1981年、私がこの世界で目を覚ましてから3年の月日が流れた。
目を覚ましてから今まで、この世界のことを調べていて分かったことがある。
それは、この世界が『マブラヴ』の世界と大変似通っていると言う事である。
しかもほのぼの学園ものでは無く、地球外生命体に侵略されている方の『マブラヴ』に・・・。
1978年1月14日、私はこの世界に誕生した。
生まれてから今まで、私がどの様に過ごしていたかは聞かないでほしい、精神年齢2○才の大人が意識のある状態であんな事をされていたという事実を、
黒歴史として葬り去りたいからである。
ともかく、生まれてからしばらくの間は倦怠感がひどく、深く思考するとすぐ睡魔に襲われる事になった。
それでも3ヶ月が過ぎるころには、この世界に来る前と同程度の思考ができるようになっていた。
そこで大人たちの目を盗んで、新聞 等を見てこの世界のことを学んでいった。
調べた限りでは1900年代半ばまでの歴史は、人物名が異なるなどの多少の差異はあるが、十分誤差の範囲内だと感じられるほど、私が前の世界で
学んだ事と近い歴史を歩んでいたようである。
しかし、ある時期から大きく歴史に変化が起きていた。
なんと、1950年代に米欧共同で月に基地を建造していたのだ。
しかも、火星を探索中に発見した生物が月基地を陥落させ、現在その勢力を地球まで伸ばしてきている。
そして、その生物に対抗するために開発された人型兵器の名が『戦術機』であることを知らされ、私はこの世界が『マブラヴ』であるという事を
理解したのだった。
この世界の現状を知る前の私は、1978年の生まれという事だけを頼りに、未来知識を生かして小金を稼ぎ、美人の奥さんでももらって優雅に楽に暮らす、
という間抜けな計画を立てていた。
しかし、この世界の現状を理解した時、それ以前に立てていた計画を破棄し、生き残るための計画を立てることになる。
なぜならこの世界が、原作にある2通りの流れのうちどちらに近い流れになろうと、遊んで過ごす事と死亡がイコールで結ばれてしまっているからだ。
ただ、幸いにも私は恵まれた環境に生まれていた様で、何も出来ないで死ぬことは免れそうだった。
この世界での私の名前は、御剣 信綱 (みつるぎ のぶつな)、名門武家である御剣家の長男として、この世界で生を受けたためである。
まず、この世界における私の立ち位置を詳しく説明したいと思う。
始めに、私が生まれた日本帝国についてだ。
日本列島と呼ばれる島国で発生したこの国家は、1867年に江戸幕府第15代将軍 煌武院 慶喜が統治権を皇帝に返上するという大政奉還が行われ、
国号が大日本帝国となり近代化の道を歩みだす。
国家体制は皇帝を大日本帝国の元首とし、皇帝より任命された政威大将軍(将軍)が、政務と軍の指揮権を委譲される形で国家運営を行う体制になる。
政威大将軍には、五摂家と呼ばれる五つの力のある武家から任命される事が決定。
その内訳は、早めに大政奉還を行うことで力を維持していた煌武院(こうぶいん)、倒幕派の最有力の武家であった斑鳩 (いかるが)、
有力公家としての歴史もある3家の斉御司 (さいおんじ)、九條(くじょう)、崇宰(たかつかさ)となっている。
首都は大政奉還後も京都に置かれ、東京(旧江戸)は経済の中心地として発展していった。
そして、先の大戦である第二次世界大戦(大東亜戦争)において大日本帝国は敗戦を迎え、1944年条件付き降伏を行い国号を日本帝国と変える。
日本帝国は降伏をしたものも、大戦中から顕著化していた米ソの対立(資本主義と社会主義の対立)により、米国の最重要同盟国として戦後復興を
遂げるこの事になる。
日本帝国の体制は、将軍の政務を補佐するはずの内閣総理大臣が事実上実権を握り、国の統治を行うという体制に変わった。
ここで、将軍の影響力は大きく減じる事になり、現在も政治・軍事共に影響力は回復していない。
次は、この世界の私の実家である御剣家と家族についてだ。
御剣家は、代々の党首がその名の通り剣によって武名を轟かせて来た有力武家である。
御剣家が伝えてきた武術を修めた者が、代々の皇帝や将軍,五摂家の護衛に付いていた事や、数代前の当主が煌武院家当主の妹を娶った事などから、
最も青に近い赤といわれる家である。
しかし、大政奉還で決着した1800年代半ばの幕府と他大名の争いに中立を貫いた事、大政奉還後も特定の派閥に属さない事、代々の当主が殆ど権力に
興味を示さなかった事で、現在まで大きな権力を持ったことがないようだ。
ただ、権力を持つたない代わりに、時の権力に左右されない独特の家風を維持している。
現在の当主は私の祖父がなっており、貴族院の議員を務めると同時に御剣本家にある道場の道場主も勤めている。
年の半分ほどを帝国議会出席のため京都で過ごしてので、不在の間の道場は母が管理しているようだった。
道場の流派は無現鬼道流、原作においてヒロインの一人 御剣 冥夜が収めていた流派である。
始めは気のせいだと思っていたが、グレン○イザーもとい紅蓮 醍三郎が道場に入るのを見かけたので、おそらく間違いないであろう。
そして私の父は、日本帝国斯衛軍の大尉を勤めており、最近は戦術機『撃震』に乗っていると自慢をしていた。
また、父は母の名前を使ってのサイドビジネスを行っており、それなりの成果を出しているようである。
父のサイドビジネスのことは詳しくは知らないが、たびたび私を会社に連れて行って社長室で遊ばせてもらえる事がある。
何でも、私が会社に居ると何故か売り上げが伸びるらしい。
最後に私の母についてだが、ある意味御剣家においてこの人物が一番重要人物なのかもしれない。
御剣家の裏方を取り仕切り、道場の中でも上位に名を連ね、表向きの会社社長として普段の社長業務も行う等、事実上御剣家のヒエラルキーの
頂点に君臨する人物である。
ただ、夫婦の仲は大変良好で見ているこっちが恥ずかしくなるほどである。
この環境で出来ることを最大限行い、生き残ってみせる。
そう心に誓ったのだが、正直言って何から手を付けたら良いのか分からない。
未来についての知識を暴露する?
なんら証拠がない中で、そんな事を言っても頭がおかしいと思われるだけだ。
香月 博士を頼る?
現時点で香月 博士は、おそらく7~8歳くらいで小学生のはずだ。
相談するだけ無駄である。
科学技術を未来知識を使って発展させる?
技術的なことはさっぱり分からない上に、話を聞いてもらえるほどの実績が無い。
さて、どうしたものか。
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3択―ひとつだけ選びなさい
答え①ハンサムな信綱は突如必勝のアイデアがひらめく。
答え②異世界から仲間が来て助けてくれる。
答え③何も出来ない。現実は非情である。
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はっ、こんな馬鹿な3択を考えている場合じゃない。
とりあえず出来る事から始める事にしよう。
私は体を鍛え、知識を蓄え、金を集め、いざと言う日に備える事にしたのだった。
自室で生き残るための計画を考えていると、祖父から呼び出しが掛かった。
何でも祖父が話したいことがあるらしい。
しかも祖父の書斎ではなく、道場の方へ来いというのである。
はて、何の用事だろう。
今日で3才の誕生日を迎えた私に、プレゼントでもくれるのだろうか?
私を呼びに来た母に連れられ、道場に行くことになった。
そして、今まで近づく事を許されていなかった道場に、初めて入ることになる。
母は道場への入口で、
「頑張ってくださいね。信綱さん。」
と声をかけてくれた。
何のことだが分からなかったが、取り敢えず
「分かりました、母上。」
と答えておいた。
しかし、道場に入った瞬間そう答えたことを少し後悔することになる。
私は初めて見る事になった道場周辺を見ながら、真直ぐ道場の入口まで歩いていった。
そして道場の入口についた後、
「御剣 信綱 です。失礼します。」
そう言って道場の扉を空け、中に入る事にした。
道場の中は数十人の大人が並んで座っており、異様な雰囲気を漂わせていた。
その雰囲気に気圧され一瞬立ち止まったが、道場の一番奥に座っている祖父を見つけ道場の奥へと足を進めた。
道場の中には、今日は遅く帰って来るはずの父や、先ほど道場の前で別れたばかりの母、道場に通う紅蓮 醍三郎 等の弟子が勢ぞろいしている様だった。
そして祖父の前で座り挨拶をする。
「御剣 信綱、ただいま参上いたしました。 」
「うむ 、信綱 面を上げよ。」
その声に促されて、私を顔を上げ祖父の顔を正面から見る。
「信綱 今日お前を呼んだのは他でもない。お前に、無現鬼道流について話をしようかと思っての。」
そういって、祖父は私を見て一瞬微笑んだ様に見えたが、すぐに厳しい顔つきとなって言葉を続けた。
「無現鬼道流は誰にでも教えると言うものではない。才無き者が学ぶには苦痛にしかならず。
悪意あるものが学ぶ事は、悪鬼を生み出すのに等しい。
今まで見た所心根の方は問題なかろう。後は、学ぶ才能が有るかどうかだが・・・。」
祖父が次に何を話し出すのだろうと思った次の瞬間、全身に悪寒が走りだした。
始めはこの全身を駆け巡る悪寒が何なのか分からなかったが、本能で祖父が放つ殺気の所為であるという事に気が付いた。
しかし、突然殺気を向けられる理由が分からない。
もしかして、これは才能が有るかを見るための試験なのだろうか?
生まれて初めて自分に向けられた殺気に、私の頭の中は混乱してしまっていた。
しかし、私の体は殺気に反応して殺気を放つ人物をにらめつけ、直ぐに動き出せるように腰をわずかに浮かした体勢を取っていた。
「ほう、本気では無いにしても、ワシの殺気を受けてにらみ返す胆力。これはなかなか・・・。」
しばらくの間、私と祖父はにらみ合っていたが、祖父が唐突に右手を上げた。
その瞬間、道場の両脇に座っていた人たちが一斉に立ち上がり、私に向かって殺気を放ってきた。
「さて、この状況、如何にして切り抜ける?」
そう言って、祖父は上げた右手を前に振り下ろした。
すると、立ち上がっていた大人たちが一斉に私に向かって動き出した。
しかし、睨み合いの間に冷静さを取り戻していた私は、祖父が手を振り下ろすより一瞬だけ早く、祖父に向かって駆け出したのだった。
「面白い、老人一人なら打倒できると考えたか。」
祖父は、駆け出した私に向かってそうつぶやき立ち上がる。
「うぉぉぉっ!!! 」
私は、気合を入れるために声を上げた。
その声を聞いて、祖父はニヤリと笑みを浮かべるのだった。
・・・おそらくこの声で祖父は、私が戦う事を選んだと思ったであろう。
祖父の出したこの考えは、一つの答えではある。
大人に囲まれた、この道場の中ではどの様に戦っても、勝てる要素が見出せない。
この中で私は最弱である上に、多勢に無勢であるためだ。
しかし、私が祖父に向かって駆け出した事で、少しの間だけだが一対一の状況に持ち込むことに成功する。
今の位置関係が、祖父と私の位置が一番近く、他の大人たちとは若干はなれているためである。
祖父は後ろに架けてある刀を手に取る暇は無いと考えたのだろうか。
その場で、私を迎え撃つために構えを取った。
座っている祖父の顔面に飛び膝蹴りでも叩き込んでやろうと考えていたのだが…。
ここにいたって、私の勝機は0になったといってもいい。
油断しているならともかく、しっかりと構えを取った祖父を打倒できると考えるほど愚かではない。
しかし、この窮地にも私の頭はすっきりと冴え渡り、最善の道を導き出していた。
この現状をひっくり返して、勝利を得る事が出来なくなった今、やることは唯一つ。
勝利が望めぬなら、負けないようにする。
そう、最善の道とは逃げることである。逃走こそが私に残された最後の道なのだ。
では、馬鹿正直に入ってきた入口に向かっていればよかったのだろうか?
いや、それでは道場を出る前に、確実に大人たちに捕捉されてしまう。
始めから逃走する事を考慮に入れていた私が、入ってきた入口とは真逆の祖父に向かって理由はただ一つ・・・。
そこに出口があるからである。
この道場に生まれて初めて入った私が、道場の奥に出口が有ると考えた理由、それは母の存在にある。
道場への入口で分かれたはずの母が、私を追い抜いて道場の中にいたという事実がその根拠だ。
そして、私は眼前に迫ってきていた祖父の拳に向かって突っ込み・・・・・・。
私は、祖父の股の下をスライディングですり抜けたのだった。
「「「「「「なっ!」」」」」」
大人たちの驚く声が聞こえたが、それ無視して私は次の行動にでる。
出口があるのは、恐らく左右のどちらか片方のみ…、どちらかは分からない。
なら、・・・後は本能に任して、突き進むのみ!
私は、スライディングの勢いを殺さず立ち上がり、右に向かって駆け出した。
そして、その先にある扉に手をかけたのだった。
祖父side
「うーむ、そろそろ信綱が来る時間ではないか?」
「父上、その様に心配しなくても良いではないですか。今、妻が呼びに行っておりますゆえ。」
「それもそうじゃが・・・。」
「お義父様、そろそろ信綱さんが参られますよ。」
道場に入ってから、何度目か分からぬやり取りを息子と交わしている時、ワシの左側から息子の嫁の声が聞こえてきた。
「おぉ、そうか。では、所定の場所に戻りなさい。 」
「承知いたしました」
そう言うと、息子の嫁は息子の隣に座る。
すると外から、元気な声が聞こえてきた。
「御剣 信綱 です。失礼します。」
そう言って、孫が道場の中に入って来る。
孫は扉を開けた瞬間、道場に居並ぶ大人たちに目を真ん丸くしていたが、直ぐに気を引き締めなおし、わしの前まで進んで来た。
そして、わしの5mほど手前で正座し挨拶をするのだった。
「御剣 信綱 。ただいま参上いたしました。」
「うむ 、信綱 面を上げよ。」
わしの声に促されて、孫が顔を上げる。
「信綱 今日お前を呼んだのは、他でもない。お前に、無現鬼道流について話をしようかと思っての。」
そういって、わしは今までの孫との思い出を反芻していた。
そこで、一瞬表情が緩んでしまった気がしたが、今日は御剣家に取っても無現鬼道流にとっても、大切な日である事を思い出し、気を引き締めなおした。
「無現鬼道流は誰にでも教えると言うものでもない。才無き者が学ぶには苦痛にしかならず。」
そう、才能が無い者にとってこの流派は、学ぶことは酷である。
もし、才能が無いのであれば他のことで、才能を発揮できるようにするのが孫のためでもある。
「悪意あるものが学ぶ事は、悪鬼を生み出すのに等しい。」
どうなるかは今の段階では分からないが、おそらくこの孫なら大丈夫であろう。
贔屓目かもしれないが、しっかりと志を持った良い目をしている。
最も、もし道にそれようとしてもわしが全力で性根を叩きなおして見せるがの。
「今まで見た所、心根の方は問題なかろう。後は、学ぶ才能が有るかどうかだが・・・。」
そう言って、わしは孫に殺気を叩き付けた。
すると孫は、直ぐに動ける体勢を取った上で睨み返してきた。
立ち上がるのではなく、やや前傾姿勢にして腰をわずかに浮かしている。
この体勢なら、相手に強い警戒を抱かせることがない上に、瞬時に動くことが出来る。
「ほう、本気では無いにしても、わしの殺気を受けてにらみ返す胆力。これはなかなか・・・。」
この段階で、わしは合格を決めた。
この炎のような闘志があれば、無現鬼道流の鍛錬に支障はないし、とっさに取った体勢からも武術の才能もうかがえる。
しばらくの間わしと孫はにらみ合っていたが、これ以上殺気を叩き付けても進展はないと考え、次の段階に進むことにした。
わしはこの試験を次に進める合図のために右手を上げる。
すると、道場の両脇に座っていた弟子たちが一斉に立ち上がり、孫に向かって殺気を放ち出した。
合格は合格だが・・・、後は孫の器がどの程度のものであるか見極めるとしよう。
「さて、この状況如何にして切り抜ける?」
そう言って、上げた右手を前に振り下ろす。
しかし、わしが右手を振り下ろすより一瞬だけ早く、孫がこちらに向かって駆け出して来た。
「面白い、老人一人なら打倒できると考えたか。」
わしは、駆け出して来た孫に対応するため立ち上る。
「うぉぉぉっ!!!」
そして、孫が放つ気合に思わず笑みを浮かべてしまっていた。
この状況で諦めずにわしに向かってくるとは、見上げた根性だ。
これは、明日からの鍛錬が楽しみで仕方が無いの。
しかし、現実の厳しさを教えるために、ここは痛い目に合わしておかねばなるまい…。
そう思いわしは、迎撃のための構えを取った。
そして、突っ込んでくる孫に対して拳を突き出した次の瞬間・・・・・・
孫は、わしの股の下を倒れながら滑り込むようにして、すり抜けて行ったのだった。
「「「「「「なっ!」」」」」」
わしと弟子たちは、思わず驚きの声を上げてしまった。
そして、わしは慌てて後ろを振り向いた。
そこには、今にも裏口に向かって駆け出そうとする孫の姿があった。
しまった、まさか逃げる事を考えていようとは。
孫は気配の遮断が上手く、隠れられると探し出すのが面倒になってしまう。
これは今日の試験は中止かの。
わしはもう追いつく事は難しいと感じながらも、孫を追いかけようとした。
しかし、孫の逃走は終焉を迎える。
裏口の扉に手をかけた孫の手を掴む者がいた為だった。
「あらあら、信綱さん、今日は大事な日なのですから。
お義父様のご用件が終わるまで、道場を出ることは許しませんよ。」
息子の嫁、つまり自分の母親に捕まってしまったのだった。
孫はしばらく暴れていたが母親に間接を決められ、元の位置に正座させられる事になる。
「ふー、まさか逃走する事を考えるとは・・・。信綱、もう何もせんから大人しくせよ。」
わしがそう言うと、孫はやっと大人しくなった。
孫の拘束を解き、皆が元の位置に戻ってからしばらくの間、道場には沈黙が流れていが孫がそれを破りわしに話しかけてきた。
「祖父さん、結局何がしたかったんだ?」
「いや、お前も今日で3歳になるじゃろう。見込が有るのなら、そろそろ鍛錬を始めても良い歳じゃ。
そこで伝統に則り、試験をしてみようと思っての。」
わしがそう言うと、孫は嬉しい様な困った様な、複雑な顔でこちらを見つめ返してきた。
「では、結論を出す前にいくつか、わしの質問に答えてもらうとしよう。
まず始めに、わしの殺気を受けてどう感じた?」
「・・・始めは何をされているのか、全然分からなかった。
でも、体が急に熱くなってきて・・・、爺さんの殺気に対応してた。」
「あそこで、始めから立ち上がらなかったのはなぜじゃ?」
「・・・あの時は体が勝手に動いて・・・、でもあの時は何をされるのか分からなかったから、立ち上がるのは不自然かなって思って…。」
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それからいくつか質問を重ね、最後に一番気になっていたことを質問することにした。
「最後の質問じゃ、何故逃げる事を選んだのじゃ?」
「祖父さんが立ち上がった時点で、勝てる見込が無くなったから。
道場の外に出れば逃げ切れる自信があったし・・・。」
ふむ、一応勝つ気ではいたのか・・・、しかもしっかりと彼我の戦力さを理解し、冷静な判断力も有るようじゃな。
普段は外で遊ぶ時意外は書を読むことしかしない、頭でっかちかと思っていたが・・・、本当に将来が楽しみであるの。
しばらく沈黙が流れたが、わしは結論を皆に伝えることにした。
「この者、無現鬼道流を修めるに申し分無き才を示した。
明日から、無現鬼道流の鍛練に入りたいと思う。
皆のもの、相違無いか!」
「「「「「「相違ございませぬ!」」」」」」
弟子たちの唱和を聞いて驚きの表情を見せる孫に、ワシは御剣家の将来は安泰であると確信するのであった。