えーそりゃないよー。大人の女性じゃん。
「シャオなんでもいうこときーちゃう」くらい言ってくれる妹を想像してたのにー。
すっごいりりしい大人の女性じゃん。つーか年上っぽくねー?
すっごいおっぱいもでっかいし…
…呉についてからおっぱいの事しか考えていない気がするな。
あ、北郷一刀です。今、建業の別邸の小蓮ちゃんの元に来ています。
周泰さんが護衛。魏延は建業に入れてもらえませんでした。まぁまだ敵国の将軍ですしね。仕方ないです。
「穏の紹介状は読んだわ。別世界で恋仲だったらしい、なーんて言われてもこまっちゃうけど。で、シャオにお願いってなぁに?」
「孫権様に対し、まず諌言を。そして同盟のお願いをしたいと思っております」
「えーそれ無駄だよー?シャオだっていっぱいお話して、でも聞いてもらえなかったんだよー」
「私は別世界で、その世界の孫権様…いえ、蓮華と冥琳の、孫策さんに対する想いを知りました。だから、解放してあげたい…その呪縛から」
「…でも、どうやって?」
「尚香さんとお会いして、一つアイデアが浮かびました」
「あ…いで…あ?」
***
月光の射す夜。
蓮華は執務室で潰れていた。
(…蓮華…蓮華、起きなさい…)
「ん…ね…ねぇさん?」
いやだ、私ったら。お酒の呑みすぎで雪蓮の幻まで見るようになったみたい。
(…ごめんなさい…蓮華。私はあなたを縛り付けてしまったのね)
「あやまらないで…」
(あなたは私の代りになろうとしたのよね…天下を争っていた私の代りに)
「…ねぇさん…」
(あなたはあなたらしく生きなさい…あなたには国を保つ才能があるわ。その才能を生かしなさい…)
「…?…違う!」
あ、覚醒した。
「お前!小蓮だな!どういうつもりだ!」
あちゃー、ばれちゃった。
「…わかっちゃった?ごめんねお姉ちゃん」
小蓮に雪蓮さんの仮装してもらって幽霊として説得してもらう作戦失敗ナリ。猿知恵っていうな。
「雪蓮はそんな風に真面目に話し続けられない!絶対どこかで茶化す!」
…どういうキレ方だよ。
仕方ない。矢面に立つか。
「恐れ入ります。尚香様には私がお願いしました」
「なにやつ!」
「北郷一刀と申します」
「蜀帝劉禅様の婚約者にして将来皇婿になられる方ですっ天の御使い様ですっ」
補足ありがとう周泰さん。…自分で言うと恥ずかしいからな。
「それがなぜこの呉王に猿芝居を打つ?」
「あなたにちゃんと政務に戻って頂かないとイケナイ事情がありまして」
「事情?」
「はい。蜀では呉とのわだかまりを捨て、対等な同盟を目指しております」
有り体にいうと信頼できないヨッパライと調印するワケにはいかんのです。
「ざれごとだな。蜀の皇帝とその義姉妹の死は私の命令から生まれたものだ。わだかまりなぞ捨てれる筈がない」
確かに「ほんとうにわだかまりを捨てる」のは難しいでしょうね。でもそれはきっと時間が解決してくれる。
「蜀の国是は一つです。『誰しもが笑顔で過ごせる平和な国にしたい』。その為ならわだかまりも捨てましょう」
「…おまえは雪蓮と同じ事をいうのだな」
ここはたたみかけるところかな。
「蜀と呉とが同盟しなければ魏に対抗できない。判っているでしょう?」
「…」
単純な国力の問題だ。
「蜀呉が戦う事は魏に利する行為。判っていたでしょう?」
「…」
そう。あそこで蜀と呉とが戦わなければ、魏に十分に対抗できる勢力が完成した筈なんだ。
「でもあなたは国を拡大させたかった…孫策さんの様になる為に」
「…去れ」
「周瑜さんの拡大戦略を守る為に」
「…去れ!」
孫策さんは小覇王。中原に鹿を追った女性だった。
あの外史では周瑜さんすら孫策さんの後ろ姿を追って自滅した。
蓮華もそれを追い続けていたなら、呉が蜀に戦いを挑んだ理由が説明できる。
「関羽を殺させた事、今では後悔しているでしょう?」
「疾うに立ち去れ!」
「お姉ちゃん!」
「お前も出て行け!!」
愛紗ほど陸戦ができる人間が呉にはいない。
だから荊州を取ったところで、蓮華の拡大路線は停滞してしまった筈なんだ。
…が…駄目か?
あとひと押しな気がするんだが。
もう押す手がない。
…ひょっとして詰んだか?
「…蓮華様」
「明…命…?」
突然しゅるりと忍装束を脱ぎ捨てる周泰さん。
月光に裸身が照らされ白く光る。
「蓮華様…私を見て下さい」
打合せにない事なので、ちょっとドギモを抜かれた。
申し訳ないので直視しない様にします。あ、ちょっと残念なおっぱい。
「蓮華様…この傷を覚えてらっしゃいますか?」
からだに残る無数の傷跡を周泰さんは指す。
「これは反乱者共から蓮華をお守りした際の傷です」
肩と背中の傷を指す。
「これは黄祖を討った時の傷っ」
胸の傷。
「これは赤壁の時の傷です」
右腕の傷。
「私が全身に傷を負って戦って来たのは、…そんな蓮華様の為ではありません!」
悲痛な叫び。
「呉のみんなが幸せに、笑って暮らせる世界の為ですっ!みんなの為に昔の蓮華様にお戻り下さいっ!」
しんと静まりかえった部屋。
凍り付いたその場を破ったのはやはり蓮華だった。
「ごめんね…明命…」
周泰さんをハグする蓮華。
「心配かけちゃって…ごめん」
***
翌日。あらためて拝謁する。
「昨日はごめんなさい」
すっかりアルコールの抜けた蓮華。…やっぱ大人になりましたね。
「穏の書状は読んだわ。あなたの語る呉の未来もね。…呉としても停滞してしまった現状は望ましくないの。中途半端なままの覇業に意味はない。共同作戦に賛成するわ」
ここに蜀呉の再同盟が成立。
では、さっそく帰って出兵準備ですな。
「あら、もう少し残って式典に参加していって」
はぁ?
「延ばし延ばしにしていた、呉の皇帝即位式を行なうわ」
ほえ?
「蜀帝皇婿にして天の御使い様が立ち会う即位式なら、後で誰にも文句が付けられないでしょう?」
さりげに政治の道具にされました。
ここに蜀呉の再同盟が成立し、三人の帝が一つ天の下に並び立つ時代がやってきたのだった。