作物の収穫と収穫祭も無事に終わり、幻想郷では木々の紅葉が風に煽られ舞い降りる中でどこも冬支度が急ぎ進められていた。
当然我が家も例外ではないのだが……。
「これじゃあいくら補修してもいずれ雪で潰れちまいますね。いっそ立て替えた方が早いですよ。」
人里の大工が屋根裏の柱や梁、垂木の痛んだ部分を次々と指さして説明してくれる。
私が以前隠遁していたところは冬でもそれ程雪の降らないところであったことを思い出し、家ごと移築してきた我が家(築推定数百年)で雪深いと評判の
幻想郷の冬を越せるか不安になったので、慧音から紹介された大工達に見て貰ったのだが……。
「こことここの梁に垂木も新しいのにしないといかんですねぇ、それにこんだけやられてるんじゃあ多分板葺きもやられてます。
となると、屋根どころか本当に建て直さにゃいけませんぜ……。」
大工の言葉に思わず頭を抱える。エリー達によると早ければひと月もせず雪が降り始めるのに今から立て替えなどとても間に合わない。
(この冬は博霊神社か紫のところに厄介になるしかないか、とはいえ……)
人間と人外との力関係上、人里や神社の世話になるのはあまり好ましくはない。かといえ紫の世話になっても後々面倒事にならないとは限らない。
となると適当な空き家を急いでここに移築させるしかなさそうだが、そううまく空き家があるとも思えない。
取りあえず今日一日考えると言って大工に帰ってもらい、エリーに茶を煎れてもらう。
「……参ったな。まあ補修しながらとはいえ数百年頑張ったから御の字なのだろうが……。」
「そんなに経つんですか……。それで、どうされますか?」
「…………。どうするにしても荷物を纏めておかねばならん、準備をしておいてくれ。」
それだけ言って見慣れた天井を仰ぐ。隠遁生活の数百年をこの家で生活してきたが、幻想郷ではひと冬も越すこともなく朽ちるとは……。
エリーに煎れてもらった茶が冷め切る程度までそうしていた後、憮然ともつかない溜息をつく。
「………紫、お前ならどうする?」
「困ったわね……、この冬はここの温泉で雪化粧を楽しむつもりでいたのに……。」
隣に顔を動かすと予想通り、紫がスキマを開いて上半身を乗りだしていた。彼女が顔を見せるのも、発言についても今更どうこう言う気も失せている。
そしてこれまたいつものように紫にあたふたと驚くエリー、いい加減紫の神出鬼没さには慣れろ。
「とりあえず人里に使える空き家はないわ。あるとしたら外の世界から用意してくるしかないわね。」
と、あっさり結論を言う紫。思惑があるのか自分の家に私を逗留させる気は皆無らしい。
「その口ぶりからするとアテはあるようだな。」
「ええ、とびきりの優良物件があるわ。数日中にはここに用意できるけどどうする?」
その言葉に私は湯飲みを置いて立ち上がり、手ぬぐいなどを用意する。
「ならば引っ越しの準備を急がねばな、そちらの方はよろしく頼む。」
「任されたわ。」と言って紫は姿を消す。
どうせ紫のことだ、彼女の言う『優良物件』とやらに自分たちや魅魔達の別室もまとめてここに持ってくるつもりなんだろう。
もっともそれこそ今更であるし、私からすれば私の個人用の部屋などをちゃんと確保できるなら気にしていない。
元々今の家が一、二人用に用意したのだから手狭になっているのも事実だ。この際新しくするのも一興というものかもしれない。
そう考えつつ細々とした物の整理から始めることにした。
数日後、紫が早速外の世界から持ってきた『優良物件』とやらを上空から確認する。
丘であったところの麓、人里の田畑の方を見れば何事かと人間達が野次馬のごとく集まっている。
「……これは、家……というべき、なんでしょうか?」
「私に聞くな、これを持ってきた紫に言え。」
混乱しきりのエリーに対し、私も力無く答える以外にできそうにない。
昨日まで小さな我が家と温泉、慎ましい田畑しかなかった筈の丘陵地は今や断崖絶壁の如き石垣や堀とその上に幾重も重なって連なる櫓や塀に覆われており、
その中には幾つもの巨大な屋敷-御殿というべきか-をはじめ大小様々な建物、そして丘の頂には無駄に装飾がちりばめられた五層の天守がそびえ立つ。
いわゆる城である、それも外の世界の天下人辺りが住むであろう大城郭と言っていい規模のものだ。
あまりに立派なせいか、中腹にある曲輪(くるわ)の一角にそのまま建つ元の我が家と田畑があまりに場違いでみすぼらしく感じられてしまう。
まあこれだけの規模と造りなら雪の一つや二つなんの問題もないだろう、色々と間違っているような気がして仕方がないが。
紫に言いたいことがありすぎて何から言ったらいいかわからんが、とりあえず頭の中を落ち着かせたい。
ひとまず頂き近くにある御殿に降り立つと、案の定その縁側で紫が魅魔と囲碁に興じていた。
碁盤を凝視しながらあれこれ指差し悩む姿からして魅魔の負けは確実のようだが、私にすればそんなことはどうでもよい。
「あら、もう城内を見てきたの?早かったわね。」
「………色々言いたいが今はこれだけにしておく、私とエリーの二人でこの城をどうしろと言いたい?」
「私からは別にないわよ……。そうそう、温泉は浴場が新しくあるから露天風呂ごと移動させといたわ。」
その辺りの手回しは流石というところなのだろうが、そんなことは今はどうでもいい。
「質問を変え……というよりはっきり言っておこう、とてもではないが管理などできん。」
今紫達がいる御殿一つでも確実に手に余る程度なのに、下手をしなくとも幻想郷中の人間と人外を余裕で収容できる規模はある
この城全てを私とエリーの二人だけでは維持管理すらもできるわけがない。
「そこまで押しつける気はないわ、建物も半分近くは人里や妖怪の山に移築させたりするつもりでまとめて持ってきたもの。」
それで空いた土地は田畑でも放牧用でも好きにしてくれ、というつもりらしい。確かに斜面が減って整地されている分だけ以前より耕作はしやすくなる。
そもそも収穫祭の前に結ばれた協定によってこの丘は私のものになっているので、建物が邪魔なら移築なりしてもらえばいいのだが……。
「……移築なりするにしても雪解け後になってからだろう。とりあえずはこの屋敷だけでもいいから冬支度と改築を急ぎたい。」
憮然とした気分で靴を脱いで御殿に上がり、改めて外装や内装を覗き眺める。
襖や障子で区切られているにもかかわらず莫迦みたいに巨大な部屋ばかりであるが、内部は良い木材を使ってはいるが意外にも質素であり、
金を多分に利用した絢爛豪華な絵といった、これだけの規模であればあってもおかしくなさそうな豪勢な絵や装飾は皆目見あたらない。
部屋の一つ一つが不必要なまでに大きいのでできれば間取りを変更したいが、最低限の改築だけしてこの冬を越してからでも構わない。
とはいえ、未完成というわけでもなさそうだがその割には派手なものが全くないというのもおかしい。丘の頂にある天守が派手なだけに尚のことそれが気になった。
「派手な装飾など趣味ではないから全て剥がしてくれ…、なんていうと思っていたから予め粗方の建物からはその類を取り除いておいたわ。
といってもこの奥御殿は下の表御殿と違って元からそんなに装飾があるわけじゃないから、ここは早く終わったらしいけどね。」
私の趣向まで理解して頂いているとはまことに恐れ入る限りだ。もっとも『ここは』、『らしい』ということは……。
「いくら式だからって藍にばかり仕事を押しつけるな。どうなっても知らんぞ。」
この場にいないあの忠義者が主を見限るなどあり得ない事だが、愚痴や文句の類を酒の席あたりで私にぶつけてくる程度なら容易に想像がつく。
そうなればほぼ間違いなく私が割を食う羽目になるだろうから先に釘を刺しておくことにしておかねばならない。
「……………。」
私の意図を察したのかそれとも心当たりがあるのか、微妙な表情を浮かべて私から視線をずらして何も答えない紫。
そんな紫に完敗したのか、魅魔がやけくそ気味の頭を振って降参を宣言してはしたなくも大の字になって寝っ転がる。
いくら足がないとはいえはしたない……などと呆れ半分に眺めているとふとこちらを見てきた。
「そういえばエリーだったかな?死霊を操ることができるならそれで城の管理ぐらいできないのかい?」
何気ない魅魔の一言にこの場にいる全員の視線が一斉にエリーに向かう。
「えっ!でもっ…、半端者の私はそんなことまでとてもできませんよぅ……。」
当の本人?はというと慌てふためき、半泣きでしどろもどろなった挙げ句に尻すぼみになりながら答える始末である。
まずはこのへっぴり腰を何とかしないといけないようだ。となると餅は餅屋、というわけではないが死神には悪霊にしごいてもらうべきだろう。
「というわけで魅魔、すまんが頼まれてもらえんか?」
「……神社の賽銭の件があるからねぇ、神社の改築にここの適当な建物を転用材にして使わせてもらうつもりだし……。
それにあの腰抜け具合じゃあ今後が思いやられるしねぇ。」
そう言うや否や魅魔はエリーの後ろに転移して、その首根っこを掴んで明後日……博霊神社の方へ飛んでいってしまった。
哀れな子羊…もといエリーは助けを求める間もなく、哀れというよりは滑稽な叫び声を残して連れて行かれ、瞬く間に見えなくなってしまう。
「悪霊が死神を教育するなんて珍しいこともあるものね。ところで憂香もいかが?」
碁盤の傍らでその様子を眺めていた紫はそう呟いた後私を囲碁の対戦相手に指名してきたが丁重に断っておく。
前世からの囲碁将棋の弱さにかけては筋金入りと自負しているし、勝ち目のない戦いに興じる趣味ではない。
そんな本音は表面的には隠しつつ、紫に御殿の図面を用意するよう頼んで人里の大工を呼びに向かう。
どうせ雪深い冬の間には遊ぶ暇がいくらでもあるので、そのためにもまずは冬支度と引っ越しが急がねばならない。
数日前に我が家を見に来た大工は新居となる御殿の規模に最初こそ驚いていたが、すぐに本職魂に火がついたのか俄然やる気を出して御殿中を隅々まで調べ回っている。
空の飛べない大工を連れに一緒にやって来た慧音も御殿より大工の様子に苦笑している辺り察してもらいたい。
因みに先程までいたはずの紫はというと、この御殿どころか城中の図面らしき沢山の紙束を置いていつの間にか姿を消していた。
流石のスキマ妖怪でも丘一つ埋め尽くすだけの大城郭を移動させてくるのは一苦労だったらしい。多分ここの冬支度が終わるまでは顔を出してはこないだろう。
ついでに冬の間逗留…居座るのは確実なのでその準備もした方が良さそうだ。
「できてそれ程経っていませんし、造りもしっかりできてますから間取りを変えるのでなければ殆ど改築する必要もありませんね。
屋根のこけら葺きもいい造りをしていますので幻想郷の雪にも余裕を持って耐えられますよ。」とは一通り調べ回った大工の弁である。
私も即興で描いたこの御殿の図面の写しを片手に改めて御殿の中を歩き回り、部屋の間取りなどを考えてはその写しに書き加える。
確かに大工の言う通り、それこそ気にしなければ今日中に引っ越しができる状態ではある。
しかしこういった御殿は多数の召使いや小間使いを働かせることが前提である以上、主である私が炊事洗濯など大抵のことを自分でやる分には色々不便なのである。
「まず居間には囲炉裏のある焼火(たきび)の間を使いたい。ただ囲炉裏が大きすぎるからもう少し小さくしてほしいな。
それから昼間は南向きの広間にいることが多いだろうから横の小部屋を物置にしたい、後は温泉がここになるから……。」
広間横の渡り廊下に写しと図面を広げて、一つ一つ指差しつつ大まかに私の希望を伝える。
「……後はここの小書院を客間に、私やエリーの部屋は奥の御納戸(おなんど)を割り当てたい。対面所は使わないだろうから雪解け後に移築でもしてくれ。」
「対面所は後々何かに使わないのですか。……まあ必要になれば建て増しすればいいですか。
となると焼火の間と隣の台所からですね。奥にも土間のある台所がありますが……。」
「ここまで離れていると不便だからな、それにここは勝手口といったところだろう。むしろ間の廊下を潰して台所にまとめてくれたほうがいいな。」
そう言いながら焼火の間と御上台所の間にある廊下を台所に加えるよう線を書き加える。
こういった日々暮らすところには妥協は厳禁である、けして手を抜くわけにはいかない。
結局本格的な改築は明日からということとなり、慧音に大工達を送ってもらうと城内は途端に静かになる。
改築が終わるまでは前の家で住む予定なので、そちらに戻るついでに折角なので他の曲輪にも足を伸ばしてみることにした。
広げていた図面のうち城全体の縄張図を片手に新居となる奥御殿の外に出て、庭や周囲を改めて見回す。
奥御殿の庭には意外にも松や椎の木が多数植えられており、縄張図によれば下の曲輪には松林や橋の架かった池が用意された庭園まであるらしい。
松や椎も実が食べられるので籠城用に植えてあるのだろう、後々梅や杏子、胡桃や栗を植えてもいいだろう。
ただこれだけあると手入れに苦労しそうなんで適度な数にした方がよいかもしれないのだが、まあそれはおいおいやっていけばいい。
次に奥御殿を取り囲む塀や櫓、そして一際大きくそびえ立つ天守を仰ぎ見る。
櫓一つだけで人里の民家数軒分の規模はあるのだが、縄張図によると城全体で三十近くはあるらしい。
これも折角なので天守の中を覗いてみることにした。
遠目から見ても全体を派手な装飾で彩られている天守だが、内部の飾り気は新居の御殿程ではないが僅かしかなく、
分厚い土壁の内側は鉄砲や槍を掛けられており、補強された格子窓しかないせいか薄暗くて涼しい。
(漬け物や酒の保管や熟成には丁度良さそうだな、しかし……)
本来の用途とはかけ離れた使い道を考えていたがいつしか、この櫓をはじめこの城の今後をどうすべきか思い浮かべかねていた。
私の前世で覚えている限り、外の世界の各地の城は今後不遇と試練の歴史を歩むことになる筈だ。
それは新たな為政者達による破却であったり火災や戦乱での焼失であったりと、結果多くの城が失われていた。
前世で親に連れられて訪れた近くの城跡も建物一つ残っておらず、残る石垣は草や木々にすっかり覆われており、
その姿は遺跡というほかない所であったことだけは今でも鮮明に覚えている。
結局その城にはその後一度も立ち寄ることはなかった筈だが、別の城とはいえ今こうしてこの城を眼下に納めているとあの城跡のことを思い出さずにはいられなくなる。
そのようなことを考えつつ狭い階段を上り、いつしか最上階に行き着いて廻縁(まわりえん)から外を眺める。
夕焼け色になりつつある空に照らされた城と周囲の幻想郷の風景は不思議なほど調和のとれており、ただ全てが一体となってそこに広がっている。
(私だけではとても管理できないのは事実だが、かといって全て移築させるというのも忍びない………か。
まあ一年二年で朽ちるような造りではないし、将来的には誰か管理できる妖怪なりに任せるか……。)
魅魔にしごいてもらっているとはいえ、エリーに任せるというには少々荷が重いだろう。それにエリーには他にやってもらいたいことがある。
となればエリーに続いての従者なりになるだろうが、もう一人二人増えてもあまり問題もないだろう。
「いや~、こうしてここから見る眺めというのもすばらしいですねえ。」
いつの間にか横に文が手摺に座っている。素直に感想を述べているのか初対面の時のような鬱陶しさは感じられない。
「でも城の建物は粗方他に移築とかするそうですね、具体的にどうなるか決まってますか?」
「いや、雪解け後でないと何とも言えんな。冬の間は時間があるからゆっくり決めるつもりでいるが……この景色を見ていると逆に移築させたくなくなるな。」
この眺めとのせいか自分でもこの微妙な心情を文に語ってしまうのだが、珍しいことに幻想郷一喧しいであろうこの鴉天狗も無言のまま聞いていた。
暫し眼下の風景を眺めていると文が思い出したかのようにあることを聞いてきた。
「そう言えばこの城の名前は決めましたか?」
「名前……、そう言えば元々の名前も知らなかったな。」
今後のことなどにばかり目がいっていたため名前など全く失念していた。
本音を言えば別に『我が家』でも『城』でも一向に構わんのだが体裁的にはあまり良いとは言えないだろう。
持参していた城の縄張図を開き、文が横から覗く中確認してみる。
「……指月城、か。元々建っていた山の名だな。文は聞いたことは……ないか?」
「流石に外の世界の山まではわからないですよ。只聞いた話なんですが少し前に外の世界では長らく続いていた乱世が終わったそうですよ。」
……どうやらこの城を築いたのはかの戦国一の出世頭なのだろう。まあそれは兎に角。
「幻想入りした以上、元のままというのも些かおかしいな。何かいい名前はないか?」
「そういうのは持ち主が考えるものでしょう…。まあ憂香さんは城主というより城跡を所有する地主かそんな感じなんでしょうけど……。」
当たっているだけに何も言えない。そもそも城内の建物を潰すなり移築するなりして田畑にするなんて考える城主など前代未聞である。
「……そういえばこの丘は元々どういう名で呼ばれていたのだ?」
「いえ、単に人里近くの丘としか……、ならいっそ憂香さんの名前をとったらどうですか?」
「……恥ずかしすぎる、勘弁してくれ………。」
私が辟易とした表情を出す一方で鴉天狗はというとこれは名案とばかりに調子づく。こうなったら止めようもない。
「いやいや、ここは憂香さんの丘なんですからそれがいいと思いますよ。
名前がダメでしたら………、名字をとって……風見ヶ丘とかどうでしょう?」
一応は私にも聞いては来るが、それで押し通す気でいるのだろう。こうなると文の提案した名前で決まったも同然である。
(まあ風雲憂香城などよりは遙かにましか、語呂もそれ程悪くはないし……)
「それがいいと思いますよ。ええ、それにしましょう。では私は新聞の編集がありますので失礼しますね、それではっ。」
呆れを多分に含みつつも了承の意志を示した私の表情に得意満面の笑みで答えた文はそう言うや否や挨拶もそこそこに妖怪の山めがけて飛んでいってしまった。
念願の特ダネを仕入れたのだ、明日には彼女の新聞が幻想郷中にばらまかれることだろう。もしかすれば号外もでるかもしれない。
他人事のように考えつつ私は歩いて天守の中に戻り、元の我が家に向かうことにする。
文が飛んでいった妖怪の山の方では日が大分沈みつつある。今夜は久しぶりに一人だけの夕餉なので簡単に済ませて明日からの改築と引っ越しに備えねばならない。
因みに我が家に帰ってみると久しぶりに見る体育座りで壁に向かって呪詛めいた独り言を呟き続けるエリーがいた。
さらにすぐ近くには書き置きが添えられている。それに曰く、『すまん。少々やりすぎた。』
その『少々』が引っ越しが終わる頃には立ち直れる程度であることを願わずにはいられなかった。
※⑨でもわかるういかりんの学習講座※
日本の家屋とお城の巻。
作中で出てきたお城や日本家屋の専門用語を解説しておきましょう。
※家屋編
・梁(はり):日本の木造家屋などで縦に立つ柱同士を横からつなげている部分。
・垂木(たるき):屋根板やその上の瓦を支える柱。
・こけら葺き:板葺きの屋根の種類の一つで薄い檜等の板を少しずつずらしつつ平行に並べて竹釘などで固定する。京の金閣や銀閣などの屋根がこれ。
(江戸時代中後期に比較的安価で耐久性の優れた瓦葺きになるまで城の御殿の屋根は板葺きだったそうです。)
※お城編
・指月城(指月山伏見城):かの豊臣秀吉が隠居用として天正二十年(1592年)に築城を始めた城。4年後に発生した慶長大地震により倒壊、
すぐに少し北にある木幡山に再度築城されている(こちらは木幡山伏見城と呼ばれ、一般的に伏見城とはこちらを指す)。
(指月山伏見城の詳細は現在でも殆ど謎だそうで、作中の奥御殿は豊臣時代の大坂城奥御殿を参考にしています。)
・焼火の間、小書院、御納戸:いずれも豊臣大坂城奥御殿にある部屋で、焼火の間は大型の囲炉裏を用意した宴会用の部屋、
小書院は秀吉らの普段の寝所、御納戸は一番奥の衣装部屋兼冬場の寝所だそうです。
(豊臣大坂城の本丸は図面が残されていますので詳細な復元図が用意されています。)
・廻縁:天守などの楼閣建築の最上階を囲うようにあるベランダのような回廊部分。雨に濡れるなどの欠点があるため姫路城などは廻縁を壁で覆っている。
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なんとか三月中に5話を用意できました。ヤッタランです。
よくよく考えたら農業してねえじゃん。でも気にしないで下さい。
幻想郷に館、楼、亭、神社、殿、寺があって城がないのはおかしいというのはこれを書く前から気にしていた事だったので
いっそ出しちまえ→城を調べる→深みにハマるといういつものパターンで遅くなりました。
それから流石のゆかりんでもこれは無理だろ……とかいう突っ込みは後生ですので勘弁して下さい。
因みに城主伝にはなりません。今後もあくまで城(跡)で農業と料理を気ままにやっていきます。
(料理伝には……そうなるほどレパートリーがありませんので。)
尚今回ネタにした指月山伏見城は一時期京都在住だった関西人でも全く知らない程度の存在だったので格好のネタにしています。
因みに城用の瓦は一般用と比べて大型で重いらしく、解体して転用材に使う他移築には板葺きの屋敷や御殿をあてるつもりです。
(城内にあるであろう屋敷や御殿だけでも随分な数になる筈なので最終的には天守や櫓の大半は残る予定です。)
他の旧作キャラは後出せてもせいぜい数人が限度だと思いますが神崎様とアリスは出したいですねえ。
城の管理にはWin版以降のキャラを当てる予定ですが、次話をいつ出せるのやら……。