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No.17608の一覧
[0] 【習作】惑星でうなだれ(現実→惑星のさみだれ)[サレナ](2010/03/28 09:58)
[1] 中書き[サレナ](2010/03/28 09:57)
[2] 第1話[サレナ](2011/08/01 03:37)
[3] 第2話[サレナ](2010/03/28 22:43)
[4] 第3話[サレナ](2011/08/01 03:37)
[5] 第4話[サレナ](2010/07/31 04:00)
[6] 第5話[サレナ](2011/08/01 03:38)
[7] 第6話[サレナ](2011/08/01 03:47)
[8] 第7話[サレナ](2011/08/01 04:18)
[9] 第8話[サレナ](2012/08/03 00:02)
[10] 第9話[サレナ](2013/12/01 01:09)
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[17608] 第5話
Name: サレナ◆c4d84bfc ID:37afdf3f 前を表示する / 次を表示する
Date: 2011/08/01 03:38
巨体が転がる。
泥人形は自身の半分も無い相手に翻弄され、拳は一向に当たらない。
泳ぐ体を襲う一撃。
一本の槍が体のど真ん中を突き抜け、破砕音と共に体が抉れた。
しかしそれも致命傷には至らない。
その程度の攻撃など脅威足らんとするように、傷を意に返す事無く再び豪腕は伸ばされる。
やはり空振り。
そして今度は頭部に攻撃が当たる。
反撃、外れる、食らう。攻撃、当たらない、貰う。
殴る殴る殴る殴る殴る外れ外れ外れ外れ外れ削れる削れる削れる削れる削れる……
折れる。
体が上下に分断された泥人形は力尽きたように動く事を止めた。
そのまま塵一つ残さず姿は消え失せ、化け物のいた痕跡は影も形も無くなった。

終わってみればあまりに一方的。
トカゲの騎士が手も足も出なかった相手に対して、犬の騎士はなんら苦も無く屠り去ったのだった。

「か……」

「か?」

「かっっっけ~~~~~!」

「はぁ……」

今も眼下では騎士同士の睨み合いが行なわれているというのに、空気をまるで読まずに発言する相棒の様子に、ザンは静かに溜め息を漏らした。

民家の屋根の上。
戦闘の様子を一部始終眺めていた自分達。
巻き込まれる心配も無い場所から安穏と見つめるだけで、実際に戦場に立つ彼らとは、そこに纏う緊張感には天と地ほど差があった。

「やっぱりいいよなぁ方天戟。
 威力は高いし燃費も良いし、操作性も高くて速度も在るときた。
 騎士の必殺技といえばやっぱりこれだよ」

普段に比べて数倍テンションが高いのは、どうやら犬の騎士の掌握領域をじかに見れたかららしい。
そういえば掌握領域の練習をしていた時も、あの技が失敗した時は凹んでいたように思う。

「やけにあの技にこだわりますね」

「そりゃあね。邪道っていうのも味があって格好良いけど、それって結局王道で行く力が無いってだけだからさ。
 王道の必殺技っていうのは、男の子のロマンなんだよ」

はぁ、と生返事。
よく分からないが、彼には彼なりにこだわりが存在するらしい。
織彦さんは、物事はなるようになる、だからどうなっても構わない、と公言するような人だから、そういった物とは無縁だと思っていたのだけれど、そう単純な物でも無いようだった。
その思想も、ただ受動的であるのではなく、彼なりに優先順位を決めた上で、今のような結論に至ったという事だろうか?
彼と過ごして既に一月経ったが、未だに彼がどういう人間なのか掴みきれない。
基本的にやる気が無い人物という評価で良い筈だが、今回のように妙なこだわりを見せる時も在る。
それが彼の特殊な素性故の物なのか、単に性格的な物なのかは分からない。
彼にとって優先すべき物とはいったい何か。

知りたいと思う。
それが私に受け入れられない物であったとしても、無理解のままではいたくない。
自分は、彼の相棒なのだから。

4つ目の泥人形が倒された頃、私達はまだ暢気な会話を繰り返していた。





第5話 傍観





「えーと、たしか7つ目、ヘカトン……バイソン? だかなんだかが最初に出てきた時が……別々……アニムスが……」

戦闘から数日後。
屋上探索も終わり、この日は珍しく真っ直ぐ帰って来たので、俺は漫画の内容をザンに語って聞かせていた。
掌握領域の練習だとか町の散策なんかで忙しかった事も在り、なんだかんだ後回しとなっていた説明も、ようやくといった所。
とは言え、説明出来るのはあくまで大まかな部分だけだ。
騎士や泥人形にはどんな者がいるとか、どんな出来事が在ったかを話すにしろ、流石に一話一話を細かく把握している訳じゃないし、俺自身が既に忘れてしまっている内容も在ると思う。
合間合間で挟まれる質問に答えつつ、俺の知る惑星のさみだれという物語を一通り講義し終えた頃には、ザンの眉根はすっかり顰められていた。

「プリンセス自身が、惑星の破壊を……」

まあそれも当然だろう。
地球ほしを守る為に戦っているというのに、自分達のトップが全く逆の事を目論んでいると聞かされてしまえば穏やかではいられまい。
しかも目下の所、魔法使いを阻止出来るのがさみだれプリンセスだけなのだから手に負えない。
これでは騎士側にとってアニムスが二人いるのと変わらず、最終的にはボス戦を2連続で切り抜けなければならないのだ。
全力を賭して戦った後に、それ以上の敵が待ち構えているという絶望感は計り知れない。
ボス戦突入前はセーブと相場が決まっているのに、コンテニュー無しとか鬼過ぎる。

「あの、織彦さんが地球防衛に悲観的なのはこの辺りも関係が……?」

「あー……割合的に0じゃ無いけど、根本的には関係無いかな」

もっと攻略が簡単な世界で在ったなら、確かに、もう少しくらい積極的に正義の味方の真似事に取り組んでいたかもしれない。
ここは、負けの要素が8割方揃った世界だ。残りの1割は騎士達の完全勝利の可能性、1割はご都合主義。
ご都合主義とは意外と侮れないが、そんな物で解決する問題なら俺が何か必死になる理由なんて無いだろう、というのが正直な気持ち。
きっと絆とか愛とか熱血とかで誰かが何とかしてくれる。
劇的に平和を掴む勝者達。
悲劇的に滅びを迎える敗者達。
そして、そんなこそばゆいやり取りを外から眺めてニヤニヤしたいのだ、俺は。

話す間も、真剣な面持ちのザン。
俺はそれをやる気の無い表情で見返す。
地球の未来を憂うカジキマグロと、地球の破滅に取り合わない人間。
まったくもって、噛み合わない心境。
個人の資質によって騎士が決まるというなら、自分には何の資質でカジキマグロと引き合わされたのか、気になる所だ。

「それでは、近日中に起こる出来事としては、5つ目の泥人形の出現と……犬の騎士の脱落ですか」

「そうなるな」

もう直ぐ、人が死ぬ。
気分は、サスペンス映画で登場人物が死亡フラグを立てた直後を見ているのに近い。
ハラハラするし、死なないでと祈りもするが、所詮全ては他人事。
危機感なんて湧いてこない。

「やっぱり……助けませんか?」

俺がどう答えるかなんて分かっているだろうに、それでもザンは俺にそう尋ねた。

「今あなたが動けば、犬の騎士が命を落とさずに済むかもしれないのでしょう?」

「そうだな」

非力な俺だが、介入の余地は在る。
直接戦場に赴いて、掌握領域で敵の意識を攪乱するとか、今回は夕日を参加させないようにするだけでも、死亡率は格段に下がるだろう。

「でしたら!」

「でも、そのかわりに世界は滅ぶかもよ?」

「う……」

半月の死は、夕日とさみだれの心に大きな影を落とすと同時に、彼らの成長を促すきっかけでもある。
例えば彼が死ななかったとしたら、その未来はどうなるだろうか。
挫折を味わう事無く歩む彼らは、漫画の中の描写ほど大人にはなりきれない。
技を受け継がない夕日は、どれだけさみだれを支えられるのだろう?
心が育ちきらないさみだれに、ハンマーを壊すだけの力は在るのか。
もしも彼らの決意が足りないまま戦いを続ければ、訪れる破綻は想像に難くない。
……なるほど、確かに俺の選択で未来は変わるな。

「勝てる事が分かっている原作みちすじを外れて、未来全てを危険に曝す事を選ぶべきだとでも?」

意地悪く、問いを重ねる。
ザンにだって分かっている筈だ。
少数の犠牲に目を瞑って地球全てを救えるなら、そうするべきだという事は。
いったい何度戦う度に敗れてきたのか分からないが、敗れ去った戦士達の無念と取り戻すべき未来を思うなら、重要なのは、より確実な勝利。

瞑目するカジキマグロ。
この高潔な魚は、現実と理想の間で悩み惑っている。
完璧な答えは見つから無い。
妥協の先にだって救われる物は在る。
けれど、たとえ理屈の上でそうだったとしても、こんな時にザンはどう言うのかなんて、『惑星のさみだれ』を知ってる俺には予想がついて。
彼が何か言い出す前に、俺は言葉を重ねた。

「まあ、全部仮定の話だけどね」

「はい?」

「そもそも俺は、手を出す気無いからさ」

こんな悲観的にならなくとも、半月という強力な騎士の参入によって、戦いは楽になるかもしれないし、暗鬱たる状況に出会わなければ、さみだれの力ものびのびと成長するかもしれないのだから、助けに行く選択だって在りだろう。
幻獣化した半月でもいれば、それこそ単独でアニムスを倒すくらいやってのけるかもしれない。
でも、それも全て俺が行動を起こしたらの話だ。
ザンの真っ直ぐさには好感を持つが、だからって、その言葉で俺の考えは変わる訳じゃない。
だから彼が今何を決断したって、それが事態が左右する事は無いのだから、そんなに心を痛めなくても良いと思う。
選択肢の表示されないシナリオは一方通行。行動の責任なんて物は生まれない。

それでもザンは落ち込む。
目の前で人を見捨てなければいけないという現実に。
どんよりした空気を纏ってうなだれている姿は、魚類にも関わらず実に人間味溢れていた。

「それから。なにか誤解していると思うけど……」

落ち込むザンに一言言っておく。

「誤解、ですか?」

「俺はなにも、世界が滅んだ方が良いなんて思ってる訳じゃないんだ。
 むしろ、救われた方がいいと思ってるくらいさ」

「え?」

驚いたように目を見開く。
その反応に、ああやっぱりと思いつつ、俺の考えを話す。

「だって長生き出来たら、その分楽しい事に出会える可能性が増えるって事だろ。
 何もしなければそれで世界が救われるなら、その方が良いと思ってるんだよ、これでも」

物語として悲劇には悲劇の面白さが在る。だからそれを否定しようとは思わない。
しかし、バッドエンドよりはハッピーエンドの方が好ましい。
幸せが無ければ不幸は無く、その逆もまたしかり。
結局の所、続けば『飽きる』。
ただ、どんな作品だろうと、批判する事と脚本を書き換える事は違う。
俺は所詮観客。精々がエキストラ。
居ても居なくても、話の流れは変わらない。

「だから、俺は何もしないよ」

俺の言葉に、なんと言えば良いのか分からないという表情で、ザンは黙った。




泥人形の出現を察知して、俺達はあらかじめ目処を付けていたビルに向かった。
姿を消して忍び込み、そそくさと階段を上っていく。
屋上に辿り着くと、掌握領域で鍵を開け、外に出る。

こんな時間に屋上に用のある人間はいないのか、人の姿は見当たらない。
歩いて屋上の縁へと近付き、山の方角へと向き合う。
流石に遠くから目視しただけでは、山中から人を探し出すのは難しい。
俺は広範囲に展開していた掌握領域を一点に集中させると、そこから覗き込むようにして山を見た。
すると、樹の一本一本どころか地面に落ちてる石の数を数えられるだけの、精細な景色が視界に広がる。

「いた……」

飛び跳ねるさみだれの姿を、視界の端に捕えた。速度が速過ぎて、気を抜けばすぐに見失いそうだ。
彼女が飛び込んだ先には、四肢が全て腕という奇妙な形をした泥人形が居るが、ダッシュの勢いを乗せたさみだれのキックによって、軽々と吹き飛ばされていた。
しかし破壊には至っていない。
泥人形はヒットの瞬間に後ろに飛ぶことで衝撃を逃がしていた。
体勢を立て直すつもりなのか、泥人形は逃げ出し、さみだれはそれを見送る。

「ザン、あの辺りに3人ともいるぞ」

場所さえ特定出来れば、領域無しでも見えるだろうから、既に3人が集まっている位置を指で指し示す。

「はい、見えました」

会話こそ聞こえないが、俺の目には話し合う様子が見えている。
夕日が何か言うとさみだれは頷き、再び単独で行動を開始。男二人は一緒に移動を始めた。

「捜索のために、別行動を開始したようですね」

「それと、朝比奈さんが自由に動けるようにだろうな」

ぶっちゃけ、夕日は戦力外どころか足手纏いだ。
機動力こそ在るが、それには溜めが必要で、咄嗟の動きは鈍い。
ただでさえ普通じゃない動きの泥人形が相手なのだから、それは致命的であり、格好の的となる。

落ち着いている半月とは対照的に、夕日の表情は緊張に固まっている。
半月と夕日は泥人形の動きに目を凝らす。
片や相手を狙う為、片や相手を避ける為に。
高速度の敵を注視し過ぎて足元が疎かになったのか、夕日の足が地面の出っ張りに躓いた。

バランスを崩す体。
その隙を泥人形は見逃さない。
真っ直ぐ夕日に跳びかかる。
半月も跳びかかる。
夕日は突き飛ばされる。
半月は殴りかかられる。
方天戟が突き抜ける。

泥人形の腕が砕け、けれど吹き飛んだのは半月の体だった。
人はああも跳べる物なのか、バウンドしながら宙を舞う。
傾斜を転がり、糸が切れた人形の様に地面に投げ出された。

停止。

横たわった体は僅かに上下している。
まさに虫の息。
地面には血溜まりが広がっていく。

オオオオオオオオオオォォォォォン――……

「あ……」

遠吠えが響いた。

ルドの声は、ここまで届き、やがて犬の姿は視界から消えた。
横たわる体は動かない。
死んだのだ。

胃が収縮する。
眼前の光景は酷くグロテスクで、生理的な嫌悪感は吐き気を催した。

「ほら、ザン」

でも、それだけだ。
他人が死んだからって、何か特別な感情が生じる事は無い。
一瞬戻しかけた物を押し込めて歯を噛み締める。
呼吸を深くして気持ちの悪さをごまかしてから、ザンへの言葉を続けた。

「見なよ。あんなに強い人だって、こんなにあっさり死んでしまった。
 物語で起こる奇跡なんて物は、いつだって綱渡りみたいな出来事なんだ。
 綱の上で誰かの手を取ろうとしたって、あっという間に真っ逆さまに落ちるだけだと思うよ」

落ちる誰かの手を掴めば、大きく揺れた綱はきっと綱上の全員を振り落とす。
助かりたいのなら、見捨てて真っ直ぐ渡り切るべきなのだ。

「それでも」

だけど、彼は言う。

「それでも、私は手の届く距離にいるなら、手を伸ばしたい。
 助ける為に足掻きたいと、思います……」

諦めないという事が、どれ程大変な事なのか。
諦めてばかりの俺には想像しか出来ないけれど、だからこそザンの言葉は尊敬に値して、いつものように「マグロに手は無いだろ」なんて茶化す気にはなれなくて。

「そうか……」

そう呟くにとどまった。

さみだれが飛び上がり、幕引きの一撃が振り下ろされる。
まるで誰かが泣き崩れる様に、山の斜面は崩れ落ちた。

悲劇の証拠は土へと還り。
戦いは終わった。


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