レベル1 5
何時も使ってるベットより柔らかい……
それになんだか暖かい……
暖かいけど……あれ?
なんだか前にもこんな事があったような……あぅ!?
そうだ!
ゼオルドさんの家に来てドアを開けたら……きゅ~~~!
あぅあぅあぅ……ど、どうしよう。
きっとあの後気絶してまたゼオルドさんのベッド借りちゃったんだ。
ゼ、ゼオルドさん怒って無いかな?
そっと、そっと目を開けて……
「ん?」
うわ!
ひょっとして起きてるのに気付かれちゃった?
だ、大丈夫だよね?
気付かれてないよね?
薄く目を開けて……
テーブルの上には2人分の食事が用意されていて、ゼオルドさんは私に背を向けるようにして椅子にすわってます。
お昼御飯かな?
2人分って事は昨日みたいに私も食べて良いのかな?
昨日食べたゼオルドさんの料理美味しかったな~
「ん?」
わわ!
慌てて目を閉じたけどまだ気付かれてないよね?
でもでも、なんだか見られてる感じがするよ!
お願いゼオルドさん気付かないで!
さて、昨日と同じでティアを寝かせたまでは良かったが、全然目を覚まさないな。
昨日は徹夜でもしていたのか?
朝早くに訪ねて来たまではそれで説明が付く。
だが、その後何故家の前で躊躇していた?
「ん?」
ティアが起きたのかと思ってベッドに目を向けてみたが、ティアの目はしっかりと閉じている。
……気のせいか?
そう思ってケビンの誤解をどう解こうか考えていると、やはり気配がする。
背中へ視線を感じるのだ。
「ん?」
もう1度目を向けてみたがやはりティアの目はしっかりと閉じている。
……気のせいなのか?
尚もじっと見続けていると、ティアがぷるぷるし始めた。
……気のせいじゃ無いな。
息をひそめると言うのは良く聞くが、息を止めて何をしてるんだ?
「っぷは!」
そうとう苦しかったのだろう、深呼吸を何度も繰り返している。
さっきから何をしているんだ?
「あぅ、ばれちゃった……」
かと思うと今度はシーツを引っ張り上げて顔を隠してしまった。
ふむ?
寝顔を見られていたのが恥ずかしかったのか?
どどど、どうしよう?
起きてるのがばれちゃったよ!?
でもでも、ゼオルドさん怒ってる感じじゃ無かったし、大丈夫だよね?
うんうん、大丈夫だよ!
ティアちゃんファイト!
「お、おはようございます!ゼオルドさん!」
「お、おはようございます!ゼオルドさん!」
ん?
今度はシーツから顔を出したかと思うと一気に起き上がったな。
しかし……
「今はもう深夜だぞ?」
「え~~~~!?」
そう、気絶したティアは起きる気配を見せずに今まで眠り続けていたのだ。
「まったく……取りあえず飯だ。深夜とは言え今まで寝ていたんだ、腹は減ってるだろ?」
「今はもう深夜だぞ?」
「え~~~~!?」
でもでも、今日は鶏さんも鳴いてないし、本当に夜なの?
「まったく……取りあえず飯だ。深夜とは言え今まで寝ていたんだ、腹は減ってるだろ?」
ゼオルドさんに言われて、タイミング良く私のお腹から「ク~ッ」って音がしました。
うぅ、恥ずかしいです。
でもでも、ご飯を食べさせてくれるって事は、怒って無いよね?
ゼオルドさんの正面に用意された席に座ってご飯を頂きます。
あ!
やっぱり美味しい!
宿のご飯ってなんだか味が濃すぎるんですよね……
「それで?家を訪ねて来たのは何か用事でも有ったのか?」
食事も終わって一息ついた所でゼオルドさんが聞いて来ます。
待ち合わせ場所はダンジョン前なのに家へ直接来ちゃったんだから聞きたくなっちゃいますよね。
でもでも、どう話したら良いんだろ?
「私ゼオルドさんが仲間殺しだって知らなくて……でもでも、それは関係無くて…あれ?やっぱり関係してて……あれ?やっぱり関係無くて!?」
うぅ~上手く説明できないよ~!
「私ゼオルドさんが仲間殺しだって知らなくて……でもでも、それは関係無くて…あれ?やっぱり関係してて……あれ?やっぱり関係無くて!?」
ん?
何が言いたい?
最初は何を言いたいか良く分からなかった。
ティアはどうもパニックを起こしやすいようだ。
冒険者としてこれは不味いな。
それから1時間じっくりと時間をかけてようやく話の内容が見えて来た。
昔世話になってた冒険者にあこがれて、冒険者になる為に家を飛び出したまでは良かった。
しかし、モンスターから人々を守る職業だと思っていた冒険者は、実は依頼によっては人も殺す職業だった。
冒険者として落ちこぼれな自分に紹介された先生……つまり俺だな。
先生も実は人殺しで、自分がこれからどうしたらいいのか分からない。
ふむ、冒険者向きではないパーティーに迷惑をかけるようなティアが、嫌がらせで俺の元へ来た訳か。
「他に相談できそうな人も居なくて……私どうしたら良いんですか?」
どうしたら……か。
難しい所だな。
自分で考えろと言ってしまうのも手だが、それはもうケビンが昨晩の内にやっているようだ。
その結果1晩悩んでここへ来た訳だから、ここは何かしらアドバイスを与えるのが俺の仕事か?
「……お前はどうしたい?」
「……お前はどうしたい?」
え?
ゼオルドさんは今まで聞けば何でも教えてくれました。
回復アイテムの素早い使い方や、アイテムの効率的な換金の仕方。
モンスターが襲いかかって来た時の身の守り方。
それ以外にも色々です。
ゼオルドさんは人殺し……その事に悩みましたけど、それを抜きにしたら厳しいけど優しい先生です。
だから相談したのに……
あれ?
何でかな?
涙が止まらないよ?
「……何で教えてくれないんですか?意地悪しないで教えて下さいよぉ~」
「……何で教えてくれないんですか?意地悪しないで教えて下さいよぉ~」
む?
泣かせてしまった。
そんなつもりでは無かったんだが、結果的にそうなってしまった。
まるで幼子のように泣く姿を見て気持ちが揺らぐ。
俺が道を示すのは簡単だ。
だが、選択肢すら無く俺に言われたからと、その道を進むのはティアの為にはならないだろう。
「意地悪で言っている訳では無い」
「意地悪で言っている訳では無い」
ふえ?
「1晩悩んだのだから、気付いているとは思うが、お前には大きく分けて3つの道が有る」
3つ?
冒険者を続けるか辞める以外に何か有るの?
「1つは冒険者を続ける事」
うん。
「2つめは冒険者を辞めて他の仕事を探す」
……あ!
そっか、冒険者じゃなくなっちゃったら、何かお仕事をしないとお金が無くなっちゃうんだ。
「3つめは家へ帰る事だ」
え?
「お前と行動していて気付いたが、お前は一般家庭で育った訳ではないだろう?どれだけ裕福な家かは知らないが、立ち居振る舞いを見る限り、礼儀作法をきっちり仕込まれるような家柄のようだしな」
あ、あは、あはははは……
たった3日でそんなに分かっちゃうんだ。
「どれを選ぶかはお前が決めるべきだ。後になって俺のせいで人生を失敗したなどと言われたくないのでな」
お父さんとお母さん……うんん、もうゼオルドさんには気付かれてるんだし、自分に言い聞かせる必要もないよね?
お父様とお母様に反対されて、それでも冒険者になった。
それまでは2人の言う事を聞くだけが私の生き方だった。
けど、もうあんな窮屈な生活は嫌。
だからあそこへはもう戻らない!
じゃあじゃあ、私は冒険者を続けたいの?
人殺しになりたいの?
「冒険者を辞めて他の仕事をすれば確かに人は殺さずにすむ可能性は有るだろうが、零では無いぞ?」
どう言う事?
他の仕事をすれば人を殺さなくて良いんじゃないの?
「冒険者を辞めて他の仕事をすれば確かに人は殺さずにすむ可能性は有るだろうが、零では無いぞ?」
言っておかなければ、親の反対を押し切ってまで家を飛び出したようだし、3番の選択を選ぶ可能性は低いだろう。
だが、意地だけで生きられるほど世界は簡単ではない。
「それどころか、山賊や盗賊に襲われて逆に命を落とす事もあるだろう」
確率は低いだろうが、零では無い。
現にティアは親と共に馬車を襲われている。
ティアの話を聞く限りでは家が裕福で、護衛に冒険者を雇った事くらいしか分からなかったため、それが物取りだったのか、ティアの家柄が関係していたのかまでは分からないがな。
「それどころか、山賊や盗賊に襲われて逆に命を落とす事もあるだろう」
……そっか、そんな事考えた事も無かったよ。
やっぱり私は世間知らずのお嬢様なんだね。
お父様が危険だって言ってたのはこう言う事も含めた危険だったんだね。
「だから家に戻るのも1つの手だと言う事は忘れるなよ?」
ゼオルドさんはそう言ったけど、家に戻るのは何か違う気がします。
でもでも……
「ゼオルドさん!私決めました!」
ふむ、ずいぶんと悩んだようだが、良い顔になったな。
俺を初めて訪ねて来た時のような良い顔だ。
「私は人を殺さない冒険者になります!冒険者になって皆を守るんです!」
ふっ、あえてその道は示さなかったのだが、自分でたどり着いたか。
冒険者の全てが人を殺している訳では無いからな。
「そうか」
「そうか」
あ!
ゼオルドさん嬉しそう。
「まぁ、お前が他の仕事をしたとしても、そのドジっぷりでは長続きしなかっただろうがな?」
「ぶ~!ゼオルドさんの意地悪!いっぱい悩んだのに、それが馬鹿みたいじゃないですか~!」
「くっはっはっはっはっ!だが、事実だろう?」
確かにそうだけど……
でもでも、これだけは言えます!
「ゼオルド先生!これからもよろしくお願いします!」