7月9日 海底のセンサー網により、九州西部の海域で発見されたBETA群は、同日熊本県から九州への上陸を開始した。
この時九州に在住していた民間人は、二年前から自治体が準備していた複数の避難計画のうちの一つに従って、
鹿児島・宮崎・大分県への避難を開始する事になる。
九州全体が台風の影響下にある事や、山陰地方へのBETA侵攻により中国地方への避難ができない状況である事など、
避難が困難な条件が重なり合っていたが、九州に在住していた民間人が就労についている者しか居なかった事が幸いし、
一部の地域で民間人がBETA群に包囲されて全滅するという悲劇もあったものの、避難状況は中国地方よりも順調に推移して行く。
この民間人の避難が成功した事で、九州の帝国軍はある程度自由な戦略を取る事が可能となった。
そして、九州を守る帝国軍はBETA群を発見した時点で、二日前のBETA侵攻に合わせて移動させていた戦力の再編成を行い、
迎撃態勢の構築を急いでいた。
戦力の再編成を行なう中で、BETA群の九州への上陸開始時刻、熊本県の海岸沿いに展開可能と考えられていた部隊数では、
迫り来るBETA群を迎撃するのには明らかに戦力不足であることが判明する。
そこで帝国軍は、迎撃に参加する事が出来る熊本・鹿児島・宮崎県の所属部隊でBETA群の南下を食い止め、
その間に北九州に展開していた主力部隊を用いて、熊本県内で拘束されているか北上を行なうBETA群を叩くという作戦を採用する事になる。
作戦の第一段階であるBETA群の南下阻止は見事に成功し、BETA群は何かに引き寄せられるかのように北上を開始した。
しかし、作戦が順調に推移していると思ったのも束の間、作戦の第二段階の要である北九州に展開していた主力部隊が編成を整えた時、
山陰地方での迎撃が失敗し中国地方から北九州へBETA群が侵攻してくる可能性があるという報が舞い込んでくる。
北九州に展開していた帝国軍は、この挟み撃ち似合うかもしれないという状況に、
戦力を二手に分ける二面作戦を選択せざる終えなくなった。
その結果、中国地方からの侵攻を辛うじて阻止する事に成功するも、熊本から北上してきたBETA群の迎撃に失敗、
日本帝国は僅か数日間で熊本県北部・長崎・佐賀・福岡県西部を失う事になる。
その後、九州の帝国軍は台風の影響が残る間に、福岡・大分県を放棄するまでに追い詰められていった。
だが、台風が去った後九州の帝国軍は驚異的な粘りを見せる事になる。
それまでに民間人の後方への避難を終えていた事で戦術の幅が広がった帝国軍は、徹底した遅滞戦闘と塹壕戦、
活用できるようになった海上戦力を駆使し、民間人が船に乗り九州から脱出するまでの時間を稼いで行ったのだ。
帝国軍は、九州の領土が鹿児島県東部の大隈半島周辺だけという状況にまで追い詰められる事になったが、
台風が去って以降に生存していたほぼ全ての民間人を避難させる事に成功する。
最終的に一ヶ月に及んだこの九州での戦いで、日本帝国は九州に残っていた人口のおよそ2/5に当たる250万人の民間人と、
九州に所属する帝国軍の8割近くを失う事になったのだった。
7月10日
BETAの侵攻を受けた中国地方の状況を簡単な言葉で言い表すと、「最悪」の一言だった。
避難が間に合わなかった民間人、一部で残っていた大陸難民を戦闘に巻き込んだ結果、
統計データ上では既に200万人近くの民間人が犠牲になっているとされ、これからBETAが侵攻してくる地域の避難も完了していない事から、
更に多くの犠牲者が出る事が予想されていたのだ。
そんな状況の中、有効な戦闘が出来ない帝国軍は早々に山口・島根両県での防衛を断念し、日本海側は鳥取県西部にある米子(ヨナゴ)基地での防衛、
瀬戸内海側は山口県東部の岩国基地で時間を稼ぎ、広島市周辺で防衛を行うという作戦を立てる事になる。
その頃、岩国基地で簡易整備と補給を受けたロンド・ベル隊だったが、整備と補給を終えた時点で岩国基地西部の防衛線が崩壊、
可能な限り岩国基地で時間を稼いだ後、広島市の防衛線まで下がるようにと指示を受ける事になる。
ロンド・ベル隊は岩国基地防衛に参加後、退却する在日米軍機を守る殿として戦い、
無事に部隊を広島市の防衛線まで下げる事に成功する。
広島市内に入った部隊を迎えたのは、帝国軍の部隊と一向にその数を減らす気配の無い避難を行う民間人の群れだった。
ここでも、民間人の避難が成功していなかったのだ。
この状況を作り出した原因は、避難の態勢が整っていなかったとか、台風の影響があるという事も有っただろうが、
初めてのBETA侵攻を容易に退けたと世間に認識させてしまった事により、人々の中で妙な安心感が生まれていた事も、
避難が遅れている原因の一つになっていると考えざるを得なかった。
民間人の避難が遅れた事で道路の閉鎖が出来ず、広島市周辺に敷かれていた防衛線には大きな穴が開けられていた。
これを見てBETA戦の経験が豊富な者の多くが、広島市周辺には岩国基地を上回る戦力が展開しているにもかかわらず、
ここでの防衛は岩国基地と同程度の時間を稼ぐのが精一杯であると考える事になる。
もっとも、陣形が乱れているものの、漸くまとまった戦力を見る事になった実戦経験の少ない部隊では、
反撃に出ることも可能だといった内容の話が交わされている様だった。
広島市周辺で開始された防衛戦は、双方の予想を裏切り岩国基地での防衛戦の倍近い、5時間に及ぶものとなった。
防衛時間が岩国基地を上回った理由、それはこの防衛戦に4個中隊分の鞍馬が参戦し、予想以上の戦果を挙げた事にあった。
通常の戦術機が行なう二足歩行では、強風下において姿勢制御が難しくなる場合が多いが、
四足歩行を行い跳躍もその質量を動かすために四基の跳躍ユニットを使う鞍馬は、
安定性において他の戦術機を圧倒しており、なおかつ高い機動力も維持する事が出来ていたのだ。
つまり、細かな運動を行なう事で攻撃を回避するのではなく、直線の機動力と火力によって自らを守るというシンプルな戦い方が、
強風下での戦闘に適していたと言う事なのである。
その機動力を用いて、穴の開いていた防衛線を戦車部隊の援護を受けながらも素早く埋める事に成功した鞍馬部隊は、
他の戦術機部隊には無い圧倒的な火力を見せつけ、BETA群の勢いを止める事にも成功する。
結局、鞍馬が弾薬の補充を行なっている間の火力が低下する時間帯に、防衛線をBETA群に突破される事にはなったが、
BETAの勢いを一時止めた事で余裕が生まれた部隊によって、BETAの足が鈍る市街地戦を成功させた事で予想を超える防衛時間となったのだった。
広島市周辺での防衛戦の後、帝国軍は次の防衛線の構築とその時間を稼ぐための遅滞戦闘に力を注ぐ事になる。
しかし、その両方とも芳しい成果を上げる事が出来なかった。
台風と交通渋滞の影響で輸送に手間取り、次に計画された防衛線が広島市よりも100km近く後退した岡山県倉敷市周辺となったのだ。
そして、広島市防衛戦の残存部隊が遅滞戦闘を行ないながら退却を行なうも、BETA群の勢いに抗し切れず予想を上回る速度での後退となり、
ついに広島県東部で避難する民間人にBETA群が追い着くという事態を招いてしまう事となる。
その後の民間人を巻き込みながら行なわれた戦闘は、まさに地獄だった。
交通渋滞により退路を塞がれ、迫り来るBETA群の圧力に耐え切れなくなったある部隊は、BETAに対し無謀な突撃を行い、
同じ状況に置かれた他の部隊は民間人を押し退け退却を計るなど、各地で混乱が発生する事になる。
だが、どんな選択肢を取ったとしても戦術機部隊を除く多くの部隊は、等しく民間人ごとBETAの群れに飲まれていったのだ。
戦術機部隊が生き残る事ができた理由、それは道の無い場所や渋滞する道を文字通り飛び越える事が可能な兵種であるためだった。
しかし、戦術機部隊が民間人や他の部隊を無視して退却をしたかと言うとそうではなかった。
後方で補給を受けた戦術機部隊は、再度最前線へ戻りBETA群に攻撃を行なう事を命じられていたのだ。
この状況で活躍したのが、技量の高い衛士を集めて編成された不知火を駆る部隊と、安定性と高い機動力を兼ね備えた鞍馬の部隊だった。
それに対して、多くの犠牲を出す事になったのが衛士の技量不足により、強風にあおられて噴射跳躍後に転倒する事が多かった吹雪の部隊と、
そもそも退却する為の十分な機動力を持たない撃震の部隊である。
特に第1世代機である撃震は、本来なら第2・3世代機に先んじて退却する事で機動力不足を補うのが基本とする運用方法だったのだが、
第2・3世代機を温存するという軍上層部の命令により、撃震の退却が後回しにされた事で被害が拡大して行くのだった。
7月11日
広島県東部にある福山市を突破したBETA群は、岡山県まで到達し倉敷市周辺に構築された防衛線に迫った。
倉敷市周辺には、中国地方所属の部隊以外にも強風の中危険を承知の上で瀬戸大橋を渡って来た四国地方の部隊や、
遅滞戦闘を行なう帝国軍よりも一足先に倉敷市に入り防衛の準備を行なっていた、岩国基地所属の米国軍戦術機部隊も展開するなど、
予想以上に大きな戦力が集められていた。
そして、余り数は多くはなかったが、この防衛線の後方には山口・広島県での戦闘に参加し生き残った部隊も存在しており、
その生き残り部隊の中には、普段と様子が変わったロンド・ベル隊の姿もあった。
正式名称 第13独立機甲試験中隊であるロンド・ベル隊の設立理由は、最新もしく試験用に作られた戦術機及びその武装を実戦で運用し、
その運用データを収集する事である。
その部隊の中に第1世代機である撃震が紛れ込み、作戦行動を共にする戦術機が中隊の規模を超えていた事が、普段と違って見える原因だった。
ロンド・ベル隊は、これまでの戦闘で部隊長を失ったり、構成する人員が大幅に少なくなったりした部隊を援護する過程で、
それらの部隊を一時的に指揮下に置く事があった。
その中で、構成する人員が大幅に少なくなった部隊について、再編を行なうまでの間ロンド・ベル隊で預かっていたのが、
その数がいつの間にか増えてしまっていたのだ。
現在、ロンド・ベル隊とそれに同行する戦力は以下のようになっている。
機体:
不知火弐型 1機
不知火改 8機 2機小破,1機大破(機体は、衛士を管制ユニットごと救出後、S11により爆破処理済。搭乗していた衛士は軽傷。)
吹雪 6機 3機小破,1機中破
撃震 3機 2機小破
合計 18機
ロンド・ベル隊以外の者は、本来なら後方に下がって部隊の再編成を行なうべきなのだが、
その時間が無かった事や指揮系統が混乱していたため、表面上は部隊間で協力しているという事になっていた。
しかし、その中身は各部隊の最上位階級の者との話し合いより俺に指揮権が委ねられており、
実質的には一つの部隊として運用されていたのだ。
「しかし・・・、激戦区での戦闘任務が多いロンド・ベルに同行したがる部隊がいるなんて、
思っても見なかった。」
俺は、ロンド・ベル隊所属の整備士から応急処置を受けている戦術機の列を眺めつつ、偽らざる本音を吐露した。
ロンド・ベル隊は他の部隊と比べて、偵察装備の不知火改が配備され自前のCPを抱えている事から、指揮系統や周辺情報を確保しやすい事、
整備や補給を優先的に受けられる立場である事など、所属すると大きなメリットもある。
だが、一般的に見て激戦区に投入される事を考えると、メリットを差し引いてもデメリットの方が多いと思っていたのだが・・・。
「皆、お前達の事を信用しているのだ。
そろそろ自分の力というものを認識したらどうだ?」
俺は気配を察知していた事もあり、背後から突然投げかけられた言葉に対して平然と返事を返した。
「八木大尉・・・、そうやって持ち上げてもこれ以上出せるものはありませんよ。」
八木 岳史 大尉、今年で36歳になった撃震を駆るベテラン衛士である彼は、大陸に派兵され生き残った経歴を持つ猛者である。
しかし、入隊当時の衛士適正が高くなかった事と年齢の関係で、機種転換の優先度が低く設定されていたためその機会を与えられず、
撃震部隊の中隊長としてBETAの本土進攻を迎える事になっていたのだ。
本来なら、先任である八木大尉に指揮を取る優先権が有るのだが、第3世代機の指揮をした経験がない事と、
大尉を含む2機を残して部隊が壊滅した事を理由に、俺に指揮の優先権を譲っていた。
現在は、他の中隊から合流した撃震1機と複数の部隊の寄せ集めである6機の吹雪を一つにまとめて擬似的な中隊を編成し、
ロンド・ベル隊を支援する後衛部隊の指揮官という立場となっている。
彼の彫りの深い顔と鍛えられた肉体,短く切られた髪や日に焼けた肌からは、まさにベテランという雰囲気が漂っており、
若手が多い吹雪の衛士たちは仮の指揮官である俺よりも、彼を慕っているようである。
ちなみに、吹雪に乗る衛士たちは中尉1人,少尉5人という構成だったため、中隊規模の部隊を任せられる人材が八木大尉以外におらず、
大尉が中隊長役に納まっていた。
「軍以外に、民間からも物資を調達するお前の事だ、
煽てれば一つや二つは何かありそうだが?」
その言葉に、俺は肩をすくめることで返事をする事しかできなかった。
俺は不足する弾薬や補修部品を調達するために、軍以外にも御剣財閥を使ったルートから得られる情報を基に、
正式にはまだ軍に納品されていない倉庫に眠る部品までかき集め、部隊の補給に充てていたのだ。
そのため、専用の整備士がいる事も手伝い、他の部隊と比べて充実した補給や整備が行なわれていた。
更に、試作品であるが新しい武装も補給物資の中に入っていた事で、八木大尉が他にも何かありそうだと考える事になったのだろう。
しかし、俺にはこれ以上打てる手は持ち合わせていなかったため、八木大尉にだけ聞こえるようにして、
現状でこれ以上物資を集める事が困難である事を伝えた。
八木大尉は、一瞬真剣な顔つきになり、そうかと一言だけ呟いた。
その表情を見た俺は、物資の話を打ち切るように話題を切り替えた。
「どうして、皆は・・・。
いえ、八木大尉は俺たちについてこようと思ったんですか?
退却の時に援護した事を理由にするには、ロンド・ベルが行く戦場は厳しいところですよ・・・。」
「たしかに、お前が言う通り命を救ってもらった恩がある。
だが、それ以上にお前たちといれば生き残れると思ったからこそ、付いて行く事を決めたのだ。
それなのに、指揮官であるお前が自信を無くすようでは皆が動揺するぞ。」
「分かってはいるんですがね・・・。
戦闘中は冷静になる事が出来ても、それ以外の時にふと考えてしまうんですよ。
自分が仲間の命を預かる部隊長という任に応えられる人間で有るか、という事を・・・・・・。」
俺の言葉を聞いた八木大尉は、俺の肩に手を置き小さな声で語りだした。
「御剣 大尉・・・、お前はまだ二十歳という年齢を差し引いても良くやっている。
機体と衛士が優秀である事も影響しているだろうが、山口に配属されていた戦術機部隊で、
死者が出ていないのはお前の中隊だけ・・・。
それだけでも、中隊を率いている者の実力が分かるというものだ。
それに、『死の鐘』と言われて嫌われていた事を気にしているかもしれないが、
お前の部隊に所属する者は生き残った者が多いのだろう?
なら、同じ部隊に入ってしまえば、不幸が訪れるのは敵だけだ・・・。
そうだろ?」
そう言って八木大尉は、自信満々の笑みを浮かべた。
俺はその表情を見て、これが隊長と言うものが取るべき行動なのだろうと感じると同時に、
大陸で散って行ったロンド・ベル隊の隊長や先任たちの事を思い出すことになった。
しかし、そういう風に振舞えない自分への苛立ちが、言葉として口からこぼれ出るのだった。
「そうは言っても、ロンド・ベルと合流した後で落とされ、死んで行った衛士が何人もいます。
それに、急造の部隊ではどうしても連携に隙が生まれます。
大陸で挙げた戦果のように、皆を生きて返せる自信は有りませんよ。」
「そうかもしれん。
だが、ロンド・ベルと合流してから圧倒的に被害が減っているのは事実だ。
その事実だけで、皆は安心できる。
ついて行く価値があると考えられる。
それに、やられたのは独断専行をした者や既に機体が大破していた者たちが大半だ。
そういった者たちまで守れるほど、人間は万能では無い。」
「そうかも知れませんね。
でも・・・、人が死ぬ事に慣れる事は出来ないんですよ・・・・・・。
すみません、愚痴はこれだけにします。
先ほども言いましたが、戦闘中にこういった感情は持ち込まないので安心してください。」
この会話の後、俺たち二人はブリーフィングルームとなる車輌に隊員たちを集めて簡単な打ち合わせをし、
倉敷市周辺で行なわれている防衛戦に参加したのだった。
倉敷市周辺で行なわれている防衛戦に途中から参加することになったロンド・ベル隊は、市の南側に位置する戦域で戦闘に参加する事になった。
人数が増え二個中隊程度の戦力を抱える事になったロンド・ベル隊は、中隊毎に運用される事が多い他の部隊とは異なり、
2つの中隊が徹底的に互いを援護するという独特の戦術を採用する事で、これまでの道中で大きな戦果を挙げていた。
BETAと接敵した時、第一段階で行なわれるのが第1中隊(正式な第13独立戦術機甲試験中隊)によるBETAの前衛部隊である突撃級の排除である。
第1中隊は、噴射跳躍や群れの中を縫う様に進む特殊な平面機動を用いる事で、突撃級の背後に回りこみ、迅速に突撃級を撃破して行ったのだ。
その間に、第2中隊(合流組)は第1中隊が討ちもらしたBETAの処理や、次の戦闘の準備を行う事になる。
そして、第二段階は要撃級や戦車級が多くいるBETAの中衛部隊への攻撃である。
この時に重要になるのは、戦術機の機動力でも衛士の技量でも無い・・・、単純な火力である。
俺は第1中隊が誘導したBETAを、第2中隊(合流組)がメインとなって弾幕を張る事で撃破するのが効率が良い戦い方だと考えていたのだ。
そのため第2中隊は、運動性が犠牲になることを承知の上で火力を重視した兵装を採用している。
更に3機の撃震には、機動力を確保する為最低限必要な装甲以外を外して軽量化を計ると同時に、ある試作兵器が装備されていた。
その装備とは、ガトリングシールドと呼ばれる試作兵器だった。
ガトリングシールドは、A-10 サンダーボルトⅡやF-4J-E/98式戦術歩行攻撃機 鞍馬に搭載され、
大きな戦果を挙げている36㎜ガトリングモーターキャノン"GAU-8 Avenger"を通常の戦術機が運用するために、
92式多目的追加装甲(盾)と併せる事で試作段階まで開発が進められた武装である。
このような形状となったのには様々な理由があるのだが、一番の理由として説明されたのは、
36㎜ガトリングモーターキャノンを守る盾としての役割を多目的追加装甲に求めると同時に、
その質量により反動を抑えようとした工夫の結果であると言う事だった。
しかし、その重量ゆえに射撃を行なう為には、ガトリングシールドの搭載に必要な1本のメインアームと一本の可動兵装担架システムに加え、
更に一本のメインアームが必要である事から、戦術機に搭載する武装が減る事を懸念する報告も上がっていた。
だが俺は、火力が必要となる状況において、現時点で最も有効な武装の一つが36㎜ガトリングモーターキャノンであると認識していたため、
3機の撃震に搭載する事を決めたのだった。
また、八木大尉の乗る撃震には、左のマニピュレータが損傷していたため、シールドガトリングの装備が出来ないと言われた所を、
シールド部を左腕装甲に溶接し、装備を緊急排除するための爆薬を仕掛けるなどの措置を行なう事で、半ば無理やり取り付けられている。
米軍が好みそうなこの戦い方を説明した時、始めは反発も出ていたが、吹雪に乗る衛士が強風下での噴射跳躍や近接格闘を行なえるほど技量が高くない事や、
損傷を受けている機体が多い事、同じようなコンセプトを採用した鞍馬の活躍を話す事で、なんとか衛士たちを納得さる事ができたのだった。
これらの工夫で、火力を重視した兵装の第二中隊は、要撃級や戦車級に対して高い打撃力を持つ事になり、大きな戦果を挙げる事になる。
こうして、第2中隊が前に出ている間、第1中隊は弾薬の補給や第2中隊の援護,射線から外れたBETAの処理などの補助的な役割を行ない、
第二中隊がBETAの接近を許した時や第2中隊の弾倉交換時,光線級が出現した時のみ、第2中隊と入れ替わるように全面に展開し、
事態への対処を行なうのだった。
倉敷市周辺で行なわれた戦闘は、半日の防衛に成功するもついに戦線が崩壊する事になった。
米軍所属の部隊が優先的に退却していく中で、帝国軍も会わせる様に所属する部隊と担当した戦域によって、
岡山に向かい近畿地方に退却するルートと瀬戸大橋を渡って四国方面に退却するルートの二手に別れ、
退却を開始する事になる。
それに対しBETAも群れを二つに分け、それぞれ退却する部隊に襲い掛かって行く。
いや、群れを二つに分けたと言うよりも、退却する部隊に引き寄せられて二つに分かれたと言うのが正しい表現なのかもしれない。
兎も角、退却を開始した軍の動きに合わせて、ロンド・ベル隊も退却を開始する事になったのだが、
俺たちが居た戦域の防衛が比較的上手く行なわれていたため、他の部隊と比べて退却を開始するのが遅くなってしまっていた。
気が付いた時には、近畿地方に退却する部隊と合流するために、BETA群の只中を抜ける必要がある事態に陥っていたのだ。
俺は部隊を近畿・・・京都になるべく近づける事を考えていたため、損傷が激しい機体と撃震を比較的安全な四国方面に退却させ、
BETA群を突破する事が可能な機体と衛士だけで近畿地方に退却する事を決めたのだった。
そして、ロンド・ベル隊は以下のように素早く分かれることになった。
近畿地方行き
機体:
不知火弐型 1機
不知火改 8機 2機小破
吹雪 2機
合計 11機
四国地方行き
機体:
吹雪 4機 3機小破,1機中破
撃震 3機 2機小破,1機中破
合計 7機
「八木大尉、短い間でしたがありがとうございました。
ここで分かれる皆をよろしくお願いします。」
「残念ながらお前等についていくには、俺たちでは力不足のようだ。
だが・・・、瀬戸大橋から退却する力くらいは持っている。
心配するな。」
「あとガトリングシールドは、試作品ですが完全に新規の兵器では有りませんので、
いざという時は廃棄してしまってもかまいません。」
「安心しろ、こんな面白いものを捨てられる訳がない。
この武装の量産を少しでも早くするためも、意地でも確保しておく。
届け先は、帝国軍技術廠でいいのか?」
「はい、それでかまいませが、くれぐれも無理はしないで下さい。
それと、皆・・・別れる前に一言。
貴様等と共に戦えた事、嬉しく思う。
戦いが終わったら、飯でもおごってやる。
いつでも会いに来い!!」
「「「「「はっ!!」」」」」
俺は手短であったが皆と別れの挨拶を済ませた。
俺の言葉を聴いて、中には高い酒を奢らせてやるとか言う発言や、ロンド・ベル隊からはいつもこき使われる自分たちに、
最優先で飯を奢るべきだろうと言う発言も出ていたが、とりあえずこの場は適当な相槌を打って受け流す事にした。
このやり取りの中からは、これから退却する事に対しての悲壮感は、まったく感じる事はなかった。
この時俺たちは、自分たちが挙げた戦果に自信を持ち、全員が生き残る事が出来る・・・そう思い部隊を二つに分け退却を開始したのだ。
ロンド・ベル隊が分かれてから十数分後、近畿地方に退却する部隊がBETA群を無事に突破し、岡山に向かおうとしていた時だった。
部隊のCPを勤める中里少尉の下に、四国方面に撤退した帝国軍が撤退完了後の瀬戸大橋爆破作業に失敗したと言う情報が入ってきた。
どうやら、瀬戸大橋の爆破によって早期にBETAが四国に進行する事を阻む計画だったのが、起爆装置が小型種の攻撃により損傷し、
動作不良を起こす事態となった様だった。
しかし、その数十秒後、1機の撃震がS11を使っての自爆攻撃を慣行、その爆発により橋解体用の爆薬が誘爆を起こし、
瀬戸大橋が解体されたという追加情報がもたらされた。
俺は、その情報を聞いた時に胸騒ぎを覚えていたのだが、その時は気のせいだと言い聞かせ、退却に意識を集中させていった。
だが俺の胸騒ぎは現実のものと成る。
後日、帝国軍技術廠には爆発により溶接部が破壊され、一部が損傷した一台のガトリングシールドと、
使い込まれた二台のガトリングシールドが届けられたのだった。
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コメント
皆様、御久しぶりです。
盆休みを満喫しすぎたせいか、更新が遅れてしまいました。
更に、夏の暑さにやられて、全体的にやる気は降下気味になっていますが、
皆様のご感想に後押しされ、何とかこの作品を作っております。
感想板に書き込んでくださる皆様、そしてこの作品を見ていただいている皆様、
本当にありがとうございます。
今回は、書きたかった新装備が一つ登場し、中隊よりも人数が増えた場合の戦い方も少し書く事ができました。
物語の進行を優先させる為に、不知火改が大破した時の話や瀬戸大橋解体シーンは、殆どスルーする事に成りましが・・・。
時間と気力が湧けば外伝として書くのもいいかもしれません。
今月は、これで一回目の更新・・・・・・。
八月は残り一週間少しという状況で、もう一回更新ができるのか?
夏休みが開ける直前の学生の気分を再び味わう事になろうとは、夢にも思っていませんでした。
確実に更新できるかは不明ですが、出来るだけ頑張ってみたいと思います。
返信
皆様、いつも様々なご意見を下さり、ありがとうございます。
今回もいくつかを選択しての控えめな返信にさせていただきます。
選択から漏れてしまった皆様には、大変申し訳ない事をしていると思いますが、
全てのご意見・ご感想に目を通していますので、その点はご理解いただけたら幸いです。
XAMWS-24試作新概念突撃砲について・・・。
多くの方から様々なご意見をいただきました。
その中には、現実の突撃砲の役割に近い形で作られているのが、このXAMWS-24試作新概念突撃砲だというものも有りました。
確かに、乱戦時に銃剣としての役割を持たせている点を見ると、納得できるご意見です。
ただ少し思った事として、対人と対BETA戦を同じに考えて良いのか?
と言う疑問が残ります。
BETAは人間と違って、多少の傷では怯みもせず攻撃を繰り出す事ができるようです。
これを考えると、普通の人よりも痛覚が麻痺した狂人との戦いを考えたほうが良いのかもしれません。
そうすると突き刺すような攻撃より、斬撃により筋繊維を切断したほうが確実な手段である事が考えられ、
長刀が有効である説明にもなります。
斬撃にも耐えられる構造や強度を持った突撃砲・・・、ロマンではありますが量産を考えると、
いま少し検討が必要かもしれません。
あと、米国軍でXAMWS-24試作新概念突撃砲が採用されなかった理由は、皆様のご意見によりだいぶ固まってきました。
ありがとうございます。
フェニックスは弾頭も装置も高いので、ローコストのグレネードランチャーをフルオート化・・・。
有効なローコスト兵器を大量配備・・・、最高ですね。
グレネードランチャーをフルオート化出来るほど積載量を持った兵器には限りがありますが、
検討してみても面白いかもしれません。
ところで、砲戦仕様の鞍馬に装備してある30連装ロケット弾発射機では駄目でしょうか?
その辺りも検討してみます。
オルタ計画と別に御剣社自身でBATEが本当に生命体なのかを前提で行動予測や分析をさせたら面白い・・・。
なんと言う禁断の領域。
現時点で、炭素生命体である人間にとって、BETAは生命体以外の何者でもありません。
私も原作の最後まで、昆虫のような社会構造を持つ異性人だと信じていました・・・・・・。
少し危険な香りがする手段ですので、できれば避けたい・・・です・・・。
陳腐化したF-14を鞍馬みたいに4脚に出来ないでしょうか・・・。
戦闘機の場合でF-14 トムキャットの価格を少し調べてみたところ、
F-15E ストライクイーグルと比較してもかなり高価な機体である事が判明致しました。
確かに、積載能力と機動力には惹かれるものがありますが、制式採用はコスト的に難しい気がします。
お金持ちの、米国がテストで作るという手段は・・・・・・有りか?
凄乃皇って構造的にはリオン、武装・運用目的はジガンスクード・ドゥロだと思う・・・。
うーん、言われてみればそういう気がしてきました。
ジガンの堅さと広域攻撃には結構助けられた記憶があります。
凄乃皇が活躍すると戦術機が目立たないのであれですが、兵器としては使えるんですよね。
もちろん、味方を巻き込んで自爆しなければと言う注釈は付きますが・・・。
皆様のご意見で、検討課題やアイデアがどんどん浮かび上がってきています。
本当に、感謝の念が絶えません。
これからも時間が許す範囲で、思いつくままに感想板に書き込んでいただけると幸いです。