「ふー、また一つの世界を制覇してしまった。
しかし・・・」
私はそう言って、メガネをいじりながら、今までやっていたゲームの画面を眺める。
パソコンの液晶画面に映るゲームの題名は、『マブラヴ オルタネイティヴ』。
このゲームを大雑把にいうと、BETAと呼ばれる地球外生命体に侵略されつつある世界で、主人公たちが戦術機と呼ばれる人型ロボットに乗って戦うというものである。
その他にも色々重要な設定があるが、その部分は実際にゲームをプレイしてみる方が良いだろう。
とにかくここで重要なことは、燃える展開に人型ロボットとつぼにはまる内容ではあるのだが、エンディングを迎えても救われる要素があまり見られないと言う事である。
物語の最後は、めでたしめでたしで終わることが信条の私としては、不完全燃焼とも思える終わり方だったのだ。
「アーー、くそう。どーにか何ねーのかな。」
そう声を出してみても、物語の結末が変わる訳も無く、液晶画面はゲームのスタート画面を映し出していた。
しばらくの間ゲームで疲れた目を閉じていたが、唐突に面白いアイデアが浮かんで来たためそれを実行に移すことにした。
そのアイデアとは、自己満足で終わるかもしれないが救われそうなオリジナル設定を考える事だった。
私は、何かに取り付かれてしまったかの様な衝動に突き動かされ、設定を考えていった。
「だめだ、妄想が止まらない。何かのために書きとめておこう。」
そして、メモ帳を起動し設定を書き出した。
私が考えた設定のコンセプトは以下のようなものである。
・今、流行り?のオリジナル主人公で行こう。
・主人公は、ハッピーエンドで終われそうなギリギリの能力にする。
・歴史の改変が狙えるように、ある程度の金と権力を持たす。
設定を考える途中で、何度か手が止まる事があったが、ネットで調べた公式設定を参考にすることで問題を解決した。
その後、一時間ほど作業をして仮決定した主人公の設定がこれである。
『
国籍:日本
所属:武家(赤の色を許される家柄)
年齢:23(2001年時点)
身長:180㎝
体重:72㎏
属性:中立・中庸
ステータス(能力):筋力 D/魔力 E/耐久 C/幸運 A/敏捷 B/宝具 -
スキル:
騎乗 B ・・・騎乗の才能。大抵の乗り物なら人並み以上に乗りこなせるが、魔獣・聖獣ランクの獣は乗りこなせない。
直感 A ・・・戦闘時、つねに自身にとって最適な展開を”感じ取る”能力。研ぎ澄まされた第六感はもはや未来予知に近い。
カリスマ B ・・・軍団を指揮する天性の才能。カリスマは稀有な才能で、一国の王としてはBランクで十分と言える。
透化 B+ ・・・明鏡止水。精神面への干渉を無効化する精神防御。
黄金律 A ・・・人生において金銭がどれほどついて回るかの宿命。
』
能力は、分かりやすくF○te方式で書いてみた。
荒筋は、
この主人公が本編開始前に起業し、戦術機等の兵器を改良。
無理の無い範囲で、実戦に参加し軍事的な名声を得る。
本編開始後は香月博士に協力して、横浜基地の戦力を強化。
本編主人公たちの部隊(A-01)にかかわり、戦闘力の向上を図る。
そして、最後の戦にA-01部隊全員が生存状態で突入できれば、何とかなるかな?
という内容だった。
「うーむ、この能力で本当にギリギリか?」
一応、アサ○ンのステータスを少しいじり、ラ○サーと同じ数のスキルを持たしてみたのだが、宝具が無いとはいえ少し優遇しすぎなのかもしれない。
原作中で、約一名互角以上で戦えそうな人物がいるが・・・、やはり歴史に名を残す英雄の能力をランクダウンさせずに使うのは、問題が多そうだ。
しかし、これ以上弱くすると燃える展開になった時、主人公が空気化or死んでしまう恐れが・・・。
いや、ギリギリを攻めると誓った事を忘れてはいけない。
そう、初心を忘れるのは良くない事だ。
「よし、ここは幸運と敏捷をワンランクダウンした上で、騎乗とカリスマを削除すれば・・・。
どうだ、この設定ならギリギリだろう!」
無駄に気合の入った独り言を言い、キーボードを操作し設定変更をしようとした・・・その時。
急にパソコンの画面が真っ青になり、続いて奇妙な文字が流れだした。
「何だこれは?」
キーを何度か操作するが、まったく操作を受け付けない。
奇妙な文字の中に、先ほど書き込んだ設定が含まれているような気がしたが、私はパソコンを再起動させる事を優先することにした。
そして、私が電源ボタンに手をかけようとした時、
・
私は液晶画面に吸い込まれてしまったのだった。
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液晶画面に吸い込まれてしまってから、どのくらいの時間がたったのだろうか・・・。
私はまるでまどろみの中にいるような、はっきりしない頭の中でそう考えていた。
しかし、このあやふやな感覚は突然終わりを迎える。
目を刺すような強烈な光を受け、私は意識を取り戻した。
その時私は、何かの衝動に駆られるように大声を出して泣き出してしまった。
「オギャー、オギャー、オギャーー。」
体が・・・、思うように動かない・・・、どうなっているんだ?
本能にしたがってだろうか・・・泣き続ける自分の声が頭の中で反響する中、私の耳元で自分とは明らかに違う人間の声が聞こえた。
「見てください。御剣さん、元気な男の子ですよ。」
私はその声に驚き、まぶしさと全身に掛かる倦怠感、それと本能に逆らい、目を開けようとした。
すると、一瞬だけ眼をあけることに成功する。
目を開けた時、大粒の汗を額に流している女性が微笑みながら私に向かって、手を伸ばしている光景が写りこんだ。
私は何が起こったのか分からず、混乱する事になった。
何だ、さっきの光景は?
どうなっているんだ?
さっきの台詞とあの光景を総合して考えると、出産直後の分娩室?
・
・
だとすると、誰が生んだんだ? さっきの女性?
そして、生まれたのは私か? 私なのか?
私は思考の海に沈んでいたが、包み込まれるような温かみを感じ思考を中断した。
「ありがとう、坊や。無事に生まれてくれて…。」
私はその言葉を聴いて、なぜか心が安らぐのを感じると同時に、現状では何も手が出ないという事だけは理解する事ができた。
そして…、
私はどうしようもない睡魔に襲われ、再び意識を手放したのだった。