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No.16427の一覧
[0] 【習作】 マブラヴ オルタネイティヴ~我は御剣なり~(現実→オリジナル主人公・チート気味)[あぁ春が一番](2012/08/13 20:03)
[1] 本作歴史年表[あぁ春が一番](2011/07/11 21:36)
[2] 戦術機設定集(簡易)[あぁ春が一番](2011/08/15 13:48)
[3] 兵装・その他の装備設定集(簡易)[あぁ春が一番](2011/08/15 13:47)
[5] プロローグ[あぁ春が一番](2010/03/08 18:31)
[6] 第01話[あぁ春が一番](2010/06/06 12:15)
[7] 第02話[あぁ春が一番](2010/06/06 12:20)
[8] 第03話[あぁ春が一番](2010/07/10 09:03)
[9] 第04話[あぁ春が一番](2010/11/05 00:07)
[10] 第05話[あぁ春が一番](2010/11/05 00:24)
[11] 第06話[あぁ春が一番](2010/11/05 00:35)
[12] 第07話[あぁ春が一番](2010/11/05 00:45)
[13] 第08話[あぁ春が一番](2010/11/06 23:42)
[14] 第09話[あぁ春が一番](2011/01/27 22:47)
[15] 第10話[あぁ春が一番](2011/04/20 00:59)
[16] 第11話[あぁ春が一番](2011/05/03 18:17)
[17] 第12話[あぁ春が一番](2010/11/07 22:29)
[18] 第13話[あぁ春が一番](2010/11/07 23:04)
[19] 第14話[あぁ春が一番](2011/05/03 18:19)
[20] 第15話[あぁ春が一番](2011/05/15 23:49)
[21] 第16話[あぁ春が一番](2011/05/03 18:22)
[22] 第17話[あぁ春が一番](2011/05/03 18:23)
[23] 第18話[あぁ春が一番](2011/05/03 18:24)
[24] 第19話[あぁ春が一番](2011/05/03 18:29)
[25] 第20話[あぁ春が一番](2010/11/10 00:41)
[26] 第21話[あぁ春が一番](2010/11/11 00:05)
[27] 第22話[あぁ春が一番](2011/05/15 23:50)
[28] 第23話[あぁ春が一番](2010/11/11 23:29)
[29] 第24話[あぁ春が一番](2010/12/12 15:48)
[30] 第25話[あぁ春が一番](2011/05/15 23:51)
[31] 第26話[あぁ春が一番](2010/12/12 15:48)
[32] 第27話[あぁ春が一番](2011/05/15 23:51)
[33] 第28話[あぁ春が一番](2011/05/15 23:52)
[34] 第29話[あぁ春が一番](2011/05/15 23:53)
[35] 第30話[あぁ春が一番](2011/05/15 23:53)
[36] 第31話[あぁ春が一番](2011/05/15 01:42)
[37] 第32話[あぁ春が一番](2011/05/15 23:54)
[38] 第33話[あぁ春が一番](2011/05/25 00:04)
[39] 第34話[あぁ春が一番](2011/05/25 00:05)
[40] 第35話[あぁ春が一番](2011/05/25 00:05)
[41] 第36話[あぁ春が一番](2011/07/11 21:25)
[42] 第37話[あぁ春が一番](2011/08/15 13:46)
[43] 第38話[あぁ春が一番](2011/10/24 00:46)
[44] 外伝 TE編・上[あぁ春が一番](2012/07/23 11:57)
[45] 外伝 TE編・中[あぁ春が一番](2012/08/13 20:03)
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[16427] 第37話
Name: あぁ春が一番◆17cd7d65 ID:b29373f4 前を表示する / 次を表示する
Date: 2011/08/15 13:46


1999年9月

俺が国連軍へ移籍した場合に生じる帝国軍内への悪影響を懸念する巌谷中佐が俺に示した案、
それは斯衛軍主導の開発計画に携わる事で帝国への貢献をアピールした後、国連軍と帝国軍の共同プロジェクトへ参加、
国連軍へ移籍という3ステップを踏むというものだった。

その場は検討する時間が無かった事もあり、企画書の内容を吟味して方針を決めると返すに留め、俺はその話を持ち帰る事にした。

企画書を読むと、どちらの案件も前段階は有意義な内容・・・だったのだが、俺はその計画案を読み進めて行くにつれて、
書類を預かった事すら後悔する事になる。

第一ステップである『瑞鶴の高機動・高火力化の検証』とは、瑞鶴を鞍馬型(四脚歩行型)に改修する事で機体の延命を図るというもので、
俺が把握している限りでこの案件は、

①烈震の登場によりほぼ全ての面において劣る事になった瑞鶴を、これ以上現行のまま長期運用する事は難しいと考えた斯衛軍が、
  城内省に瑞鶴の大幅な改修か新型機の早期導入を促す動きを見せている。
②それ自体で完結した作戦遂行の力を持つという斯衛軍の運用思想上、鞍馬のような高機動・高火力戦術機を一定数以上保有すべきという意見が、
  斯衛軍内で高まっている。
③斯衛軍は本土防衛戦・明星作戦と続いた戦力の喪失に喘ぐ帝国軍から、早期に正面戦力を整える案として、
  不知火弐型の配備優先権を斯衛軍へ譲渡する事と予算を引き換えに、衛士付で不知火・壱型乙 一個連隊の譲渡を打診されている。
  不知火・壱型乙は、調達・運用コストにおいてほぼ等しい性能を持つ不知火弐型に劣る事から、
  斯衛軍としては不知火弐型への切り替えを行いたいとしているが、不知火弐型の戦力化までに低下する戦力を懸念する意見がある。
  ただし、城内省は現行の調達計画を継続したいとしており、その点で斯衛軍とは会見が異なっている。
④帝国軍から配備優先権を獲得し不知火弐型の制式採用を決めた場合、1999年度は20機程度だがそれ以降は年90機程度の調達が可能で、
  2003年には移行が完了する計画が有力であるが、更に帝国軍との交渉を有利に進める為の手札としても、瑞鶴の改修計画が支持を受けている。
  現行の不知火・壱型乙の場合では、年40機の生産で2004年に完全移行する計画だが、長期運用を考えると維持コストが問題となっていた。

といった斯衛軍の内部事情が関係している事が分かっている。

もちろん、このような動きに対しての反対意見が無い訳ではないが、城内省の予算配分に意見を挟める斯衛軍上層部は、
瑞鶴の高機動・高火力化計画に乗り気のようである。

これだけなら、量産・整備・補給の観点からこれ以上戦術機の機種を増やしたくない俺としても、通常の鞍馬よりも烈震の部品割合を上げ、
装甲の一部と頭部に瑞鶴の物を使った機体を作る位なら、開発期間も量産コストも掛からないので、良いかとも考えた。

だが、機体の仕様に単座,高い近接格闘能力という部分を書かれている事が分かると、状況は一変する。

鞍馬が現行で複座のみとなっているのは、四脚歩行型の機体では間接思考制御による姿勢制御の比率を上げられなかった事で煩雑になった操作を、
二人に分散する事で衛士にかかる負荷を軽減する為である。

そして、近接格闘能力の向上については、直感的に動ける分単座の方が有利ではあるが、四脚歩行型の機体で近接格闘戦に有用な機動を行おうとすると、
殺人的に複雑な操作が必要となってしまうのだ。

したがって、これらの用件を満たすには機体の操作を大幅に簡略化する事が必要不可欠で、
それこそ『コンボ』機能を有するEXAMシステムver.3でも搭載しない限り、無理な注文だったのだ。

しかも、瑞鶴の烈震部品による近代化,鞍馬型(四脚歩行型)への改修,EXAMシステムver.3の搭載,これらが合わさるとなると、
一大プロジェクトが立ち上げられてもおかしくないのだが、それに対して与えられた予算・人員・期間は、余りにも少なかった。

更に、第二ステップである国産の低コスト第三世代機である吹雪を世界標準機とする事を目指すという、
『吹雪の世界標準機化の可能性(プロミネンス計画第二弾)』の案件も、

①帝国軍としては、総合的なコストパフォーマンスで勝る第三世代機の保有率を上げたい。
 したがって、低コスト第三世代機吹雪の調達コストを更に圧縮する事が望まれている。
②日本帝国政府としては、撃震・烈震・鞍馬に続く、外貨獲得手段として前向きに検討中である。
③F-35の開発が遅れている中で、吹雪が低コスト第三世代機としてのシェアの確保ができれば、
  日本帝国の国際的発言力が大きく高まる事が予想される。
④吹雪の供給とあわせて、海外で運用されている戦術機等の対BETA兵器と戦術論を取り込む事で、
  日本帝国の戦力の底上げを図る。
⑤海外へ避難した国民の失業対策としても、この計画が成功すれば有効である。

という素晴らしいお題目が付いており、俺も吹雪の輸出を過去に検討した事があった事から強い期待を寄せていた計画ではあった。

俺は、不知火のフレームを採用した事によって生じている積載量(ペイロード)の余裕を使って、海外向けに吹雪を再調整すれば、
短期間で達成できるのではないかと、安易に考えていたのだが・・・・・・。

実は吹雪改の採用が見送られた事で、主力戦術機改良の目処が立たなくなった海軍の要求で、ちぐはぐな仕様の計画となっている事に、
書類の後半部分で気が付く事になる。

海軍は、性能を求めすぎた結果吹雪改の導入コストが上がりすぎ、陸軍との折衝が上手く行かなかった事をもう忘れてしまったのだろうか?

しかも、技術流出の懸念、F-35の開発を主導する米国との関係悪化の可能性、吹雪の仕様が海外で受け入れられるのか、
輸出は撃震(ファントム)・烈震・鞍馬だけで十分、等という意見も根強く、政府と議会内に存在する親米国派と、
帝国軍内の国粋主義の連中を説得しない事には、立ち消えになる可能性もある計画だったのだ。

このような複雑な案件を、『武御雷』と『八咫烏』のテストも行いながら1年程度の期間で達成するなど、普通なら考えもしないような内容である。

一瞬、国連に移籍させないための罠なのではないかとも考えたが、政治的・軍内部の派閥的にも中立な人物が係わるのが望ましいという意見がある事、
『マブラヴ』の世界で軍部によるクーデターが起こったという記憶が脳裏を掠めた事もあり、完全に無視する訳にもいかなかった。

そして、俺と御剣家は中道勢力の最大派閥であると内外で認識されており、俺が係わる事で不要な波風を立たなく出来る事も・・・・・・、
残念ながら事実ではある。

俺は久しぶりに実家で再会した斯衛軍大佐の親父と拳を交えながらの話し合いをした上、巌谷中佐を通して技術廠に最大限のサポートを要求、
斯衛軍と帝国軍から譲歩と協力の約定を取付け、企業側に余力がある事が確認できた事で、一連の案件を受け入れる事とした。

これにより、俺の国連軍への移籍は一年半後の2001年初頭になる事が決まったのだった。








当初の予定よりも長く帝国に縛られる事にはなったが、若干の軌道修正を行い今後の工程を定めた俺は、戦術機開発の合間を縫って、
国力の充実と戦力の充実に時間を割くと同時に、間接的に国連軍への支援も行う事となった。

国連軍への支援過程で、何回か香月博士からの直接の呼び出しがあったが、そこで話し合われたのは一部の技術を都合し合う事と、
不知火改改修のために送った人材を常駐させる事を決めた位で、俺の国連軍への移籍は時期が来たらと言って断っている。

今頃になって、俺に国連軍入隊の誘いが来た事に対していくつか疑問もあるが、以前のA-01連隊発足時に俺に声が掛からなかったのは、
おそらく御剣家に配慮した結果だろう。

その証拠に、香月博士が大きな力を握り、帝国内の協力者を味方に付けたという噂が立ち始めた近頃は、
国連軍による帝国要人の子弟に対する勧誘活動が活発になってきている。

それを思えば、今回俺の国連軍移籍を延期したいという要望が受け入れられたのも、俺を衛士として確保する事以上に、
帝国を通して俺が提供できるものを香月博士が重要視したに、過ぎないのかもしれない。

香月博士は、帝国の不知火改提供を受けた後、不知火弐型や帝国軍制式採用装備である98式管制ユニット(EXAMシステムver.2標準搭載)の提供を求めている様だが、
この辺は様々な思惑が錯綜し流動的な問題となっているので、どの様な決定がなされるかは不明である。

最新型である不知火弐型の提供は、政治家が人気商売である以上、今の国連軍への不信感がぬぐえない限り、堂々と行うのは難しく、
以前国連軍へ提供した不知火の内、残存する全機を不知火改にする事が、今の政府に出せる最大限の協力だったのだ。

また、98式管制ユニットに関しても、世界共通規格となっている米国マーキン・ベルカー社製の92式戦術機管制ユニット(日本帝国名)との特許問題がある為、
今直ぐ帝国外へ持ち出される可能性のある国連軍への提供は、難しいと言わざるを得なかった。

その他の国連軍の強化策は、通常兵器を開発して帝国経由で提供されるのを待つという程度しか考え付かなかった。

次に国内の戦力増強に関してだが、戦術機を含む正面戦力だけを考えると、2001年末までにBETAの本土侵攻前まで戻すという計画の下、
帝国は活発な活動を行っている。

この急激な戦力回復策を戦術機の生産計画で説明すると、1998年に帝国軍が最も多く調達した戦術機が吹雪だったのに対して、
1999・2000年の最多調達機種は烈震となっており、量産性と調達コストを優先した事が如実にあらわになっている。

企業側も、第三世代機群の生産性向上に取り組んではいるが、帝国を満足させるには至らなかったのだ。

戦術機の優先調達機種に吹雪を選択出来ないほど、帝国が被害を受ける事を予想できていなかった自分に腹が立ったが、
1.5世代機相当の撃震でなく2.5世代機の烈震が量産機に選ばれた事は、うれしい誤算だであり、
烈震開発計画の切掛けを作った光菱に、思わず感謝の手紙を出してしまうほど、俺にとっては幸運と言える出来事だった。

尤も、第3世代機と2.5世代機の間には、性能において明確な差がある事は分かっているので、
BETAから大きな侵攻が無ければ、2001年には吹雪が最多調達機種に返り咲き、烈震の国内配備数は順次縮小させていく計画とされている。

このように、帝国は現行兵器の改良型を量産する事で正面戦力を揃え、後に新型兵器を導入していこうと考えているのだ。

そして俺は、この新兵器投入が一巡した期間を利用して、各種兵器の生産性を上げる為に、
機種の統合と共用化を進める事を提案し、各所に働き掛けを行っていた。

何時もの如く戦術機を例に挙げて説明すると、帝国が現時点で運用している機体は、以下のような5系統12機種になっている。

帝国軍
F-4J/77式戦術歩行戦闘機『撃震』
F/A-4J-E/98式戦術歩行攻撃機『鞍馬』
F-4JF/98式戦術歩行戦闘機『烈震』
TSF-TYPE92-B/92式戦術歩行戦闘機『不知火』
TSF-TYPE92-C/92式戦術歩行戦闘機『不知火改』
TSF-TYPE92-2B/92式戦術歩行戦闘機『不知火弐型』
TSF-TYPE93-A/93式戦術歩行高等練習機『吹雪・高等練習仕様』
TSF-TYPE93-B/93式戦術歩行戦闘機『吹雪』
TSF-TYPE93-N/93式戦術歩行戦闘機『吹雪・海軍仕様』
A-6J/81式強襲歩行攻撃機『海神(わだつみ)』
斯衛軍
F-4J改/82式戦術歩行戦闘機『瑞鶴』
TSF-TYPE92-1B/92式戦術歩行戦闘機『不知火壱型乙』

更に、これ以外にも制式採用の決定はされていないが、4機種の開発が進められているので、
下手をすれば将来的に16機種を運用する事になる可能性がある。

そこで、機種の統廃合と部品の共用化なのだが、一番手を付けやすいのは第一世代機のF-4系統である。

撃震に関しては2000年中に全て烈震に置き換えられ、烈震に関しても正面戦力が整った後は、生産を吹雪へシフトしていく計画であるので、
俺が態々出しゃばる必要は無い。

ここで問題となるのは、斯衛軍が運用している瑞鶴で、烈震の登場によってその意味を失った事を考えると、早期の機種転換か改修が望ましかった。

今更ながら、様々なしがらみに囚われた末の瑞鶴の高機動・高火力計画だが、瑞鶴の退役を考えるとベストでは無いが、ベターな選択だったのかもしれない。

この計画で作られる戦術機の仕様を考えると、斯衛軍での最大運用数は2個大隊程度になると親父が言っていたが、
帝国軍内にも鞍馬の単座仕様を望む声もあるので、何処まで生産数が伸びるかは未知数である。

俺に出来た事は、可能な限り鞍馬・烈震の部品を使用する事で瑞鶴の部品を減らし、生産コストを圧縮する事くらいだった。

ちなみに、鞍馬型瑞鶴(仮)の試作機の開発状況だが、撃震を鞍馬や烈震に改修した経験がある御剣と光菱の技術者タッグを組んで順調に進めており、
EXAMシステムver.3に関しても、『武御雷』と『八咫烏』にて試験運用する予定だったver.3搭載型管制ユニットの生産数を調整し、
鞍馬型瑞鶴(仮)に搭載する事は可能となっているので、計画に遅れはなさそうである。

次に問題なのは、機種が増えてきた不知火系統についてだ。

生産性を考えるなら不知火弐型一本に絞りたい所だが、現在配備している不知火の事を考えると、不知火を順次不知火改へと改修し、
不知火の生産を必要最低限の補修部品に絞り込む事がコスト的に、無難な選択肢だと思われる。

その点は不知火壱型乙も不知火と同様で、この間一個連隊分の機体とその約1/3の衛士が帝国軍への提供が正式に決まり、
帝国軍内のエース部隊へと機体が引き渡され始めたので、不知火の改修が始まれば同様の流れになるはずである。

そして、肝心の不知火弐型は、帝国軍の次期主力戦術機として制式採用された上に、斯衛軍と城内省が新型戦術機採用に帝国軍が協力する事を条件に、
不知火壱型乙と瑞鶴の代替として不知火弐型を選択した事で、飛躍的に生産数が伸びる事が決定している。

これら流れが最後まで止まらずに進めば、5系統9機種まで統合されるので、新型戦術機を採用する十分な余力が生まれる筈だが、
予算や既得権益の問題がある為、確実に実行できるとは言えないのが実情である。

後は、いい加減古くなってきた海神の大規模改修も行いたい所であるが、残念ながら今の所予算が付けられる様子は無かったのだった。








兵器の統廃合の次に帝国軍の戦力増強に欠かせないと考えていたのが、第三世代機とEXAMシステムver.3の普及促進である。

どちらも対BETA戦の要である戦術機の戦力を強化する手段ではあるが、俺が重要視しているのは戦術機部隊を維持する上で度々問題になる衛士の確保という点を、
衛士の生存性を高めるという観点で是正しようとしている事だった。

戦術機自体の強化,衛士育成プログラムの改善,その他装備の改良といった部分からも影響を受けてはいるが、
両者が合わさった時、統計学的に見ても明らかに衛士の帰還率が上昇している事から、
問題解決の有効な手段の一つである事は帝国軍及び政府の共通認識となっていた。

そこで両者の状況について説明すると、EXAMシステムについては、2000年中にver.3搭載の改良型管制ユニットを量産するという計画が進んでおり、
第三世代機普及についても、2000年には100機以上の不知火弐型と500機前後の吹雪の生産が確実となっているので、一定の目標を達成していると言えた。

ただし、吹雪に関しては、帝国軍の戦力回復と第三世代機への移行が完了するまで量産を続けられる予定であるが、
最終的には可能な限り不知火弐型へシフトする事も帝国軍内部で決められていた為、
この事が足かせとなり吹雪に関する大幅なアップデートが妨げられる事態となっていた。

こうした帝国軍内の動きに対して御剣重工は、政府の懐事情を考えると今後も相当数の吹雪が帝国軍内で運用され可能性が高い事、
不知火弐型からでも利益を確保できる事、国内の調達数削減後から輸出許可を引き出す公算がある事から、大々的に反対はしていない。

だが、アップデートの計画が萎縮してしまった事に対しては、調達コストの上昇を嫌悪して、
吹雪に不知火弐型のパーツを大量に使って強化する海軍案の吹雪改を量産機とする事に、
陸軍に歩調を合わせて反対の立場を取っていた俺も危機感を覚えていた。

そこで対策として、EXAMシステムver.3の搭載に併せて前腕外側部の飛び出し式カーボンブレードの強化や、
超音波振動ナイフ及び大型近接戦短刀を搭載出来るようにする等、安価ながら近接格闘能力が強化できるプランを提案しようと考えていたのだが、
俺が動き出す前に大きな流れを作り出したグループが現れる事になる。

不知火弐型を次期主力量産機とする動きに対して、吹雪の更なる量産体勢を確立し、早期に撃震・烈震を第3世代機に置き換える事を望む陸軍内のグループと、
改めて低コストで調達可能な吹雪の強化型を望む、諸所の事情により陸軍と比べ戦術機用の予算が不足している海軍が結び付き、
烈震の開発経緯を参考にして、輸出の為の仕様変更を名目に予算獲得へ動いたのだ。

それが吹雪の世界標準機化計画へとつながる訳だが、先の大戦以後は是正されたとは言え、一部の陸軍(現本土防衛軍)と海軍の連携では、
吹雪改(仮)の開発時同様に、一体感に欠けていると言わざるを得なかった。

それは、海軍が改修後の吹雪が積載量(ペイロード)を強化される事を見越し、その拡張性を生かした強化計画も示す必要があると主張している事からも明らかである。

また、本土防衛戦から明星作戦までを乗り切った帝国製戦術機は、その力を目の当たりにした海外から輸出要請が来ており、
欧州には鞍馬がF/A-4J-E『クラマ』として試験投入され、アジアと中東では烈震(EXAMシステムver.1搭載型)がF-4F『スーパーファントム』として、
鞍馬と併せて導入が開始された事で、各地域で日本製戦術機の人気が出てきているのだが、
この動きに気を良くした一部の政治家や官僚が勝手に騒ぎ立てくれたお蔭で、この計画が政治的に注目された事も問題の一つだった。

実に動き難くなってしまった計画であったが、結局俺は海軍と陸軍(本土防衛軍)の間を行き来し、意見の集約を図ると共に、
富嶽重工,光菱重工,河崎重工,御剣重工の四社共同出資で設立した輸出会社(JFE社)を通して、
海外で通用する仕様の再調査を行うという基礎固めから行う事となった。

この時点で、吹雪世界標準仕様のライバルと考えられていた機体は、以下の様な低コスト第三世代機や2.5世代機と呼ばれる戦術機群である。

①米,ボーニング社(マクダエル・ドグラム社を吸収合併)製 F-18E/F『スーパーホーネット』
②米,ボーニング社製                        F-15E『ストライクイーグル』
③米,ボーニング社製                        F-15・ACTV『アクティヴ・イーグル』
④米,ロックウィード・マーディン社製               FX-35『ライトニングⅡ 』
⑤ソ連,スフォーニ設計局製                    Su-37『チェルミナートル』
⑥ソ連,ミコヤム・グルビッチ設計局製              MiG-29OVT『ファルクラム』(後のMiG-35)
⑦スウェーデン王国,サーブ社製                 JAS-39『グリペン』

その他に各国で第三世代機が開発されているが、そのいずれも生産コストが高い高性能機か、高くなる予定の第三世代機なので、
直接のライバルになる可能性は低いと考えられている。

そして、上記のうちF-15・ACTV『アクティヴ・イーグル』及びMiG-29OVT『ファルクラム』は、吹雪のテストが行われる予定のユーコン基地で、
開発が行われているという情報があり、不確定情報ながらSu-37『チェルミナートル』の強化型も話題に上がっている。

これらの中で俺が注目しているのは、欧州連合,アフリカ連合が参加しロックウィード・マーディン社(米国)を中心に、
国際共同開発が進められている最新鋭第3世代戦術機 FX-35『ライトニングⅡ 』と、
米 ノースロック(現ノースロック・グラナン)社製のF-5フリーダムファイター/タイガーⅡを発展改良し開発された多任務第3世代戦術機 JAS-39『グリペン』である。

これらの戦術機に対して導入時期が古い吹雪は、ステルス性を有し近接格闘戦を考慮に入れているとされているライトニングⅡにカタログスペックで負け、
総合評価で近い性能とされるグリペンにコストで劣っているとされていたが、EXAMシステム搭載の優位性を活かしたドッグファイトでの性能評価と、
その信頼性において優位に立っているとされている。

更に、他国にEXAMシステムの配備が始まった場合でも、システムのバージョンが上がるほど機動データの蓄積の点で吹雪が有利になり、
ver.2までなら機動特性に合わせた調整を既に終えている事から、細かな改修を怠らなければ早々に優位性が失われる様なものではなかった。

ちなみにこの試算は、共同開発による研究開発コスト削減効果により、グリペンよりもライトニングⅡが低コスト量産機になるとしていた過去の情報では無く、
肝心の共同開発が仇となり仕様の決定に時間が掛かった結果、研究開発費が高騰し価格が上昇傾向にあるという情報を基にしている。

ただし、ライトニングⅡの配備がこれ以上先延ばしになった場合、低コストと汎用性の高さを武器にしたF-18E/Fや、
数多く居るイーグルユーザーへのF-15E供給開始の方が、手ごわいライバルとなる可能性もあった。

JFE社の調査結果によると吹雪世界標準仕様(仮)は、現地改修が容易となる様に拡張性を確保する事で各国が求める仕様の違いに対応し、
強化要請には不知火弐型のオプションパーツを流用する事で対応、可能な限り人件費の低い海外で部品の生産を行う事で、
量産効果と合わせて1-2割のコストダウンを行い、EXAMシステム搭載機という点で一気に攻勢に出る方法が有効と判断されていた。

また、現地改修が低レベルであった場合に限り、吹雪のアップデートに合わせて純正部品による改良が可能である事から、
長期運用にも対応可能としている。

JFE社は、低コストで基礎が優秀であれば、後は現地の好みに合わせて改良出来る拡張性を確保するだけで、素早く普及した過去の事例を持ち出し、
吹雪なら大きな仕様変更無しでも、グリペンを押し退けFX-35の量産開始前までに、第三世代機としてある程度のシェアを確保できると結論付けたのだった。

そして、俺はこれらの調査と並行する形で、ライトニングⅡ を主導するアメリカに対して、明確に敵対する事を避ける為の裏技を考え、
その実現性についても見当を行わせていた。

その裏技とは、米国企業の吹雪世界標準機化計画への参画である。

この事が実現すれば、米国議会での工作もやり易くなると同時に、吹雪及び不知火弐型のオプションパーツ開発に弾みが付くと考えていたのだ。

技術提携は、協力会社に直接技術が渡ると同時に、間接的に他の企業及び国へ技術が流れる危険性はあるが、
吹雪を構成する技術には枯れた技術とされているものが多くある上、コア部分や管制ユニット(EXAMシステム)以外の部品については、
ライセンス生産も視野に入れている事から問題は少ないはずである。

取引相手としては、ボーニング社,ロックウィード・マーディン社,ノースロック・グラナン社の三社が考えられたのだが、
ロックウィード・マーディン社は、FX-35『ライトニングⅡ』を開発中の上に、ラプターの制式採用でこちらの相手をする意味は無かったため、
現時点で計画を打診しているのは残りの二社となっている。

協力を依頼している二社のうち、ボーニング社は、F-18E/F『スーパーホーネット』があり、F-15・ACTV『 アクティヴ・イーグル』を開発中ではあるが、
次期量産戦術機を軍需専門メーカーとも言えるロックウィード・マーディン社に奪われ、吸収合併した企業の戦術機を改良する事で、
戦術機部門を維持している状態となっており、戦術機部門は好調な航空宇宙部門等の他部門から疎まれ始めているようである。

また、ノースロック・グラナン社は、F-14Ex『スーパートムキャット』という機体が辛うじてプロミネンス計画に残ってはいるが、
その他に本格生産機や開発機が不足している等、強大な力を持つ船舶部門と比べて、戦術機部門の勢いが無くなっており、
ソ連への技術提供という事も考えると、戦術機開発能力の維持に必死になっている事が分かる。

その後、JFE社の調査結果と不知火弐型のオプションパーツ開発成果を盾に、海軍と粘り強い交渉を続けた俺は、
根強い反対意見を持つ国粋主義者を協力して黙らす事を条件に、オプションパーツ搭載と小規模改修だけで、
標準機を海軍の仕様に合わせるという計画への合意を取り付ける事に成功する。

俺は返す刀で直ぐに陸軍の説得を開始、帝国陸軍参謀本部付き中佐と激論を交わす場面もあったが、
肯定的な海軍幹部の意見や巌谷中佐の技術廠としての見解,不知火弐型の量産が軌道に乗りつつあるという事実,
順調なEXAMシステムver.3と新型戦術機の開発状況を全面に押し出し、何とか計画の承認を勝ち取ったのだ。

これにより、吹雪世界標準機化計画(プロミネンス計画第二弾:XFS計画)は、紆余曲折があったものの御剣重工がメインとなり、
各社がサポートに回る体制で取り組む事が決まる事になる。

これは、吹雪の開発元である国内最大の戦術機メーカーとなっていた御剣重工単独ですら、現時点で開発を行う余裕が無かった為の措置とされたが、
単独で量産機開発を行う事を警戒した他メーカーと国粋主義者の矛先を鈍らす事も大きな目的だった。

吹雪世界標準仕様(仮)販売の初期ターゲットは、ローコスト第3世代機の導入を検討していると噂のある欧州連合とされ、
アジアや中東・アフリカ諸国に対しては、烈震というステップを踏む事で順次吹雪へとシフトさせて行く事とされた。

ただし、個人的な意見としては、生産工場や訓練及び運用情報を合わせたパッケージごとライセンス輸出するくらいの積極性がないと、
本格導入はまだ先になる可能性が高いと考えていたのだが・・・・・・。

後日、御剣重工が各社に協力を打診し不知火開発に係わった技術者を集め、プロジェクトチームを立ち上げを確認した帝国政府は、
計画の概要と他国企業が参画する事を、機密に触れない範囲で徐々に流し、国内外に計画を受け入れる下地を作り出すと、
米国議会でのロビー活動、帝国と関係が深い大東亜連合への先行量産機一個大隊の無償供与、
欧州連合へは過去の技術支援,制御OSの教導及び先行量産機の一部を無償供与する事を打診する等、様々な方面への呼びかけを行い、
各国のFX-35『ライトニングⅡ』陣営の切り崩しを図る事になるのだった。








10月

瑞鶴の高機動・高火力計画及び吹雪世界標準機化計画は、ただ今全力で試作機を開発中の為、
俺は今の所『武御雷』と『八咫烏』のテストパイロットとして全力を注いでいた。

現時点では、虱潰しに初期トラブルを潰している段階だが、俺の仕事がそれだけで終わる訳も無く、
同じくテストパイロットして活動しているロンド・ベル(第13独立機甲試験中隊)隊の隊員を集めて、
合同訓練を行ったり教導隊の真似事に借り出されたりと大忙しである。

更に、他の開発案件にも顔を出さざるを得ない状況もあり、この間は海上から戦術機を揚陸させる手段として提案していたサーフボード(別名:ゲタ)について、
戦術機がサーフィンなんて出来るはずが無いと言う者を説得する為に、デモンストレーションとデータ収集を兼ねて、実証試験を行う事までやらされてしまった。

こうして忙しい日々を送る俺が、辛うじて家に帰る時間を作れるのは、帝国軍技術廠から派遣された秘書官たちのお陰である。

今日も、武御雷の試験運転中に口頭で話した感想を、テープレコーダーを聞いて報告書にまとめる作業を任せてしまった。

俺は罪悪感に囚われながら普段通り家に・・・・・・は帰らず、香具夜さんを連れて帝都城にて定期的にひっそりと行われている食事会に出席していた。

始めは、たびたび悠陽に会う事に複雑な思いがあった俺だったが、護衛の真耶マヤ真那マナ,同行する事が多い香具夜さんとで、
今は開き直って好きな事を話すようになっていた。

この場での話題は、もっぱら日常生活を題材としたものだったので、仕事に明け暮れる俺が楽しい話題を多く提供できる筈も無く、
かなりの割合で彼女達の話を聞く方に回る事が多かった。

しかし、極まれに政治的な話題がでる事もあり、この間遠まわしに政威大将軍として独自に行動できない事や経験不足を嘆いている悠陽を見た俺が、
政治・経済活動を学ぶ為には、資産の一部を自分で運用する事が有効であると提案するという珍しい話題に発展した事があった。

五摂家や武家は、仕事に就かない限り国から給与が支払われる事はないので、インサイダー取引には気を付ける必要があるが政威大将軍であろうとも、
個人で資産運用が出来ない訳ではない。

その時、幼少の頃より御剣財閥の運営に参加していた俺の個人資産がどう運用されているかという事も話題になり、
時間があれば研究開発予算確保の為に投資や投機を繰り返しているが、今の所大損をする事は一度も無く、生活費は軍人としての給料で賄えているので、
資産に余裕がある事を話した。

そして、この間は予定より資金が集まったので、長期運用資金と併せて個人資産の一割を国債の追加購入に回したと話すと、
俺以外の4人からなんとも言えない視線を受ける事になった。

俺は4人から送られてくる視線に慌てて、通常の投資以外にも慈善事業も兼ねて避難民から人員を集め農作放棄地を開墾し、
そこで作った食料を使って炊出しを行うといった事業もしていると話題を切り替える事になる。

これは、BETAの本土侵攻で住処と職を奪われた人たちに対して、彼らが今までやってきた仕事を用意する事で、
社会に貢献できていると実感してもらうと言う事業の一環だった。

この活動には御剣家も出資しており、俺はほとんど顔を出せないものの、本人の意思に反して徴兵免除がされている冥夜は、
学業の合間に炊出しの準備から会場の片付けまで行うほど、熱心に参加していた。

冥夜ががんばっている様子や嬉しそうに報告してくれた事を話している間に、部屋は次第に暖かい雰囲気となり、
国民生活は一応の安定を取り戻しつつある事、誰もが戦場で戦える訳でも、工場で働ける能力と意欲を持っている訳ではないという現実を、
真剣に話している間は感心されたのだが・・・・・・。

自分の個人資産は世界長者番付でいうとベスト50にギリギリ引っかかる程度だとか、この慈善事業は失業者対策と国民の士気高揚にも効果があるとか、
ブラックジョーク的な笑いを取りに行こうとすると、再び微妙な視線を投げかけられてしまう事となってしまった。

今更だが・・・、俺の笑いのセンスは・・・・・・どこかずれているのだろうか?

余計な事は兎も角として、こうして軽い気持ちで俺が提案した事は、悠陽の心に響くものがあったらしく、
次に会った時には政威大将軍であると同時に煌武院家の家長でもある悠陽は、その権限を使って出来る範囲内で資産運用を開始していたのだった。

その後、政威大将軍が自ら国債の購入を行い慈善事業にも出資しているという噂が流れ、富裕層・民間人を問わず国債及び戦時債の購入が流行する事態が発生、
400兆円に及ぶという日本の個人金融資産を原動力に、日本帝国政府は国際戦時開発銀行の手を借りる事無く、当面の資金調達を終える事にとなる。

その他に、ここでの会話中に悠陽の衛士訓練の話が出た後日、悠陽に対してOSの指導を行うという名目で斯衛軍に呼び出され、
悠陽への指導後、斯衛軍での不知火弐型の披露を行う破目になった事もあった。

その時、紅蓮中将が駆る赤い不知火・壱型乙と、ノーマル不知火弐型で模擬戦を行うことになった事は余計だったが、
様々なルートを通じて斯衛軍の弐型採用を画策している俺は、文句を言える立場に無かったのだった。

ただ・・・、俺のこの努力は、斯衛軍の弐型採用に多少の影響を与える事が出来たはずである。

そして後日、不知火弐型の配備優先権を帝国軍から獲得した斯衛軍は、有力武家出身ではない衛士と一般衛士への配備を優先し、
山吹以上の色を持つ少数の不知火壱型乙の運用を、新型戦術機の生産が安定するまで維持する事となる。

斯衛軍専用戦術機の思想は、瑞鶴以降 斯衛軍に根付く事になったが、兵器全体の性能が向上してきた事と予算の逼迫を受け、
性能が満足するなら妥協する事を覚えてきたようで、近年は順調にその考えは薄れてきている様である。

その証拠に、この後に予定している新型戦術機の採用についても、帝国軍と足並みをそろえる事で、
城内省が調達コストを抑えようとする意思まで働き始めていたのだ。

今の所、斯衛軍による不知火弐型の運用は始まったばかりで、機種転換訓練が行われている最中だが、
斯衛軍の衛士ならそれほど時を置かずとも乗りこなし、戦力化して見せるだろう。

帝国軍と同様に、第一世代機を主力とし、精鋭部隊のみに第三世代機を採用するといった『マブラヴ』世界の編成から斯衛軍が脱却し、
戦力として大きく期待できる存在となった事に、俺は密かに安堵する事となった。

しかし、これら食事会の会話を切掛けに起こった出来事は、裏で政威大将軍が動いていたという噂が付きまとい、
ごく一部で政治的混乱を引き起こした事で、次第に国内外に政威大将軍の影響力が健在である事を示す結果となって行く。

俺は、気が付かない内に悠陽を政治的に利用してしまった事により彼女の立場が脅かされないか、
御剣家による強引な政治介入と受け取られないかと気を回す事にもなったが、今の所国民生活にプラスとなり、
悠陽が嫌がる様子を見せていないので、短期的には問題は起こっていないと結論付けるしかなかったのだった。








「信綱・・・、御代わりだ。

 疲れているのは分かるが、食事中に呆けるものではないぞ。」


俺が食事中に妙な回想に浸っていると、お姉さんを気取る事があった子供時代を思い出させる態度の真那マナが空になった茶碗にご飯を盛り、
諭す様な言葉と共に御代わりを差し出してくれた。

俺は差し出された茶碗を見て、政治的な思考から急に現実へと引き戻された事が面白くて、思わず苦笑してしまう事になる。


「何を笑っているのだ、信綱。」


俺は、不貞腐れた表情の真那マナを宥めた後、政治的な事を考えていたと言って表情を曇らせるより、
今は皆に笑顔でいて欲しいと考え、頭の中で思いついて言葉を並べて誤魔化す事にした。


「ご飯をありがとう、真那マナ

 それと、さっきのは別にお前の事を笑ったんじゃないよ。
 差し出された茶碗を見て、唐突に昔見た物語の一説を思い出したのが面白くて・・・。」
 
 
「それは、どういった話なのでしょうか?」


俺の話に興味を覚えたのか、悠陽がすぐさま俺の話に乗ってくる。

俺は、その場の注目が自分に集まっている事を確認し、かすかな記憶を頼りに話を始めた。


「確か・・・伊勢物語の一説に、
 ある男が、幼馴染と一緒になったにも係わらず、外に女を作った挙句に、
 ご飯を手ずから盛る姿を見て幻滅し、幼馴染の下へ戻る・・・
 といった話が有った気がする。」


「・・・もしかして、伊勢物語 第二十三段の事を仰りたいのでしょうか?」


悠陽は、自信なさげに隣に立つ真耶マヤに問いかける。


「話の流れは異なりますが、登場人物と内容の整合性を考えると、その話で間違いないかと・・・。
 
 だが、信綱その話と今の状況に何のつながりが・・・・・・、もしかして、真那マナの事を無作法だと言いたいのか!?」
 
 
「信綱! お主は本当にそう思っておるのか・・・・・。」
 
 
俺は、怒り出した真耶と硬い表情を見せる3対の瞳を見て、慌てて言葉をつむぐ。


「いや、そうじゃない!
 好きな人にご飯を装われる事が、純粋に嬉しいと感じる世代になったのに、
 結局男は色んな女性に手を出す事を止められない、馬鹿な生き物だと考えただけだって。」


「つまり信綱様は、どんな事になっても最後は幼馴染の下へ戻る・・・、と言いたかったのでしょうか?」


悠陽のその言葉を聴いた俺は、一瞬で頭が沸騰してしまう。

時代によって細かな所作は変わっても、色恋に関しては現代と余り変わらないと言って上手くまとめるつもりが、そんな話の飛躍をするなんて・・・・・・。

俺は自らの顔が赤くなって行く事を自覚しながら、真耶マヤ真那マナも同じく顔を赤くして、
口をパクパクさせ言葉を上手く発することが出来ずにいる様子を眺める事になる。

しかし、俺が呆然としていられるのも、極僅かな時間だった。

今度は、香具夜さんから寂しげな視線と共に、言葉が投げかけられてきたのだ。


「信綱・・・、悠陽様が仰るように、最後には二人の下へ去ってしまうのか?」


「いや!
 あの話の男には幼馴染の女が合っていたと言うだけで、俺の気持ちとは全く・・・関係ない・・・・・・はず。」
 

俺は、その問いかけに対して、間髪いれずに返答をしたのだが、次の瞬間から何かを期待する様な、4人の視線が俺に突き刺さってくる事になった。

少し前までの和やかな雰囲気は何処に行ったのだろうか?

しかも、悠陽まで熱い視線を送ってくる意味が分からない、冗談でもやりすぎだぞ・・・。

俺は、一秒でも早くこの混沌とした空気から抜け出す為に、直感に頼って適当な言葉を紡ぎ出す。


「ヤッパリ、ジッカノミソシルガイチバンネ~。」


俺の不思議な呪文を聞いた4人は、集まって妙な会議を始める事になったが、どうやら混沌とした空気からは抜け出す事が出来たようである。

俺は、楽しそうに話をする彼女らを見て、改めて自分が生きている意味を実感する事になるのだった。





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コメント

皆様こんばんは、あぁ春が一番です。
前回、今回で第一部完とするかもしれないと書きましたが、話が膨らみすぎたせいか、
一話に収まりきらなかったので、分割することになりました。
クロニクル02はもうしばらくお預けのようですね・・・・・・、残念です。

今回は、戦闘は一切無しで説明文ばかりの話となりました。
畳み掛けるような設定の羅列は、小説として褒められたものではありませんが、
次回に人物の描写を多めに入れる予定なので、ご勘弁ください。

今回は、軍事系設定を中心に、『瑞鶴の高機動・高火力化の検証』『吹雪の世界標準機化の可能性(プロミネンス計画第二弾)』といった部分について、
概要説明を行いました。
瑞鶴からの派生で、斯衛軍の状況を書けましたし、プロミネンス計画に吹雪を投入する事でどの部分が変わるかといった部分は、
個人的にニヤニヤしながら書かせていただきました。
また、一部政治経済の話を入れましたが、久々に主人公のチート能力全開のご都合主義展開となりました。
世界長者番付でベスト50とか、本土侵攻後も日本経済が落ち着きを取り戻しているって、どんだけ素敵設定なのだろうか。

最後に入れたエピソードは、唐突に思い出した伊勢物語の事を使いたくて、無理やり入れてみました。
微妙に古風な主人公や『オルタ』の世界観には合っているとは思ったのですが・・・、どうでしょう?

次回は、今度こそ第一部完とします。
今月半ばには盆休みがありますが、色々用事があるので、投稿ペースが速まる事は無いかもしれません。
いつもご迷惑をかけていますが、気長にお待ち頂ければ幸いです。



返信

皆様、いつも様々なご意見を下さり、ありがとうございます。
今回は久しぶりに皆様にお伺いしたい事がありましたので、ここで感想板への書き込みの一部を書かせていただきます。
選択から漏れてしまった皆様には、大変申し訳ない事をしていると思いますが、
全てのご意見・ご感想に目を通していますので、その点はご理解いただけたら幸いです。


核融合炉の可能性について

核融合炉・・・、それは私にとってガンダムから受け継がれる素敵設定。
可能であれば、核融合炉搭載戦術機なんてものを開発したい所ではあるのですが、
ここではマブラヴの設定と合わせて、可能性を検証したいと思います。

問題1.マブラヴの世界で核融合炉は実用化されているのか?
答え 不明
劣化ウラン弾が大量に使われている点から見るに、核分裂炉で発電している事は確かなのですが、
A-12の動力は原子力機関,電磁投射砲は赤外線エネルギーを転換して発電、
というように原作では核融合炉とも取れる設定をしている部分があります。

問題2.リアルっぽい核融合炉の採用は、何処までが可能か?
大規模発電施設ならグレー,大型戦術機なら黒に近いグレー,武装なら限りなく黒、というのが
今の時点での私の考えになります。
ただし、G元素を使えば核融合炉だろうが、電磁投射砲だろうが、容易にその設定を覆す事ができます。
「戦いは数だよ、兄貴。」という感じが好きな私としては、数が限られるG元素の多様は避けたいところです。

ソ連の科学者が亡命後、不思議な粒子を発見したというオリ設定?は可能ですが、
2003年以降までは小型核融合炉の小型化は無しという方向で書き進めたいと考えています。
とても悩ましい問題ですので、何かご意見がありましたら、感想板で助言していただけると幸いです。


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