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No.16427の一覧
[0] 【習作】 マブラヴ オルタネイティヴ~我は御剣なり~(現実→オリジナル主人公・チート気味)[あぁ春が一番](2012/08/13 20:03)
[1] 本作歴史年表[あぁ春が一番](2011/07/11 21:36)
[2] 戦術機設定集(簡易)[あぁ春が一番](2011/08/15 13:48)
[3] 兵装・その他の装備設定集(簡易)[あぁ春が一番](2011/08/15 13:47)
[5] プロローグ[あぁ春が一番](2010/03/08 18:31)
[6] 第01話[あぁ春が一番](2010/06/06 12:15)
[7] 第02話[あぁ春が一番](2010/06/06 12:20)
[8] 第03話[あぁ春が一番](2010/07/10 09:03)
[9] 第04話[あぁ春が一番](2010/11/05 00:07)
[10] 第05話[あぁ春が一番](2010/11/05 00:24)
[11] 第06話[あぁ春が一番](2010/11/05 00:35)
[12] 第07話[あぁ春が一番](2010/11/05 00:45)
[13] 第08話[あぁ春が一番](2010/11/06 23:42)
[14] 第09話[あぁ春が一番](2011/01/27 22:47)
[15] 第10話[あぁ春が一番](2011/04/20 00:59)
[16] 第11話[あぁ春が一番](2011/05/03 18:17)
[17] 第12話[あぁ春が一番](2010/11/07 22:29)
[18] 第13話[あぁ春が一番](2010/11/07 23:04)
[19] 第14話[あぁ春が一番](2011/05/03 18:19)
[20] 第15話[あぁ春が一番](2011/05/15 23:49)
[21] 第16話[あぁ春が一番](2011/05/03 18:22)
[22] 第17話[あぁ春が一番](2011/05/03 18:23)
[23] 第18話[あぁ春が一番](2011/05/03 18:24)
[24] 第19話[あぁ春が一番](2011/05/03 18:29)
[25] 第20話[あぁ春が一番](2010/11/10 00:41)
[26] 第21話[あぁ春が一番](2010/11/11 00:05)
[27] 第22話[あぁ春が一番](2011/05/15 23:50)
[28] 第23話[あぁ春が一番](2010/11/11 23:29)
[29] 第24話[あぁ春が一番](2010/12/12 15:48)
[30] 第25話[あぁ春が一番](2011/05/15 23:51)
[31] 第26話[あぁ春が一番](2010/12/12 15:48)
[32] 第27話[あぁ春が一番](2011/05/15 23:51)
[33] 第28話[あぁ春が一番](2011/05/15 23:52)
[34] 第29話[あぁ春が一番](2011/05/15 23:53)
[35] 第30話[あぁ春が一番](2011/05/15 23:53)
[36] 第31話[あぁ春が一番](2011/05/15 01:42)
[37] 第32話[あぁ春が一番](2011/05/15 23:54)
[38] 第33話[あぁ春が一番](2011/05/25 00:04)
[39] 第34話[あぁ春が一番](2011/05/25 00:05)
[40] 第35話[あぁ春が一番](2011/05/25 00:05)
[41] 第36話[あぁ春が一番](2011/07/11 21:25)
[42] 第37話[あぁ春が一番](2011/08/15 13:46)
[43] 第38話[あぁ春が一番](2011/10/24 00:46)
[44] 外伝 TE編・上[あぁ春が一番](2012/07/23 11:57)
[45] 外伝 TE編・中[あぁ春が一番](2012/08/13 20:03)
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[16427] 第25話
Name: あぁ春が一番◆17cd7d65 ID:bc6cc51c 前を表示する / 次を表示する
Date: 2011/05/15 23:51


7月15日に日本海側の防衛線の一つであった福知山・綾部ラインを突破したBETA群は、
瀬戸内海側から侵攻したBETA群と合流する為に南下するという軍の予想に反し、進路を南東方向に向けた。

BETA群が進むその方向は、山陰本線と呼ばれる鉄道が通る細長い盆地が続く地形が続く地形となっていた。

そして、山陰本線の行き着く先には、・・・・・・日本の首都である京都が存在していたのだ。

平地を移動する場合が多いBETA群が、多少の平地が有るとは言えこのようなルートを進行するというこの動きに、
帝国軍は大いに慌てる事になる。

山陰本線が敷かれたルートは、大規模侵攻を予想していなかった事から、迎撃の為に十分な戦力を配置できていなかった。

更に、その地形の特性と内陸である事から、海上戦力による支援も難しかったのだ。

その頃、BETA侵攻の可能性が高まった京都では、数日中に首都である京都を放棄し撤退すると言う意見と、
首都を死守すべきと言う意見が対立し、政府内はおろか実行部隊の軍ですら意見をまとめられないでいた。

この時米国軍は、京都が防衛には不向きな地形である事を理由に、首都を放棄する事を提案している。

歴史を紐解いて見ても京都を守って勝てたためしが無いため、米国軍の提案は当然の事なのだが、
その国に住む人々にとって精神的な支柱でもある首都を放棄する意味が理解できていないと、
少なくない数がいる反米感情を持つ者を刺激する結果となり、米国の意思に反して議論が長引く結果となっていく。

結局、京都を出る事に応じようとしない政威大将軍の態度に折れる形で京都の防衛が決定、
在日米軍は帝国軍に付き合う形で、京都防衛に参加することになった。

福知山・綾部ラインが突破されてから約24時間後、BETA群はついに京都盆地に進入を果たす事になるのだった。








7月16日

BETA群が京都に迫っているという情報を聞き、俺は京都以西でBETAの侵攻を抑え込むという当初の考えが、
完全に崩壊した事を理解する事になった。

この情報を得た時京都へ移動する事も考えたのだが、時既に遅くBETA群の京都盆地への進入は不回避という状況にあり、
混成試験大隊の運用を考えた場合、自由度の少ない京都市街地での防衛戦よりも、瀬戸内海側での防衛戦継続を採用する事にした。

しかし、今後の方針を即断した事とは裏腹に、内心では上手く進まないBETA戦への焦りを消せないでいた。

また、京都が戦場になるという事は真耶マヤ真那マナが所属する第16斯衛大隊が戦場に出ることを意味しており、
その事も感情を抑えられない理由の一つだったのだ。

護衛対象のいる京都を戦場にした斯衛軍は、場合によっては全滅する可能性があったとしても引くことが許されない立場にある。

いくら装備が充実していようとも、自由度の少ない戦場に立つ事ほど嫌な事も無い。

俺は、マブラヴの世界でも同様の事が有った筈だ、それと比べれば京都防衛の戦力も時間も稼げていると自分に言い聞かせ、
仲間たちの前では普段以上に強気な態度に出ることでしか、湧き上がる感情を取り繕う事が出来ないでいたのだった。

焦りを押し殺し、明石から堅調に推移する防衛戦にロンド・ベル隊を率いて参加していた俺は、
毎日複数回に亘って行なわれる出撃と、混成試験大隊の設立の準備に追われることになる。

設立許可から一週間のハイペースで編成された部隊は、俺の意見もある程度反映された結果以下のようになった。


第13独立機甲試験大隊(仮):あくまでも三つの中隊が協力するという形のため、正式な大隊では無い。

第13独立機甲試験中隊(ロンド・ベル隊):中隊長 兼 臨時混成大隊優先指揮官 御剣 大尉
不知火弐型 1機
不知火改   6機     一時離脱していた隊員が復帰。3名が第25試験中隊へ編入。
不知火    2機(+1機)  1機は衛士の確保未定で修理中。不知火改へ改修予定有り。

第25独立機甲試験中隊:中隊長 黒木 臨時大尉(元第11独立戦術機甲試験中隊員,ロンド・ベル隊から編入)
不知火改  3機     ロンド・ベル隊から編入組。
不知火    1機     不知火改へ改修予定有り。
吹雪     4機(+2機)  2機は衛士の確保未定で修理中。吹雪改へ改修予定有り。

第26独立機甲試験中隊:中隊長 高畑 大尉(姫路防衛戦後に合流済み)
撃震改(仮) 8機(+2機) 2機は衛士の確保未定。機体は搬入済み。

合計    25機(+5機)



損傷により修理を受けている機体も有る上に、衛士の数が確保できていない為、大隊の定数を満たすまでには至っていないが、
少しでも戦力が欲しい状況で、25機の戦術機という戦力は貴重だった。

しかし、部隊の編成は成されたが、機体操作と部隊連携の習熟度を考えると直ぐに大隊で運用を行なう事には無理があった。

そこで、各中隊の部隊長だけで協議を行い、部隊運営の方針を決める事になった。


「今回の話し合いの目的は、第13独立機甲試験大隊(仮)の設立理由を共有する事と、今後の方針を決める事だ。
 混成試験大隊の指揮権は俺が持つ事になっているが、大隊を指揮する経験が豊富な訳ではない。
 また、このような部隊運営についてもあまり例が無い。
 何か疑問に思うところや改善した方が良いと思う事が有れば、遠慮なく言ってくれ。」


俺は協議を始めるときにこう前置きした後、自らの考えを語りだした。


「俺が考えている陸上の対BETA戦で有効な戦術は、広い空間を利用し物量に勝るBETAに対し、
 局地的に有利な状況を作り出す事。
 つまり、極めて高い機動力を有する打撃戦力により、BETA群に対して機動戦を仕掛けると言う、
 極めて単純で使い古された戦い方だ。」
 

戦いの基本は、相手より多くの数を揃える事である。

もし人類がBETAと同数の戦車や戦術機を運用する事が可能であれば、
対BETA戦はもっと違う形になっていた事が容易に想像できるのがその証拠だ。

しかし、人類が数十万の機甲部隊を同時に運用する事が出来ない以上、この考えは絵に描いた餅である。

だが、古来より数で劣る側が勝利した例が無い訳ではない。

その歴史的事実と、現時点で人類がBETAに対して、保有する戦力(物量)と戦闘継続能力という点では負けており、
光線属種を除いた場合の火力と一部の兵器が持つ機動力では勝っているという現実を認識する事によって、
まだ人類には取るべき手段が残されている事が分かるのだ。

そして、対BETA戦が一度の局地的な戦闘での勝利が、最終的な勝敗に結び付かない事も理解していた俺は、
この混戦大隊が示す事になるであろう、戦い方を軍全体が取り入れる事、
つまり戦闘教義「ドクトリン」を変更するまでの大改革が必要になってくると、密かに考えていた。


「要となる機動戦を仕掛けるのに必要な高い機動力を確保する方法として考えているのが、
 他の兵科で編成された部隊の援護を必ずしも必要としない、戦術機だけで構成された部隊運用だ。
 過去にこの戦い方を対BETA戦で使用し、成功した例は少ないため広く使われていないのが現状だが、
 当時と今では状況が異なってきている。
 戦術機の運用が開始され始めた創成期には存在しなかった、第3世代機とそれに準じる戦術機の登場により、
 前提条件が大きく変わったんだ。」


この考えの実行例の一つに、光州作戦でロンド・ベル隊と鞍馬で編成された第03独立戦術機甲試験大隊が行なった、
持ち前の火力による面制圧と機動性を生かして素早く拠点を移すことで、BETA群の圧力を直接的に受けない様にするという戦い方がある。

そして、一般的に行なわれる他の兵科と戦術機部隊が連携した機動防御戦術もこの思想に近いものがあった。

しかし、光州作戦での戦い方や機動防御戦術には弱点も存在する。

それは、BETAの動きをある程度予測して、陣地の構築を行なう必要性が有ることと、
どちらの場合も一時的に敵戦力を自陣に引き入れる戦い方のため、予想を上回る戦力の攻撃を受けた場合は、
対処が間に合わず大きく後退する可能性が高いという点だ。

そのため光州作戦では、戦場として使える範囲がBETAの数とこちらの戦力に対して狭かった事と火力不足によって、
完全にBETA群を引き付ける事が出来ず、有効性の一部が証明されるに留まっている。

俺はこの問題点を解決する方法として、より攻撃的な機動戦術も併用する必要があると考えていた。

BETAに攻撃を仕掛けた戦術機は、従来通りにBETAを引き連れて後方の陣に下がるので無く、防御陣と離れた地点に誘導した後、
機動力でBETA群を振り切る事や、始めから防御陣とは正反対の位置から出撃し、陽動をかける事も必要になると考えていたのだ。

これらの作戦行動は、下手をするとBETA群の中に孤立し包囲殲滅される恐れもあるが、僅かな戦力で多くのBETAを引き付ける事に成功した場合、
貴重な時間を稼ぎ防衛線に掛かる圧力を低減できる事を考えると魅力のあるものだった。

そして、この作戦を成功させる上で前提条件になると俺が考えたのが、今回組織された大隊規模の戦力を整えた精鋭部隊である。

中隊では根本的に火力が不足している事や、包囲された場合にBETA群を突破可能な火力を保持し続ける事を考えると、
戦闘継続時間が極端に短くなる事が予想された。

また、大隊以上の戦力では陽動などを行なう際に防衛線から抽出する戦力が多くなる上、
場合によっては遊兵化してしまう可能性もゼロでは無いため、大隊以上の戦力を運用する事は考えられなかった。

もちろん、部隊は必ずしも単独で運用されるわけでは無い。

部隊が援護を受けられる状況なら、援護部隊と連携しBETA群を火力地点に誘導するなどの戦術も考えられるのだ。


「第3世代機の登場で変わった前提条件とは、既存の戦術機よりも高い機動力だけではない。
 データリンクシステムの精度が向上したことで、部隊間の連携が容易になった事も重要な要素の一つだ。
 これにより、大隊規模で戦術機部隊を運用する事が可能となった・・・。

 欧州ではその事を見越して、戦術機部隊だけで編成した部隊運営を検討しているという情報も入ってきている。」


戦術機の連携には中隊規模が最適だとした理論は、戦術機の性能が低かった時に作られた物である。

しかし、第3世代機の戦術機が持つ情報処理能力により、個々の兵器が収集した情報を統合運用するデータリンクシステムの精度が増した結果、
前線でも高い精度で運用できるようになり、条件を整えれば大隊規模で部隊を効率的に運用する事も不可能では無くなっていたのだ。

大隊規模で戦術機を運用する上で重要となって来るのは、戦域管制や機体の状況といった情報処理を行なう専任士官、つまりCPの存在だった。

これまでの経験上、前線と後方では情報の伝達に齟齬や遅れ、通信の途絶などもあるため、
部隊にも最低一人は従軍しバックアップを後方に置く事が求められる事になると考えている。

もっとも完全な遊撃部隊となると、中隊毎にCPを置いたほうが確実ではある。

その事を考えると、第3世代機を運用しているとは言え、CPや特殊な情報処理を行なう機体が存在しなくても、
大隊規模の連携を行なえる斯衛軍第16斯衛大隊の錬度の高さは、驚嘆に値するものがあった。

そして、戦闘のすべてを戦術機で行なうという試みが欧州で始まっているようだが、俺の場合はそれほど戦術機の能力を過信してはいない。

搭乗者に高い適正を求める今の戦術機では、何処まで汎用性が高まろうとも特殊部隊用、
もしくは通常戦力の補助戦力に落ち着くしかないと考えていたのだ。


「大隊を混成部隊としたのには、いくつか理由がある。

 1.大隊を一つの部隊として運用する事を考えると、前衛と後衛では求められる機体の能力が変わってくる。
 2.求められる機体能力の違いを同一機種で満たせるほどの余裕が、現在の主力第3世代機である不知火・吹雪には無い。
 3.精鋭部隊にはベテラン衛士の存在が不可欠だが、ベテラン衛士の数と機種転換訓練の時間を考えると、
   撃震を準第3世代機に改修した機体を運用し、それにベテラン衛士を乗せる必要がある。

 火力の事を考えると、鞍馬が6機ほど欲しかったが・・・、それは欲張りすぎか。」


これらの混成部隊が分業する事によって、互いの劣っている部分を補う方法は、ロンド・ベル隊とそれに合流した部隊が山口からの退却戦で、
その有効性を示していた。

ただし、戦術機間の機動力の差を埋めるために、撃震には軽量化が行なわれていた事は忘れてはならない。

混成試験大隊は、今まで挙げた考え方が正しい事を実戦で証明する事が求められていたのだった。









混成部隊設立の目的を聞いた二人の大隊長と俺が話し合って出した結論は、やはり現状の衛士の錬度と急ごしらえの部隊の状況を考えると、
到底実現する計画では無いと言うものだった。

しかし、この戦術を確立する事の意義は、隊長間で共有する事は出来たようだった。


「急ごしらえの部隊で楽に達成できるほど甘いものではないという事は重々承知している。
 この計画の企画書を提出した段階では、BETAの本土進攻は考えられていなかったし、訓練を最低三ヶ月間行なう事になっていたんだ・・・。
 それが、上からの命令で一月以内に結果を出せという話になるとは想定外だった。」


「隊ちょ・・・いえ、御剣大尉。
 部隊の中でベテランが占める割合は、他の部隊と比べても高い水準にあります。
 それに、常に成果を挙げてきた御剣大尉に率いられているという事で、士気は上がっています。
 決して不可能というわけでは・・・。」


「黒木 臨時大尉、貴官の気持ちも分からんではないが、士気だけでは埋まらないものもある。

 それに、貴官が率いる第25試験中隊の半数を占める実戦経験が不足している衛士たちの士気は、
 BETAへの恨みによる所が大きい。
 暴走する危険が高い者たちの存在は、いざという時に部隊崩壊の切掛けとなるぞ。」


「お言葉ですが、高畑 大尉。
 第26試験中隊の方こそ、新しい機体に戸惑っている衛士が多いように見受けられました。
 このままでは、実戦で部隊の足を引張る事になるのではないですか?」


高畑 大尉の発言にすかさず反論した黒木 臨時大尉は、そのままの勢いで高畑 大尉を睨みつけた。

しかし、その視線を受けた高畑 大尉はそれを無視するかのように静に受け流すのだった。

この真面目な発言が特徴の黒木 臨時大尉は、第11独立機甲試験中隊の生き残りで、合流後は中衛として活躍してくれていた人物である。

もし部隊長となれる人物が確保できなかった場合の候補として俺から推薦状を出していたのだが、
その影響もあってか今回の部隊編成で戦時昇進を果たし、第25試験中隊の中隊長を勤める事になったのだ。

そして、高畑 大尉は姫路での戦闘で救出した撃震部隊の中隊長を務めていた人物である。

俺は、二人の様子に軽くため息をついた後、二人の間を取り持つ事にした。


「黒木 臨時大尉。
 高畑 大尉は、部下の掌握が出来ていないとお前を攻めているわけではない。
 全ての部下の現状を把握できるような時間はなかった事は承知しているし、
 短時間でこういった事を感じ取れるように成る為には、多くの経験が必要だという事も理解できている。
 お前は、初めての部隊長としては上手く部隊をまとめられているよ。

 高畑 大尉。
 新人の面倒を見ることも先任の仕事だと思います。
 大尉の懸念は分かりますが、少し間の猶予とベテランの力を貸していただけませんか?」


「・・・すまんな、黒木 臨時大尉。
 新型への習熟訓練が思うように進まなかった事で、気が立っていたようだ。」


「こちらこそすみませんでした。
 初めて率いる事になった中隊の隊員の事を悪く言われたと思って、頭に血が上ってしまいました。
 高畑 大尉が仰るとおり、訓練で前に出すぎる事が多い隊員が何人かいます。
 私はそれを士気が高い証拠だと思っていたのですが・・・。
 高畑 大尉、精神が不安定な部下の錬成に第26試験中隊の力を貸していただけませんか?」


「黒木 臨時大尉・・・、我等の経験が若い者達に役に立つのであれば嫌は無い。
 微力ではあるが力を貸そう。」


年齢差のある二人の中隊長は、どちらからともなく手を差し出し、握手を交わしたのだった。

その光景から、少しではあるが中隊長間の理解が深まった事を確認した俺は、話をもとの話題に戻した。


「御二人の仲が深まった所で本題に入ろうと思う。
 結果を出すまで期限を考えると、訓練に割ける期間は二週間だけだ。
 もちろんその間にも、防衛戦に参加する必要がある。
 この期間で、大隊での最低限必要な連携を身に付け、遊撃部隊として出撃する事になる。

 各部隊の状況報告を聞いた上で、二週間の間の戦い方と訓練方法を決めたいと思う。」


「では、第26試験中隊から報告しよう。
 所属する8人の衛士の中で、経験の浅い者は2人。
 残りの6人はBETA戦を10回以上経験したベテランだ。
 経験の浅い2人を援護しながら通常戦闘をこなす事は可能だ。
 中隊内での連携も、一週間もあれば形にしてみせる。

 ただし、撃震改の性能を引き出すには、まだまだ時間が掛かりそうだ。
 特に、準第3世代機としての機動力を生かした戦闘と連携についての経験が不足している。」


「第1世代機から準第3世代機への乗り換えが大変な事は分かります。
 しかし、撃震改が持っている根本的な機動の癖は、それほど大きく変わっていません。
 第3世代機の機動に関しても、模擬戦等で見た経験や機動を真似た経験はお有りなのでしょう?」


「確かに、陽炎や不知火に撃震で勝てないかと足掻く過程で、上の世代の戦術機の機動を試した事はあるが・・・。
 
 それと、確かに不思議な事に撃震改は撃震と比べて、体への負担が大きくなっているとは感じていない。
 新OSの第二段への対応が終われば、撃震と比べて感覚が変わった部分の情報を部隊内で共有する事で、
 早く錬度が上げられる可能性もある。

 御剣 大尉・・・、前に撃震が時代遅れと言った事が有っただろう?
 悪いがあの発言は訂正させてもらうよ。
 やはり、撃震はいい機体だ。」


高畑 大尉はそう言って、撃震改(仮)の感触を思い出したのか、満足そうな表情を見せていた。

F-4JX 撃震改(仮)は、更に突き詰めれば第三世代機と同等の性能を確保する事も不可能では無いという能力を秘めていた。

しかし、搭乗する衛士の事と使い勝手の事を考慮して、機体の耐久性と生存性,積載能力を優先した事で、
準第3世代機という性能に落ち着く事になった機体である。

また、その操作性も瑞鶴の経験を生かして軽量化と調整を行なった事で、撃震と比べて大きく操作特性が変わらない味付けとなっていのだ。

そのため、既存の第三世代機に機種転換できない撃震を駆るベテラン衛士が、短期間で機種転換を行なう事も可能となっていた。


「次は、第25試験中隊から報告します。
 第25試験中隊は、元ロンド・ベル隊の私を含む3人以外は、この度の本土防衛戦が初陣であるため、
 実戦経験が十分であるとは言えないのが実情です。
 特に、吹雪に搭乗している4人を前衛として使うのは、困難であると考えています。
 
 また、高畑 大尉が指摘されたように、一部の者は昔の仲間がやられた怒りで感情的に成っており、
 実戦で自制が利かなく成る可能性もあります。

 ただし、第26試験中隊と比較して、機体への習熟はある程度済ませていますので、その点の心配はありません。」


第3世代機、特に不知火を駆る実力のある衛士たちは、所属する部隊が解散した場合、戦力を手元に置いておきたい司令官が、
優先的に自分の所属する部隊に編入させるか、軍本部の意向で臨時の指揮官になる事も多かったため、
第3世代機を駆るベテランの新規加入は無く、そう言った意味ではロンド・ベル隊の者は貴重な存在だった。


「11試験中隊がロンド・ベルに加入してきた当初と、今の第25試験中隊の雰囲気は似通っている。
 自分たちが経験したことの中に、彼らに接する方法の答えが隠されている筈だ。

 ・・・黒木さんは中隊を率いるのは初めてなんですから、全てを一人で背負う必要は有りません。
 周りには俺たちが居る事を忘れずに、可能な範囲でやって見て下さい。」


「やはり隊長には敵いませんよ。
 既に、ロンド・ベルへ加入した二人は、部隊に溶け込んでいるように見えました。
 これで私より年下なのですから信じられません。」


「・・・訓練校時代に身に付いてしまった習性なのかも知れんが、軍人というのは部隊に鬼軍曹と優しい先任が居れば、
 自然と優しい先任の下で団結するものだ。
 この状態を第一段階として、次は鬼軍曹は意外といい人だった!?などの段階を踏めば、
 よっぽど個性的な奴でない限り、何とかなるものだ。

 それと、昔から落ち着きが有るとは言われているが、これでもまだ二十歳ですので・・・。
 (精神年齢的には一応高畑 大尉より年上になるのだが・・・、なんと言い返せば良いのかわからん)」


この後も続いた話し合いにより、二週間は従来通りの作戦で行なわれる防衛戦に、第25試験中隊と第26試験中隊を交互に参加させ、
ロンド・ベル隊は護衛兼教導部隊として、それぞれの中隊に部隊の半数を出す事になった。

そして、残りの二週間のうちの前半を大隊での連携訓練に使い、混成大隊設立の目的である遊撃部隊としての初陣を、
後半の数日間で飾る事に決定したのだった。








実戦の中で訓練を行なう事になった第13独立機甲試験大隊(仮)だったが、その歩みは順調とは行かなかった。

高畑大尉の第26試験中隊は、動きがぎこちない場面も見られたが、互いにフォローする事でミスを打ち消しあい、
ベテランの貫禄を見せ付ける様に安定した成績を叩き出していたのだが、黒木 臨時大尉の第25試験中隊の方は、
ロンド・ベル隊の隊員が終始援護に回る必要が有るほど、連携が取れていなかったのだ。

それでも死者を出すことなく全員が戦闘に参加出来ていたのは、全ての衛士がBETA戦の経験が有った事や、
新型管制ユニット搭載済みの機体であった事、衛士の加入待ちだった機体が結果的に予備機となった事など、
様々な出来事が積み重なった結果によるものだった。

しかし、部隊結成から一週間がたったある日、事態は一変する。

前線に真新しい戦術機と共に、大量の新人衛士が投入される事になったのだ。

そして、その新人衛士たちは当然のように第13独立機甲試験大隊(仮)にも加入する事になる。

これにより、精鋭で大隊を編成するという当初の予定が大きく狂う事になった。

確かに我々の部隊に配属された衛士は、訓練校での成績優秀者が選ばれているようだったが、
今から新人の衛士を鍛え上げてBETAの大群と向き合う事が出来るようにするほど、訓練に費やす時間は残されていなかったのだ。

この時投入された新人衛士たちのあまりにも高い損耗率を知らされた日本帝国政府は、
国内での戦闘でも大陸で出した被害と大きく変わらない事を認識し、改めて対BETA戦の恐ろしさを実感する事になった。

この出来事を切掛けとして、改めて兵器の生存性に注目が集まり、その中でEXAMシステムver.2を搭載した撃震の生存率が、
新人衛士の場合でも非搭載型と比べて大幅に改善している事が分かると、計画を前倒しにして帝国軍が運用する戦術機全機へ、
EXAMシステムver.2搭載が決定する事になる。

そして、失った戦力を補うために、更に各兵科の訓練課程が短縮される事になり、調達が容易な兵器として制式採用された物の中には、
F-4JX後の制式名称 F-4JF/98式戦術歩行戦闘機『烈震(れっしん)』が含まれる事になった。

烈震の制式採用後、撃震は急速な勢いで前線から姿を消す事となる。

しかし、これらの出来事で前線の環境が少しは改善されてくる可能性も有ったが、それはまだまだ先の話であり、
促成栽培の兵士では戦場の過酷さに耐えられず、この後も多くの命が散って行く事になるのだった。







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コメント

皆様こんばんは、あぁ春が一番です。
月に二回は更新すると言って置きながら、それを守れなかった私ですが、
まだ私の拙い文章を読んでくださる人はいるのでしょうか?
読んでいただいた方には、改めに感謝させていただきたいと思います。
本当にありがとうございます。

湿っぽいのは、これまでにしてこの話の話に入ります。
今回はハッキリいいますと文章が短くなった上に、殆どが設定を詰め込んだ文章となっています。
それなりに会話も入れてみましたが、説明口調なのでキャラの描写が不足しているかと思います。
次の話で、キャラの描写を増やすように努力しますので、それで勘弁してください。

それと、多機種運用の妙が見れるのか?という事が感想板で書かれていましたが、
概要だけ説明して次回へ持ち越しとしました。
未だに頭を抱えていますが、表現したかった描写の一つですので頑張ってみたいと思います。

F-4JX 撃震改(仮)の正式名称は、蒼蛇 さんが書き込んで下さった『烈震(れつしん)』を採用する事にしました。
その経緯は、撃震改のままだと分かりやすい反面、F-4J改『瑞鶴』と被る部分がありましたし、
『震電』とかも考えましたが、『烈風』という艦上戦闘機に思いをはせて、この名前に落ち着いたというものでした。
蒼蛇 さんどうもありがとうございました。

次回こそは、神戸辺りの防衛戦か京都の防衛戦に突入する予定です。
時間という難敵との戦いに四苦八苦していますが、今後も出来る限り頑張りますので、
何か気が付いた事がございましたら、ご指摘を頂ければ幸いです。



返信

皆様、いつも様々なご意見を下さり、ありがとうございます。
今回もいくつかを選択しての控えめな返信にさせていただきます。
選択から漏れてしまった皆様には、大変申し訳ない事をしていると思いますが、
全てのご意見・ご感想に目を通していますので、その点はご理解いただけたら幸いです。


『S-11』を弾頭にしたミサイル・・・。
ガン○ム SEED D の大量破壊兵器を装備した機体をイメージしてしまいました。
S-11は打ち落とされた場合にどうなるか分からないので、乱発した場合の扱いに少し困っています。
バランスを考えて登場させるか検討してみたいと思います。

弐型にて、腰部装甲ブロックへの小型推力偏向スラスター搭載により、廃止された腰部のマガジンラックについて・・・。
確かにこれを補うための設定が必要でした。
少し設定を考えてみたのですが、このまま設定を直すよりも、現在主人公が乗っている弐型がテスト用だという事を利用して、
量産を目標にしたタイプでは改良されたという流れにしたいと思います。
この設定がでてくるまで、しばらくお待ち下さい。

光コンピュータorバイオコンピュータ・・・
新型情報処理装置の必要性は、以前から考えていましたが、具体的な参考を教えていただきありがとうございました。
私の個人的な感想を言いますと、バイオコンピュータの方が00ユニットとの親和性を考えると、
設定として使いやすいと感じました。
ただし、両方とも耐久性を考えると戦場で使う事に躊躇してしまいました。
そこで、広義的にはバイオコンピュータに含まれるある物が見つかりましたので、それを基本に設定を作りたいと思います。

地面におくと自動射撃を行ってくれるという機構で、自動擲弾による曲射・・・
少し考えてみたのですが、いかに多くの火力を安全な地点から叩き込むか、という事を対BETAの基本概念だとすると、
光線属種に迎撃されやすい曲射弾の発射装置を、戦術機に運ばせる事は効率的で無いように思えました。
これなら、自走砲などで遠距離から砲撃したほうが楽ですので・・・。
しかし、この書き込みで新しい設定が思い浮かびました。
迎撃されやすいなら、それを利用して・・・。
ネタ帳には書き込んでおきましたので、機会があればでて来るかもしれません。

担架と担架の間に空間がありますがそこに増槽を・・・
残念ですが、その部分には既に予約が入っていました。
色々考えるお陰で、スペースの確保が大変になってきています。
増槽の追加場所として採用するかしないかは未定ですが、参考させていただきたいと思います。

ゴキブリホイホイみたいな物質を散布したり、地盤を液状化・・・
ついでにシビレ罠と落とし穴も考える必要があるのでしょうか?
上手く行き過ぎるとただの狩りになってしまいますので、パワーバランスを考えた上で、
取り扱いをどうするか決めたいと思います。


皆様、多数のご意見ありがとうございます。
最近の忙しさのせいで、話を書く事で精一杯となっているのが現状ですが、
10月を過ぎれば定時に帰られるようになる可能性があるので、それを信じて頑張っています。
余り多くの返事が書けなくて恐縮なのですが、今後も気軽に感想板にご意見を寄せていただければ幸いです。


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