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No.17608の一覧
[0] 【習作】惑星でうなだれ(現実→惑星のさみだれ)[サレナ](2010/03/28 09:58)
[1] 中書き[サレナ](2010/03/28 09:57)
[2] 第1話[サレナ](2011/08/01 03:37)
[3] 第2話[サレナ](2010/03/28 22:43)
[4] 第3話[サレナ](2011/08/01 03:37)
[5] 第4話[サレナ](2010/07/31 04:00)
[6] 第5話[サレナ](2011/08/01 03:38)
[7] 第6話[サレナ](2011/08/01 03:47)
[8] 第7話[サレナ](2011/08/01 04:18)
[9] 第8話[サレナ](2012/08/03 00:02)
[10] 第9話[サレナ](2013/12/01 01:09)
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[17608] 第9話
Name: サレナ◆c4d84bfc ID:36d1a9ef 前を表示する / 次を表示する
Date: 2013/12/01 01:09
見上げれば星空。
季節が廻れば星も廻り、気が付けば、夜空はその表情を大きく変えていた。
夏の空、見渡す限りの一面を、眩く照らす光源の群。
どこまでもどこまでも、光の粒が埋め尽し、点と点を繋いでゆけば大小様々な星座が並んだ。

夏という季節柄、三角に並ぶ星でも探して見ようかと思い立ったが、満天過ぎる星々の中から目当てを探すのはちょっとばかり酷かもしれない。――挫折。
自分はそもそも星に詳しい訳でも無かった。
だって星を見ようにも、いつも視界の端にはハンマー。そりゃあ星など見なくなる。
天体観察なんて所詮はただの思い付き、諦めも早くこんな物。

まあ、既に8月だ。
北海道ならば兎も角、夏の大三角形なんて探すのはせめて自分の誕生日にでもしろという話。なんとはなしに景色を眺めた。

「本の話にしようか。天川君は読書はするかい?」

そんな俺の隣から、語り始める妙な男。相も変わらず胡散臭い。
この男、いつもこんな風景を一人で眺めているんだろうか。地球ほしの蒼さは偉大でも、命の息吹を感じられない無人のこの空間は、真っ当な人間には全くもって不健全。
空の上から地球を見下ろし孤独な世界にひきこもりなど、神様気取りで実に『らしい』。

「漫画くらいかな。たまに小説も読むけど」

なんて揶揄して思っても、上から目線は自分も同様。
物語を眺めるように、他人事を娯楽扱い。
人の事を言えた口ではない。

「ふーん、物語が好きなんだね。
 空想は発想を広げるから、想像力豊かな人間になれるんじゃないかな。
 でも、勉強はした方がいいよ」

「ほっとけ」

何の話だ。

「本はいいよね、先人の知識の宝庫だ。
 研究資料や歴史に思想、古今東西のありとあらゆる情報が視覚的に残されていて、過去の書物は遠い未来に読まれる事でその内容を後世の人間へと伝えていく事が出来る。
 これってさ、情報が時間の壁を越えたとも考えられるよね。
 『書く』というのは誰もが使える基本的な魔法なのかもしれない」

そんな夢に溢れた発想は、知識欲の塊な彼らしい意見だ。
儀式とか呪文とか、意味があるのかも分からない一般的な意味で言う魔導書に比べれば、普通の本の方がよっぽど上等。彼にとって魔法的か。では。

「そういうあんたは、どんな魔法の本が好きなのさ」

魔法使い愛読の魔導書とは一体何か。些細な興味から聞いてみる。

「何でも読むけど、特に学術書が好きでね。学者になろうかと考えたこともあるんだ」

普通。

実に真っ当な趣味嗜好だった。不思議な物など何も無い。
つまらん、これだから頭の良い連中は……と、著しく偏見混じりの感想が浮かぶ。

「今は違うのか?」

「ああ。もっと素晴らしいものを見つけたからね」

そういって、一層笑顔が深くなる。
アニムスは両腕を広げながら、情動のおもむくままに謳い上げた。

「そう、本では足りない。僕は全てを知りたいんだ! この世の全てを!」

『この世の全て』。
漠然とした何かではなく、アカシックレコードという明確なる到達点。
探究心の行き着く果て、世界を滅ぼしてでも欲する姿はまごうことなき狂人のそれである。

「ふ~ん」

が、それはそれ。抜けた声で相槌を打った。
良いとか悪いとかは置いといて、それがどれ程素晴らしい物だと言われた所で、自分がそれに価値を感じていなければ無価値に等しい。
大体『何が知りたい』ですらなく、ただ貪る様に知識を求める事の一体何が楽しいのだろう。
まるで『何故山に登るのか』という問いに、『そこに山があるから』と答える様な物ではないか。
漫画好き文系野郎の俺には理解できない……。

すなわち、アニムス脳筋疑惑。
違うか。

「……コレを『ふ~ん』で済ませる所が凄いよね、君。共感も反発もまるで無い。興味ないの?」

「いや、凄いなーと思うよ。俺そこまで執着するもの無いし。寧ろ尊敬する」

方法が物騒なだけで、夢の為になんでもやるという姿勢は素晴らしい物だろう。羨望すら覚える。
少なくとも、腑抜けた俺に比べれば百倍はましだろう。

「夢が大きいのはいいんじゃない? この世の全てアカシックレコードね、がんばれ。
 まあ人に迷惑かけるのはどうかと思うんだけど」

――悪役が悪役らしく頑張ってくれるのは物語が盛り上がって良いことだよね!

などと外道な事を考えていると、アニムスが驚いた様な顔でこっちを見ていた。
応援したのがそんなにおかしかっただろうか。

「君からそんな単語が出てくるなんて意外だね」

そこかよ。
本当に意外そうに言うのやめろよ、お前俺の事馬鹿だと思ってるだろ。
しまいにゃ泣くぞ。

「最近の漫画はそういうネタも扱ってるし」

惑星のさみだれとかな。
ザンにしか通じないネタである。

「それはさておき」

「なんだい?」

激しく今更ではあるが。

「なんでこんな頻繁に会いに来てんの?」

いやもうなんつーか。ハッキリ言って意味が分からない。

ダラダラと、取り留めのない会話を繰り返す夢の世界。
最初の遭遇から程なくして、こうして度々夢の中へと現れる様になったこ奴。
一度や二度なら気まぐれだろうで済むけれど、日に日に訪れる頻度が増えてゆき……ちょいと登場回数が多過ぎやしませんか。
風巻さんはどうしたよ。

「君が一番話に付き合ってくれるんだよ」

「俺? っていうか他の騎士はどうしたのさ」

「友達になりたかった相手には袖にされちゃってねぇ。
 味方に付いてくれた子は僕のこと嫌ってるし、他の騎士も大体出会い頭に攻撃されちゃうかな」

風巻さんと太陽の方はもう行ったらしい。
他の騎士となると、三日月なんか嬉々として襲いかかるだろう。南雲さんも結構無茶やらかす人だからなぁ。
太郎だったら勢い良く逃げ出す姿が目に浮かぶ。花子とか意外に話しが続きそうだけど、淡々と攻撃かましそうなイメージもあるので、なんとも。
っていうかさり気なく裏切りいるのバラすな。

「友達でも味方でも無いのに話し相手にされてる俺って何さ」

「話し相手でいいんじゃない?」

「あーそうか、自分で答え言ってるじゃん……」

話しかける程度の他人なんて良くいるよね。
例えばご近所さんだとか――挨拶返すくらいしかしてないけど。
特に親しくもないクラスメートとか――そもそも親しいクラスメートなんていたっけか。
後は騎士団――に話しかけられる訳が無し。

あれ、人の事言えるほど知り合いがいない?

……。

まあいいや。

それにしたって、俺の所に集中するってのもどうなんだ。
最低限のコミュニケーション能力があれば話し相手くらい簡単に作れそうなもんだけど、やっぱその辺は普通の人間を有象無象扱いするような感性では、真っ当に交友関係を拡大するなんて至難だったりするんだろうか。

そこで俺。そう、つまりこれは、友達いない駄目人間の集いだったという真実。

若干ショック。落ち込みを体で表現するように体育座り。
この姿勢で宇宙空間から地球を見つめていると、BGMにショパンでも聞こえてきそうだなぁと昔のCMを思い出した。非常にどうでも良かった。
特に時間的な制約もない場所で取り留めなく会話してるのだから、益体もない事を考えてしまうのも仕方がない。
思考が明後日に向いた所で、次の話題を出してきた。

「そういえば君は海には行ってないんだね」

――海。
それは一夏の出会いの場。
夏の暑さは人を開放的にさせ、多くの若者達が一時の情熱に身を任せてゆく。

パトス。

「その海が何か?」

「どの海か知らないけど、僕が言ってるのは騎士達の行ってる海の事だよ」

――海。
それは格好の合宿場所。
仲間達と遊び努力し友情を深め時々フラグを立ててゆく。

5巻。

「その海か」

「ああ……?」

そういえばもうそんな時期なのか。
泥人形が現れず、あまりこれといったイベントの無い日々が続いたために、ちょっと時間の感覚が薄れていた気がする。
というかあの合宿は三日月発案で唐突に決まった筈なので、会話を徹底的に監視してないとスケジュールを把握するのも難しかったのだ。
そうか。騎士達はもう海に行ってしまっていたのか……。

「そんな行事があるなんて知りようが無かった訳なんだけど。それが?」

「うん、泥人形を作るのは騎士のいる場所次第だから、いつも同じ所、つまり君の居場所の近くとは限らない訳だね。今回も」

「つまり……」

「そう。あっちで作る予定だから、このままだと君は次の戦いが見れないって事さ」

戦いを眺めたい俺にとって、現場にいないというのは看過しがたい状況ではある。
が、すぐ追いかけようにも場所が分からず、まして移動が間に合うかすら分からない。
せめて昨日の内に教えられていれば、誰かの後をついていくことも出来ただろうに。
今更そんな話をされても……いや?

「そうだ、わざわざそんな話題を振ってきたって事は、場所を教えてくれるつもりなんだな!?」

「違うよ?」

「なにぃ……!?」

酷い、人の期待を煽るだけ煽って後は放置プレイだなんて。僕の気持ちを裏切ったんだ。

「よし、諦めよう」

「早いね?」

「人間諦めが肝心、叶わないことを考え続けても疲れるだけです。早急に現実を受け止めましょう」

そういえばブルース何処かな、ブルース。
希望の持ち合わせは品切れ中でも前世知識ネタバレという裏ワザならば、きっと恐らく見える筈。

「天川君ってさ」

「え、ああ……何?」

話題から興味を移したのでおざなりに返事する。おー、居た居た。地球の向こう側。
ほとばしるダサさ。
昔あんなオモチャあったよなぁ。ポカポンゲームとかなんとか。

「変人だよね」

「あんたに言われたくないわ」

そんな話を最後に、今日の夢は途切れた。






第9話 ヘカトンバイオンと上から目線






夏。夏休みである。
当然といえば当然の如くダラダラと過ごす日々が続いている。
毎日がエブリデイ。違った。毎日が日曜日。
炎天下の続く中、いと珍しく本日雨天。
ジメジメとした空気をお供に惰眠むさぼり気付けば昼だ。
寝すぎた頭は鈍かったが、いい加減空腹が気になり腹の虫のに導かれるまま食い物を探して冷蔵庫の扉を開く。

しかし、なにも見つからなかった。▽(ピッ

閉じる。
無いものは仕方がない。
億劫だが、非常に億劫だが出かけるか。億劫だが。

「お腹と背中がくっ付くぞ、ってね」

窓から外を覗いてみれば雨もじきに止みそうだ、丁度良い。

ポケットの中に財布をねじ込む。
今日はまったく、夢見が悪い。受付締め切り終了後にイベント海合宿の存在を教えるという悪質な行為にあったもんだからちょっとご機嫌斜めだよ。
気分転換も兼ねるなら、買い出しついでにたまには豪勢な外食を、というのもありだろうか。

「パンがなければおかしくなればいいじゃない」

「気を確かに!?」

面白可笑しくという意味だとも。
さてそうと決まれば、まだ見ぬ至高のメニューを求めて外の世界へレッツらゴーだ。
夢と希望を胸に抱いてドアを開くと一歩を踏み出し、そのまま崖に落ちかけた。


「おおおおおおおおお!?!?!?」


断崖絶壁。目の前には空があった。
咄嗟に踏み込んだ足は踏み外しかけながらも辛うじて体重を支える事に成功し、命からがら一歩下がる。

背中を打った。

振り返ると、そこには切り立つ崖しかなく、家の扉など何処にも存在しない。
崖の中腹で呆然と。
気付けば既に絶対絶命。
なんだこれ。

「はぁ~……」

「ど、何処ですかココ!?」

死ぬかと思った。心臓がバクバクと早鐘をならす。隣でザンも混乱を露わにしている。
意味がわからない現象に――いや見当はつくのけど――ちょっと現実逃避したくなる程度には驚愕していた。
現在地を確認するため、崖からの景色に向き合う。
ここは一体何処だろうか。眼下には山林が、見つめる先には海がある。カラリと小石が足元を転げ、崖下へと転落してゆく。
下は見える。だが恐らく落ちれば命無し。
こんな事をやらかしそうな当ては一つしか思いつかない。
近くにいるであろう諸悪の根源の姿を探し、宙を見渡す。

「やあ」

「やあじゃねぇよ」

溜め息。

「魔法使い!?」

予想通り、アニムスが浮かんでいた。

「場所を教えても間に合うかわかんなかったしね。それならこの方が手っ取り早いだろ」

「何の話を……っ!?」

その時、ザンの言葉を遮る様にして泥人形の気配が生まれる。眼下、崖を背にして七つ目の巨体が泰然と佇んでいるのが見えた。

「じゃあ、僕はアニマの様子を見てくるから、君も楽しむといいよ」

運ぶだけ運んで用は済んだのか、離れていくアニムス。
慌ててその背中に声をかけた。

「何で、わざわざ?」

「話に付き合って貰ったサービスだから気にしなくていいよ」

投げやりな感じで手を振ってそう返された。
その気まぐれが何処まで本気か知らないが、真意など分かるはずも無い以上こちらは額面通りに受け取るしかない。
で、あれば。

「ひゃっほうアニムスマジ神様ーー!」

「ちょ!?」

さながら、欲しかったライブチケットを貰ったかの如く。
諦めていたイベントをこんな特等席で見られるなんて、アニムスさん太っ腹! と拝む。
我ながら現金だった。只より高い物は無いのだ。

「――うん、神だよ」

それだけ言うと今度こそ、姿を消した。心なし嬉しそうだったのが印象的である。
テンションまかせの発言故に深い意味は無かったが、神様呼ばわりはツボをついていたようだ。

「で、何ですか話って!?」

問い詰めたい相手が早々に退場したのでザンの矛先は俺に向かった。
うん、そういえば夢コミュニケーションの話はしてなかったかもしれない。

「あー、夢ん中によく来るんだよね、あいつ」

「な、なんの為に……?」

「雑談」

としか言い様がなかった。

「……それだけですか?」

「うん、だけだけ。マジマジ」

ザンの立場からすると訳わかんないよね。でも安心して欲しい、俺もわかんないよ。

「もっと警戒とか駆け引きとか色々あると思うんですけど……あなたのその大雑把振りには、時々尊敬すら感じますよ」

「照れる」

「褒めてはいないんですが」

「あ、来た来た。ほらザン、騎士達が来たよ」

下の広場へぞろぞろと人影が集まりだす。俺は下から気付かれないように自分たちの周囲に掌握領域を展開した。
生憎と足場は狭く、移動することは出来そうもない。何気に死亡率過去最高の危機的状況である。
万が一、流れ弾でも飛んできたら回避不可能。
当たれば落ちるし落ちたら死ぬし。
もう駄目だ。

「コーラとポップコーンが欲しいな」

「余裕あり過ぎの上に不謹慎!?」

そんな風に馬鹿言ってる内に、さみだれと夕日は背後から現れたアニムスに連れ去られた。

「待ってろ俺の獲物ーーーー!!」

そして消えた3人を追いかけるバカ。
三日月ェ……。

「あの、彼は……」

「ほら、バトルマニアだから……」

俺より強い奴に会いに行く――。と言えば格好良さそうに思えども、目の前の泥人形ほったらかして走る姿は傍から見て敵前逃亡にしか見えなかった……。
各員の動揺はひとまず無職さんそーちゃんの号令で抑えられ、戦闘開始は、ヘカトンバイソンの巨腕から始まった。
当たれば挽き肉。
一撃は轟々と風を切りながら振り回される。
身を低くしながらバラバラに逃げる騎士たち。
化け物対人間において、人間がいかに無力かが垣間見える瞬間だ。

「振り回す音がここまで響いて怖いわこれ」

「ええ、今までの泥人形とは比較になりません」

マンガの内容を思い返すに、7つ目は合体前の頃と違って身軽な動きをしていた様子は無かった。
リーチの長さや腕自体の速度は十分脅威。しかし小回りは聞かず角度に弱い。
付け入るとするなら、そこだ――!!

ねえよ。

あんな馬鹿でかいのの目の前に飛び込むとか正気じゃねえよ。ヒーローみんなおかしいよ。
そんなツッコミをいれられるのも攻撃範囲外の余裕だろうか。

「やはり危険に近づくべきじゃないな」

「……え、ツッコミ待ち?」

何もおかしくないし。

騎士たちの方は散開することで狙いを絞らせず、体の小ささで上手く攪乱している。
しかし攻撃が出来ない。
現在の騎士では単体攻撃力が低く、効果のある攻撃をするには複数人が足を止める必要がある。
泥人形側も意外に目敏く全体の動きを把握して動いている節があった。
踏み込むのは困難だ。太陽など近づいてもいない。
遠目に見ればそんな動きも顕著になる。子供組は全員近づいてはいないが、咄嗟に動けるよう身構えている雪待と昴に比べれば、動く様子が見られない。
原作知識故の先入観だろうか。

不意に、爆音が轟いた。

「っ、何が!?」

花火なんて目じゃない程の、まさに爆撃音である。
海側から巨大な水柱が上がっているのが見えた。
そして、それに気づいて俺は慌てて泥人形に目を向ける。

風巻さんが、泥人形に手を付けた所だった。

泥人形が内側から砕け、中からもう一体の泥人形が生まれる。
それは夢の中で風巻さんがアニムスに繰り出した筈の掌握領域、地母神キュベレイだ。個体名は知らん。
抉れたダメージが余程苦痛だったのか、泥人形は大きく暴れだす。
滅茶苦茶に振り回された巨腕。
偶然、狙いが白道さんの身に迫り――。

その腕は切り捨てられた。

「良し!」

「良しって何が、ええ!?」

一番美味しいシーンを見逃す事も無く、俺大喜びである。
敵は既に満身創痍。
昴と雪待が最強の矛を決め、そのまま畳み掛けるように総攻撃を受けたヘカトンバイソンの肉体は、完全に崩壊した。

「やっ……たぜーーーーーーーーっ!」

太郎の歓声。
ジワジワと追いつめられていく戦況だったが、気付けば一瞬にして決着がついていた。
多分大丈夫だろうと思ってはいても、やはり結果が出るまでは何が起こるか分かったものじゃない。
無事に終わって良かった良かった。

「犠牲も出ずに終わった様ですね」

「そうだな。でも、現場にいない3人の身に何かあったりしちゃったり……」

「お、脅かさないでくださいよ!」

「なんてな。電話してる南雲さんの様子からして大丈夫っぽいよ」

「そうですか……」

やがて、一通り喜んだ騎士たちは宿に戻るため、この場から解散する。
倒された泥人形の残骸もいつの間にやら消失し、後に残ったのは踏み荒らされた地面のみ。
俺たちの存在が気付かれる事も無く、今回の戦いはこうして幕を閉じるのだった。

「……」

「……」

「……」

「降りれん」

「どうするんですか、これ……」

「え、なにこれ、フォロー無し? 放置プレイ? アニムス! アニムスどこー!?」

しかし終ぞ、魔法使いが迎えに来ることは無かった……。






「SIDE:織彦」

「なんですか唐突に」

「いや、暇なんで精神攻撃を」

「攻撃って、何にです?」

「もしかしたら存在するかもしれない読者に」

空を見上げてそんな事を言い出した俺を、ザンは『何言ってんだこの人』と言いたげに見つめる。
まあ、待ちたまへ。例えば俺たちのいる場所が異世界か漫画の中かという疑問は常に付きまとう話ならば、その可能性の中にssという選択肢が無いとどうして言い切れようか。
だとすれば、今の行動は俺が二次元存在でありながら次元の壁を超越し、三次元存在へと攻撃を仕掛けたという事なのだ。――SIDE形式をな。
まあ特に意味は無いが。

それもこれも全て暇なのが悪い。
放置状態からはや数時間。未だ崖の中腹に突っ立っている俺に出来ることなど何もありはしなかった。
一応助走をつけて駆け上がれば登れない事はないくらいの場所にいるとはいえ、座る事さえ困難なスペースではそんな真似ができる訳もなく。
ロッククライミングするパワーもないし、されど助けを求めようにも買い物は近場で済ませる気だったせいで携帯も持っていない。
俺の人生は泥人形戦など関係無しにまさかの野垂れ死にという衝撃の結末に至る可能性が高まっていた。

太陽が沈み始める。このあたりが旅行地にしろ、夜こんな場所まで人が来るとも思えない。助けを待つのは絶望的だろうか。
海風は少し肌寒かった。風に森がさざめいて、野鳥は鳴き声を増している。バサバサ飛び発つ鳥の姿がひのふのみのよのまあ一杯。掌握領域のおかげで遠くを見るのは得意だが、動体視力はそれほどでも。野鳥の会にはなれそうもなかった。
賑やかになった空に比べ、人気ひとけ所か獣の気配も感じない地面の過疎っぷりと来たらもう。……いや。

「野生動物がうろついてるな」

たまたま目に着いたのは、地上をうろつく黒い毛玉。
泥人形戦終了から、ようやく現れた生命反応である。

「この辺り、猪なんていたんですね」

珍しい物を見たものだ。日が完全に沈んでいたら認識すら出来なかっただろう。
小さな体躯に大きな力も、自分の方に突撃してきたりさえしなければ可愛い物だ。
鼻を鳴らしながらグネグネと歩く姿を眺めると、心が若干癒される。

「平和だ――」

「場所さえまともでしたらねぇ……」

「言うな」

現実は非情である。ああ、なんだか目から汗が。
当然ながらこちらの感傷などあちらには関係がなく、猪の姿は森の中へと消えていく。

「晩飯ゲットーー!!」

「ブヒィーー!!」

「「ええ!?」」

勢いよく飛び出して来た人影が猪を取り押さえた。
何処の蛮族かと思わせる、野性的な不審人物。

「あれは……」

黒シャツ姿の青年。
東雲三日月その人だった。

「なんなの。あいつヒーロー体質かなんかなの?」

それとも俺にも主人公補正ってあるんだろうか。
三日月の人のピンチに駆けつけるそのタイミングの良さには驚愕を禁じ得ない。
まあ実の所、豪勢な食事を前に食べさせてもらえないという拷問から逃げ出して来ただけだったのでそんな格好良い物では無いのだが。

「そんなことよりほら、折角人がいるんですから助けを!」

「あ、そうか」

掌握領域でザンの姿と、ついでに指輪を隠してから大声で呼びかけた。

「すみませーーん!」

「ん?」

さいわい声が届いたらしく、三日月が崖を見上げて視線を彷徨わせた後、こちらを見つける。

「降りられないんですー、助けてくださーい!」

「おーっ、まかせろーーー、……」

即答で快諾したように思えた三日月の声だったが、突然それが尻すぼみに小さくなった。
どうしたのかと思えば、逃げない様に抱えた猪の様子をじっと見ている。
再び俺の方を見て、もう一度猪を見つめる。

「……」

「……」

「お礼に飯奢らせてくださーい!」

「今行くから待ってろーーっ!」

良い笑顔だった。
駆け出す三日月。
放り投げられる猪。
人命ついでに小さな命が一つ、救われたのだ……。

それは兎も角。

こうして三日月に飯を奢ると安請け合いしたは良いが、当然ながら財布の中身は有限である。
生活費を仕送りで賄う学生が小遣いに余裕があるとは言い難く、まして常日頃から全財産持ち歩いて回る程リスキーな過ごし方はしていない。
外食、まして食べ盛りの青少年二人分ともなれば、懐具合も底がつく。
――つまり。

「……天川くん?」

「……どうもー」

「そーちゃん定員一人追加なー」

翌朝。
三日月に連れられてやってきたのは騎士団の元。
合宿が終了してこれから帰ろうとしていた彼らの前に顔を出すと、驚き顔の夕日さんに遭遇することとなった。
あちらもまさかこんな所で会うとは思わなかったのだろう。こっちもである。

飯を奢り料金を支払った後、何処とも知れぬ地で素寒貧の財布を抱え、さてどうやって帰れば良いのかという問題に再び直面した俺は、再び三日月に泣き付く事にした。
状況から考えて一番助けを求め易い相手は夕日だったが、俺視点から夕日の所在を把握する手段は無い事になっているし、三日月に聞こうにも彼と夕日の接点も知らない筈である。そんな状況で夕日に接触するのはいかにも不自然なため、偶然交流を持てた三日月を頼るという手段を取るに至った。
最悪タクシーを使えば帰れなくは無かったが……出費が洒落にならない。生活苦の末に今度は飢え死にフラグが立ってしまう。
そんな訳で、騎士バレしかねない状況には正直頭を抱えたい心境だったが、背に腹は代えられなかった。

「かまわんが……昨日は結局どうしてたんだ?」

「焼肉食ってた! 伊勢海老食えなかったし!」

俺の金で。

「肉か」

「あ、こちら従妹の友達の天川君です」

「どうもー」

色々説明の足りない三日月にかわり騎士団の面々に紹介してくれる夕日さん。
風巻さんに白道さん、雪待、昴、太郎と社交的な所から自己紹介を始める……マンガでの呼称のせいか風巻さんと白道さんは脳内でもさん付けになるな。そして安定しないそーちゃん。

「君も旅行かい?」

「旅行というか拉致というか……」

はたして誘拐を旅行扱いして良い物かどうか。
無理。

「着の身着のまま強制連行の挙句、崖に放置プレイくらいまして」

「「崖っ!?」」

アニムスの説明する訳にもいかないので端的に事実を並べるとこうなる。

「何故そんな事に……」

「苛め……?」

「警察行った方が良いんじゃ……」

深刻なリアクションを返されてしまった。大事にしたかった訳ではないので慌ててフォローを入れる。

「そこまでする程では……よくある事ですし」

「よくあるの!?」

夢の世界には何度も引っ張り込まれているので何も間違ってない。
バレて良いなら『ほら、風巻さんも夕日さんもよくあるじゃないっすかー』とか言いたい所だ。

「それで三日月さんに助けて貰った訳なんですよ」

まあ深く突っ込まれても困るので、そう締める。

「そ、そうか。その、三日月が迷惑かけたりは……?」

「ゆーくんそれ酷くない?」

「全然そんな事無いですよ。若干財布は軽くなりましたけど」

夕日とさみだれに面識こそあれ、だからといってこの説明を信じてくれというのも若干無茶がある気はするが、そこは実際に崖から助け出した三日月がいるので一応納得してもらえた。
三日月さんはヒーローです。

「ところで」

周囲を見渡す。
南雲さん筆頭に大人数名。夕日達若者数名。子供数名。事情を知らない人から見れば共通点も見受けられない構成である。

「何の集まりですか?」

一般人ぶるため、自分の事は棚に上げつつあからさまに不思議な部分には突っ込んでみたりする。

「あ、ええと……地域のボランティア集会みたいなものだよ」

視界の端でギクリと体を強張らせた人がいたりする中、ポーカーフェイスを維持する夕日さん。さすがは魔王の配下。

「さて、ではそろそろバスに乗り込んでくれ」

話の流れがまずい方向に行く前にさり気なく話を断ち切った南雲さんに促され、俺もバスへと乗り込んで行く。

しかし、そうか。交通手段はバスを借りていたのか。
原作読んでる時は現地の活動中心だから気にしてなかったが、よく考えると電車にしろバスにしろ他の客が居る交通機関ではダンスの存在が絶望的に邪魔なんだよな。
意外な所で発見した原作の裏側に驚いたりしつつ、適当な座席へとお邪魔する。

ゆらり、とザンが外を泳ぐ。姿は誰にも見えていない。
隠れていても、車内に入れるにはその図体は大概にデカく、誰かと接触でもしたら目も当てられない。
他の動物達が重力という真っ当な物理法則に縛られる中、一匹だけ浮いているという意味不明現象のお蔭で、外にほっぽり出すのも特に悩まなくて済んだ。
バスが出発するとそれに伴いザンも車体と並走を始める。

道路上を車の速度で遊泳するマグロ……ミサイルか何かか。

そんな恐ろしい光景も、掌握領域で姿を隠しているから見ることが出来ず残念だ。さらに言えばダンスはバスに乗っていて外を走っていないのが残念だ。
もしもザンとダンスが姿丸出しのまま外にいてくれたなら、轟音と共に風を突っ切り道路でデッドヒートするカジキマグロ&馬という絵図らを実現出来たかも知れなかったのに……!!
まあ、幾ら馬の脚が早いと言っても、最高速度を維持したまま走れる距離はたかが知れている。帰りの道のりを延々と走らせるというのも無茶な話か。
出来ない物は仕方がない。カバー裏4巻は諦めよう。

「トランプするけどやる人ー」

「あたしー」

「僕もやろうかな」

にしてもあれだ。親交のないグループの中に混ぜて貰った時のアウェー感ったらないね。
話題に絡み辛かったりするし変に気を使わせると空気おかしくなったりするし。俺の場合自分の正体隠してるから倍率ドン。
騎士団の皆様も部外者の俺がいる分獣の騎士とのやり取りとか泥人形関係の話題とか出し辛いだろうし、とても申し訳ない事をしてしまったかもしれない。

「よーっし、じゃあ俺歌うぜー!」

「おー、みー君やったれー!」

ああ別に気にしてないですね良かったです。深く考える事は無かったか。

いや、だからといってバレる危険のある手段を取った以上、気を回し過ぎて困りはしないと思うのだけれども。普段はその辺頓着せず過ごすんだけどなぁ。
そもそも無事に帰る方法として彼らの世話になる以外の手が取れれば、こんな事で悩む必要は無かったというのに。
前世知識があろうと所詮は金も伝手も無い子供。
出来ることと言えば精々隠れる事ぐらいであり……?

「あ」

隠すなら、わざわざバレ易い騎士団のど真ん中に来なくとも、電車に無賃乗車すれば良かったじゃないかと今更ながら気付いた。
それなら面倒くさい掌握領域の使い方を必要とせず、姿を隠すのもそこまで徹底しなくていい。
人様の後をこそこそ着いていく事は思いついても金銭誤魔化す事は考慮外になってたあたり、案外小市民じゃないかね自分。

「何やってんだろ俺……」

三日月の騒がしい歌を後ろに頭を抱える。
普段はツッコミなり心配なりしてくるザンも外なので反応は無い。
毎回、どっかこっかでうっかりしてる自分を感じたりしつつ。

そして結論はいつも一つ。なるようになれ、と開き直る事にした。

「天川君も歌うかい?」

「え? あ、いや俺は別にそんなアーア゛ー、ウンッ」

「ノリ気だ!?」

学友と遊ぶ予定の一つも無かった夏休み。
結果的に、こうして大勢で旅行した事を考えれば、以外と満喫出来ていたんじゃなかろうか。


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