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No.16740の一覧
[0] RealCelia(オリジナル/VRMMORPG)*第二章開始[佐伯 緋文](2015/09/27 03:41)
[1] 1- 「ラーセリアへようこそ」[佐伯 緋文](2012/10/15 23:26)
[2] 2- クソゲー?[佐伯 緋文](2012/10/17 00:42)
[3] 書物 「初心者さんへ」[佐伯 緋文](2012/10/19 12:11)
[4] 3- 「アタシ達に追い付いて来い」[佐伯 緋文](2010/02/26 02:41)
[5] 4- 初めての修練[佐伯 緋文](2010/05/22 23:45)
[6] 5- 冒険の仲間[佐伯 緋文](2010/05/22 23:53)
[7] 6- リアの真髄[佐伯 緋文](2010/03/02 23:01)
[8] 7- 相棒[佐伯 緋文](2010/03/03 01:40)
[9] 8- イベント[佐伯 緋文](2010/03/04 07:23)
[10] 9- 黒の恐怖[佐伯 緋文](2010/03/05 02:46)
[11] 10- 二重の歩く者[佐伯 緋文](2010/03/07 12:00)
[12] 11- ゲームマスター・エクトル[佐伯 緋文](2010/03/12 00:21)
[13] 12- 他力本願[佐伯 緋文](2010/04/01 07:32)
[14] 13- 壊滅情報[佐伯 緋文](2010/04/01 07:48)
[15] 14- 蛇の潜む藪[佐伯 緋文](2010/03/26 01:14)
[16] 15- サラマンダーの脅威[佐伯 緋文](2010/03/31 23:07)
[17] 16- 評価[佐伯 緋文](2010/04/08 16:50)
[18] 17- 作戦[佐伯 緋文](2010/04/16 16:11)
[19] 18- 消沈[佐伯 緋文](2010/04/19 02:07)
[20] 19- 要塞[佐伯 緋文](2010/04/26 07:57)
[21] 20- 賭け[佐伯 緋文](2010/05/02 01:05)
[22] 21- 自己像幻視[佐伯 緋文](2010/05/13 00:31)
[23] 22- 大地の蜥蜴[佐伯 緋文](2010/05/16 03:05)
[24] 23- 深緑の王者[佐伯 緋文](2010/05/16 23:59)
[25] 23+1/3- 真紅の恐怖[佐伯 緋文](2010/05/18 00:00)
[26] 23+2/3- 真炎の恐怖[佐伯 緋文](2010/05/20 02:35)
[27] 24- 激昂の遠吠え[佐伯 緋文](2010/05/25 00:10)
[28] 25- タイムオーバー[佐伯 緋文](2010/09/14 02:55)
[29] 26- 帰還[佐伯 緋文](2010/09/20 02:57)
[30] 27- 同僚の参戦[佐伯 緋文](2010/06/18 02:00)
[31] 28- 絶望的状況[佐伯 緋文](2010/06/25 04:25)
[32] 29- セーブポイント[佐伯 緋文](2010/08/17 14:59)
[33] 30- 攻城作戦[佐伯 緋文](2010/10/06 00:26)
[34] 31- 白翼の幻[佐伯 緋文](2010/10/26 03:46)
[35] 32- 死者の行方[佐伯 緋文](2011/01/29 00:53)
[36] 33- 割り振り[佐伯 緋文](2011/03/14 04:22)
[37] 34- ファンブル[佐伯 緋文](2011/05/08 01:00)
[38] 35- 突入[佐伯 緋文](2011/06/28 17:13)
[39] 36- 開戦[佐伯 緋文](2011/08/12 04:17)
[40] 37- 無謀な突貫[佐伯 緋文](2011/10/06 01:29)
[41] 38- モンハウ[佐伯 緋文](2012/04/11 08:29)
[42] 39- 爆発[佐伯 緋文](2012/04/14 00:07)
[43] 40- 決着[佐伯 緋文](2012/05/18 10:34)
[44] 41- イベント終了[佐伯 緋文](2012/11/21 18:51)
[45] 42- オートマティック[佐伯 緋文](2012/12/14 13:15)
[46] 43- レジェンドモンスター[佐伯 緋文](2013/02/19 16:53)
[47] 44- ミーティング[佐伯 緋文](2013/04/14 23:49)
[48] 45- キャリッジ[佐伯 緋文](2013/05/09 00:12)
[49] 46- クエスト(前)[佐伯 緋文](2013/08/06 03:01)
[50] 47- クエスト(中)[佐伯 緋文](2013/08/06 04:47)
[51] 48- クエスト(後)[佐伯 緋文](2013/08/27 01:22)
[52] 48+1/2- トラストの試行錯誤[佐伯 緋文](2013/08/31 23:25)
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[16740] 40- 決着
Name: 佐伯 緋文◆d27da47b ID:0f26c9ba 前を表示する / 次を表示する
Date: 2012/05/18 10:34
 こっち側に撤退、とそう宣言してから数分が立つ。
 とりあえずこちらに即座に戻ってきたのはムルだ。
『今度は何をやらかそうと言うのやら』
 フィリスがあっはは、と笑いながら、撤退のために剣を振りながら進路を開く。
 リアはその背を守る役か、ゲームマスターからの一撃一撃を捌きつつ――直撃を受けなければ威力はさほど高くはないらしい――時々受けては即座に回復しつつ。フィリスの方をちらちらと見ながら後退する。
『さぁ、何かしらね』
 呪文の間に溜息混じりに呟いたフィリスへの返答は、しかしくすり、と笑いを含んでいた。
 その様子を見ながら、ゲームマスターの表情をとりあえずチェックする。

「撤退してんだから逃がしてくれればいいのにな。意外と粘着質だな」

 あからさまに挑発してみると、一瞬、しかし確かにエクトルの視線がこちらへ泳いだ。
――思った通りだ。俺たちの班のリーダーが俺だと認識した上で、俺へのウィスパー監視。
 だとすれば、撤退だと言った言葉も聞こえていたはずだ。
……と、イシュメルの矢が風を切る音。
 俺とリアたちのちょうどど真ん中くらいまで後退し、すでにモンスターたちから距離を離している。
 風を切る矢の狙いはゲームマスターか。正確なその軌道はゲームマスターを狙ったもののようだ。
――とはいえ敏捷の差か、矢は狙った場所へは刺さらず、当たったとしてもせいぜいが腕か足だ。
 それでもエクトルの集中力は少なからず削っているらしく、リアの攻撃が何度か当たっている。

 その足元。――ゲームマスターは気付いていない。

 あと少しでいい。少しだけリアとフィリスが引き付けてくれればいい。
――いつでも実行に移せるよう、カルラに一応目配せを送る。
 一瞬目があったカルラに、指を3本立てて見せる。
 カルラの方はもうそれで見ない。
 たとえカルラがいなくても、この作戦は決行できる。

――あと少し。あまり引き付けすぎても困る。そろそろか。

 指を2本に減らす。
 間を俺の時間間隔で1秒開け、2本から1本へ。

「――イシュメル、牽制任せた!」

 言うなり、指を全てたたみ、同時にダッシュ。
 ここからゲームマスターの場所まで何秒かかるか、と言う計算はいらない。
 さっき玉座横断をした時の感覚と大差ない。
「アズレト!」
 叫び、かすかなアズレトの返事を無視してさらに走る。
 背後からかすかに足音。……カルラだろう。
『――何しようってんだ』
 呆れたように呟くイシュメル。それと同時に無数の矢が俺の背後から飛んだ。
 何かのスキルなのか、それとも俺に当たるのを覚悟で「数撃ちゃ当たる」なのか。
 俺に当たっていないところを見るとどうやら前者だろう。
 フィリスとリアが驚いた顔でこっちを見る。それと同時に、正面通路からゲームマスターの背後に走る人影。――アズレトだ。
『こっちだゲームマスター!』
 アズレトの声に、ゲームマスターが驚いたように振り返る。
――声をかけるのが早すぎだアズレト、と一瞬思ったがすぐ気付く。

 予定より俺が動くのが遅かったらしい。つまりアレはトラストの計算か。

 今戦っているリアを、そして走って近付く俺を無視してアズレトの方へ意識を向けるエクトル。
 いつだって、突発事項さえなければ――トラストの計算はいつだって正しい。
 エクトルの足が地を駆ける。
 あの超速攻撃がアズレトに向かうと、アズレトは身を翻してそれを避ける。
――が、エクトルの攻撃が直角に曲がる。
 毎回思うが、あの速度で曲がるとか反則だ。
 だがアズレトのHPの高さも反則に近い。直撃を受けたにも関わらず、何事もなかったかのようにバックステップで距離を取る。
 距離を詰めようとゲームマスターが踏み出すのとアズレトが杖を振り上げるのはほぼ同時。
 それに一歩遅れて俺とカルラが辿り着いた。
「――行くぞ、ゲームマスター」
 肉声で聞こえるアズレトの声。振り上げた杖が一閃される。

 スキル名、「神の怒り」。

――杖スキル中唯一の範囲攻撃で、中程度の範囲全ての敵に対し、MPを全消費して使用される技よ、とリアから受けた説明を思い出す。
 アズレトの杖を軸に、半径1メートルほどの床がバキバキと悲鳴を上げた。
 すでに入っていた床の亀裂が、アズレトのスキルを受けて大きく広がり、音を立てて崩れ落ちる。
 狙いは1つ。

「全員突貫!」

「マジで!?」
 言いながらも、フィリスは律儀にも真っ先に――俺が走り出すより早く、穴へと走っていた。
「マジで!」
 俺もそれに続きながら叫ぶ。
 そう。トラストの作戦はゲームマスターの孤立。
 穴に落ちたゲームマスターは自力で戦うか、新たに別種のサモンをしなければいけない。
 玉座1Fにいるボスが落下してきたとしても新たにサモンしたとしても、これだけ密集しているボス全部を相手にするよりは遥かにマシなはずだ。
「なるほどそういうことね、ひゃっほぅ!」
 作戦の意図に気付いたのか、言いながらフィリスが穴へとダイブする。
 俺は穴の淵で一瞬躊躇し、
「――言いだしっぺはさっさと降りろ」
 イシュメルに蹴られて仕方なく跳び降りる。
『……流石に驚いたわ。……考えたわね』
 リアがぽそりと呟いて、苦笑しつつ背中の4枚の羽でふわりと浮いた。
「――そういえばリアってティタニアだったっけ」
 ほとんどずっと羽をたたんでるからすっかり忘れてた。
『私も忘れていたわ。実は飛ぶのは苦手なのよ』
 くすりと笑いながら冗談なのか本気なのかわからない言葉を返し、リアは滞空したまま魔力剤を呷った。
 ガギン!と金属音がして、思わずそちらに視線を向ける。
 フィリスのタイ剣とエクトルの短剣が交錯していた。ってか短剣の立てる音じゃなかったぞ。
――と思う間もなく、エクトルの手が高速で横薙ぎに動く。
「――ッ!」
 フィリスの腕にひと筋の赤い線。
 大したダメージではないのだろう、フィリスはそれを無視し、タイ剣を片手に持ち替え、離した右手で腰の細剣を抜き、そのままエクトルの喉元へ突き込む。
――が、エクトルの方が一瞬早い。予想していたのか気付いたのか、顎を反らしてそれを避け、それをカムフラージュに今度はフィリスのがら空きの腹へ短剣を凪ぐ。
「チッ――」
 舌打ちをしながら、フィリスがバックステップでそれを回避。
 その瞬間を狙ったのだろう、イシュメルが弓を放つ風切り音。
 俺の後ろにいたはずのイシュメルはいつの間にかチョロチョロと移動していた。
 ちらりとそちらを見たエクトルの姿がブレる。
「しま――ッ!」
 イシュメルの叫びも、危ない、と他の全員が思うのもすでに遅い。
 エクトルの姿はすでにイシュメルの懐に飛び込んでいた。
「イシュメル!」
 叫び、フィリスがそれを追う。
「目障りだ」
 エクトルがたった一言を呟くと、もう一度エクトルの姿がブレる。
 風を切る音。
 エクトルが前にリアに向けて言った言葉がフラッシュバックする。
――ヤバいと思い咄嗟に地面を蹴ると、そこに上から黒い影。
 短剣の立てる音ではない、と何度も思った金属の衝突音。

「――随分乱暴ね、ゲームマスター」
「言っただろう、――弱い者から片付けるのは鉄則だと」

 言いつつも、さっきサシで自分と渡り合っていたリアを相手にするのはさすがにキツいのか、フンと鼻を鳴らして距離を取る。
   がギィン!
――と見せかけてもう一度こちらを狙ったのか、瞬きした瞬間にいつの間にかリアが俺を庇っていた。

「――下がりなさいアキラ。悪いけれど少し邪魔よ」

 言われて仕方なく後ろへ下がる。
 それと同時に一歩カルラが前へと進む。
「『我願う、猛る獰猛なる覇者よ、内なる力を我が前に示せ、――』」
 口から滑らかに発せられる呪文。最後の一語がないのはタイミングを見ているのか。
 フレイムは横薙ぎの炎。――今撃つとリアに当たるから中断しているのだろう。

「ラスボスさえ倒せばゲームクリアってのも鉄則だよ!」

 フィリスが叫びつつエクトルの背後に迫る。その声にいつもの飄々とした感じはない。
 目の前でイシュメルを倒されたからか。
 しかし頭に血が上っているわけでもないようで、一瞬視線を走らせると瞬時にバックステップ。
 それに合わせたわけでもないだろうがリアも数歩距離を取る。

 そこに無数の赤い糸。

「――!」
 エクトルは驚いたように目を見開くと、腰から剣を素早く抜いた。
 その剣で『糸』を絡め取るように逃げ場を作り、赤い糸の包囲から脱出する。
 というか、あの糸実体があるのか。――まぁ、実体がなかったらモンスター捕縛したりできないよな、などとどうでもいいことを考える。
 しかしそれを見逃すフィリスやリアではない。
 脱出する先を見越していたのか、まずフィリスが大きく振りかぶったタイ剣をその首目がけて振り下ろすと、リアがその逃げ道を塞ぐ形で進路を塞ぐ。
 舌打ちがウィスパー越しに聞こえ、エクトルの視線がリアとフィリスを一度づつ捕らえた。
 完璧とは行かないだろうが、これは行けるだろう。
――と思った瞬間。
 風を切る音と共にエクトルの体がブレた。
 まさかこっちに来るかと思わず身構え、思わず数回瞬きし、――
『――ッ、――!』
 ウィスパー越しに聞こえた呻きに思わずそちらに目を向け、絶句する。

 フィリスの懐にエクトルがいた。

『――済まないな。隙だらけだったものでな』
 あっさり呟くと同時に、フィリスの膝が崩れ落ちる。
 そこにさっき絡め取られたムルの赤い糸が動き、エクトルの背後から迫る。
 だが――冷静に攻撃するのはいいが冷静になりきれていない。
「サモン、ウィクトールバード」
 その言葉に応じ、数匹の鳥がエクトルと糸との間に現れると同時、赤い糸が鳥たちを絡め取り、蒸発するかのように鳥たちは焼け落ちた。
 それを見て気付く。さっきの状況でも同じ手が通じたはずだ。
 糸を防ぐだけなら召還で事足りるのに、わざわざ剣を使って脱出して見せた意図。
――隙を見せておいて相手の隙を突いた。エクトルのやったのはそれだけだ。
 フィリスを見る。――もはやぴくりとも動かない。
 俺は気付かず、指示すらせずに主力を無駄に失った。それだけだ。
「リア、蘇生は可能か?」
「――難しいわね」
 フィリスの蘇生はリアの一言で無理だと悟る。
 今いるメンバーで何とかするしかない。――そう決める。
 だが、俺に指示する裁量なんかない。皆それをわかってリーダーに俺を据えた。
 打開策を見つけるしかない。この状況でも勝てる策を。
 トラストは今どこにいるだろう。――一瞬そう思ってから、とりあえずは無視だと判断する。
 主力戦力になり得るのはムル・リア・アズレトだ。
――いかにフィリスが頼もしい主力であったのかがイヤというほどわかる。
 主力と言う意味ではカルラもだが、現状出て行かせるわけにはいかないので除外。俺は戦力外通告を自分で自分に出している。

「――この状況で集中力を殺ぐようで悪いが、質問は許されるのかゲームマスター」

 ウィスパーに気付いていないフリをしつつ、とりあえず話しかけてみる。
 当然ながら返答は返らないだろう、――と思ったが、
『どうせ気付いているだろう、構わないぞ。――システム以外の質問に限るがな』
 意外にもあっさりとウィスパー越しに返答が返る。
「いつからウィスパーを監視していた?システムじゃないから答えてくれよ」
『――くく、それに答える義理はないな』
 愉快そうに笑うエクトル。こちらからでは表情は見えないが、戦いながら笑う余裕があると言いたいのか。
『訂正しておこう。システムと作戦に関する質問以外の質問であれば答えよう』
 律儀に訂正しつつ、エクトルは右手に持った短剣を振る。カキンと音がして、弾かれたのは多分リアの放ったナイフだ。
『ダンシング・ソード』
 リアの涼しい声が聞こえると同時に、もう一度エクトルが短剣を振るう。
 今度は叩き落されるナイフが見えた。
「――じゃあシステムでも作戦でもない質問だ」
 今回、エクトルは何の説明もせずイベントを始めた。
 だから、

「イベントクリアの条件を聞かせてくれ」

 せめてこの程度の質問は許されて欲しい。
『――く、――っくく、今更それを問うのか』
 まさに今更だ。
 最初に問うべき質問。だがそれを誰もマスターに問わなかった。
 問わなかったから答えなかった。そう言われたら返す言葉もない。
――だから敢えて今、その質問を投げた。
 さぁ、答えるか答えないか。
 聞かれるまでもない質問であれば、当然答えは決まっている。
 タイムオーバー、ゲームマスター討伐、ゲームマスターを含む敵の全滅、そして俺たちの全滅。
――このうちのいくつかが答えのはずだ。

 なぜなら、それ以外の答えはゲームとして成立しないからだ。

『私を倒せばクリア、君たちの全滅がゲームオーバーだ』
 言ったな、と内心ほくそ笑む。
 これでほぼ勝利は確定した。――よほど運が悪くなければ勝てる。
 だが、――できれば運ではなく実力で勝ちたいところだ。
 運に左右される勝利は、ジャンケンで勝つのと大差ない。

 フィリスやイシュメルが死んだ時点で、戦闘による勝ち目はもう薄い。

 ないとは言わない。リアが主力となり、それを他全員でカバーしつつ戦えばあるいは、勝てる見込みは十分にある。
 だが向こうもそれは承知のはずだ。
――だとしたら、

「リア、ナイフはあと何本持ってる?」

 リアを主力にするわけにはいかない。
 主力はムルとアズレトだ。今現在、いい感じで挟み撃ちができる。
――だが、それすらエクトルが計算していたら……、いやもうそこまで考えている暇はない。
『20本ね。――どうするのかしら』
 20本。――予想より多い。
「操れるだけ操って撹乱してくれ。――できるか?」
 返事より先に、リアが動いた。
 浮かぶリアが、スカートの裾を軽く持ち上げて払うと、短剣がバラバラと零れ落ちる。
「ムル、リアと一緒に撹乱を頼む!」
 ムルも返事より先に動いた。
 と言うより、すでにその行動を予定していたのだろうか。
 無数の赤い糸がエクトル目がけて襲いかかる。
 エクトルがふん、と鼻を鳴らしたのがウィスパー越しに聞こえた。
『サモン、――』
 サモンの際、呼び出すモンスターの名前の前。ワンテンポ置く癖は把握している。

「今だフィリス!」
『――なッ!?』

 俺の声に驚愕し、エクトルが振り向いた。
『――ッ!』
 だが、当然ながら死んでいるフィリスが動くはずもない。
 ようやく謀られたと悟ったエクトルはすでに赤い糸に絡めとられる寸前だ。
『ッッ!』
 喉の奥から焦ったような呻きを漏らし、エクトルがバックステップしつつそれを剣で払う。
『ダンシング・ソード』
 リアの声にリアを仰ぐ。
 手には青い液体の瓶が2本。魔力剤が続く限り操る気満々らしい。
 エクトルは手に持つ短剣でそれを弾きつつ、腰から剣を抜いた。
『ダンシング・ソード、ダンシング・ソード』
 もう詰め将棋と同じだ。
 リアとムルが詰めて行き、背後のアズレトが奇襲。
 詰むはずだ。詰むと思いたい。
『ダンシング・ソード、ダンシング・ソード、ダンシング・ソード』
 リアの声が次々と短剣を操って行く。あれだけの数のナイフを、一本も落とさず操り続けるのはどのくらいの技術なのか。――リアさえよければ俺も試してみたいところだ。ってかリア楽しそうだな。
 あの魔法のMP消費は一体どのくらいなのか、と思った瞬間、ムルが糸で隙を作り、その隙にリアが手に持った魔力剤を一口含んだ。
 余裕のあるうちに飲んでいるのか、MPが枯渇したから飲んだのかはわからない。
『ダンシング・ソード、ダンシング・ソード』
 それでも間をほとんど置かずに操られる短剣が、徐々にエクトルに当たり始める。
『――チッ……!』
 舌打ちをしつつ、後ろに下がるエクトル。
 俺はちらりとエクトルが退がるその先を見る。
 物陰に隠れている、という情けない姿のアズレトと目が合ったと同時、アズレトは微かに一度頷いた。
――意図は伝わっているようだ。
 行けるはずだ。――そう信じたい。
 あとは運。これは詰め将棋ではないから、運の要素が絡んでくる。
 何かのはずみでエクトルがこの作戦の意図に気付くかもしれない。
 何か予期せぬことが起こるかもしれない。
『ダンシング・ソード』
 同じ呪文だけを繰り返しつつ、リアが再び魔力剤を――呷る。呷ったということは飲み干したということ。つまり魔力剤はあと1本か――と思ったが、リアは懐からもう一本魔力剤を取り出した。

――って、ちょっと待て。魔力剤そんなに残してたのか。

 今更気付いた。
 さっきMPが限界とか言ってた時、粘り続けられた理由はこれか。
 魔力を残してたわけではなく、魔力剤を隠し持ってたわけか。
『ダンシング・ソード』
 つまるところ、まだ全然続く。――リアの攻撃の方は余裕だ。
 ムルの赤い糸は、一度出したらMPを消費しないのか、器用に逃げ道を塞いで動く。
 いや、もう逃げ道云々ではなく当てるつもりでやっている。
 あわよくばこのまま絡め取ってやろうと考えているらしい。
 それでも背後に隙を残すあたり、一応は作戦の趣旨を理解しているのか。
『ダンシング・ソード』
 何十回目かの呪文の後、手に持つ魔力剤の瓶をリアは不意にエクトルに向けて投げた。
『――ッ!?』
 驚愕の表情を浮かべ、エクトルがそれを避けると、地面に落ちた瓶が砕け散った。
『……く、姑息な真似を!』
 言うエクトルの声にはすでに余裕はない。
 その調子で余裕を削って、いずれ辿り着くアズレトの位置で詰めだ。

――そう思った瞬間、それは起きた。

   がぁァッ!!
 上から聞こえる、何かが吼える声と爆音。
 思わず見上げ、
「――リア!」
 自分の考えの至らなさを呪う。
 崩れ落ちた床の穴。そのすぐそばに。
――よりによってタイラント!
『迂闊――、……ッ!』
 リアの声。回避したのかダメージは低そうだが、――背に湛えた黒い羽から煙。
『――ッ、ダンシング・ソード!』
 焼かれた羽では飛べないのか、頭を下に落下しつつ、それでもエクトルに向けてナイフを操る。
 操られたナイフはエクトルの腕を掠め、リアはどさりと音を立てて落ちた。
 いくつかのナイフがからんからんと音を立てて落下する。
「リア!」
『大丈夫よ』
 死んではいないようだが、それでも起き上がれないのか体を横たえたままだ。
『……ダンシング・ソード』
 リアはその状態でも詠唱をやめない。
 落ちていないいくつかのナイフが声に応じてエクトルを襲う。
『く、――しつこい!』
 言うなりエクトルはナイフを無視し、糸を剣で跳ね上げた。当然のようにナイフがいくつか肩に命中するが、しかしエクトルはそれすら刺さったまま、リアに憎悪の目を向ける。
 エクトルの狙いをすぐに察した。
「ムル!そっちへ行かせるな!」
『サモン、エンジェリックキャット!』
 俺の叫びとほぼ同時に、エクトルは腕を掲げて呪文を放つ。
 ムルが放った赤い糸は、現れた数匹の猫型モンスターを絡め取った。
 にゃあ!と断末魔を上げ、すぐに猫は掃討されるがもう遅い。
――と、物陰からアズレトが飛び出す!
 今リアを失えば致命的だ。アズレトの判断は正しいし、出なかったら俺は出ろと叫んでいたところだ。
 だが、それすらも遅い。俺は再び考えの甘さを思い知らされた。
 風を切る音。――高速移動スキル!
『あと、……何人だったかな?』
 言いながら、エクトルはリアに短剣を投げ付けた。
『――無念ね。……後は任せるわ、リーダー』
 任せるって言われてもな。……もう勝ち目ないだろ。
 残るは、戦力にならない俺とトラスト、そしてアズレトとムル、カルラ。
 ウェインたち5班や他の班の連中は、良くて城の外。悪くすれば5班を除いて全員敵だ。

 もう、戦闘での勝ち目はおそらく残されていない。

『残念だ。……私を追い詰めたその戦略は見事だったよ』
 ふん、と笑いながら、――リアはまだ息があったのだろう。肩に刺さったナイフを抜くと、それをリアにもう一度投げ付ける。
『特にナイフを操る技術は見事だった』
 それに、とちらりとアズレトに視線を向ける。
『あのまま追い詰められていたら背後から討たれていたか。――つくづく見事だ』
『あぁ、本当に見事だった』
 ゲームマスターの声に続いて、小声で可愛らしい声が聞こえた。
――ってトラストか。つい可愛らしいとか言っちゃったぞくっそ。
『――アレを使うだけで勝てるかもしれないというのに、使わずに勝とうと画策するとは』
 あっれ、そこは計算外だったのか?
 てっきりそれを狙ってるとばかり。
『しかしさすがに万策尽きただろう?……残りのメンバーで総攻撃という手以外は、だがな』
「今みたいに詰み将棋でまた詰めればやれるさ」
 一応言ってみる。
 だが虚言だ。……駒が足りない。一方向こうは、盾としてのサモンを含め、恐らく手駒となる駒は無数に……文字通り「無数」に持っているだろう。
『無駄だと思うがやってみるか?』
 中堅モンスターを大量に出されるだけで、数の上でも戦力でも圧倒される。
 ムルとアズレトに視線を向け、最後にカルラに視線を向ける。
 微かに、――俺にしかわからないほど微かに、カルラが頷いた。
「ムル、アズレト。……例のアレだ。間違いなくお前ら死ぬけど覚悟はいいか?」
 一応確認を取る。
『あんまりよくないけど仕方ないな』
『やれやれだね』
 二人ほぼ同時に苦笑混じりの言葉を呟く。
『ほう、まだ何かあるのか』
 楽しそうな。……いや実際楽しいのだろう。
 自らの勝ちを悟った戦いは、いつだって嬉しいものだ。

 だがそれでも8割方、俺たちが勝てる。

 運が良ければ、……全員無事で終わると思っていた。
 だがそれは同時に運が悪い――俺にとっては。
 結局ほとんど全部、仲間の優秀さに助けられて終わった形になる。――全員無事という意味ではそっちの方が確かに望ましいのではあるのだが。
 だが今回は運が悪すぎた。
――いや、運のせいにするな。俺が迂闊すぎた。
 運のせいにしようと思えばできる。
 フィリスが死んだのは、リアが死んだのは運が悪かっただけだと。
 だが、フィリスが死んだ時、……俺は頭の中で予想が付いていた。エクトルがそこまで計算していると気付かなかった。そこまで優秀ではないだろうと高を括った俺のミスだ。
 赤い糸を跳ね上げた剣。あれは咄嗟に出た苦し紛れの行動だったのだと思う反面、どうしてサモンで防がないんだと、――頭ではわかっていたはずだ。
 リアが死んだ時も同じ。――いや、こっちに至っては考えが足りなさすぎた。
 俺は予期せぬことが起きるかもしれないとはっきり考えていた。
 なのに、一番予期せぬことが起こり得る可能性、……玉座のモンスターたちを完全に念頭から外していた。――迂闊すぎるにもほどがある。

 後で謝ろう。……この戦いに勝つことができれば、それを土産に。
 これでも負けたなら、……もうジャパニーズドゲザでもするしかないな。

「カルラ、後は頼んだ」
 言うと、カルラはこくりと頷いた。
「ムル、アズレト。……エクトルの足止めを頼む」
『了解』
 言うと、二人は同時に返事を返して走り出した。その声が見事に同時だったので不謹慎にも笑みがこぼれる。
『足止め?……私を相手に足止めができると思っているのか』
 言うなり、エクトルとの距離が一気に詰まる。
 高速移動スキル。
 こちらに向けて。

――予想通りだ。

 俺は懐に手を入れ、それを掴むと同時にエクトルに向けて投げ付けた。
 頭の中で言葉を反芻する。
 それを使うための言葉、――俺が設定した起動コード。
 覚えているのは受け取ったときのアナウンス情報だけ。

[アイテム名【ギャンブルボム】ランク20、破壊力1から9999までランダム。起動コード:未設定]

『な』
 エクトルの、驚愕に満ちた表情が見えた。
 最後の最後で、――この最悪の状況で。
 例えダメージが1で、この戦いに負けようと。――いくらかの溜飲は下げた。
 思い残すことはない。

「神はサイコロを振らない」

 ピピ、と投げた爆弾から電子音にも似た音が鳴り響く。
[起動コード確認。威力9929]
「『ライト・クォリフィケィション・シールド』」
 カルラの声だけが、静かに響く。
 半透明の巨大な盾が目の前に現れ、俺たちとエクトルの間を隔てた。
――これで、エクトルが何をしてこようと、俺たちにその攻撃が、そして爆発が届くことはない。
『――ッ!?』
 息を飲む声。
 99290ダメージ。さすがに耐え得るものではないはずだ。
 勝利を確信する。
 というか期待値5000だからそのくらいだと踏んでたのに。ほぼ最大ダメージじゃねぇか。
 だが向こうにいるムルとアズレトは、そしてトラストは助からない。
 これほど最悪の状況はない。

 鼓膜を破ろうかという轟音。もはや音というより衝撃の塊が、鳴り響いた。


 何も聞こえない。動く唇から恐らく呟いているであろうと推測できる、カルラの残り何秒、の言葉すら、そして俺の、自分で呟いた「うへぇ」と言う呟きすら。
 というかカルラの声がウィスパーとしてすら俺に通って来ない。
 周囲を見回す。
 ほとんど黒煙に視界を遮られ、ほとんど何も見えない。
 ぼんやりと見えていたカルラの盾が消える。
 音がしないからか、どこか現実味のない光景。

『声は通らないか。天の声なら通るかな』

 どこかで聞いた声が響く。
 天の声、と言っていたがエクトルの声ではない。
 ちなみに天の声と言うのは、ゲームマスターが何かの告知をするための「声」を指す言葉だ。
 視界が徐々に晴れて行く。――と思った矢先、煙が何かに吸い込まれるかのように渦を巻いて消えて行く。
 そして、そこに二人の影が見えた。
「な――!?」
 1人はエクトル。
 無表情に佇んでいたその顔が、俺の顔を見るなりにやりと笑う。
 もう1人は。

――ゲームマスター、佐伯緋文。

 その手から、見覚えのある半透明の巨大な壁が聳え立っている。
 ライト・クォリフィケィション・シールド。
――つまり。
 俺たちの負けと言うことだ。


 確信した瞬間、――脱力した。


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