「――それはマジな話か」
俺が尋ねると、アズレトがおう、と満面の笑みを浮かべて見せる。
どうするかと聞いたのは確かに俺だ。
そしてすることがあるのなら、それに参加したいとも思う。
だが。
「……俺が先頭に立つ意味は?」
そう。
リアはあろうことか、俺を先頭に立てると言い出したのだ。
――そしてアズレトもそれに賛同し、フィリスもそれがいいと囃し立てる。っていうかフィリスの場合は楽しければ何でもいいんじゃないか?そう思うのは俺だけなのだろうか。
「『しんがり』が俺ってのも、……当然マジなんだよな?」
イシュメルは完全に諦めた顔だ。
俺の時と同じように、アズレトが満面の笑みでおう、と頷いた。
俺の質問に答えるつもりは、さらさらないらしい。
俺とカルラがゲームマスターを見たのは町のどこだっただろうか。
俺の記憶はアテにならないということで、カルラの記憶から位置を推察し、ゲームマスターの向かう進路を予想。
2つ3つと様々なルートを地図で検証するリアの手は、……そのことごとくが同じ場所に辿り着いた。
「目指すはルディス城かしらね。……落とされていなければいいけれど」
縁起でもないことをさらりと言ってのけるリア。
「当然モンスターをばら撒きながら歩いてると考えるべきだな」
フィリスが楽しそうに笑うが、先頭を歩くのは俺だ。
「――全力で援護するから、……大丈夫」
カルラが心中を察してくれたのか、にこりと笑いかける。
どう考えてもヤバい時はリアとアズレトが前面に出てくれるそうだが、今の二人の様子を見ている限りではそんなつもりがさらさら無いように見えるんだが気のせいか。――そしてフィリスは戦う気が無いのか。
そして最後尾のイシュメル。
イシュメルを最後尾にするのは理由があるらしい。
「……イシュメルはある程度戦いに慣れてるから援護頼む」
そう。弓での援護射撃に徹するということだ。
「まぁ――上げたレベルも全部弓の修練に注ぎ込んだからな」
ある程度弓を鍛えたイシュメルなら最後尾を任せられるということか。
正直キツい。
数回目になる戦闘をこなした後、頭に思った言葉はそれだった。
膝に手をつき、息の乱れを整える。
……今頃リアルの俺の体は、汗だくでひどいことになっているような気がする。
動きは連動しないが、精神的な発汗まで抑えることは難しいだろう。
「……ハティはこれで殲滅完了かしら?同じモンスターはどうやら召還されないようね」
再びダーク・ブラックのような凶悪なモンスターが出ることも想定していたのだが、どうやらその心配はないようだ。
と安心させておいて突然降って沸くと言う可能性もないわけではないのだが。
「ん、ドラゴンのようなモンスターってのはアレか?」
言って、アズレトが指をさした。
その先を見ると、燃えるような赤が目に入る。
「――竜、ね」
見た目は確かに竜だ。
その大きな体をくねらせるようにしながら、俺たちに気付いたのか威嚇しはじめた。
「……どっちかと言うとオオトカゲじゃね?」
思わず感想を言うと、
「――言われてみれば確かにトカゲだな」
そしてそのトカゲが動く。
慌ててレイピアを構えると、俺の横スレスレをイシュメルの矢が音を立てて横切った。
それがトカゲの腕を見事に射抜く。
シャー!と声を立てながらトカゲがこちらへと近付く。
その腕に刺さった矢が燃える。
――サラマンダーだ。
と言うことは属性は炎。
「『我願う、静かなる清流よ。濁流と化して敵を流せ、ウォーター!』」
唱えた途端、ケツァスタから水が溢れ出し、サラマンダーを直撃する。
「いつの間に!」
アズレトが驚いたように言うと、感心したようにフィリスが口笛を吹く。
実はリアの家にいる時と、あいつらと目撃情報をまとめている時間など、暇に任せて呪文書をチラチラ読んでいた。
とは言っても、短時間で覚えられたのはウォーターくらいだったけどな。
だがあのエルフが言っていた通り、サラマンダーはどうやら強敵のようだ。ウォーターが直撃したにもかかわらず、多少怯んだだけだ。
「でもさすがにLv.1程度じゃ倒すのは難しいか」
言いながら、アズレトが次の攻撃に備えてか、杖を構える。
「目撃情報では倒すのは難しいと言ってたんだろ?ならアキラは下がって」
フィリスがタイ剣を構える。
――いやちょっとまてフィリス。タイ剣って炎属性じゃ……
俺が何かを言うより早く、フィリスはタイ剣をサラマンダーの巨体にぶち当てる。
瞬間、サラマンダーの巨体が吹き飛ばされる!
「ちょ、無茶苦茶だな!?」
質量の法則などまるで無視だ。
「見ているといいわ、アキラ。いずれあなたも使う攻撃よ」
吹き飛ばした巨体に走って追い付き、属性の相性など無視してタイ剣を連続で2発巨体に叩き込み、さらに叩き込まれた攻撃がサラマンダーの前足を宙に浮かせる。
浮いた前足が再び地を踏んだ瞬間、フィリスの足が一歩踏み込む。
同時に、そのガラ空きの巨大な腹に向けての一撃。
巨体が再び吹っ飛んだ。
リアが平然とそれを解説する。
最初の吹き飛ばし攻撃はチャージング。
――それは納得だ。巨体を吹っ飛ばすほどの威力以外は、だが。
次の2発はダブルインパクト。これも納得だ。
……たった2発でサラマンダーが悶絶することを除けばだが。
そして最後の一発はストロングインパクト。
どれもこれも、大剣スキルらしい。
――つまりリアは、俺に大剣も覚えろと暗に言いたいのだろうか。
平然とフィリスが剣を肩に担ぐ。
「ゴメン飽きた」
言って、アズレトの肩にタッチ。
「……やれやれだ」
呆れたように呟くアズレト。
――いや、呆れるのはフィリスにではない。
サラマンダーの方だ。
視線を戻すと、あれだけやりたい放題やられたにもかかわらず、サラマンダーはこちらを威嚇していた。
それでもダメージはあるのか、その動きはさっきと比べて遅い。
「フロスト」
サラマンダーに杖を掲げつつ、アズレトが呟く。
攻撃魔法も詠唱破棄。何てデタラメな。
しかしサラマンダーもそう簡単にはやられない。
それを素早く避けると、こっちに向かって炎を吐く。
「うわッ!?」
思わず声を上げ、慌ててそれを避ける俺。
しかし慌てたのは俺だけで、他のメンバーは全員スマートに避けていた。
――そこにイシュメルも含まなければいけないことにイラっと来るが。