がやがや騒いでいると白川とやらが教室に来た。
授業の前のホームルームだ。
「えー。見ての通り行方不明だった北条くんが帰ってきました。彼は少し記憶喪失らしいので手助けしてあげてください。」
ざわざわし出す教室。記憶喪失なんかテレビとか漫画とかじゃなきゃ見れないからな。
「大丈夫なの?」
これはC組幕府の長、ハイオークの言葉である。なんという偽善。当然シカトする。
俺のシカトを聞こえてなかったのかと好意的解釈をしたハイオークは少し憮然とした顔で席についた。
俺は机にふせてぐうぐう寝ているふりをしているので当たり前と言えば当たり前だ。
なぜ寝ているのに周りが見えるのかと言うとそれは魔法のおかげである。
白川とやらはなんとなく納得していないような顔をしてそのままホームルームを始めた。
昼食時までぐーすか寝ている俺が怒られていたらしいこと以外は別にこれと言った問題もなかったのだが、祐介が唐突に話したことが問題となった。
「このクラスの中で一番可愛い子って誰だと思う?」
彼が口火を切った瞬間、約2秒ほど教室が天使が通ったときのように静かになった。
ただ口に出しただけならともかく、その後静かになったのが一大事だった。
なんとクラス中がこちらに耳を向けていたのだ。偶然とはおそろしいものだ。
鈍感なイケメンオークの祐介はそんなことには気付かず、
「俺は谷口さんが一番可愛いと思う。」
とあろうことか浪人であるゴブリンを指し示したのだ。
こいつはバカか。あれか。バカなのか。このままだとゴブリンちゃんがイジメられてしまうぞ。
『テメェ調子乗ってんじゃねぇぞ。』
ってハイオークとかがイジメ始めるだろ。ゴブリン可哀想だろ! ゴブリンは最大でもHPが200しかないんだぞ!
それとも何だ。お前は実は谷口さんに惚れてて
『何やってんだお前ら! 谷口さんをイジメる奴は俺が許さねえぞ!』
なんてかっこよく登場してフラグを立てるつもりなのか。貴様策士か。やるな。
「谷口さんって言うのかあの子。」
この思考時間僅か0.2秒。達人は心の中を顔に出さない。さすがだ。
「そうだ。で、お前は誰が一番可愛いと思うんだ?」
「どれも似たようなもんだろ。」
反射的に答えてしまった俺は激しく後悔した。心の中で思った瞬間に、それはすでに口に出されていた。さすが達人である。
なんか知らんがクラスの女の大半を敵に回してしまったようだ。
「お前……」
平和ボケした日本でこんな殺気が出せるのかと言うほどの凄まじい殺気が俺に襲いかかって来たが俺は達人なので気にしない。言ってしまったものはしょうがないのである。
しばらく男たちは硬直状態にあったが、ちょうど昼休みが終わりとなったので殺気からはやや解放されたようだ。
その後の授業は背中に殺気を受けながら寝ていたが特に害はなかった。
久しぶりの学校だったがぶっちゃけ寝るしかしていないので久しぶりも糞もなかったけど、それなりに楽しかったのでよしとしよう。
全授業が終わり下校時刻になったのでさっさと帰ろうと下駄箱に向かうと漫画に出てくる不良っぽい奴等が俺を待ち構えていた。
「ちょっとツラ貸せや。」
まもののむれがあらわれた!