― ライカ ―
霧の湖の上空にて…
「キャアアアアアァァァァァァァァァァ!!」
私ことライカは、現在風になっております。
…いや実際はそれほどの速度じゃ無いんですけど。
でも私の体感速度的には、風になってる感じなんですよね。
身体能力がアップした割に、思考速度や体の感覚はそのまま。
この状態で速度を制御するなんて出来る訳が無いです。
「とか考えてるうちに!! わ、止まんない!! ぶつかるうぅぅぅぅ!!」
いつの間にか地面が間近に迫っており、私は止まり切れず、紅魔館の門の少し前に墜落した。
東方雷精誕 第5話
「図書館の会合、その頃の異変」
紅魔館 門の前
― 紅 美鈴 ―
「ふぁ…」
私は門の前で、欠伸を一つした。
今日は昨日とは違い、気持ちの良い青空。こんな日は眠たくなってしまう。
「ふぁ………ぁ、眠いなぁ」
再度、今度はさっきよりも大きく欠伸をし、呟く。
(白黒も来ないし、居眠りしちゃおっと)
そう考えて、私は瞼を閉じようとした。その時…
「ぶつかるうぅぅぅぅぅぅぅぅ!!」
「へ?」
そんな悲鳴が響き…
ドッ!! ズザザザザザザザザザァァ…
という何かを引きずる様な音がした。
「何事!」
私は咄嗟に構えをとり、もうもうと立つ砂煙を見据える。
砂煙が晴れた後、そこに居たのは…
(へ? 妖精?)
妖精だった。
体は大きく、髪は金色、羽根が三枚ある。
「う……ぷはっ!」
そこまで確認したところで、妖精が顔を上げる。
? どこかで見たような…
「あっ! 門番さん! ちょうど良いところに!」
そう考えていると、相手がそのまま話しかけてきた。
はて? 私の知り合いにこんな妖精はいただろうか…
「え~っと…どちらさまでしたっけ?」
私がそう言うと、彼女は軽くショックを受けたような顔になる。うっ、そんな目で見ないで…
しかしその後、ハッとしたような表情になり、
「あっ、この姿じゃ分かりませんよね…。私、ライカです」
ライカ。その名には聞き覚えがあった。昨日出会った小さな妖精だ。…って!
「ライカちゃん!? どうしたのその体!?」
彼女の体は昨日とは明らかに違う。まるで別物だ。
しかしやはり顔には見覚えがある、やけに丁寧なあの妖精と同じものだ。
「ええと…それが自分にもよく…、目が覚めたらこうなってまして…」
目が覚めたら? 幾らなんでも一晩でこんな事になるとは思えない…
「それで…図書館の魔女なら何か分かるんじゃないかと思って…」
なるほど…パチュリー様なら確かに分かるかもしれない。
「門番さん!! 図書館の魔女に取り次いでもらえないでしょうか!?」
「え、ま、まぁ…いいけど」
「ありがとうございます!!」
ずいぶんと嬉しそうだ、相当困っていたみたい…
「じゃあ、案内するから、とりあえずついてきて」
「はい!」
「あっ、それと私の事は美鈴って呼んでくれる?」
「はい、わかりました美鈴さん」
素直な子だなぁ
・
・
・
・
・
・
ライカちゃんを連れ、私は図書館へやってきた。
「パチュリー様、失礼します」
私は声をかけ、扉を開ける。
「パチュリー様ー、いらっしゃいませんかー?」
「どうしたんですか? 美鈴さん。珍しい」
「ああ、小悪魔さん。パチュリー様は?」
「パチュリー様なら奥の方で調べ物を…どうしたんですか? 後ろの妖精。メイドじゃないみたいですけど」
小悪魔が私の後ろを指さして言う。
「ああ、この子はライカ。この子の事でパチュリー様に頼みたい事が…」
「騒々しいわね。何の話」
私の言葉をさえぎるように、声が響く。
「パチュリー様」
声は、この図書館の主であるパチュリー様のものだった。
― パチュリー・ノーレッジ ―
何者かの声に気付いた私が扉の方に行くと、そこに美鈴がいた。
「美鈴? 貴女門番の仕事はどうしたの?」
「いえ、パチュリー様に少々お願いがございまして」
お願い? と呟いたと同時に、私は美鈴の後ろに妖精がいるのに気付いた。
「実は「駄目よ」…まだ何も言ってないんですけど」
言わなくても分かるわよ。
「どうせ、その妖精に関わる事でしょう」
美鈴が顔をしかめる。やはり図星か。
「何故私が妖精の面倒なんて見なきゃいけないのよ。お断りね」
まったく、時間の無駄じゃない。
今日は妹様が外に出ているのだから、面倒事を増やさないでほしいわ。
「分かったらさっさと仕事に戻りなさい。じゃないと咲夜に叱られるわよ」
私がそう言うと美鈴の顔色が悪くなる。その反応、後のこと考えてなかったわね。
それだけ告げると私は踵を返し、調べ物へ戻ろうとする。
と、そこへ…
「あの、少し待ってもらえませんか?」
今まで黙っていた妖精が、声を上げた。
私はそれを疎ましく思いながら…
「待つ価値が無いわね。貴女もここから出て行きなさい」
そう言って歩みを進める。
しかし…
「価値が無い…ですか? それは…」
私は、その妖精の次の言葉に…
「私のこの体が、本来のものとは違うとしても…ですか?」
足を止めざる負えなかった。
「…なんですって」
++++++++++
同時刻 博麗神社
―霧雨 魔理沙―
久々のいい天気の中、私は霊夢のいる博麗神社へと向かっていた。
「やっぱ飛行は、青空に限るぜ」
そう呟いている内に、神社が見えてきた。
私は軒下に居る霊夢に声をかける。
「お~い! 霊夢~!」
「あら、魔理沙。いらっしゃい」
「どうしたんだ、ずいぶんと機嫌が好さそうだが」
私がそう言うと、霊夢は当然だとでも言うように言う。
「久しぶりに晴れたんだもの、洗濯物がよく乾くわ」
そりゃ何よりだ、と私は返し、霊夢の隣に座る。
「おいおい霊夢、この神社は客にお茶の一つも出さないのか?」
「お賽銭を入れてくれない奴はお客じゃないわ」
「まあそう言うなって、お賽銭はやれないが、代わりにこーりんとこからお煎餅を…」
「湯呑みとお椀を持ってくるわ、待ってなさい」
早っ! 現金だなぁ…まあ霊夢らしいんだが。
私は霊夢が持ってきた器に煎餅を出し、一枚とって齧り、お茶をすする。
「あ~、やっぱ霊夢のお茶は旨い」
「何よ突然、気持ち悪いわね」
「気持ち悪いとは失礼な、珍しく人が褒めてやってるのに」
「珍しいと思うならやめなさい、雨が降るわ」
そんな会話をしていると突然空が曇りだし…
ピシャアァァァァァァァァン!!
ドザァァァァァァァァァァァ
大雨が降り出した。
しかしそれもすぐに止む。
私はただ、突然に出来事に唖然としていた。
目に映るのはびしょ濡れになった霊夢の洗濯物。あれは洗い直しだろう
そこでふと、隣を見ると…
(ヒィ!!)
鬼がいた。
顔に浮かぶのは菩薩のような笑顔、しかしその笑顔が連想させるのは修羅だ。
「れ、霊夢! いいい言っとくが今のは私の所為じゃないぞ!!」
口元が震えている。
そんな私に霊夢は、そのままゆっくりとこっちに顔を見ける。怖いこわいコワイ
「心配はいらないわ、魔理沙。私の勘が正しければ今の雨は異変によるものだから」
だけど…、と続けながら、霊夢は私の肩を掴む。
「貴女も協力しなさい。今回の異変の犯人を直ちにブチのめす為に」
有無を言わせないステキな笑顔で、そう告げた。
肩にある手に力が込められる。痛い、とても痛い。
それだけ言うと、霊夢は異変の犯人を探す為に行動を始めた。
(誰だか知らないが、厄介な事をしてくれたぜ)
上々だった霊夢の機嫌が、今は最下層まで下がっている。
今回の異変の起こし手には同情せざる負えない。
(やれやれ、さわらぬ神になんとやら、だ)
それだけ考え、私は霊夢の後を追った。
**********
あとがき
第5話、終了。
前回美鈴出したのはパチュリーに取り次がせる為でした。
非想天則でチルノを見下すセリフを言ってるパチュリーですから、妖精のライカの話に取り合わないだろうと思いまして。
……まぁ、「ナイフが~」の下りをやりたかったってのもあるんですがw
感想にもあった「美鈴にライカって分かってもらえるかどうか」ですが…
美鈴の性格上、「ある程度話がかみ合えば信じちゃうだろうなぁ」と思いこうしました。
まぁ門番やってる以上、見る目はあるでしょうし、問題は無いんじゃないかと。ライカも顔の形は変わって無いし。
博麗神社の会話は、後に回すか考えた結果、先に持ってきました。
彼女たちがこの異変にオチを付けてくれるでしょう。
おまけという名のどうでもいい会話
電気猫(以下電)「作者と」
リン(以下リ)「リンの」
電&リ「Q?&A!コーナー」
電「リンとの会話が不評だったので、質問コーナーに回してあげた作者です」
リ「そんな作者の心意気に感動しているリンと申します」
電「もっと感謝しろ」
リ「無視していきましょう。青葉まーく様の質問というか疑問」
― フランの攻撃食らってその場で直ぐに再生するのがチョットイメージが湧かないかもです。 ―
電「これについては私の妖精への解釈と、ライカの能力が関係してますね」
リ「ほほう、一応考えているのですか」
電「当然です。私はまず、妖精の体のサイズと再生速度は反比例すると考えています」
リ「その訳は?」
電「小さい方が戻りやすいのでは? と考えたからです」
リ「なるほど、しかしそれでは誤差の範囲では?」
電「それだけではなく、妖精は元となった自然によってそれぞれ特性があると考えています」
リ「特性って、「チルノが冬に元気が良くなる」みたいな?」
電「そうです、そしてライカは花の妖精。花は植物なので生命力が強いと考えられます」
リ「つまり再生力も高い、という事ですね。ライカの能力というのは?」
電「それは本編に関わるのでまだ言えません。しかし、すべてを合わせた結果ライカの再生力は他の妖精より高いのです」
リ「ちなみにライカはその事については?」
電「再生力が高い事は知っています。しかし、長所として見ているので気にしていません」
リ「確かに力の弱いライカにとっては自慢できる点ではありますね」
電「こんな感じで、何とか質問に答えていきたいと思います」
リ「これって回答になってるんですかね。言い訳くさい気がしますが…」
電「黙らっしゃい! …では、今回はこのへんで」
リ「さよーならー」