「なんなら裸にして調べてもらっても構いませんからァ! もうかんべんしてくださァい!」
怪しい男を捕まえた、と言ってウー、ヤー、ターの三人がハクオロの部屋を訪れたのは、エルルゥが少年の目覚めを報告し終えてハクオロの部屋を去ろうとしたときのことだった。
縄でぐるぐる巻きにされて連行されてきた細目痩せぎすのその男は、自らを行商人であると言ったが、発見された時に塀をよじ登ろうとしていたせいかいまいち信じてもらえないでいる。
気の早いオボロなどが刀の柄に手をかけて
「インカラの間者か。……兄者、やるか」
などと脅かすものだから、ついに男も悲鳴を上げたものである。
むろんオボロは脅しのつもりなどではなく、本気で殺る気だったわけだが。
「――商人か」
成り行きを見守っていたハクオロがそう声をかけると、男はひっくり返った姿勢から驚くほどの敏捷さで飛び起きハクオロににじり寄り、ここを先途と商売文句を並べ立てだした。
「はァい、お頼みいただければ、人身売買以外は何でも扱いますです、ハイ!」
「荷を改めても構わないか」
「えぇえぇ、それはもう! ですが行李には鍵をかけておりますので、縄をほどいていただけませんですかねェ……?」
男としては誠心誠意言ってるのだろうが、何を言っても裏がありそうに見えるのはこの男の人徳……なのだろう。
「ふむ、いいだろう」
「兄者!」
「何も無ければそれでよし。何かあっても、お前がいるのだから安心だ。そうだろう? オボロ」
「……そういうことなら、いいんだ」
オボロの扱い方にますます磨きがかかりだしたハクオロであった。
縄を解かれた男は流れるような手つきで商品を広げ始めて、あっという間にハクオロの部屋に店を開いてしまう。
いつのまにやらドリィ、グラァにアルルゥまで部屋に集まってきて、敷布の上に置かれたおもちゃや装飾品などを手にとり歓声を上げながら眺めている。
薬師であると紹介されたエルルゥなどは、ケトゥアマンという最高級の気力回復薬――というかある意味絶倫系の精力剤――の原料となる、とある動物(ヘラペッタ)の”珍宝”を手に、顔を赤くしてうつむいたまま黙ってしまった。
「他にもいろいろございますよォ」
「――用はそれだけか」
ようやく自分のペースに持ち込めたことに安堵したのか、いよいよ声を高めて売り込みをかけようとした男に、ハクオロは冷や水をかける。
「はィ……?」
「ここはいつ戦場になってもおかしくない。長居をすれば巻き添えを喰うことになる」
その言葉に、男は張り付いたような薄笑いの顔にわずかな困惑の色を滲ませる。
「……そんなァ。そしたらどうしてあんな可愛い娘さんたちがここにいるんです?」
その視線の先には、顔を赤らめたままのエルルゥ、おもちゃにご執心のアルルゥ、髪飾りを手に似合うのなんのと談笑しているドリィとグラァ、そして綺麗な刺繍の入った布地を目を輝かせて見つめているタァナクンがいる。
……実は半分以上は「娘さん」ではないと知ったら、この男の糸のような細目も大きく見開かれたかもしれないが。
とはいえ、エルルゥたちを戦場に置いていることに自責の念を感じているハクオロは、その指摘にわずかに目を伏せる。トゥスクルさんとの約束を、自分は守れているのだろうか……。
しかしそれも一瞬のことで、男をまっすぐに見つめ直しハクオロは告げた。
「――とにかく無関係な人間を巻き込むワケにはいかない。エルルゥ、この者に水と食糧を分けてあげてやってくれ」
「あっ、はい。すぐに」
「仲間が失礼した。送ろう」
※ ※ ※
「旦那がそうおっしゃるんであれば、出て行きますがね……」
溜息まじりの声で、行商の男はハクオロの後ろを歩いている。
砦の門はもう目の前だ。
「……ここからしばらく行ったところに、チャヌマウという集落があるのを知っているか」
ふと足を止め、ハクオロが振り返りもせずにそう背後の商人に問うたのは、門近くの兵士の詰め所
のあたりまで歩いてからのことだった。
別の用件を切り出そうとしていた商人は、あわてて懐に入れかけていた手を戻して平静を装う。
「はァ。こんな商売ですので、知ってはおりますですが」
「行ったことはないのか」
「――ずいぶん昔に、何度か。最近は別の商人が出入りしているようで私は行っておりませんですが。それが……何か」
ハクオロは振り向いて簡潔に言った。
「全滅した」
「……はィ? ぜ、全滅ゥ?」
「インカラが焼き討ちにした。みせしめのつもりなのだろう。村は焼かれ、村人達は皆殺しにされた。
――生き残ったのは、元服(コポロ)も迎えていない歳の少年たったひとりだ」
ハクオロの目はまっすぐに商人を見つめていた。
夕暮れの空を背に、外衣を風にはためかせながら立つハクオロのその姿に男は一瞬目を奪われた。
「……それを私に聞かせて、どうなさろうと? そうなりたくなければ関わるなという忠告です? それとも、行商で行く先々の街で、皇の凶行についての噂を流せとでも?」
「どう受け取ろうとお前の自由だ。どちらにせよ情報は身を守り、そして助ける。商人なら、そのことは十も承知のはずだが」
「あっはっは。旦那は賢い御方だ。情報は身の守り、たしかにその通りです。そして私たちの場合は
――――最も高値で売れる、大事な商品でもあります」
男を取り巻く雰囲気がその瞬間、剣呑なものに急変した。
懐に手を入れ、上目遣いの細目をわずかに見開き、ハクオロの顔をじぃっと見つめ返す。
「お前は……」
「動かないで下さいませ。すでに間合いでございますので」
懐から油断無い所作で抜き出されたのは、行商許可の鑑札。
角を落とした長方形の木片で、先ほどの荷改めでも問題ないと見なされたものだったが……今、男の手の中でそれはわずかに長さを変え、隙間からは薄い刃のきらめきが漏れている。
「――仕込みか」
「私からもご忠告を。……不用心です、はい」
鋭い目で薄く笑いながら、男は言った。
「私が刺客でしたら、お命頂戴しておりました」
「……刺客ならば、な」
男の手に握られた暗器を冷静な目で見つめながらハクオロがそう言うと、男はのどの奥でくくっと笑い、出した時と同様、突然殺気を引っ込めた。
「これでも商人でございますので、チャヌマウの情報の仕入れ代に見合うご忠告を、お支払い致しましたまででございます。はい」
「ずいぶんと高値が付いたようだな」
「それはもう。……あと、これはお近づきの印に」
仕込み刀を懐に収め、抜き出された手にはヘラペッタの”お宝”が握られており、それをハクオロの手に握らせてくる。
「いや、私は別に……」
「――できれば紫琥珀(ムィ・コゥーハ)をおわけできると良かったのですが」
小声でささやくように告げられたその言葉に、ハクオロは息を呑む。
紫琥珀――小指の先ほどのかけらに、一生遊んで暮らせるほどの値が付く稀少な宝石を、自分たちが必要としているということを、なぜこの男が……。
そこに水筒と炙ったモロロ餅の入った包みを手にエルルゥがやってきて、二人の距離は開いた。
「どうぞ、少ししかありませんが……」
「これはお嬢さん、ありがとうございます」
さきほど見せた殺気など少しも感じさせない物腰でエルルゥから弁当を受け取る男を、ハクオロは横から見つめていた。
この男が商人であるというのは嘘ではないのだろう。
しかし、ただの商人ではない。おそらくは――オボロが言った通り、敵から遣わされてこちらの情勢を探りにきた間者なのだろう。チャヌマウの焼き討ちのことも、驚いたふりをしていたように見えた。
本人の言葉を借りれば、叛乱勢力の情報という商品を仕入れに来た、ということになるだろうが。
しかし、その情報を発注した”敵”とは誰なのか。
命がけになる諜報活動だ。よほど高額の報酬が約束されているのだろう。
それほどの金を、情報収集という重要だが地味な作業に支払う戦略センスと、チャヌマウをはじめとして各地で相次いでいるインカラの無作為な焼き討ちは、どうしてもハクオロのなかで繋がらない。
脳裏に浮かぶのは、あの男。
チャヌマウで対峙した、白いウォプタルにまたがる怜悧な眼差しをした若い武人――
「……それでは私はこれで、はい」
エルルゥに微笑みかけ、ハクオロにもう一度頭を下げて、男はすたすたと外へ歩き出した。
夕暮れの中、長い影を引き連れて去っていく行商人の背中を見送って、エルルゥはふっと微笑み、傍らのハクオロに話しかけようとして
「………」
見上げた横顔の、その思わぬ鋭さに、言葉を飲んだのであった。
※ ※ ※
「ほら、口を開けて」
「……いや、自分で食えるから」
半日ほど寝ていたらしい。
寝床の上で起こした半身をさっきのお団子娘に支えられながら、今俺は重湯のようなものを食べている。
――正確には、食べさせられて、いる。
「なに遠慮してるのさ。あんた自分が何日寝てたか知ってるの? 四日だよ? 弱った時はお互い様。あたしら辺境のモンは助け合わなくちゃいけないって、トゥスクル様も言っておられたんだから」
そう言ってこの子は、ほれ食え、とばかりに木製のさじを口の前に突きつける。
しかたなく俺はそれをパクリとくわえて咀嚼する。
でんぷんの甘みとかすかな塩味。そしてふわりと感じる独特の香り……これがモロロって奴なのか。
「うまい……な」
「そう。そりゃ良かった! 生きてるからこそおまんまが食べられる。見つけてくれたハクオロさんと手当てしてくれたエルルゥに、しっかりお礼言うんだよ?」
「……ああ、わかってる」
それにしてもどうしてこの子はこうも言葉遣いが上からなんだろう。
なんだかまるで姉が弟に言い聞かせているような口ぶりだ……。
その感想は、逆の意味で向こうも同様であったらしい。
次のひとさじを口のところに運びながら、その子は呆れたような声を出した。
「なーんか生意気な子だねぇ。記憶が無いってったけど、案外どこぞのお坊ちゃんだったりしてね」
「――なあ」
そこで俺はようやく”そのこと”に気が付いたのだった。
というか、どうして今まで気が付かなかったのかが不思議なくらいだった。
俺の自意識と、今の俺の肉体には、大きな隔たりがある、ということに。
これは至急確かめる必要がある。
それには――
「鏡を見せてくれないか? 顔の傷がどんな具合か気になるんだ」
おれはちょっとだけ本当の理由をごまかした。
自分の顔と年齢を把握したいから、などというと、もしかするとエルルゥが来るまでダメなどと言われかねないと考えたからだ。
「鏡? いいけど」
ところが、あっさりとその要求は呑まれた。
脇卓の上の椀にさじを置き、少女はちょっと待っててと言って小走りにどこかへ行った。
「自分で食べちゃだめだよ!」
「……なんでさ」
とはいえ、言いつけを破るとなんだか怖そうなんで俺はおとなしく待つことにした。
幸い少女は軽快な足音と共にすぐに戻ってきた。
手には磨いた金属の板のような原始的な鏡が持たれている。
「はいよ、ここで良い?」
寝床に伸ばした膝の先あたりの距離で、少女は鏡を構えてくれる。
礼を言って鏡をのぞき込んで……
「――うわ」
黙っていようと思ったのに、思わずそんな言葉が口を突いて出た。
そのぐらい、想像外の容姿だった。
鏡に映っているのは、白い頬に濃茶の髪をした、知らない少年の顔だった。
顔の左上半分は包帯で覆われているが、見える残りから推測するに、中学生ぐらいか?
鏡の向こうの知らない自分と見つめ合ったまま、手を挙げて顔をゆっくりと触っていく。
あごが細い。ヒゲが無い。口元に切り傷があってかさぶたができている。
そしてなにより、あのケモノ耳がある……。
(憑依ものかよ……TSものじゃなかったのは不幸中の幸いか……)
俺は内心でそんなことをつぶやいた。
元の世界での自分の顔や年齢は思い出せない。かといって、いまのこの顔が自分の顔だともにわかに納得しがたいものがあった。
少なくとも、こんな年齢でなかったことはおそらく確かだ。
――というか、これは誰だ?
アニメにしろゲームにしろ、原作にこんなキャラ出て来てなかったのは確かだ。
さっき目が覚めた時エルルゥも少し話してくれたけど、俺はチャヌマウで拾われたらしい。
記憶が確かならアルルゥ&ムックルコンビが戦闘デビューした「森の娘」の舞台がチャヌマウだったけれど、あそこに生き残りなんていなかったはずだったが……。
ということは、少しだけ原作から外れたってのか。
もしかして本当は死んでいたはずのこの子の体に、俺が憑依して、それで助かったとかそういうことなんだろうか。
「大丈夫?」
「ぁ、ああ。うん、以外と派手に怪我してるから、驚いただけ」
鏡を渡してもらい、じっと顔を見つめる俺に、背後に戻った少女が気遣わしげに声をかけてくる。
……いや、少女なんて言うけど、今の俺はきっとこの子よりも年下だ。
だとすると、さっきまでの俺の態度は確かにさぞかし生意気だったことだろう……。
「ほら、それよりも食事、食事」
後ろからさっと手が伸びて、鏡を奪われた。
「あ……」
「ここに置いとくから後からゆっくり見ればいいさ。今はそれよりおまんま食べて元気付けなきゃ」
「……うん」
ぱくっ。素直に差し出されたさじをくわえた俺に、その子は満足げに頷いた。
「よしよし!」
そのあからさまな子供扱いに、俺はまた若干の反発を抱きかけ――
「? なにさ」
振り向いたすぐ後ろにあったその無防備な表情に、俺は小さな溜息とともにこの肉体年齢を受け入れることにした。
「ううん、なんでもない。……ねえ」
「だからなにさ」
ひょい、ぱくっ。
また一口、運ばれてきたモロロ粥を飲み込んで、俺はその子に尋ねた。
「君の名前、なんて言うの?」
「あたし? ノノイだよ。ヤマユラ生まれのヤマユラ育ち。もうすぐ16歳。好きな食べ物はカリンカ! でも、カリンカなんて贅沢品、お祝い事でもなけりゃあたしら辺境のもんは食べれないんだけどね」
「……出身と年齢に好物まで教えてくれてありがとう」
この短時間で悟った。
この子は結構なおしゃべりだ。
「――今、あたしのことおしゃべりだ、なんて思ってるだろ」
「はぐっ!」
意外すぎる言葉に、思わず粥を吹き出しそうになる。
なんだこの子、もしやサトリか!?
「図星かい。……たしかにあたしはよくしゃべるけどね、それだけじゃないんだよ。エルルゥがあんたが目をさましたらそうしてやれって言ったからさ」
「……どういうこと?」
「一つには、あんたが記憶をとりもどすきっかけになればってことさ。エルルゥが言うには、人の記憶ってのはいろんなものと紐で繋がるみたいに繋がってるから、いろんな言葉をたくさん聞くことで、忘れてた記憶を取り戻す手がかりがひょっこり見つかるかも知んないだろ?」
「……そうだね」
俺はその言葉にビックリした。
それってたしか最新の脳生理学の研究結果とも一致する、正確な記憶システムモデルのはずだ。
「確かにねぇ、あたしも母さんの言いつけをすっかり忘れて、なんか大事な用事を言いつけられてたはずだけどーって考えてた時、なんでかは知らないけど畑のキママゥの糞をみた途端に思い出したことあるからねぇ」
「……ちなみに、なんだったのさ。その用件って」
「ん? へへ、兄さんの帯(トゥパイ)が古くなって新しいの作るから、村長のとこから糸を分けてもらってきてってさ」
「キママゥも糞も関係無いじゃん!」
思わずつっこんだ。
っていうかいま俺は食事中だ! クソの話とかすんなよ!
辺境の女はそういうの気にしないものなのか……。
「じゃん? なんだいそれ、チャヌマウの流行かい? それはともかく、まあ、記憶なんてそんなものってことじゃない? 何を聞いて何を思い出すのかなんて、誰にもわかんないことだし。それなら今のあんたにゃ、黙って世話するよりもあたしみたいなのが向いてるってことでしょ」
ほれ、とまた突き出されるさじを俺は黙ってくわえる。
「そしてね、もうひとつの理由は――あんたに余計なことを考えさせないためさ」
「……矛盾してない?」
「あたしもそう思ったんだけどね。でも、エルルゥはそうしてあげてって。あたしのおしゃべりでたくさんのことを聞くから、たくさんの事を考えるだろうけど、考え過ぎないようにしなきゃいけないってさ。じゃないと、さっきのあんたみたいにまた頭ン中がぐるぐるしちゃって倒れちゃうから」
かり、かり、と木のさじが椀の底をこそぐ音がする。
見るといつの間にか椀一杯あったモロロ粥がもう無くなっていた。
「ともかく、具合の悪い時に考え事したってなんもいいことないからね。そういう時はともかくしっかり食べて寝る。後のことは元気になってからゆっくり考えればいいのさ」
差し出される最後の一口を食べて、水差しで薬湯を飲むとと、俺はまた寝床へ横にさせられた。
俺も今度は特に逆らいもせず横になり、一眠りしようと思った。
「よしよし、だいぶ素直になったね」
腰に手をあて、にこっと笑う彼女。
ノノイと名乗った今の自分よりちょっとだけお姉さんな少女の顔を見上げた。
「……ねえ」
「ん? なにさ」
「ノノイって呼んでもいい?」
さすがにこの外見年齢差で、二人称が「君」なのは良くない。
かといって「ノノイお姉ちゃん」なんて呼ぶのは俺のキャラじゃない。
呼び捨てするなと怒られるかも知れないとは思ったが、この子だって、エルルゥよりも確実に年下のはずなのに「エルルゥ」ってさっき呼び捨てにしてたしな。
ヤマユラ育ちってことは、幼馴染みでもあるんだろうけど。
「変な子だね。いいよ、そんなのわざわざ言わなくったって」
果たして彼女は、あっけらかんと笑って許してくれた。
「あんたのことも、いつまでも『あんた』じゃいけないけど……まあ、それはまたエルルゥにでも相談してみなよ。実をいうとハクオロさんも記憶を無くしてヤマユラにたどり着いた人でね。ハクオロって名前は本当は、エルルゥの死んじゃったお父さんの名前なんだよ。トゥスクル様が、これからはそう名乗れって言って名前をくれたんだ。だからあんたも、思い出すまでの間別の名前を名乗ることになると思うけど……良い名前もらえると良いね!」
そう――そうだったな。
”ハクオロ”は、エルルゥ・アルルゥの亡き父、つまりトゥスクルの一人息子の名。
しかしそれさえも、実は昔の大戦でトゥスクルと共に闘った白い神の名前――つまりは、ハクオロ自身の本当の名前であり、ハクオロの正体を察知したトゥスクルが名前を返しただけという……
……これは、この世界の俺が知らないはずの、知識。
「さ、もう考え事はやめて眠りな。目が覚めたらもうちょっと腹に溜まるもん食わせてやるからさ」
食器を片付けながら、ノノイが言う。
俺は何かそれに応えようとして、大きなあくびにそれを邪魔され……
――そのまま再び深い眠りについたのだった。