大覇星祭最終日翌日。
「う~ん、さて、今日からは連休だな~。どう過ごそうか。…………って、どこここ!?」
目が覚めて周りを見渡してみると明らかに自分の部屋ではない。
しかも今自分が寝ていたのはベッドではなく妙にゆったりとしたイスである。
窓から見える景色は……空。
「……飛行機?しかもファーストクラスだし」
よくよく見てみると自分の他の座席に華夜が眠っている。
「あ、起きましたか、深夜子さん」
沙凪の視界に声波が写る。
「音嗚?どういうことなの?」
「深華さんたちが、普段一緒に入れない分旅行行って仲良くなろう、とのことです。丁度この一区画分借り切ったら一人余ったらしいので私もついてきました。ホテル代も出してくれるそうです」
「丁度借り切るためにわざわざ一人分多く払うのかあのバカ親!……何で教えてくれないかなぁ。それに私昨日は確か自分の部屋で寝てたはずなんだけど?」
「サプライズですから。ちなみに深夜子さんの部屋に入って着替えさせた後運び出したのと深夜子さんの用意は私がやりました。外に出るときはちょっと大変でしたが私も学園都市の生徒なこともあってなんとかなりましたし。親同伴なら何でもできるんですね~」
「不法侵入と誘拐は犯罪なんだけど!?それにどうやって入ったのとか、後私のパスポートとかの場所も何で知ってたのとかの疑問もあるし」
「深夜子さんの部屋の合い鍵は持ってますし中のことも知り尽くしてますから」
「何で!?あと外出許可の申請って相当時間がかかった気がするんだけど?」
「詳しいことは話せませんが……結局世の中金ですよ」
「あんのバカ親が!……もういいや面倒くさい、それでどこに向かってるの?」
「イタリアのヴェネツィアです。なんでもナンバーズの景品がそこの旅行券らしくて。それで何となく行きたくなったらしいです。同じようなプランがあったからこそお金の力でどうこうできたんですけどね」
「なるほど。で、そのバカ親たちは今どこにいるの?」
「気分転換にセルフサービスの飲み物もらいに行ってたりですかね。確か、少しは歩いたりしないと逆に疲れるから、だそうです。もうそろそろ帰ってくると思いますよ?」
噂をすればなんとやら、二人の足音が聞こえてくる。
「おはよう深夜子、やっと起きたのか」
「よく今まで起きなかったわね」
姿を表した深華と夜一が挨拶をしてくる。
「おはよう。さて、どういう事か説明してくれないかな?」
「起きていきなりか……何を隠そうこれはサプライズトリップだ。最初は普通に旅行行こう、だったのが話を聞かれていた音嗚ちゃんの提案で秘密にすることになった」
「……あの時の内緒話か。昨日決めたって事は全部前日予約だよね、どんだけ金使ったの……。それにしてもまた音嗚が一枚噛んでいるとはね」
「あれ?そんなに驚かないんですね」
「何となくそうじゃないかなと身構えてたからね」
「この頃そればっかですね~、ホント詰まらないですよ」
「毎回毎回驚いてたら早死にするっての。ていうか一つ母さんたちに聞きたいんだけどさ、私らは連休だからいいにしても母さんらは仕事とかどうしたの、特に華夜」
「私と夜一さんはたまたま仕事がなくて、華夜は……まぁそのあれよ、急病ってことに」
たまたま仕事がないというのも怪しい。
「ホントバカ親だな。……可哀想に」
「ちなみに深夜子には話したけど華夜にはまだ話してないからね」
「じゃあずっと寝てるんだね。でも横でこれだけ話してたら起きちゃうんじゃない?」
沙凪が心配したとおり華夜の体がモゾモゾと動く。
「ふあ~、あれ?ここどこ~?」
「飛行機の中だよ。華夜と私はどっかの悪い人によって誘拐されたの」
起きた華夜から声波たちができるだけ見えないように立って話す沙凪。
「ゆーかい?……ふぇ!?どういうことなの!?」
一気に目が覚めたようだ。
「寝起きの華夜ちゃんも可愛いですね~。今の話は半分ぐらいは嘘ですからね、安心して下さい」
「ふぅ、よかった」
声波の姿と発言を聞いて、華夜は安堵の息をつく。
「……半分は認めるんだね、誘拐したって」
「まぁいいじゃないですか」
「うーんと、誘拐じゃないならどうして飛行機にいるの?」
「母さんたちが旅行行きたいって」
「旅行?やったー!」
両手をあげて喜ぶ華夜。
「あぁ、華夜は喜んでくれるんだなぁ。それに引き替え深夜子は文句ばっかり」
「普通は勝手に連れ去られたら文句も言いたくなるものでしょ!?華夜は子供なだけで」
「大人ならもう少し落ち着いて欲しいですよね~深華さん、夜一さん」
「そうね、中途半端よね」
「しかも小さい頃からずっとこんな感じだからな」
「……もういい、寝る!」
声波だけならともかく、後の二人も相手してると精神的疲労が激しいので、それらから逃げるために沙凪は座席に戻り、毛布を頭から被った。
外からごちゃごちゃ聞こえるが、面倒くさいのでいつも持っている耳栓をして、到着まで頑張ってやり過ごした。
それからしばらく経ち、無事ヴェネツィアに着いた。
「はふぅ~、やっと着いた~。どれだけ毛布の中で我慢したことか」
「寝すぎですよ深夜子さん」
「飛行機の中じゃ特にやることもないからね~」
「そういえば深夜子さん、英語ってできます?基本お店とかならイタリア語じゃなくても英語ならある程度通じると思いますし」
「うーん、文法とか英単語とかは覚えてるんだけど実際会話できるかどうかはね~」
「じゃあテストを……I'll begin to poison you today. これは簡単だと思いますよ」
普通に外国人と思われてもおかしくないぐらいの流暢な発音で話す声波。
声波は声マネが得意で、発音は能力なしでもマネられるし、ある程度の高い声や低い声も出せる。
さすがにインデックスの歌レベルは不可能だろうがそれも能力が使用できるならマネは可能だ。
「……能力なしでもすごいね、その発音。え~と、そのまま訳すと、私は今日あなたを毒で害するのを始める。……怖いよ!」
「あくまでこの場で適当に単語を並べて作ったただの例文ですよ。次、日常会話レベルを……I could help killing him at that time because he sayed "I love not only you but also her very much." はどうですか?」
「う、ところどころしか聞き取れない。何て言ったの?」
「彼は、私はあなただけでなく彼女もとても愛している、と言ったので私はその時彼を殺さざるを得なかった。ですね」
「……何その嫌な例文。とりあえず私には会話は無理だと思うよ。そういえば母さんと父さんは英語は……ダメだったっけ」
「深夜子の言うとおり俺はできて中学レベルだろうなぁ」
「華夜は習い初めて少ししか経ってないからもちろん無理だよ~」
「私は全然理解不能。英語なんて生きていく上で必要ないわよ」
沙凪の呟きを聞いて会話に入ってくる三人。
「……母さん、毎度思うけどあんたそれでも世界進出も目標にしてる会社の社長か!?」
「ちゃんと凄腕の通訳さんも雇ってるから大丈夫よ」
「……この旅行は通訳さんなしだからね」
「え、ダメ?」
「そんなの連れて観光するのは嫌だよ!」
「三人は頼れないので深夜子さんが通訳やって下さい。私が聞き取るのと話すのはしますから」
「かなり面倒だね、それ。音嗚が全部やったらいいんじゃないの?」
「無理ですよ、英語は深夜子さんほど得意ではないですから。深夜子さんは辞書代わりです」
「扱い酷いな……。でも英語で通じないことも多いと思うけどそこはどうするの?」
「基本的な文法と最低限の伊単語はなんとかがんばって覚えたので後はこれでどうにか」
鞄から電子辞書を取り出し、沙凪に見せる。
「へぇ~音嗚ならハッキリ聞き取れるだろうし片言なら話せそうだね。……で、そのうちペラペラに話せるようになると」
「英語とは違って結構キツいんですけどね。それで、今からどうするんですか?夜一さん」
「とりあえず……今から観光するか一旦ホテルにいって荷物とかの整理をするかだな」
「なら断然ホテルでしょうね。時間がなくて深夜子さんの荷物だけ送り損ねたので深夜子さんがもって歩く荷物が多くなってますから」
「……通りで音嗚たちはほとんど手ぶらな訳だ」
沙凪はそれなりの大きさの鞄を持っているのに対し、他の人は軽い手荷物程度だ。
「それで、泊まるホテルってここからどれぐらいなの?」
「ここから20kmぐらいの場所にあるキオッジアっていう所の海沿いのホテルだな」
「あれ?父さんたちのことだからこのヴェネツィアの高そうなホテルだと思ってたんだけど」
「あ、それは、折角なので例のツアーをまるパクりしましょう、と私が言ったからですね。時間帯もあわせましたし。まぁ泊まるホテルも違いますし日にちも一日ずれてるのですでに完全にパクれていないですが」
「……また音嗚か。まぁバカ高いホテルに泊まるよりはいいからグッジョブだけど」
「……深夜子さんにほめられるのはなんか嫌ですね。せめてもうちょっと奇抜なのにすればよかったです」
「ひねくれてるなぁ。とりあえずホテルに行くなら早く行こうよ」
「そうね。ということで音嗚ちゃん、バスの時刻表見てくれない?」
「他人任せか……はぁ」
あぁ、やっぱりこの親ダメだな、とか思いつつ声波と一緒に沙凪も時刻表を眺めた。
一旦ホテルに行った後、ヴェネツィアを普通に観光して、一日も終わりが近づいた。
華夜が迷子になったり沙凪親が役たたずだったり外国でも声波の絡まれ体質は有効だったりしたが、特に酷いことにはならなかった……はず。
そんなこんなで二日目以降を平和に過ごすため、沙凪主催の旅行会議が開かれることとなった。
「第一回イタリア旅行反省会を行います。とりあえず母さんたちが役たたずだったから苦労したんだよ」
「だってイタリアなんて初めて来たのよ?。イタリア語もできないし」
「海外旅行の度にそれ言ってるよね。それに私も音嗚もイタリア来たことないしイタリア語もできないからね?もうちょっと大人としての自覚を……」
「それで、華夜ちゃんがよく迷子になるのはどうしてなんですか?」
沙凪の話をぶった切って声波が次の話題に移す。
沙凪が親に対して説教するときは無駄に長引くのだ。
「華夜はあれだね、音嗚みたいなんだよ」
沙凪はいとも簡単に釣られてしまう。
「私みたい?」
「好奇心旺盛でおもしろそうなものを見るとふらふら~、と。音嗚の場合は一応考えての行動だろうけど華夜は何となくだから質が悪いんだよ」
「一応って何ですか、一応って。……まぁそこは置くとしてとりあえず華夜ちゃんから目を離すのはダメってことですね」
「そうなるね。それで、一番の問題として音嗚の体質のことがあるんだけど」
「問題ないんじゃないですか?いつも通りで。今日も余裕でしたし」
「今外だから能力使っちゃダメでしょ?大丈夫なの?」
「何年この体質やってると思ってるんですか、能力を使えない状況だろうと不良をやり過ごすなんて余裕ですよ。それに深華さんたちと一緒に居とけば問題ないでしょうし」
「まぁそうなんだけどさ、な~んとなくいやな予感がするんだよね」
「何となく、いやな予感、って非科学的じゃないですか。学園都市の生徒ならそういう発言はしないんじゃないですか?」
「別に私は科学絶対とは思ってないよ?周りは小さい時から科学が絶対って教えられてきたからそういうのになってるけど私は小さい時からこんなだったからね」
「鉄は熱い内に打て、なのに最初から熱くなかった、ということですか。……私も人のことは言えませんが」
子供の頃から精神年齢が高かっのは声波も同様なのである。
というより声波が初めて魔術のことを聞いたときの反応を見る限り科学絶対とは言い難い。
「とりあえず話を戻すけど結論として音嗚も華夜もバカ親も一緒に居とけば大丈夫かな、ってことでいい?」
「そうですね。ということで特に何の問題もなかった深夜子さんは一人でも大丈夫ですね」
「いやいや、何でそうなるの、一人とか絶対に無理だから」
「あはは、なんだか明日は今日より楽しめそうな気がします」
「いや、ここでスルーは止めようよ!ホントに一人とかにはならないよね?」
「さて、どうでしょう」
「はぁ、酷いな」
沙凪がため息をついて、まぁ何となく会議は終わりました。