※注意
なのはさんがぶっ壊れてます
なのなの五月蠅いですが酔った勢いで口調がなのなのになってます
「──だからユーノくん聞いてる!?」
「はいはい、聞いてるよなのは」
ユーノくんのそのいつもの、やれやれ仕方ないなあといった保護者視線的な返事を聞いて私、高町なのはは目の前のお酒を一気に飲み干した。
あのJS事件から×年、いろいろと平穏になって私の仕事も順調。
今日はユーノくんの休みに合わせて私も休みをとって一緒にお酒を飲みに行きました。ちょっと愚痴に付きあって貰おうかなーと。正直今の交友関係だとある種の愚痴をいえるのがユーノくんぐらいしかいないのです。
ここはミッドチルダのとある屋台。おでんと日本酒が飲める場所です。
お酒美味しいの。
最近お酒の量が増えてる気がするの。
それもこれも、ストレスというか……。
「ティアナもスバルも早々といい人見つけて結婚しちゃうし、コブが五個も付いているはやてちゃんもヴェロッサさんと結婚するし……フェイトちゃんはガチだし、どんどん周りが結婚して行き遅れちゃうの!」
「なのは。そんなに慌てることないよ」
ユーノくんはちまちまとお酒を舐めながら、あはは心配症だなあなのは、と笑う。
かく云うユーノくんも未婚なわけです。二×歳で髪の毛を伸ばしてリボン付けているからな気もするの。
「ユーノくんはわかっていないよ……時空管理局の女性局員で二十五歳以上で未婚者は5%以下……AAAランクなんて呼び名をされてるんだよ!」
「結婚の低年齢化とか、職場結婚とか増えてるらしいからね」
ちなみにミッドチルダの法律では結婚の年齢制限が十歳以上となっています。
流石にそんなに低い年齢で結婚する人は少ないけど……。
いつだったか、社会が発展するとモラトリアムの期間が長くなったり、晩婚化するって聞いたけれど。
ミッドチルダは全力で逆走してるの。
「そういえばなのはの地球での友達も結婚したんだっけ」
「アリサちゃんとすずかちゃん……高学歴で勝ち気なアリサちゃんはお金で相手を買ったからともかく、学生時代彼氏を三人もメンタル送りにしてる病み気味のすずかちゃんすら……」
「友達に凄い評価してるねなのは……」
結婚式に出るのが辛かったの。
あと別に本気で言ってるわけじゃないの。
アルコールの酩酊感でつい言いすぎちゃうだけなの。
何か口調もうっかり退行してきてるの。
私は追加で出されたお酒を再び一気した。
ユーノくんがちょっとだけ眉を顰めて、
「なのは、飲み過ぎだよ」
「飲み過ぎじゃねーなの。がんもと昆布巻き追加で」
ユーノくんは一応注意してくれるからありがたい。
フェイトちゃんは私を全肯定してるから次々とお酒を注いで、あわよくば酔い潰して貞操を狙ってくるから困る。
この前もレイジングハートを杖形態で貸してくれって頼まれたから貸したらこっそり杖の柄で──思い出したくない。
「職場での男っ気がないのが問題なの。何故か上司とか部下とか同僚になった男性局員は半年以内に胃痛になって職場を離れるの。最近の男の人は根性がないんじゃないかな。目があっただけでビクビクされるし、一緒に食事でもと誘ったら土下座して『命だけは……!』とか頼まれるし」
「そりゃあ、大変だなあ」
困ったように私の顔を見て苦笑するユーノくん。
まあ、一部の私とちょっといい雰囲気になる可能性が無きにもあらずかな、といった人は【雷刃の襲撃者】と名乗る怪人が次々と襲って重傷を負わせた後に異動されるという事件が起こったの。
心当たりのある、百合の花をレズという名の大空に解き放っている犯人さんにはしっかり『お話』したけど。
そんな事件もあったせいか、余計男が寄り付かなくなったの。
私はフェイトちゃんほどガチじゃないの。
男日照りは簡便なの。
アラサーで独身の美由希お姉ちゃんを見てると他山の石とは思えなくて鬱になってくるの。
「大丈夫だって、独身の男性局員は結構多いんだから、きっとなのはにぴったりの人も見つかるよ」
「安い慰めなの。どうせ今年で二×で教導隊のエリートで【魔王】なんて呼ばれる面倒臭い処女なんて地雷もいいところなんて自分でもわかってるんだよ」
「え、えーと」
ユーノくんは乾いた笑いを浮かべる。
おい、今の笑うところじゃねーなの。
「そ、そうそう、遺跡の発掘のときも、罠だとわかっていても踏まなきゃならない場合があるんだ!」
「ユーノくん、それ全然慰めになってないの──ユーノくんはいい人いないの?」
彼は肩を竦めて、
「なのはと同じくすっかり独り身が慣れてきたよ──いやそういう意味じゃなくて。レイハ起動させないで──なまじ司書長なんて立場だから忙しいやらでそういうこととは無縁さ」
「へえ。前はやてちゃんが喜々とユーノくんのお見合い話を持って行ったって聞いたけど」
その話を聞いた時うっかりレイジングハートを折っちゃったの。主に握力で。
「ん、何度かそんな話もあったけどさ、書庫探索と遺跡巡りが趣味の僕なんて特徴もないし早々相手に気に入られることもないよ」
「そうかな」
「そう思って丁重に断っておいた。相手に無駄な時間を使わせるのは悪いからね」
「ユーノくんはもうちょっと女心を考慮したほうがいいと思うの」
「それもよくわからないから人に嫌われるんだよなあ」
バツが悪そうに頭を掻くユーノくん。
決して顔は悪くないし、一時期激務でやせ細っていた体も人並みになっているし、収入だって無限書庫司書長というはやてちゃんなみの高収入。
モテないわけじゃないんだけどユーノくんのフラグスルー能力が異常なの。
今まで幾度もモーションを掛けてきた女性がいたんだけれどなしのつぶて暖簾に腕押し。
体で迫ってきた相手に「酔っぱらってるの?」「風邪ひくよ」と丁重にもてなしたという伝説もあるの。
草食系というかもう、僧職系男子。或いは絶食系男子なの。【フラグブレイカー】なんて二つ名がこっそりついてる。
私は呆れたように、
「……そんなことだからクロノくんとのカップリング本出されるんだよ」
「うっ……無限書庫にアルフが混ぜててうっかり読書魔法で読んだあれのこと……!?」
「毎年ミッドチルダコミックマーケットで新作が出されてて結構売れてるみたい」
「クロ助はさっさと止めろよそれを!」
「描いてる人がエイミィさんだから止められないんだって」
がっくりと顔を項垂れるユーノくん。ちょっと面白い。
表現の自由は最大限守られているのがミッドチルダのいいところなの。
ユーノくんはコップに半分ほど残っていたお酒を飲み干して、新しいのを注文する。
それに合わせて私も再び一気飲み。追加で日本酒を注いでもらう。
なみなみとコップに揺れる、限りなく透明に近いけどうっすらと色の付いているお酒をぐい、と飲んでだん、とカウンターに乗せた。
「それに気にいらないのが、あのテロリストのがらくた人形どもが幸せな家庭を作っていることなの! 何度住居に向けてスターライトブレイカー発射申請したことかなの!」
「なのは君今凄いこといってるからね。しかもお酒の影響じゃなくて実際そんな申請出される上司が可哀想だよそれ」
「たまには──よしお前の意気込みはわかった! 好きにやれ! って感じな豪快な仕事が欲しいの!」
「豪快な仕事はともかく更生プログラム受けて社会に帰依してるナンバーズをぶっ飛ばすのは仕事じゃないからね」
はぁーはぁーはぁー……!
あ、ユーノくんがちょっと引いてる。
まったく、あのガラクタどものことを考えるとつい感情的になっちゃうの。
こちとらテロリストと結婚した酔狂な準テロリストともども吹き飛ばしてやりたいの。
決して婚活うまくいっていない八つ当たりじゃないの。
「もう! ユーノくんも私がどうやったらいい人に巡り合えるか真剣に考えて欲しいの!」
「話逸らしたねなのは。とりあえずさっきの物騒な思考をどうにかしようよ」
その後も私とユーノくんの小酒宴は続きました。
怒鳴る私。なだめるユーノくん。
ぐでんぐでんになる私。奢るユーノくん。
吐瀉物を電柱に吐き出し口から鼻から酸っぱくなるエースオブエース。ミネラルウォーターを買ってきてくれる司書長。
……
「あうう」
「ど、どんまいなのは」
今私はユーノくんにおんぶされて、近くの彼の家に向かっています。
足にきてます。アルコール。
脳もぐらんぐらんに揺れて駄目そうです。
まさか吐くとは……。
しかもユーノくんの前で。
こんにゃくとか思いっきり形が残っていたの。
元魔法少女の末路とは思えない醜態なの。
しにたい。
あと路上に吐きだした吐瀉物はユーノくんに頼んで(恥ずかしかったけど)魔法で消して貰いました。
どこぞの百合の花をレズという名の大海に浮かべている人に回収されても困るの。
本当にガチだから彼女。
ミネラルウォーターでうがいして、濡らしたハンカチで顔を拭いて。
もう私が意識を保っていられるのも長くないはず。
だから我儘言って「ユーノくんのところで寝るのー」とごねたら以外にすんなりOKされました。
……。
こ、これってフラグなの!
やば、やばいの! 今日の生理周期大丈夫だっけなの!
ああ、違う! 酔ってるから変な考えが浮かんで来るの!
し、しかしユーノくんも奥手というか、これを狙っていたに違いないの。
全然私にラブ的感情を出会って××年間向けなかったのも鬱屈した今日のためなの。
あ、相手はユーノくんかー。
うん、そうだね。私の魔法のお師匠だし、辛い時に支えてくれたし、優しいし。
今まで一度もユーノくんからそういう態度取られてこなかったから諦めてたんだけど。
あ、ユーノくん相手に男探しの相談しちゃったりして傷つけてないかな……。
そんなユーノくんのストレスも、今夜家に連れ込まれてフェレットフェレットされちゃうんだね。
私はお酒の効果もあり少しばかり「ハイッ!」になっているのでした。
「……うふふ、ゆーのくんーゆーのくーんゆーのくーん」
「? なのは、なんか言った? 手足をじたばたさせないでよ。背負いにくいからさ」
「ううん、ゆーのくんの背中あったかいな──って……!?」
くんくん! すんすん!
……!
ユーノくんの服から女の匂いがするの!
私以外の雌スメルを感じるの!
ユーノくんの近くの女といえばアルフぐらいだけどアルフは犬臭いだけなのに! 特に首のあたりが!
私はすっかり混乱しながら、背中に揺られてユーノくんの家に。
「ただいまー」
と独り身のはずなのにそういうと、
「おかえりー♪ ユーノさ……ん……?」
「ああ、なのはが酔い潰れてね、ちょっと休ませようと思ったんだヴィヴィオ」
……。
……?
「ヴぃヴぃお、ゆーのくんの家にいたのぉ?」
「? 週末以外は大抵僕の所に泊まりこんでるって、なのはとフェイトからも許可取ってるってヴィヴィオは言ってたけど」
「ご、ごめんねなのはママ! うっかり言うの忘れてたの!」
「……無限しょこは休むひまもにゃいから家に帰れない……って」
ユーノくんは不思議そうに、
「いや、最近は書庫の仕事や人員も軌道に乗って家に帰れない徹夜の日は週に一日あるかないかぐらいだよ?」
……。
すんすん。
……。
ヴィヴィオから雌の匂いがするの。
家だと【ユーノ司書長】って呼んでるのに、さっき【ユーノさん】って呼んでた時はもう女のそれだったの。
ヴィヴィオは今無限書庫の副司書長として働いてて、昔はユーノパパユーノパパとまるで父娘のようだったから。
てっきり親がダブルマザーだから寂しいのだろう、とか。
教導隊と執務官の仕事で家を開けて寂しい思いをさせるぐらいなら、とか。
あとユーノパパなのはママといわれるのがちょっと嬉しかったから、とかで。
無限書庫のユーノくんのところで働きたいという本人の意思を尊重したんだけれど。
ユーノくんの家。
女もののエプロンがかけてあるの。
歯ブラシが一つのコップに二本いれられてるの。
ヴィヴィオ用の部屋が用意されてベッドまで置かれてるの。
娘が同棲してたの……!
しかも相手は幼馴染のツバメなの……!
ユーノくんの周りの『女』じゃなくて年が十以上も離れた『娘』だったから油断してたの……!
「ゆーのくん!」
「どうしたのなのは」
彼の顔をじっと見る。
教導隊として今まで何人も生徒たちを見てきた眼力で。
ユーノくんの目に浮かぶヴィヴィオ像を読み取るの!
『ヴィヴィオ? いい部下で、大事ななのはの娘の、年の離れた妹みたいな感じかな。生活がだらしないって怒られてから時々家に来てくれてたんだけどいつの間にか住みこむようになって……いやあ、頭が上がらないよ』
よーしよしよし。
このフェレ男は全然我が娘の好意に気づいていないようなの。
気づいていないのに同棲してて新婚生活のようなことをやらされている状況に親ながら戦慄するの。
それよりえへへ、大事ななのはだって。
私についてはどう思っているのかな?
『なのはは大事な幼馴染だよ』
……。
それだけ?
……。
「ユーノさん、なのはママが虚空を見ながらブツブツなにか呟いてるよ」
「うっかり飲み過ぎちゃったみたいなんだ。ヴィヴィオ、お水持ってきて」
「はーい」
落ち着けなの。
状況はイーブン。
むしろヴィヴィオが『幼馴染の娘』という付き合うにはバッドなステータスを持ってる分不利なの。
っていうか娘に先を越されたら立ち直れないダメージを負う気がする。
「大丈夫? なのはママ」
「う……うう」
差し出された水をグイッと飲んで、体内のアルコール分を薄めようとした。
薄めて──。
先手必勝というか。
お酒の勢いで既成事実というか。
フふ、ユーノくんはなんだかんだで流されやすいからここでい……ぱ…………?
「あ──く──」
からだが……しびれて……。
「あれれーなのはママ、もうずいぶん眠そうだよー。今日は私のベッドで寝かせてあげようかー」
と娘の白々しい声が。
口の中にごわごわとした、真水には含まれてないであろう違和感を感じるの。
……薬物がどうやら混じってたっぽいの。
痺れ薬系が。
ユーノくんと半ば同棲までして痺れ薬を用意しているヴィヴィオに驚嘆するものの、声が出せないの!
ユーノくんは何も気づかないようにこちらを覗きこむ。
助けてユーノくん!
「本当だ。じゃあ今日はなのは、ヴィヴィオと一緒に眠るのかな?」
「んー。でも、なのはママ酔っぱらうと寝相悪いから──今日は私、ユーノさんのベッドで寝ようかな♪」
「そう? じゃあ僕はソファーにでも」
「久しぶりに一緒に眠ろうよ、ね? ユーノパパ!」
「ははは」
はははじゃねえの。
このままじゃ、娘の噛ませ犬にされてユーノくんのレイジングハートが覇王に統一されちゃうの。
……。
がりっぶちっ。
「ュ、ユーノくん、私、久しぶりに──十×年ぶりぐらいにユーノくんと一緒に……ごほっ……寝たいな」
「な、なのはー!? 口から血垂れてるよ!?」
「大丈夫なの。舌を噛み切って意識を戻しただけなの」
口の中が鉄臭いの。
催眠系の魔法にかけられた時は舌を噛み切ってでも脱出しろと教導隊では教えてるの。
ユーノくんお得意のデバイス無し魔法で私の舌を治療してくれた。
ヴィヴィオの方向から舌打ちが聞こえた気がしたけれど。
「んー、じゃあなのはは僕のベッドで寝かせよう」
「だ、だめだよユーノさん! なのはママに食べられちゃうよ!?」
「大げさだなあヴィヴィオは」
計画通り! なの。
お子様はホットチョコでも飲んで寝てろなの。
ここからは酒の勢いで一夜の過ちを犯して人生の墓場に足から全力倒地するアダルティーロマンティーなリリカルもマジカルも介さない世界の始まりなの!
……。
……。
なんでこの男はフェレット形態で寝てるんじゃボケなの。
私は恨めしそうに、小学校以来同じベッドで眠るフェレットを眺めて、意識を闇に沈めた。
いつか絶対結婚してやるなの。