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No.17147の一覧
[0] 【習作】東方虚無迷子(ゼロの使い魔×東方Project)[萌葱](2010/06/02 22:22)
[1] 東方虚穴界 一話(東方虚無迷子の続き)[萌葱](2010/03/16 23:51)
[2] 東方虚穴界 二話[萌葱](2010/03/17 23:22)
[3] 東方虚穴界 三話[萌葱](2010/03/26 00:59)
[4] 東方虚穴界 四話[萌葱](2010/04/02 01:11)
[5] 東方虚穴界 五話[萌葱](2010/04/04 23:10)
[6] 東方虚穴界 六話[萌葱](2010/04/10 16:59)
[7] 東方虚穴界 七話[萌葱](2010/04/13 22:18)
[8] 東方虚穴界 八話[萌葱](2010/05/10 23:29)
[9] 東方虚穴界 九話[萌葱](2010/05/18 00:35)
[10] 東方虚穴界 十話[萌葱](2010/06/02 22:20)
[11] 東方虚穴界 十一話[萌葱](2010/06/13 00:51)
[12] 東方虚穴界 十二話[萌葱](2010/06/21 01:06)
[13] 東方虚穴界 十三話[萌葱](2010/06/26 19:59)
[14] 東方虚穴界 十四話[萌葱](2010/07/06 01:20)
[15] 東方虚穴界 十五話 前編[萌葱](2013/01/27 05:44)
[16] 東方虚穴界 十六話[萌葱](2010/09/11 19:02)
[17] 東方虚穴界 十七話[萌葱](2010/09/11 19:01)
[18] 東方虚穴界 十八話[萌葱](2010/09/12 21:03)
[19] 東方虚穴界 十九話 [萌葱](2010/10/07 23:56)
[20] 東方虚穴界 二十話 [萌葱](2010/10/18 21:18)
[21] 東方虚穴界 二十一話[萌葱](2013/01/27 03:02)
[23] 外伝 東方黄金美少女[萌葱](2010/09/26 21:19)
[24] 外伝 東方天下一武闘会 プロローグ[萌葱](2010/09/26 21:39)
[25] 外伝 東方天下一武闘会 当日 [萌葱](2011/02/04 01:32)
[26] 東方虚穴界 二十二話(完成)[萌葱](2013/02/19 01:45)
[27] 外伝 東方天下一武闘会 開会前(最新話)[萌葱](2014/07/01 02:23)
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[17147] 東方虚穴界 三話
Name: 萌葱◆02766864 ID:c0f91c93 前を表示する / 次を表示する
Date: 2010/03/26 00:59
「僕と結婚しよう妖夢」

魂魄妖夢は困っていた。
それはそれは、普通の人間よりちょっぴり長い人生の中でも、一位二位を争うほど困っていた。

それが始まったのは起床の時である。
微かに奔る痛みによって、魂魄妖夢は夢の中から揺り戻された。
寝起きのハッキリとしない意識で、これは深酒のための二日酔いだなと思いながら体を起こした妖夢は、
そこがいつもの自室ではないことに気が付き一瞬止まってしまう。

「……ええっと」

ここはどこなのか?
自分が住んでいる白玉楼ではない。
となると、昨日宴会があった博麗神社か?
いや、こんな洋風の部屋はあそこにはない。
洋館となると、紅い吸血鬼の紅魔館ぐらいだろうが、
そうなると何故私がそんなところで寝る羽目になるのだろうか。

「そうだ!」

慌てて何かを探す妖夢。
そして彼女は、ベッド横のサイドテーブルにおいてある楼観剣と白楼剣を見付けて、ホッと息をついた。
立ち上がって、いつも通りに腰に装着する。
やはりこれがないと安心できない、と落ち着きを取り戻した妖夢は、改めて気合いを入れると部屋を出た。
最優先での目的は、ここがどこかを知ること。そして主である幽々子様の居場所だ。

そして、話は冒頭に戻ることになる。

「僕と結婚しよう妖夢」

妖夢の前で自信満々にそう言ったのは、冥界はおろか幻想郷でも早々見ないタイプの少年だった。
育ちが良さが見てとれる品のある顔と、少しばかり小太りな金髪の少年である。
それにしても、意味が分からない。

「……みょん」
「えっ? OKだって言ったのかい僕の妖夢」

自信満々の彼の顔が、非常に不愉快だ。
なにが僕の妖夢だ、非常に不愉快だ。

とは考えているものの、魂魄妖夢はいきなり暴力を振るうような喧嘩っ早い性格ではない。
彼女は、師の教えを思い出していた。
そして、それを実戦した妖夢。

剣伎「桜花閃々」

スペルカード戦ではないため、宣言こそしていない。
しかし、それこそ正に魂魄妖夢の庭師としての伎が生み出した絶伎である。
少年には、彼女が刀を抜いた瞬間を見ることは出来なかった。
その刀身が振るわれた軌道も、自分の横を通り抜ける魂魄妖夢の姿も認識することが出来ない。
彼が知ることが出来たことは、刀を鞘に収める音と――

「キャァァァァァ!!」

自分の服が斬り刻まれていたことだけだった。

「妖怪が鍛えた楼観剣は、服だってなかなか斬れるぞ!!」

少年が女みたいな悲鳴をあげながら、この場を離れていく。
それを軽蔑の目で見ていた妖夢は、彼を追うことはしなかった。
背中を向ける者を斬るほど、彼女は外道ではない。

「詰まらないものを斬ってしまいました」

なんの感慨もなく、そう呟いた妖夢。
そのまま彼女は、少年が走り去った方向の逆に向かって歩いていく。
そちらの方から微かではあるが、ある香りが漂っているのを感じたからだ。

(きっとそこに幽々子様がいる!! 間違いない)

それは食欲を誘う、美味しそうな料理の匂い。
妖夢が自らの主に抱いている認識は……まあその通りなのだった。

そして、ちょうど廊下の角を通るその時、妖夢はある人物とばったり鉢合わせしてしまうことになる。
桃色の髪を見た妖夢は、反射的に知り合いの名前を口走っていた。

「えっとルイズ……の弟?」
「それは、よく分かりませんけど……おはようございます、僕はルイスといいます」



ルイスは、自分の名前が嫌いだった。

彼は周りから、掛け値なしの天才であると認識されている。
自分自身でも、己の才能は他を圧倒していると思っているルイス。
なにしろわずか九歳にして、メイジとして最高峰のスクウェアクラスとなったのだ。
六千年の永い歴史の中でも、類を見ない正に最高級のダイヤモンドのような才能。
それ故に異例の若さで、トリステイン魔法学院への入学が認められているほどである。

しかし、本人はそんな自分が幸せだとは思ってはいない。
彼にはルイズという姉がいた。
『いる』ではなく『いた』である。
彼は生まれてから今まで、一度も姉であるルイズを見たことがなかった。
幼いころのことである。
神隠しにあったがごとく、屋敷から消え去ってしまったのだ。
家族がそれこそすべての力を絞り尽くしても、少女の影すら見付けることは出来なかった。
それから、すぐ身籠もったのがルイスである。
ルイズとルイス。ルイスは幼いころから、自分をそう名付けた両親の思惑が透けて見えていた。

代償品なのだろう。

ルイスは、父や母、姉たちが大好きだった。
愛していた。しかし、同時に怖くもあった。
もし、ひょっこりルイズ姉さんが帰ってきたら?
そんなことを考えるだけで、体がぶるぶると震えてくる。

そして、その恐れは確かなものとして、彼の目の前に突きつけられることになった。

ルイスは、学院の廊下をひとりで歩いていた。
寝起きの頭ががんがんと痛むのを我慢しながら、朝食を取るため食堂まで向かっているルイス。
朝に弱い彼は歩きながら、昨日のサモン・サーヴァントで起こったことについて考える。
目の前に現れた、自分と瓜二つのルイズと名乗る女性は、はたして自分の姉なのだろうか?
本人は否定しているが、自分の第六感は彼女との血のつながりを認めているように感じた。
そんなことを考えながらルイスが歩いていると、廊下の角でばったりとある少女と鉢合わせした。
それは、泥酔状態で現れ、とんでもないことを宣言して、すぐに酔い潰れてしまった少女である。

「あ!」
「えっとルイズ……の弟?」

やはり、あのルイズは自分の姉なのか?
そう思いながらも、挨拶を忘れないルイスは礼儀正しい少年なのだろう。

「それは、よく分かりませんけど……おはようございます、僕はルイスといいます」

銀髪の少女は、ルイスの真っ直ぐな声の挨拶を聞くと、挨拶をしていない自分を恥じたようである。
わずかに頬を紅く染めながらも、少女が挨拶を返す。

「失礼した。私の名前は魂魄妖夢。白玉楼の庭師です」

彼女がした背筋の伸びた礼を見たルイスも、つられて頭を下げる。
それにしても、とルイスは目を凝らしてそれを見た。
妖夢の後ろに浮いている、白いあれは何なのだろうか?

「ここは一体どこなのですか?」

疑り深そうな目をしながら、妖夢はそう聞いてみた。
師匠の教え、『真実は斬って知るもの』と教えられてはいるが、こんな子供を斬るのは忍びない妖夢。

「ここはトリステイン魔法学院ですが……」

そう答えて、さらに昨日の経緯について説明しようとするルイス。
しかし、どう説明すればいいのだろう、と考えて彼は頭を抱えてしまう。
はたして、自分が説明して彼女が納得してくれるのか?
……いや、自分が悩む必要などないのだ。
説明すべきは、同郷の彼女たちの責任である事に、ルイスは気が付いた。

「ええっと、ちょっとついてきてもらってもいいですか?
僕が説明するよりも、あなたと一緒に来た人達が話した方が、納得しやすいと思いますし」
「……分かりました」

ずいぶん大人びているなぁ、などとルイスのことを思いながらも、妖夢は気に掛かったことを聞いてみる。

「一緒に来たとはどういう意味ですか?」
「それも含めて、説明してくれると思います」

ペコペコと貴族の誇りも関係なく、頭を下げるルイス。

(……まあ悪い感じはしないか)

そう感じた妖夢は、素直に彼についていくことにした。



「ここは……食堂ですね」

妖夢の目の前には、大広間が広がっていて、三台の長いテーブルが置かれているのが見えている。
百人は優に座れるだろうそこには、見た目は自分と同い年ぐらいの少年少女が座っていた。

「ええそうです、ここがアルヴィーズの食堂です……何かおかしいですね?」

いつもなら、各々がそれぞれ仲の良い者と話したりして時間を潰しているのだが、
今日に限っては、何故かある方向をみんながじっと見ているのだ。

(ああ、多分彼女のお仲間だな)

そう思いつつ、ルイスもその方向を覗いてみて、自分の予想は半分だけ当たっていることを知った。
そのふたりを中心に、そこだけがポツリと空白の空間が生まれていた。
何か危険物がそこにはあり、生徒達はそれに恐怖するが故に近づけないような感じを受けるルイス。

そのふたりの内ひとりは、ルイスも知っている人物? である。
いつの間にか最後に現れてあんな事をしでかした、二本の大きな角の生えている少女。

伊吹萃香――自らを最強の鬼であると言い放った異形。

そんな彼女が、ある人物と酒を酌み交わしていた。
あれはいったい誰なのだろうか?
ルイスは、その青い髪の男性を学院で見たことがなかった。
髪の色と同じ青い髭を生やしていて、同性でも思わず目を引く美貌。
そしてなにより、その言い表せない威圧感によって、彼がただ者ではないことを直感させる。
年齢は、三十代前半だろうか?
もっと年上かもしれないし、二十代と言っても通じるぐらいの逞しい肉体の持ち主である。

そんな彼の持っているコップに、伊吹萃香が酒を注いでいる。
それをグイッと飲み込んだ男は、かぁ~~、と心の底から気持ちよさそうに息を吐いた。

不思議がっているルイスではあるが、その隣の妖夢は、ようやく見付けた知り合いに早く話を聞きたいらしい。
その青髪の男が何者だろうとお構いなしに、ずんずんと萃香の所まで進んでいく。
仕方なしに、ルイスも妖夢の後ろについていった。

「伊吹萃香! 説明して下さい。ここは一体どこなんですか!!」
「おー妖夢じゃん。ようやく起きたのかい。
まったく、もうちょっと酒に強くならなきゃねぇ。今のままだと、あの亡霊の従者は務まらないよ」

酒臭い息を撒き散らしながら、妖夢に話しかけた萃香。
周りにいる者達が、その匂いに顔を顰めている中、妖夢はどんどんと彼女たちの元に近づいていく。
そんな妖夢を、あの青髪の男が興味深げに観察している。

「早く説明して下さい!! お嬢様、幽々子様はどこにいるんですか!?」
「ああ、あいつはこっちには来てないね。
って別にお前が心配する必要もないだろ。だって幽々子の方が強いんだからさ」

ますます声を張り上げる妖夢に、冷静に切り返す萃香。
どちらが酒を飲んでいるのか、分からなくなる光景。
萃香の言うことはその通りなのだが、やはり妖夢としては、それでも己の役割を全うしなければならないと思っていた。

「ちょっと落ち着いて下さい妖夢さん」

ルイスは、なんで自分ばかり外れくじを引かされるんだ、と思いながらも妖夢を止めに入ることにした。
周りの生徒達は、最後まで静観の構えなのは想像に難くない。青髪の男もニヤニヤふたりを見ているだけ。
そのルイスを見た萃香が、親しげに右手を挙げた。

「やっほールイス。おはようさん」
「おはようございます伊吹さん」
「いやだから、とっととここがどこだか説明して下さい!!」

その時、あの青髪の男の視線が、妖夢からルイスへ向き直っていることに、ルイス本人が気が付いた。

「……あのう、一体どなたですか?」

恐る恐る、そう聞いたルイス。
男は、その気味の悪い笑みを浮かべたまま口を開いた。

「ジョゼフだ。そういうお主は、ラ・ヴァリエールのルイスだろう?
あの我が弟にして麒麟児と呼ばれた、シャルルを超えるという真の天才。
その名声、ガリアまで轟いているぞ」

その言葉だけで、ルイスには彼の正体が分かってしまった。

ジョゼフという名前。

ガリアという国名。

弟の名が、麒麟児と呼ばれたというシャルル。

十中八九間違いない。
すぐにルイスは膝をついて、頭を垂れた。

「あ、あなたは、ガリア国王であらせられますか?」
「王などくだらん名称ではあるが、それを否定は出来ないなまったく」

つまらなそうに肯定したジョゼフ。

「何故この様なところへ?」
「だから言っただろう。王など、この世で一番くだらない仕事だとな。
暇で暇でしょうがないから、ぶらりと旅をしていたところだ。
……それで、こんなうまい酒が飲めたのだ。まったく人生は面白いな」

萃香に向かってコップを掲げたジョゼフ。
嬉しそうに萃香も、持っている瓢箪を持ち上げる。
萃香に詰め寄っている妖夢は、無視されるだけだった。
くじけないぞ、くじけないぞ、と呟いている妖夢。
そんな彼女をみんな無視しつつ、ジョゼフが、ルイスに顔を上げるようにと口を開いた。

「ふむ、なるほどな……」

ルイスの顔を覗き込んだジョゼフ。
そして彼は、自分にしか聞こえない声で、何かを呟いた。

「あのう? 何か仰いましたか?」
「いや、なんでもない」

そんな時だった。

「あれ、妖夢起きたんだ?」

いきなり自分の名前を呼ばれた妖夢は、その声の方へ顔を向けてみる。
するとそこには、馴染みのある顔がいくつか並んでいた。

「ああ! ルイズに魔理沙、霊夢と永遠亭の薬師と……紅魔館の吸血鬼まで!」

ルイスがそちらに顔を向けてみれば、確かに自分が召喚したことになっている彼女たちである
ルイズ達は、妖夢と萃香におはようと朝の挨拶をすると、萃香は陽気に、妖夢は戸惑いながらも、挨拶を返した。
これでようやく説明してくれると、喜び勇んだ妖夢。

「あ、あのう、一体ここはどこなんですか? 今の状況はなんなんですか?」
「ああそれはね……ってなんなのよあんた?」

ところがどっこい。ルイズが説明しようとした矢先、この場にいるただひとりの男、ジョゼフが奇妙な行動をした。
ルイズに近寄って、じっくりと彼女の顔を覗き込んだのだ。
眉をひそめて、不快感を隠そうともしないルイズ。
それを見ていたルイスは、それ王様だからと口に出そうとしたが、そんなことが出来る雰囲気ではないことに気が付いた。

「いやいや、運命というのはまったく如何ともし難いものなのだな。
結局は、決まりきった流れに沿うことになるものなのか」

それは、人生に疲れた老人の嘆きのようだった。





博麗神社、その境内は正に台風の後というべき惨状だった。
いつもなら、それぞれの組織が後かたづけをするのだが、
今回ばかりは異世界騒動の所為か、空いた一升瓶などのゴミが捨て置かれていた。
それを眺めているのは、神社の軒下に腰掛けながら杯を傾けている美女ふたり。

ひとりは、金髪のウェーブの掛かった長髪が眩しい女性。
西洋風の豪華な服を華麗に着こなす美女である。

もうひとりもまた、飛びつきたくなるほどの美女である。
もっとも、後ろに浮いている人魂を無視すればの話であるが。
最初の女性と違い、日本の民族衣装である着物を優雅に身に付けている。

「ねぇ幽々子、どうして妖夢にあんな事を吹き込んだの?」
「あら、紫にも分からないことがあったのね」

西洋風美女、八雲紫が和風美女、西行寺幽々子に話しかけた。

「ふふ、幽々子の考えていることは分かるわよ。
あの子の成長を願っているんでしょ」
「まあね。どうにも、剣士としては合格点を上げられるにしても、
庭師としては、先代の影を踏むことすら、いまだに出来てないのよね。
庭園は、周りとは独立した空間であるのと同時に、その周りの世界とも調和が取られてなければならない。
それを理解するのに、妖夢はまだまだ経験が圧倒的に足りないのよ」
「ただ木々を小綺麗に剪定していれば、辿り着けるような極致にはない……というわけね。
でもね幽々子、それを理解しているあなたの言った通りにやらせればいいんじゃないの?
あなたが頭脳、妖夢は手足。その関係があなた達にとって一番だと思ったわたしは、間違っていたかしら?」

持っていた扇を開いて、幽々子は自らの口元をそれで隠した。

「それじゃあ詰まらないじゃない。
すでに頭の中にある光景を、実際に見せられてもね」

なるほど、と納得のいった顔をする紫。

「こちらとしても、都合がよかったわよ幽々子。
あのことは、ちゃんと伝えてあるのよね」
「ふふ、口で言っても憶えてないだろうから、一筆書いて懐に入れておいたわよ……あらこの気配?」

その時、ふたりは揃って、神社から幻想郷に続いている階段の方を向いた。
誰かが、こちらへ登ってくるのを感じたのだ。

「紫様ぁ~~」

ひょっこりと顔を出したのは、八雲紫の式である八雲藍だった。
自慢の九本の尻尾を揺らしながら、慌てて自分の主に駆け寄る藍。

「どうしたのよ藍? そんなに慌てて」
「ハァハァハァハァ」

息を切らしながらも、藍は自分が上がってきた階段を指差した。
そちらを見たふたりは、一瞬ではあるが動きが固まってしまう。

そこにいたのは、この幻想郷で出会う可能性がある人物の中でも、
もっともふたりが苦手とする人だった。

「今日は、少し長くなりそうですね八雲紫」

四季映姫・ヤマザナドゥ。
死者を裁く神。その中でも、幻想郷を管轄とする閻魔がそこにいた。



「きょ、今日はもう帰るわね紫。
冥界の管理もしなくちゃいけないから」

西行寺幽々子が、慌てて自分の屋敷まで飛んでいく。
八雲紫は、そんな彼女の行動を止めようとはしない。
ただ黙って、映姫を見つめているだけである。

「もうそろそろ、一度お話をしたいと思っていたけど、今日の所はいいでしょう」

映姫も、用があるのは紫だけなのか、西行寺幽々子が逃げるように去ったことについては、特に拘らなかった。

「藍……また厄介なお方を連れてきたわね」
「申し訳ございません紫様」

そんなことを言っている無礼な主従を無視して、映姫が先ほどまで西行寺幽々子が座っていた席に着く。

「ささ、四季様」

八雲紫がどこからか杯を取りだして、琥珀色の液体を注いで映姫に手渡した。
それを見た映姫は怪訝な顔をした。

「洋酒ですか?」
「ブランデーですわ」

スッと静かにそれを一口含んだ映姫は、微かにではあるが微笑んだ。
どうやらブランデーを、お気に召したようである。

「さて、今回の異世界異変ですが……」

そう話を切り出した映姫。
しかし、それを八雲紫が遮った。

「ハルケギニアですわ映姫様……どうやら、気が付いているのですね」

それを聞いて、深い溜息をついた映姫。

「ここ最近、閻魔達の中でもっとも多く話題に出るのが、その世界に関してです。
……八雲紫よ。今回ゲートをルイズの前に出現させたのは、あなたの仕業ですね?」

八雲紫は、それに答えはしなかった。
ただ微笑むだけである。

「あの……一体どのようなお話なんですか?」

話しについていけない藍が、恐る恐るふたりに尋ねた。

「……そうねぇ藍、ハルケギニアって聞いて、何か思い出すことはない?」

自らの式を試すかのような、八雲紫の言葉。
ややしばらく、主には及ばないまでも非常に優秀な自分の頭脳を働かせた藍は、ようやくある言葉を思い出した。

「少し違いますが……ハルキゲニアという言葉がありますね」

それを聞いても八雲紫は、微動だにせずに微笑を浮かべているだけ。

「違いますか……」

肩を落としてそう呟いた藍。
しかし、彼女は八雲紫の底意地の悪さを忘れていた。

「ふふ、正解よ藍」

思わず、すてんと転びそうになった藍。

「っとと、それでよかったんですか八雲様」
「それ以外になにがあるというのですか?
それでは藍。ハルキゲニアについて説明しなさい」
「はぁ……ハルキゲニアは、約五億年前に生息していた生物ですね。
有爪動物門に属しているとされていて、仲間としてはカギムシなどが今でも生息しています」
「その言葉の意味は?」
「確かラテン語で……まぼろしでしたか?」

その瞬間、パン! と両手を胸の前で叩いた八雲紫。

「まったく、恐るべきと評するべきね。
脱帽するぐらい巧妙な名前だと思わない藍?」

なにがですか、としか言えない藍は、先ほどから黙っている映姫を盗み見てみる。

「!」

藍は、慌てて目線を元に戻した。
怒っていた。
四季映姫は、非常に怖いことで有名であるが、それでも私情を出すことは絶対にないということも知れ渡っている。
そんな彼女が表に出るほど怒っている所を、藍は今日初めて目撃したのだ。

「名は体を表わす……それはよく知っているわね?」

それは確かにある。
言葉とは、その単語ひとつひとつに魂が宿る。
日本に古来から伝わる、言霊という古くさい概念を持ちだすまでもなく、
十分に日本にすむ者なら理解できる概念だろう。

「まぼろしという名を付けられた世界。
それは、世界そのものが幻想になるという事。
ここが幻想郷と名付けられたのと、まったく同じ意味を持つ」
「それでは、何故少し言葉を換えたのですか……ってなるほど!
ハルキゲニアはすでに滅んでいる!!」

自分で言いながらも、自己解決している自分の式を見て、八雲紫は苦笑いを浮かべながらも藍の話を補強する。

「そうよ。ハルキゲニアは、五億年前という真に幻想の時代を生きてきた生物。
しかし、それはすでに滅んでいるため、ハルキゲニアという名前を付けた世界もまた、滅びの道を辿るでしょうね。
それでも、その永い永い時の積み重ねがもたらす、幻想という概念がほしかったのでしょう、多分。
まったく、誰の入れ知恵なのかしらね……」

そこまで八雲紫が語ると、突然、今まで沈黙を守ってきた映姫が口を開いた。

「そこであなたは、その世界を破壊しようとしているのですね」
「は、破壊!?」

その映姫の物騒な言葉に驚いた藍は、慌てて八雲紫を覗いた。

「それは本当なんですか紫様?」
「幻想の世界は共存できない。
互いが二つの世界を認識してしまったら、どちらか片方は現実に堕ちていくのよ藍。
結局比べあうことでしか、己の立場は認識できないのだからね……」

そう言って、一度口を閉じた八雲紫。
少しばかり考えた後、彼女の話が再開する。

「例えば弾幕ごっこの時、逃げ場がないほどの弾幕に囲まれた場合、どうするのが最善だと思う?」
「それは……ボムですね。褒められた手段ではないにしろ、認められてはいますから」
「そう……美しさを重視する弾幕ごっこでは、悪手ではあるけど被弾するよりはマシよね」

その言葉が意味することに、藍は気付けない。
気が付いたのは映姫である。

「つまりあなたは、あの子を爆弾として……」

八雲紫は、その映姫の問い質すかのような言葉を聞いても、相も変わらず微笑んでいるのだった。


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