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No.16740の一覧
[0] RealCelia(オリジナル/VRMMORPG)*第二章開始[佐伯 緋文](2015/09/27 03:41)
[1] 1- 「ラーセリアへようこそ」[佐伯 緋文](2012/10/15 23:26)
[2] 2- クソゲー?[佐伯 緋文](2012/10/17 00:42)
[3] 書物 「初心者さんへ」[佐伯 緋文](2012/10/19 12:11)
[4] 3- 「アタシ達に追い付いて来い」[佐伯 緋文](2010/02/26 02:41)
[5] 4- 初めての修練[佐伯 緋文](2010/05/22 23:45)
[6] 5- 冒険の仲間[佐伯 緋文](2010/05/22 23:53)
[7] 6- リアの真髄[佐伯 緋文](2010/03/02 23:01)
[8] 7- 相棒[佐伯 緋文](2010/03/03 01:40)
[9] 8- イベント[佐伯 緋文](2010/03/04 07:23)
[10] 9- 黒の恐怖[佐伯 緋文](2010/03/05 02:46)
[11] 10- 二重の歩く者[佐伯 緋文](2010/03/07 12:00)
[12] 11- ゲームマスター・エクトル[佐伯 緋文](2010/03/12 00:21)
[13] 12- 他力本願[佐伯 緋文](2010/04/01 07:32)
[14] 13- 壊滅情報[佐伯 緋文](2010/04/01 07:48)
[15] 14- 蛇の潜む藪[佐伯 緋文](2010/03/26 01:14)
[16] 15- サラマンダーの脅威[佐伯 緋文](2010/03/31 23:07)
[17] 16- 評価[佐伯 緋文](2010/04/08 16:50)
[18] 17- 作戦[佐伯 緋文](2010/04/16 16:11)
[19] 18- 消沈[佐伯 緋文](2010/04/19 02:07)
[20] 19- 要塞[佐伯 緋文](2010/04/26 07:57)
[21] 20- 賭け[佐伯 緋文](2010/05/02 01:05)
[22] 21- 自己像幻視[佐伯 緋文](2010/05/13 00:31)
[23] 22- 大地の蜥蜴[佐伯 緋文](2010/05/16 03:05)
[24] 23- 深緑の王者[佐伯 緋文](2010/05/16 23:59)
[25] 23+1/3- 真紅の恐怖[佐伯 緋文](2010/05/18 00:00)
[26] 23+2/3- 真炎の恐怖[佐伯 緋文](2010/05/20 02:35)
[27] 24- 激昂の遠吠え[佐伯 緋文](2010/05/25 00:10)
[28] 25- タイムオーバー[佐伯 緋文](2010/09/14 02:55)
[29] 26- 帰還[佐伯 緋文](2010/09/20 02:57)
[30] 27- 同僚の参戦[佐伯 緋文](2010/06/18 02:00)
[31] 28- 絶望的状況[佐伯 緋文](2010/06/25 04:25)
[32] 29- セーブポイント[佐伯 緋文](2010/08/17 14:59)
[33] 30- 攻城作戦[佐伯 緋文](2010/10/06 00:26)
[34] 31- 白翼の幻[佐伯 緋文](2010/10/26 03:46)
[35] 32- 死者の行方[佐伯 緋文](2011/01/29 00:53)
[36] 33- 割り振り[佐伯 緋文](2011/03/14 04:22)
[37] 34- ファンブル[佐伯 緋文](2011/05/08 01:00)
[38] 35- 突入[佐伯 緋文](2011/06/28 17:13)
[39] 36- 開戦[佐伯 緋文](2011/08/12 04:17)
[40] 37- 無謀な突貫[佐伯 緋文](2011/10/06 01:29)
[41] 38- モンハウ[佐伯 緋文](2012/04/11 08:29)
[42] 39- 爆発[佐伯 緋文](2012/04/14 00:07)
[43] 40- 決着[佐伯 緋文](2012/05/18 10:34)
[44] 41- イベント終了[佐伯 緋文](2012/11/21 18:51)
[45] 42- オートマティック[佐伯 緋文](2012/12/14 13:15)
[46] 43- レジェンドモンスター[佐伯 緋文](2013/02/19 16:53)
[47] 44- ミーティング[佐伯 緋文](2013/04/14 23:49)
[48] 45- キャリッジ[佐伯 緋文](2013/05/09 00:12)
[49] 46- クエスト(前)[佐伯 緋文](2013/08/06 03:01)
[50] 47- クエスト(中)[佐伯 緋文](2013/08/06 04:47)
[51] 48- クエスト(後)[佐伯 緋文](2013/08/27 01:22)
[52] 48+1/2- トラストの試行錯誤[佐伯 緋文](2013/08/31 23:25)
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[16740] 36- 開戦
Name: 佐伯 緋文◆d27da47b ID:baba9bf0 前を表示する / 次を表示する
Date: 2011/08/12 04:17
 城に入る前から内心何とエンカウントするのかと内心ビクついていた。
 最初は恐々と、少しずつ1歩ずつ、ゆっくり慎重に進んでいた俺たちだったが、次第に曲がり角でのみ緊張するようになり、それも緊張しなくなった。
「――出ないなぁ」
 フィリスが気の抜けたような声を出す。
 これが俺たちを油断させるための罠だとしたら、ことフィリス相手になら大成功だ。一応警戒はしているが、緊張感などかけらもない。
 とは言っても、もうすぐ爆破地点まで到着しようと言うのに、敵モンスターどころかガーゴイルの彫像すら見当たらないのはどういうことだ。

「……狙いは意図的なモンハウか」

 声に出して呟くトラストに、思わずぎょっとする。アズレトも同じことを考えていたようで、首を縦に振った。
「――だろうな。……俺がゲームマスターの立場ならそうする」
 攻城のつもりで攻略しようとしていたら、敵の思うツボってやつだ。
 攻城であれば普通、そもそも玉座に辿り着かせることすらよしとはしないだろうが、今回のゲームマスターの目標は「プレイヤーの全滅」であって、玉座を守ることではない。最悪、城を捨てて逃げ出せば次のチャンスはやってくるってわけだ。
 とは言え、それがわかったからと言ってどうしようもないのは事実だ。
「とりあえず、カルラの『奥の手』で爆弾が不要になるなら不要にした方がいいよな?」
 俺たちの持つ爆弾は実質1つ。俺の持つ博打爆弾はよっぽどのことがなければ使わない、……いやむしろ使うなと全員から釘を刺されている。
「『迷路』に変更点はなし、か」
 城の内部そのもの――特に迷路の部分が作り変えられている可能性もあったが、地図と照らし合わせて進んでいる限りで、今のところは目立った違いはない。
「――この壁だね」
 フィリスが、壁のひとつに手を触れる。第一関門。カルラにこの壁が壊せない場合、ちょっと面倒なことになる。
「カルラ、よろしく」
 言ってカルラに道を譲ると、カルラはゆっくりと近付いて杖を構えた。
「――壁の向こうにモンスターうじゃうじゃ、って可能性もあるから気を付けろ」
 一応全員にわかりやすく最悪のパターンを口に出してやると、全員がそれぞれ慌てた様子もなく武器に手をかけた。
 カルラが、それを確認していたのかわずかに頷いて、壁を杖で軽く叩く。そしてその結果も確認せず、踵を返してパーティの真ん中へと駆け込んだ。
   ぴしっ。
 音を立てて壁に亀裂が入るとほぼ同時に、下の方からがらがらと音を立てて壁が崩れ落ちた。土煙がわずかに視界を曇らせるが、崩れた壁の向こうから何かが飛び出す気配はない。
「――ふむ。徹底的に玉座をモンハウにしているのかもしれないな」
 だとしたらかなり厄介だ。
 タイラントに、俺は見ていないが回復を扱う「本のモンスター」が20体。
 本のモンスターが回復を扱う条件で他のモンスターがうじゃうじゃと召還されているとしたら、そのモンスターたちにも回復魔法の恩恵があるということにもなる。
「最優先は『本』?」
 フィリスが、やる気満々と言った表情で聞いた。
「『本』は……いや、『本』は引き付けて散らそう」
 最初に玉座に突入するのは俺たちではないが、決められた順――ちなみに2番目だ――に突入するのならば、相手の配置次第で十分可能だ。
……しかしそれが20体。こちらの引き付けに果たして乗ってくるかどうか、という問題も残っている。
「行動パターンは『何もしない』と『回復魔法』だったかしらね?」
 だとしたら、最悪引きずって玉座の間から連れ出す、と言うのは……いやさすがに無理か。

『準備はいいか』

 考え事をしている間に、ウェインからの『声』がかかる。
 気が付けば、すでに玉座まで壁1枚だ。
「あぁ、あと壁1枚で玉座だ」
 応えると、パーティの視線が俺に集中した。
『あとは4番パーティが辿り着けば作戦開始なんだが』
 4番と言えば、行き止まりすらなく玉座まで辿り着くはずの単純な道だったはずだ。
「4が一番遅いってどういうことだ。狙われたか?」
『いや、パーティリーダーとは連絡が取れてる』
 聞けば、全員無事ではあるものの、一人がリアルで呼ばれてログアウトしたため、それを待っていて少し遅れているのだとか。
「……リアルの事情じゃしょうがないな」
『まぁな――お、着いたか』
 意外と早かったな、と皮肉を呟きつつ、ウェインが少し笑う。
「――そういえば、ウェインはどの班だっけか」
 肝心なことを聞き忘れた。
『俺か?……俺は5番パーティだ』
 あぁ、あの当たらず障らずの微妙な道か――とは思ったが、2番の道とそう大差はないのでとりあえずは黙っておくことにした。
『では行くぞ。最初の爆発から7秒後に点火してくれ』
 点火してから3秒で爆発、というのは出発前にアズレトから聞いている。
 一番敏捷が高いと思われる、フィリスが点火役だ。

「フィリス、7秒後だ。頼んだ」
「――おっけー、任せとけ」

 最初に爆破されるのは7班と6班。
 俺たちと正反対の方向から爆破されるが、その音が届かないことはない、とウェインが言っているから問題ないんだろう。
   ――ォォン
 かすかに聞こえる爆破音。
 頭の中でカウントダウンを開始する。
――4、3、2、1。
 フィリスが、俺の頭の中のカウントダウンより少しだけ早く火を付け、こちらに向かってダッシュで走り込み、アズレトが構える盾――ちなみに盾を使うのはこの一瞬だけで、ここに捨て置いて後で回収するらしい――の後ろに滑り込む。
 直後。
   ずがァんッ!
 鋭い爆発音と同時に、フィリスがアズレトの盾を跳び越え、再びダッシュをかけた。
 土煙というか爆発の煙というか、思わず咳き込みそうになるほどの煙の中、フィリスの剣だろう、一瞬光るものが見えた。
「――行くぞ」
 アズレトが盾をその場に放り、フィリスを追って走った。
 続いてムルの狼がムルを頭に乗せたまま、2匹だけを残してその後を追うのと同時、リリーがその上を飛翔し、追い越して飛んで行く。
 カルラとリアがその後ろを追い、俺たちはさらにその後ろに続いた。ちなみにムルと俺、イシュメルの3人は玉座直前からの援護だ。トラストは見学。

 玉座の間に突入すると、そこには予想以上の光景が待っていた。

「――うへぇ」
 思わず声を上げる。
 雑魚ボス問わず、見える範囲だけでも数十匹単位のモンスターだ。
 中にはスライムや、果てはフライトバグまで見える。かと思えばその横に巨大な蛇の鱗が見えるし、それが動いて見えた先にも違う色の鱗が見えた。
『どうした』
 ウェインから返答が返り、思わず「すげーモンハウ」と一言で状況を説明してやると、ウェインが囁きの向こうから苦笑を漏らす。
 と、予定通りに正面隊が突入してきた。
――タイラントと『本』は……、と視線を巡らせ、
「――2班伏せろッ!」
 視界を遮る土煙の向こうに見覚えのある4本腕、そして横に水平に振り上げられた両腕を見つけ、思わず叫んで地に伏せる。
 カルラがトラストの頭を引っ掴んで地面スレスレまで頭を下げさせたその瞬間、俺たちの頭上スレスレを炎がジェット機のような轟音を上げて通り過ぎ、俺たちの背後にあった壁が大きな音を立てて崩れ落ちた。

 いきなり「激昂の遠吠え」だ。

 伏せろと叫んでからわずか1秒足らず。一番前にいたにも関わらず瞬時に伏せたフィリスを化け物かと賞賛したいところだが、そのフィリスよりも先に頭を下げ切っていたアズレトを本物の化け物だと俺は賞賛する。
 さらに、伏せたフィリスの左右から襲い来る4枚の刃。
 だがフィリスは右の2枚の刃に自らのタイ剣を叩き付け、さらにその反動を利用し、左から来る2枚を足からスライディングの要領で避け、その勢いのまま滑り込んだ先にいたフライトバグにタイ剣を叩き込み、文字通り「叩き斬」った。
「あっぶね」
 まぁフライトバグごとき程度なら楽勝なのだろうが、それでもボスを相手にしているにもかかわらず軽口を叩く程度には余裕らしく、フィリスはタイラントから視線を一瞬逸らし、黒い狼のようなモンスターを蹴り飛ばしつつ「本」を確認する。その視線を追って俺もそれを確認し、――思わず舌打ちした。
 見える限り、その「本」の位置は絶妙だった。タイラントだけに集中して固まっているわけではなく、部屋全体に散らばって存在しているらしい。
 さっき部屋に飛び込んだ時に倒し損ねたのか、数匹のモンスターに2匹ほどが献身的に回復魔法をかけて回っている。
 タイラントの遠吠えに巻き添えを食ったのか、慌てた様子で開いたり閉じたりしていた数冊もすでに回復してもらったのだろう、回復役に復帰している。

『作戦通りに』

 ウェインたちと立てられた作戦は、トラストの一言を軸に作られた。
「城を守る気がないのであれば、いっそ城の壁を破壊しつつショートカットで突き進むというのはどうだろうか」
 トラストは、本来なら守るべき城の壁を一直線にブチ壊して進めないかと提案したのだ。
 これは攻城戦ではない。攻城戦では、落とした城を把握し、その城を次は死守しなければいけない。つまりあの迷路を壁を破壊せずに抜け、その要所要所にいる敵を倒して進み、玉座を奪い取らなくてはいけない。
 だが今は違う。落とした後の城を考える必要はない。自分たちが落とした城を守ることを考える必要がないのだ。だから攻略に適した形で城が破壊されていても何の問題もない。
――などと考えているうちに爆弾による煙は徐々に薄れ、ようやく玉座の間の全体が見渡せるようになってきた。

 玉座はモンスターでひしめいている。――まるで朝の都会の満員リニアだ。よくもこれだけのモンスターを召還したもんだと敵ながら感心する。
 ホワイトファングなどの雑魚だけは俺たちでも何とか倒せるとしても、それ以外の……よくわからない敵どもが邪魔でどうしようもない。
「イシュメル、雑魚を頼む!」
「任された」
 フィリスの声に、イシュメルがいつの間にか番えていた矢を放つ。狙いはそこら中にアホのようにいるフライトバグか。
 確か前に一撃で倒せると豪語していたから余裕か、と思っていると、1匹だけが矢を浴びたにも関わらずこちらに向かってきた。
「――おい、まさかあれ」
「……やっぱり混じってた」
 引き攣った声で言うイシュメルと、覚悟していたかのように言うムル。
 フライトバグの、その蚊か蝿に似た姿と瓜二つのそれから、そいつの名前は容易に推測できた。

「ベルゼブブかな」

 ムルの一言で推測は確信に変わる。
 蝿の王ベルゼブブ。確か攻略サイトで見た限り、弱点は炎だったか。虫だもんなそうだろうなと思った覚えがある。
 だが、他のモンスターが吹く炎を平然とシカトしているのはどういうことだ。
 さっき、『本』がタイラントの遠吠えの巻き添えを食らっていたから、他のモンスターの攻撃が当たらないということはないはずなんだが。
「火が弱点じゃないのか?ベルゼって」
 思わず口にしてやると、イシュメルがあぁ、とこともなさそうに呟いた。
「亜種なんだろ」
「――亜種?」
 そんなものがいるなんてのは初めて知った。
「モンスターの中には、たまに弱点とかクリティカル率が通常の固体と違うのも出るんだ」
 それが亜種だ、とイシュメルが説明する。
「――つまりなんだ、アレは」
「火が弱点じゃないベルゼブブってことだろ」
 こともなさそうに言うイシュメルだったが、その顔は明らかに引きつっている。
「ムル、行けるか?」
「お安い御用……ってわけにもいかないかな。さすがのボクでも普通なら逃げてる。おまけに火が弱点じゃないって何さ……」
 普通なら、そう呟くムルはそれでも、両手で左右1匹づつの狼を操ってけしかけると、その間に両手を合わせるようにしながら何やらブツブツと唱え始めた。
「前衛、伏せさせた方がいいか?」
 思わず尋ねると、ちらりと俺に目配せをしたムルは呪文も止めず、首を振ってその返事に変えた。
「ラッティアスは器用だからな、まぁ見とけ」
 イシュメルが少し安心したような、それでもまだ不安は残っているような顔を見せる。
「育てたことがあるのか?」
「――あるが挫折した。サードキャラだったがやり込まずに消した」
 イシュメルが苦笑する。ムルを見て一度はやってみたいと思っているんだが、やはりアレは苦労するものであるらしい。
「……興味があるなら種族パスくれてやろうか」
「種族パス?」
 聞き返すと、「まぁその話は後だ」とイシュメルはムルの方を指さした。
 視線をムルに戻すと、すでにムルの攻撃は始まっていた。
「何だありゃ」
 赤い、……あれは炎だろうか。糸のように細いモノがベルゼブブの動きを制限していた。
 そのせいで動きにくいのか、炎の狼にいいように齧られつつ、それでも必死の抵抗を見せるベルゼブブ。
「……操るのも至難なら、相手の動きをあれだけ制限するのも至難だぞ」
 羽は根元から動きを封じられ、足というか手というか、とにかく手足は2本、根元から折られている。
 相手が虫なだけにちょっとグロい。モザイクかけるほどでもないが、虫が嫌いな人は直視するのも嫌だろう。

「――そろそろ来るぞ」

 イシュメルの言葉に警戒しつつその戦いを見守っていると、ベルゼブブがその動きをぴたりと止めた。
「来る」
 ムルが緊張した声で言い、「2班後衛陣逃げるからよろしく!」と前衛2人に声をかける。
 黙って見守っていたカルラやリアも、すでに逃げる準備のつもりか杖を構えつつ、目はベルゼブブから離さない。
「何が来るんだ」
「弱点知ってるなら技も知っとけ。――いいから来い!」
 イシュメルが言い、ムルがそれを合図にしたかのように糸を引いた。

――瞬間。

 ベルゼブブの体が、粉々に砕け散った。
「……ッ、逃げろ!」
 イシュメルがそれを確認するなり叫び、ダッシュで迷路を走り始めた。ムルはイシュメルを尻目に、一瞬送れて別の道へと走り出す。
 何が起こっているのかわからず、むしろ倒したんだとほっとしていたところに浴びせられたイシュメルの言葉に戸惑う俺だったが、数秒遅れて砕け散ったベルゼブブの「技」に気が付いた。
「――ッッ!?」
 思わずイシュメルの逃げた方へと猛ダッシュしつつ、無駄だと思いつつそれでも覚えたての呪文を走りながら詠唱する。詠唱するのはいいがかなりキツい。
 ちらりと振り向いて、即座に俺は後悔した。

 ベルゼブブは砕け散ったのではない。無数の羽虫に分裂し、分裂した羽虫が霧のように追いかけて来ていた。

 その黒い霧が俺のわずか1メートル弱程度の背後に差し迫っている。
「ちょっ、これどうすりゃいい!?」
 思わず詠唱を中断してイシュメルに叫びつけると、
「何で詠唱止めんだよとにかく逃げろスキがあったら魔法でもぶちかませ!」
 先を走るイシュメルから罵倒にも似た助言が返る。
 カルラやリア、そしてムルは別の道に分かれて走ったらしく、今この道には俺たちしかいない。
「地図は頭に入ってるのかイシュメル!」
「――知るか!詠唱しながらナビれ!あとファイアー頼む!」
 無茶を言いつつ走るイシュメルだったが、それでも手に持つ弓を引き絞ると、ちらりと俺に目配せをした。
 悟れってことだろう。言われなくてもわかっていることは1つ!
「『我願う、赤き気高き紅蓮よ、その姿をここへ示せ、』」
 そこまで唱えて呪文を止め、曲がり角の壁を手で引っ掴み、勢いだけで曲がる。
 瞬間、イシュメルが引き絞った弓をこちらに向け、矢を放つ!

「『ファイアー!』」

 放たれた矢に集中しつつ呪文を完成させると、矢は炎を纏いつつ俺の頭の上スレスレを通り過ぎる!
「――ッ、っぶねぇな!」
 焦げ臭い匂いを感じた気がして思わず叫ぶ。
 背後で無数の、何かが燃える音がしたが振り返る余裕なんかあるはずもない!
「当てねーよ俺は弓特化だッ!」
「レベル俺と一緒だろ!まだまだ信用なんかできるか!」
 矢を放った瞬間、イシュメルが足をもつれさせつつ身を翻し、再び走り始めた。
 それにしても他のメンバーはどうしているだろうか。
 一応ウィスパーは接続しっぱなしだが、そこから聞こえる息遣いだけでは状況の把握もクソもない。
 誰かが詠唱するような声は聞こえているが、それが誰かなんて考える余裕など微塵もない。
「アズレト!フィリス!まだ無事か!?」
『――おう!』
『誰に物言ってんだい新米が!そっちこそ無事なら指示くらいしなリーダー!』
 アズレトと、少しブレたフィリスの声が同時に頭に響く。
「状況は!?こっちはベルゼに追われてそこにいない、すまん!」
『よりによってベルゼっ!?何してんの馬鹿!』
『フィリス、こっちはいい。ベルゼを片付けてこい!』
 頼もしいアズレトの言葉が聞こえるが、ベルゼを引き付けられるなら、俺たち二人が死んだ方がマシな気がする。
 下手にフィリスが援護に来てアズレトが負けたら、それこそ目も当てられない。
「――いや、そっちはそっちの倒してくれ!俺ら雑魚二人でベルゼ引き付ける!」
『雑魚二人ってまさかお前とトラストか?』
 うげ、とフィリスが苦笑する。
――そういえばトラスト見てないな。どこ行ったんだアイツ。
「いや俺だ、トラストの嬢ちゃんはベルゼから逃げる直前に壁にこっそり隠れて手を振ってるのを見た」
 うわぁ。――いつの間に。
『こちらトラスト、アズレトさんとフィリスさんの二人の戦いを観戦させてもらいつつ隠れてるところだ』
 思わず「卑怯者」と呟くと『褒め言葉と受け取ろう』と返事が返り、ウィスパーごしにカルラとムルの笑い声が響いた。
「――リアは?」
『心配されなくても大丈夫よ。私はゲームマスターと一騎討ち中』
 リアの言葉に、『ちょ』と慌てたようにフィリスの声が響く。
『マジだ、いた』
 アズレトの位置から見えているのか、呆れたように呟くアズレト。
『――でももう無理ね。MPもHPもアイテムも限界よ』
 どうやらリアは押されているらしい。というかMPも枯渇しているなら魔法も使っていたのだろう。呪文詠唱はリアの声か。
「離脱は無理か?」
『リリーかカルラがいれば可能は可能ね、でもあの二人はここにはいないわ』
 あっさりと諦観したような言葉が返る。――くそ、考える暇もなく走らないと追い付かれるってのに!
「別の班は?」
 ゲームマスターがいるところ、ということは玉座の間だろう、そう当たりを付けて聞いてみる。
 実際、突入してから他の班とは連絡を絶っているから、他の班の行動が全くわからないが、玉座であれば他の班のメンバーはほぼ全員そこにいるはずだ。

『――死亡前に言っておくわね。4番パーティのリーダーはドッペルゲンガーよ』

「ッ!?」
 思わず絶句する。
「ちょっと待て、……ってことは」
『4番パーティは玉座の間に辿り着くことなく全滅していたということね』
 確か4班は遅れて到着したはずだ。
――ということは、道中で4班のリーダーが他のメンバーを倒し、単身で玉座の壁を爆破したということだろう。
『ついでに言っておくけれど、そのせいで玉座にはほとんど生きたプレイヤーはいないわ』
『最悪だな』
 トラストが呟いた。
 そう、これは最悪の展開だと言えるだろう。

『作戦は全部筒抜けか。――どうする、アキラ』

 作戦が筒抜けなら、それを逆手に取るしかないが、相手はウェインのキャラクター名を当然知っている。ウィスパーでも口頭でも、この先全ての発言は筒抜けだと思っていいだろう。当然、ウェインに作戦の立案を言うこともできない。
「――トラスト、何か案は出ないか!?」
 全力疾走のままちらりと振り返り、ベルゼとの距離を確認する。
 火矢の攻撃で少しは引き離せたのか、距離はおよそ2メートル弱。
『突発事項が多すぎて整理しきれない。時間がかかるが構わないか?』
 絶望的な言葉だが、逆に言えば時間を稼げば何か思いつくかもしれないということか。
「――ッ、ムル!カルラ!どこにいるか教えてくれ!」
『ボクは途中でベルゼ振り切って戻るところ』
 あっさり返答が帰ったのはムルだ。
『――、わからない』
 どこかで道に迷ったのか、カルラが申し訳なさそうに呟く。
「リリーは!?」
 そういえば逃げる前から姿を見てないな。
『私は他の班の救護よ。例の作戦用のストックは確保してあるけど』
 他の班。多分ウェインの5班あたりの線が濃厚だろう。
「――そこにウェインはいるか?」
 足は止めずに言いつつ、
「『我願う、赤き気高き紅蓮よ、その姿をここへ示せ、』」
 今度はイシュメルがちらりと俺を確認し、弓を引き絞る。
『あ、』
 一瞬カルラの声が聞こえた気がしたが、今はそんな場合ではない。
 相変わらず正確なイシュメルの矢が、俺の顔をかすめそうな勢いで風切り音を立てつつ通り過ぎた瞬間、俺は矢に集中して振り返る。
「『ファイアー!』」
 あれだけの羽虫の大群相手じゃ、今できることはせいぜいこんなもんか、と思った瞬間。

「『我願う、猛る獰猛なる覇者よ、内なる力を我が前に示せ、フレイム!』」

 聞き覚えのある声とともに、背後で轟音とともに熱風が吹き荒れた。
 ほとんど転びそうになりながらも立ち止まると、キャンプファイアーにでも突っ込んだかのような音をじゅうじゅうと立てて虫のほとんどがその炎に焼かれるのが見えた。
「――カルラ!」
 声は思った通りカルラだ。
「おい、ベルゼの残りを叩いてからにしろ」
 言ってイシュメルが矢を放つ。
 数匹の羽虫が炎を逃れたのか、それでも混乱しているようにその矢から逃げ惑う。
「――いやいい、ベルゼはほっとけ!リアを救助に行くぞ!」
 イシュメルは驚いたような顔をしたが、思い出したように「わかった」と呟いた。


 来た道を引き返して数分。
 途中リアの生存を確認しつつ、全力疾走で玉座に向かう。
 ゲームのシステム上の「疲労」なのか気のせいなのか、走るスピードが行きより遅い気がする。
「アズレト、フィリス!無事か!?」
『だから誰に物言ってんだい新米リーダー!』
 相変わらず元気なフィリスの声が響く。
――が、アズレトの返答がない。
「アズレト!……ちょ、おい!」
 まさかやられたのか、と血の気が引く。
『――、アタシのとこから見えればいいんだけどね、ちょっと見えない、っていうかそれどころじゃないわ、ごめん!』
 さっき元気だと思ったフィリスの声も、注意して聞いてみれば心なしか疲弊している気がする。
「……トラスト、アズレトは見えるか」
 唯一安全圏にいるはずのトラストにも声をかけるが、
「――、おいおい」
 トラストからも返答なしだ。いや、アレや俺やイシュメルが生き残っている方が不思議なのか。
「リアは大丈夫か」
『ええ。本当にギリギリではあるけれど』
 ふぅ、と溜息に似た呼吸をしながら、リアの返答が返る。
――というか、無理と言ってから10分近く。それでも粘っているのは根性なのか余裕を見て言ってたのか。
 リアの声を聞く限り、エンチャントで攻撃を防ぐのが手一杯のようだ。それでも天下のゲームマスター相手にそら恐ろしいと思うのは俺だけだろうか。
「こっちはもうすぐ着く、何とか持ち堪えてくれ!」
 あと少し。
『HPもギリギリね。間に合うかしら?』
 くすり、とリアが笑う。
「――もう全力で撤退していいぜ。万一死んだらごめん!」
『了解。ゲームマスターさん、悪いけれど私の負けよ。逃げさせてもらうわ』
 わざとなのか余裕なのか。そんな風に宣告されたら逃がしたくなくなるだろ、とは思ったが、何か考えがあってのことかもしれないので黙っておく。
「――ムル!今どこだ!」
 そう言えば発言がずっとないムルを呼んでみる。
『――ごめん、多分そっちには戻れない』
 返った返答は謝罪。何があったのか、と聞くまでもない。
 ムルはムルで戦闘中なんだろう。
「何と戦ってるかだけでも教えてくれ」
 少しだけ返事もなく、焦ってもう一度声をかけようとした瞬間、

『――4班リーダー、かな?』

 最低な返答が返る。
『アキラ、ムルを優先して援護して来い!』
『ダメだ。ボクのところに来たらリアが死ぬ!』
 あぁくそ、どっちも正論だ。選んでる暇もないってのに。
「ムル悪い、――リアを優先する。できれば死ぬな。死ぬなら一言言ってくれ」
『わかった。ダメだった場合はごめん』
 くそ、状況が把握しきれん。
 アズレトは何と戦ってたんだっけ?確かフィリスはタイラントとサシで戦ってた気がする。化け物だ。
――そうだ、思い出した。
「アズレトは確か『本』か」
 となると、あんなのに負けて死んだと言うのは考えにくい。だとしたら、何か都合があって声を出さないんだろう。
 そうなると、一緒になって声を出さないトラストも同じか――と推測する。
 息を潜めて何かを狙っているんだろう。
『うわッ!?』
 フィリスが焦ったような声を出す。
「どうした!」
『何でもない、ただの不意打ち激昂だ!』
 何でもなくない。あんなのとサシで戦うとか正気の沙汰じゃない。
「――もうすぐ着く!」
 見えた。玉座まであと少し。

『あぁくそ、回復がウザい!』

 イラつくフィリスの声が聞こえるのとほぼ同時に、俺はフィリスの背中を見つけていた。


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