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No.16642の一覧
[0] 【習作】金髪のジークフリート    Dies irae 〜Acta est fabula〜二次[宿紙上座](2010/08/08 13:35)
[1] Die Morgendämmerung_1[宿紙上座](2010/02/21 20:56)
[2] Die Morgendämmerung_2[宿紙上座](2010/02/26 15:02)
[3] Die Morgendämmerung_3[宿紙上座](2010/02/21 20:59)
[4] Die Morgendämmerung_4[宿紙上座](2010/03/13 18:32)
[5] L∴D∴O_III.Christof Lohengrin[宿紙上座](2010/02/22 12:13)
[6] L∴D∴O_IV.Kaziklu Bey[宿紙上座](2010/02/23 11:26)
[7] L∴D∴O_V.Walkure[宿紙上座](2010/02/24 11:57)
[8] L∴D∴O_VII.Goetz von Berlichingen[宿紙上座](2010/02/25 08:05)
[9] L∴D∴O_VIII.Melleus Maleficarum[宿紙上座](2010/02/27 12:15)
[10] L∴D∴O_IX.Samiel Zentaur[宿紙上座](2010/02/28 11:39)
[11] L∴D∴O_X.Rot Spinne[宿紙上座](2010/03/01 10:50)
[12] L∴D∴O_XI.Babylon Magdalena[宿紙上座](2010/03/02 11:50)
[13] L∴D∴O_XII.Hrozvitnir[宿紙上座](2010/03/03 11:27)
[14] L∴D∴O_null.Urlicht Brangane[宿紙上座](2010/03/04 10:58)
[15] L∴D∴O_ I & null.Heydrich[宿紙上座](2010/03/05 11:09)
[16] L∴D∴O小話、椅子破壊活動[宿紙上座](2010/03/01 11:02)
[17] L∴D∴O?_VI.Zonnenkind[宿紙上座](2010/07/11 11:22)
[18] Durst_1.eins[宿紙上座](2010/07/11 11:53)
[19] Durst_2.zwei[宿紙上座](2010/07/17 11:10)
[20] Durst_3.drei[宿紙上座](2010/07/25 12:04)
[21] Durst_4.vier[宿紙上座](2010/08/01 11:50)
[22] Durst_5.funf[宿紙上座](2010/08/08 13:33)
[23] 巻末注、あるいは言い訳【度の軽重問わずネタバレ注意】[宿紙上座](2010/07/17 11:08)
[24] 小話IF 和洋折衷[宿紙上座](2010/03/08 11:53)
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[16642] L∴D∴O_VII.Goetz von Berlichingen
Name: 宿紙上座◆c7668c1d ID:767d7c12 前を表示する / 次を表示する
Date: 2010/02/25 08:05


 カインとは言葉が通じない、櫻井であった頃は理解出来たのだろうが、屍兵と化しブレンナーが手綱を握っている今はそうは行かないだろう。メルクリウスも似た様なものだし、イザークにはどんな顔して話せば良いか分からない。
 だからか、同じ様に寡黙なマキナとも大した会話になる訳が無いだろうと、そう思っていたが、しかしベルリン侵攻の前に彼と話す機会が何度かあった。

 その日も俺は活動の訓練、と言うかなかば趣味と化した音弄りをしていた。
 気合いを入れて集中していれば生きた音楽プレーヤーに成れるこの活動は楽し過ぎる。
 ルサルカの前で歌詞を落として地上の星を流して見たりと言う(地味で陰湿な)嫌がらせは未だ続行中だった。
 さりげに音楽業界に革命を齎しているかも知れないが大丈夫だろうか。

 その日も監査役をルサルカに頼んで居た筈だがどう言った訳か代わりにマキナがやって来たのだ。

「器用なものだな」

 と言って俺の対面から少し外して椅子に座った彼はやはりいつもと変わらず何を考えているのか分からなかった。"彼"はもう少し取っ付き易かった記憶が有るんだが。

「ルサルカはどうしたんでしょう、あー……」

「マキナで構わん、マレウスは体調が悪いので病欠するそうだ」

 つまり彼が行きたいと言うので急激に体調が悪い事になった、と言う訳か。案外あれで肝が細いので本当に体調が悪くなったのかも知れないが。

「ではマキナ、代わりに貴方が?」

「そう言う事だ」

 やはり即答、何時もの様に下らないモノローグを入れる暇も無い間髪入れない返答は俺を戸惑わせるのに過分なほどだ。

「見ていたって詰まら無いと思いますがね」

 と言いながらEinherjar Nigredoを流し始める。
 どんな状況でも嫌がらせは忘れない俺カッコ良い、と言いたい所だが正直聞きたい気分になったと言うのが正しい所。今の状況にこれ以上相応しい曲もあるまい。

「それだ」

「--ッ!?」

 突然、良く分からない事を言い出した彼に死ぬ程驚いて思いっきりビックンと反応してしまう。こう言うのは辞めて欲しい、俺怖くてホラー映画とか見れないんだから。

「ななな、何がでしょう」

「その曲だ、聞き慣れぬ調べを奏でるとヴァルキュリアがザミエルに話しているのを耳に挟んだ事がある。しかも幾つか種類も有る様だ、その曲、どこから持って来た?」

  著作権管理代行ですか? と、言う訳では無いだろう。マキナ卿が代行なんてしたら著作権侵害の歴史に幕を引かれてしまう、翌朝にはあらゆる著作権が厳守される大いなる冬が来るに違いない。この話が抹消される、怖過ぎる。

 要するに何処にも無い音楽を何処から持って来たのか、と言う事だろう。特別、言い訳が必要な訳でも嘘をつく意味が有る訳でも無い、無いのだから「頭の中からです」なんて嘘でも本当でも無い玉虫色の回答で良い筈なのだが。
 今の彼にはそう言う回答を許さない気配があった。何故、そんな事を聞きたいのか、とかそんな無粋な事は言わない。余人ならいざ知らず、他ならぬマキナ卿がそれを問うなら理由は一つしか無い。
 ただの勘に過ぎない筈だが、伊達に勘だけで永劫停止の渇望、最低でもマッハ1000を捌き切った訳では無いと言う事か。
 あるいは、同族(死に損ない)の臭いには鈍感で居られなかったか。
 メルクリウスに何か吹き込まれたか。

「前世から、って言ったら信じます?」

 俺はいつもどおりに正直に答えた。
 彼はそうか、と独りごちたのみで何も言わずただ黙っていた。


 ……大人しくパルツィヴァルでも垂れ流しておくべきだったか。
 それとキルヒアイゼンには後々口が軽い事の報いを受けて貰いたい。



 そのマキナが今目の前に居る。
 事が起こる直前、彼と俺が話すのはこれが最後になるかも知れない。彼自身もそれは分かっているんだろう。
 恐らく聞きたい事が何かは解っている。兵隊向けの新聞を発行していた俺は職業柄前線に立って居た者に少々詳しい、加えて俺は英雄好きでそこそこ通っていた。
 だから、その事をどこからか知った彼は聞きたいのだろう、俺を知っているか? 俺は誰なんだ? と。

「お前は、お前が誰か知っているか」

 しかし投げ掛けられた問いはその事に関係が有りそうでやはり関係の無い事であった。
 メルクリウスはどうやら俺が転生している、と言う事をマキナに漏らしたらしい、何を考えているのだろう。

「俺は俺として連続はしています。だけど俺はジークフリートですよ、今はジークフリート」

 そう言ったがマキナ卿の表情は揺るがない。
 パルツィヴァルが演奏され始めた愛おしき我が部屋にて、向き合う二人の男は僅かな剣呑さととんでも無い緊張感を持ち合わせていた。
 流石にいつもの様に巫山戯られない、次の瞬間には幕を引かれて仕舞いそうだ、怖い。

「それで良いのか? 貴様には貴様の主体があっただろう、それを失い、あるいは明け渡してまでして既に死した生に何を望む?」

 確かにマキナ卿には理解出来ないだろう。連続して己を維持しているのに、過去世は所詮過去、今世はどうしても現実であるとして割り切るのは中々に難しい。
 嫌でも過去を引き摺ってしまうものだ、なんとなれば普通は過去の様に、ないしは過去より良き人生を送ろうとする。
 特に一回だけの特別な終わりが欲しかったと言う様な豪傑には、既知に従って自ら踊るなど狂人の行いにさえ見えるだろう。
 しかし、

「確かに、自分の生に疑問は感じます。死ぬ前には未練が無かったのでただ単に自然であっただけですよ、死人に意思なんて要りませんしね。でもそんな中で時間があるならば、自らの渇望を叶える事に邁進するのは不思議では無いでしょう」

 少し行動と発言が違う部分もあるが概ねそのまま、事実を語る。
 ただ単に自然であっただけ、と言うのはこうあるのが自然であっただろう、と言う事なのだが、態々説明する必要はあるまい。
 そして死んだ後である今ははっきりと未練がある。

「それが貴様に取っての死後だと?」

 マキナの表情には何ら変化が無い様に見える、この程度で揺らぐとも思えないが余りにも反応が薄いと彼にとって気に食わない事を言ってるんじゃ無いだろうかと言う恐怖が沸沸と湧き上がるって来る。
 仮に彼が激発して、その心の赴くままに俺に拳を向ければ俺は何をする事も出来ず、瞬く間に幕を引かれてしまうだろう。

「矛盾しているな、ジークフリート。ならば今の貴様はなんだ、劇毒の剣を執り偽りの生に縋り、なお自然であった、渇望の追求など余暇の遊戯に過ぎん、など言い訳にもならんだろう」

 彼の糾弾はもっともなもので確かに俺は矛盾している様に見えた。こう言った誤謬は間違い無く彼の嫌うものであるだろうと思う。
 しかし何事にも例外はあるのだ。
 例えば死んでも修羅道の世界に取り込まれ、戦奴とされる場合ならば例え生き汚くとも生き延びて修羅道の終焉を願うだろう、あるいは

「アホな神様気取りが幅を利かせてる永劫の既知世界で大人しく死ね、と? 冗談じゃ無い、俺はね、この既知の根源を殺してから死にたいんです」

 そう、俺はメルクリウスを殺したい。
 ここからは推測の域を出ないが、メルクリウスが生きている限り恐らく俺は死なないだろう、死んだとしてそれで真実の意味の終わりを迎えられない。
 世界法則の外から引き摺られてこの世界に堕ちたのならば、ここに落ちる前の"私"は半ばこの法則の外にあるだろう。ならば"私を含んだ俺"はその全てがゲットーに囚われているのでは無いのでは無いだろうか。
 "私"だけが死ぬ直前のあの日に回帰し、また転生するのでは?
 もしかして"俺"は失われ、再び"私から始まる俺"として再生するのでは無いか、永劫に回帰するのでは?

 ただ単純に永劫回帰するだけならば此処までは気にしないだろう、無理なら無理と折れて"次の俺"に丸投げする。
 だが、途中から始まるのであれば、その可能性が僅かでもあるのならば生易しい死に方は出来ない、したくない。
 既に知っている俺だからこそ、メルクリウスは放置出来ない。

「貴様は……知っているのか」

 そしてこんな質問には答える気も湧かない、下らない、陳腐だ、前にも聞かれた事がある。


 マキナはそこから一言も喋っていない。
 考え込んでいる訳では無いだろう、何をどう質問すべきか迷っているのだ。しかし沈黙は長くは無く、短くも無い様などうとでも取れる時間で打ち破られた。

「英雄が好きなのだな」

 部屋を見回して言った。
 自他共に認める英雄マニアで通っている俺の部屋は古今東西選ばず、しかし仕事柄格別、大戦中に活躍したドイツの英雄が多い。
 これは先のスツーカのサイレンを個人で所持していた事も一つだろう。物品での蒐集ならばラインハルトにも劣らない、ここに無いのは精々英雄本人とラインハルトに絡むものくらいだ。

「この中に俺は居るか?」

 自分はここに列席する程の男だったか、お前は自分も蒐集したのか、そして

「居ましたけど、今は隠していますね」

 自分が誰なのか知っているか、三重の質問。当然茶化す事は自分で許さず、三重、加えて知っているが敢えて伏せている、と言う意図の四重の回答をする。
 そこには酷い既知感があったがしかし、泣き言めいた過去への妄執では無くはっきりと単なる確認に過ぎないと言わんばかりの変わる事の無い表情が、純粋に尊敬を誘った。
 本物はかくも俺とは違うらしい、俺ならもっと無様な聞き方をしたに違いないだろう。

「どんな、男だった?」

 だから、自分の在り方の根幹にも触れるこの質問には一切の嘘偽り無い気持ちで

「貴方、死んだくらいで人間変わるとか甘っちょろい事考えてるならもう一回死んで来た方が良いですよ」

 と言ってやった。
 また、彼はそうか、と独りごちたのみで何も言わずただ黙っていた。


「こうやってお話するのもこれが最後になるかも知れませんね」

 別れ際。
 現時点では分かるべくも無い事だが、既知の通りであれば帝都のスワスチカを開いた後、マキナは獣の城に取り込まれ、次に現界するのは極東のシャンバラのスワスチカが最低三、四つ開いてから。
 既に戦争は佳境に差し掛かっている、と言ったタイミングだ。
 のんびりと座して話す暇などあるまい。

「次は戦場か。良いだろう、覚えておけジークフリート」

 鬼気迫るとはこの事か、唐突に膨れ上がり一斉に牙を向き始めた強烈な気配に冷や汗を流した。
 気当たりだけでこれだ、拳圧など測りたくも無い、気を失うんじゃ無いか。
 肝力とか肝の太さとか、そう言うのだけはラインハルト並だと思っていた自負が破れそうになる。

「……なんでしょうか」

 詰まった息で答えられるのはこれが限界。
 この状態で戦闘開始、となれば真実手も足も出ないだろう。
 出来たとして断末魔の叫びを一点集中させる事くらい。それがマンドレイクの叫びとなるだろうか、恐らく微塵の脅威にもなるまい。 

「貴様は俺が終わらせてやる」

 同郷の死は自ら看取る、と英雄だった男は言った。
 俺と言う存在を結局認められ無かったか、あるいは情けのつもりなのか。
 そんな事も説明せずに、ではな、と最後まで寡黙を貫き通そうとする男の背中に向かって小さな言葉で

「Auf Wiedersehen , Kamerad」

 別れの言葉を送った。
 最後くらい格好付けたかった俺に、聞こえて居たのかマキナも辛うじて聞き取れる位の音量で背を向けたまま別れを返してくれた。
 同じセリフでもマキナの方が格好良かったのは、やはり男は背中で語る方が良いと言う事なのか。

 取り合えず、61年後にあったらまず逃げよう。


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