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No.16427の一覧
[0] 【習作】 マブラヴ オルタネイティヴ~我は御剣なり~(現実→オリジナル主人公・チート気味)[あぁ春が一番](2012/08/13 20:03)
[1] 本作歴史年表[あぁ春が一番](2011/07/11 21:36)
[2] 戦術機設定集(簡易)[あぁ春が一番](2011/08/15 13:48)
[3] 兵装・その他の装備設定集(簡易)[あぁ春が一番](2011/08/15 13:47)
[5] プロローグ[あぁ春が一番](2010/03/08 18:31)
[6] 第01話[あぁ春が一番](2010/06/06 12:15)
[7] 第02話[あぁ春が一番](2010/06/06 12:20)
[8] 第03話[あぁ春が一番](2010/07/10 09:03)
[9] 第04話[あぁ春が一番](2010/11/05 00:07)
[10] 第05話[あぁ春が一番](2010/11/05 00:24)
[11] 第06話[あぁ春が一番](2010/11/05 00:35)
[12] 第07話[あぁ春が一番](2010/11/05 00:45)
[13] 第08話[あぁ春が一番](2010/11/06 23:42)
[14] 第09話[あぁ春が一番](2011/01/27 22:47)
[15] 第10話[あぁ春が一番](2011/04/20 00:59)
[16] 第11話[あぁ春が一番](2011/05/03 18:17)
[17] 第12話[あぁ春が一番](2010/11/07 22:29)
[18] 第13話[あぁ春が一番](2010/11/07 23:04)
[19] 第14話[あぁ春が一番](2011/05/03 18:19)
[20] 第15話[あぁ春が一番](2011/05/15 23:49)
[21] 第16話[あぁ春が一番](2011/05/03 18:22)
[22] 第17話[あぁ春が一番](2011/05/03 18:23)
[23] 第18話[あぁ春が一番](2011/05/03 18:24)
[24] 第19話[あぁ春が一番](2011/05/03 18:29)
[25] 第20話[あぁ春が一番](2010/11/10 00:41)
[26] 第21話[あぁ春が一番](2010/11/11 00:05)
[27] 第22話[あぁ春が一番](2011/05/15 23:50)
[28] 第23話[あぁ春が一番](2010/11/11 23:29)
[29] 第24話[あぁ春が一番](2010/12/12 15:48)
[30] 第25話[あぁ春が一番](2011/05/15 23:51)
[31] 第26話[あぁ春が一番](2010/12/12 15:48)
[32] 第27話[あぁ春が一番](2011/05/15 23:51)
[33] 第28話[あぁ春が一番](2011/05/15 23:52)
[34] 第29話[あぁ春が一番](2011/05/15 23:53)
[35] 第30話[あぁ春が一番](2011/05/15 23:53)
[36] 第31話[あぁ春が一番](2011/05/15 01:42)
[37] 第32話[あぁ春が一番](2011/05/15 23:54)
[38] 第33話[あぁ春が一番](2011/05/25 00:04)
[39] 第34話[あぁ春が一番](2011/05/25 00:05)
[40] 第35話[あぁ春が一番](2011/05/25 00:05)
[41] 第36話[あぁ春が一番](2011/07/11 21:25)
[42] 第37話[あぁ春が一番](2011/08/15 13:46)
[43] 第38話[あぁ春が一番](2011/10/24 00:46)
[44] 外伝 TE編・上[あぁ春が一番](2012/07/23 11:57)
[45] 外伝 TE編・中[あぁ春が一番](2012/08/13 20:03)
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[16427] 第19話
Name: あぁ春が一番◆17cd7d65 ID:bc6cc51c 前を表示する / 次を表示する
Date: 2011/05/03 18:29


四日ぶりに外に出かける事になった俺は、久しぶりの太陽光に目を細めた。

己の不摂生を軽く後悔しながらも、御剣重工の送迎車に乗せられ、俺は京都にある斯衛軍訓練校を訪れる事になった。

約2年ぶりに訪れた斯衛軍訓練校は、外側から見ると大きく変わっているようには見えなかったが、その中には大きな変化が起こっていた。

度重なる人員の喪失によって補充の人員が急がれていたため、陸軍と歩調を合わす形で去年から訓練校の受験対象の年齢が一年繰り下げられ、
15歳以上とされていたのだ。

また、受験対象年齢の引き下げより先行して、士官課程以外の訓練期間が短縮されるという措置も行なわれていた。

それでも、半年間短縮されたとはいえ一年半の訓練期間を取る斯衛軍訓練校は、最短6ヶ月で訓練終了となる陸軍と比べると、
長いと思えるものだったが・・・。

更に、衛士訓練課程では帝国軍の標準装備となりつつあるEXAMシステムを、シミュレーター訓練の段階から使用する等、
新しい試みも行われているという話も聞いていた。

俺は久しぶりの雰囲気に懐かしい気持ちになりながらも、元教官に案内され訓練校内を視察する事になる。

いくつかの施設を見学した後、最後に衛士課程の訓練兵による実機訓練を見学する事になった。

実機訓練で使われていたのは、瑞鶴と吹雪・高等訓練仕様の2機種で、訓練用瑞鶴にはEXAMシステムver.1が、
吹雪・高等訓練仕様にはver.2が搭載されているとの事だった。

短縮された訓練期間と訓練終了まで残り半年もあるという事で、戦術機の機動が粗い者が多く見受けられたが、
EXAMシステムへの対応は十分なされており、動作の合間で戦術機が硬直するという動きは殆ど見られなかった。


「御剣中尉、今年の訓練兵の動きを見てどの様に思われましたか?」


「動きが粗い者もいますが、約1年という錬成期間を考慮すれば、悪く無いと思います。
 それより、EXAMシステムへの対応が出来ている事に安心しました。
 これは、実戦経験者の話を聞きたがる勉強熱心な教官のお陰ですかね?」


「そう言っていただけると幸いです。
 やはり、始めから新OSで訓練を行っていますので、
 旧OSから転向する衛士と比べると習熟が早いのでしょう。」


「確かに・・・、EXAMしか知らないなら旧OSの癖が出ることがありませんからね。
 後は、残り半年でどこまで実戦への対応を済ませるかが課題でしょう。

 そういえば、この後の予定はどうなっているんですか?」


「午前の予定はこれで終わりです。
 これからPXで昼食を取っていただいた後、午後から大陸での話を伺いたいと思っています。
 
 それでは、私は少し用事がありますので一旦失礼します。
 後からPXで合流しましょう。」


「分かりました。
 PXでの食事を久しぶりに堪能していますので、お忙しいなら急がなくて結構ですよ。」


各施設を視察した後、訓練の感想を元教官に伝えた俺は、昼食を取るためにPXへ向かった。

PXで料理長を務めるおばちゃんに軽く挨拶して食事を受け取った俺は、以前よく使っていた席で食事を取ろうとしたのだが、
其処には既に訓練兵が座っており、なにやら食後の会話を楽しんでいる様に見えた。

俺は訓練兵の話を聞く事も面白いと考え、その訓練兵たちに声をかける事にしたのだった。








「皆、知っているか?
 ロンド・ベルの光線級殺しが、今日訓練校にきているらしいぜ。」


「光線級殺しって、この間殿下から勲章を直接授与された、
 御剣 中尉の事か?」


「そう、その御剣 中尉が訓練校を見て回っているらしいぞ。」


「それが、本当なら握手でもして貰いたいな。」


「何を言っているんだ、貰うならサインだろう。
 その内、必ず価値が上がるって。」


「貴様ら・・・、戦術機の操縦について聞きたい事があるとか、普段している鍛錬の事を聞くとか、
 他にすべき事があるだろうに・・・。」


「隊長は真面目過ぎます。
 衛士ならともかく、普通の訓練兵ならそう言った物を求めても仕方ないと思いますよ。
 でも隊長は、本当に御剣 中尉の握手やサインが欲しくないんですか?」


「雨宮・・・、そんな物を貰って私にどうしろというのだ。」


「そんな物扱いは少し傷つくが、人に会うたびに握手やサインをするのは面倒なので、
 黒髪が綺麗な君の意見に賛成だ。」


「「「はぃ?」」」


訓練兵たちに近づいた時、話の対象が自分の噂話だった事に少し戸惑ったが、俺は当初の予定通り訓練兵に話しかけたのだ。

俺が話に割り込んだ事で戸惑いを見せていた訓練兵の小隊は、俺の階級に気が付いたのだろう、
一斉に立ち上がり小隊長らしき少女の合図で、俺に対して敬礼を行ってきた。


「中尉殿に対して、敬礼。」


訓練兵達の敬礼に応えるために食事のトレーを机に置いた俺は、大陸では殆どやる機会が無かったなと、場違いな事を考えつつ答礼を行った。

そして、訓練兵達の直ぐ隣の席に座り話を再開するように促したのだが、訓練兵たちは緊張しているのかなかなか会話が弾む事は無かった。

俺は、この場の雰囲気を如何にかするために、人間関係の構築に必要な第一歩を踏み出すと同時に、新たな話題を提供する事にしたのだった。


「緊張するのは相手の事が分からないからだと思う。
 取り敢えず気を楽にして、自己紹介から始める事にしよう。

 俺の名は御剣 信綱。
 斯衛軍の訓練兵時代に、一回の実機訓練で瑞鶴をスクラップにしたという伝説を持つ男だ。」


俺の自己紹介を聞いた訓練兵たちは、なにやら心当たりがあったのか驚きの表情を見せた。


「斯衛軍訓練校を卒業後は、帝国軍技術廠所属の独立機甲試験部隊に所属し、二週間ほど前まで大陸での作戦に参加していた。
 大陸での事は・・・、話が長くなるし、噂である程度知っているようなので省略する。

 今日は、大陸での戦いを君達の教官と話し合うために訓練校に来ている。
 そのついでに、訓練兵から面白い話が聞けないかと思い、君達に声をかけた。
 世間話をするつもりで、気楽に話をしてくれると助かるよ。」


俺はそう言って自己紹介を締めくくった後、緊張をほぐす為に微笑を浮かべ訓練兵を見回した。

それを見て安心してくれたのだろうか、訓練兵達から感じる緊張が幾分和らいだように感じた。

やはり過去にとは言え、同じコミュニティーに属していたという事実は、心の壁を越え易くするモノなのかも知れない。


「俺への質問は後で受け付けるとしよう。
 次は、小隊長の君からどうぞ。」


俺は、和らいだ雰囲気が変わらない間に、小隊長らしき長い黒髪が綺麗な少女に自己紹介を行うよう促した。


「はっ、斯衛軍訓練校 衛士課程に所属する篁 唯依 訓練兵であります。
 高名な衛士である、中尉殿と会えて光栄です。」


「・・・・・・どこかで聞いた事がある名前だ。」


俺は少女の堅い挨拶に苦笑した後、篁 唯依という名前が、つい最近聞いた事がある名前だと感じ、首を傾げて考える事になった。


「中尉殿?」


「・・・。」


考え込んでいる俺の様子に、篁さんは戸惑い他の訓練兵はにわかに騒がしくなっていく。


「中尉殿、それはうちの隊長をナンパしているんですか?」


「な 何を言っているんだ貴様は!」


「別にナンパしている訳ではないのだが・・・。」


そうしている間に、小隊のムードメーカーらしき隊員が、場の雰囲気を盛り上げるためか、俺の不信な行動を見てからかいの言葉を発した。

確かに、俺が呟いた台詞はナンパの手段としてよく使われている手なのかも知れない。

その後に、『もしかして、どこかで会った事ない?』とか続けば、より完璧になるだろう。

俺はくだらない思考を行っているうちに、頭の隅に残っていた記憶が急に蘇って来た。

しかし、思い出した事をそのまま伝えても面白く無いと考えた俺は、ナンパだとからかってきた事への反撃も兼ねて、返事を返すことにした。


「そうだ・・・、巌谷少佐に見せられた御見合い写真の娘だ。」


「「「「中尉!?」」」」


一瞬呆けた表情を見せた後急に顔を赤らめた篁さんと、冗談で言った事がそれを超える現実を告げられ驚く他の隊員の姿は、
見ていてとても楽しいものだった。


「そ、そんな・・・。
 おじ様からは、そんな話は一言も・・・。」


「御剣家と篁家を継ぐ二人が婚約!?
 ・・・ありえ無い話じゃない。」


「この情報を新聞に投稿すれば、金一封かも・・・。」


「隊長・・・、宜しければ我々も式に呼んでいただけないでしょうか?」


「まだ、婚約と決まったわけでは無い!」


俺は混乱してうろたえる訓練兵の様子に満足し、篁さんがこれ以上は無理だろうと言うほど顔を赤くした段階で、真実を伝える事にした。


「冗談だ。」


「「「「えっ!?」」」」


「昨日、巌谷 少佐と会って話をしていたのだが、そこでたまたま家族の話しになった時に写真を見せられただけだ。
 その時の写真が、少し前の写真だったので気が付くのが遅れてしまったが・・・。

 それと、巌谷 少佐が見合い相手を探しているという話は、今のところ聞いた事が無いぞ。」


「「「「・・・・・・。」」」」


「あれ?
 ここは笑うところ・・・だ・・・ろ!?」


訓練兵達が押し黙った事に違和感を感じた俺は、道化になることも覚悟で軽口を叩こうとしたのだが、
喋っている途中で直ぐ傍から妙な圧迫感を感じ、慌ててその方向を見る事になった。


「御剣中尉殿・・・、冗談も程々にしていただきたい。」


其処には、微笑を浮かべ怒りのオーラを撒き散らす黒髪の美少女が居た。

そして、その顔に浮かべてた微笑は、俺が先ほど浮かべたものとは違って、相手を威圧するものだったのだ。

他の訓練兵はこの威圧感に負け、何もアクションを取る事ができなかったのだろう。

しかし、上官である俺が訓練兵如きの威圧感に負けるわけには・・・、負けるわけには・・・。


「すみません、つい出来心で・・・。
 今は反省しています。」


結局、篁さんの圧力に屈した俺は、平謝りするしか選択肢が残されていなかったのだ。

訓練兵に頭を下げる情け無い俺の姿に、訓練兵の間に残っていた緊張が一気に解けていく事になった。

そして、他の隊員の自己紹介が終わった後、話の話題は俺の事に関するものになっていった。








「中尉は、大陸での二年間で光線級の撃破数が2桁を超えているという話がありますが、
 本当ですか?」


「正確に数えている訳ではないが、たしか一年目で3桁に突入しているな。」


「凄い・・・。
 では、200回以上の出撃で被撃墜が0というのはどうですか?」


「あぁ、メインアームが何回か吹き飛んだ事はあるが、全て自力で帰還している。」


「で では、あの噂は・・・・・・・・・。」


訓練兵達の数々の質問に対して俺が応えた戦果は、質問をした訓練兵はおろか真面目だと思っていた、篁さんでさえ興奮の色を隠せないほど、
刺激的な内容だった様だ。

これは、実機に乗り始めた訓練兵によくある、エースパイロットへの憧れのためだろうか。

俺は、個人としての戦果に感心を寄せる訓練兵に懸念を覚え、それについて釘を刺しておくことにした。


「言っておくが、これらの戦果は優秀な仲間と性能のいい戦術機に支えられて達成した数字だ。
 俺は、決して自分一人で達成できた事だとは思ってもいない。
 もし称賛したいなら、俺個人ではなく整備兵を含む部隊全体を褒めてくれ。」


「ですが、要塞級の単独撃破数や出撃回数は部隊内でも格段に多いと聞きました。
 中尉が部隊内でも突出しているのは、間違いありませんよ。」


確かに、ソウル陥落後は部隊の疲労を考えて、2交代で任務に当たる必要が有るほど頻繁に出撃する必要に迫られ、
戦術機に乗ることがさほど苦痛にならない俺は、交代なしで任務に従事する事になったため、他の隊員と比べて戦果が多くなっている。

しかし、俺が本当に大切に思っている事は、それらの戦果とは異なっているため、明確にそれを指摘する事にした。


「・・・俺が最も誇っているのは、撃破数といった個人的な戦果ではない。
 僚機の被撃墜数が0、部隊長になってからは隊員の死亡が0である事だ。

 俺が単機で動くのは必要な時の数分間だけ、それも仲間が援護してくれるから可能なんだ。
 それに仲間がいなければ、戦場では補給もままならない・・・。
 俺が言いたい事は分かるか?」


「「「「はい・・・。」」」」


「それに、他の隊員と比べて技量が高い事は認めるが、
 それもそれに見合った訓練を行なう事で、得たものにすぎない。」


「では、中尉がどの様な訓練を行なっているか教えていただけないでしょうか?」


ここにきて、一度も質問する事がなかった篁さんから初めて質問が来た。

その表情からは、真剣を通り越して必死さすら感じられ、一瞬どの様に返事をしようか迷う事になったが、
結局は包み隠さず自分が普段やっている事を伝える事にしたのだった。


「別に特別な訓練をしているという認識は無いが・・・。
 ただ訓練時間が化物だとよく言われる。
 大陸では一日平均4時間、多い時で一日10時間の訓練をほぼ毎日やっていた。」


俺の発言を聞いて、息を呑む音が聞こえた。

この訓練時間は、過酷と言われる陸軍の衛士課程で行なわれる訓練時間を、実戦に関わりながらも毎日行なっていた事に驚いたのだろう。

俺は時間があればこの訓練を、実戦があった日も行なっている事で、化物と言われている訳だが・・・。


「ですが・・・、お体は大丈夫なのですか?
 訓練での戦闘機動は一日2時間、長くても4時間までにするようにと指導されていますが・・・。」


「長時間に渡る訓練は、戦術機酔いをしないほど高い戦術機適正に支えられての事だが、
 小言を言う副隊長のお陰でバイタルデータを使った疲労のチェックはしっかり行なっている。
 それに、休暇中の今は訓練を休んでいるぞ。

 もちろん、同じ訓練を隊員に求めた事は一度も無い。
 訓練による疲労で、実戦中にミスをしましたでは、救いようが無いからな・・・。」


「そうなのですか・・・。」


「君達に俺が言いたかった事は、どんな衛士でも仲間がいなければ戦場では生き残れないという事と、
 訓練を行なう事が強くなる最善の手段だという事だ。

 そして君達が今できる事は、仲間を大切にする事と短時間の訓練でも成果を出せるように、
 その内容・意義をよく理解して訓練を行なう事である。
 ・・・と言えば分かり易いかな?」


「「「「はっ。」」」」


「其処まで畏まらなくてもいいんだけど・・・。

 それに、君達には今までの衛士に無かった良い物が配備されている。
 EXAMシステムと言う新OSの開発理念を知っているかな?」


「「「・・・。」」」


「確か・・・、全ての衛士にエースやベテランと言われる衛士達と同じ動きを可能とするというのが、
 開発理念だと聞いています。」


「篁さんは凄いね。
 其処まで勉強してくれていると開発に関った者として、とても嬉しいよ。」


「いえ、巌谷少佐から伺った事がありましたし、教官も少しだけですがその話に触れた事がありましたので・・・。
 中尉は、新OSの開発までされていたのですか?」


「いや、御剣の人間として少し関係があっただけだよ。」


実際には、プロジェクトの監修を行なう等深く関っていることだったが、あまり詳しく話すと面倒な事になるので誤魔化すことにした。

それに開発したのは、開発担当者で俺が開発したというわけではないので、嘘をついている訳では無い。


「御剣としての俺は、エースパイロットと言われる者達がいなくなる事が、
 兵器開発における究極の目標だと思っている。
 その手段の一つが、新OSであるEXAMシステムなんだ。
 これにより、エースやベテランにしか出来なかった一部の技術と同じ事が、新人の衛士でも可能になった。
 そして、今後の開発で新人衛士も操縦技術だけは、以前のエースと同レベルにまで高める事が出来るだろう。」


「確かに、旧OSと比べると格段に扱いやすくなったと聞きますが・・・。
 それでも、エースやベテランと言われる衛士に追いつけているとは思えません。」


「そうだな。
 現在でも、君達とエースやベテランと言われる衛士との間には、大きな差がある。
 そして、俺は新OSの投入で、旧OSが使われていた時のエースやベテランに対して、追いつけると表現した。
 
 この二つの事が、何を意味しているか分かるか?」


「エースやベテラン衛士は、新OSを取り入れ、更なる高みを目指している。
 と言う事ではないでしょうか。」


「正解だ。
 事実、新OS導入の初期こそ衛士間の技量差は縮まったが、最近はエース達が新しい戦闘方法を
 確立し始めたという話も聞くようになった。」


「本当ですか?
 それなら、何時までたっても追いつけそうにありませんよ。」


一人の隊員が、俺の言葉に対して弱音とも取れる発言をした。

それに対して、部隊長である篁さんはご立腹の様子だった。


「何を言っているんだ貴様は、それを乗り越える事に意味があるのだろう?」


「そんなに怒らなくても大丈夫だよ。
 しばらくすれば、エース達が考えた新しい戦闘方法も陳腐化する技術が導入される。
 そうなれば、立ち位置はエースも新人衛士も同じになる。
 其処からは個々の衛士しだいだ・・・。

 もしかしたら、若い君達が次代のエースになるかもしれないぞ。」


俺はそう言って、挑戦的な笑みを浮かべ訓練兵達を見渡した。


「この中から、俺の好敵手が現れる事を願っている。」


訓練兵達は、俺の発言に対して一様に感心し、決意を新たにしたような表情を見せていた。

俺は、その表情を見て彼等が道を誤ることは無いと感じたため、話題を切り替えることにしたのだった。








「俺個人の話はここまでにして、EXA「御剣中尉!」」


俺の言葉に被さる様に、背後から俺に対して声がかけられた。

俺がその声に反応して振り向くと、PXで合流する予定だった元教官が背後に立っていた。


「訓練兵時代に独断専行をする事があった貴方が、其処まで成長していた事を元教官として嬉しく思います。」


「そ そうですか・・・、ありがとうございます。」


俺は戸惑いながらも、教官に返事を返した。

確かに、俺の中で衛士に対する考え方は、訓練兵時代と変わっている。

特に隊長になってからは、個人的な強さよりも部隊全体での強さを求めるようになった事が一番の影響だろう。


「つきましては、他の衛士課程の訓練兵にも是非、先ほどのお話をしていただけないでしょうか?」


「えっ・・・、午後からは軍曹たちと話し合いをする予定だったのでは?」


「その話し合いを訓練兵も交えて行なう事を提案しているのです。
 話し合いのために資料も用意されているのでしょう?」


「確かに映像資料もそろっているし、話をする事は可能ですけど・・・。
 訓練を中止する事になりますし、現役衛士が勝手に訓練に関る事が可能なんですか?」


「個人的な戦果を強調する衛士ならともかく、
 中尉のような衛士の話なら、訓練を中止してでも聞く価値があります。
 それに、今から校長に掛け合って許可を取りますので問題はありません。」


「しかし、心の準備が・・・。」


まさか、衛士課程の訓練兵全員の前で話をする事を提案されるとは夢にも思っていなかった。

会社の関係で、少人数との会話や会議には慣れているが、多くの人の前で話をする経験はそれほど多く持っているわけではなかった。


「篁 訓練兵!」


「はっ。」


「1300より、衛士課程に所属する訓練兵全てを集め、特別講演を行なう。
 貴様は小隊を率いて中尉殿を大講堂に案内し、講演に必要な準備を整えろ。」


「はっ!」


「また、貴様には特別任務として、講演開始まで中尉殿が逃げ出さぬようにする任を与える。」


「教官殿、発言を許可していただけないでしょうか?」


「許す。」


「ありがとうございます。
 教官殿や私達訓練兵には、中尉殿を拘束する権限がありません。
 どのようにしたらよろしいのでしょうか?」


「ふむ、いい質問だ。
 確かに権限は無いので、こちらからはお願いをする事しかできない。
 だが中尉殿とて人間であり、男だ。
 可愛い後輩の願いを無碍に出来るはずは無い。
 万が一、任務に失敗した場合は、貴様等に辛い罰を与える事になる。
 よく考えて行動しろ。」


「了解いたしました、教官殿。」


そう言って、元教官は足早にPXから立ち去っていった。

教官が言い残した『よく考えて行動しろ。』は、訓練兵に対してというより俺に向けた言葉だったように感じた。


「御剣 中尉、私達について来ていただけませんか?」


俺は、篁さんの困りきった表情でされたお願いに抗う気力が湧かず、おとなしく講演の準備をする事にしたのだった。










俺が行う講演は簡単な自己紹介を行なった後、大陸での戦闘映像を映し出す事で始まっていった。

その映像では、広報で採用された見栄えの良い華々しい活躍では無く、大量のBETAに押されて後退を続ける戦術機部隊が映し出されていた。

この映像は、主にソウル陥落後の絶望的な撤退戦のもので、訓練兵用に音声がカットされているとはいえ、
訓練兵に衝撃を与えるには十分な迫力を持っていた。

この時初めて、大陸での戦闘がシミュレーターで行なわれる訓練以上に理不尽なものである事を、訓練兵達は認識する事になったのだ。

そして、映像は光州作戦での戦闘に移っていく。

この時の映像は、よく広報に使われる戦闘であったが、俺の用意した物は広報の物と比べると違和感があるものだった。

その違和感の正体は、俺が活躍する部分よりもロンド・ベル隊の部隊連携や鞍馬の運用とその戦果に大きな焦点が当てられていたために起きるものだった。

俺はこの部分で、BETAとの戦争で重視すべき事が、組織された部隊がいかに連携して戦闘を行なうかであり、
過度に個人的な技量を重視すべきではない事を伝えたかったのだ。

ショッキングな映像が終わった後、大規模戦闘の映像を始めてみる訓練兵はもちろんの事、一部の教官でさえ言葉を失っていた。

それを見た俺は、15分の休憩を入れることにした。

そして、休憩の後は主に教官から出される質問に俺が応える形で話が進んでいく。

その内容は、戦術機の戦術論・部隊運営・大陸での戦術機の整備状況・訓練方法等、多岐に渡っていた。

その対話方式の講演に、講堂の中は次第に熱気に包まれていった。

それもそうだろう、この講堂には衛士課程の訓練兵以外にも噂を聞いて駆けつけた、他の課程に所属する訓練兵や教官も来ており、
立ち見も出ている状況だったのだ。

また、PXでした時よりも熱の入った話に、一度その話を聞いているはずの篁さんの小隊でさえ、目を輝かせて聞いていた。

そして話題は、衛士の命題の一つである『死の八分』についてのものに移っていく。

そこで俺は、朝鮮半島撤退作戦に参加した斯衛軍部隊が、半数以上の対BETA戦初参加の者を抱えていたにもかかわらず、
新人の8割が死の八分を超えるという快挙を成し遂げたという話をする事になった。

そして、これを手本にする事ができれば、多くの衛士が死の八分を越える事が可能になると提言をしたのだ。

しかし、この事は全ての部隊が斯衛軍部隊と同じ事をするのは、不可能である事を伝える事と同義でもあった。

斯衛軍部隊に所属していた新人の多くが、死の八分を越えられた理由は以下の3点にある。

1.部隊が精鋭で知られる斯衛軍の中でも最精鋭と言われる部隊であった。
2.BETA戦経験者が部隊の要所に配置されていた。
3.運用する戦術機が、現時点で国内最強の不知火・壱型乙であった。

陸軍では、新人の衛士のみで構成された部隊すら存在する中で、これらの条件をクリアする部隊は早々あるものではなかった。

したがって、この事が現状では不可能であると考えられていたのだ。

しかし、今後衛士の帰還率が上昇し、ベテランを数多く確保する事ができ、優秀な戦術機が全ての衛士に行き渡る事になれば、
死の八分を越える事が不可能ではないと言う事も同時に示していた。

そして、最後の質問となった訓練兵からの質問は、俺が死の八分を超えた時の事を聞かせてほしいという事だった。

俺は自分が特殊な環境で育ったため、あまり参考になるとは思えないと前置きをした上で、自らの体験を語る事になる。


 「当時の私は、噂に聞く死の八分を超える事は可能であると考えていました。
 もちろん、その自信を身に付けるに足る、長きに渡る鍛錬を積み、高い水準の操縦技術を会得していると自負していました。
 
 そして私が死の八分を超えた時、当時の自分の感覚としてはあっけなく終わったと感じる程度のものでした。
 初陣の私は、頭に血が上りながらも、体は確実に目の前にいるBETAに攻撃を加えていたのです。
 私は、興奮状態でもそれになりに動けており、冷静さを取り戻した後は、訓練の時と変わらない動きが出来ていたと認識していました。

 しかし、帰還後の戦闘履歴を見ると戦闘開始後の数分間は、まったく動けていなかった事に気付かされたのです。
 その間の私は、目の前のBETAを攻撃する事に夢中で、其の他のBETAが目に入っておらず、
 先任の援護により危ないところを助けられていた事にすら、気が付いていなかったのです。
 その事を先任に告げ礼を言うと、『動けなくなる奴や味方を撃つ奴と比べると大分ましだった。』と返されました。

 私は自らの実体験と各種統計から、先ほど話したように死の八分を超える為には、
 新人衛士を援護できる位置にベテランの衛士がいる事の重要性と、
 新人衛士が最低限戦えるための技術と精神力を身につけている必要があると思ったのです。
 そして、其処に優秀な戦術機がそろえば死の八分を超える可能性は飛躍的に高まるでしょう。

 君達訓練兵が今なすべき事は、いかに訓練で身に付けた事を実戦で発揮できる状況を作り出すか、
 と言う事に尽きると思います。
 訓練と同じような動きを実戦で行う方法は、二通りしかありません。
 一つ目は、自らの精神力で恐怖と緊張に勝つ方法。
 二つ目は、脊髄反射で行動するようになるまで、訓練を行うという方法です。
 
 一つ目の方法は、ベテラン衛士でもなかなかできる事ではありません。
 したがって、訓練兵の君達には事実上、二つ目の方法しか残されていないのです。
 
 もちろん、君達が全力で訓練に取り組んでいないと言うつもりはない。
 しかし、『まだやれる。』と少しでも感じたのなら、迷わず立ち向かって欲しい。
 訓練の間だけでも、訓練のみが己と回りにいる仲間を救う手段だと考えて欲しいのだ。

 これから厳しい戦場に立つことになるだろう。
 そこで貴様等が生き残り、次の代を導く存在となる事を願い、俺の話は終わりにする。

 御清聴ありがとうございました。」

俺はそう言って、講演を終えたのだった。








俺は見送りをするという元教官の申し出を断った後、精神的な疲労を感じながら訓練校を後にする事になった。

そして、訓練校の外に待機していた車に向かう途中、グラウンドで複数の訓練兵が教官と格闘の訓練をしている姿が見えた。

その様子からは、おそらく今年入校した人物であることが推測された。

俺がそのグラウンドをと通り過ぎようとした時、どこかで聞いた事がある声が聞こえた。


「こうなったら、あれ行くよ~」


「「おーーッ!!」」


「「「絶技! 噴射気流殺ゥ~~~!!」」」


「「「わ~~~!!」」」


「馬鹿者! わざわざ技の名前を叫んで攻撃するな!!」


「「「うあ~~~っ!」」」


教官に容易に蹴散らされた、三人の訓練兵が知り合いであった事に気付いた俺は、思わずため息交じりの独り言を呟く事になった


「何をやっているんだ、あの三馬鹿は・・・。」




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コメント

皆様、いつもご指摘・ご感想・ご意見を投稿板に書いていただき、ありがとうございます。
先週は、戦術機設定集の作成に予想以上の時間を取られてしまったため、新話の更新ができませんでした。
また、諸所の事情により時間が確保できなかったためにこの話投稿が遅れてしまいました。
申し訳ありません。

そして、今週も忙しい状況が続きますので来週の投稿は絶望的です。
感想板に書き込む程度の時間は確保できるかもしれませんが、返信が遅れてしまうかもしれません。

当初の予定より、投稿が遅れてご迷惑をお掛けしています。
しばらくこのような状況が続く可能性も有りますが、この作品を忘れないでいただけたら幸いです。


この話で初登場した篁唯依さんですが、この作品での設定では速瀬・涼宮姉と同世代で
2001年(オルタ開始時)に20歳、2000年(TE時)19歳という設定になっています。

訂正して、宗像さんと同世代の2001年(TE&オルタ開始時)に19歳、という設定になっています。

そして、3馬鹿は原作主人公達の一つ上、風間さんと同世代の2001年(オルタ開始時)に18~19歳
となっています。
特に3馬鹿の年齢が不詳のため、これでいいのか不安です。

そして、私の持っている資料では篁さんの父が死亡した時期が分からないため、
訓練兵時代の篁さんが鬱状態である可能性も残されています。
早くその部分がTEで描写されて単行本にならないかと期待しています。

主人公の長話・・・上手く思いが伝えられたか心配ですが、今の私にはこれが精一杯です。
もっと腕を上げる必要があると痛感しております。


返信

今回も皆様から、様々なご意見をいただいておりますが、あまりに多すぎて返信だけで字数を稼いでしまいそうなので、
いくつかを選択しての控えめな返信にさせていただきます。
選択から漏れてしまった皆様には、大変申し訳ない事をしていると思いますが、全てのご意見・ご感想に目を通していますので、
その点はご理解いただけたら幸いです。


大空寺ですか・・・。
初期のプロットでは、オリジナル主人公(御剣とは無関係)がお金を稼ぐ手段として、大空寺財閥に関って行くという設定を考えた事がありました。
アユマユ オルタネイティヴの存在と君望andアユマユ系をやっていない私としては手を出し難い部分です。
公式に設定されていない部分ならいくらでもいじれるのですが・・・。
アユマユ独自の特殊な設定を取り入れると可笑しな事になりそうなので、特殊な設定を除く事で大空寺系統を出す事が出来るかもしれません。
今後の課題として、真剣に検討してみたいと思います。

政治への介入・・・
榊おじさん以外にあまり政治家が居ないのでどう扱うか難しいところです。

戦術機の兵装・・・。
対人戦やエース用を意識すれば、色々な装備が採用できるのですが。
誰でも使えて物量に対抗できるという事を意識すると、あまりいいアイデアが浮かびません。
何とか皆様の意見も参考にしながら考えて行きたいと思います。

戦術機以外の兵器・・・。
考えてはいるのですが、今のところ革新的な開発プランが思い浮かびません。
歩兵装備・強化外骨格・船舶・戦車 等色々やらねばいけないことが山積しております。
御剣財閥は、戦術機系統以外はあまり強くないとかで逃げる事もできますが・・・、何とか知恵を搾り出したいと思います。

F-5の四足歩行化・・・。
小型・軽量のF-5では、重装甲のF-4と比べてフレーム・関節強度の関係から、重装備が難しいかも知れません。
それに欧州には、A-10 サンダーボルトⅡが居ますし・・・。

近・中・遠距離に特化した機体・・・。
コストの事を考えると、どの局面でも装備を変えるだけで対応できる現状の戦術機は、それなりに出来た原作設定だと思います。
敵の数が少ない対人戦なら特化型の機体もいいかもしれません。
ただし、オプションバーツを駆使して簡易改修を行う案は面白かもしれません。

海神近代改修案・・・
原作であまり日の目を見る事の無かったA-6・・・、上手く使えばいい設定が出来るかも知れません。
水陸両用は男のロマンの一つでもありますしね。

ボール,ローラー,チェーンソー・とうもろこしの刈入れ機・・・
混ぜると面白いアイデアが降臨しそうです。

武御雷・・・
このまま進めば原作とは異なる形になるとは思うのですが、詳しい設定はまだ煮詰めていません。
少しアイデアは出来たので、それが採用できないか検討中です。

X-29・・・。
設定的にかなりアンダーグラウンドな開発だったようなので、拾うのは難しそうです。
それに、個人的に好きなSu-37,Su-47の事を考えるとスルーしたい気もします。

陽炎・・・
この作品では、殆ど試験導入だけで大きな広がりを見せていません・・・。
早めに吹雪が量産されてしまったので、扱いに悩んでいます。



皆様が頑張って感想板に書き込んでくれた物の中に、やりたかった事が幾つか書かれていて焦っています。
私がもっと早く、本作を書き進める事が出来ていれば、こんな事にはならなかったのですが・・・。
しかし、皆様の想定以上の事を考えてこそ、真の物書きに成れると思っています。
これからも無い知恵を絞って何とかして行きたいと考えていますので、気侭に感想板への書き込みを
続けていただけると幸いです。

P.S.
拾いきれなかったご意見の中には、やりたかった事に近いため、あえて拾わなかったご意見もあります。


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