「よーし、勝った!」
喚いている金髪の女の子をバインドで縛り終え、念のために気絶させた。これで、敵はいなくなった。
アルフが歓喜している。
私もうれしい。あんな強敵を、ギリギリだが倒せたのだ。
まさか初めての戦闘で、あんな人とやりあうとは思わなかった。
大量のランサーをほぼ叩き落し、死角から放たれた最後の一撃をも見切った。
それれに大量の「電気」を詰めて気絶させていなければ、反撃されて私は撃墜。アルフもやられていただろう。
薄い氷を踏みながら歩くぐらいの賭けだった。
そして私とアルフは、歩きぬいた。賭けに勝ったんだ。
リニスに学んだ戦術と技術は、私たちの努力は無駄ではなかった。この勝利はその証拠にもなる。
唯一不思議な点は、あの『像』を攻撃したというのに何故か『男の人』に電流とそのダメージがいき、一緒に『像』が消えていったことだ。
あれは一体?
「フェイト。そんなことより、今はジュエルシードの封印に集中しないと」
考え込んでいたら、アルフに怒られてしまった。
「でも、何でか解らないから」
「そんなのどうだっていいじゃないか。あの男は倒れた。『像』は消えた。それで十分だよ。それに……」
うん、そうだね、アルフ。
あの人も女の子も、ただ巻き込まれただけだ。だから、「止めを刺す」わけには行かない。
私だって、「未来」を手に入れるために戦っている。だからといって、そんなことはしたくない。
「未来」がない――本来あるべき幸せが失われる――ことの辛さは、よく分かるから。
「っと。それより、早くしないとこの家の人が騒ぎに気づくよ」
「そ、そうだねアルフ。うん、封印始めようか。あんまり魔力ないから、アルフ、サポート頼むよ」
「オッケー」
そうだね。今はジュエルシードを持ち帰ることに集中しないと。
行くよ、アルフ。
――でもその時、やっぱり私たちは、倒れていたあの人に止めを刺すべきだったんだ。いや、違う。止めを刺す『覚悟』を持つべきだったんだ。
だって、あの人の『精神力』と『意思』は、私たちの想像を遥かに超えていたんだから――
フェイトが封印の術式を終える。とたんに辺りは金色の魔力光に包まれ、分不相応に巨大な『子猫』から、小さな青い宝石がひねり出される。
宝石の中にある、破壊的エネルギーが封じ込まれたのだ。
これでフェイト達の目的は果たされた。この後は撤収するだけだ。しかし、フェイトは念を入れて、承太郎にバインドをかけようとした。
倒れている承太郎の方を向いたフェイトは……妙な違和感を感じた。ただ気絶しているだけだというのに、不自然なくらいに血色が悪い。さっきまで血がめぐっていたであろう肌は、新品の陶芸品のように白くなっていた。目は閉じられている。ピクリとも動かない。
――まさか。そんな、嘘だ
一つの最悪な可能性を予想したフェイトは、愕然とした。
――ううん、そんなこと、あるわけない。確かに「非殺傷設定」で攻撃したはず。いくら電気を蓄えたとはいえ、致死量寸前でリミッターが作動する。でもなんで、どうして?
「フェイト」として生まれた時から、ある種戦うために生み出されたといっても過言ではないフェイトも、精神面は子供である。
最愛の母の望みを叶えるため、そして、母の愛を取り戻し自らの「未来」を切り拓くためなら、他人を傷つけても構わない。その覚悟はあったが、自分の攻撃で他人の「未来」を永遠に失わせることは考えもしていないし、そうなった時どうするかも分からなかった。
しっかりと握っていたはずのバルディッシュを取り落とす。その音と使い魔特有の「リンク」でフェイトの異常を察知したアルフも、起こっていることを理解して顔を蒼白に染めた。
「フェイト……」
「ちがう、ちゃんと加減はした。そ、そうだよね、バルディッシュ」
『Yes,sir. but……』
バルディッシュの機械的な音声も、か細く震えているように聞こえた。
「しかし、じゃあないよバルディッシュ! どうするのさ! 私達、こいつを……」
開ききった手が微かに震える。余りにも重くのしかかる事実に、フェイトは膝をついた。
「そんな……殺すつもりなんて、無かったのに」
「ほう」
ッ!!
空っぽになっていたフェイトの頭の中に、矢のような一言が猛スピードで駆け巡る。その後には、数多くの疑問符。
なんで?どうして?
心臓は止まっていた。すなわち「死んでいる」はずだというのに?
生き返った?死んでなかった?
倒れてたのに?目の前に居たのに?
何時の間に私の「真後ろ」に来たの?
思考が止まり、身動きできないフェイトを尻目に、承太郎は冷然と言い放つ。
「殺すつもりはない、か……所詮はガキだってことだな……やれやれ」
「あ、ああ……」
舌が動かない。言葉が出せない。
恐怖と衝撃と僅かな安堵が、フェイトとアルフを襲った。
そして、フェイトは悟る。今の私は、やっぱりこの人に敵わない。
となると、成すべき事は限られてくる。いかに犠牲を出さず、この場を脱出できるかだ。
アルフに少女を縛るバインドを解くよう念話で命じ、バルディッシュの中に確保したばかりのジュエルシードを取り出して遠くに飛ばす。相手の目標はジュエルシード回収と少女の安全であり、こちらの打倒ではない事を、フェイトは知っていた。
承太郎がジュエルシードをキャッチしアリサの元へと急ぐ間に、フェイトとアルフは高速で離脱した。
「いいの? 幾らピンチだからって、大切なジュエルシードを」
「うん。ここでやられるより、まだあの人が確認していないのを探すほうがいいから」
「そうかい。なら反対はしないよ。フェイトの決めたことだ。それより、あの大男」
「かなり手強い、恐らく不意打ちでもしないと倒すのは無理だ」
とんでもない敵が現れたなと、フェイトは思う。しかし、ここであきらめるわけにはいかない。対策と戦術を練って、実行し、必ず勝たなければいけない。
ジュエルシードを全て取られてしまったら、母さんの望みが叶わなくなるから。
それは、母さんをもっと悲しませてしまうから。そんなことはさせたくない。
だから、あの人を超える。そしてジュエルシードを集めて、母さんに笑顔になってもらう。
それが、フェイト自身の幸せにも繋がるはずだから……
承太郎は、気絶から目覚めたアリサに事情の説明を迫られながらも、一路月村邸へと向かっていた。
何とかジュエルシードを確保できたのだが、承太郎にとって謎なのが、ついさっき逃げていった小娘と犬耳女の素性と目的である。
小娘が封印したジュエルシードを見ると、これまで「スタープラチナ」で無理矢理に握り込んでエネルギーを抑えた物よりも、断然状態が安定している。
どうやら、ジュエルシードについては小娘達の方が専門家らしい。
それに、小娘が放ったエネルギー弾。あれに「スタープラチナ」が触った瞬間、電撃らしき物が「スタープラチナ」に流れ、その影響を受け承太郎も失神した。
ごく普通に考えると、精神エネルギーである「スタンド」に電気は通らない。当然、あの攻撃で「スタープラチナ」は何もダメージを受けるはずは無いのだ。「スタンド」に直接ダメージを与えられるのは「スタンド」のみである。
しかし、現に承太郎は電撃を受けた。これは、あの弾に入っていた電撃が普通の電撃ではないということだ。大体、人間の体に、電撃を生み出すほどの電力があるとは考えられない。
では、あの光弾から電気が発生したのか。いや、そもそも電撃でなく「電撃のような何か」であったのか?
ただ間違いの無いことは、小娘が「スタープラチナ」を攻撃できることである。「スタンド使い」の大きなアドバンテージである、「スタンド」は「スタンド使い」にしか見えないし攻撃できないというルールを破る存在に、初めて承太郎は出会ったのだ。
そんな相手とやりあうとは、厄介極まりないことである。
途中ですずかと合流し、承太郎は月村邸のドアをくぐる。
『魔導師』との緒戦を勝利した彼であったが、その胸には、新たな事実と敵の未知数の実力による漠然とした不安が渦巻いていた。
空条承太郎 フェイトに勝つも、何かスッキリしない
フェイト・テスタロッサ 退却。新たな敵の脅威を身をもって感じた
アルフ フェイトと一緒に退却、いつかあの大男にリベンジ
アリサ・バニングス 戦闘に巻き込まれ混乱、疲労で意識も薄い
月村すずか フラフラのアリサを心配しつつ家に戻る
〈TO BE CONTINUED〉