地獄のような光景。
アキラが後でそう形容した時、言い得て妙だと思った。
目の前に広がる光景は、まさに地獄。
「――『リバイブ』」
炎の中からアズレトの声が響く。
――違う。アズレトの声に似た声が、――響く。
最大出力、文字通り全力での『フレイム・ゾナー』を耐えたドッペルゲンガーに、すでに絶望の色さえ覗かせるメンバーたち。
それでも、自らの勇気を最大まで振り絞ったフィリスが、私たちの勝利へのわずかな蜘蛛の糸を掴むためだけに、――地獄の業火の中央へと駆け込んだ。
フィリスが振り下ろす剣とドッペルゲンガー・アズレトが振り上げる杖とぶつかり合い、激しい不協和音を醸し出す。
本物のアズレトから足しにと渡された魔力剤を一気に飲み干すと、頭を白紙にして状況の把握に努める。
フィリスがタイラントの剣を瞬時に片手で持ち直し、素早くドッペルゲンガーの死角から短剣を抜き放つが、杖がそれを上手く捌き、さらに襲いくるタイラントの剣の威力を柄で受け流す。さらに短剣が二度、三度とドッペルゲンガーを狙うが、涼しい顔をしたままそれら全てを叩き落された。
「――チッ――」
業を煮やしたかのように舌打ちしたフィリスが、隙を狙い、ゲームマスター目がけて短剣を投げつけると、瞬時にタイラントの剣を両手に持ち直した。
思わず短剣の、その正確無比な美しい軌道に目を奪われる。
だが涼しい顔をしたゲームマスターは、無常にもあっさりとその短剣を僅か一歩移動するだけで避けてしまった。
「『ダンシング・ソード』」
――あまりの無粋に、思わずその短剣に意識を集中させてスペルを発動する。
エクトルはそれを一瞥すると、手に持つ杖で短剣を叩き落した。
僅かに溜飲を下げ、私は視線をイシュメルへと向けた。
矢を番え、弓を射ろうとタイミングを見計らっている彼は、しかしドッペルゲンガーの猛攻にその隙が見当たらないのか、必死にタイミングを計っているのがわかる。
――と、その目が驚きに見開かれた。
思わずその視線の先に目を向けると、フィリスとドッペルゲンガーの間に立ちはだかる様に、アキラの姿がいつの間にかそこにあった。
思わず絶句する。
確かに私もそれは考えた。
だけれど、私はその考えは、思いつくと同時に捨てた。
――誰かが捨石になり、犠牲になって掴む勝利など、美しくないと思えたから。
だが彼は私のその考えをあっさりと裏切り、自らの身を曝け出すことで勝利しようとしている。
――思わず手を伸ばすも、それが届くはずもなく。
ドッペルゲンガーの右手に握られたロング・ソードが、アキラの肩から胸あたりまでを大きく切り裂いた。
「――ッ!!この馬鹿野郎ッ――」
フィリスが叫ぶと、ドッペルゲンガーは動揺したかのようにステップバックした。
思わずアキラの元に駆け寄ると、ちらりとアズレトに視線を向ける。
「――『葉』を使うわ。――回復を頼めるかしら」
返事の代わりに杖をアキラに向けるアズレト。
――そうこうしている間にも、ドッペルゲンガーの変化は始まっていた。
私の考えが正しいのであれば、これで正式にドッペルゲンガーを討伐できる。
復活すらすることもない、完全な討伐を。
「――葉よ、」
アキラの頭を膝に乗せ、葉を使用するとイメージしてアイテム・オブジェクトを握り潰す。アイテム使用のざらりとした感触が、掌を蠢く。
「アキラ=フェルグランドを今一度現世へ。――『リザレクション』」
奇跡の葉。
実はスペル補助のアイテムだ、ということはあまり知られていない。
呪文を知らずに使用しても発動しない「スペル補助アイテム」ではなく、「呪文を唱えることで発動する蘇生アイテム」だと勘違いしている者も少なくない。
――どちらでも大差はないけれど、設定をしっかりと覚えていて損をすることはない、と思う。
アキラの体が緑の光に覆われるのを確認し、私はアキラを地に横たえて距離を取った。
アズレトの呪文が私に誤射されないように、未然防止。
蘇生とほぼ同時に、アキラの肩から胸への傷を治療しなければいけない。そして傷は、生きているプレイヤーにしか、効果がない。
――万が一アズレトの魔法が外れた場合、蘇生されたアキラは再びその傷によって死亡し、貴重な「奇跡の葉」を無駄にすることになる。
アズレトの杖が震えているのがわかる。私が近くにいることで誤射される危険性はある、ということ。
プレッシャーからではない。アキラへの怒りから。
「リバイブ」
タイミングを見計らい、アズレトの唱えた呪文はアキラを捕らえた。
傷が一気にその形を変え、アキラの傷が一気に癒えて行く。
「――、……ッ」
あぁフィリス。気持ちはわかるけれど落ち着いて。終わってから2・3発殴ってあげればいいわ。
「――考えたわね、……アキラ」
フィリスの怒りを諌める意味を込めて、私はアキラへ声をかけた。
フィリスが、舌打ちをして視線を外す。
アキラの視線が、私からカルラ、アズレト、イシュメルへとゆっくりと巡り、
「イシュメル。俺とお前だけで倒すぞ」
アキラが声をかけると、イシュメルが一瞬、怒鳴ろうとしたのか怒りの表情をアキラへと注いだ。
「――、わかった」
それでも怒りをなんとか抑えたのか、弓に矢を番えるイシュメル。
そして二人はドッペルゲンガーへと視線を戻した。
と、二人の死角からファイアー・メアが迫る。
二人がドッペルゲンガーへ集中していて、全く気付いていないことに気付き、
「――エンチャント、――アンチファイアー」
小声で呟くと、マントにエンチャントを施した。
そのままファイアー・メアの元へ走り出すと、アズレトが気付いたのか、同じようにファイアー・メアへと走り出す。
先にファイアー・メアとエンカウントしたのはアズレトだった。
杖で強襲すると、ひらりとそれをかわしてアズレトへ目標を変えたファイアー・メアは、音も立てずに90度向きを変え、アズレトへ向けて跳躍した。
すかさずアズレトが杖を振り被るが、ファイアー・メアはそれを足がかりにアズレトを飛び越える!
――狙いはアズレトじゃなくて、この私!?
すぐに思い出す。
そう、私は運がないのだったわね。
――相方にはよく、「モンス運がある」と称される。
要するに、乱戦になった場合、私にモンスターが向かいやすいという意味で言っているのでしょうけれど、――いつだってそれで得をした気がしないのは何故かしらね?
ファイアー・メアの上体が沈み込み、自らの鬣を誇示するかのように突進する。
その体が私に体当たりをする直前、私はマントの端を手に持ってファイアー・メアと自分の間に滑り込ませた。
僅かな衝撃に、足が宙を浮いた。
――フローツ・アタック!?
俗に、浮かし攻撃、と称される攻撃。
――主に連続攻撃の初撃として使用されることが多いこの攻撃方法を持つモンスターは多くない。
連続攻撃を叩き込まれても、それが炎属性である限り、マントのエンチャントがほとんどを防いでくれるはずだと信頼していても、――それでもその攻撃がこのマントを貫通して通らないかと、背筋にぞくりとしたものが走る。
浮かせた私よりもファイアー・メアが高く跳躍したのを見て、上からの攻撃に備えるべくマントを掲げた瞬間、ファイアー・メアの蹄が私の足を掠る!
思わずぞくりとしながらも足に灼熱を覚えるが、ファイアー・メアの攻撃はそれで終わったわけではない。
さらに同じ蹄が頭の上から目の前へと振り下ろされ、直前でマントをその間へと滑り込ませると、衝撃が僅かに私を下へと押し下げた。
その隙を狙い、マントの裾を軽く持つと、私はマントの端をファイアー・メアへと叩き付ける!
一瞬、怯んだようにファイアー・メアが目を閉じる。
その隙を狙い、地が足に着くと同時に私はバックステップで距離を稼いだ。
二つの同じ声色が、それぞれ違う呪文を詠唱する声が聞こえた。
ほぼ同時に、水で火を無理矢理消したような音と矢を射る音、さらにゲームマスターが補助魔法を唱える声まで聞き取ったところで、ファイアー・メアが再びこちらに突進するのが見えた。マントで自分の体を隠しつつ、
「――エンチャント、アンチインパクト」
エンチャントをかけ直す。
その瞬間、ファイアー・メアはその上体を下げた。
フェイント。本命の属性は衝撃ではなく炎!
思わずマント防御を放棄して真横へとステップする。
熱気と共に巨体が通り過ぎるとほぼ同時に、アキラの方から鋭い金属音が鳴り響いた。
いつの間にか、先程召還されたばかりのクリムゾン・マンティコアがアキラに迫っていた。
そしてアキラをその奇襲から救ったのはフィリス。
「――説教は後だ!後で覚えてなッ!」
怒気を孕んだ声は、普段のフィリスと変わりない。
あの様子なら、あのマンティコアはフィリスに任せても平気だろう。
ちらりとファイアー・メアに視線を戻すと、私を見失ったのか、それとも攻撃のディレイか、ファイアー・メアはこちらを見てはいなかった。
「『プロテクト』」
「――『オフェンシブ』、『プロテクト』、『ブレッシング』」
ゲームマスターの声が響くと、すかさずアズレトの声が後を追って響いた。
背後にゲームマスターがいる以上、――ドッペルゲンガーを随時回復されたりすれば、アキラは徐々に状況を悪化させ、下手をしたら負けを喫する。
「エンチャント、――アンチヒール」
ドッペルゲンガーへとエンチャントをかける。
アンチエンチャントで壊されたら、即座にもう一度かけるだけ。
――アキラ、私はね?
――本当は、全部台無しにした貴方にこそ、せめて勝利を掴んで欲しいのよ。
そして振り返る。
それが早くて助かったと気付いた。
突進して来るファイアー・メア。
思わずマントで防御すると、幸いにも攻撃は炎属性ではなかった。
僅かな衝撃がマントに響くと同時、マントを翻してその頭に叩き付ける。
手に強烈な手応え。
――ここでまさかのクリティカル!
ファイアー・メアが僅かに怯み、その巨体の二つ分ほどを一瞬でバックステップする。
「『ファイアー!』」
アキラの声に思わず振り返ると、特徴的なペイントを施した顔のないモンスターが、今まさにアキラの腕に崩れ落ちたところだった。
崩れ落ちたその体から白い光がアキラとイシュメルを数回回り、二人の体に染み込んで消える。
――今二人には聞こえているのだろう。
討伐しました、と報告する、あの無機質なアナウンスが。
私の推測は当たっていた。
ドッペルゲンガーの討伐は、殺された本人が討伐すること。
――無茶苦茶な話に見えなくもないが、討伐されたドッペルゲンガーは全て、
殺された本人がいない状況で倒されていた。
そして誰も聞いたことのない、ドッペルゲンガー討伐のアナウンス。
討伐の条件を満たしていないのだから、当然と言えば当然のことね。
――ドッペルゲンガーが自己像幻視とも呼ばれるように、幻視された自己像を破壊することでしか、ドッペルゲンガーの討伐は成されないということ。
「ほう」
薄く笑うゲームマスターの声が響き渡る。
青く光る手。
――まずい、と思う前に走り出す。
その姿が一瞬ゆらめくと同時に消失する。
私の目には捉えられない現象。
次に私の目がゲームマスターを捉えたのは、さっきまでアキラが立っていた場所だった。
私が立ち塞がったところで無意味なのだろう。
ただ牽制のためだけにアキラとゲームマスターの間に立つ。
「――随分な真似をするのね、ゲームマスター」
「弱い相手から順に殺すのは鉄則だと思うがね」
即座に切り返したゲームマスターの姿が揺れると同時、
ぎんッ!
風が曲がる音が響く!
――あの速度で曲がることもできると言うの!?
だとしたら、アキラが目標である限り私には何も出来ないと言うことだ。
アキラが全力でアズレトの元へ走る。
――あぁ、そうね。
アズレトならあの攻撃を真正面から受け止めて、その上で反撃もできるかもしれない。
アキラの判断が冴えていることに感嘆しつつ、不意に気配を感じて思わずマントをかざす!
僅かな衝撃と同時に、私の体がふわりと浮き上がった。
――油断した、私としたことが――!
いつの間に私との距離を詰めていたのか、全く気付かなかった。
動きを冷静に判断し、集中してその動きに合わせ、上手くマントを滑り込ませる。
連続攻撃は炎だと思っていたのだが、――と気付いてひやりとする。
もしこの連続攻撃が炎だったなら、私は恐らく死んでいる。
マントが対衝撃属性のままだ。
迂闊すぎるにもほどがある。
見たところ素手だったはずのゲームマスターと、アズレトとの剣戟の音が耳障りに響き渡る。
――幸か不幸か、アキラにしてあげられることは今のところ、ない。
目の前の敵に集中することを決める。
炎が揺らめくようにファイアー・メアが後ろ足で立ち上がった。
――チャンスだと言える一瞬に、私は迷わず駆け込んだ。
マントから手を離し、腰を両手の得物に添えると、私は右手を添えた方にスキルをイメージした。
相手の心臓を狙うイメージ。
スキル名はアイムス・タブ。
思い浮かべると同時に、右手で短剣を抜き放ち、ファイアー・メアの無防備な胸目がけて振り上げる!
僅かな衝撃。手元が狂ったのか、短剣の軌道はその胸ではなく、肩を抉ったに過ぎなかった。
迷わず短剣を鞘に戻し、マントの端を掴むと後ろを振り向いた。
そこへ迫り来る蹄の一撃に合わせ、マントを間に滑り込ませた。
――そこへ強烈な衝撃!
衝撃属性ではなく、炎攻撃を叩き込まれた。
まずい、と気付いた時にはすでに遅い。
迷わず左手に握るそれに力を込める。
蹄の追撃が来ると同時、私は左手に握ったソードブレイカーを抜き放った。
ソードブレイカーに阻まれた蹄は、その勢いを半分に削り取られ、しかし残った半分の勢いを私に叩き付ける!
そのまま落下し、背から叩き付けられた私は、無様に床を転がってファイアー・メアの後ろへと転がり出た。
「『我願う、静かなる清流よ、傷を浄化し癒せ、ヒール』」
アキラが唱えた呪文が、私のHPを僅かに回復したのを感じた。
視線を向けると、アキラはガーゴイルと対峙している。
どうやら私にかけたものではなく、アキラの傷を癒し切った残りが私へと効果が流れて来たもののよう。
「期待はしないがなるべく早く頼む!……全滅寸前だと思ってくれていい!」
アキラが叩き付けるように叫ぶ。
――何の話だろう、と一瞬考えてすぐに気付く。
恐らく援軍の誰かとのウィスパーだ。
私たち以外に知り合い、と言う話を聞いたことはないけれど、と一瞬思ってからふと気付く。
そうか、探していた長刀の男。
アキラの方は覚えていなくとも、彼の方では覚えていたということだろう。
ならば、それまで少なくとも全員が生きていればいい。
援軍は増える。それまで生き延びれば可能性はまだあるということ。
最優先は、私にとって最も相性の悪いファイアー・メアかしらね、と思いつつその姿を探すと、一瞬私の影が揺らめいた。
思わずバックステップすると、そこに叩き落される赤い炎の蹄。
思わずひやりとし、もうMPを節約、と言っている場合ではないことに気付く。
「――サモン、グリーン・ドラゴニア」
後ろで不穏な科白が響くが、とりあえずは目の前の敵。
右の腰に手をかけ、私はファイアー・メアへと突進した。
当たり前のように迫る蹄をかわし、その巨体の下へと潜り込む。
さらに迫る蹄に炎属性が乗っていないと半ば勘で判断し、それをマントで防御する!
衝撃はほとんどない。どうやら珍しく、賭けに勝てた。
綱渡りはあと2つ。
――激昂したように、ファイアー・メアがその巨体を起こして立ち上がる。
一つ目の綱渡りは、どうやらするまでもなく太い橋へと変貌した。
そして最期の綱渡り。
右手に触れる柄に手をかける。
相手の心臓を突き刺すイメージ。
スキル名は――
――剣よ凍れ――!
パキン、と抜き放った剣が音を立てた。
[ファイアー・メアを討伐しました]
無機質な声が響き渡るのを無視し、アキラの方へと視線を向ける。
「『我願う、猛る獰猛なる覇者よ、内なる力を我が前に示せ、フレイム!』」
アキラやイシュメルには悪い言い方になるけれど、今、一番の穴はあの3人。
そう判断し、加勢すべく駆け出す。
相手はグリーン・ドラゴニア。
深緑の王者とも呼ばれる強敵。――本当に悪いけれど、アキラたちには逆立ちをしたって勝てる相手じゃないことは明白。
「『水よ弾け』」
熟練度によって少しだけ短縮された魔法を唱える。
――と、
カァァァッ!
グリドラがカルラの魔法の炎に向けて吠えた瞬間、炎が反射され、カルラを襲う!
「――!」
咄嗟に、アキラに向けていた手をカルラに向ける。
「『フロード!』」
詠唱破棄の水属性魔法を唱えるカルラ。
――フレイムのレベルは、私がカルラに渡した呪文書から上には上がっていないだろう。
つまり、Lv.10。ただしフレイムは上位に位置する強大魔法。
対するフロードは、詠唱破棄の様子から見てLv.30を超えているだろう。
――でも惜しい。フロードは中級下位魔法。恐らくフレイムに押し負ける。
「『プロテクト』」
カルラに魔法防御をかけると、カルラが押し迫る炎に思わず目を閉じた。
――そして恐る恐る目を開けるカルラにほっとする。ダメージは低そうで何より。
「――厄介ね、まさか反射スキルを使ってくるとはね」
カルラに、魔力剤を1本渡すと、カルラはすぐにそれを飲んだ。
当然。――生き残るべき戦いで出し惜しみは許されない。
ぺこりと頭を下げるカルラ。礼のつもりなら必要はないけれど、一応会釈で返事を返す。
「ってことは弱点がないってことか?」
アキラがどうするんだ、と言う眼差しを向ける。
「――弱点は炎なのだけれど、――ね」
その両手にある炎は何の為?気付きなさい、アキラ。
「弱点を狙うなら腹の白い鱗を狙いなさい」
意を決したように、アキラが立ち上がる。
そうね、男の子は凛々しくなくては――ね。
女の子集団に守られているようでは、先が思いやられるわ。
「――リア、補助を頼む」
「ええ、もとよりそのつもりよ」
やるとなったら意気込みが気迫に代わる、その単純さが少し羨ましくもある。
「『大地よ宿れ。オフェンシブ』『水よ弾け、プロテクト』」
イシュメルが戦いの合図のように、矢を数本撃った。
命中するかと思われたそれを、グリーン・ドラゴニアは素早く盾で防ぐ。
「『主よ導け、ブレッシング』」
駆け出すアキラ。
そのスピードがいつもより速いことにようやく気付く。
――戦闘の間にスピードでもかけていたのかもしれない。
それなら私の補助はもう必要ないだろう。
そう判断して床にへたり込む。
座ることで少しでも魔力の回復を図らなければ、魔力剤が何本あってもただの無駄になる。
イシュメルとの連携も見事だ。
――と思った瞬間、グリーン・ドラゴニアの盾が飛び込んだアキラに直撃する!
思わず立ち上がると、私は慌てて杖を構える。
グリーン・ドラゴニアは、悠然とアキラに向かって歩き出す。
どうやらアキラはスタンしているらしかった。
MPの消耗を気にしてる場合じゃない、と判断し、私は杖をグリーン・ドラゴニアに向けた。
「『風よ吹き荒れよ、エアリエル』」
MPは残り僅かだと感覚が告げる。
構わない、全て使い切るまでサポートする!
いつもは私に向かって来るモンスターも、こんな時に限って私の方を向かない。
――アキラはまだスタンから回復していないのだろう。
立ち上がろうともがいているのが手に取るようにわかってしまう。
まずい、MPが限界……!
私の杖から吹き荒れる風が止まる。
こちらを一瞥したグリーン・ドラゴニアがアキラへと剣を振り下ろす!
「うぉぅッ!?」
ギリギリでスタンから回復し、アキラが声を上げてその一撃を避ける!
そこに迫る盾に即座に気付き、身を伏せてかわす様は、見ていて心臓に悪い!
しかしそれをなんとかかわしたアキラは、弱点を狙おうとレイピアを突き出すが、グリーン・ドラゴニアはそれをあっさりとかわしてアキラを威嚇した。
ズガァンッッ!!
突然の轟音に振り向くが、城の一室から爆発でもしたかのような煙が上がるだけで何もわからない。
アキラに視線を戻すと、その横を掠めるようにイシュメルがグリーン・ドラゴニアへと矢を連続で撃ちながら牽制していた。
そしてもう一度煙へと目を向ける。
「とったぁぁぁッ!」
フィリスの吠える声。
どこへ行ったのかと心配していたら、――そんなところで戦闘していたのね。