むかーしむかしあるところに、たいそう家族想いなお殿さまがおったそうな。
お殿さまは家族のお願いならどんな無理難題でも聞い入れた。
そんなお殿さまの奥方さまはたいそうな美人であったとか。
その噂は遠く離れた人の耳まで伝わっており、彼女こそ国一番の美女であると言われておった。
二人の間には、ものごころつかぬ一人息子がおった。
幼いが故に少々我がままであったが、お殿さまと奥方さまは息子を大事に大事に扱っておった。
さて、そんなお殿様さま達は幸せに暮らしていたが、何処からともなくそれやっかむものが現れた。
はたしてそれは、“小鬼”であった。真っ赤な真っ赤な“小鬼”であった。
“小鬼”は言った。
『おまえたちがうらめしい
おまえたちがねたましい
おまえたちがにくらしい
だからぜんぶぜんぶこわしてやる』
と。
“小鬼”の力はすさまじく、城にいた侍たちを次々と打ち倒していった。
なんとか“小鬼”を追い出すも、城にいたものたちのほとんどが動く事の出来ないほどに弱っておった。
しかし“小鬼”はちっとも堪えておらず『またくるぞ』と言い残して去っていった。
これに困ったお殿さまは、とある高名なお坊さまに退治をお願いした。
そして一月もしないうちに、“小鬼”はまた姿を現した。
しかしそこは名だたるお坊さま。ひるむことなくお経を唱えると、“小鬼”がぴたりと動きを止めた。
そしてお坊さまは、ありがたーいお札を張られた箱に“小鬼”を封じ込めると、お殿さまにいった。
『よいか、
この札を決して剥がしてはならぬ。
剥がせば“小鬼”は力を取り戻し、
再びお主に襲いかかるであろう』
と。
そんな恐ろしいものは引き取れないとお殿さまは言ったが、お坊さまは『持っておらねばならぬ』と言い張った。
お殿さまはその言葉の意味を掴みかねて首を傾げておったが、お坊さまは深く語らず帰って行った。
だがその後のお殿さまは、災厄に見舞われることなくみなと末長く幸せに暮らしたそうな。
めでたし、めでたし。
………………ほんとうに?
ほんとうに、みんなだったのかしら?
…………もう少し調べてみるべきかしらね。