レベル1 4
「今日こそ妹の面倒を見てもらうっすよ?」
そう言ったオイラのへゼオルドのアニキは不思議な物を見るような顔をしったっす。
「ちょっと待て。ティアはお前の妹じゃなかったのか?」
ティア?
間違って無ければレイチェルがここに来て出来た友達だったっすね。
って、事はゼオルドのアニキはティアっちをレイチェルと間違えて面倒見てたって事っすか?
それはつまり!
「アニキ!やっとその気になってくれたんすね?そのティアって子にはオイラが話を通しておくっすから、妹の事も頼むっす!そうときまればオイラは町へ帰るっす!」
ぬ~
まさかケビンの妹とティアが別の人間だったとは……
まぁ、早とちりしたのは俺だ。
しかし、ティアが別人だとすると、何故仲間殺しの俺に師事した?
それも明日の朝になれば分かるか。
「レイチェル!ついにやったっすよ!」
レイちゃんの部屋にノックもせずに入って来たケビンさんが嬉しそうにレイちゃんへ言います。
「兄さん、部屋に入る時はノックして下さいと言っているでしょう?」
「おお!ティアっち良い所に居たっす!明日からゼオルドのアニキの所へレイチェルも行く事になったっすから!」
ケビンさんはレイちゃんの抗議に耳を貸す事もなく、部屋で見つけた私にそういいました。
けど、私はそれどころじゃないんです。
このまま仲間殺しなんて言われているゼオルドさんの所へ行き続けて良いのか迷ってるんです。
確かにゼオルドさんは優しくて強くて色々教えてくれる良い先生です。
でもでも、仲間殺しと一緒に行動するって言うのはそれだけで怖い事なんです。
だって、いつ殺されるかわからないじゃないですか。
あの優しいゼオルドさんが私を殺すなんて思いたくないです。
けど、怖いんです!
「兄さん、その事なんですけど、何故仲間殺しなん呼ばれてる人の所へ行かせようとするんですか?」
「そ、そうですよ!私もレイちゃんに聞くまでゼオルドさんが仲間殺しだって知らなくて……」
そうなんです、私他の冒険者さん達に騙されてたんです。
ゼオルドさんを紹介してくれた冒険者さん達に、何でそんな危ない人に教えてもらえって言われたのか聞いたら、落ちこぼれの私をからかう為に、仲間殺しのゼオルドさんを紹介したって言うんです。
「ティアっちその事知らずにアニキにお願いしに行ったっすか?だったらアニキが良い先生だって言うのは分かるはずっすよ?」
「たしかにゼオルドさんは優しかったです。でもでも、怖いんです!」
「私も怖いよ!兄さん、私そんな人の所に行きたくない!」
「私も怖いよ!兄さん、私そんな人の所に行きたくない!」
あ~
アニキの事きちんと説明しとくべきだったっすね。
「取りあえず2人とも落ち着くっす。話はそれからっす」
オイラ説明は下手なんすけど……
1階の酒場から貰って来たオレンジジュースを2人に渡しながらどこから説明したら良いか迷うっす。
全部話せばアニキが女を寝とられた事まで話さなきゃならないっす。
それはアニキの顔に泥を塗る事になるっす。
だからと言って中途半端に話しても2人とも納得しないと思うっす。
……アニキには悪いと思うっすけど、やっぱり全部話すっす。
オイラにとってはアニキも大事っすけど、妹を誰とも知れない男どもと行動させるのは我慢ならないっす。
「落ち着いてきたみたいっすね」
渡されたコップをしばらく見つめていた2人が落ち着いて来たのを確認して話し始めるっす。
「オイラがアニキと出会ったのは丁度仲間殺しになった日の事だったっす」
「だからな、アニキは彼女の浮気でそうなっただけで、アニキだけが悪いって訳じゃないんすよ」
ケビンさんは丁寧にゼオルドさんがどうして仲間を殺したのか教えてくれました。
レイちゃんは自分の住んでた村でも恋人を取り合って殺し合いが起こった事が有るとかで、納得しちゃったけど、それでもやっぱり人殺しなんて怖いな……
「ティアっちには酷い事を言うようっすけど、ここまで言ってアニキが嫌いになったなら、冒険者なんて止めた方が良いっす」
え?
何で?
「ティアっちは見た感じ裕福な家の出みたいっすから知らないようっすけど、依頼によっては人も殺したりするんすよ?」
……どう言う事?
冒険者は皆モンスターを倒すのがお仕事じゃないの?
「嘘だと思うなら1階の掲示板を見てみるっす」
私は嘘だと思いながらも1階へ走りました。
「兄さん……」
「レイチェルもこれだけ言ってダメならもう良いっすよ」
私は兄さんの言葉を否定するように首を振りました。
「でも、ティアちゃんにあんな事言わなくても……」
ティアちゃんの出て行ったドアを見つめながら思います。
確かにティアちゃんは夢見がちな所があるけど、だからって今のは言い過ぎだと思います。
冒険者でもそんな汚い仕事をせずに過ごす方法はいくらでもあるはずですから。
「深みにはまってから挫折するよりは、早いうちに知っておいた方が良いっす」
そう言って自分の手を見つめる兄さんは殺した人間の事を思い出しているのでしょうか?
この国へ来た私は兄さんから最初に人を殺した事を打ち明けられました。
冒険者になると言う事はそう言った事をする可能性も有ると。
殺した相手は懸賞金のかかった賞金首だったそうです。
私達の家は貧しくて兄がそのお金を送ってくれていなければ、今頃私は娼館で働かされている所でした。
だから兄さんへは感謝こそしていますが、けがらわしいとかそう言った事は思いません。
けれどティアはひょっとしたら軽蔑してしまうかもしれません。
そうなったら、私はティアと友達でいる自信がありません。
だからお願いですティア。
どうか私を友達で居させて!
山賊の討伐、賞金首……それ以外にも色々人を殺してしまいそうな仕事はたくさんありました。
嘘だと思いたかったです。
けど全てが本当の事だと掲示板を見てわかっちゃいました。
私はモンスターから人を守るのが冒険者の勤めだと思ってたんです。
でも、良く思い出してみれば私が初めて出会った冒険者さんもそうだったのかも知れません。
遠出で馬車に押し込められていた私は、何日か冒険者さんに護衛をしてもらっていたんです。
何日目だったか朝起きると昨日までよく話をしてくれた冒険者さんが、顔を青くしてうつむいていたんです。
その人の仲間に聞いたら夜遅くにモンスターの襲撃があった事を教えてくれました。
その後小声であいつは初めてだしみんな最初はこんなもんさなんて言ってました。
私はそんなになってまで私を助けてくれた冒険者さんにあこがれて冒険者になろうとしていたんですけど……
良く考えれば護衛を請け負うような冒険者さんが護衛で初めてモンスターを殺すなんて有り得ないですよね……
きっと襲いかかっていたのはモンスターじゃ無くて人だったんですね。
あこがれていた冒険者さんも人殺し……
お父さんとお母さんに反対されて、家出してまで冒険者になろうとしたのに……
私はどうしたら良いんだろう……
誰か教えてよ……
「ティア……」
昨日掲示板を見て落ち込んだティアが部屋へ戻ったのは確認しています。
だから一緒にゼオルドさんの元へ向かう為に声をかけたのですが、部屋には誰も居ませんでした。
やっぱりティアは冒険者を止めるのかな?
出来れば一緒に行きたかったです。
私は仕方無く1人で兄に連れられてゼオルドさんの家へ向かいました。
人の気配で目が覚めた。
1人か?
その気配はドアを開けようか開けまいか迷っているようだ。
「鍵なら開いている。誰か知らないが入るなら入れ」
俺の声は聞こえているはずだが、それでもドアの前から気配は動かない。
……入って来ないな。
う~
どうしよう。
緊張してきたよ~
「鍵なら開いている。誰か知らないが入るなら入れ」
ドアの前で固まっていた私にゼオルドさんから声がかかります。
あはは、さすがは上級ダンジョンのモンスターも倒せるような先生です。
きっと気配とかで分かっちゃうんですね。
しばらくためらったあとで、私は勢いよくドアを開けました。
「おはようござ……っ~~~~~~~!」
元気よく挨拶しようとした私ですが、ドアを開けた体制で固まってしまいました。
「……出来ればドアを閉めてくれると助かるんだがな」
裸ですよ裸!
うわうわうわ、男の人の裸なんて初めてみました!
ゼオルドさんが少し動くだけではち切れそうなほど盛り上がった筋肉がぴくぴく動いてます。
全身傷だらけですけど、そんなのゼオルドさんの筋肉にとっては飾りみたいに見えます!
それに股の間に見える……
「きゅ~~~~~」
「きゅ~~~~~」
うん?
人の体を凝視したと思ったらいきなり倒れたぞ?
仕方無い。
またベッドを貸してやるか。
昨日と違い寝ぼけている訳では無いようだが今回は何故倒れた?
「……あ」
ティアを抱きかかえてベットまで運ぶ途中に気付いた。
昨日は寝苦しかったから全て脱いだんだが……ひょっとして男に免疫が無いのか?
「おはようございますっす!今日から妹をよろしくたの……へ?」
「……に、兄さん邪魔しちゃ駄目よ!すみません、明日出直します!」
アニキの家が見えて来た所でもう1度レイチェルに言っておくっす!
「いいっすか?くれぐれもアニキに失礼の無いようにするっす!」
「兄さんその話はこれで97回目です」
何度言っても言い足りないから言ってるんすよ!
あれ?
どう言う事っすか?
アニキの家のドアが開いてるっすよ?
……ま、悩んでも仕方無いっすね。
ダンジョンは例え罠が有ったとしても突撃あるのみっす!
「おはようございますっす!今日から妹をよろしくたの……へ?」
家へ1歩踏み込んだ所で罠よりももっとたちの悪い物に引っかかった事に気付いたっす。
そこにはティアっちに覆いかぶさるアニキの姿が……
しかもまっぱっすよ?まっぱ!
朝からだなんてレベル高いっす!
オイラにはとても真似できないっすよ!
「……に、兄さん邪魔しちゃ駄目よ!すみません、明日出直します!」
レイチェルに手をひかれたオイラは来た道を全速力で帰る事になったっす。
後ろからアニキの声が聞こえたような気もしたっすけど、今のオイラにはそんなのを確認してる余裕は無いっす!
「いいっすか?くれぐれもアニキに失礼の無いようにするっす!」
私の先生になるゼオルドさんの家が見えて来た所でまた兄さんが言います。
「兄さんその話はこれで97回目です」
もう96回聞もいてるんですよ?
兄さんがゼオルドさんを尊敬しているのは分かりましたけど、いい加減にしてください。
いくら兄さんでも怒りますよ?
でも、ここまで兄さんが慕うなんて一体どんな人なんでしょう?
もちろん事前情報は仕入れて有りますけど、そのほとんどが仲間殺しをしたゼオルドさんに対する中傷にすぎないんですよね。
曰くレベルの上がらない落ちこぼれだとか、曰く筋肉達磨だとか……
兄さんに聞いても自分が尊敬している事しか教えてくれませんし、本当にどんな人なんでしょうか?
ドアが開いていたのでおかしいとは思いましたが、兄さんが躊躇なく入ったので私もそれに続きました。
「おはようございますっす!今日から妹をよろしくたの……へ?」
そこで目にしたのは、2mを超える巨人がティアちゃんに覆いかぶさる姿でした。
ティアちゃん、夢見がちな所があるなんて思ってごめんなさい。
貴女の方が私よりも大人だったのね……
「……に、兄さん邪魔しちゃ駄目よ!すみません、明日出直します!」
私は兄さんの手を引いて町まで駈け出しました。
後ろから男性の声が聞こえて来ますが今はソレに答える余裕はありません。
ティアちゃん、帰ってきたら感想を聞かせてね。
ケビンとその妹だろう少女がそろって駆け出したのが背中越しに気配で分かった。
……待て、これは不味いんじゃないのか?
思いっきり誤解を受けているぞ?
「ま、待て!お前ら!」
声を張り上げてドアの所まで走ったが、2人の影はもう何処にも見当たらなかった。
は、早い……
まぁ、例え姿が見えていたとしても、全裸で家の外へ出る勇気は無いがな。
ため息をつき、ドアを閉めてた俺は服を着ながら考える。
どうやって誤解を解けば良いんだ?
後書き
……あれ?
ダンジョンに突入するつもりが違うジャンルに突入している。
没ネタ
「ま、待て!お前ら!」
声を張り上げてドアの所まで走ったが、2人の影はもう何処にも見当たらなかった。
だが、ここで誤解を解いておかないとケビンの妹の面倒を見るのが気不味すぎる!
おそらく2人は町に向かった筈だ!
俺は脚に力を込めて走り出した。
しばらく走るとソレらしい2人組の姿が見えた。
「待てケビン!」
「うわ!追って来たっす!」
「きゃーーー!」
ぬ?
何故逃げる?
「待てと言っている!」
「待てないっす!何で追って来るッすか!」
その後止まらない2人を追って、自分が裸なのを忘れていた俺は町中を堂々と駆け抜けてしまった。