私は、生まれた時から色というものをを知らなかった。
生まれた時から見ている唯一の色が黒という色であることを知識として知ってはいても、それが他の人の言うところの黒と同じ意味を持っているのだと真に理解していなかった。
「――何故、過去形なのかね?」
君ならばそういう質問が返ってくると思ったから過去形だったのさ。ははは、気を悪くしないでくれよ、いつも私がこういう喋り方なのは理解しているんだろう?
色という概念を知ったのは小学生の頃だったかな。
私には5感のうち視覚が完全に欠けていたから、知識だけあってもそれを知ることは終ぞないと思っていたんだがね。そう、真に私は「色」と言うものを理解していなかった。
ところで、無趣味だった私には最近趣味ができてね。
え?唐突な話題変更だなって?いいや、それが話題変更ってわけでもなかったりする。
VRMMORPG、って言葉を聴いたことがあるかね?ほう、言葉は知っているのか。
そう、ヴァーチャルリアリティってヤツさ。はは、君はアキラと同じくらい察しがいいね。ん?アキラって誰かって?いや、すまない、こっちの話だから気にしなくていい。友人の名前だよ。
私はこのゲームを最近、友人の紹介で始めたわけなんだ。
どうせ、ゲーム内でも視界はないんだろう、と最初は乗り気じゃなかったんだがね。
勧められてと言うより騙されての域だったがね。まぁともかく、ゲームを始めるだけやってみることにしたわけだ。
それでも私は期待していたんだろうね。
だからゲームを始めた瞬間、私は期待を完全に裏切られたことを知ったよ。
とても良い方向に、私を感動にまで導いたと言う意味でね。
一生知ることがないと思っていた「色」ってものを知るくらいは出来たらいいんだが、なんて思っていたから、それが見えた瞬間に私は驚嘆したよ。
何せ私の目は今まで何も見たことがなかったんだからね。
「――見えた、と言うことかね?」
はは、驚いているね。私もさ、私もアレには驚いた。
脳の機能が問題で見ることが出来ないはずの世界を、私はあの世界で「見る」ことができたんだ。
色というものがどんなものなのか、今まで触れることでしか知らなかった形というものが見えたこと、言葉では語り尽くせない最高の気分の連続だった。興奮と感動と期待の連続だった。
まぁ、あの世界がこっちの世界とは全くの別物だとは知っているよ。だから別にこっちの世界が見えたとは思っていない。
君は小人を見たことがあるかい?背中に羽の生えた人間は?頭に角の生えた人間は?尻に尻尾の生えた人間は?ヒゲだらけで背の低い、筋肉の塊みたいな人間は?……おや、それは見たことあるって?まぁ君の言うそれは多分、私の言うのとは違うものなんだろうがね。
え?じゃあもうここには来ないのかって?
馬鹿を言わないでくれないか。
さっき無趣味だとは言ったね。でも実は私にはたった1つだけ趣味があるんだよ。今は2つになったがね。
君と話すことは何よりも楽しいんだ。その楽しみを私から奪うような真似だけは、神にも悪魔にもさせはしないさ。――はは、泣くことはないだろう?悲しくて泣いているわけでないことくらいは私にもわかるが、君がそんな風にしていると私にまでその泣き虫菌が移ってしまう。
また来るよ、神父。君の声を聞きにね。
さぁスージー、帰ろうか。
おいおい、君は盲導犬だろう、役目はしっかり果たしてくれよ。……わかったわかった、早く帰ろう。
じゃあ神父、また来週。その時は、向こうの世界で数々の命をこの手で絶った懺悔でも聞いてくれ。
RealCelia 第二章
ブゥン、と動作音を響かせている方に耳を向ける。
静音で高性能が売りであるはずのパソコンなのだが、それでも買った当時からこの音は、常にと言ってもいいほど常に音を響かせている。買った時にアドバイスをしてくれた友人によれば、
「この程度の音ならいいもんだ。どんなに質のいいパソコンでも完全に消すことはできないよ。お前は耳がいいからね、その分気になるかもしれないが、まぁゲームを開始すればどうせ気にならなくなる」
と、半笑いで言われた後は気にしないようにしている。まぁ実際ゲームを始めれば現実の音など全く聞こえないので、友人の言ったことは真実なのではあるが。
ヘルムコネクタ、というものを小サイズ化して作られた「ヘッドセット」なるものを頭に付けると、いつもどおり外界の音がスイッチを切るように消えた。
ヘッドセットに付属されているヘッドホンのせいではない、ヘッドホン程度であれば、私の聴力は音楽かたとえかかっていても、外界の音を聴き漏らすことは――ほとんど――ない。
まぁ家には鍵がかかっているし、部屋のドアにも部屋と玄関の間のドアにも厳重に鍵はしてある。
逆の意味でちょっと危険な気がしなくもないが、このゲームにおいては、体調の変化を最優先に設定しているらしく、以前風邪で体調が悪化した際には、あの鈍いアキラにでもわかる程度に顔色が青く変色していたらしい。鈍いと言えばあの男は、自らを慕う女性の存在に気が付いてはいないことだろうが、実はとある女性に慕われているというのは、彼を知るメンバーほぼ全員の共通見解である。その女性本人は嘘が嘘だとわかるほどにうろたえながら完全否定していたが。
余計なことを考えている間に、私の目の前に1体の人間が浮かび上がった。
アキラの同僚、私の「狩り友達」でもある、トラスト嬢製作の、私そっくりだというアバターだ。
友人が写真を送り、それを見ながらそっくりに作ったとのことだが、友人が感嘆の溜息とともに最大級の賞賛をしていたので、間違いなくそっくりに作られているのだと思う。
アナウンスに従い、キャラクターの名前を告げると、アバターの全体像がポリゴンとなって嵐のように舞い上がった。
この「ローディング」と呼ばれる現象――私は他のゲームをやったことがないので何ともいえないが、パソコンやテレビゲームのようなものにはほとんどの場合、この「ローディング」が必ずあるのだそうで、面倒ながらも「儀式」だと思うことにした。
以前は単にけたたましい音が鳴り響き、ポリゴンが自分に付着していくというものだったらしいが、現在はいくつかのパターンから選択可能だ。私は「tornado」という種類を選択した。
私の顔は世界認識で「渋い」のだそうで、現実で友達であるところの「友達」……ゲームの名前は何だったか。ともかく「友達」が勝手にトラスト嬢に提供した写真から、それを数年ほど若く、彼女が作ってくれたものだ。
ゲームをやり始めてからまだ間もない私から見ての感想としては、見るに、「これが厳ついというものか」と認識せざるを得ない。
アキラ曰く「イケメンめ」とのことだが、イケメンとはなんのことか。日本語なのだろうがさっぱり意味がわからない。言葉をイメージとして伝えるというシステムを取っているらしいこのゲームを持って解読不能の言葉とは、ひょっとしたらアキラの造語なのだろうか、それとも造語ですらなく意味は特にないのだろうか。まぁ英語から日本語に訳す際も時々誤訳があるというから完璧ではないのだろうし、仕方ないことなのだろう。
視界が開けると、「よう」と一人の男が手を上げた。
「アキラか、奇遇だな」
「いや、今日は教会の日だったろ。大体このくらいにログインすると思って待ってた」
前に話した参拝の日を覚えていて、酔狂にも私がログインするのを待っていてくれたらしい。しかも私が昨日落ちた場所の近くで。
「イシュメルやトラストは今日は?」
「トラストはレベル引き離しすぎたから今日は生産だとさ。イシュメルは仕事」
確か、律儀にレベルを数えているアキラのレベルが35だったはずだ。少なくとも昨日までは。
「引き離しすぎた……?彼女のレベルはそれほど高くなったのか」
見目麗しい青き少女を思い浮かべつつ聞いてみると、アキラは苦笑した。
「……あいつさ、こないだ俺が仕事行ってる間にソロ狩りしまくってたみたいでさ」
アキラの言葉を聴くだけで、その情景が目に浮かぶようだ。
続けてアキラが言うには、レイピアと魔法を駆使する彼女は、先に始めたアキラのレベルをあっと言う間に追い越した上、初期魔法だけを広く浅く習得し、どんどん強いエリアへと進みつつコツを掴んで行ったらしい。
ちなみに私のレベルは彼らと一緒にやるうちにスムーズに上がり続け、現在20程度のはずだ。もう数えてはいないので忘れたが。
「昔からハマるとやりこむからなぁ、アイツ」
そう言葉を区切ったアキラは立ち上がり、軽く前屈運動を始めた。
「――別に現実の体が痛むわけでもないだろう?その前屈は必要なのかい?」
「気分だよ気分。こうやってると『やるぞー!』ってならね?」
そういうものか、と呟いてみるが納得はしない。
「――で、相棒は今日は?」
「同時ログインだとどうしてももう1つのパソコンのスペックの問題でね……」
自分と同時にログイン作業を始めた私の相棒は、昨日確かにここでログアウトしたはずだ。なのでここで待っていれば必ずここに現れる。
「ま、前屈を続けたまえ。私はやらんけどね」
「ひでぇー」
「……お待たせしました」
馬鹿噺で盛り上がっていると、ふわふわのブロンドヘアーの相棒が現れた。
「リラ、こんにちは」
「こんにちはアキラ」
リラ、と呼ばれたブロンドがちょこんと頭を下げて見せる。
アキラは彼女の現実での姿を知らないが、現実の彼女の姿とこのアバターの姿が違うことだけは知っている。
やや背の低い、これもまたトラスト嬢の作ったアバター。
彼女の持ち得る限りの「モエ」を実装した、とトラスト嬢自身が自負する作品なのだと言うが……アキラですらも「モエ」らしい。他の友人には無愛想に見えることもあるというのに、ことリラに対しては、まるで父親かのようだ。他のプレイヤーが近寄ろうとすると睨みを効かせるあたりまで含めて。
「さて。揃ったところで行こうか」
言って私が立ち上がると、リラは「はい」と、アキラは「そうだな」と同時に言った。
「今日はどこ行く?」
アキラの問いに、フィールドダンジョンが2つほど頭に浮かぶ。
ひとつはフィレオの洞窟。
弱いアンデッドがぽこぽこと湧き出るじめじめとしたダンジョンだ。
効率はいいが見た目が気持ち悪い、とはアキラの弁だ。そして匂いがキツい……こちらはリラの弁だ。
もうひとつはホロルの空島。
見た目と匂いは最高だ。何故なら一面の花畑。
ただし行くのに手間がかかる上、ログアウト禁止区域で、さらにカップルが多い。
「あー……ホロルはやめ」
「フィレオは匂いが」
二人同時にそれぞれの主張。
「いやでもほら、カップルが」
「あの匂いだけはどうしても」
そうして二人は主張を続けるのだが、変なところで息が合うのがこの二人だ。
今回は言い争うところで息が合ったらしく、匂いが、の一点張りとカップルが、の一点張りとで一触即発だ。
思わず溜息を吐くのを抑える。
「じゃあ間を取ろうか」
私の言葉に二人が振り向いた。
「――あぁなんだ」
アキラが行き先に気付いたのか、ホロルに行くのと同じ程度のイヤそうな顔をした。
「うん?」
その理由は知っているがあえて口にはしない。
まぁ口にすれば「じゃあ何でここにしたんだよ」と文句を言われるのは目に見えている。
「まぁ、別にいいんだけどさ」
アキラの声はそこで途切れた。
よほどカップルイチャイチャ庭園がイヤだったのか、もしくはそれよりはマシだと判断したのか。
まぁある意味効率が良くはないところなのだが、ある意味では効率がいい場所なのだ。
そして安全でもある。
通称「炭鉱」。
アンデッドモンスターはいないが、通称「鉱夫」と呼ばれるモンスター――ちなみに正式名称「鉱山モグラ」――がかなりの頻度で地面から湧き水のごとくポップする、かなり高度な中級狩場。
最初アキラと一緒に行った時、あの頃は私のレベルもリラのレベルもかなり低く、一応善戦はしたものの結局敗退し、命からがら逃げ帰った経験がある。
しかし今では3人ともレベルも上がり、連携も取れるようになった。楽勝とはお世辞にも言えないが、死なない程度に経験を稼いで撤退するくらいはできるようになったという程度の腕前はある。まぁまだ3人のうち一番レベルの高いアキラに頼ってしまうことになってしまうのは否めないが。
「『我願う。風よ吹け。荒れ狂い壁と化せ、……ウィンドウォール』」
私の言葉に応じ、アキラの背後に風が数秒吹き荒れ、アキラを背後から襲った矢がその風に飛ばされた。
「サンキュ」
言うなり、振り向き様にアキラが投げ用のナイフを投げた頃にはすでに風は止み、アキラを襲った矢を撃った鉱夫が断末魔にギギ、と鳴いて地に伏した。
私たちは一人と二人、アキラとその他に分かれて湧き続ける鉱夫を狩り続ける。
どうやら鉱夫は単体モンスターではなく、群れで1匹という単位らしく、一度湧き始めると軍隊のように統率力があり、そしてもぐら叩きのように地面から顔を出しては引っ込めるという奇抜な攻撃方法でこちらを攻撃する。まぁ経験値は一応、群れ単位ではなく匹単位であるところはゲームの良心か。
リラはモグラをひたすら素手(正確には鉄製グローブ)で殴り、簡単に気絶する鉱夫が意識を失ったところをアキラがレイピアか投げナイフで仕留める。
私の役割はいわゆるところの「盾」だ。
後衛しかできない私は、アキラやリラの行動を観察し、敵が奇襲攻撃をした際に今のように防御・行動妨害系魔法で隙を作るという役割。まぁ私の役割が一番厳しいのは言うまでもないが、アキラの方でも私の方を注意してくれており、場合によっては投げナイフで援護してくれるので安全だ。
ちなみにこの狩り方を考案したのはトラスト嬢だ。
元々私の位置はトラスト嬢の位置であり、リラの位置はアキラの位置、今のアキラの位置はとある弓使いの位置らしい。
固定というわけではないが、3人は頻繁にパーティを組み、こう言った効率のいい狩り方を考案しては実践するという楽しみ方を好む。
まぁ必ずしもそれが成功するわけではないし、以前死んでしまって危うくキャラクターをロストしかけたらしく最近は慎重になってはいるのだが。
と、リラの背後に鉱夫が現れ、
「『我願う。風よ吹け。荒れ狂い壁と化せ、……ウィンドウォール』」
私の魔法で行動を一瞬阻害された直後、気付いたリラによって殴られ気絶した。
「そろそろ逃げか」
アキラが呟くと同時、鉱夫たちが穴から這い出し、一目散にその場を散った。
「何匹だ?」
石を拾いながら聞く。
「多分5匹。リラはそっち頼んだ」
散った数匹の数をざっと数え、一番少ない方向にリラをさらりと誘導すると、アキラは数の多い方へナイフを投げた。
小気味の良い風斬り音を立て、ナイフはあっさりと2匹の命を絶つ。
「『我願う、赤き気高き紅蓮よ、その姿をここへ示せ、ファイアー!』」
呪文を唱えつつ、アキラが追ったほうでもなくリラが指示された方でもない鉱夫を狙って石を投げ、その石に意識を集中する。
ひとつは命中。ギッ!と声を立て、鉱夫はその場に倒れ伏した。もう一匹を狙おうと石を構えたところで、アキラのナイフがもう一匹に命中し、背後でゴン!と音が聞こえて振り返れば、リラが最後の1匹にトドメを刺したところだった。
そして全員、しばしの沈黙。
――耳を刺すような沈黙が数秒続き、やがて鉱夫が全滅したと悟ったアキラがOKサインを出す。
「――お疲れ」
ほっと一息。
「今のは結構大きい群れだったね」
私が苦笑混じりに呟くと、「その前ので何匹か逃したから合流されたか」とアキラが苦笑した。
鉱夫の戦闘ルーチンの高さは意外と低い。
奇襲をかけてくるもの以外に関してはほとんど真っ向勝負だが、彼らの場合は数が減ると逃げるのが厄介だ。
しかも散り散りに逃げるので、ソロではほぼ必ず、何匹かを逃がしてしまうことになるのだが、その逃げた何匹かが別の群れに合流し、さらにそれが繰り返されることで、時々今のような鉱夫による巨大集団が出来上がることがある。ちなみに今の群れは数えられただけで58、数え間違いや数え損ないを含めて60ないし70程度だろうか。まぁ通常が何匹かわからないので何とも言えないのだが。
「そろそろ一旦出るか?」
アキラは疲れたのか飽きたのか、休憩を挟みたいようだ。
逆にリラの方はまだ物足りないらしく不満そうな顔。
――と、不意に。
ひゅん、とサウンドエフェクトを鳴らし、1人の男性が目の前に現れた。
一瞬驚くリラだが、私とアキラはもう慣れたものだ。アキラの表情は「またか」とそのプレイヤーを見下してすらいる。
そのプレイヤーは周囲を確認するわけでもなければ表情を変えでもなく、数秒、……いや一秒も経たない間に音もなく姿を消した。
壊して使うことで今いるダンジョン内をランダムにテレポートできるアイテムを使ったのだろう。おそらく、現れた時と同じように。
「――びっくり」
「……さすがに俺はもう慣れた」
リラはまだ慣れないのか驚いたままだが、アキラは溜息すら吐きながら呟いた。
私はと言えば、慣れたと言えば慣れたが、唐突に出現しては無表情に消えて行く彼、――いや『それ』に何の感慨も起きない。
「よくやるねぇ、――運営はまだ動かないのかな」
戦闘中だとウザかったな、とアキラが洩らすのを聞いて、心底そのとおりだと私も同意した。
BOT、という言葉をご存知だろうか。ロボットの略らしいが、工業系のロボットやアニメなどのロボットではない。
別の名称で言えば、「マクロ」、「自動実行プログラム」などがそれにあたる、要するにチート行為だ。
ネットゲームに関わったことのある者であれば、一度は聞いたことがある程度に有名らしい。
私はネットゲームどころかゲームそのものが初めてのため、アキラから聞いた話ではよくあることのようだ。
ネットゲームでは、人間が全て操作をすることを前提にバランスが作られているものが大半なのだが、そういったプログラムを導入したプレイヤーがいる場合、そういったバランスの全てを覆してしまうのがこのBOTという存在だ。
当然ながら、ほとんどのゲームではこういった行為を不正としており、発覚した場合にはペナルティとしてゲームアカウントを削除されてしまうようなこともある。
だがまぁ、BOTが消えないのも無理はないと私は思う。
理由はいくつかあるが、理由の多くには利益が発生するという一言に尽きる。
BOTは24時間絶え間なく狩りをする。
つまりそれは、ドロップアイテムもその分多く拾得するということだ。
BOTを稼動させているプレイヤーが通常起動した時、レアアイテムがあればそれを高値で売り、またはレアアイテムではなかったとしても売却することで利益を得ることができる。
たかがゲーム内の利益じゃないか、と最初は私も思った。しかし現実に帰り、モバイルフォンのアクセシビリティを駆使して検索してみた結果、私の考えは大きく変わり、そうして納得した。
リアルでのゲームマネーの売買。
あぁそうか、確かにこれは「利益」に繋がる。
たとえアカウントを削除されてしまったとしても、彼らにとっては問題がないのだ。
利益でゲームを買いアカウントを買い、ゲームで再び利益を得るだけなのだから。
まぁ当然ながら、このゲームにもそういった規約は存在する。
存在するにはするが、どんなに取り締まろうともそれが「無駄な努力」なのであろうことは周知の事実だ。
現に、――これはアキラから聞いた話だが――月に数万ものアカウントが全世界で削除されている。にも関わらずBOT撲滅に至らないのは、もはや運営のせいというわけではないということだ。
プレイヤーからの目撃情報を元にする?――いいや、私怨で無罪のアカウントを削除してしまう恐れがある。現に過去にそういったゲームがあった。
ならばRMTをしたと思われるプレイヤーの方を規制する?――この方法も過去に大問題になったケースがあるらしい。
BOT撲滅は現状無理、というのがプレイヤーたちの大半の意見のようだ。
無理なら無理と諦めるのが一番いいのだろう、だが。
「あああうぜぇッ!」
アキラがイラついた声を上げた。同感だ、と声に出さずに苦笑する。
リラはよくわかっていない顔だ。これはBOTだと言ってやれば理解はできるのだろうが、リラ的にはどうしてこれが悪いことであるのかの理解もできていまい。
それでもせっかくポップしたモンスターの大半をプログラムによって倒すだけ倒ししっかりアイテムを全部拾って消える行動だけを、今日だけですでに10回以上見たので、リラもしっかりイヤな顔はしているのだが。
さすがにアキラじゃなくてもこれは許容範囲を超えていると言えよう。
「ホロルとどっちがいいかね」
「――くっそ、そう来るかよ」
皮肉を投げてやると、アキラはうんざりした顔で苦笑して見せた。