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No.16427の一覧
[0] 【習作】 マブラヴ オルタネイティヴ~我は御剣なり~(現実→オリジナル主人公・チート気味)[あぁ春が一番](2012/08/13 20:03)
[1] 本作歴史年表[あぁ春が一番](2011/07/11 21:36)
[2] 戦術機設定集(簡易)[あぁ春が一番](2011/08/15 13:48)
[3] 兵装・その他の装備設定集(簡易)[あぁ春が一番](2011/08/15 13:47)
[5] プロローグ[あぁ春が一番](2010/03/08 18:31)
[6] 第01話[あぁ春が一番](2010/06/06 12:15)
[7] 第02話[あぁ春が一番](2010/06/06 12:20)
[8] 第03話[あぁ春が一番](2010/07/10 09:03)
[9] 第04話[あぁ春が一番](2010/11/05 00:07)
[10] 第05話[あぁ春が一番](2010/11/05 00:24)
[11] 第06話[あぁ春が一番](2010/11/05 00:35)
[12] 第07話[あぁ春が一番](2010/11/05 00:45)
[13] 第08話[あぁ春が一番](2010/11/06 23:42)
[14] 第09話[あぁ春が一番](2011/01/27 22:47)
[15] 第10話[あぁ春が一番](2011/04/20 00:59)
[16] 第11話[あぁ春が一番](2011/05/03 18:17)
[17] 第12話[あぁ春が一番](2010/11/07 22:29)
[18] 第13話[あぁ春が一番](2010/11/07 23:04)
[19] 第14話[あぁ春が一番](2011/05/03 18:19)
[20] 第15話[あぁ春が一番](2011/05/15 23:49)
[21] 第16話[あぁ春が一番](2011/05/03 18:22)
[22] 第17話[あぁ春が一番](2011/05/03 18:23)
[23] 第18話[あぁ春が一番](2011/05/03 18:24)
[24] 第19話[あぁ春が一番](2011/05/03 18:29)
[25] 第20話[あぁ春が一番](2010/11/10 00:41)
[26] 第21話[あぁ春が一番](2010/11/11 00:05)
[27] 第22話[あぁ春が一番](2011/05/15 23:50)
[28] 第23話[あぁ春が一番](2010/11/11 23:29)
[29] 第24話[あぁ春が一番](2010/12/12 15:48)
[30] 第25話[あぁ春が一番](2011/05/15 23:51)
[31] 第26話[あぁ春が一番](2010/12/12 15:48)
[32] 第27話[あぁ春が一番](2011/05/15 23:51)
[33] 第28話[あぁ春が一番](2011/05/15 23:52)
[34] 第29話[あぁ春が一番](2011/05/15 23:53)
[35] 第30話[あぁ春が一番](2011/05/15 23:53)
[36] 第31話[あぁ春が一番](2011/05/15 01:42)
[37] 第32話[あぁ春が一番](2011/05/15 23:54)
[38] 第33話[あぁ春が一番](2011/05/25 00:04)
[39] 第34話[あぁ春が一番](2011/05/25 00:05)
[40] 第35話[あぁ春が一番](2011/05/25 00:05)
[41] 第36話[あぁ春が一番](2011/07/11 21:25)
[42] 第37話[あぁ春が一番](2011/08/15 13:46)
[43] 第38話[あぁ春が一番](2011/10/24 00:46)
[44] 外伝 TE編・上[あぁ春が一番](2012/07/23 11:57)
[45] 外伝 TE編・中[あぁ春が一番](2012/08/13 20:03)
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[16427] 第38話
Name: あぁ春が一番◆17cd7d65 ID:2aed1bf6 前を表示する / 次を表示する
Date: 2011/10/24 00:46




1999年12月

この日の俺は、改良型電磁投射砲の良好な試験結果を受け、鼻歌交じりで帰宅の途についていた。

改良型電磁投射砲とは、機体主機より直接電力を取り出し、新開発の大型コンデンサーを用いて蓄電・昇圧することで、
機体を静止させた状態でなら120mm砲弾を毎分80発の速度で投射する事を可能とし、主機からの電力供給が抑えられる戦闘機動時でも、
コンデンサーに貯められた電力で20発までなら投射可能であるという仕様の超電磁砲である。

試作型電磁投射式速射機関砲に対して投射量が1/10に制限された上に、電磁投射砲を使用できるのは鞍馬系統だけで、他の戦術機に搭載した場合、
冷却と電力供給が追いつかなくなる恐れが有るなど数多くの問題を抱えてはいるが、戦術機が携行出来る兵装では、
遠距離から突撃級の正面装甲を打ち破る事が難しかったのに対し、それを可能にしたという事だけでも、欠点を補って余りある利点があると考えられていた。

また、これにより当初予定していたハイヴ内戦闘での効果は限定的となったが、陸上での戦闘においては数を揃える事で十分な火力が得られるとされている。

この兵器が普及すれば、電磁投射砲搭載機が突撃級を排除した後、通常の鞍馬や戦車・自走砲などによる射撃で、BETA群を叩くという戦術も可能となるのだ。

だが俺が浮かれていたのは、そういった対BETA戦が楽になりそうだという事だけが理由だけではなかった。

今日は真耶マヤと御剣本家で時を過ごす予定となっており、真耶マヤとの技術談義が楽しみの一つであるからだった。

話す内容は、如何しても制限される事になるが、電磁投射砲の開発については斯衛軍も一部出資しているので、
軍内部で流布されている情報程度の話なら問題ない筈だ。

昨日は真那マナと訓練の話になって組み手をし、その前は香具夜さんに茶を立ててもらった。

こうして、彼女らの油断を誘・・・もとい緊張を解さないと、俺の家族も住む実家では周囲を警戒して、キスもさせて貰えないのだった。


「ただいま、真耶マヤ
 門まで迎えに来てくれるなんて珍しいね。」
 
 
俺が御剣本家の門を潜ると普段出迎えてくれる女中さんたちでは無く、真耶マヤが白い息を吐きながら、
物憂げな表情で庭の木に触れている姿が目に入ってきた。


「お帰り、信綱・・・。

 か・勘違いするなよ、私は庭の樹木が気になっただけで、貴様を待っていた訳では無い。」


視線を逸らし、あくまで偶然だと言い張る真耶マヤの様子に、説得力が無いんだが、と思いながらも素直な気持ちを乗せて俺は返事を返す。


「偶然だったとしても、俺は嬉しいよ。
 ありがとう。」


「あぁ、分かれば良いんだ・・・。」


俺はそう言うと、寒さの為か若干頬が赤くなった真耶マヤの冷えてしまった手を強引に取り、屋敷へと歩を進める。

しかし、俺が屋敷の扉を開けた直後、真耶マヤと繋いでいた手の反対側の腕を捕まれ、無理やり屋敷の外への引っ張られる事になった。

その動きに驚いたのか、すばやく俺と繋いでいた手を離した真耶マヤの行動を寂しく思いつつも、その場に立ち止まった俺は、
俺を拉致しようと奮闘する人物に声をかける。


「母上・・・、どこに俺を連れて行こうとしているのですか?」


「信綱さんに頼まれていた、例の協定を結ぶ会合にこれから出席します。
 付いて来てください。」
 
 
どうやら、俺がお願いしていた件について、嫌な予感がするので俺を連れて行きたいらしい。

母のこういった勘が良く当る事を知っている俺は、深くため息を付いた後、腕を引く力に抵抗する事を止め大人しく同行する事にした。


真耶マヤさん、御免なさい。
 この埋め合わせは必ずさせますから・・・、今晩は信綱さんを借りていきますね。」


「・・・信綱。 私が作った・・・・・・夕餉は如何する気だ!」


「すまん、真耶マヤ
 明日の朝食は一緒に食うから許してくれ!」


恨めしそうにこちらを見つめる真耶マヤに別れを告げた俺は、母に腕をつかまれたまま車に乗り込み、ホテルへ直行する事になるのだった。









会合へ向かう道中、事前に言って欲しかったと母に抗議をしてみたが、彼方が色々引っ掻き回している皺寄せが来ていると言われると、
俺は何も言えなくなってしまう。

だが、会社の仕事が忙しいと文句を言いつつも、俺の女性関係に関する話題に対して、暑苦しいくらいの満面の笑みを絶やさない様子を見ると、
本当に忙しいと思っているのかは疑わしい所である。

もしかして、将来を見据えて俺に経験をつませようといった親心もあるかもしれないが、本日の会合に出席するそれぞれの代表者の面子を考えると、
面倒如しか思い浮かばなかった。

御剣財閥が過去に仕掛けた買収合戦の結果、財閥群は再編成されその数を6個まで減らし、御剣財閥は上から5番目の地位を占める事となった。

当時は、三囲≧光菱≒住宏≧安多>御剣≧大空寺という規模で、売上高もそれに比例していた。

だが、1998年の売上げベースで見ると、御剣≧三囲≧光菱>大空寺≒住宏≧安多という順番となり、今年も同じ結果となる事が濃厚となっている。

これは、本土防衛戦から明星作戦までの間で、最も被害が少なかった財閥が御剣財閥だったという事に起因している。

御剣財閥が東日本を中心に発展し、近年西日本の拠点を東北地方に移転してきたのに対して、大阪を中心に発展してきた住宏、
金融機関に強みを持っていた安多等は大きな被害を受け、三囲と光菱も少なからず被害を受ける結果となった。

ただし、西日本に勢力を誇っていた大空寺財閥は、上手く活動拠点の移転が行われたようで、地位を保全する事に成功している。

各財閥と御剣財閥との関係をまとめると、友好関係にあるのは光菱と大空寺で、特に大空寺は1987~88年に行われた財閥再編で共に大きく力を伸ばした事から、
ライバルと認識しつつも新興財閥として仲間意識が芽生えるという奇妙な関係となっていた。

そして、中立の立場を取るのが三囲と住宏で、関係があまり上手く言っていないのが安多であった。

安多は、財閥再編時に大きく力を削がれた事から、一方的に嫌われていると言ってもいい。

ただし、余り財閥の仕事に時間を割けない俺程度では全ての利害関係を把握しきれるはずも無く、利権がぐちゃぐちゃに入り組んでいるため、
部門毎で様々な対立や友好関係を築いており、先に挙げた関係も大体の方向性でしかない。

こうした複雑な関係を持つ日本経済界のトップが集まった室内は、異常な空気に包まれていた。

しかし、その中で俺だけは話に耳を傾けながらも、席についた時点から腹の探り合いには興味が無いと言わんばかりに、料理に手を伸ばしていく。

しばらくそうした態度を取っていると、部外者のような気楽な感覚で食事を楽しむ俺の態度に腹を据えかねたのか、停滞気味の話し合いが中断され、
三囲翁から俺に声が掛かられる事になった。


「信綱君、君は何のために来たのだね。」


邪魔だから帰れと言わんばかりの三囲翁の言葉に、自然とその場はシンと静まり返る。

俺を静かに威圧する行為は、流石に大財閥の長と納得させるものがあった。

しかし、俺はかの人物が御剣と本気で敵対する気は無いという己の分析と勘を信じ、あえてゆったりとした動きで茶をすすり、
己の間を確保するとおもむろに口を開いた。


「彼方達こそ、ここに何をしに来たのです?
 
 事前の連絡で、御剣は日本を立て直す為に全力を尽くすという姿勢を見せた。
 もし、この会談を腹の探り合いで終わらせる積もりなら・・・、御剣は単独でも活動を始める用意がある。」
 

この発言は、以前から行われてきた御剣財閥内での話し合いで決まっていた事で、御剣財閥の総意と言っても良い内容である。

俺の実直な物言いに、その場に大きな緊張が走った。

御剣財閥と友好的な光菱財閥トップの石崎翁や大空寺翁がその場を落ち着かせようと動く、だが母が我関せずとニコニコと笑い不介入を決め込むと、
同レベルの偉人である三囲・住宏・安多の三名に押され、場の緊張が緩む事はなかった。


「この若造が、ワシ等に喧嘩を売っておるのか?」


「喧嘩もなにも、俺は事実を言っているだけです。

 それと一つ言っておきますが、この件で御剣が短期的な利益を得る事は無い。
 むしろ単独で活動を続け、再度の本土侵攻を短期で撃退するか、佐渡島ハイヴ攻略といった大きな成果が得られなければ・・・・・・、
 5年以内に御剣財閥は破綻するでしょう。」


俺は浴びせられる圧力を受け流し、ただ事実のみを冷徹に話す。


「だが、長期的に見れば大きな利益が見込めるという事だろう。
 最後に御剣だけが生き残る算段を整えていないと証明できるのか?」
 
 
「住宏翁の言う事は尤も・・・、ですが無いものを証明する事は不可能。
 
 私にできる事は、御剣財閥が日本を牛耳る腹積もりは無いと言うことと、
 BETAの脅威が無ければ、国内で競争が行える今の様な状態を御剣は歓迎していると伝えるだけです。
 
 それと、成功の成否を別にすれば、過去に御剣が宣言を行って実行に移さなかった事は無い。
 これを持って・・・・・・俺が生きている間、この約定が守れられると信じていただきたい。」


俺はここに来て初めて、不遜な態度を改め深々と頭を下げた。
 
俺が突然態度を翻した事に戸惑ったのか、三囲・住宏・安多の三名は気勢をそがれた様子で口をつぐむ事になる。

そこに、大空寺翁から俺を試すような、問い掛けが投げかけられる。


「御剣の覚悟は分かった。
 だが、それに付き合わされる社員やその家族の事を考えたことはあるのか?」
 
 
「心配無用、仮に破たんするとしても社員とその家族が半年は過ごせる資産は残します。
 優秀な御剣の社員達の事です。半年もあれば、容易く職を見つけられるでしょう。
 
 それに、各種権利や蓄積されたノウハウの事を考えると、企業買収が行われる可能性が高い、
 そうなれば社員はもちろんの事、御剣本家にも其れなりの資産が残りますよ。」


そう言うと俺は、その場にいる5人の翁に微笑を見せた。

俺の態度を見た大空寺翁は、心配して損したと言わんばかりに、鼻を鳴らして視線を逸らす。

他の4人も、孫の様な年齢の俺が笑みを浮かべるのを見て、思うところがあったのか、視線が急に軟化していく。


「この協定が目指す一番の利益は、50年・100年後にも日本という国が存続し、
 そこに人が生き続け、自由に経済活動が出来ると言う事です。
 
 ・・・これは、リスクに見合った最高の報酬だと思いませんか?」


俺が話す事が彼らの考えにどれほどの影響を与えられたかは分からない。

もしかしたら全て内々で決まっており、ここでの協議は象徴としての意味合いでしかなかったのかもしれない。

だが、笑みを絶やさず、やる気が無いなら一人で楽しみますという俺の態度に感化されたのか、
5人の翁達が積極的に自分の意見を言い出したという変化があった事は確かだった。

その後の話し合いの結果、以下の様な基本方針が決められる事になった。

①統合整備化計画の提案
 いくつかの規格に分かれている兵器の体系を纏めて、生産と開発の効率化を図る。
 また、可能なら国際規格となるように、共同で活動を行う。
②資源調達部門の協力体制強化により、調達コストを圧縮し、最終生産品のコストを削減する。
③研究部門の集約と情報開示、学術研究都市の提案(候補地・第二首都 仙台郊外)
④発電所を共同で建設し、不安定になりつつある電力の安定化を目指す。
⑤国債の共同購入。共同声明を出し、一定量の国債購入を行う。
⑥この協力体制は五年間とし、五年後に見直しを行う。
 ただし、本土侵攻が可能なハイヴが全て陥落し、安全が確保された時点で更新は行わない。
 
日本の6大財閥が協力すると言っても、全てを合わせて漸く世界の大財閥と戦えるレベルで、この場に出席した人物の中には、
財閥全体に指導できる立場でない人も居る事から、この協議によりどれほど歴史の流れに抗えるかは分からない。

だが、それでも俺がこの世に存在しない場合と比べたら、格段に良くなる筈であった。

この日を境に、企業間の協力体制強化が進められ、様々な兵器・物資の供給がスムーズになり、
各社で技術を持ち寄った共同開発も格段に増加する事になる。

また、全くの予断になるが、5人の翁達からしきりに孫娘を紹介されたり、冥夜の事を聞き出そうとされたりする様になったのも、
この日が境だったように思われる。

会う度に、半ば見合いの打ち合わせのようになるが、俺は毎回全力で断りを入れている。

冥夜の結婚相手は、俺を超える男でないと認められんのだよ。

・・・兎も角、この日を境に統一感の無かった日本経済界は、大きく動き出す事になるのだった。








1999年12月16日

政威大将軍である悠陽の誕生日を祝う祝賀会に参加するため、俺は帝都城を訪れていた。

従来の祝賀会と比べて、帝国の現状を考え小規模になっているが、帝国の中枢を担う人物が勢ぞろいしている会場を見渡すと、
壮観としか言いようが無い気分になる。

俺は会場で父と母と合流した後、悠陽に挨拶をしに行き、御剣家として戦術機用の薙刀を献上する事になった。

この戦術機用薙刀は、74式接近戦闘長刀の柄を延長し、刃を薙刀の長さに切り落とす事で作られた鞍馬型瑞鶴(仮)用の試作兵装の一つで、
試験で予想以上に高い耐久性が有る事が示されたが、実戦で使えるほど薙刀に熟練した者が少数派であることから死蔵される事になった品を、
御剣家で引き取り多少の装飾を施した物である。

神野無双流を学び、生身では薙刀を用いる悠陽にはピッタリだと考えた事と、贈り物に関しても実用品を好む御剣の気性にも合っていた事から、
今回の献上品に選ばれたのだが、他家から送られた物の中で御剣の品は、何時も通り一つだけ浮いてしまう事となる。

だが、それを全く気にしないのが、御剣が御剣である所以であるので、考えるだけ無駄な事だった。

悠陽に挨拶をした後、その場はそれで退散となったが、俺は去り際に祝賀会の後に定例の食事会に変わり話し合える場を設けていると、
侍従長から耳打ちされる事になった。

俺は時を見てその場を離れ指定された部屋に入る事になったのだが、そこには次代へ党首の座を譲った雷電翁や月詠翁といった人物以外で珍しい男性で、
かつまったく想定していなかった人物・・・・・、日本帝国総理大臣 榊 是親が待ち構えていたのだった。

1996年から総理大臣の座に就任した榊は、政威大将軍を政治に参加させないという方針を取っている事や、軍事以外の政策にも力を入れている事、
既得権益を認めないという頑固な思想を持っている事から、旧来の勢力に属する者や一部の軍関係者からの受けが悪い人物である。

軍事費以外にも予算を積極的に振り分けている事実から、一つの事を偏って重視しないリベラルな思想の持ち主である事が知られており、
上手くバランスを取っていると評価する者が居る一方、官僚出身であること上げて省庁に配慮していると、
対BETA戦に消極的であると非難する者人物も居るなど、今の所評価は二分されている状態である。

だが、BETAの本土侵攻時における国民への避難指示発動の迅速さや、その後の経済の建て直し、明星作戦の準備を整えた調整能力と、
海外との話し合いを纏めた外交手腕を思うに、決して無能ではなかった。

並みの宰相なら、国家が破綻してもおかしくないほど、日本は追い込まれていた事を考えると、むしろ非常に優秀だと言っても良い。

ただし、近頃は国会が空転気味で、避難民対策が後手に回る事が有り、支持率は低下気味となっている。

その榊総理に対して俺自身はと言うと、ただの帝国軍少佐にしては力を持っており、御剣家と御剣財閥の力を用いれば、
それなりに大きな勢力を作る事が出来るという程度の自己評価に落ち着いていた。

その俺と、国の上層部との認識の違いが生まれた場合、そこから生まれる衝突により対BETA戦での力が削がれる可能性もゼロではない。

そのような事態は可能な限り避けたいと考え、いつか意見のすり合わせをする必要があるとは思っていたのだが・・・、
それは政治工作が得意な三囲や光菱、経団連を通しての意見交換であり、俺自身が国のトップと話をする事は全く考慮していなかった。

いや・・・・・・、形式的には内閣総理大臣より上位に位置する政威大将軍と度々あっているのだ、
今更俺が厄介ごとから逃れるのは無理な事なのかもしれない。

思考の中ではこうして諦めに似た境地にたどり着く事になった俺だったが、感情的には納得し切れないものがあり、
俺を積極的に厄介事に巻き込もうとしている節の有る悠陽に対して、思わず非難する様な視線を送ってしまう事となる。

しかし、俺の視線に対して俺が政治に係わりたくない事を知っている筈の悠陽は、笑みを浮かべるばかりで全く反省の色を見つける事は出来なかった。

俺は悠陽に反省を促す為に、榊総理に目礼すると笑みを浮かべる悠陽に近づき、耳元で言葉をささやいた。


「悠陽・・・、お前は最近狙って俺を政治に絡ませようとしているだろう。
 無闇に厄介事を持ってくる娘には、お仕置きが必要か?」
 

「御剣信綱・・・、政威大将軍として命じます。
 民とこの国を守る為に、彼方の力を貸しなさい。
 
 ・・・その後であれば、どの様なお仕置きであれ、受け入れます。」


だが、軽い気持ちで声をかけた俺に帰ってきたのは、悠陽からの強烈なカウンターだった。

政威大将軍として威厳を持った声色で俺に命を下した後、可愛らしく謝罪されてしまう事態に、俺の鼓動は跳ね上がり、
なんとなく無条件でお願いを聞いても良い様な気分になってしまう。

何だ、この強烈な誘惑・・・抗いがたいオーラは・・・・・・。

手痛い反撃に一瞬心をかき乱される事になった俺は、俺以外の男にどんな事でもするなんて言うと変な誤解を受けると忠告をしつつ、
何食わぬ顔で悠陽から距離を取った。

離れた後で、さっきの台詞が悠陽を独占するのは俺だという風に取れなくは無いとも考えたが、榊総理の眉が逆立ってきた事を確認していた俺は、
悠陽に敬礼を行った。

そして、悠陽から答礼を受けると、直ぐに向き直り榊首相へ敬礼を行う。

榊総理が答礼を行った事を確認した悠陽に促されるがまま俺が席に着き、お茶と茶菓子が侍従により運ばれた後、
会談が始まった。


「榊総理、殿下との会談の場に、一介の少佐が同席しても宜しかったのですか?」


「なに・・・、気にする事は無い。
 この場は殿下が私と御剣少佐が会談する場として設けて下さったものだ。

 それに、私も君とは少し話をして見たいと、以前から考えていたのだよ。」


榊総理はそういうと、俺が軍内部で調整役として若手としては大きな役割を担っており、斯衛軍の戦術機選定や専用機廃止の動き、
戦術機や各種兵装の統廃合と、海外への輸出に積極的な意見を持っていることを知っていると語った。

確かに、俺は中堅と上層部を繋ぐパイプラインの一つとなっている事は確かで、最近は鞍馬・烈震・撃震(烈震や鞍馬への改修後に余った撃震の部品)
・F-4E/ファントムの輸出による外貨獲得により、国内の戦力を充実させるという政府・経済界の方針に同意するよう帝国軍内で動いてはいた。

しかし、御剣財閥に注目が行く事はあっても、俺自身が注目される事が無いように動いている事もあり、
軍外部の者が武力以外で俺を評価する事は少ない。

榊総理が最低限は軍内部にもアンテナを張り巡らせている事を感じ取った俺は、そこで『マブラヴ』の世界でも何らかの考えが有って、
クーデターの発生を容認した可能性に思い至ると、榊総理の評価を更に上方修正させる事になる。


「所で御剣君、先日経団連から書簡が届いたのだが、別ルートで君から補足説明を受けても良いと連絡があってね。
 書かれていること以外に言いたい事が有れば意見を聞こうじゃないか。」


軽い挨拶を交わした後、榊首相は軍の階級を付けず俺の名を呼び、話を振ってきた。

ここで態々そう俺を呼び直したのは、公的な身分に関係無い俺個人の言葉を聴きたいという意思の表れなのだろうか?

厳格な意思を見せるその表情からは、経験の浅い俺では榊総理の深い考えを読みつる事はできなかった。

だが、不快な感じはしないという直感を信じ、俺は6大財閥の統一見解に一部私見を交え、考えを述べることにした。




6大財閥が調整した意見の中で、最優先で実施すべきだと感じていた政策は、規制緩和の一点であった。

今企業側が国内再興の一番の妨げとなっていると考えたのは、国内に張り巡らされた各種の規制である。

平和な頃なら企業の暴走を食い止めると言う点で有用な規制ではあったが、戦時中の今となっては仮設住宅を建設するにも工場を新設するにも、
発電施設を作り送電するにも・・・・・・、ありとあらゆる全ての行為に膨大な書類を用意し、許可を求め監査を受け入れる体制は、
非現実的となってしまっていたのだ。

その証拠として、企業側・役所側双方に書類整理だけでパンク状態と成っている部署からは、毎日悲鳴が聞こえてくる有様だ。

そこで、規制緩和を行い、復興作業を迅速化させ、更に余った人材を必要な部署、特に輸出入の窓口となっている税関に人員を振り分け、
各種作業時間を短縮する事を企業側は切望していた。

また、経済特区の設置により局所的に規制を緩和する方策も有効な手段の一つである。

これにより、企業の集約と生産の効率化を行うと同時に、統制経済に傾きつつある現状を打破し、限定的にでも自由経済圏を作り出す事で、
国内に蔓延した閉塞感を取り除く事に役立つと考えていたのだ。

これらの政策を実行すれば、良い事も悪い事も含めて国内に劇的な変化が訪れる事は確実だった。


「私の話は以上です。

 ・・・・・・ご質問が無いようなら、榊殿のお考えをお伺いしたい。
 無論、可能ならばではありますが・・・。」


「いや、一方的に話をするだけと言うのは、健全な話し合いとは言えない。
 私の考えもここで話そう。
 
 規制緩和・・・か、経済の活性化策の常套手段であると同時に、大きな予算を必要とはしないが・・・・・・、
 現時点では企業側の暴走を招きかねない。
 それに企業と軍が結んで、かつてのように軍閥や軍需産業が台頭し、文民統制が失われる可能性もある。」
 
 
榊総理はそういって、通常の不況と異なり戦時下で有る今、政府の統制が崩れるような事態は控えたいという意見を述べた。

だが、会話を交わしていくと、他の政治家や官僚の反対にあう可能性が高く、空転が続く今の国会で実施するのは難しいというのが、
彼の本音のようだった。

俺は、そこで各財閥が政治工作を行われる可能性を榊総理と再確認すると、公務員のリストラにより退職する事になった人が出た場合は、
優秀な者と言う但し書きは付くが、積極的に雇用する事で失業率を抑える用意がある事を告げる。

実は、世界共通規格となっている米国マーキン・ベルカー社製の92式戦術機管制ユニット(日本帝国名)と、
御剣電気が改良を施した98式管制ユニットの特許問題が解決し輸出規制が解かれた事で、今後の日本製戦術機の輸出増加が見込まれており、
国内の戦力が整う予定である3~4年後も現状の生産体制を維持もしくは増産する公算が立っていたのだ。

そこで生まれる関連事業を含めれば、直接的な作業者はおろか管理者や事務員も不足する事が確実視されており、
公務員定数が削減される事は、規制緩和の意味も含めて大歓迎だった。

更に、俺が国内の脅威が取り除かれた後、軍縮の方針を採るなら協力は惜しまないと言うと、
榊総理は初めて大きく表情を崩し、目を見開く事になる。


「規制緩和に関しては、もう少し国内が落ち着いてからと考えていたが・・・、
 時期を早めても良いのかも知れんな。」


そして、一瞬瞳を閉じて考える素振りを見せた榊総理は、内閣の基本方針に逆らわない範囲で、規制緩和に舵を切ると発言する事となる。

会談の時間が終盤に差し掛かるここに来て、漸く互いの意見を近づける事に成功した事の喜ぶ事になった俺だったが、
それと同時に強烈な疑問が沸き起こる事になる。

それは、榊総理が俺に会って何がしたかったのか? という疑問だ。

残念ながら、俺の話した程度の意見なら、各財閥幹部と打ち合わせをすれば出てくる様なものばかりである。

急激に背筋が寒くなる感覚を覚えだした俺を無視して、悠陽と一瞬視線を合わせて軽くうなずき合った榊総理は、
俺の人生の仲で最大級の爆弾を投下してくるのだった。







「御剣君、君を信じて話す。この事は他言無用に願いたい。

 私は・・・、今の国家体制に限界を感じ始めている。
 空転を続ける国会、権益を守る為に全力を注ぐ官僚、戦う事が優先と言い後方の事を顧みない軍人、
 無論全ての人間がそうであるとは言わない。
 だが、国の体制が極めて不安定な状態であるのは紛れも無い事実。
 今の状態を是正しない限り、帝国の存続は危ういのだ。
 
 私の中に腹案はある。
 だが、それを実行する前に一つ聞いてみたくなったのだ。
 私が未来を託すことになる若者達の意見と言うものを・・・・・・。」
 

なんだ、このまるで『マブラヴ』の世界で起こった軍事クーデター後の、政威大将軍復権による体制の変化を暗示させるような発言は・・・、
もしかして聞いた側も言った側も逃れ難い強烈な死亡フラグか! 

背筋に走った悪寒の意味を悟った俺は、一縷の望みを掛けて話を逸らす事を考えるが、悠陽と榊総理の真剣な眼差しと、
会談の始めに悠陽とした約束に縛られた俺には、逃れるという選択肢は残されていなかったのだ。


「・・・・・・ここで俺が話す内容を墓まで持って行く事、
 万が一俺の意見を取り入れる場合でも自らの考えとして世間に話す事、
 以上の二点を約束して下さい。
 
 守っていただけるのであれば、御剣の家訓と己の心情には反しますが、
 考えうる限りの意見を出し、自分の弁には責任を持って協力は致しましょう。」
 

御剣一族が、政治に係わらず大きな権力を求めなかった理由、それは処世術や欲が無く高潔だからではなく、
単純に政治に割く時間が煩わしかったからでは無いか? というのが最近の俺の意見である。

極端な言い方になるが、だから弱き者を守ると言いつつも、御剣は私財を投げ打って救済に走る事もせず、
大きな権力を求め人々を救おうとは考えないのだ。

世に言う戦国時代の間に、天下を得る機会が有ったとされるにも係わらず、専守防衛に徹し挑戦する気配すら見せる事無く、
煌武院家の支配体制を受け入れた経緯からも、その考えを窺い知ることが出来る。

こんな性格で大名が務まったのは、人柄にほれ込んで集まった家臣団が優秀だった事と、浪費を行わなかった為だろう。

過去の御剣一族を於いて置くとしても、俺自身もなぜか自ら政治家となろうと考えた事は無かった。

しかも、積極的に政治家になる者は、本当に真面目な奴か、腹黒い奴だけだという偏見すら持つ有様である。

通常の報酬と仕事内容を考えると、政治家と言う仕事はこれほど割に合わない仕事は無く、自己満足の世界としか思えないのだ。

こんな俺の意見を聞いて如何するんだと考えつつ二人を見つめると、二人はすぐさまその場で約束を守ると宣言していた。

俺は、自分の意見が極端で余り参考には成らないと前置きした上で、意見を訥々と語りだした。


「日本が現状を打破する最良の方法は、国を無理やりにでも一つにできる優秀な指導者が誕生し、
 国民の持つ力を一つにする事だと、私は考えます。
 ですが残念な事に、現時点で日本に人々をまとめるカリスマ性を持ち、かつBETA戦を乗り切れる優秀な人材は・・・・・・居ません。
 
 では如何すればいいか? 
 二つを有する者が居ないのならば、外から持ってくるか・・・二人の人物が役割を分業するしかない。
 だが、外から人を持ってくる事は、日本人の気性や緊急性を有する事である以上不可能。
 二人の人物が役割を分業する体制は、政威大将軍と総理大臣に期待すべきなのでしょうが、現状ではこれも難しいでしょう。
 前者は実力が無いと思われ、後者には信が無いと思われるが故に・・・・・・。
 
 しかし、分業体制は改革さえ行えれば、まだ望みはあります。
 しかもこの改革は、日本人が大好きな前例主義にも沿ったもので、あったものが・・・。」
 

俺は自らの話を一旦区切り、二人の表情を見渡す。

二人とも現状の体制を維持する事は出来ないという俺の考えに異論が無いのか、静かに話を聞く様子を見せていた。

俺は、この続きを言うとかなり面倒くさい事になると重いながらも、重たい口を開く。


「国の体制を大きく変える。その為に・・・・・・大政奉還、いや厳密に言えばその形を取った日本帝国憲法の改定といったところだろうか?
 兎も角、俺は恒常的に政威大将軍を置く現行制度を終わらせる事を提案する。 
 そして、皇帝を精神的宗教的柱とし、実働部隊の長を皇帝が代理を任命、これが平時においてはそれが内閣総理大臣となり、
 緊急時に呑み内閣総理大臣及び議会にも影響力を持つ政威大将軍が任命され、国の指揮を執る体制としたい。
 
 これにより、直接皇帝から任命される総理大臣の権威が高まると同時に、改めてその総理大臣を政威大将軍が指揮下に置く事で、
 元の権勢を取り戻す事が出来るだろう。
 それに、皇帝も今より世間への露出が多くなるはずだ・・・、英国王室ほど積極的でなくとも、その事には十分な価値がある。
 
 また、絶大な権力を取り戻す事になるであろう政威大将軍が、今後も密室の相談で決まるのは避けるべきだろう。
 代案としては、有資格者の中から国民投票で直接選ぶと言うものもある。
 そして、任期についても終身制は避け、4年程度の任期で区切る必要があると考えてはいるが・・・、その辺は調整が必要でしょう。
 
 とりあえず、私の案だと今は強権を振るってでも政威大将軍が国をまとめる方が効率的ではあるが、
 世界大戦やBETA戦規模の異常事態とならない限り、政威大将軍の必要性は無いという事です。」


俺の皇帝や政威大将軍を敬わない態度に怒りを覚えたのか、榊総理は厳しい表情をみせ、悠陽は戸惑いの表情を見せる事になる。

俺は、不敬な行いであるとは感じつつも、努めて冷静に言葉を続ける。


「貴方達と私とでは大きな認識のずれがある。 そこをまずはっきりとさせましょう。
 
 法治国家で最も重視すべきは何なのか? それは法律だろうか?
 法律は憲法に沿う事が決められている以上、憲法が上位にくると考えるのが一般的だ。
 では、憲法が絶対なのか?
 これも違う。憲法は、国民投票によって変えられると、憲法自体に明記されている。
 
 また、立憲君主制の国家において、皇帝や王,政威大将軍の地位は、憲法によって規定されており、
 その事を考えると近代国家では、国民こそが最も力を持った存在と言う事も出来るというのが私の考えだ。
 無論、国民が近視眼的になることが多く、重視し過ぎると問題も起こると言う意見には賛同する・・・が、
 それを理由に国民と国の守るべき優先度を違える事も、国民に同調して近視眼的になる事を指導者は許されはしない。」
 
 
突然国家ビジョンを尋ねられて困るというのが正直な思いだったが、現時点で考え得る限りの構想を話した後、
俺は具体的な手段についても言及した。


「次にそれらを成す手段ですが、たくましくも今の国会は、残った地域で議員定数を満たすように選挙区を割り振っています。
 つまり早期に・・・、今年度末を狙って衆議院の解散に打って出ても、法律上の問題は有りません。
 そこに先ほどの件を上手く会わせ、外圧を押さえ込めれば自然と流れを作り出せるでしょう。
 
 それと、戦時下に解散総選挙を行う事は不謹慎だという意見もありますが、その様な意見を聞いていては、
 本当に何も出来なくなってしいます。
 BETAが動く時期なんて誰も分からない。 明日なのか? それとも一年後なのか?
 分からないなら、大規模戦闘後の今の方が確立は低いし、現時点でも佐渡島ハイヴの戦力のみなら、
 選挙中であっても防衛は可能です。
 
 なら、交渉の道具にするなり、手段として行使するなりして、国の方針をいち早く決めるべきでしょう。」




榊Side

国会の空転と官僚たちの独走を見て、己の思想に反する劇薬の処方により、政威大将軍に権力を集中させて国をまとめる事まで考えていた私にとって、
御剣少佐の話す考えはまさに寝耳に水の考えだった。

明確な工程や手段を示すことが出来ないまま、予算を増やせとしか言わない旧態依然とした軍人達と違い、
具体的な手段を期限を区切って話し、将来の軍縮をすら考慮する目の前の男は、国家に対する思想は別にして信頼できるという点で、好感が持てた。

そして、彼の話は私が思考する間にも止まる事は無かった。


「改革の引き金を自分で引く事は確かに怖い。
 私自身も進んでそのような立場に立ちたいとは思わない。
 ですが、もしその場に居合わせてしまっているのだとしたら、決断は下さなくては成らない。
 
 彼方が信じる道を進んでください。
 願うなら彼方が進もうとしている道が、俺の進む道と衝突しないことを・・・。」


私が視線でその場に留め更に話を誘うも、御剣少佐はもう話す事はないと言って、最後に孫を抱く時まで死ぬ事も隠居する事も許さないという、
冗談の様な台詞を残して席を立った。

そして、御剣少佐は殿下に分かれの挨拶を行うと同時に、30cmほどの殆ど装飾の無い木製らしき棒を渡した・・・、
いやあのこしらえは短刀だろうか。


「悠陽の意見も聞きたかったが、悠陽が国家体制について言及するのは本当に拙いからな・・・。

 それと改めて言うよ、誕生日おめでとう。
 こんな無骨な物を送る様な感性の無い男だが、今はそれでよかったと思うよ。」


そう言った彼は、次にとんでもない言葉を続ける。


「本来はただのお守りのつもりだったが・・・・・・俺が道を誤った時はこれを使え、真耶マヤ達にも渡してある。
 皆が力を合わせれば、俺ごときならしくじる事もないだろう。
 
 尤も・・・そうなる前に隠居する予定だがな。」
 

若者はそう言って立ち去っていった。


「榊総理、己が成すべき事を成しなさい。
 私も・・・、自らが成すべき事を成そうと思います。」


私は別れ際に殿下にかけられた言葉を胸に、尽きかけていた心の炎を再び燃やし、新たな改革に向けて動き出す事になるのだった。







2000年04月

任期満了を待つかに見えた榊総理が、突然の憲法改定に伴う国民投票と議員定数削減を求める法案の提出に動いた。

そしてそれに反発する衆議院解散、その混乱が収まった4月末日、粛々と行われた選挙により、支持率が低下気味だった榊 是親率いる与党が議席数を堅持し、
国民が事実上の信認を与えたことで、国政は一時的に倦怠から抜け出したかのように見えた。

そんな国内が揺れ動く中、瑞鶴の高機動・高火力化計画によって製作された試作機に初めて乗り込むことになった俺は、
試作機の試運転を行い初期不良がない事を確認した後、四脚歩行という特殊な機体で近接格闘戦を行う技術を確立する為、
同系統の機体である鞍馬には無いモーションを繰り返し、動きを最適化させていく事となった。

俺が試作機の試運転直後に近接格闘戦のモーションを行う事ができたのは、計画の当初から瑞鶴・烈震・鞍馬でテストした項目は省略し、
新規導入部分と動作のみを調整する事で、開発期間を圧縮する事になっていたからだった。

鞍馬を駆る衛士たちは、機体の操作感覚を戦車が運転と射撃が分かれている感覚と変わらないと語る事が多く、一般的にもそう説明される事が多い。

しかし、上半身(火器管制)を司る者は騎馬武者に、下半身(機動制御)を司る者は騎馬にでもなった気分になった感覚と、一部の衛士が語る事も有り、
日本帝国軍では一般的に搭乗員が3人となっている戦車とは異なっているという意見も存在している。

馬術を習ったことが有り、僅かながら戦車にも搭乗した経験の有る俺としては、近接格闘戦という状況下で衛士同士の息を合わせる感覚に限定すれば、
後者の意見が荒唐無稽であるとは言えないと感じていた。

様々な意見の有る鞍馬型の操縦特性に関する説明であるが、ここで重要な事は人型とは異なる骨格を持つ機体の姿勢制御と上半身の火器管制を一人で行うには、
従来では考えられなかった異次元レベルの操縦技能が要求されると言うことだ。

生憎、馬術では馬がバランスを取る行為を騎手が行う事を要求される事は無く、戦車はそもそも近接格闘戦を行う事は無いのだ。


「全く・・・、長年使っている機体に愛着が湧く親父たちの気持ちが分からない訳ではないが、
 この機体に乗れば、鞍馬の単座仕様が開発されなかった理由も、
 この計画に俺が乗り気じゃなかった理由も直ぐに分かるだろうに・・・よ!」


俺はそう言うと同時に、跳躍ユニットの逆噴射を使って機体を減速させると、機体を大きく傾け四本の脚が生み出す脚力を使い、機体の進路を急激に変える。

跳躍ユニットが向きを変えロケット推進が再点火する僅かな間を使い、進路変更により正面に捉える事になった障害物の合間に見えるターゲットへ、
87式突撃砲による射撃を加えた鞍馬型瑞鶴(仮)は、次の瞬間には機体を再び切り返し、ビルの合間を抜け次のターゲットに向かって一気に加速、
射撃によるターゲットの破壊をレーダーで確認した直後、すれ違いざまに放った長刀の斬撃により、ターゲットを両断した。

この機動テスト中に俺が行った稲妻の軌跡を連想させる鋭角な進路変更を初めて見た開発者らは、当初馬と言うより鹿の様な動きだと呆れていただけだったのだが、
その機動を実現した動作入力の速度と間接思考制御による複雑な姿勢制御を確認すると、突然頭を抱える者が続出する事となる。

その様子を見た俺は、古の武士の言を引用し、同じ四足なら鹿を思わせる今の機動も鞍馬型で出来ない動きじゃないと、軽く受け流していたのだが、
一般の衛士と比べて技量の高いロンド・ベル隊の衛士たちから、急激な方向転換と火器管制を同時に行う事は困難だと言われた上に、
二足歩行に慣れた人間が脊髄反射としか思えない反応速度で、四脚歩行である機体の姿勢制御を平然と行う非常識を開発主任に指摘され、
改めて機体の操作性に関する問題点と己の異常性に気付かされる事となった。

結局EXAMシステムver.2搭載の鞍馬型瑞鶴(仮)では、俺以外の衛士には扱いが非常に困難で、俺に次いで高い操縦技術を持つ香具夜さんでさえ、
長期の訓練を行わないと機動データの蓄積と単座に最適な兵装の選定作業が出来ないとさじを投げてしまう事になる。

そんな機体だったが、2000年量産開始予定となっていたver.3搭載改良型管制ユニットの先行量産型を搭載すると、開発作業は一気に加速する事となる。

ver.2でテストした時のデータがコンバートされたver.3は、ver.3特有の機能である『コンボ』を使って簡単な入力で複雑な機動を実現したのだ。

機動制御の煩わしさから開放され火器管制に集中できるようになった事で、初めて鞍馬型瑞鶴(仮)をまともに動かせるようになった隊員からは、
久しぶりに笑みがこぼれる事になった。

こうして基礎機動データを固める事に成功した鞍馬型瑞鶴(仮)の開発は、この時点でロンド・ベル隊の手を離れる事になる。

今後は、個々の衛士による癖を機動データの蓄積により平均化して薄め、斯衛軍内にて搭乗予定の衛士たちによる微調整が行われ、量産開始の予定となっていた。

ロンド・ベル隊から他の部隊へ開発が引き継がれた段階での鞍馬型瑞鶴(仮)と鞍馬の差異、
及びver.3搭載改良型管制ユニットの仕様は、下記のようになっている。

名称:
試作戦術歩行攻撃機『鞍馬型瑞鶴(仮)』
装甲:
頭部及び胸部の装甲は瑞鶴の物が使用され、他の部分は烈震の物に置き換えられている。
機動力:
不知火系統で使われた技術を使って改良した烈震用跳躍ユニットを4基搭載。
運動性:
EXAMシステムver.3から実装されたコンボ機能により、複雑な機動を実現できるようになった事で、
近接格闘戦を選択肢に入れられる程度には向上している。
武装:
第一案 GAU-8 Avenger(ガトリング砲)×2(予備弾倉×4),可動兵装担架システム2基及び主腕に搭載可能な武装。
第二案 可動兵装担架システム6基及び主腕に搭載可能な武装。(90mm砲弾仕様の98式支援砲を二門搭載するか、ガトリングシールドを搭載する事を前提。)
稼働時間:
烈震のパーツを多用した結果、軽量化により鞍馬と比べて10%ほど延長を達成。
近接格闘能力:
EXAMシステムver.3搭載と単座への仕様変更により向上した部分以外に特筆すべき点は無い。
管制ユニット:
EXAMシステムver.3搭載型98式管制ユニットを搭載。
グレイゴーストにて、空きスペースに新型演算ユニットを追加搭載する形で動作確認が行われたEXAMシステムver.2.5と比べ、
管制ユニットに搭載していたメイン演算ユニットを御剣電子製の量子コンピュータに置き換えた事で、処理能力,登録可能コンボ数は共に大きく向上している。
ただし、EXAMシステムver.3の肝であるコンボ機能に必要不可欠な、その場に応じた判断を行う処理を最適化するための学習機能を司る、
バイオコンピュータの理論を応用したソフトには調整が加えられ、学習機能は低下している。
その代わり、基地毎に設置される予定の統合仮想情報演習システム『JIVES』の機能も兼ねた大型コンピュータに接続する事で、
最適化を一気に進めるという仕様となった。これは、グレイゴーストをBETAが特別扱いした事に対する処置である。
電子装備(アビオニクス):
烈震と同様、第三世代機に順ずる仕様となっているが、瑞鶴に使われている大型のセンサーマストを採用した事で、
烈震と比べてレーダーの性能は向上している。
コスト:
可能な限り、烈震と鞍馬のパーツを使いコスト削減に努めたが、導入コストは鞍馬の1.3倍という第三世代戦術機である吹雪に迫るコストとなった。
ただし、烈震(スーパーファントム)及び鞍馬のコストダウンと、この機体の生産数が増えれば、もう少しコストは抑えられるという試算もある。

烈震の部品を使う事で鞍馬の性能が向上している中で、斯衛軍専用機を開発する事は、無駄と言ってもいい行為だ。

だが、帝国軍内でもエース用やCPを同行させるために、操縦系を単独で行う事ができる仕様が求められている事も有り、
開発の成果を普及させて行くことが出来れば、今回の開発全てが無駄とはならない筈である。

また、最新装備が斯衛軍でのみ使用される事に、帝国軍から不満が出ないかという事も心配の種である事からも、
早急に鞍馬の単座仕様について普及手順を決める必要に迫られていた。

実は、佐渡島ハイヴの間引き作戦に試作型武御雷及び試作型八咫烏にて参戦した結果、両機が当初の予想を上回る成果を上げた事で、
総合評価で勝った武御雷の斯衛軍への供給開始が6月からと決定したのだが、それに対抗する帝国軍は、
光線級の破壊任務で武御雷を上回る成果を出した八咫烏による特殊部隊創設を打ち出すも、予算の関係上厳しいと言わざるを得ず、
事実上最新鋭機を斯衛軍が独占するという事態が起こっていたのだ。

俺は、斯衛軍の専用機廃止の流れを加速させるという観点からも、今後の日本にとって利益になると考え、
各団体間の意見調整に奔走する事になるのだった。








2001年3月

昨年末に俺も同行する交渉団が渡米し、ボーニング及びノースロック・グラナンの二社との打ち合わせを行った結果、
日本帝国はより好条件を提示したボーニング社と『国際標準型吹雪』に対する技術供与の契約を結ぶ事に成功していた。

交渉の最中の俺は、2000年8月からの3ヶ月間欧州に渡っていた間に、米国でも名前が知られるようになったためなのか、
しきりに戦術機に乗るように進められる事になる。

俺は、二社の技術力を確認する意味もあり、促されるままに複数のテスト機に搭乗し、その機体が持つ歴代のハイスコアを塗り替え、
開発者らと戦術機談義をして友好を深める事になる。

それがどの程度影響したかは不明だが、日本が保有する第三世代機の技術と運用データの提供及び、
御剣電気製EXAMシステム搭載型管制ユニットの情報は、戦術機の運用思想が異なる上に技術先進国である米国にとっても、
衛士の生存性に直結する部分だけに魅力的だったらしく、交渉はいたって順調に推移したのだ。

そして、国会の承認を得て国連軍が主導する先進戦術機技術開発計画に持ち込まれた吹雪の改修計画は、日本政府の後押しと米国政府の黙認により、
受け入れが決定されアラスカ・ユーコン基地にて開発が行われる事となった。

俺は当初の予定通り、吹雪の改修計画に紛れ込み国連軍への出向が決定、現場指揮官という立場で、今月中にアラスカへ行く事となっていた。


「次に日本に戻る時まで、俺は国連太平洋方面軍への働き掛けが難しくなる。
 すまんが、香具夜には先に横浜に行って準備を頼みたい。」


「分かっておる。
 じゃが、これで貸し一つじゃぞ。」
 
 
この日の為に、俺は香具夜さんと中里中尉に国連軍での基礎固めをしてもらい、佐々木さんにロンド・ベル中隊を任せる手筈を整えていた。

アラスカへ同行する事を主張する香具夜さんの説得には骨が折れたが、貸し一つと言う事を条件に出すと、先ほどのように快く引き受けてくれたのだった。


「お転婆な悠陽と頑張りすぎる冥夜の事は、真耶マヤ真那マナに任せる。
 それとついででいいから国内の事も頼む。」
 

近々、史上初と成る憲法改正に伴う国民投票が行われると噂されており、国内の動乱が収まる気配は無い。

だが、誰しもが国の停滞を訴える事は無く、以前より良いほうに動かそうという活気が見えてきたように思われる。

この外にも様々な思いは有るが、俺は自分と自分の居る世界を守る為に必要な道を、今颯爽と歩き出そうとしていた・・・・・・のだが。


「信綱。
 ユーコン基地に赴くお前に副官が付かないという話を聞いて、心配になってな。
 
 悠陽様に願い出て、この度の戦術機開発に斯衛軍から人員を派遣する事になったのだ。」
 
 
真耶マヤ、そんな話は初耳だぞ。」


「今回ユーコン基地へ送られる人員は、戦闘部隊が殆ど含まれていない。
 その為の保険だ。私達も日本も、お前を失う訳には行かないのだ。」
 

「そうじゃな、かの者ならワシも実力を知っておるから安心じゃ。」


真耶マヤに続き、真那マナと香具夜さんまで、護衛を兼務する副官の話を振ってくる。

俺の事を心配してくれるのは嬉しいが、慎重すぎるのではないだろうか。

三人の真意を掴みかね頭を捻る俺に、悠陽から言葉が掛けられる。


真耶マヤさんと真那マナさんが言った事も重要な事ですが、
 ・・・・・・浮気防止も兼ねているのだそうです。
 
 海外では、ハニートラップ?というものが流行っているとの事ですので、信綱様も気を付けて下さいませ。」
 

悠陽の言葉に、男女関係の事に弱みのある俺は、ぐうの音も出す事ができなかった。


「斯衛軍から派遣した副官は、現地の状況を確認するために既に現地入りしています。
 信綱様とも面識が有るようなので、直ぐお分かりになられるでしょう。」
  
  ・
  ・
  ・

世界はここを機転に、大きく変動する。

女性達の殺気混じりの笑顔を背に受けるという間抜けな状況ながら、俺は大きな希望を持ち、
明日に向けて今度こそ、大きく足を踏み出したのだった。




第一部完




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コメント

皆様こんばんは、あぁ春が一番です。
もっと早く更新する予定だったのですが、様々な事情により己の体力と相談しながら書いていたら、
こんなにも時間をかける結果となってしまいました。
毎度の事ながら、申し訳ありません。

今回は、政治?的な話を中心に盛り込んで見ました。
かなり戦闘とは離れた話ばかりとなりましたが、帝国の実情を知ってもらう為には外せない内容でした。
そして、推敲のつもりが文章が増えて、txtファイルで42kb・・・過去最大、全然サクサク進んでませんね。orz

後、大空寺財閥とか名前を出しましたが、私の知らない作品中での原作設定ですので、
原作と合っているかは不明です。
これ以上この件を膨らます為には、更なる調査が必要になってくると思われます。
欧州に渡る時間も有りましたので、TE編と合わせてその内外伝がかけるかも知れません。

最後の方は、第一部のプロローグとなります。
こういう話は、如何しても書くのに神経を使いますが、どんなものでしょう。
ご感想をお待ちしております。

第一部はこれで終了となります。
次回は、少し充電期間とゲームをする時間を頂いて、外伝でSSの書き方を検証した後に、
第一部改定と第二部(原作時間)の投稿を行いたいと考えていました。
しかし、残念な事にこの三ヶ月ほど、在宅時間より在社時間の方が長い週が続き、
その間食料品の購入以外に購入した物は片手で数えられるという状況となっています。
したがって今年度中は、感想板への返信以外のアクションを起こす事は難しいかもしれません。
申し訳ありませんが、ご理解頂けたら幸いです。

ただ、二部を完結させる事を諦めたわけではありません。
まだまだ未熟ではありますが、第二部からの正規の板への書き込みも検討中です。
第二部の開始が何時頃になるか検討も付きませんが、それまで忘れずにいて頂ければ幸いです。



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