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No.16787の一覧
[0]  うたわれぬもの  【うたわれるものSS 憑依オリ主記憶喪失】[内海](2020/11/08 21:21)
[1] うたわれぬもの  建国編  1  少年[内海](2020/05/02 22:54)
[2] うたわれぬもの  建国編  2  覚醒[内海](2020/05/16 02:17)
[3] うたわれぬもの  建国編  3  商人[内海](2020/05/02 23:07)
[4] うたわれぬもの  建国編  4  告知[内海](2020/05/02 23:15)
[5] うたわれぬもの  建国編  5  傷跡[内海](2020/05/02 23:19)
[6] うたわれぬもの  建国編  6  授名[内海](2020/05/02 23:25)
[7] うたわれぬもの  建国編  7  武人[内海](2020/05/02 23:56)
[8] うたわれぬもの  建国編  8  出陣[内海](2020/05/16 02:26)
[9] うたわれぬもの  建国編  9  質疑[内海](2020/05/16 02:36)
[10] うたわれぬもの  建国編  10  青年[内海](2020/05/16 02:42)
[11] うたわれぬもの  建国編  11  献策[内海](2020/05/16 02:49)
[12] うたわれぬもの  建国編  12  推戴[内海](2020/05/16 02:59)
[13] うたわれぬもの  建国編  13  少女[内海](2020/05/16 03:12)
[14] うたわれぬもの  建国編  14  夜行[内海](2020/11/08 21:11)
[15] うたわれぬもの  建国編  15  戦鼓[内海](2020/11/08 21:13)
[16] うたわれぬもの  建国編  16  対峙[内海](2010/11/03 02:32)
[17] うたわれぬもの  建国編  17  覚悟[内海](2010/11/14 18:35)
[18] うたわれぬもの  建国編  18  決着[内海](2011/01/12 23:55)
[19] うたわれぬもの  建国編  19  凱旋[内海](2011/01/21 23:46)
[20] うたわれぬもの  建国編  20  夜曲[内海](2011/01/30 20:48)
[21] うたわれぬもの  建国編  21  宣旨[内海](2011/02/27 23:46)
[22] うたわれぬもの  建国編  22  運命[内海](2011/03/28 03:10)
[23] うたわれぬもの  建国編  23  歴史[内海](2011/05/12 01:51)
[24] うたわれぬもの  建国編  24  秘密[内海](2011/09/19 22:55)
[25] うたわれぬもの  建国編  25  真実[内海](2011/12/24 12:10)
[26] うたわれぬもの  建国編  26  悪夢[内海](2012/01/06 21:53)
[27] うたわれぬもの  建国編  27  決意[内海](2020/05/16 03:31)
[28] うたわれぬもの  建国編  28  由来[内海](2020/05/16 03:31)
[29] うたわれぬもの  建国編  29  密命[内海](2020/05/02 23:36)
[30] うたわれぬもの  建国編  30  元服[内海](2020/05/02 23:31)
[31] うたわれぬもの  建国編  31  思惑[内海](2020/05/16 03:25)
[32] 用語集  資料集[内海](2010/02/25 01:46)
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[16787] うたわれぬもの  建国編  4  告知
Name: 内海◆2fc73df3 ID:6e1a9f17 前を表示する / 次を表示する
Date: 2020/05/02 23:15
 目が覚めたら、あたりは真っ暗だった。
 
「……寝てばっかだな、俺」

 つぶやいておおきく伸びをする。

 おお。食事のおかげか、体にずいぶんと力が戻っているのを実感した。
 布団に横になっているのが苦痛というほど元気なわけじゃないけど、少なくとも精神的な活力はかなりの程度回復したと思う。
 今だから思うけど、最初に目が覚めた時目の前がぐるぐる回ったのは、記憶のことで混乱したってのももちろんあるだろうけど、それ以上に体力的に限界だったんじゃないのかなぁ。
 具合の悪い時には考え事してもいいこと無いってノノイが言ってたけど、本当にそうだな。

 寝床の上で半身を起こしてそんなことを考えていると、だんだんと目が闇に慣れてきた。
 窓の向こうには星明かりの夜空があり、開け放たれた廊下側の入口からは、通路の明かりが差し込んできている。

 ぶるっ、と体が震えた。
 しかし寒いわけじゃない。

 この感覚は……

「トイレ――おっと、厠って言うんだっけか」

 ズバリ尿意である。
 誤解を招きかねない表現をするなら腹ン中がパンパンだぜ……である。
 膀胱も下腹の内部にあるので、嘘にはならんだろう。
 まああっちは事後で、こっちは今からなわけだが。

「ノノイは……いないな。ま、いっか」

 小便ごときで人を呼ぶのも気が引けるし、ノノイとかエルルゥみたいな女の子に小便の付き添いを頼むのも恥ずかしい。俺は自分で厠に行くことにした。
 厠がどこにあるか知らないけど、歩いてたら分かるだろう。人に会ったら聞けばいいし。
 
 ……とはいえ、気を失ってる間に治療のために服とか脱がされて全身くまなくじっくり見つめられてるだろうから、そんな恥じらい向こうにとっちゃ今更なんだろうけどね……。
 しかしそれとこれは別だ! ちょうど良い機会だから、この体での我が愛棒の具合もしっかり確認してみるとしよう。

 そんなアホなことを考えつつ、俺は寝床から勢いよく立ち上がり――

 ドタッ

 ――尻餅をついた。

「あ、あれ? バランスが……あいてて」

 コケた衝撃が背中の傷に響いて痛みが走る。なんか乾いて固まったのがパリッと裂けた感触もするが気にしないことにする。それよりも今はトイレだ。
 長く寝てたせいで足がなまってしまってるらしい。俺は膝立ちになり、手を床に付けて片足づつ立ち上がることにした。

「せーの……よいしょ! ――っとと。おお、なんとか立てたか」

 うーん。それでもなんだか足下がおぼつかない。
 なんていうか足がしゃんと伸びてない感じというか、力が入らないというか……フラフラする。
 たかだか四日寝たきりになっただけでここまで弱るもんなのか。

「まあ、これも今考えてもしょうがないわな。今はともかく、トイレ、トイレ、っと」

 どうにもふらつくので、壁伝いに行くことにした。
 立ち方といい歩き方といい、なんとも老人か病人のような有様だが、考えてみると今の俺は前者はともかく後者ではあるのだからしょうがない。
 寝床から壁へゆっくり歩き出して数歩歩いた時、なにか堅い物がが俺のつま先に当たった。

「うおっ……とととと!」

 たったそれだけで俺の体は再びバランスを失い、慌てて踏み出した足の裏に床とは違う感触が走って、
それに驚いた俺はその足を反射的に上げてしまい……

 ――ドタッ!
 ガン! ガラン、ガラン……!

 暗い部屋の中に思いがけないほど大きな音が響いた。
 再び派手に尻餅をついてひっくり返った格好のまま音のしたほうを見ると、窓の外の明かりが反射してそこだけ丸く切り取られたように光っている。

「あ、そうか。これノノイがさっき持ってきてくれた鏡か――あいててて!」

 あとでゆっくり見なよ、と言って寝床の傍らに置いていってくれていた金属板の鏡のことをすっ
かり忘れていた。
 転んだ拍子にけっ飛ばしてしまって壁にぶつかったようだけど、凹んだり歪んだりしてないかな……。
 この世界の価値基準ってのがまだよく分からないけど、古代の日本だと結構な貴重品だったはず。
 まあエルルゥの家でハクオロに似たような鏡を使わせているところからすればそれほど稀少品というわけでもなさそうだが、トゥスクルさんは村長だし有名な薬師だから、そういう貴重品が家にあっただけ、という可能性もあるか。

 それはともかく、背中が痛い。反射的に手をついたのがいけなかったのか、左の肩甲骨あたりがじんじん痛くなってきた。
 あー、こりゃ傷口開いちまったなー、なんてことを考えつつ壁際へ手の力で移動してもう一度立ち上がろうとしているところに

「――ちょっと、なにしてんだい!」

 ノノイがやって来てしまった。
 まあこの静かな夜中にあんだけ大きな音がすれば様子も見に来るか。
 トイレぐらい一人で行きたかったんだけどな。

「いや、厠に行きたくなったから、リハビリ――あーえっとナマった足を鍛えがてら歩いて行こうと思ってさ」
「なん――」
「それがさあ、ビックリするぐらい俺の足ナマっててさ。四日寝たきりになったぐらいでこんなにフラフラするなんて驚きだよ。本気で足が上がらないんだよなー。こんな薄い板につまずいちゃうくらいでさ。あ、そういやごめんなノノイ。俺、鏡のこと忘れててけっ飛ばしてしまったけど、どうにかなってないかな。ヘコんでたりしたら弁償するから――ってあはは、俺一文無しだっけ」

 気まずさをごまかすように俺はぺらぺらとしゃべった。
 ノノイが途中で何か言いかけてたけど、被せるように話を続けたら黙ってしまった。
 ……やべ。怒らせちゃったかな。

「ノノイ? あの……もしかして、この鏡ってすごく大事な物だったりする?」
「………!」

 話しかけながら壁を利用して立ち上がろうとする俺を、ノノイはなぜだか目を見開いて見つめ、そしてくしゃりと表情を歪めた。
 ――ヤバイ。これは冗談抜きで大事な物だったみたいだ。

「ご、ごめんノノイ! わざと蹴ったわけじゃないんだけど、そんなに泣くほど大事な物とは」
「バカだね……そんなんじゃないよ」

 ノノイは小さな溜息と同時に表情を緩めて微笑んだ。
 そしてとすとすと軽い足音を立てて俺のそばに歩み寄ってきて、自然な動作で俺に肩を貸した。
 並んで立つと、俺とノノイはほとんど同じ背丈だった。
 ああ、でも掴んだ肩の華奢さはやっぱり女の子だな。

「あ……」
「厠だろ。肩貸してやるから」

 どことなくつっけんどんな感じの口調だったけど、怒っては無さそうだ。
 怒ると言うより、あれかな。厠にさえ一人でいけない俺に呆れたというか、心配させちゃったというか。

「――悪い」
「まったく。あんたはまだ寝てなきゃいけない怪我人なんだから、用を足したきゃ誰かを呼べば良いんだよ」

 ノノイの肩を借りて、一歩一歩頼りない足をどうにか動かして歩き、部屋を出る。

「枕元に鈴を置いとくから、次からはそれを鳴らして呼びな」
「いや、そりゃいくら何でも。ノノイにだってエルルゥにだって、それぞれ他に仕事はあるだろう?
小便ぐらいでいちいち誰かを呼ぶのは気が引けるしさ」
「………」
「それにさ、むしろどんどん立って歩くべきだと思うんだよな。まさかこんなに足が弱ってるとは想像外でさ。ったくもう、どんだけモヤシだったんだよ俺」

 ははは、と俺は笑ったけれど、ノノイは無反応だった。
 モロロ粥を食べさせてくれた時とは別人のように無口になったノノイに、俺はなんとなく不安になり、その横顔に声をかけようとして――

「厠。着いたよ」

 ぽつり、とそれだけを、目も合わさずに告げられた。

「あ、ありがとう」

 俺が礼を言ってノノイの肩から手を離すと、ノノイはまたしても黙って一歩身を引いた。
 そのことに、俺はまた意外な思いを持った。
 別にそうしてほしかったわけじゃないけど、てっきりノノイのことだから、厠の中まで一緒に入ってきて俺が用を足すのを助けてやるとか言いだすだろうと思っていたし、そう言われたらなんと言ってそれを断固拒否しようかなどと考えていたわけなんだが。

「じゃ、じゃあ。行ってきます」

 便所に行くのに行ってきますは無いだろう、と某漫画を思い出しつつ俺が内心でセルフ突っ込みをしていると、ノノイは俺が木戸を開けて中へ入るのを見届けて、タタッと走り去って行った。

 あー。もしかしてやっぱあれか。恥ずかしかったんかな。
 お年頃だもんなー。

 俺はニヤニヤと笑ってズボンを下ろした。
 この世界の着物には、チャックなんて気の利いた物は無いのだ。

 さてさて……この世界での我が相棒の実力の程はいかほど……

「――おおっ!」

 具体的な描写は諸般の事情により控えさせて頂くけれど、まあ、その。
 一言で言えば、良くも悪くも

「……若いな……」

 おかげで狙いが定まらず、小便を終えるのにずいぶんと時間がかかってしまった。


 ――とす、とす

 木戸の向こうに誰かが歩いてくる気配がする。
 ノノイが戻ってきたみたいだ。ちょうど良いタイミングだったかな。
 俺は手洗いがないことにちょっとだけ違和感を感じつつ木戸を開け

「ごめんごめん、遅くなって――」
「いえ。私も今きましたから」

 そこにいたのは、エルルゥだった。
 廊下に差し込む月明かりのなかでちょっとだけ首を傾けて微笑んだ彼女は、厠のそばの手水鉢で濡らした手ぬぐいで俺の手を拭いて、それから「よいしょ」と俺の腕を肩に回させた。
 ノノイより小柄で、もっと華奢なその手応えに、俺はようやくうろたえることを思い出した。

「ちょ、ちょっと……エルルゥ!?」
「脚は、痛くないですか?」

 俺に肩を貸して歩き出しながら、エルルゥはそんなことを聞いてきた。
 脚? 脚が痛くないかって? なんでそんなこと……

「いや、脚は別に怪我とかしてないし。まあさっき鏡を蹴っ飛ばしたつま先が痛いといえば痛いけど」

 それよりむしろ、背中の傷が開いちゃったほうが痛い。
 ノノイと交替してエルルゥが来たとすれば、俺がコケてたのも聞いてるだろうし、そしたら普通そっちのほうを心配するもんだと思うけど。

「そういえば、ノノイは?」
「……あの子なら、あなたに食べさせるためのご飯を作りに、厨(くりや)へ」
「うわ、そりゃ申し訳ないなあ」
「お腹空きました?」
「――すごく」

 言われて初めて気がついた。
 もしかして俺が目を覚ました理由って、尿意だけじゃなくって空腹もあったのかもしれない。

「でもこんな夜中にわざわざ作ってもらうのは気が引けるな」
「作るといっても、たぶん夜番さん用の作り置きを火で温めるだけですけど。でも、ノノイにはお礼を言ってあげて下さいね」
「それはもちろん」

 つっけんどんだなんて思って悪かったなあ。
 めっちゃ良い子じゃないか、ノノイ。

「元気になったらなんかお礼しなきゃ。あ、もちろんエルルゥにも、ハクオロさんにも」
「………」
「何がいいと思う? ……じゃなくって、思います? ノノイどんなのが喜ぶかな。カリンカが好きとか言ってたけど――ハクオロさんにお願いしてバイト……じゃない、なんか使いっ走りかなんかさせてもらって小遣い貯めたりしたら買えるかな」
「………」
「まあそれもこれも、この怪我が治ってからだなあ。トイレに行くのに人の手を借りなきゃいけないようじゃあ、使いっ走りどころの話じゃないしね。あはは」
「あの――ね」

 その時、エルルゥがこちらを振り向いた。
 すぐ近くから、俺の腕の下からかすかに見上げるようにしてこちらを見つめてきたエルルゥの瞳には薄暗い夜の月明かりでもはっきりと読みとれるほどの哀しみが浮かんでいた。
 その瞳に、俺は積み重ねられてきた違和感――無意識のうちに無視していたそれが一気に集まって固まり、胸の中で急速に膨れていくのを感じた。

「部屋に着いたら、そのことについて、お話があります」

 その「お話」というのが、使いっ走りのアルバイト斡旋の話なんかではないのだけは、確かだった。





※ ※ ※





「おや、ノノイじゃないか。どうしたんだいこんな時間に」

 ノノイが厨に行くとソポクをはじめとして数名の女性衆が作業をしていた。
 ヤマユラで見たことのある顔もいくつかあるが、知らない顔も多い。

(この数日でたくさんの集落が仲間に加わったと兄さんが言っていたから、きっとその人たちだろう)

 ノノイは作業の手を止めずにこちらに目を向けたソポクに頭を下げた。

「あ、すいませんソポク姉さん。皆さんも邪魔してすいません」
「なんも邪魔なんかしてないさ。で、なんだい。つまみ食いでもしに来たのかい? アルルゥでさえここには乗り込んでこないってのに、良い度胸だね」

 ソポクの軽口に周囲の女性達が明るく笑う。

「あ、あたしんじゃないですよ!」
「じゃあアンタの兄貴かい? ターの奴は今夜は夜番じゃなかったはずだけど」
「兄さんでもないですってば!」

 ムキになって言いつのるノノイにソポクは目を細めて笑い――

「分かってるよ。あの子が起きたんだろ?」
「あ……」

 その目に、ふいに哀れみの影が差した。
 ノノイはそれですっかり勢いを失ってしまって、小さくコクリと頷くと、そのままうなだれてしまった。

「その様子だと……脚のことに気が付いたのかい?」
「まだ……でも、いまごろきっとエルルゥが……」
「そうかい」

 ソポクは哀れみの影をまばたき一つで消し去って、皮をむき終わったモロロが詰まった籠を隣で作業している女性に手渡した。

「いつまでも隠せるもんじゃないし、それなら早いとこ知らせてやったほうが親切ってもんさ。脚があんなふうになっちまってるのは気の毒だけど……あたしらじゃどうしてやりもできないからねえ」

 新たな籠を足下に置いて、腕まくりをして作業を再開したソポクがそう言うと、周囲の女性達がひそひそと小声でうわさ話を始める。

「あの子って、チャヌマウの生き残りっていうヤケドの子だろ?」
「酷い話だよねぇ。命が助かったものの、記憶はないうえに脚まで悪いなんてさ……」
「脚が悪いって、生まれついてなのかい?」
「それがどうもさ、そうじゃないらしいよ。なんでも脚の筋んとこにざっくりと――」
「ひえっ、あんたそれじゃあまるで奴隷(ケナム)じゃないかい」
「でもさ、脚の悪い奴隷なんて持ってどうすんのさ」
「男の子だけど、肌が白くて可愛い顔してるらしいじゃないか。そういう方面の……じゃないのかい?」
「そういう……って、何さ」
「ほら、あたしらがぶっ殺したあのササンテの豚さ。あいつはなんでも随分な変態だったって話――」

 ――パンパン!

 ソポクが手を鳴らした音で、皆ははっとおしゃべりをやめた。

「ほらほら、みんな手が止まっちまってるよ? 今夜中にあと五袋のモロロの仕込みを済ませなきゃ
ならないの忘れたのかい」
「そ、そうだねぇ。――ごめんよぅ、ノノイ。おばさんたちおしゃべりでさ」

 うつむいて立ちつくすノノイに、皆が気まずそうな顔を見合わせる。
 ソポクのはす向かいにいた年かさの女性が、そんなノノイに声をかけると、ノノイは顔を上げて気にしてない、と首を振った。

「あたしは別に……でもラウネおばちゃん、その話、あの子の前ではしないであげてね」
「もちろんさ。約束する。みんなも分かってるよ。――ねえ、みんな?」

 ラウネがそう言って皆の顔を見回すと、みんなも大きく頷いた。

「――そこの棚ン中に、あとでアタイらがこっそり食べようと思ってこさえてた作りたてのチマクがあるからさ。それ、持っていっておやり」
「ノノイも一つお食べよ」
「うん、ありがとうおばちゃんたち」

 笑顔を見せたノノイに、ようやく女性衆は許された心地になってほっと息をついた。
 しかしソポクだけは危ういものを見守るように眉をひそめたまま、チマクを皿に載せてもらうノノイの横顔を見つめていたのだった。





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