「……と言うわけなんだ」
フロアで待っていたリリーにイシュメルを紹介すると、イシュメルは自分でも自己紹介をした。
「イシュメルだ」
言うと、イシュメルと俺の間に青い文字。
イシュメル=リーヴェント。それがコイツのフルネームらしい。
そういえば、俺もこいつの自己紹介は初めて聞くんだっけ。
「リー……ヴェント?」
リリーは呟くと、不思議そう――というよりは不審そうに首を捻る。
「――ッチ、やっぱり知ってたか」
ポリポリと首を掻くイシュメル。
「じゃあ、やっぱりあのタイラス=リーヴェント?『憂う狂気』の」
「あぁ。その通りだ」
イシュメルが苦笑する。
はぁ、とリリーが溜息をつく。
「……で、どうしてそのタイラスがここに――」
「待て、リリー。俺にもわかるように話してくれよ」
喧嘩腰になりつつあるリリーを制してみると、リリーは我に返ったのかごめんねと呟いた。
「……この人、【セカンド】――二人目よ。ううん、3人目かも」
そりゃ、3キャラ作れるならそういうこともあるんだろう。
「いーじゃねーか。それが?」
「うーん……えっとね」
リリーは言葉を濁す。俺とパーティーを組む奴を悪く言いたくないのだろうか。
「――いい。自分で言うさ」
イシュメルがそこに割り込んだ。
「この女の言う通り、俺は【セカンド】だ」
本当は【ファースト】だけでやっていくつもりだったんだけどな、と呟いて、イシュメルは溜息をついた。
「それが何かまずいのか?」
「……まずくはないさ、普通ならな」
言って、苦笑する。
普通じゃないってことか。と当たりを付ける。
「俺の【ファースト】はな。……魔族なんだよ」
魔族、という言葉に思い出す。
確か、あの本にはこう書いてあった。
『凶悪なステータスの種族です。1レベルの段階で、120レベルプレイヤーをPKできるほどのチートキャラです。PKに走る人がほとんどですので気を付けて下さい。見ればそれとすぐわかります。
魔族は、死ぬとキャラクターが消去されるそうです。
噂によると、世界に常に一匹になるように、突然「覚醒」することもあるそうです。
討伐隊を立てて討伐すると、それに見合った経験が手に入るようです。』
俺の今のレベルで3。
作ったばかりで実質120レベルを誇る凶悪チートキャラ、か。
ん、待てよ?
「ってことはイシュメルがここにいる以上、魔族は生まれないってことか?」
「――そういうこと、になるかな」
言って、リリーは苦笑した。
世界唯一の魔族の【セカンド】。
「で、それが何か問題なのか」
「……はぁ、何もわかってないな」
イシュメルは呟くと、溜息をついた。
「仕方ない。見せてやるよ。――魔族がどんなものなのか」
言うなり、イシュメルの姿が消えた。
「ちょっ――!」
リリーが慌てるが、もう遅い。
そして、リリーは溜息をついた。
「……もう。口で言えばわかることなのに」
リリーは不満そうだが、俺は内心わくわくしていた。何しろ世界に一匹しかいないという魔族だ。
「知らないわよ、――どうなっても」
「いいんじゃないか?相手はイシュメルだろ」
はいはい、とリリーは手を上げた。
どうやら説得するのを諦めたらしい。
「生易しい現象は期待しないことね……」
生易しくない現象が起きるらしい。期待が膨らむ。
[魔族、タイラス=リーヴェントがログインしました]
アナウンスが流れると同時、
「う――ッ!?」
猛烈な寒気と強烈な嫌悪感が全身を駆け巡る。
さらに襲い来る脱力感。
「マジ――かよ!何だこれ……ッ!」
「だから言ったでしょ――!」
確かに生易しくはない。素で吐きそうだ。
[討伐隊:サイラスの光 が召集されました]
[討伐隊:魔族を殺せ が召集されました]
[討伐隊:無理だろJK が召集されました]
[討伐隊:やってみるか が召集されました]
[討伐隊:行くぜオラァ! が召集されました]
わずか数秒で討伐隊が次々と編成されるアナウンスが流れる。
思わずぞくりと背筋が凍える。
「……そろそろ、かな」
「?――何が……」
リリーの呟きに反応した瞬間。
[討伐隊:サイラスの光が壊滅しました]
[討伐隊:やってみるかが壊滅しました]
「嘘だろ!?」
エンカウントしたのが召集直後だったとしても、数秒だぞ!?
「こういうものよ。……ちなみにサイラスの光はレベル平均70で、パーティーを組める最大人数の13人」
70レベル13人がかりでこれかよ!?
「どうするの?……あなたが止めないと、被害は増え続けるわよ」
止めろったってどうやって!
[リア=ノーサムがタイラス=リーヴェントにウィスパーを申し込みました]
――あ……!そうか、それがあった!
「ウィスパー、タイラス=リーヴェント」
思わず口にする。
瞬間、視界が暗転する。
「ごきげんよう、『憂う狂気』。……あら?」
そこには、2人のプレイヤーがいた。
1人は、背中に4枚の黒い翼を背負った女性。ティタニアだ。
1人は、……イシュメルそっくりではあったが、禍々しいとでも形容すべきオーラを放つ男。
なるほど。見ればわかる……か。
このオーラが魔族の印なんだろう。
「……この馬鹿。テメーは来なくて良かったのによ」
イシュメル――いやタイラスがはぁ、と溜息をついた。
「あら、知り合いかしら?」
女性がほっとしたように会釈する。
釣られて頭を下げると、女性はふふ、と笑った。
「……セカンドの知り合いだ。超初心者」
「あぁ、なるほどね」
くすりと笑う女性。……見た目の雰囲気は少女趣味満載のゴスロリだし、背が俺の胸くらいまでしかない幼女にしか見えない。
「初心者さん、お名前は?」
「……アキラ=フェルグランド」
言うと、女性が目を輝かせた。
「まぁ、……日本人?」
「うん、日本人」
ついに日本もサービス開始したのね、と言いつつ、女性が俺の周囲をうろつき始める。
「おい、そいつに触らせないほうがいいぞ」
俺の方に手を伸ばす彼女に、タイラスがぴしゃりと言い放つ。
「あら。勝手に覗いたりはしないわよ」
「……覗く?」
言っている意味がわからずに、楽しそうに俺のローブをぺたぺた触る彼女のなすがままになる。
「――そいつの二つ名は『黒翼の星詠み』。この世界唯一、キャラクターの魔法の素質をデータとして見ることができる」
「見ないってば」
怒ったように反論すると、彼女は手を離した。
「……どうだかな。俺の時は初対面でスキャンされたけど」
「貴方は魔族だからいいの。スキャンが良くないってモラルくらいはあるわ」
くすくすと笑う。
「……それで、お前は自己紹介しないのか」
「するわよ?貴方が余計な茶々を入れるからでしょう」
もう、と女性はわざとらしく怒って見せ、俺の方に振り向いた。
「改めて、初めまして。リア=ノーサムです」
さっきのアナウンスの時も思ったが、どこかで聞いた名前だ。
――どこだっけ。
「よろしく」
手を差し出すと、彼女はくすっと笑った。
「いいの?手を触れるとスキャンしちゃうけれど」
「むしろして欲しいね。結果を教えてくれ」
軽く言い放つと、リアはびっくりしたような顔を見せた。
あれ、俺変なこと言ったか?
「……うん、別にいいんだけれど、一つ忠告」
リアはその手を触れずに、言葉を続ける。
「たとえばこの魔族さん、炎が弱点よ」
「ちょっ、バラしてんじゃねーよ!」
「という風に、弱点も丸見えになっちゃうんだけれど。それでもいいかしら?」
あぁ、と俺は納得した。
「問題ない。弱点の対策も練れていいんじゃないか?」
言うと、リアはくすっと笑った。
「前向きね。……でも次の機会にしましょう」
言って、リアは踵を返した。
他の人……つまりタイラスのいるところでは話せないってことなんだろう。
「さて。……いつも通りここでログアウト?」
あぁ、と頭を掻くと、タイラスは頷いた。
「話がある。リアも話に混じってくれるとありがたいんだが」
俺の言葉に、ふふ、とリアは笑った。
「そんなのセカンドでもできるじゃない」
そりゃそうか。
「――で?」
ジト目でイシュメルを睨み付け、リリーが言う。
「……。すまん」
はぁ、とリリーが呟くと、イシュメルが頭を掻いた。
『聞こえる?アキラ』
「あ、……うん聞こえる」
突然飛んできたウィスパーに、思わず素で応える。
突然ハンズフリーで電話し始めたようなもんだが、リリーやイシュメルは慣れているのか、会話を中断した。
『ごめんなさい、タイラスのセカンドの名前を聞くのを忘れてしまって』
「あぁ、……勝手に教えるのも何だし、こっちに来ることはできないか?」
言うと、リアはくすりと笑い声を漏らし、
『別にいいけれど。貴方今どの街にいるの?人間で初心者なら、フェイルスかシルヴェリアだろうと思うんだけれど、最近の仕様がどうなっているかわからないわ』
あ。
そういや町の名前とか知らないな。
「この町の名前って何だっけ」
リアに聞いてみると、フェイルスよ、とあっさりと教えてくれた。
「フェイルスだってさ」
『ポータルで飛ぶわ。町の中央噴水で会いましょう』
「了解。――町の中央噴水ってどこかわかる?」
言うと、リリーはこっちよ、と先導してくれた。
「こんにちは」
リリーが声をかける。
「あら、ごきげんよう。……アキラのお知り合い?」
「この世界初めての知り合いだ。何かと世話になってる」
言うと、照れたようにリリーが頬を掻いた。
ふぅん、とリアが興味深そうにしげしげと周りから見つめる。
「おい、そいつに触らせないほうがいいぞ」
イシュメルが言うと、リアがもう、と不満そうな声を上げた。
「勝手には読まないわ。……執念深いわよ」
「?」
リリーも何が何なのかよくわかっていないらしい。
「……リア、自己紹介した方がいいんじゃないか?」
「――あ。リアって……」
何かに気付いたらしく、リリーが目を丸くする。
「初めまして。リア=ノーサムです」
言うと、リアとリリーの間に青い文字が流れる。
「き、きゃー……!本物っ!?」
リリーとリアの行動が逆転した。
「はわわわ、すごいすごい!うわー!」
ケツァスタを目にした時の再現のようだ。
「……リリー」
「っ、ごめんなさい」
我に返ると、リリーはすかさず手を差し出した。
「リリーです!」
言うと、青い文字がその中間に表示される。
「……あぁ、貴方が『白翼の幻』?」
リアが呟くと、手はやはり出さないままで問う。
ってかリリーにも二つ名があったのか。
「……その呼び方はやめて下さい」
一転、リリーの表情が歪む。
「あら。……何か訳ありみたいね。ごめんなさい」
そういえば、図書館を出ても羽を出す気はないらしい。
それも、そういうことなんだろうか。
「ところで、それでも私にその手を出すのかしら?」
「ええ。この場合、有名人と握手するほうが私の得ですから!」
うわ、はっきり言い切った。
「……変わってるわね」
言うと、リアはその手を取った。
途端、リアの目の前に3つの塊のようなものが浮かぶ。
それを手で軽く持ち上げると、塊は音も立てずに消えた。
「ちょっと失礼。……ウィスパー、リリー=ビーヴァン」
言うなり、リアの姿が掻き消える。
なるほど。これならば誰も会話を聞くことができない。
「え、……あ、はい。ありがとうございます」
「というわけ」
伝えることは伝えたのか、リアがいつの間にか戻っていた。
「……私はある程度レアな存在、ってことですか?」
「ええ、間違いなく屈指のレアよ」
私と同じくね、とリアが笑う。
「次は貴方ね、アキラ。手を」
言うと、リアは手を差し出した。
「お、よろしく」
言って手を差し出すと、リアは俺の手を握る。
同じように、リアの目の前に3つの塊……いや違う。4つの塊が姿を現す。
「……え――」
リアが驚き、困惑した顔を向ける。
「ん?……何だ?」
「いえ、ごめんなさい。結果はウィスでね。……あなたも来てくれるかしら」
言うと、手を離すリア。その目は確実に俺が異端だと告げている。
頷いて見せると、リアはようやく笑って見せた。
「ウィスパー、アキラ=フェルグランド」
「ウィスパー、リア=ノーサム」
口にしてから、唐突に思い出した。
そうだ、この名前。
「アキラ、座ってくれる?」
リアが真剣な顔で言う。
「あぁ、その前に一つ。……礼を言わせてもらいたい」
うん?とリアが不思議そうな顔を見せた。
「……初心者本、ありがとうな」
「――!貴方、アレを読んでたの!?」
ひどく慌てた顔で、……その顔は明らかに照れて真っ赤になっている。
「あ、あれはね、数年前のものだからデータが古いのよ?だからあんまり鵜呑みにしないこと。まさかアレを今も読んでる人がいるなんて……」
リリーが薦めて来た、とは言わなかった。
図書館職員のリリーが薦めている本だ。おそらく他にも読んでいる初心者がいるはずだ、なんて知ったら余計話が遅くなる。
「ともかく、俺の結果は?」
「……あ、ええそうね。良く聞いて」
リアの表情はまだ赤かったが、表情は真剣なものになった。
「貴方は、オールラウンダーになるべきだわ」
……オールラウンダー?
聞いたこともない言葉だが、何となく予想は付く。
「つまるところ、浅く広く能力を集めろってことか?」
「そう、正解よ」
にこりと笑う彼女。
「貴方には、全ての魔法の素質が満遍なく中途半端に備わっているわ」
「中途半端ってひどい言われようだな」
苦笑すると、事実だもの仕方ないじゃない、と苦笑で返された。
「嘘だと思うなら、魔法屋に行ってごらんなさい。……サモン以外の魔法は全て習得できるはずよ」
ずばりと当てられた。つまり真実だってことか。
「でもサモンは覚えられないんだろ?」
「心配には及ばないわ。……サモンの前提条件は、たぶん魔力の数値だから」
私もそうだったもの、と呟くと、にこりと笑う。
「これはある意味リリーよりもレアな魔力情報よ」
「そうなのか。魔法使い志望だからそれは願ったり叶ったりだけど」
言うと、彼女は首を横に振った。
「違うわ。魔法だけじゃなく、全てのオールラウンドを目指しなさい」
部屋を出ると、リリーとイシュメルがこちらを振り向いた。
「話は済んだ?」
「……あぁ」
言うと、イシュメルが興味深そうに俺を見る。
リアに指示された通りに答える方がいいんだろう。
「……魔法戦士の方が向いてるらしい」
お、とイシュメルが呟く。
「いいね。俺が弓だし回復も使える。絶好の能力だ」
「そうだな。……よろしく頼むぜ、相棒」
リリーがくすりと笑う。
この様子だと、どうやらイシュメルとは和解したらしいな。
「ってわけで装備は買い直しかな。ローブじゃ戦いにくそうだ」
「あら、結構似合っているのに」
リアが不満そうに呟く。
ひょっとすると、ローブの方がいいってことなんだろうか。
「……リアがそう言うならやめとく」
ぷ、とリリーが吹き出す。
まるで俺がリアに心酔してるみたいだ。
「じゃあ、そのローブを前衛用にエンチャントしに行きましょうか?」
「あれ、エンチャントは使える人がいないんじゃ?」
思わず口にする。
くすり、と笑うリア。
「……貴方の他に、知り合いでエンチャントを使いたい人はいるかしら?」
「ん?心当たりなら一人いるけど」
リリーがうんうん、と頷いて見せる。
「秘密を守れそう?その人。アキラは信用できると判断しているわ」
あ。
「……まさか、とは思うけど」
「あら」
ふふ、と笑みを浮かべる彼女。
「フィリスのこと?保障してもいいわ。あの子口だけは堅いから」
リリーが助け舟を出した。
「あと私も出来ればその中に入れて欲しいわね。実は私も習得してるから」
「どうもー!フィリスです!」
近くにいたらしく、結構すぐに到着したフィリスが走ってきた。
遠くからだったが、名前がはっきりわかるように青く光で表示される。
「……早速貸しの一部が返って来たね。偉い偉い」
バシバシと背中を叩くフィリス。
「一部かよ!」
思わずツッコミを入れると、フィリスははっはっはと笑った。
心なしか嬉しそうだ。
「カルラも来るって?」
「うん。アズレトはもう落ちてた。仕事の時間だと思う」
声をかけまくったらしい。
イシュメルもエンチャントを習得しているらしく、数に入っている。
「……合計で、5人?」
リアが確認すると、リリーが頷いた。
「もう一人が来るまで待機かしら」
「いえ、……もう、……着いてます」
いつの間にか、カルラが俺の背後に立っていた。
「私を含めて6人ね。念のため誓いの儀をするけれど、構わない?」
「床に画いた魔法陣に、魔力を吹き込んでしまうわけだけれど」
言いながら、床に円を描き、その円の中にチョークで文様を描き込んで行く。
やけに手馴れているところを見ると、これが初めてというわけではないようだった。作業は数分続き、リアはそれを済ませると、手を軽く叩いた。
「これでいいわ。全員、この円の中へ」
全員が従うと、それを確認したリアが床に向かって手を伸ばす。
と、描かれた文様が光を放った。
赤と緑。目がチカチカするような色だ。
「私の言葉の後に続いて、誓いの言葉を言ってくれればいいわ。……この場合、私との秘密の内容を決して漏らさない」
全員が頷くと、その魔方陣が光を緑に固定させた。
「私の呼びかけを聞きし者よ、誓いの儀を滞りなく行え」
リアは言うと、一呼吸置いた。
魔方陣が光を緑から赤に変える。
「……リリー、もう少し中央へ」
「あ、はい」
言われた通りにリリーが動くと、魔法陣は再びその色を緑に変えた。
「魔方陣を誓いの証に。汝は証人となれ」
魔方陣が一瞬赤く光り、その色が今度は青に固定される。
「……アキラ。秘密を誓えるならば、誓いの言葉を」
いきなり俺か。どう言えばいいんだ。
「……誓う、ってことと破らない、ってことを言ってくれればいい」
なるほど、とは声に出さない。
「――誓う。絶対に破らない」
一言、呟くと、魔方陣がそれに呼応するように俺の足元だけを緑に変えた。
「――イシュメル。秘密を誓えるならば、誓いの言葉を」
「誓う。破らない」
同じように、イシュメルの足元が緑に染まる。
「リリー、秘密を誓えるならば、誓いの言葉を」
「誓います。破りません」
足元の色が変わる。
「……ごめんなさい、名前を聞き忘れていたわ」
思わずツッコミを入れたくなるのをこらえる。
いや、別に声を出しても儀式には支障はないんだろうけど。
「――カルラ、……です」
カルラとリアの間に、カルラ=クルツ、と文字が表示される。
「……変わった綴りね。ではカルラ。秘密を誓えるならば、誓いの言葉を」
「誓います、……破らない」
カルラの言葉に、呼応して、足元が緑に染まる。
「フィリス。秘密を誓えるならば、誓いの言葉を」
「誓う。破らない」
魔方陣は、リアの足元を除いて緑に染まっていた。
「誓いの儀において、私も誓う。偽りは述べない」
言うと、リアの足元も緑に染まる。
魔方陣全体が緑に染まったのを確認するように、リアが魔方陣に手をついた。
瞬間、魔方陣が光を強くし、そのまま光ごと魔方陣が床から消えた。
「……終わり?」
「そう、終わり。少し移動するけれど、いいかしら」
リアは言うと、腰から針を取り出した。
「……まず、エンチャントというのがどんなものなのか見てもらおうかしら」
にっこりと笑うと、リアはその針を床に刺した。
瞬間、床に現れる魔法陣。
「うっわ……!」
一番近くにいたフィリスが、驚いて声を上げる。
「え、これはポータル?魔法詠唱なしで!?」
リリーも驚愕した表情だ。どうやらこれは凄いことらしい。
「さ、乗って。……魔方陣を踏んでさえくれれば、どこでも構わないわ」
「マジかよ……」
イシュメルでさえ、驚嘆を隠さない。カルラも、無言ではあるものの表情は戸惑っている。
「ポータル、座標登録ナンバー20」
リアの言葉に応じて、その魔方陣が風を吹き上げた。
全員の髪がぶわりと逆立つと、その視界が光で一気に白く染まる。
そして暗転。
「到着よ。……多分誰も知らない場所だから、ローディングに時間かかるけれど」
キャラクターはローディングが早いのか、それとも知った顔はローディングの必要がないのか。
全員の顔がすぐに見えた。
そして徐々に見えて来るその風景。
「……小屋?」
「そう。モンスター・キャラクター・自然現象の完全排除結界をエンチャントしてあるわ」
言ってくすりと窓の外を指差す。
「え……嘘でしょ何ここ!?」
俺にはまだ見えていないが、リリーにはもう見えているらしい。
「マジかよ……嘘だろ」
イシュメルにも見えているらしく、呆然とした声が聞こえてくる。
その景色が俺にも見えた。
そして、思わず絶句する。
見渡す限りの断崖絶壁。
そして、空を優雅に飛んでいるそれは……
「まさか、……巣?……ドラゴンの」
カルラが呆然と呟いた。
緑の鱗、巨大な体躯、……その体躯に負けない巨大な翼。
紛れもなくドラゴンだ。
「そう、あれは純粋竜ドラゴニア=ドラゴン。ここはその巣よ」
どこかは聞かないでね、とリアは苦笑した。
「ドラゴニアは誰も発見したことがない未発見種よ!?」
「……だからこそ、知られたくないの」
なるほど、と俺は感心した。
「この秘密も込み、か。さっきの儀式」
あ、と声がハモる。
「ご明察。……世界にたった一匹の竜よ。大事にしたいじゃない」
窓から竜を見上げ、リアが呟いた。