Hi-νガンダムで光を突き抜けるとそこには青が広がっていた。
眼下に広がる海、眼前に展開する空。
蒼一色。
「綺麗だ……」
俺は知らず知らずそう呟きを漏らした。
生まれて初めてだ。空をこんなに青く感じたのは。
生まれて初めてだ。海を見下ろしたのは。
俺の世界は病室と病室のベッドと病室の窓から見える外の景色が全てだった。
俺は自然と涙を流した。
その世界の蒼さに、その世界の美しさに、その世界の広さに。
この空の為にも奴等ベータを駆逐する必要がある。
俺はコンソールを操作し、俺の基地の座標を出す。
「さあ、俺の基地へ誘え、ガンダム」
俺はHi-νを自動制御に切り替え足と腕を組み目を閉じる。
暫く飛んでいると少し大きめの無人島らしき物が見える。
どうやらここらしい、俺の基地は。
Hi-νガンダムは緩やか高度を下げながら島に近づく。
突然、島の木々や土は、鉄の分厚い板にその姿を変えた。
「光学映像迷彩によるカモフラージュ……しかも、赤外線及びレーダーのジャミング機能のオマケ付か……なるほど、この世界のレーダー技術や衛星では認識できないな」
Hi-νが近づくと、鉄のハッチが空気の抜ける音を立てながら上にスライドした。
その狭き穴に迷い無く入り込んでいく。
暫くMSサイズが通れる穴を進むと行き止まりだった。
Hi-νが方向転換し、穴の出入口を見る形で着地すると、足が固定される。
金網のシャッターが閉められ、下に下りていく。
降りた先、そこにはだだっ広い、ソレこそMSが100機格納可能な空間が広がっていた。
「さて、ハンガーにコイツを格納した後、探索だな。何がどうなっているのか解らん」
俺は機体を格納した後、ラダーで降り立ち探索を開始する。
巨大ハンガーを歩き、ようやく出入口に到着するその近くにコンソールがありソレを操作する。
なるほど、こいつの構造は時計と同じ構造なのか。
第1区画はMS製造ライン。
第2区画は資材置き場。
第3区画は武器弾薬の製造ライン。
第4区画は精密機械の製造ライン。
第5区画は食料生成プラント。
第6区画は戦艦、MA製造ライン。
第7区画は日常生活品の製造ライン。
第8区画は戦艦修理格納庫。
第9区画はMS修理、格納区画。俺がいる場所はここだ。
第10区画は戦闘機、ヘリ、輸送機の修理格納庫。
第11区画はナノテクノロジー開発区画。
第12区画はシミュレーター訓練施設。
中央には作戦司令室。
と、いった感じだ。カナリ広い。海底に建造してその上に人工の島を作った形だ。
しかもここは地下施設だ。上がある思いコンソールをいじくる。
地上施設は、居住区、第1から第12カタパルト、各種レーダー、基地防御兵器、陽電子リフレクター発生装置など要塞並みの状態だ。
コレならベータに攻め込まれても防衛は可能だ。
さらにこの地下には巨大な核融合炉と核物質製造ライン、ミノフスキー・イヨネスコ型熱核反応炉製造ラインがある。
至れり尽くせりだ。
俺は端末の案内に従い中央司令室に向かう。
床が動く。空港にあるやつみたいだ。
通路を歩くこと数分、中央司令室到着した。
端末を弄くり、ロムを放り込む。
その中から国連事務総長のファイルを開く。
「ふむ……この事務総長、比較的アメリカから離れてはいるがアメリカとの裏取引もあるみたいだ……事務総長になるために多額の賄賂も行ったみたいだ。後は、政敵のスキャンダルをテレビ局に流したりと色々だな」
まあ、政治家なんてそんなもんだ。
叩けば埃は出てくる。
まあ、後ろ盾は欲しい。
自分の行動に正当性を持たせなければならない。
例えベータを殲滅しても無所属ならその正当性が消えてなくなる。
俺は先ずはじめにかく乱のダミー衛星を多数、製作した。
後はアメリカのニューヨークにどう潜入するかだ。
俺は小型のステルス潜水艦で潜入する事にした。
衛星を作って飛ばすのに3日、潜水艦を作るのに3日かかった。
残り、一週間は潜水艦の操縦訓練とスキューバダイビングの訓練に費やした。
1週間後、俺は潜水艦に必要物品を積み込み、出発した。
数日間自動制御で移動し、ようやくアメリカ、ニューヨークに到着、潜水艦は闇夜に紛れ近くの埠頭に沈めた。
俺は、1週間前に偽名と偽造した身分証を使い、手配した車に乗り込む。
さて、仕込みは基地でやってある。後は、事務総長が食いつくのを待つだけだ。
俺は車を運転しながらこれからのことを考えながらホテルに向かう。
ホテルに到着し、チェックインを済ませ、部屋のベッドでゴロゴロしていると俺の携帯電話が着信を告げるコールが室内に鳴り響く。これも偽造した偽のIDで手に入れた物だ。
食いついた。
俺はほくそえみながら携帯を通話状態にして出る。
「はい、手塚です。事務総長ですか?」
『ああ、そうだ……君かね……私に“アレ”を私のパソコンのeメールで送りつけてきたのは……?』
電話のスピーカーから聞こえたのは4、50代の男の声だった。
その声は威厳に満ちてはいるが余裕が無い。
心なしか声が上ずっている。
相当の焦りが見えるがさすが政治家、そのことをうまく隠している。
一般人ではまずバレないほどだ。
諜報機関の人間でもその判別が難しいだろう。
さすがニュータイプ能力、相手の焦りや、戸惑い、恐怖を敏感に感じ取れる。
「ええ、中々面白い内容だったと自負していますが……どうやらお気に召さなかったようですな」
男は唸りながら押し黙る。
ふん、今度は怒りか。
解り易い男だ。実にからかい甲斐のある男だ。
この男で遊ぶのはこの辺にしておこう。交渉が進まない上に関係が拗れそうだ。
「直接会ってお話がしたい。時間はそちらの都合に合わせますが?」
俺の言葉に事務総長は考えながら呟く。
『明日の午後1時でどうかね……?』
「ええ、構いません。私が其方に赴きます」
詳細を話し合い俺は携帯の通話をオフにする。
盗聴の恐れがあるのでダミー衛星を幾つも打ち上げ撹乱した。
アメリカも各国の諜報機関も俺にたどり着くことは不可能、国連も居場所を特定することは無理だ。
ボイスもボイスチェンジャーで誤魔化してある。
さて、明日の交渉で何処までやれるかだな。
翌日、12時30分、俺は国連本部ビルの前にスーツ姿で立っていた。
フム、中々大きいじゃないか。
ここで各国が国の利権を巡って争う場か。
さぞや魑魅魍魎が住んでいるのだろう。
楽しみだ! 実に実に楽しみだ!
さあ、ロンバルト・ゼンライ国連事務総長、俺を楽しませてくれ。
俺は受付を済ませ、事務総長室に案内される。
俺は扉を潜るとそこには、中年の紳士が立っていた。
身長は170センチ後半、髪型は金髪に白髪が所々混じっている。
顔は痩せ型、鼻の下に立派な髭を蓄えている。
なるほど見た目は中々のジェントルマンだ。
「初めまして、ロンバルト・ゼンライ国連事務総長閣下殿、私の名前は手塚 在都と申します。以後お見知りおきを」
俺
は皮肉とジョークを込めて礼をする。
「……君かね、私にこんな下らんことをしてきたのは?」
ゼンライ事務総長は無表情で呟く。
その表情からは感情は読み取ること出来ないが、ニュータイプ能力で感じ取れたのは、怒りと、焦りと、若干の興味だった。
「ええ、楽しんで頂けましたかな?」
「ふん、皮肉かね? まあ、いい、君は何を話したいのかね?」
俺は出来る限り最大限の微笑を浮かべこう言った。
「ベータを殲滅です。ベータを蹂躙です。ベータを虐殺です。解り易く言えばこんな所でしょうか」
ゼンライ事務総長は眉根をピクリと微妙に動かした。
「ほう……その様な方法がこの世界にあるのかね? 残念ながらこの世界にはその様な御伽話は今の所、存在せんよ」
俺はその言葉からヨーロッパの状況は余り宜しくない事を感じ取る。
「どうやらヨーロッパの戦局は宜しくないみたいですな?」
事務総長は溜息を吐きながら呟く。
「ああ……2ヶ月で欧州は陥落する。最後まで抵抗を続けていた北欧戦線は瓦解し、欧州連合軍司令部が全軍の撤退と欧州の放棄を宣言するだろう……」
事務総長は忌々しそうに呟く。
「方法ならありますよ。御伽話みたいな現実が」
俺はHi-νガンダムの素人でも解る資料を事務総長に見せる。
しばらく事務総長は資料を見ていたが余り信じていないみたいだ。
当然だ、詳細なデータは省いている。
「……君はこんな物が用意できるのかね? 私をからかうのはいい加減にしたまえ」
ソレはそうか、確かにたった1機でハイヴの攻略が可能など信じられないだろう。
「事実です。まあ、私に国連軍の大佐の階級と特務極秘任務部隊の創設をお約束していただければ欧州の戦況を“少し”は楽観的にしてみせるつもりですが?」
「いいだろう……その代わり成果を見せろ。私に見せてみろ。御伽話を」
「了解した。この上なく殲滅して蹂躙して見せよう」
俺と事務総長の会合は終了した。
あの様子だと余り当てにしていないだろう。
それならこちらもそれ相応の実力を示し納得させるだけだ。
「では、行きたまえ」
事務総長が退室を促す。
「それでは失礼します」
俺はそう言い退室する。
「ああ、待ちたまえ。最後に確認だ。君と君の機体は本当にハイヴを陥落できるのかね」
事務総長の質問に俺は振り向き様にこう答えた。
「ご安心を事務総長、私の愛馬は凶暴です」
ホテルを引き払い、すぐ基地に戻ろう。
俺は基地に戻り、即座に武力介入を考える。
武力介入するのは北欧戦線。
潜入先はノルウェー王国フィンマルク県。
最終目標、フィンランド共和国にあるロギニエミハイヴ。(正確な地図的表記はロヴァニエミ)
何も考えずに一直線に突き進み、進行を阻むベータは殲滅し、ハイヴを蹂躙。
俺一人だから実にシンプルで解りやすく馬鹿馬鹿しいほど簡単だ。
さあ、Hi-νガンダムよ! オウナス川を下り突き進め!
ラップランドの大地をベータの死骸で埋め尽くせ!
さあ! 殲滅戦の始まりだ!
前にも後にも右にも左にもベータの死体で舗装してやる!
俺はHi-νガンダムに乗り込み、OSを立ち上げる。
コックピット正面にあるディスプレー画面にこう表示された。
General purpose
Utility
Non-
Discontinuity
Augmentation
Maneuvering weapon system
と画面に表示された後、ラインが引かれその上に、
【GUNDAM system】
と表示された。
この語源は、確か、ガンダムがこう表記される様になったのはガンダムMkⅡ辺りからだったと思う。
日本語での意味は確か、全領域汎用連続増強機動兵器の意味だったか。
なるほど俺に御誂え向きだ。全領域で連続して殲滅することが出来る兵器だ。
カタバルト制御をHi-νガンダムで制御出来る様に切り替える。
さて、いくぞ!
「Hi-νガンダム、行きます!」
カタバルトはHi-νガンダムを勢いよく前方に飛び上がらせる。
俺はペダルを全開に踏み込む。
Hi-νガンダムは滑る様に蒼い空に飛び立つ。
南アメリカから迂回して飛ぶこと数時間、ノルウェー王国フィンマルク県の上空に到着した。
速い、速い、長距離をあっと言う間に到着してしまった。
眼下には戦術機とベータが交戦していた。
数はベータが数えるのがめんどくさい数だ。
戦術機は500機位。
ビームライフルを乱射しベータ数十体を焼き払うと俺は地上に降り立つ。
訳が解らず呆然と見ていた北欧戦線に参加していた欧州連合軍衛士は静寂の後、混乱した。
『何だ!? あの戦術機は!? データにないぞ!!』
『何処の機体だ!?』
『左肩にUNのマーク!? 国連軍か!?』
『光を放っていたぞ! レーザーか!?』
等々、いい感じに混乱気味だ。
俺はビームライフルを仕舞い、背中からハイパーメガビームランチャーを取り出す。
「さあ、蹂躙の時間だ!!」
俺はトリガーを引き、左から右へと薙ぎ払う。
野太い光が戦車級から要塞級まで等しく滅びという名の死を与える。
残ったのは更地だけだった。
アレだけいた有象無象のベータの群れが消滅した。
欧州連合軍衛士の混乱は最高潮に達した。
『何だと!? アレだけいたベータが……消滅した!?』
『マーカーからベータの反応が消えている……』
『嘘だろ!? 数えるのも馬鹿馬鹿しいほどいたベータが一撃で……』
『俺は夢でも見てるのか……』
俺はそのまま飛び立ち、上空からベータを殲滅しにかかった。
しばらくハイメガビームライフルで上空から蹂躙していると、何かを感じた。
「この感じ……来る!」
そう感じ俺はレバーを動かし回避する。
機体を掠める様に数十もの光の線が過ぎ去る。
「レーザー級か、当たりはしない!!」
俺は回避しながら優先的にレーザー級を叩く。
ソレを見た欧州連合軍衛士達は唖然とした。
『レーザーを避けてる……』
『そ、そんな馬鹿な……』
『あ、ありえない……』
『奴は……一体なんなんだ……?』
最早驚くことしか出来ない状態だ。
仕方ない、あわや撤退か全滅かと言う選択肢しか残されていなかった彼らにとってソレは余りにも現実離れしすぎていた。
レーザーでベータを焼き払い、上空を高速で飛び回り、レーザーを避けるのだ。
自分たちは御伽話の英雄を見ているのかと疑いたくもなる。
「しかし、数が多い、ならば!!」
狙うのはレーザー級だ。
そう俺は思い、Hi-νガンダム最強にしてこの機体の象徴たる兵器の名を叫ぶ。
「いけ!! フィン・ファンネル!!」
背中のフィン・ファンネルは高速で解き放たれ“コ”の字になって飛び立つ。
3機は上空からもう3機は地上スレスレを飛ぶ。
「そこだ!!」
自分の頭のイメージと同じ通り動くフィン・ファンネル。
方向や速度を変えながら突き進み、コの字の間から野太いビームを吐き出す。
桃色の光りの柱が撃ち出される。
無数のビームの柱は次々とベータを貫き、破壊していく。
レーザー級も優先順位をHi-νとフィン・ファンネルに絞ったが俺も落とさせはしない。
俺はフィン・ファンネルを頭で操作し、レーザーを回避し攻撃する。
さあ、突き進むぞ!! ハイヴへ一目散だ!!
俺はハイヴを目指し突き進んだ。
戦闘をしながら唖然と欧州連合の衛士の一人は唖然としながら呟いた。
『あ、悪魔……国連軍の……白い……悪魔……』と。
ベータを蹴散らし、突き進むとデカイ岩みたいな物が見える。
「アレがハイヴ……デカイ……だがやる事は一つだ」
俺は鬱陶しいレーザーを回避しながらハイヴのマップを開く。
ハイヴの構造は複雑だ。脆い所はいくつもある。そこに、撃ちこんでやればいい。
俺はハイパーメガビームランチャー最大出力に設定。
「落ちろ!!」
撃ち込んだ。
野太いビームの柱は大地に刺さり、近くにいたベータの群れを巻き上げ吹き飛ばしながら地下深くへと突き進んでいく。
その間、フィン・ファンネルを操作しレーザー級を狩る事も忘れない。
「まだ開かないか……なら、もう1発お見舞いだ!!」
そう叫びながら打ち込む。
そうして今度は長時間撃ち続け、5秒でMSが通れる穴が開いた。
「さあ、行くぞ!!」
そう叫びながら全開に踏み込み急降下しながら開いた穴に飛び込む。
暫く穴を下に下にと突き進んでいると、そこには広い空間と淡く光る物体があった。
「コレが反応炉……さあ、チックメイトだ。沈め!!」
フィン・ファンネルを全機放出し最大出力で撃つ。
反応炉は停止、俺の作戦は終了した。
基地へ凱旋だ。
基地へ帰る途中、一機の戦術機がベータに追い回されていた。
ほっといてもよかったが俺はその戦術機を助けた。
???サイド
私は必死で逃げていた。後方にはベータが迫っている。
兵装は全て使い果たした。
燃料も残り少ない。
戦闘中に部隊とはぐれてしまい、ベータの群れに巻き込まれてしまう。
「はぁ、はぁ、はぁ……このままじゃ……きゃああああ!!」
機体に強い衝撃が掛かる。
しまった! 追いつかれた!?
要撃級に足をやられた!?
駄目!! このままやられる!!
そう思った時だった……
桃色の壁が私を守るように展開されていた。
「い、いったい何が……」
そう呟いた瞬間、桃色の光の柱がベータを貫いていく。
「これは……いったい何が?」
余りに現実離れした状況に頭が着いていかなかった。
私は上空を見上げるとそこには、戦術機らしき物がいた。
ソレは周囲を飛んでいた物を背中にくっつけた。
その姿を見たとき私はこう思った。
“御伽話の天使みたい”
と……
『大丈夫か?』
突然、通信が入り、私と同じ年の頃の男の方が語りかけてきた。
コレが私、エターナ・フレイルと手塚 在都との出会いだった。