったわ。そうなったら貴女、どう責任をとるつもりだったの?」
「いえ、そうはならないはずです」
「何?どういう事?」
華琳の苛々が徐々に溜まっているのが分かる。
華琳が指定した量というのは彼女がこれぐらいの量は十分用意できるだろうと判断して指定したものだ。
出撃から帰還までの間、この食料の量で戦っていくというのに、その半分で構わんとはどういうつもりなのだろうか?
「仮に半分として考えると、往路の分しかないことになるよな」
「食べる量を半分にすれば良いではないか」
「春蘭、お前は普段から食べる量を考えろよ。人の三倍は食ってるじゃねえか」
「何を言うか。お前たちが小食なだけではないか」
「あくまで自分が一般的と申すか」
お前が食べる量を半分にしても人の1.5倍は食べてるだろうが!
「理由は3つあります。お聞きくださいますか?」
「説明しなさい。納得できる理由なら許してあげましょう」
おいおい、納得できなかったらどうするつもりだよ。
いきなり首を刎ねるとか止めてくれよ?見たくないからそんなの。
「ご納得いただけないのであれば、この場で我が首刎ねてもらっても結構で御座います」
こいつもこいつでこんなこと言ってるし。
「二言はないぞ?」
「はっ。では説明させていただきます。まず一つ目。曹操様は慎重なお方であるゆえ、必ず御自分の目で糧食の最終判断をなさいます。そこで問題があればこうして責任者を呼ぶはず。行き倒れにはなりません」
「な・・・!?ば、馬鹿にしているの!?」
「誉めてるんじゃねぇの?」
「華琳様、もう二つ理由を聞いてから、この者の処遇を決めた方がよろしいかと」
「そうだったわね。続けなさい」
華琳は爆発寸前である。うーむ。こいつも短気っぽいところがあるからな。
「次に糧食が減れば身軽になり、輸送部隊の行軍速度も上がり、討伐行全体にかかる時間を大幅に短縮できます」
「あれ?移動時間が短縮できても討伐時間が減るわけじゃなくない?」
「うむ。そうだな」
「だったら半分じゃやっぱり足りないぜ。こっちにはタダでさえよく食う女がいるのに」
「腹が減っては戦は出来んからな!」
「戦ないときでも食べてるよね、君」
せめて4分の3とかならまだ分かるが、半分は厳しいのではないのか。
移動や戦闘の時間だけではない。休憩の時間だって挟まなければならない。
速度が上がった所で食料も半分とか乱暴すぎる。
華琳は目を細めて女に言った。
「まあ、いいわ・・・。最後の理由を言ってみなさい」
「はっ。最後の理由ですが、私の提案する作戦を採用すれば、戦闘時間は更に短くなるでしょう。よって、この糧食の量で十分だと判断しました・・・。曹操様!どうかこの荀彧めを、曹操様を勝利に導く軍師として、麾下にお加えくださいませ!」
「・・・・・・なんと!?」
「これはこれは・・・」
荀彧かあ・・・俺がやったゲームでは女だったのもあったな。
華琳は黙って荀彧を見ている。正直、こいつが荀彧ならば、此処で登用するのもありである。
まあ、史実じゃ志半ばで死ぬが。まあ、この世界は三国志(女)という固定概念破壊もいい所だから、こいつがどうなるかなど知らん。
「どうか!どうか!曹操様!」
「・・・荀彧。貴女の真名は?」
「桂花にございます」
「桂花。貴女、この曹操を試したわね?」
「はい」
荀彧は迷いもせずに言った。
春蘭がそんな彼女に対して怒鳴る。
「無礼なやつめ!華琳様!このような輩の言う事を聞く必要など御座いません!即刻首を刎ねてしまいましょう!」
「私の運命を決めていいのは、曹操様だけ!貴女は黙っていなさい!」
「面接官への暴言、減点3と・・・」
「いつの間に面接になっていたのだ?」
「え?だってこいつ転職希望者だろう?」
「アンタも黙れ!?」
「桂花。軍師の経験は?」
「はっ。此処に来るまでは、南皮で軍師をしておりました」
「そう・・・」
南皮。
そこは袁紹の本拠地である。
曹操と袁紹の関係は不良仲間だったとか言われているが、この世界でも彼女達は知り合いらしい。
友人は選ぶべきだったわと、華琳はたまに愚痴をこぼしていた。
「どうせあれの事。軍師のいう事など聞きはしないのでしょう。それに嫌気が差して、この辺りまで流れてきたのかしら?」
「まさか。聞かぬ相手に説くことは、軍師の腕の見せ所。まして仕える主が天を取る器であるならば、そのために我が力を振るうこと、何を惜しみ、躊躇いましょう」
「ならば、その力、私のためには惜しまぬと言うのか?」
「一目見たその瞬間、私の全てを捧げるお方と確信いたしました。もしご不要とあらば、遠慮なくこの場でお切捨てくださいませ!」
要するに、要らないなら私はこの世界にいる理由はないか。
命は大切にしようぜ!
「・・・春蘭」
「はっ」
華琳は春蘭から、大鎌を受け取ると、荀彧に突きつけた。
・・・何かスプラッタな光景が見えるんですが。
「桂花。この私がこの世で最も嫌いな事は、他人に試されるということよ。分かっているのかしら?」
「はっ。そこをあえて試させていただきました」
「そう・・・ならば・・・」
華琳はそのまま、大鎌を振り上げ、一気に振り下ろした。
だが、荀彧の首は飛んでいない。
華琳は大鎌を荀彧の寸前で止めていた。
「・・・どうして避けないのかしら?」
「曹操様のご気性からして、試されたなら試し返すに違いないと思いましたので、避けるつもりもありませんでした。それに私は軍師。武官ではありませぬ。あの状態から曹操様の一撃を防ぐ術はそもそもありませんでした。首を刎ねられたならそれが私の天命だと受け入れております。この私が天を取る器と認めたかたに看取られるのは感謝はすれども、恨む道理はありませぬ」
「そう・・・ふふっ・・・あはははははははは!!」
華琳は突然愉快そうに笑い出した。
荀彧の喉下に突きつけていた大鎌をゆっくりと下ろす。
「最高よ、桂花。私を二度も試すその度胸とその知謀、大いに気に入ったわ。貴女の才は、私が天下を取る為に存分に使わせてもらうわ。いいわね?」
「はっ!」
「ならまずは、この討伐行を成功させて見せなさい。糧食は半分で良いと言ったのだから、もし不足したならその失態、身をもって償うことになるわよ」
「御意!」
どうやら話はまとまったようである。
荀彧の転職活動は成功し、彼女は大きなチャンスを得た。
まあ、心配しなくても上手く行くんだろう。分かりきったことを心配する必要はない。
俺が心配するのは家庭菜園の方である。あと、文字の勉強。
そう、俺は今出来ることをやるしかないのだ!
・・・・・・そう、やるしかない筈なのに、どうして俺は今、馬に乗って行軍してるのでしょうか?
乗馬自体は何回も経験してるので問題はないのだが、騎馬戦とかやらないから。やれないから!
やる気ゼロの俺を見かねたのか、秋蘭が話しかけてきた。
「因幡、大丈夫か?」
「戦争ってだけでも溜息ものなのに、メシも少ないとあっちゃあ、やる気も出ません。餓えは人の最悪の敵だからな」
「うむ・・・お前の気持ちは分からんでもないが、華琳様の命だ」
「そりゃあさ、素人に髭と腋毛と陰毛が生えた程度の俺でもこの軍が強いってのはわかるけどさぁ・・・」
「その例えはどうかと思うのだが、まあ、軍師のお手並み拝見といこうではないか」
「お、噂をすれば影だ。ヘーイ、そこの四つ耳の女、ちょっとお喋りしませんね?」
「誰が四つ耳の化け猫よ!?気安く話しかけないでくれる?」
そう言いながらこちらに寄って来るこの女は律儀である。
「桂花・・・あの時のやり取りは肝が冷えたぞ。ああいう事はもう止めてくれ」
「あの時はああするしかなかったのよ。大体軍師の試験官は貴女だったでしょう」
そもそも軍師は武官と違い、使ってみない事にはその能力が分からないので登用しにくい。
だからこそ荀彧はあのような無茶なやり方で自分の能力を示したのだが。
「華琳様はどうだったのだ?」
「思った以上の素晴らしい方だったわ。あのお方こそ、我が命をかけてお仕えするに相応しいお方よ!」
興奮したようにまくし立てる荀彧。鼻息荒すぎだろ。
「一目ぼれって奴かねぇ・・・」
「貴方のような木偶の坊には華琳様の魅力が分からないのでしょうね、ふん、哀れな事」
「一目ぼれでそこまで心酔するお前が俺にはわからん」
立派な人物とは思うが、少し短気だしな。
俺と荀彧では温度差がありすぎる。
話は合わんな、こいつとは。
「おお、お前たち、此処にいたのか」
「如何した姉者。急ぎか?」
「うむ、何やら前方に大人数の集団がいるらしい。華琳様がお呼びだ。すぐに来い」
「分かったわ!」
「うむ」
「では俺は後方の輸送部隊の手伝いでも」
「貴様も来い。華琳様は貴様も連れて来いと命じられた」
「ええー・・・」
「ええーじゃない。さっさと来い!」
来いと言われたので仕方なく華琳の所に来たら、丁度偵察が帰ってきたところだった。
偵察の報告では、所属不明の前方集団はどこかの山賊と思われるらしい。
華琳は様子を見るべきかと考え、もう一度偵察隊を出す事にした。
その偵察部隊の指揮が・・・・・・。
「全く・・・先行部隊の指揮など、私一人で十分なのに・・・」
「華琳は偵察って言ったよね?強襲しろとか一言も言ってないよね?」
何故か春蘭と俺だった。
納得はいかんが、秋蘭だと、華琳の周りが手薄になり、華琳が行くのは本末転倒。
残ったのは春蘭だけなのだが、彼女一人では暴走する危険性がある。
で、彼女を止める役割として選ばれたのが俺である。
「春蘭、いい子にしてたら華琳に思いっきり誉めてもらえるかもね」
「本当か!?」
華琳を餌にすれば驚くほど聞き訳がよくなる女である。
いや、成功したら誉められるんだろうけどね。嘘は言っていない。
しかし前方に見えてきた集団は行軍している様子に見えないな。
「何かと戦っているように見えるな」
「春蘭、見ろ。人間が飛んでいる」
「何を馬鹿な、人間が飛べるわけないだろう。あれは吹き飛ぶというのだ・・・って、何?なんだアレは?」
「誰かが戦っているようです!その数一人!それも子どもの様子!」
兵士の報告に俺たちは顔を見合わせる。
「なんだと!?こうしてはおれん!」
春蘭は馬に鞭を振り、一気に加速させていく。
って、ちょっと待てや!?俺たちを置いていくな馬鹿!
俺は部隊の一人にこの事を華琳に報告するように伝える。
それから偵察部隊に簡単な指示をした。
「まあ、女二人を戦わせて男が何もしないのも忍びないしな。それじゃあ、皆さんお役目を果たすとしましょう!」
俺は偵察部隊に号令をかけた。
少女はたった一人で盗賊たちと戦っていた。
小さな身体に似合わぬ大きな鉄球を操り戦っていたが、多勢に無勢。
彼女も人間である以上、体力の限界というものはある。
倒しても倒しても次々と現れる敵。
「はぁ・・・はぁ・・・もう、こんなに沢山・・・多すぎるよう・・・」
屈強な男達に囲まれた少女はそのような環境によっては凄まじく卑猥に聞こえるが、この場に至っては自分の体力と命の危機に対しての焦りの言葉が口からでた。
実際、少女は肩で息をしており、足も若干震えていた。
そんな時、彼女に加勢するものが現れた。
「ぎゃあああ!?」
「貴様らぁ!!子どもに寄って集って、畜生にも劣る下劣な輩め!此処で全員斬り捨ててくれる!」
長い髪の女性が憤怒を顔に貼り付け、切り込んできた。
次々と打ち倒されていく盗賊たち。
「うわああ!!退却だ退却ー!!」
盗賊たちは突如現れた豪傑に恐れをなし、逃げようとした。
「逃がすかあああ!」
女性はそう吼えて追いかけようとする。
その時、呆れたような男の声がした。
「いや、逃がせよ」
「何!?因幡、貴様臆したか!?何故止める!」
「俺たちは偵察部隊だ。その子を守るのは評価するけどさ。あいつら逃がさずにおいたら本拠地が分からない上、また襲ってくるんじゃないの?」
「何!?そうなのか!?」
「考えてなかったのかよ!まあ、いいや。一応偵察を何人か派遣したから。近いうちにあの盗賊たちはやっつけられるだろうさ。ま、偵察としての仕事も、市民を守るというお仕事もやったということで良しとしようや」
「そうだな!これで華琳様にお褒めいただけるな!」
「そーだな」
若い男はげんなりした表情である。
「少女よ、怪我はないか?」
春蘭が上機嫌で、一人で今まで戦っていた少女に話しかける。
ところでこの子はどうして一人で戦っていたのだろうか?大人はどうした。
俺がそんな事を考えていると、向こうの方から本隊がやって来た。
「華琳、こっちだこっち」
「達也、謎の集団は何処に行ったの?戦闘があるという事は聞いたけど」
「春蘭に恐れをなして逃げたよ。尾行をつけてるから、本拠地はすぐ見つかる。あとは煮るなり焼くなりってやつだ」
「気が利くわね」
「助かったと思ったその時にまた追撃したらやる気なくすからな」
俺と華琳が談笑してるのを荀彧は悔しそうに見ていた。
いや、談笑したいなら、普通にやれよ。
その時、後方にいた少女の声がした。
「あなたは・・・!!」
「この子は?」
華琳が俺に尋ねるように言ったその時だった。
「国の軍隊は出て行け!!」
そう叫んで華琳に向けて、巨大な鉄球を振り下ろした。
鉄球が俺と話していた華琳目掛けて飛んでくる。
華琳の前には、喋る剣を持った俺。余裕の直撃コースである。
「華琳様!?」
春蘭の叫びが聞こえる。
鉄球が華琳に迫った正にその時、俺はその鉄球を喋る剣で打ち返した。
腕がしびれる程度の衝撃だったが、華琳に怪我はない。うん、よかった。
打ち返した鉄球は春蘭のいる方向に飛んだが。
「だあああああ!?」
奇声を発して鉄球を避ける春蘭。
少女の手から、鉄球が離れた。拘束するなら今だが・・・一番近くにいる奴がなあ。
「因幡!貴様私を殺す気か!?」
「春蘭ならば、あの程度避ける筈です。だから死にません」
「軽く私の真似するんじゃないわよ!」
「小僧・・・もっとデリケートに扱ってくれよ・・・」
喋る剣は俺にしか聞こえないほど小さな声で呟いた。
武器を失った少女は憎々しげに華琳を睨んでいた。
「いきなり攻撃とは穏やかじゃないなぁ」
「国の軍隊は信用できない!ボク達を守ってくれないのに税金ばかり持っていって!この村は結局村で一番強いボクが守らなくちゃ誰も守ろうとしない!だから守らなきゃいけないんだ!役人からも、盗賊からも・・・!!」
「あれー?桂花さんよ。華琳ってそんな三流の小悪党政治家みたいな事やってたのか?」
「この辺りは曹操様の治める土地じゃないのよ。だからこそ盗賊追撃の名目で遠征してきてるのだけど・・・その政策に口出しは出来ないわ。内政干渉になるもの。あとさらっと私の真名呼んだわねアンタ」
「何、気にすることはない。大体華琳が許してるんだから、俺がどう呼ぼうと勝手だろう」
「私の真名を犯さないでくれる!?」
「よかったな。また一つ大人に近づいたぞ」
「殴りたい!この馬鹿を殴りたい!男を殴りたいと言う気持ちになったのはアンタが初めてよ!」
「初体験おめでとう」
「やかましい!!」
華琳は俺たちを尻目に、少女に近づく。
秋蘭の制止も聞かずに、彼女は少女の前に立った。
「貴女・・・名前は何というのかしら?」
少女は華琳の気迫に当てられて、受け流す方法を知らなかったため、
「き、許緒と・・・いいます」
と、割と素直に名前を言った。
威圧感がある相手を前にするのは初めてなようなのか。むう、ここにも記念すべき光景が・・・。
少女は完全に華琳の空気に呑まれている。
駄目だぜーそんなんじゃ。自分をしっかり持ってないと弄られるだけだぞ?俺のように見えないところで弄られても知らんぞー?
「そう・・・」
そして華琳が取った行動は、
「許緒、ごめんなさい」
一人で戦っていた少女に頭を下げる事だった。
呆気に取られる少女。春蘭も秋蘭も桂花も俺だって驚きますよ。
だって、見たことないしな、頭を下げる華琳なんて。
思わず円形脱毛がないか探したくらい驚いた。
「名乗るのが遅れたわね。私は曹操。山向こうの陳留の街で、刺史をしている者」
「山向こうの・・・ええ!?ご、御免なさい!!」
少女も謝り始めた。
「山向こうの街の噂は聞いています!向こうの刺史さまは凄く立派な人で、悪い事はしてないし、税金も安くなったし、盗賊も凄く少なくなって、最近では珍しい料理も現れたって・・・!そんな人に、ボクは・・・」
「構わないわ。今の国が腐っているのは私が一番知っている。官と聞いて貴女が嫌悪感を抱くのは当然だから」
「で、ですけど・・・」
「だから申し訳ないと思うのならば、許緒。貴女の勇気と力、この曹操に預けてもらえないかしら?」
「え?ボ、ボクの力を?」
「私はいずれこの大陸の王となる。だけど今の私の力はあまりに弱い。だから・・・村の皆を守るために振るった貴女の力と勇気、この私に貸して欲しい」
「曹操様が・・・王に」
普通なら馬鹿じゃねえの?と正気を疑う発言だが、言ってるのが曹孟徳なら話は別だ。
歴史を知ってる俺からすれば、華琳の発言はやや説得力があるものに思えた。
・・・まあ、あの三国志は全員男だからね。
「約束するわ。私が王になったら、陳留だけだなんてセコイ事は言わず、この大陸の皆を守るわ」
華琳が宣言したその時、桂花が華琳に報告した。
「曹操様、偵察の兵が戻りました。盗賊団の本拠地はすぐそこです!」
「わかったわ。ねえ許緒。まず貴女の村を脅かす盗賊団を根絶やしにするわ。まずそこだけでいいから、貴女の力、貸してもらえるかしら?」
「は、はい!!喜んで!」
どうやらあの子も戦いに参加するようだ。
まあ、あの暴れっぷりから見れば、間違いなく俺よりかは凄く戦力になるよね?
許緒という少女は春蘭と秋蘭の下につけられる事になった。
しかし・・・許緒か・・・また三国志の有名人だ。
本気でこの世界の武将の男女比が気になってきた。
・・・で、盗賊団の砦は山の影に隠れるようにして建っていた。
これから此処を根城とする盗賊団の殲滅戦を行なうのだが、どう攻めるかを華琳達は話し合っている。
俺?俺は参加していない。土地勘ないし、有用な知恵を出す自信もない。
敵の数はこちらの三倍。烏合の衆だが油断は出来ない兵力差である。
糧食も少ないし、速攻で終わらせねばならない。皆が。
で、華琳率いる本隊が囮となって敵を引きつけ、春蘭たちが背後をつくらしい。
「烏合の衆なら正面から叩き潰せばいいではないか・・・」
ションボリした様子で俺の横で地面にのの字を書く春蘭。
彼女は正面から突っ込む事を提案したが、案の定桂花に一蹴されていていじけている。
桂花は自分の策に絶対の自信を持っている。まあ、軍師としては頼もしいのだが・・・。
華琳も桂花の策に賛同し、ますます春蘭が凹む要因になった。
まあ、彼女も抵抗して、囮部隊に許緒を配置させる事をしたのだが・・・。
「では、それで行きましょう。達也!」
突然名指しで呼ばれたので、返事した。
「何?」
「貴方は私の側にいなさい」
つまり囮だってさ!俺。
「な・・・!!」
桂花が世界の終わりのような絶望的な表情を見せた。
「因幡!貴様、華琳さまに何かあったらただではおかんぞ!盾になってでもお守りするのだ!」
「俺より強い方を守る必要があるのかはいささか疑問だが、将来の王様を死なせちゃあ、寝覚めが悪いからなぁ。やれるところまでやってみて駄目そうだったら逃げる」
「いや、そこは留まれ!?」
「頼りない護衛ねぇ」
「この四つ耳の女は守らんでもよいのだろう?」
「あんたに守られるぐらいなら死んだ方がましよ」
「よし、なら死以上の事を克服させよう」
「嫌がらせか!?」
俺と桂花の漫才のような会話を見て華琳は小さく笑い、力強い声で兵に指示を出した。
「それでは作戦を開始する!各員持ち場につけ!」
戦争が始まる。
人があっさり死んでいく戦争が始まる。
このような場所で死んでやるものか。
俺は喋る剣を握り締め、眼前の盗賊の砦を見つめた。
左手の刻印が赤く輝いていた。
(続く)
※真・恋姫無双のヒロインは皆18歳以上です!そしてこのSS主人公達也は、17歳・・・あれ?