8月14日
九州戦線の消失によって各線への圧力が増したBETAの侵攻により、12日の一の谷から始まった本州瀬戸内海側防衛線の後退は、
現在25km東の芦屋(あしや)まで進んでいた。
防衛戦に参加していた部隊の多くが戦いの中で傷つき、特に損耗が激しい部隊は、芦屋から東に10km移動した尼崎(あまがさき)、
もしくは芦屋から北東に13km移動した伊丹(いたみ)にて、補給と修理を受けていた。
ロンド・ベル隊を含む混成大隊は、所属する多くの戦術機が機体各部から損傷を現わす警告が出ていた事と、
バイタルデータが安定していな衛士が複数名いた事を受け、尼崎にて簡易修理と休憩を取る事となった。
尼崎に到着後、直ぐに隊員たちの様子を確認した俺は、疲労の回復を図るため隊員全員に仮眠を取るように命じる事になる。
若くBETA戦の経験が豊富な者の中には戦闘を続けられる者もいたが、新人やベテラン勢からは数日間の休息を必要とする者も居たためだった。
そして、隊員が仮眠室に向かったのを確認した後、部隊の戦力を確認するために、簡易ドッグで戦術機の簡易検査を行っていた整備主任に声をかる。
「主任!
隊内に使える戦術機は何機有る!?」
「重要部品のみの点検・整備で、今まで何とか誤魔化してきましたが・・・、もう限界です。
全機オーバーホールを必要としています。
そのような状態で皆さんを送り出すわけにはいきません。
尤も時間を頂ければ、補修部品が豊富な吹雪なら、この場でも辛うじて出撃できるまで直す事は可能ですが・・・。」
俺の問いかけに対して、整備主任は表情を曇らせて返答を返した。
余り好い返事が貰えなかった俺だったが、怯むことなく整備主任に己の要求を押し付けた。
「全機を修理する必要は無い。
当面は2個小隊分、8機の戦術機だけでも確保できれば良い!
それ以上機体があっても、衛士の方に出撃に耐えうる者が居ない・・・。
弐型1機,偵察装備を含む不知火改2機,吹雪5機で、丁度2個中隊。
如何にかできないか!?」
整備主任は、俺の要求に対して更に表情を歪め、大きく首を横に振った。
そして、普段は見せない厳しい表情で、メガネを指先で押し上げた後、その理由を語りだす。
「消耗の少ない偵察装備の不知火改なら何とかなるかもしれませんが、弐型は無理です。
・・・信綱様は警報装置を切り、操縦の腕で誤魔化そうとしていたのかもしれませんが、私達の目は誤魔化せませんよ。
先ほどの検査で、弐型の性能は各部の消耗により、吹雪を下回るまで低下している事が判明しています。
何時壊れてもおかしくない機体に、貴方を乗せる事などできません。」
これまでの戦闘による消耗で弐型の補修部品は底をつき、最後のパーツも各部に磨耗や金属疲労が溜まり悲鳴を上げている事は、
俺にもわかっていた。
しかし、そんな状況でも己の体が無事で機体が動く限りは戦う事が出来る、機体性能が低下しようとも其の中で限界を見極めて戦えるのが、
俺の騎乗と言う能力なのだ。
「吹雪を1個小隊・・・、いや吹雪1機でも良い。
直ぐに出撃出来る機体を用意してくれ。
今この時も・・・、戦っている友軍がいるんだぞ!!」
「いい加減にするのじゃ信綱!
たかが戦術機1機で、戦場に出て何になると言うのじゃ。」
己の感情を抑えられず整備主任に詰め寄った時、仮眠を取っていると思っていたロンド・ベル隊隊員から声がかけられ、
その行動を引き止められたのだった。
俺が武田香具夜中尉の怒鳴り声を聞きその顔を真正面から見た時、始めに感じた事、それは喜び、そして懐かしさだった。
こんな感情を持ったのは、この2・3ヶ月の間必要最低限の事以外では避けられていたのが主な理由だと思うが、
今の俺には己の感情に構っている余裕は無かった。
「武田中尉・・・、仮眠を取るようにと命じていた筈だが?
俺は話し合いで忙しい、用事があるなら後にしてくれ。」
俺はそう言って、香具夜さんに向けていた視線を整備主任に戻した。
しかし、香具夜さんから視線を外した瞬間、腕をつかまれ強引に向き合う形に持ち込まれてしまう。
「お主にこそ休息が必要じゃ。
無茶をする隊長の手綱を握るのも副官の務め、なら・・・お主が休むまでワシも休まん!」
「何を言っているんですか!?
俺のバイタルデータに異常が無い事は、香具夜さんもチェックされている筈でしょ!?」
「確かに戦闘中のバイタルデータからは異常を見つけることは出来なんだ。
じゃが、帰還直後のデータからは極度の疲労状態である事が分かっておる。
しかも信綱・・・、お主は多忙な事を理由に血液検査を拒否しているそうじゃな。
もう誤魔化しはできん、そんなお主がたった1機の戦術機で出撃して何が出来ると言うのじゃ!」
武術を学ぶものが目指す境地の一つに、『明鏡止水』といモノがある。
明鏡止水とは、くもりのない鏡と波立たない静かな水の意で、転じて研ぎすました鏡の如く、又静止した清らからな水の如く澄み切って、
どんな小さなものをも心に写す心境を指している。
爆発的な力を生み出す集中力による緊張と、一つの事柄に捕らわれない平常心を保つ脱力を併せ持ったこの状態を、
武術を学ぶ者たちは己の実力が発揮できる最高の状態と考えていた。
俺は生まれた時に身に付けた能力なのか、鍛錬で身に付けた能力なのかは分からないが、その境地にまで至る事が可能だった。
尤も、未だに瞬間的に心が強く揺さぶられた時に、明鏡止水の心境を維持することは難しいと言う注釈は付いていたが・・・。
兎も角、戦闘状態に入ったと体が認識した時点で、どんなに疲労が蓄積されていようとも、直ぐに臨戦態勢に入れ心を研ぎ澄ます事が出来た。
そして、それを使えば血液検査を用いないバイタルデータ(血圧・心拍数・脳波)のみの判断なら、健康状態を誤魔化す事が可能だという事も、
これまでの経験上認識していて、上手く使い分けていたのだ。
今回は、戦術機を降りる前に明鏡止水の状態を解いてしまった事で、バイタルデータに異常が残ってしまったのだろう。
俺は、己の失敗と思うようにいかない現状への苛立ちを隠す事ができないまま、
自分を見上げるようにして睨み付けて来る少女のような外見の香具夜さんに対して、声を荒らげた。
「戦闘中のバイタルデータに異常がないという事は、戦闘行為に支障がない証拠です!
それに、たとえ1機の戦術機でも出来る事があるはずだ。
出撃したとしても、一人や二人の命を救う事しかできないかもしれない。
でもそこで救えた命が、更に他の命を救うかもしれない・・・。
そうやって、ひとつの事が切掛けとなって、戦いの流れが・・・未来だって変えられるかもしれない!
そうでしょう!?」
「・・・確かに、今お主が出撃する事で、少しは良い未来が手に入るのかもしれん。
じゃが、お主が万全の態勢で部隊を率いれば、100人だって救う事が出来る筈じゃ。
それなのに、何時倒れてもおかしくない体で戦って、命を危険にさらし続けて!
このままでは・・・、戦局を変える前にお主が死んでしまう・・・・・・。」
「俺はまだ戦える!
・・・
それに・・・、今も戦場で戦っている者たちに、疲れたから戦えませんなんて言える訳が無い。
俺なら・・・」
パァーン
言葉を発している間に冷静さを取り戻した俺が、苛立ちを押え説得に移ろうとした瞬間、簡易ドッグ内に大きな音が響き渡り、
俺は頬に大きな痛みを感じる事になった。
「え・・・?」
そして、俺の口からは今の状況をまるで理解出来ていないような、間抜けな声が漏れる。
瞳に涙を溜めて平手を振りぬいた香具夜さんが目の前に立って居る事を認識した俺は、頬の痛みの原因は彼女にあることだけは、
思考が停止しかけていた中でも辛うじて理解する事ができた。
「信綱・・・、お主は疲れておるのじゃ。
周りも見えず、女子であるワシの平手打ちに反応できぬほどに・・・。
それに、大隊内でシフトを組んでおる時も必ず出撃し、最近は正規の出撃以外にも機体調整と称して出撃しておる。
この一月の間で、お主の総出撃回数を越える者は、日本国内・・・いや世界中を探しても恐らく居らんじゃろう。
其のお主が体を休める事を責める者など・・・、居るものか。」
「・・・・・・。」
「・・・信綱が戦う目的は何なのじゃ。
武家としても義務を果たすためか? 男として名誉を得るためか? それとも戦い其の物か?」
「俺は・・・、俺の目的は・・・。」
香具夜さんの問に答えるために自問自答した俺は、目の前の霧が晴れるような感覚の後、忘れかけていた戦う理由を鮮明に思い出した。
一月前までははっきりと自覚できていた事すら直ぐに応えられないほど、思考が狭まっていた事にショックを受けながらも、
俺は晴れやかな気分で香具夜さんの問に答え始める。
「香具夜さんの言う通り・・・、俺は疲労で冷静な判断力を失い、戦う目的も忘れかけていたようです。
俺は・・・、俺の大切な人たちとその人たちが住む世界,共に過ごす時間を守るために戦う道を選んだ・・・。
BETAとの戦いは目的を達成するための障害の一つでしかありませんし、目的の為には自分も大切な人たちも失う事は出来ません。
守るべき対象に、自分自身が含まれていた事を失念していました。」
「信綱・・・、分かってくれればよいのじゃ。」
「香具夜さん、もう大丈夫です。
本来の自分を取り戻せた俺は・・・、そう易々と負けませんから。」
俺はそう言った後、香具夜さんの今にも零れ落ちそうな涙を指先で拭き取り、
息を呑んでこちらの様子を伺っていた整備主任と整備士の皆に声をかけた。
「皆、すまないが少し予定を変更する。
隊内に戦闘に耐えうる戦力は残されていない事がわかった。
次の戦いに備えるために・・・、明日を勝ち取るために、琵琶湖運河を渡った大阪まで下がり、部隊を立て直す。
香具夜さん、各中隊への連絡と移動準備の指揮を頼みます。
機体と機材の輸送に必要な人材を残して、それ以外の者は直ぐに大阪に移動させるようにしてください。
俺は、司令部へ連絡して調整を行うことしますので・・・。」
簡易ハンガーに来た時よりもしっかりとした足取りで歩き出した俺は、そのまま通信施設へ向かう事になった。
司令部への連絡の前に、帝国軍技術廠や企業側に状況を説明し、大阪まで下がって補給を受ける事を了承してもらった俺は、
その後の司令部との交渉を有利に進め、機体の損耗と衛士の疲労により部隊が破綻する可能性がある事を盾に取り、
半ば脅しをかける形で部隊の後退に同意を得ることが出来たのだ。
尼崎に後退してから、それほど時間が経過していなかった事が幸いし、部隊の移動はスムーズに行われる事になる。
機体よりも先行して大阪に移動していた衛士を含む混成大隊の関係者は、夜までに大阪に到着し、
久しぶりに安心できる後方で睡眠を取る事となった。
その中には、もちろん部隊長である俺も含まれていた。
大阪で確保した元ホテルの一室で、久しぶりに香具夜さんと今後の打ち合わせが半分、世間話が半分の会話を楽しんでいたところ、
睡魔に負け彼女の目の前でベッドの上に倒れこんだのだ。
次の日の朝、意識が浮かんできた俺が感じた事は、なんだか暖かく久しぶりにグッスリ眠れたという事だった。
しかも、有る筈の無い抱き枕の感触に、懐かしさを感じるというおまけ付きで・・・。
俺はこの感覚をもっと楽しむため、抱き枕に顔を埋め深呼吸をしようとした時、短い掛け声と共に、脇腹に鈍痛を感じて飛び起きる事になる。
「フッ!
いい加減にせよ!
寝起きの女子を抱きしめて、深呼吸をするのは無作法じゃと、何度言えば分かるのじゃ!?」
なんと、抱き枕だと思っていたのは、武田香具夜中尉だった・・・。
こうして、起こされるのは何度目になるのだろうか?
大陸に居た時は度々起こった事だったので、漸く対処出来る様になってきていたのだが、本土に帰ってきてからは一度も起こらなかった為か、
寝ぼけた頭では直ぐにその答えに行き着くことが出来なかったのだ。
俺はその後、小柄な体格のわりに体にダメージが蓄積される打撃を、複数回受けるという散々な朝を向かえたのだった。
8月15日
ロンド・ベル隊と入れ替わりに、富士教導隊の部隊が尼崎まで進出する事になったと連絡が入る。
以前から、戦力不足により教導隊を琵琶湖運河防衛線(大阪湾-琵琶湖ライン)に配備するという話が出ていたが、
それを前倒して投入する事になったのだろう。
俺は、ある事を思いつき移動中の富士教導隊の部隊に、通信を入れた。
「始めまして、第13独立機甲試験中隊 中隊長 御剣 大尉です。
お急ぎのところと思いますので、手短に用件をお伝えします。
我が隊が得た、最新の戦闘データをそちらに送ります。
普通の部隊なら上手く使えるか分かりませんが、
我が隊と装備も錬度も近い教導隊なら、有効に使えるはずです。」
「こちらは、富士教導隊 第3中隊 中隊長の前田 大尉だ。
こちらにとっては、始めてとは思えんな。
貴様のお陰で、教導隊はむちゃくちゃな三次元機動を身に付ける破目になった。
それに・・・、訓練兵時代の貴様に土を付けられなかった事も、我等は忘れていないぞ。」
俺が通信を入れた富士教導隊の部隊長は、30歳に届いていない様に見える年齢ながら、強い意志を持った瞳でこちらを見つめていた。
「教導隊が最強なのは平和な時だけ・・・、
新しい戦術は常に前線で試され、磨かれるものです。
新しい血が入った事を喜べなければ、教導隊の名折れですよ。
それに、訓練兵に土を付けられなかった事で、危機感は高まった筈ですが?」
俺は、その視線を正面から受け止め、正論と同時に挑発するような視線を返した。
「・・・まぁ、良いだろう。
その話題は、時間が有るときにもう一度しよう。
戦闘データの件は、ありがたく頂戴する・・・、正直に言えば不知火改での実戦データが不足していたのだ。
しかし・・・、よいのか?」
前田 大尉の疑問は、独立試験中隊に付きまとうある噂から出た言葉である事は、容易に想像できた。
その噂とは、企業間の開発競争の激化で、正確な情報を隠す事を目的に、全ての戦闘データの提出を企業側が行っていないのではないか、
というモノである。
この噂は、半分正解で半分は間違っていた。
企業側は、始めに交わされた全ての戦闘データを提出するという契約を守りつつも、データの解説書にフィルターをかける事で、
国や他社が真に重要なデータに気が付かないか、気が付くのを遅らせる工作を行うこともあったのだ。
つまり、この兵器は数千回に一回不具合を起こす事は報告するが、その原因と解決策に対して御茶を濁す場合があるという事である。
「私自身、企業側の立場も分かる人間ですので、多くを語ることは出来ませんが、
全ての戦闘データを帝国軍に提出する事は守られていますし、戦術や新兵装の有効性の判断を歪めるほど、
企業側は腐っていません。
今回は、技術廠への報告と同時期に教導隊にも情報が流れたという事にしておきましょう。
こちらとしても、多くの部隊で実戦証明がいただけると、今後が楽ですので・・・。
この情報をどうするかは、そちらの判断にお任せします。」
俺はそう言った後、全てを語れない事に対する謝罪の意味を込めて、僅かな間だったが目を伏せた。
こちらの対応に考える素振りを見せていた前田 大尉だったが、俺の意思が伝わったのか、次の瞬間には笑みを浮かべ、
挑発的な言葉を投げ掛けてきた。
「・・・お前等ができた事を、我等が出来ない筈はない。
次の演習を楽しみにしておけ、この借りは必ず返す。
さっさと戦力を整えて、前線に復帰しろ!!」
「機体の調達に最低でも一週間・・・、それに機体調整と再訓練の時間が要りますので、
二週間で復帰できれば御の字でしょう。
無論、全力でその期間の短縮に勤めますが・・・。
それと、借りをなにで返すのかについても、そちらにお任せます。
私達としては、貴方達と轡を並べて戦える日を楽しみにしています。」
俺と前田 大尉は、互いに声を掛け合った後、短めの敬礼を交わした通信を終えることになったのだった。
8月16日
この日、ついに近畿地方で戦闘に関っていた部隊に対して、一ヶ月に及ぶ熾烈な防衛戦の末、
京都を放棄し首都を京都から東京に移す作戦の全容が明かされることになる。
本州瀬戸内海側ルートの足止め成功にも関らず、マブラヴの世界と同じ期間で、京都は陥落する事となったのだ。
大阪で補給を受けていた第13独立機甲試験大隊にも、もちろんその情報は開示される事になり、
俺はそこで始めて斯衛軍第16斯衛大隊が京都撤退の殿を務めることを知る事になる。
斯衛軍に瑞鶴以外にも多くの不知火壱型乙が配備されている事や、真耶と真那の実力を考えれば、二人が生き残る事は難しい事ではないと計算しながらも、
俺は自身が介入した事で第16斯衛大隊が殿を務める事になったのでは、という考えを振り払う事ができずにいた。
俺は、半ば答えを知りつつも、こう確認をせずにはいられなかったのだ。
「主任、
京都へ援軍に行く為に、戦術機を使いたいのだが?」
「ご指示が有ったとおり、全機オーバーホールを行っています。
出撃が可能な戦術機はありません。」
「・・・、そうか。」
俺の突然の問いかけによってブリーフィングルーム内には奇妙な沈黙が訪れた。
その空気に耐えられなくなった佐々木さんは、俺に対してからかう様な調子で声をかけて来る。
「どうしたんだ急に、お前らしくない。
まさか・・・、京都に女でもいるのか?」
俺は、隊員全員が集まる中で不用意な発言をしてしまった事に軽く後悔しながらも、佐々木さんの問いかけに対し、取り繕う言葉を返していく。
「琵琶湖運河の防衛線が上手く機能すれば、一番活躍する事になる戦術機は、圧倒的火力を持つ鞍馬だ。
そして、第1世代機の撃震も一定の活躍を見せる事が出来る戦場となる。
したがって、第3世代機の多くは、まだ侵攻が続く地方に戦場を移すことになるはず・・・。
言い方は悪いが、それでは第3世代機が活躍しているという印象を、国内外に与え辛くなる。
その結果、第3世代機の開発予算が削られる事になれば目も当てられない。
もちろん、京都からの撤退戦で俺たちが第3世代機の有効性を改めて示せるとも限らないし、
斯衛軍がそれを示す事になるかもしれない。
だが、少しでも可能性を高める手段として、どの戦線にも戦力として考えられていない俺たちが京都で戦う事に意味は有る筈だ。
それに・・・、日本人として首都の最後を見届けたいという思いが無い訳ではない。」
苦しいながらもそれらしい理由を並べる事ができた俺は、これで誤魔化す事が出来たと考え隊員を見渡した。
だが、隊員の中に約1名、俺の応えに対して不信そうな表情を浮かべる人物がいた。
俺は、慌ててその場を解散させようとしたが、後一歩及ばず、その者の発言を許す事になった。
「信綱!
昨日は、補給を受ける間は大阪から動かんと申しておったじゃろう。
それがどうして、今のような発言となるのじゃ。
斯衛軍第16斯衛大隊・・・、そこにお主の婚約者が居ると聞いた事があるが!?」
部隊の雰囲気を大事にする香具夜さんが、大勢の隊員がいる前で部隊長である俺に対して声を荒らげる事は、大変珍しかった。
怒りを前面に押し出しつつも、どこか不安げな香具夜さんの表情からは、余裕の無さが感じられたのだ。
俺には、香具夜さんの言葉を否定し、この場を解散させるという選択肢も残されていたのだが、結局それとは違う選択肢を選ぶことになった。
「確かに、第16斯衛大隊に婚約者が居る事は否定できない。
そして、婚約者を守る為に京都に行きたいという思いがあることも事実だ。
だが、部隊がおかれている状況、己の体調、軍規。
何に照らし合わせても、俺が一日の間、隊から外れる事に問題があるとは思えない。
仲間に迷惑をかけることが無い以上、俺は己の信念に基づいて動く。」
俺はそう言い放ち、隊員一人ひとりの目を見つめていった。
そして、みんなの視線を集めた後、こう締め括ったのだ。
「俺に隊長を名乗る資格が無いと思ったものが居れば、遠慮なく言え。
上の判断によっては、俺が隊長の任を解かれる事があるかもしれん。
そうなった時に俺がする事はただ一つ。
実力で信頼を取り戻し隊長の座に返り咲く、それだけだ。」
「信綱・・・。」
香具夜さんは、俺の発言に呆れてしまったのか、諦めとも取れるような表情を見せた後、深いため息をついた。
そして、婚約者発言からの急な話の展開に、他の隊員たちからは戸惑いの空気が流れていたが、話の意味を理解し佐々木さんの発言を切掛けに、
一気に明るい空気に包まれた。
「婚約者を助けに行くなんて、くさい事がよく言えるよお前は・・・。
行くならさっさと行っちまえ。
特にやる事はないが、その間は俺が部隊をまとめておいてやるよ。」
「何を言っているのだ、浩二は。
階級に沿えば、部隊をまとめるのは高畑 大尉の役割だろう。」
「黒木 臨時大尉殿は、こんな時でも真面目でいらっしゃる。
少しは、俺にも花を持たせろよな。」
「隊長・・・、残念ながら我々は付いていく事はできませんが、
例え一人でも貴方なら何か出来る・・・、そう私たちは信じています。」
「そうです。隊長ならやれますよ~。
いつもの機体調整の時間が、少し長くなるだけでしょ?
そうだろ皆!」
「「「「その通りで有ります!!」」」」
ある隊員が発言した、馬鹿みたい詭弁に応えて起こった唱和の後、ブリーフィングルーム内は大きな笑い声に包まれる事になった。
この笑顔と雰囲気は、まさに一月ぶりの出来事だった。
「でも隊長、足(戦術機)はどうするんですか?」
「「「「あっ。」」」」
「心配するな。
近日中に届く事になっていた試験機が1機有った事を、先ほど思い出した。
主任、例の機体は何処まで来ている?」
俺の問いかけに、軽いため息をついた後、主任ははっきりとした口調でこう答えた。
「YF-23 ブラックウィドウⅡ 試作2号機、通称グレイゴーストは、本日大阪府内に入る予定です。
早ければ、一時間後には搬入作業が開始される筈です。」
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コメント
皆様、こんばんはです。
私の拙い文章を毎回のように読んで下さっている皆さま、ありがとうございます。
ギリギリですが、なんとか新話を投稿する事ができました。
Arcadia自体が止まっていた事には、大変驚かされましたが・・・・・・。
今回は、前回とは一変して会話と心理描写が中心の回となりました。
ここから少しずつこういった描写を増やしていけば、それなりの物書きになれるのでしょうか?
手探り状態ながら何とか更新を続けているのが現状です。
また、前々から出そうと考えていた富士教導隊やYF-23『ブラックウィドウⅡ』が、
少しだけ出てきました。
両者とも何処まで活躍させられるかは未知数ですが、個人的に好みの設定ですので気合を入れて行きたいと思います。
次回こそは、京都での戦いになる予定です、・・・多分。
まだまだ未熟者ではありますが、これからも頑張っていきますので、
気が付いた事がございましたら、ご指摘頂ければ幸いです。
返信
皆様、いつも様々なご意見を下さり、ありがとうございます。
今回は、時間の都合でここに返信を書く事が出来ませんでした。
その代わりに、感想板への書き込みを普段より多めに行いますので、ご勘弁下さい。
次回は、きちんとここにも返信を書き込む事を予定しております。