「田村ぁぁぁーっ!」
4門の87式突撃砲から36mm弾を放ち、BETAへ攻撃を行なっていた不知火の横から接近していた要撃級に対し、
36mm弾を叩き込んで沈黙させた直後、俺は感じ取った危機感に従い叫び声を上げていた。
自ら発した叫び声に反応して視線を動かした時、俺は先週搬入されたばかりの吹雪が、要撃級の振るう前腕衝角の直撃を受け、
胸部を潰される瞬間を目撃する事になる。
俺は視線を動かすのと同時に弐型を振り返らせており、右側の可動兵装担架システムに搭載していた98式支援砲を展開し、
新人衛士の田村少尉が搭乗する吹雪に更なる追撃をかけようとしていた要撃級に対して、
おおよそ理想の射撃体勢からかけ離れた、機体側面向けた状態から射撃を行なった。
不知火弐型が放った3発の90mm砲弾の直撃を受けた要撃級は、絶命すると同時にその動きを止めた。
その後転倒した吹雪に群がろうとする戦車級を、小型可動兵装担架システムから取り出し左腕に装備した小型のショットガンで撃破して行く。
この小型ショットガンは、衛士救出用時に戦術機に群がる戦車級を排除する為に開発された補助兵装で、
至近距離でも戦術機の装甲に殆どダメージを与えることが出来ない威力である事から、乱戦下においてBETAの小型種を排除するのに最適だった。
「ベル1(御剣 大尉)よりマザー・ベル(中里 少尉)へ、
ブラスト9(田村 少尉)のバイタルデータはどうなっている?!」
「マザー・ベル(中里 少尉)よりベル1(御剣 大尉)へ、
ブラスト10(田村 少尉)の生存を確認しました。
しかし、意識を失っている上に出血も診られ、救出を急がないと危険な状況です。」
「ベル1(御剣 大尉)よりブラスト1(黒木 臨時大尉)へ、
ブラスト10(田村 少尉)の回収後、損傷のある機体を下がらせろ!
ロンド・ベルからは、ベル 5(宮本 臨時中尉)とベル 6(竹下 少尉)を護衛に付ける。」
「ブラスト1(黒木 臨時大尉)よりベル1(御剣 大尉)へ、
ブラスト7とブラスト8・・・、ブラスト10を下がらせます。」
「ベル1(御剣 大尉)より混成大隊各機へ、
今までの通信は聞こえていたな?
ここからが正念場だ。
ゴチャゴチャと細かい命令は出さない。
任務を遂行した上で、生き残って見せろ!」
「「「「「了解!」」」」」
この後、田村少尉が搭乗する新型管制ユニットを回収することに成功した第25試験中隊とそれを護衛するロンド・ベル隊は、
部隊を二つに分け機体に損傷がある者や気が動転してしまった者に護衛をつけて撤退させ、残りの8機で戦闘を継続する事になった。
技量が未熟な者たちが部隊から抜けたことで、部隊内に広がりかけていた動揺は辛うじて抑えられた。
戦闘を継続した部隊は、戦力不足に悩まされながらも戦場に展開し続け、堅実な戦いでBETA群を押し留める事に成功する。
一ノ谷での本日2度目になるBETAの攻撃は、各部隊の活躍と補給を終えた後方部隊からの援護砲撃が始まった事で、無事に撃退する事が出来たのだった。
8月5日
第25試験中隊に吹雪に搭乗する者が2名、第26試験中隊に先日制式採用が決定し『烈震』と名付けられた戦術機に搭乗する者が2名、
合計4人の新人が合流してから6日が経過し、新人たちの出撃回数は既に10回を越えていた。
その出撃の中で、死の八分を越えられず命を散らした新人衛士が1名、新人を庇って重傷を負った衛士が1名、
合計2名が部隊から離れる事となっていた。
今回、田村少尉が要撃級の攻撃で撃破されてしまったのは、彼が不用意に前に出てしまったこともあったが、
依然として部隊連携が確立されておらず、援護の手が回りきらなかった事に最大の原因があった。
前線でBETAに近接格闘戦を仕掛けている限り、このように不意を衝かれてBETAの接近を許すという事態はどうしても発生してしまうものである。
では、射撃戦のみを行なっていれば良いかと言われるとそうでもない。
我々の今の目的は、ただBETAを撃破することではなくて、BETAの侵攻を遅らせる事である。
したがって、より長時間戦場に留まり、BETAを引き付け、BETAの数を減らす必要があるのだ。
その為には、弾薬を節約し長刀により撃破することも求められてくる。
俺たちに今出来る事は、連携を密にし援護に回す戦力を充実させる事で、近接格闘を仕掛ける戦術機の安全性を少しでも高める事しか無かった。
俺は田村少尉の容態を確認するため、治療を行なっている病院の施設を利用して臨時に作られた帝国軍病院内の手術室前に佇む人物に声をかけた。
「黒木 臨時大尉、田村 少尉の容態はどうだ?」
「・・・不幸中の幸いで、命に別状は無いようです。
これも新型管制ユニットのお陰でしょう。
辛うじてコックピットブロック内に生存できるスペースが残されていたようです。
ただ、・・・もう衛士として戦場に出る事は難しいと思います。
疑似生体との相性もありますが、両足は切断する事になりましたので・・・。」
「そうか・・・。
なかなかの腕の持ち主だったんだがな。
また一人新人(ルーキー)が去る事になってしまうか・・・。
黒木 臨時大尉そろそろ体を休めるんだ。
お前には、田村少尉以外にも残された部下が居るのだから。」
「分かっています・・・。
ただ・・・、もう少し此処に居させてもらえませんか?」
「・・・・・・分かりました。
黒木さんの気が済むまで居てください。
でも、明日も恐らく出撃になります。
それだけは覚いておいてください・・・。」
「了解しました。隊長・・・。」
ロンド・ベル隊に黒木臨時大尉が居た時の呼び名で呼ばれた俺は、全ての事が上手くいっていたように思えたBETAの本土進攻前の事を思い出し、
一瞬思考が停止してしまった。
しかし俺はその直後、既に思い出になってしまった時の事を振り払うように、踵を返し歩き出した。
そして、通路の角を曲がった所で、ずっとこちらの様子を伺っていた気配に対して声をかけた。
「佐々木さん、病院内で気配を消しても誰も咎めませんが、
騒がしくすると病院から叩き出されますよ。」
「ばれてたか・・・。
安心しろ、騒ぐのは病院を出てからだ。
それなら問題ないだろう?」
黒木さんと佐々木さんは歳が近い事もあり、普段から仲が良かった。
その事もあり、佐々木さんは黒木さんを心配して様子を見に来たのだろう。
俺は、部隊長や財閥の仕事に力を入れていたため、隊員から軍人としては尊敬されているようだったが、
個人として最も慕われている人物を隊内で挙げるとすると、真っ先に候補に挙がるのがこの佐々木さんだった。
ロンド・ベル隊内では、争い事は俺、私生活と遊びは佐々木さん、困った時に香具夜さんという住み分けが出来ていたのだ。
恐らく他の隊員たちへのフォローは、香具夜さんや第26試験中隊のベテランたちが行なっている事だろう。
俺は、隊長としてまだまだ未熟な己に恥じながらも、足りないものは他所から持ってくるのも指揮官としての素質の一つと割り切り、
佐々木さんの助力を請うことにした。
「佐々木さん・・・。
黒木さんの事、お任せします。」
「任された。
だが、お前の方は大丈夫か?」
「大丈夫ですよ。
戦場には余計な感情は、持ち込みませんから・・・。」
「・・・・・・そうか。」
「では、まだやる事があるので。」
俺の返答に反応して、一瞬表情を歪めた佐々木さんを置き去りにして、俺はその場を立ち去ったのだった。
明日からは、いよいよ中隊毎での連携の確認を終え、大隊での部隊運営を行なう予定となっていた。
俺は、部隊の戦力を確認するために、試験部隊専用のハンガーを訪れ、整備主任と打ち合わせをする事にした。
「主任、回収した田村少尉の吹雪はどうだ?」
「信綱様・・・、田村少尉の吹雪は胸部の損傷が激しいため、修理を行なうのも困難です。
胴体部を新品と入れ替えるか、四肢を取り外し予備部品とする、というのが妥当でしょう。」
「そうか・・・、残念だが田村少尉は後方に下がる事になりそうだ。
田村少尉の吹雪は、予備部品として使える部分の解体に入り、
胴体部は研究所へ送るようにしてくれ。」
「そうですか・・・、残念ですが時間を見つけて解体作業に入ります。」
「頼んだ。
それと、明日の出撃に耐えうる機体を教えてくれ。」
「では、こちらの資料を見てください・・・・・・。」
整備主任から見せられた資料を見ると、第13独立機甲試験大隊(仮)の戦力は以下のようになっている事が分かった。
第13独立機甲試験中隊(ロンド・ベル隊):中隊長 兼 臨時混成大隊優先指揮官 御剣 大尉
不知火弐型 1機(+0機) 関節部の磨耗が見られるため、予備機を要求中。
不知火改 8機(+1機) 衛士の技量と部隊連携を考え、全ての不知火が不知火改に改修される事になる。
1機が予備機となっているが、中破した機体と交換済みのため、ただいま修理中。
第25独立機甲試験中隊:中隊長 黒木 臨時大尉
不知火改 4機(+0機) 衛士の技量と部隊連携を考え、3機の不知火が不知火改に改修された。
吹雪 5機(+0機) 新人の配備に合わせて1機追加。3機が大破により部品取りにまわされている。
第26独立機甲試験中隊:中隊長 高畑 大尉
烈震 8機(+1機) 新人の配備に合わせて1機追加。2機が大破により部品取りにまわされ、
予備機の2機は、大破もしくは中破した機体と交換済み。中破した1機が修理中。
合計 26機(+2機)
第13独立機甲試験大隊(仮)発足から約2週間が経って、新人が持ってきた吹雪と烈震が配備された事で、一時的に実働戦力29機,
予備機をあわせると32機が配備されていた部隊は、実働戦力26機,予備機をあわせた機体数が28機とその数を減らしていた。
更に、予備機が全て修理中である事や、運用している機体も細かな損傷や関節部の磨耗が報告されており、万全といえる状態では無くなっていた。
ただし周りに居る他の部隊の中に、部隊解散まで戦力を消耗させた部隊もある事を考慮すると、
この整備状況も衛士の損耗率も、かなり良い状態であると言えた。
しかし、この状況も長く続かないだろう。
今までのように、ローテーションで第25試験中隊と第26試験中隊部隊を出撃させ、ロンド・ベル隊から疲労の少ない者を選んで護衛とするやり方なら、
俺の援護もある程度有効に機能させる事ができるが、部隊が大隊規模となると攻撃の手数が足らなくなる上に射線を確保する事が難しくなるため、
援護を行き届かせる自信がないのだ。
また、消耗した現状の戦力では、求められている戦果を達成するために、未熟な衛士の護衛に回っていたロンド・ベル隊が、
積極的に前に出る必要が出てきた事も、被害が拡大すると思えた理由の一つだった。
「所詮自分は一人。
一人でいくら足掻こうとも、今の己の実力と機体性能では、中隊程度の人数を援護するのが限界か・・・。
(何とかして部隊全体のレベルを上げなくてはならないが、時間が足りない!)」
「どうされたのですか信綱様?」
「いや・・・、なんでもない。
それよりも、機体整備に必要な人や物資は足りているか?」
「不知火・吹雪系統の部品は、軍から優先的に回ってきていますので、今のところ問題は有りません。
烈震の部品は、企業側で用意する事に成りますが、生産工場がある名古屋からは、滞りなく補修部品が届けられています。
弐型と不知火改の部品と人員については、余裕があるとは言えませんが、何とかしてみますよ。」
「そうか・・・。
何か問題が起きた時は、報告をくれ。」
そう言った後、ハンガーに置いてある機体と整備士達の作業を軽く見て回った俺は、現状の戦力で少しでも良い結果を残すための戦術の思考と、
戦力を底上げする物の調達の為に、足早に自室へ向かう事になるのだった。
8月12日
九州から帝国軍が退却してから3日が経ち、各戦線へのBETA群の圧力が日増しに高まっていた。
その中で第13独立機甲試験大隊(仮)は、後衛となる第25試験中隊の吹雪と第26試験中隊の烈震半数に、
ガトリングシールドと98式中隊支援砲を装備させる事を選択していた。
そして、火力を優先した事で運動性が低下した後衛部隊の周りを、98式中隊支援砲もしくは98式支援砲を一門装備した、
第25・26試験中隊の不知火改・烈震を駆るベテラン衛士達が中衛として護衛を行い、ロンド・ベル隊が前衛として戦うという体制で、
BETA群の物量に対抗しようしたのだ。
この部隊編成は、鞍馬部隊の運用法を一部に取り入れた単純な連携を行なうためのものである。
連携の精度が低い混成部隊にとって、この火力に頼る編成は有効に運用できる数少ない選択肢の一つだった。
独立試験部隊の権限を使って集めた武装によって成り立つ事になったこの部隊運用は、それなりに有効に働き、
複雑な連携が出来ない結成から間もない部隊でありながら、多くの戦果を残す事になる。
しかし、それでも機体の損傷、それに伴う衛士の死傷は避ける事ができなかった。
他の部隊と比べて損耗率は低くなっているが、衛士は死んでいくのだ。
衛士こそ無事救出できたものの、弾倉の交換時の火力が低下した時のカバーが間に合わず、無理をした護衛役の烈震がやられ、
次に弾倉補給するための退却時に強襲を受け、不知火改に乗り換えて間もない前衛の1機が落とされた。
そして、第25試験中隊所属で元ロンド・ベル隊員の不知火改までもが、光線属種への対応時にバランスを崩して墜落し、
BETA群の中で孤立してしまったために戦場で散る事となった。
後に不知火改・強行偵察装備に残されたデータを解析して、レーザー照射に対してランダム回避を行なっている最中に、
跳躍ユニットへレーザー照射を受けたために跳躍ユニット1基が破損、その急なバランスの変化に対応できず墜落に至った事が分かった。
第13独立機甲試験大隊(仮)は、一週間の間で1人の衛士を失い、3機の戦術機を失う事になったのだ。
これで予備機なしの戦術機25機という戦力となった第13独立機甲試験大隊(仮)だったが、
それでも他の部隊よりは損耗の少ない部隊として認識されているためか、激戦区への参戦要求が日増しに強まっていく事となる。
更に追い討ちをかける様に、瀬戸内海側の近畿地方の防衛が成功を収めていると過信をしたのか、
この地域の防衛よりも京都の防衛を優先したのか分からないが、1週間ほど前から戦力が引き抜かれ京都の防衛に当てられていたのだ。
その結果、次第に防衛線の維持が困難になって来ており、第13独立機甲試験大隊(仮)が抜けることが戸惑われるほど、戦況は逼迫してきていた。
唯一の好材料と言えば、旧型の撃震がハイペースで入れ替えられる事になった事ぐらいだろう。
BETAの本土進攻から4週間以上が経ち、BETAの侵攻直後から企業側だけで動き始め、後に正式に政府に認められる事になったF-4JF『烈震』の量産計画と、
撃震の鞍馬への改修作業がここにきて効果を見せ始めていたのだ。
しかし、俺たちはその効果を実感する間もなく、まったく余裕の無い戦場で戦い続け、徐々に追い詰められつつあった。
「冗談じゃない・・・。
神戸にいる戦力で、この規模のBETAを防げる筈がない。」
「ベル 9(岡田 少尉)、大陸ではこの程度の戦場は珍しくなかった。
むしろ、海上からの援護が受けられる分、まだマシだ。」
「しかし、隊長・・・。」
「部隊の半数は大陸帰りだ。
いつも通りにやれば今回も生き残れるさ・・・。
混成大隊各機に告ぐ。
この後、後方からの支援砲撃が有り、後方へ下がれば補給物資も有る戦闘が開始される。
戦場で孤立する確率が高い遊撃部隊として集められた俺たちにとっては、まだまだ恵まれた戦場だ・・・。
なら、ここにいる全員が力を出せば何も問題は無い。
多くの部下を死なせた俺からは、お前たちに死ぬなとは言えん。
だから俺はお前たちに命じる・・・、生き残れ!」
「「「「「了解!!」」」」」
俺は、不安に陥っていた隊員を軽口で励ました後、隊員全員に対し檄を飛ばした。
しかし、俺自身この事が詭弁だと言う事は分かっていた。
大陸でこの規模侵攻を現状の戦力で受けた時、多くの場合で戦線が崩壊し、防衛線が大きく後退する困難な状況に追い込まれていたのだ。
この事は、大陸帰りの者なら分かっている事だが、経験の浅い者たちを奮い立たせるためか、その事を指摘するベテランは一人もいなかった。
こうして、隊員と期待の状況を確認している間に、BETA群がセンサーと無人の火器が配備された第一陣を突破したと情報が入ってくる。
戦術機部隊はその情報を受け、戦車や自走砲などから行なわれる援護砲撃の効果が薄い、BETAの前衛部隊となる突撃級を足止めし、
可能なら排除するためにBETA群の進行方向に急進する。
戦術機部隊が展開した戦域に、後方の援護砲撃や海上からの艦砲射撃で若干乱れた隊列の突撃級の群れが到達した。
第13独立機甲試験大隊(仮)は、前衛部隊であるロンド・ベル隊が突撃級の隙間を縫うように浸透し、隊列の内部から突撃級の隊列を食い破った。
次に、吹雪・烈震で構成された後衛部隊と共に、その護衛を行なう中衛の不知火改・烈震が突撃級の群れの中に乱入する。
そして、突撃砲と中隊支援砲・支援砲を使って、突撃級の群れを撃破していったのだ。
これにより第13独立機甲試験大隊(仮)がいる戦域は、予定より早く突撃級の排除に成功、他の部隊にこの戦域を任せ、俺は部隊を他の戦域に移動させた。
俺たちが向かった戦域では、要撃級や戦車級などのBETA群の中衛とも言える部隊が接近しているにも関らず、
未だに突撃級の処理に手間取っている様子だった。
突撃級の群れと中衛の合流を許すと、驚異的な数を持つBETA群の中衛への援護砲撃の効果が薄くなってしまう。
また、再び前衛の突撃級と中衛が分離するのを待つには、多くの距離が必要になるため、BETAの侵攻を押し留めたい今回の作戦では、
選択する事が出来ない戦術だった。
俺は、面倒な事しか起こらないBETA群の合流を阻止するために、混成部隊をBETA群の前衛と中衛の中間に鶴翼参陣に近い陣形で布陣させた。
そこで、戦闘が始まってから今まで温存していたガトリングシールドを、第25試験中隊の吹雪5機と第26試験中隊の烈震4機に展開させ、
混戦部隊の全力射撃を接近してきたBETA群の中衛に叩き込んだ。
ガトリングシールドに取り付けられているGAU-8 Avengerを2基搭載している戦術歩行攻撃機A-10『サンダーボルトⅡ』は、
単機火力でF-4一個小隊を上回るとされている。
そのガトリング砲に突撃砲や中隊支援砲・支援砲を合わせた混戦大隊の火力は、瞬間的に定数を満たした戦術機大隊を上回っていた。
戦術機大隊を上回る火力でさえ、カバーできる戦域はそれほど大きなものではなかったが、こうしてBETA群の中衛を押し留め、
10分ほどの時間を稼いだ事で、その間に突撃級の排除が終わった部隊が参戦し、後方からの援護がとどき始める事になる。
防衛部隊は、辛うじて戦線を維持することに成功したのだ。
しかし、これで終わらないのが今回の様なBETA群の大規模侵攻である。
あまりにも多い数に対処していく中で、BETA群を足止めしている戦術機部隊の弾薬が欠乏しつつあった上に、
光線級の出現で、後方からの援護砲撃の効果が低くなってきていたのだ。
「ベル1(御剣 大尉)より混成大隊各機へ、
後衛部隊を弾薬の補給の為に一旦下げる。
中衛部隊はその護衛だ。」
俺の命令に従い、部隊は二手に別れ移動を開始した。
BETA群を足止めするために残った、不知火弐型と不知火改で構成されたロンド・ベル隊(前衛部隊)は、AL砲弾により重金属雲が形成された事を確認すると、
長距離と短距離の噴射跳躍を駆使する事でBETA群中衛を突破し、その後方に移動する事に成功した。
BETA群中衛の後方には、多くの光線級が配置されていたのだ。
「重金属雲さえ形成されていれば、光線級が相手なら・・・。
ベル1(御剣 大尉)よりロンド・ベル隊各機へ、
光線級を一気に平らげるぞ!」
ロンド・ベル隊は、残された弾薬を惜しみなく使って目に留まる範囲で光線級を排除していった。
光線級は、ロンド・ベル隊に対しレーザー照射をしようとする個体もいたが、接近した後のレーザー照射は、
第3世代機にとって初期照射の段階で射線から逃れる事が可能な攻撃で、それほど脅威と言えるものではなかった。
しかも、重金属雲の影響で初期照射は機体に殆ど危害を加える事が出来なかったのだ。
ロンド・ベル隊が所持する弾薬に底が見え始め、部隊を弾薬の補給に戻った後衛部隊と合流させようと考えた時に嫌な連絡が入る。
「マザー・ベル(中里 少尉)よりベル1(御剣 大尉)へ、
多数の重光線級と要塞級で構成された、BETAの後衛が接近しています。」
「・・・部隊を下げる時に、重光線級に後ろから狙われるのはいい気分じゃないな。」
俺はそう言って、BETAの後衛をレーダーで確認した。
BETAの後衛は、重光線級への攻撃を警戒しているのか、戦闘が始まる前から要塞級を前面に押し出しており、
重光線級は上空から飛来する砲弾に向かって、レーザー照射を行なうのに力を注いでいるようだった。
「ベル1(御剣 大尉)よりロンド・ベル隊各機へ、
一旦BETA後衛に接近し、パンツァーファウストで要塞級を牽制。
その後は、全力でBETA群から脱出し、補給に戻った部隊と合流する。」
パンツァーファウストとは、携帯式対戦車用無反動砲用とも言われる歩兵の装備を戦術機用に大型化したもので、
要塞級を撃破を容易にするために開発された兵装である。
使用頻度が高くないわりに重要となる要塞級へ対応できる武装として、小型・軽量でありながら高い威力を持つこの兵器は、
衛士たちに受け入れられつつあった。
初期段階では、筒をメインアームで保持し発射するタイプだったが、命中率が問題となったために、
現在は突撃砲の120mm滑空砲の砲身にセットする事で運用する形となっている。
最大戦速で要塞級に接近していた1機の不知火弐型と8機の不知火改は、
速度を落とすことなく120mm滑空砲に取り付けられたパンツァーファウストを発射する。
戦術機の速度が合わさる事で速度を増したパンツァーファウストの弾頭は、要塞級に対応する間を与えることなく命中し、
要塞級の頭部や脚部の付け根を吹き飛ばした。
要塞級の触手が届く50mに接近する前に、1機あたり4発、合計36発のパンツァーファウストを放ったロンド・ベル隊は、
全ての弾頭の行方を直接確認する前に反転し、BETA群から脱出を図っていた。
パンツァーファウストの直撃を受けた要塞級は、頭部を失い地面に横たわりながらも、しばらくの間生き続けるほど生命力が強い。
だが今回はその事が仇となり、生きた要塞級を排除する事ができない重光線級は、緩慢な動きで20体以上に上る要塞級の壁を越える事になった。
その時間を利用し、他の部隊が引いたことを確認したロンド・ベル隊は、光線属種が攻撃できないBETA群の只中を突破し、
分かれた部隊と合流を図るのだった。
九州の帝国軍部隊が撤退した事で始まった各方面への大規模侵攻により、神戸の防衛線は一気に芦屋まで下がり、
更に24時間後には尼崎まで後退する事になる。
その他に、
近畿地方は、京都,滋賀県北部(賤ヶ岳)
北陸地方は、石川県中部(金沢市)
四国地方は、香川から徳島県にかけての県境
で防衛戦が継続されており、各防衛線共に苦戦を強いられていた。
特に日本帝国の首都である京都の防衛戦で支払った帝国軍及び在日米軍の代償は大きく、防衛に不向きな京都の街中で戦闘が行なわれた結果、
千年続くと言われる都は灰塵に帰そうとしていたのだった。
神戸の防衛戦が抜かれた事で、南からの侵攻を受ける可能性が高まった京都では、度重なる犠牲に耐え切れなくなった事もあり、
これ以上の防衛は困難であるという議論が沸き起こる。
京都へ侵攻してきているBETA群は、日本海側を東進していたBETA群の半数ほどで、残りは依然として日本海側を東進している。
ここに、瀬戸内海側のBETA群から侵攻を受ける事になった時、帝国軍は防衛を続ける自信が持てなくなってきていたのだ。
そして、防衛戦で出る多くの犠牲と防衛を続ける意味を秤にかけた結果、ついに政威大将軍は首都京都を放棄する事に同意する。
それを受けて、軍部は戦力を集中させるため戦線を縮小する事を決定した。
軍は防衛に不利な京都を放棄し、1987年より浚渫工事が行なわれた琵琶湖運河の一部である大阪湾-琵琶湖ライン(旧淀川水系)を、
大きな堀として見立てて防衛線を構築する事が決定、それに合わせて琵琶湖運河以西を放棄する事も決定する。
戦艦を浮かべる事ができる琵琶湖運河は、海上戦力も有効に活用する事ができる防衛線と成り、
アフリカ大陸を守るスエズ運河防衛線に匹敵する防御力になると、軍部は自信を見せていた。
ただし、琵琶湖の北に位置する敦賀湾-琵琶湖ラインの琵琶湖運河については、戦力不足により既にBETA群に突破されているため、
滋賀県北部での防衛線は、琵琶湖に展開する海上戦力の援護を受けやすくするため、長浜まで下げられる事になる。
この計画の実行は、皮肉にも京都防衛開始から丁度一月となる8月16日に決行される事になるのだった。
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コメント
皆様こんばんは、あぁ春が一番です。
何とか月半ばの更新・・・、ギリギリ月に二回の更新ができるペースで新話の投稿が出来て、
一安心しております。
隙を見て他の方のSSや小説を読んで、自分の文章力の無さに打ちのめされていますが、
書き始めたからには切れの良い所まで更新を続けたいです。
それまで、御付き合いしていただければ幸いです。
今回は、神戸周辺でも防衛戦をメインに書きました。
戦場での犠牲をどの様に表現すれば良いのか悩んだ結果が、上で書いたモノです。
また、今回は以前から出したかったショットガンや、パンツァーファウストを漸く登場させる事ができました。
特にパンツァーファウストの部分は、多くのご意見を受けて設定を煮詰めた部分だけに、
上手く表現できたか気にしている部分です。
人の感情やしぐさを表現しきれていないかもしれませんが、今のところこの程度の表現が限界でした。
もう少し時間を置いて、成長してから見るともっと良い表現が出来るのでしょうか?
時間を見つけて、今後も足掻いてみたいと思います。
次回は、京都の退却戦を書くことになると思います。
月末の更新を目指して頑張っていきますので、気が付いた事をご指摘頂ければ幸いです。
返信
皆様、いつも様々なご意見を下さり、ありがとうございます。
今回もいくつかを選択しての控えめな返信にさせていただきます。
選択から漏れてしまった皆様には、大変申し訳ない事をしていると思いますが、
全てのご意見・ご感想に目を通していますので、その点はご理解いただけたら幸いです。
単分子カッター・・・。
単分子(1分子で構成されている)刃でカッターを作るというのは、あまり感覚的に理解し難いものがありますが、
とっても刃が薄くて切れ味がいい武器と認識すればよいのでしょう。
いくつかの設定を見て、個人的には単分子ワイヤーなら現実味が有りそうだとは感じましたが、
カッターにする設定にしっくり来なかったので、今回は採用を断念させていただきたいと思います。
ただし、こんなやり方もあるとご意見を頂ければ考え方が変わる可能性もあります。
頭の固い私を説得する御時間が有りましたら、ご意見をいただけると幸いです。
レーザー種の目玉のレンズを使ってレーザー兵器として、戦艦に乗せる・・・。
良いアイデアだと一瞬思いましたが、BETAとレーザーの打ち合いをした場合、
同じ威力だとすると圧倒的に人類が不利になってしまうことに気が付きました。
ここは、地平線の先からや障害物の裏から砲弾を撃ち込む方式をしばらく続けたいと思います。
後・・・、このレーザーって他の部分で使う事が出来ないものか・・・・・・。
S-11って威力は高いけど爆発範囲が狭いってイメージが……
確かにS-11は、指向性を与えているという原作設定が有りますので、
その威力は限定的です。
しかし、設定次第で無指向性爆弾として使う事も可能という事ですので、
そうすれば小型戦術核並みの威力を存分に発揮してくれる事でしょう。
ただ・・・、戦略核を使っても侵攻を防ぎきれないBETA群へ与える影響を考えると・・・。
群れを成したBETAって、強すぎですよね。
ゾイドのザバットのような自走型ボム……
画像を検索すると、妄想していたようなタイヤの付いたミサイル(爆弾)が出てきました。
ザバットさんの形状ですと、不整地の走破性が低そうなので、ご意見にあったようにバイク型が良いのかもしれません。
しかし、これが上手く機能しすぎると戦術機がいらなくなるような・・・。
S-11の量産に問題があるとか理由をつけて、数を制限するのもいいかもしれません。
また、BETAに迎撃されない高威力の兵器が他にないか、今後も検討したいと思います。
難民などから衛士を募ったほうがいいのでしょうか?・・・
人員不足は私も悩んでいます。
ご意見にあった、ゲームなどで人材発掘・・・。
様々なアニメで、主人公が掘り出される切っ掛けとなるあれですね。
娯楽が発展していないという原作設定もありますので、もう少し捻った設定が必要かもしれません。
しばらくの間、検討する時間を頂きたいと思います。
量子コンピュータとバイオコンピュータ・・・
原作の設定を私なりに解釈したところ、香月博士が開発していた量子電導脳は、
高温超電導物質を使っていると言う説明から、ハード的には量子コンピュータの仲間に入ると考えました。
そして、原作でこのコンピュータが完成していなかった(香月博士が使用したい域まで達していなかった)のは、
ハードに問題があるのではなく、ハードを運用するためのソフトに問題が有った為で、
とあるヒントによりそれが一気に解決したと考えた方が、物語のつながりが自然だと思えました。
ハードを一から生産するには、与えられた時間が短いと思ったのも理由の一つです。
したがって、現実ではどちらが実用化する可能性が高いかは議論せずに、原作の流れとこの作品で、
香月博士の所属する研究室から得た理論で作ったコンピュータは何かを考えるとすると、
古典的な手法で運用される量子コンピュータとするのが良いだろうという考えに至りました。
結論としては、予算と人員不足を理由にして、バイオコンピュータを作ると言うご意見は不採用という事にしたいと思います。
しかし、前回書きましたように、広義的にはバイオコンピュータに含まれ、量子コンピュータと反発しないものが見つかりましたので、
それを設定に生かしたいと考えています。
皆様、多数のご意見ありがとうございます。
皆様のご意見で、かなり設定を考えることが出来ました。
今後も、御力添えをいただけたら幸いに思います。