「どういうこと?確かにわたしがいるのは珍しいだろうけどそんないちゃいけないみたいな言い方は無いと思うんだけど?」
あぁ、確かにいたらいけないわけじゃない。だがいるべきでもないだろう?
「酷い言い方するわね。わたしがここにいるのは涼宮さんに呼ばれたからなのに」
と本当に落ち込んだように陸奥が言う。何故だかまた吐き気が出てきた。
ハルヒが呼んだだと……どうして…このSOS団のもとへどんな理由があってこいつを呼んだんだ…
「キョン君、顔色悪いよ。大丈夫?」
朝比奈さんがお茶をテーブルに置きながら心配そうに言った。
「だ、大丈夫ですよ。確かに調子はよくありませんけど、大したことじゃありません」
すると今度は陸奥のほうも心配そうに話しかけてくる。
「保健室ヘ行ったほうがいいんじゃない?風邪の引きはじめなんじゃないかしら」
本当にどこまで行っても朝倉みたいな発言をするやつだ。イスに座りお茶を飲み心を落ち着かせる努力をする。
朝比奈さんがいれてくれた至高のお茶だというのに味がわからない。なんともったいない事をしているんだ、俺は。
朝比奈さんのお茶を味わうことなく飲むなんて暴挙を、俺がするとは思いもしなかった。
しかしここまで俺が慌てているにも関わらず長門は変わらず本を読んでいる。
いや、こっちを全く気にしていないわけではないらしい事を長門の表情鑑定人を自負している俺には理解できるがそれでも特に何かする様子はない。
やはり俺の陸奥に対する不安や心配は杞憂なのだろうか?長門が反応しないというのはそういうことなのだろうか?
「遅くなって申し訳ありません」
朝比奈さんと陸奥の心配そうな視線を浴びながら俺がどうしようか悩んでいるとそんな事を言いながら古泉が入ってきた。
なんてことだ。今の俺には古泉ですら救いの神に見えるね。ひとまず俺から注目は外れ古泉に向くはずだ。
「あら…あなたもSOS団の人なのかな?初めまして陸奥京子よ」
「初めまして。お噂はかねがね。古泉一樹と申します」
二人は軽い自己紹介をしているようだ。さて、この間に考えをまとめなくては…
つい先ほどので俺がどんなタイミングで嫌悪感が増すのかはなんとなくわかった。
陸奥を見るだけならそこまで問題ないのだ。この二週間の間、実際にそうだった。
しかしこいつが話しているのを聞くのが良くない。俺と話すなんて事になれば吐き気のレベルに達するようだ。
まあ陸奥の奴も今日はハルヒに呼ばれここにいるが、逆に言えば今日この瞬間を我慢することが出来れば、
またただのクラスメイトとして会話もない日々が送れるはずだ。今日一日の辛抱だ。
陸奥や古泉、それに朝比奈さんの三人が他愛もない話しをしてるうちに俺はここまで考えをまとめることができた。
心もかなり落ち着きを見せている。ようやく朝比奈茶を味わうことができそうだ。
「みんな!きちんと集まってる!?」
どうやら今日の俺はゆっくり朝比奈さんのお茶を飲む事を禁止されているようだ。
全人類をたった12パターンに分けて予言するというとんでもなく荒唐無稽な占いを朝のニュースで確認する習慣はないのだが
もしも俺が今日の朝にそれをしていたらきっと俺の星座は12位だっただろう。
例によってドアが壊れるんじゃないかという勢いで部室に入ってきたハルヒ。
それにしてもこいつの中にドアは優しくあけるという行動はインプットされていないのだろうか?
一体どこの誰だ?ハルヒのOS部分をプログラミングしたのは。俺はそいつにもう少しまともな奴を作れなかったのかと問いたい。
「こんにちは、涼宮さん。それで単刀直入で悪いんだけど、私がここに呼ばれた理由教えてくれる?」
ナイスだぞ陸奥!これで用事が済めばあっさりとお前は帰宅し、晴れて俺はいつも通りのお前のいない生活に戻れる。
それにすぐに切り出してきたあたり陸奥もこの謎空間にいつまでもいるのは嫌だったのだろう。
あいつはそんな雰囲気を毛ほども出していないしむしろ楽しんでいるようにすら見えるがきっとそれは俺の勘違いのはずだ。
頼むからそうであってくれ。
陸奥のもっともな質問に対してハルヒは、
「えっ?SOS団に入ってもらうために決まってるじゃない」
なんてとんでもないことを言いやがった。
SOS団に…陸奥を……どういう意味だ?
「ハルヒ…どういうつもりだ、それは?」
ハルヒの突然の物言いに俺が慌てるのも仕方がないだろう。大声を出さなかっただけ褒められてもいいぐらいだ。
今俺が抱えている唯一にして最大の懸案事項をわざわざSOS団に入団させるなんて俺からしてみれば愚の骨頂だ。
しかしこの俺のセリフは結果から言えば間違った選択だったのだろう。なぜなら、
「どういうつもりって、あんたが言ったんじゃない。
『変化があってもいい』とか『俺の気持ちを共有できるやつ』とか言ってたのあんたでしょ?
陸奥さんはあんたと同じ普通で平均的でごく一般的でありきたりな高校生よ!」
今回の陸奥入団をハルヒに決めさせたのはどうやら俺の発言だったようだからだ。
あの時の古泉との意味もない雑談がこんなところまで尾を引くことになるなんて……
こう言われてしまえば、実際にそういう類いの発言をしたことがある俺としてはもう否定のしようもない。
しかし、なんて失礼な奴だ。他人に対して『普通で平均的でごく一般的でありきたりな』なんて言葉使うか?
どう聞いても褒め言葉ではないだろう。
「まあ、陸奥を呼んだ理由とそれに俺の発言が絡んでるのはわかったが。
ちょっとお前失礼じゃないか?俺はともかく、陸奥に対してだ」
俺がそういうとハルヒはムッと少しイラついたような顔をした。
どうやら俺が口ごたえしたのが気に食わないらしい。しかし当の本人である陸奥はこんなことを言う。
「キョン君、わたしは別に構わないわよ。わたしも自分がありきたりな高校生ってことは知ってるし、それをある程度誇りもしてるからね」
これを聞いたハルヒは今度は打って変わって俺に意地悪い笑みを浮かべている。フォローに入ったのに俺がアウェイ状態ってどういう拷問だ?
しかし、ありきたりであることを誇りにする…ね。
確かに俺なんかはこのSOS団では普通であることがアイデンティティみたくなってるが普通の人間はそんなこと考えるものなのだろうか。
「まぁ本人が構わないならその件は別にいいが。まだこいつが入るかどうかは決まっていないだろう?」
「入るに決まってるじゃない!私が決めたんだから決定事項よ!!」
ハルヒがまた無茶を言いやがる。まったくこの一年で少しは成長したかと思ったがこいつはそこまで変わっちゃいないのかもしれん。
そんなハルヒを無視して俺は陸奥に声をかける。
「陸奥。お前はどうするんだ?俺はお前が入るかどうか決めるべきだと思うんだが」
はっきり言っておこう。俺は今こいつがNOと言ってくれる事を心の底から望んでいる。
ハルヒはさっきあんなことを言っていたが、多分こいつが断ればハルヒのほうは頑張ればなんとかなるだろう。
そんな希望的観測をしてみたものの最近の流れから行くとおそらくは……
「うーん。そうね…いいんじゃないかしら。楽しそうだし、私も入団させてもらうわ」
まあこうなるだろうな。そうだと思ったよ。
ハルヒは他の三人に確認をとっているが、どうせ反対意見は出ないだろう。
古泉は偉大なるイエスマンだし、朝比奈さんは俺が来るまでにどうやらある程度仲良くなっているようだし、長門から「そう」か「いい」以外の発言が出るとも思えん。
こうして転校生の陸奥京子は晴れて変人たちの巣窟、SOS団に入団することとなった。あえて言わせてもらおう……どうしてこうなった?
後書きのようなもの
ちょっと今回は短めだったのでこんなものをつけて誤魔化してみる。
軽いノリで出した作品なのだがPVが現時点で1450
思った以上に見てくれた人がいてちょっと驚きです
まあもうすでに見なくなってるかもしれんが
志翼さん感想ありがとうございます
どうにか完結できるように続きを頑張って書きたいと思います