「蓮華様ぁ〜。もぅお酒はそのくらいでやめてくださいよぉ〜。お体に障りますよ〜」
「…うるさいわね…あっちへ行って!」
穏の足元で砕け散る盃。酒のしぶきを浴びながらも穏はそれを無視した。
穏に昔の淫乱な雰囲気はみじんもない。あの頃よりちょっと胸とおしりが垂れた気もするが、誤差の内誤差の内。
対する主君は昼間から自室で酒を呑んでいた。こどもっぽさや堅さはすっかり消え、大人の女性に成長していたが、雪蓮の様な柔らかさは無かった。それが又、彼女のコンプレックスを刺激する。
「…ていうか、穏は南郡にいなきゃいけないはずよ」
「蓮華様がお酒ばっかり呑んでいて、政務が滞っているっていうから、戻って来たんじゃないですか〜」
「別に滞らせてなんかいないわ。呑んでたって政務くらいできるわよ…雪蓮もそうしてたでしょ」
「変な事真似しないでくださいよ〜。建業からくる命令書が支離滅裂だってみんな困ってますよぉ〜。あ、言ったはしからお酒注がないでくださいよ〜」
「うるさいわね、命令よ!陸伯言!あなたは今すぐ南郡へ帰還し蜀の反撃に備えて訓練でもしてなさい」
…ああああ、またお諌めできなかった。
亞莎はともかく、思春か祭が生きていてくれたらな〜。張昭おじいさんもいない今、私一人じゃ正直荷が重いですよぉ。明命は口下手ですし。小蓮様も「あんなお姉ちゃん見たくない」って宮殿によりつかないですし。
…そうかぁ、雪蓮様と冥琳さんが生きていればそもそもこんな事にもならなかったのか…。
とぼとぼと帰る穏。
(…穏をまたどなりつけてしまった…ごめんなさい…でも…呉は私には重すぎるの…雪蓮…姉さん…)
机に落ちた水滴は酒か、涙か…。
「…みたいな事になっているらしいですよ」
「ナニこの小芝居!」
「とりあえず孫権さんは酒に溺れてまともに政治ができていないご様子。失地挽回のチャンスなんですが、陸遜さんが居る限り難しいかも…」
蓮華はまじめな娘(というかカタブツ)だと思ってたんだけどな。なんか悪い方に行っているっぽいなぁ。
「じょーしょーじょーしょー」
「なあに?乃夜」
「えっけんのじゅんびができたそうです」
「あら、そうなんですか。じゃ、一刀さん、行きましょうか?」
どこへ?って聞くまでもないな。
「はい、我々のご主人様、漢第十六代皇帝。劉禅様の元へ」