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No.16427の一覧
[0] 【習作】 マブラヴ オルタネイティヴ~我は御剣なり~(現実→オリジナル主人公・チート気味)[あぁ春が一番](2012/08/13 20:03)
[1] 本作歴史年表[あぁ春が一番](2011/07/11 21:36)
[2] 戦術機設定集(簡易)[あぁ春が一番](2011/08/15 13:48)
[3] 兵装・その他の装備設定集(簡易)[あぁ春が一番](2011/08/15 13:47)
[5] プロローグ[あぁ春が一番](2010/03/08 18:31)
[6] 第01話[あぁ春が一番](2010/06/06 12:15)
[7] 第02話[あぁ春が一番](2010/06/06 12:20)
[8] 第03話[あぁ春が一番](2010/07/10 09:03)
[9] 第04話[あぁ春が一番](2010/11/05 00:07)
[10] 第05話[あぁ春が一番](2010/11/05 00:24)
[11] 第06話[あぁ春が一番](2010/11/05 00:35)
[12] 第07話[あぁ春が一番](2010/11/05 00:45)
[13] 第08話[あぁ春が一番](2010/11/06 23:42)
[14] 第09話[あぁ春が一番](2011/01/27 22:47)
[15] 第10話[あぁ春が一番](2011/04/20 00:59)
[16] 第11話[あぁ春が一番](2011/05/03 18:17)
[17] 第12話[あぁ春が一番](2010/11/07 22:29)
[18] 第13話[あぁ春が一番](2010/11/07 23:04)
[19] 第14話[あぁ春が一番](2011/05/03 18:19)
[20] 第15話[あぁ春が一番](2011/05/15 23:49)
[21] 第16話[あぁ春が一番](2011/05/03 18:22)
[22] 第17話[あぁ春が一番](2011/05/03 18:23)
[23] 第18話[あぁ春が一番](2011/05/03 18:24)
[24] 第19話[あぁ春が一番](2011/05/03 18:29)
[25] 第20話[あぁ春が一番](2010/11/10 00:41)
[26] 第21話[あぁ春が一番](2010/11/11 00:05)
[27] 第22話[あぁ春が一番](2011/05/15 23:50)
[28] 第23話[あぁ春が一番](2010/11/11 23:29)
[29] 第24話[あぁ春が一番](2010/12/12 15:48)
[30] 第25話[あぁ春が一番](2011/05/15 23:51)
[31] 第26話[あぁ春が一番](2010/12/12 15:48)
[32] 第27話[あぁ春が一番](2011/05/15 23:51)
[33] 第28話[あぁ春が一番](2011/05/15 23:52)
[34] 第29話[あぁ春が一番](2011/05/15 23:53)
[35] 第30話[あぁ春が一番](2011/05/15 23:53)
[36] 第31話[あぁ春が一番](2011/05/15 01:42)
[37] 第32話[あぁ春が一番](2011/05/15 23:54)
[38] 第33話[あぁ春が一番](2011/05/25 00:04)
[39] 第34話[あぁ春が一番](2011/05/25 00:05)
[40] 第35話[あぁ春が一番](2011/05/25 00:05)
[41] 第36話[あぁ春が一番](2011/07/11 21:25)
[42] 第37話[あぁ春が一番](2011/08/15 13:46)
[43] 第38話[あぁ春が一番](2011/10/24 00:46)
[44] 外伝 TE編・上[あぁ春が一番](2012/07/23 11:57)
[45] 外伝 TE編・中[あぁ春が一番](2012/08/13 20:03)
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[16427] 外伝 TE編・上
Name: あぁ春が一番◆17cd7d65 ID:9219949f 前を表示する / 次を表示する
Date: 2012/07/23 11:57

2001年3月


周囲の静けさを感じ、睡眠から目覚める前のまどろみを楽しんでした俺は、
静けさが一変し周囲が騒がしくなった事を感じ取り、眠気を振り払うように目を見開いた。

その眼前に映るは、薄暗い空間に浮かび上がる様々なボタンが配列されたパネル類と灰色の壁・・・、
最早日常となってしまった戦術機の管制ユニット内での目覚めだった。

アラスカ ユーコン基地で行われている次世代戦術機開発、通称『プロミネンス計画』に参加する帝国軍部隊へ、
巌谷榮二 中佐の助言に従いオブザーバーとして出向出来るよう働きかけを行っていた俺は、
XFJ計画試験部隊の活動開始から2週間遅れではあったが、試験部隊への参加を勝ち取り、
新基準で作られた吹雪二機を載せた大型輸送機『>An-225ムリーヤ』に便乗する事に成功していた。

そろそろユーコン基地に到着する時間のはずだが、と考えながら自分の直感を確かめるためにコンソールを操作する。
すると、網膜投射により輸送機パイロットの顔が眼前に浮かび上がり、かすかな作動音が通信開始の合図を送ってきた。


「こちら御剣、機長少しいいか。
 何か外が騒がしい様だ。待機中の吹雪では、カーゴ外の様子がつかめない。
 そちらのレーダーで何か確認できないか?」


「御剣少佐!?
 本機は順調に航行中、今の所これと言った異常は・・・。」


「機長、後方から接近してくる機影の機動が変です・・・。
 このままだと、こちらの飛行ルートに重なるぞ!」


その声を境に、操縦室内は喧騒に包み込まれる事となった。

>An-225ムリーヤのパイロット達はしきりに管制塔と連絡を交わしている様だが、管制塔側も慌てるだけで一向に事態が収集する気配は無い。

どうやら管制塔は、訓練区域を外れて接近する2機の戦術機の行動を掌握出来ていないようだ。

俺は焦るパイロット達を尻目に、新基準対応型吹雪を待機モードから戦闘モードに移行させるシーケンスを開始する。

そして、吹雪を起動させた俺の耳に、センサーが捕らえた輸送機に接近する戦術機主機の音が入ってくる。


「備えあれば憂い無し、と言うが面倒事は遠慮したいものだ・・・。」


伝わってくる音から、二機の戦術機が明らかな戦闘機動を取っていると判断した俺は、
移動時間を機体のチェック当ててしまう自分の仕事中毒が幸いする事態に悪態をつきながらも、
次第に冷静さを失いつつあるパイロットに最善と思われる要請をする。


「機長!
 俺が搭乗する吹雪を、カーゴごと切り離してくれ。
 万が一に備え、俺が貴官らの護衛に入る。
 
 カーゴの投下後、進路は変えずそのまま基地へ突っ込め!!」


突然の命令に、一瞬戸惑った様子を見せていたパイロット達だったが、自らの命も危うくなっている事を悟ると、
ユーコン基地管制塔に一報を入れた後、直ぐに切り離しのシーケンスを開始する。


「御剣少佐! カウントダウン行きます。
 3・2・1・・・GO!!」


「機長、良い空の旅をありがとう。
 
 ・・・御剣 信綱、出るぞ。」


輸送機から切り離されたカーゴは、一瞬空を舞うかという機動を見せるも、すぐさま真っ逆さまに落下を開始する。
しかし、次の瞬間その鉄の箱の蓋が開き、赤と白のツートンカラーに彩られた吹雪が空に解き放たれたのだった。






東西陣営の最新鋭機であるソ連製のSu-37UBチェルミナートルと米国製のF-15・ACTVアクティヴ・イーグルによるプロミネンス計画の広報撮影は、その開始直後破綻を迎えていた。

F-15・ACTVアクティヴ・イーグルのロックオンにより放たれた攻勢レーダーに反応したSu-37UBチェルミナートルが、瞬く間に戦術機にとって死角となる後方危険円錐域ヴァルネラブル・コーンを掌握し、
火器管制を戦闘モードに移行させてしまったのだ。

そして、己が置かれた状況を理解したF-15・ACTVアクティヴ・イーグルは、Su-37UBチェルミナートルを振り切り、隙あらば己が有利な位置を掌握する為に戦闘機動を開始。
Su-37UBチェルミナートルも、その機動に誘われるかのように動きだす。

事態は、管制塔と撮影用に用意されていた輸送機『>C-130ハーキュリーズ』を置き去りにし、訓練可能区域を離れユーコン基地へ着陸する輸送機の航路近くまで、
侵入する事態となってしまう。

ああ、なんて幼稚な・・・。 わざわざ『見る』までもない。
F-15・ACTVアクティヴ・イーグルが必死に繰り返す戦闘機動を見ていたソ連軍衛士は、そう心の中で呟いた。
後方危険円錐域ヴァルネラブル・コーンを取られたF-15・ACTVアクティヴ・イーグルに搭乗する国連軍衛士が焦っている事は、
一目瞭然だった。

急減速と横軸反転による進路の迂回で私を追い抜かせ、横軸反転をそのまま続ける事により、
元の進路に戻った奴が私の後ろを取る気なのだろうが・・・、分かっていれば対処は容易だ。
こちらはただ減速するだけで良い。そうすれば、敵は目の前で無様な軌道を描くだけで何も得る事が無いままで終わる。

F-15・ACTVアクティヴ・イーグルによる木の葉が舞うかのごとき三次元戦術機動が終わった時・・・、Su-37UBチェルミナートルとの位置関係に変化が起こる事は無かった。

勝利を思い描いた直後の失望。絶望に値するものなのかもしれないが、それではつまらない・・・・・・。
まあいい、私に敵意を向ける奴・・・私の任務を邪魔する奴・・・それはみんな敵だ。
それを殺す。・・・もう殺して良いんだ、なんて素敵なんだろう。

楽しむ事を止めたSu-37UBチェルミナートルが36mmチェーンガンを構え、F-15・ACTVアクティヴ・イーグルに狙いを定める。
F-15・ACTVアクティヴ・イーグルからは先ほどまでの戦意が失せており、その攻撃を受け入れるかに見えた。


「クリスカ!」


Su-37UBチェルミナートル内、タンデム式複座シートの前席に座るイーニァ・シェスチナ少尉から発せられた警告の直後、管制ユニット内にロンクオン警告音が響く。
近くを航行していた輸送機から出現し、数分前から輸送機を護衛するかのように、こちらの進路を制限する以外の動きを見せなかった戦術機が、
生意気にも私たちに敵意を見せた瞬間だった。

傍観者の唐突な心変わりにより、数瞬の間Su-37UBチェルミナートルを駆る衛士の意識が奪われた事で、F-15・ACTVアクティヴ・イーグルは最悪の危機を脱する事になる。

戦意の失せた敵より、優先すべき者が現れた事を感じた私は、F-15・ACTVアクティヴ・イーグルへの攻撃を中断し、
新たな敵・・・日本帝国製第三世代機『吹雪』に酷似した機体へと標的を定めた。

Su-37UBチェルミナートルが正面に捕らえた敵機は、突撃砲はおろか可動兵装担架システムすら装備されておらず、
固定武装と思われる右腕の内蔵式固定砲を構えて直進してくるだけで、
広報撮影用にフル装備で出撃しているSu-37UBチェルミナートルと比べると、固定武装のみの敵機は丸腰と言ってもいい状態だった。

そんな装備で私に敵意を向けるなんて・・・、馬鹿な奴だ。
調査対象でもあっちびの機体は遠ざかってしまったが、作戦中止の命令が無い以上このまま好きにして良いと言う事なのだろう。
それなら、さっきのちびが大人しくしている間に、こいつは早く終わらせてしまおう。

Su-37UBチェルミナートルは赤と白でツートンカラーに塗装された吹雪をロックオンすると同時に、正面から迫る敵機の照準を外す為に細かな進路変更を開始。
しかし、敵機はそれを無視し更にこちらとの相対距離を詰めてくる。

米国軍の最新鋭戦術機の一つであるF-15・ACTVアクティヴ・イーグルを容易に破ったSu-37UBチェルミナートルへ、正面から戦いを挑んだその戦術機の行為は、
この事態を見届けていた者たちの誰の目にも、無謀であるかのように見えた。
だが、戦いは意外な展開を見せることになる。

接近する戦術機に向けてSu-37UBチェルミナートルが先に36mmチェーンガンによる発砲を開始するも、相手は一切発砲する事無く接近を続け、
レーダー上で無傷と思われる両者が交差した後、相手の後方危険円錐域ヴァルネラブル・コーンを奪っていたのは、謎の戦術機だったのだ。



なんだこいつは、正面からロックオンされているというのに、恐怖も焦りも『見えない』。
まるで、こちらの攻撃が当たる訳が無いと思っているかのようだ。
私たちがこの距離で攻撃を外すなど有り得ないのに・・・、本当に馬鹿な奴だ。

そう考え跳躍ユニットに照準を合わせて放った攻撃は、ものの見事に外されてしまう。

それを三度繰り返した後で、私は始めて気付かされる事になる。
敵が私たちの攻撃が当たらないと思っているのでは無く、完璧に避けられると確信している事、
そして、私の戦術機動に関係無く、一定時間ロックオンした後に相手がワザと照準を外している事に・・・。

その動きに、相手が自分よりも強力なESP能力者である可能性が頭をよぎる。
ESPとは超感覚能力の事をさし、かつてソ連主導で行われていたオルタネイティヴ第三計画(BETAとの意思疎通・情報入手計画)では、
相手の思考を読み取るリーディング、相手に自分の思考を伝えるプロジェクション能力を有する人工ESP発現体が投入されたという経緯が有る。

その計画で造られた姉妹たちが相手であるなら、この事態も説明できた。
しかし、私は直ぐにその思考を振り払う。

相手が、私と同じ能力者ならこうも容易く思考を読み取れるはずが無い。
そう・・・、相手の思考は読めている。

感情は、怒りを示す薄い赤色の表面を冷静さの青が包み込んでいる。
次の瞬簡にやろうと考えている思考も、おぼろげながらイメージとして見えており、
私より強い力を持つイーニァなら、更にはっきりと見えているはずである。

今までの敵や先ほどまでのちびなら、このアドバンテージを生かし全く問題なく対応が出来ていた。
だが、この敵は違っていた。
こちらが少しでも機体を動かした瞬間には思考が切り替わり、殆どタイムラグ無しに機体がその考えに追従しているのだ。

先ほどまでの敵と比べると、段違いの強さだった。

その動きに、Su-37UBチェルミナートルが追従できない。
ソ連の軍事技術の粋を集められて造られたこのSu-37UBチェルミナートルの機体性能が、相手より劣っている筈が無い。
しかし・・・、ならばどうして奴はこうも複雑な機動修正を、容易く繰り替えす事が出来るのだ・・・・・・。

そして、また私の思いをあざ笑うかのように、相手の思考が移り変わっていくのだった。



なおも接近を続ける敵機、初めて出会う種類の敵の出現に焦りを覚えた私に、敵からの通信が飛び込んでくる。


「こちらは日本帝国陸軍所属 御剣少佐だ。
 ソ連軍機、直ちに戦闘行動を停止せよ。」


「うるさい!先に敵意を向けたのはそちらだ。
 それに、西側からの命令に従う必要は感じない。」


「クリスカ・・・いいの。」


「大丈夫、私が守るから。 」


心配そうに声をかけてきたイーニァを宥めるように声をかける。
同時に、イーニァを不安がらせる敵に対しての嫌悪感が、更に強まるのを私は感じていた。


「管制塔からの再三にわたる命令を無視するんだ。
 俺の説得に応じる訳が無い・・・か。

 ならば、貴官らを無力化させてもらう。
 貴重な実験機がスクラップになっても悪く思うなよ。」


警告らしき相手の発言を残して、通信は途絶える。この時、相手との相対距離は300mを切っていた。

許さない!私たちに敵意を向けた上に、西側の人間が命令するなど、許されるはずが無い。
しかも、この敵からはちびが遠ざかって以降、本気で射撃をする意思を見せないという余裕すら見せているのだ。

馬鹿が・・・、貴様の腕は確かだが思考は見えている。
先手を取れるのは私の方だ、対応する暇も与えない接近戦なら私たちが負ける筈は無い!

Su-37UBチェルミナートルが、36mmチェーンガンの照準を敵の管制ユニットに合わそうと動く。

さあ、私はこれから射撃を行うぞ・・・、貴様は何処に逃げる?
私はそこにモーターブレードを叩きつけてやる。
ああ・・・、早くその澄んだ青色が濁る瞬間を私に見せてくれ・・・・・・。


「何だそれは!!」


36mmチェーンガンの銃口の動きに合わせたかの様に、相手の思考が見えなくなり、
感情を表す色が急速に消えていく瞬間を目撃した瞬間、私は思わず声を荒げさせる事となった。

相手に感情が有る事は分かる・・・。
だが、そこに有る筈の強弱や方向性といった揺らぎが感じられない。
まるで、コップの中に入った静止する水を眺めている気分だった。

しかも相手は、ご丁寧にスモークまで焚いて視界を奪ってくる。

・・・・・・だが、私がここで負ける訳にはいかない。
ここで負けたら、イーニァが・・・。

気が付いたとき、私はがむしゃらに36mm弾をばら撒き、前腕部のモーターブレードを展開した左腕を振り下ろしていた。






最近部隊に合流したユウヤ・ブリッジス少尉が習熟訓練を行っているTSF-TYPE93吹雪と思われる機体が現れてから、
アタシは唐突に命の危険から救われた事に呆然としていた。
しかし、次第に安堵感は消えうせ、怒りが湧き起こってくる。

それは、戦いを諦めてしまった自分への怒りであり、アタシがまだ動けるにも係わらず無視してSu-37UBチェルミナートルが新たな敵を選んだ事であり、
戦いに乱入してきたTSF-TYPE93吹雪への怒りでもあった。

機体の体勢を整えたアタシは、隙があれば参戦する事も考慮し、一定距離を維持しながら二機の戦闘を観察する立場に回る。

しかし、アタシの思考に反した形で、参戦する間も無く戦闘は終結してしまう。

Su-37UBチェルミナートルの射撃を物ともせず接近したTSF-TYPE93吹雪が、スモークグレネードを投擲。
そして、相手の射撃をサイドステップと左腕の内蔵式ブレードを盾にする事で最小限の被害で切り抜け、Su-37UBチェルミナートルのモーターブレードによる斬撃を、
機体に張り付くかの様な接近機動で脇をすり抜けて回避。そのまま背後を取る事に成功したのだ。

なおも戦闘を継続するSu-37UBチェルミナートルは、何度かTSF-TYPE93吹雪を己の後方危険円錐域ヴァルネラブル・コーン外に追いやる事に成功するも、その度に武装を削られていく。

そして、僅か数分の間に近接格闘兵器しか武装が残されていない状況まで、Su-37UBチェルミナートルは追い込まれてしまう。


「これ以上、戦闘行動を取るのなら、ソ連に対して正式な抗議をする事になる。
 この意味が分かるか・・・。」


「くっ・・・、うるさい。
 西側に居る貴様の言う事が信用できるか!」


「大丈夫だよクリスカ。ノブツナは、何もしないって。

 ・・・あっ、私はイーニアだよ。」


この会話の前後に奇妙な違和感があったが、オープンチャンネルで交わされたこんな間抜けな会話が、
終了の合図となった。


「機体は壊さなかったけど、中尉に怒られる・・・。」


事態が収束したのを見届けたアタシは、元々国連の広報活動に積極的では無かった事も有り、任務の失敗を悔やむ気持ちは無かった。
唯一の心配は、直属の上官であるイブラヒム中尉を失望させたかも知れないという点だった。

だが、この事件はこれで終わりではなかった。

機体を切替し帰路に着こうとしたアタシに、帝国軍からの要請に応える形で国連軍から命令が下り、あのすかしたソ連軍衛士と共同で、
赤と白でツートンカラーに塗装された吹雪の運搬に使用し、雪原に落とされたカーゴの輸送をさせられる事になったのだ。

しかも、東西の協力を表すのにこれ以上絵になるものは無いと言われ、輸送の様子を撮影までされてしまった。

東西の最新鋭機が一つのカーゴを運ぶ・・・、前線で戦術機がその様に運用される事が有るとは言え、
後方で目撃すると感動よりもシュールさが先行し、悲しくなってくる光景である。

一面銀世界の中で、強く人工物を意識させる除雪されアスファルトがむき出しとなっている滑走路にカーゴを置くと、
Su-37UBチェルミナートルは何も言う事無く、ソ連軍基地へ飛び去ってしまう。

その光景に再び感情を爆発させたアタシは、悪態をつく事になる。

感情が納まらぬ中、管制塔からの指示を受けハンガーへの移動を開始すると、なぜか後から先ほどのTSF-TYPE93吹雪が追従し、
同じ区画のハンガーにそのまま収まってしまう事になった。

アタシは、戦術機の管制ユニットから飛び出しタラップに降り立つと、そのままTSF-TYPE93吹雪の前まで走り、
降りてきた衛士に向かって怒りに任せて拳を突き出す。


「お前が邪魔しなくても、アタシは大丈夫だったんだ。」


しかし、相手は軽く受け止め、アタシの言葉にも特に驚く様子も見せず、うっすらと笑みを浮かべてみせた。


「元気の良いお嬢さんだ・・・。
 意気消沈していると思っていたら、そうでは無いらしい。」


アタシが輸送機の航路に進入した事を咎める様子も無く、子供をあやす様な態度を取る目の前の衛士に、
アタシはますます行動をエスカレートさせていく事になる。

しかし、この一方的な攻防も長くは続かなかった。

帝国軍から派遣されて来ていた篁中尉が、衛士の迎えに来たのだ。


「御剣 少佐、お待たせいたしました。
 司令室までご案内いたします。」


「少佐!?」


御剣少佐はアタシの頭の上に手を置いて、また後でという台詞を呟き、後はよろしく頼むと整備兵たちに声をかけた後、
その場を後にする事になる。

そしてアタシは、イブラヒム・ドーゥル中尉に捉まり、コッテリ絞られる事になるのだった。






ブリーフィングルーム

「オープンチャンネルの交信を聞き逃すなんて、
 間抜けすぎるだろ。」


VGヴィージー、うるさい! アタシはその時忙しかったんだ。
 それに・・・、何がまた後でだ。
 すかしやがって、気に入らないな!」


「どうした?
 ユウヤが新しい日本人の参加に機嫌を悪くするなら分かるが、お前まで如何した?」


ブリーフィングルームでの待機中、ラテン系のノリなのかウェーブのかかった長い黒髪が特徴のヴァレリオ・ジアコーザ少尉が、
勇猛な山岳民グルカ出身の元気すぎる少女、タリサ・マナンダル少尉の愚痴に乗っかる。
そして、そのやり取りを切っ掛けに、隊員間で会話の花が咲き始めた。


「少佐だからって、アタシの勝負を邪魔したのは許せない。」


「負けそうだったのに、何を言っているんだか・・・。
 それに、訓練区域を抜けて輸送機に接近したのは拙かったな。」


「輸送機のことだって分かってた、まだ余裕があったのに・・・」


勢い好く叫んでいたチョビ(タリサ)だったが、イブラヒム中尉に怒られた事を思い出したのか、声が尻すぼみに小さくなっていく。

それにしても、俺の到着から1週間遅れでオブザーバーの合流か・・・。


「若くして少佐だって言っても、どうせ血筋で階級が上がっただけだろ。
 乗ってたTSF-TYPE93吹雪も、テスト機と言っても派手すぎるしな。」


チョビの話では、合流するとされていた御剣少佐の年齢は20代前半ぐらいらしい。
普通の軍隊でその年齢なら、中尉でも出世している方だ。
如何考えても、あの国特有の血統主義が生んだ結果に違いない。

そう一人で納得していた俺の脳裏には、アメリカ人である母を見捨てて、日本に帰った顔も知らない日本人の父の虚像が映し出されていた。
だが、他の隊員は多少御剣少佐の事を知っているのか、俺の意見に疑問を挟んできた。


「ソ連の紅の姉妹スカーレット・ツインの背後を取ったんだぞ。
 機体性能だけじゃないのは確かだ。
 それに、少佐の衛士としての腕は、極東では噂になってるようだぜ~。」


「そうだな、技術屋の意見として言うと、
 あの機体はフレーム剛性と拡張スペースの拡大、固定武装の変更が改良の中心で、
 基本性能が現行タイプの吹雪より大幅に上がっている、と言うことは無いと思うぜ。」


マカロニ(VGヴィージー)は、独自のルートで行っていた情報収集の成果を得意げに語り、
米国軍時代からの付き合いのメカニック、ヴィンセント・ローウェル軍曹が、その意見に肯定の意思を示す。


「そうね、御剣少佐の話は私も聞いた事が有るわ。
 それに、彼は衛士として以外にも有名人よ。
 タリサ・・・あまり御剣少佐の事を悪く言っていると、大変な目にあうわよ。」


「アタシはそんな事気にしないね!」


「・・・権力者が嫌がらせでもしてくるのか?」


プラチナブロンドの髪とその美貌が印象的なスウェーデン王国出身の女性、ステラ・ブレーメル少尉が発した言葉に、
俺は眉をひそめ吐き捨てるように言葉をつむぐ。


「御剣と言う名字セカンド・ネームは、日本国内でも多くないらしいの・・・。
 日本のミツルギというと、貴女はいつもすごいって言っていたじゃない。」


「そんな奴知らな・・・。
 あっ! ミツルギ・フーズ!!」
 

「それよ・・・、欧州でもあそこの合成食品は美味しいと評判だったもの。」


「ユウヤすまない。もし本当なら、アタシは少佐に逆らえない・・・。
 あの食べ物が食べられなくなるくらいなら、アタシは光線級の群れにだって飛び込むね。」


くそ、このチョビは、好き勝手言いやがって。
ついさっきまで不機嫌だったのに、何でお前が得意げな顔してんだよ。
しかも、ギガ美味いって何だ? 本当に意味が分からない。

この場で、御剣少佐を認められないのは、どうやら俺だけのようだった。

俺が沸き起こる不満に眉を潜め、ミツルギ・フーズ談義で盛り上がる前線出身の三人の衛士を眺めていると、
中東出身で前線からの叩上げの仕官であるイブラヒム・ドーゥル中尉が現れ、その後に話題の御剣少佐と篁中尉が続いて室内に入ってきた。


「総員傾注。
 本日より、本計画にオブザーバーとして日本帝国陸軍から参加する事になったノブツナ・ミツルギ少佐だ。
 
 少佐、ご挨拶を・・・。」


「御剣信綱だ。
 帝国軍技術廠で第13独立機甲試験中隊の指揮を執っていたが、
 この度のXFJ計画にオブザーバーして参加する事になった。
 
 諸君らが優秀であるという事は、話には聞いている。
 今の調子で、XFJ計画に従事する事を期待する。」
 

「「「イエス、サー」」」


身長は180cm程度、日本人としてはがっちりとした体格と精悍な風貌、その黒髪は無造作に肩口で切りそろえられており、
まったく手入れをしているようには感じられない。
しかし、その髪には独特の艶が有り、育ちの良さを感じさせるものだった。

そして、特筆すべきはその存在感だ。
タリサから聞いていた雰囲気とは異なる威圧感に、反感を覚えていた俺も皆と揃っていつの間にか敬礼をしていた。

御剣少佐は、きれいな所作で答礼を行うと、唐突にその表情を弛緩させアルカイク・スマイルと俗に言われる胡散臭い笑みを浮かべる。
そこからは先ほどまでの威圧感は無く、スポーツが得意な大学生と言われても信じてしまいそうな雰囲気の男が佇んでいたのだった。


「皆、楽にしてくれ。

 プロミネンス計画を主導するクラウス大佐が普段言っているように、
 上官への敬意は必要最低限で良い。」


そして、少佐の口からXFJ計画発足の経緯が説明される。

XFJ計画・・・、それは日本帝国の主力量産第三世代機である吹雪を、戦術機の世界展開に実績の有る米国のボーニング社と協同で改修し、
海外仕様への対応及びオプションパーツの搭載による拡張性を確保した、国際標準機とする計画である。

これにより、日本帝国内の需要を満たし、且つ米国主導の下、各国が共同参画して開発が進められているFX-35『ライトニングⅡ』
(ロックウィード・マーディン社)の開発が遅れている中で、ライトニングⅡの生産開始までの期間を埋める必要に迫られた、
欧州を中心とする海外の第三世代機の需要を満たす代行機の座を狙っているとの事だった。

この日本帝国の動きに、合衆国内では過去の貿易摩擦といった苦い経験が頭をよぎり、主力産業を奪われるのではないかと言う意見が噴出する。
一方、日本がもし単独で計画を実行し成功した場合、本当に目も当てられない事態になるという不安もあった。
後者の意見は、現にF-4F『スーパーファントム』及びF/A-4J-E『クラマ』の輸出がアジアを中心に好調で、
全くの妄想と言い切ることが出来ないものだ。

そして、計画に協力することで日本の最新技術を盗み、自国の戦術機開発に弾みをつけたいという積極的な意見や、
少しでも日本の仕事を合衆国内で取れるならそれもありという自虐的な意見が出た事で、合衆国政府は消極的賛成の立場を取る事になったのだ。

この基地に来る前の俺は、日本人に学ぶ事など無いという意見だったが、実際に吹雪に搭乗した者としては、
一部の技術では米国を追い抜いている事を認めざるを得ず、今でも複雑な心境ではあるが計画に参加する意義はあると結論付けていた。

俺が思考をめぐらしている間に、少佐は説明を簡潔に終え、最後にこう締めくくった。


「貴官らには、わが国が本気を出している事を理解してもらいたい。
 つまりこの計画は、国際協力を分かり易くする示すポーズとしてやっている訳では無いのだ・・・。
 
 最後に、私は帝国軍で運用されている戦術機なら、全てに搭乗経験が有り、海神と瑞鶴以外は実戦経験済みだ。
 今後の開発を行う上で、帝国の戦術機運用が知りたければ、遠慮なく聞いてくれ。
 
 以上だ。」






話を終えた御剣少佐・・・、俺のいつもの癖でタックネーム『ペテン師トリックスター』を贈った人物は、視線をイブラヒム中尉へ送る。

すると、イブラヒム中尉が話を引き継ぎ、新たな案件についての説明を始めた。


「早速だが、CASE:47(戦術機を使用するテロリストとの戦闘を想定したカリキュラム)にて実機演習を行う。

 これは、御剣少佐の提案で特別に行われる事になったもので、新型OSの教導もかねている。」


新型OS・・・、1週間前に初めて触れた『EXAMシステムver.2』と呼ばれる日本帝国製の戦術機制御用OSは、
良い意味で俺の今までの常識を打ち砕いてくれたものだった。

操作入力間のタイムラグを無くす先行入力と、事態の変化に柔軟に対応する為の入力キャンセル機能。
この二つのシステムを搭載した戦術機、現時点ではF-15Eストライク・イーグルTSF-TYPE93B吹雪の二機種に搭乗して、現行OSとの比較も行ったが、
今までのOSが玩具であったのかと錯覚させるほど、劇的な改善をもたらしていたのだ。

現在、アルゴス小隊内の全機が新型OSへの換装を完了しており、帝国軍内で配られているという教本の英訳と篁中尉の助言を頼りに、
他の隊員も習熟に励んでいる。
そして、毎日個人的に集まって意見交換をするほど、皆この新型OSに熱を上げていた。

この事自体は、一人の衛士としては喜ばしい限りで、俺個人としても正直に言えば楽しくて仕方が無い。
しかし、アメリカ人としては、日本帝国に出し抜かれたという想いがどうしても拭えない。
この思いは、この間までテストパイロットとしてグルームレイク基地で任務に従事していた俺が、日本帝国の新型制御OSの登場以前まで、
合衆国が制御OSの開発を重視していなかった事を知っているだけに、余計だった。

俺が新型OSへの複雑な思いを胸にしまいこみ、イブラヒム中尉の説明に耳を傾けると、今回の演習にイブラヒム中尉も参加する事が告げられた。
中尉の戦いを始めて見られるという事に、一瞬俺の心は躍りだしたが、次の瞬間自分がペテン師トリックスターの指揮下に入ると言われた事で、一気に心が冷めてしまう事になる。


「俺は、今回持ってきた吹雪で出る。
 俺が搭乗する戦術機は、この演習後にオーバーホールされ、ブリッジス少尉に引き継ぐ事になっている機体だ。
 ブリッジス少尉には、申し訳ないが今しばらく借りさせてもらう。」


俺はその言葉に、あえて無視をした。
この不遜な態度は、軍隊なら本来許される筈が無い態度だったが、ペテン師トリックスターは苦笑するだけで、追求するような態度は見せなかった。

その態度が、余計に癪に障るんだよ。
やはり俺は、この日本人特有の薄ら笑いをやはり好きになる事が出来ない。

だが、俺の感性とは異なりペテン師トリックスターの苦笑を横から眺める事になった篁中尉は珍しく柔らかい笑みを浮かべていた。

あの日本人形ジャパニーズドール(篁中尉)が笑うなんて、珍しいな・・・。

俺の想いとは裏腹に、その後もブリーフィングはつつがなく終了、各員は演習を行うために所定の位置へと散っていく事になるのだった。






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コメント

皆様こんばんは、あぁ春が一番です。
もっと早く更新する予定だったのですが、遅くなってすみませんでした。
決して、TEのアニメ放送に焦ったわけではありませんよ・・・。

今回は、TEの導入部分を書きました。
前後編の予定が、上中下巻になった挙句に、本当に導入部しか書けていない事に、愕然としてしまいましたが、
気にするほどの事ではないでしょう。

何より問題なのは、アニメの放送で設定に大きな変更が必要な部分が多く発生した事です。
本当に、どうしよう・・・。

今回、本来の主人公の立場を食ってしまいました。こんな導入しか思い浮かばなくてすみません。
しかし、今後全てのイベントを独占するという事はありませんので、その点はご安心下さい。

次の更新は未定ですが、サマータイムの期間中は少し余裕がありますので・・・。
・・・兎も角、結果を出すべく頑張りたいと思います。


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