3月20日(月)
東京に行くことになった。リニアじゃないローカル線に乗り、途中でリニアに乗り換えて行くようだ。1000年前にはあり得ないような早さで着く。
東京についた私たちは今をときめく原宿に行くことにした。昔は原宿より渋谷の方が大きかったらしい。
ぶっちゃけ私は服やアクセサリーに興味はないのでみよこたちについていってるだけだ。たまに着せ替え人形にされるが、恥ずかしがると余計に構われるので恥ずかしさを表に出さないように注意している。
途中何回も話しかけられたが伝家の宝刀「彼氏いるのでー」ですたすたと立ち去る。みよこは「こっち見てるけど無視しちゃっていいの……?」となんとも善人ぶりを発揮しているが無視しないと危ないんだよ。
みよこについてきた女の子モブAはナンパされたのがよほど嬉しかったのかきゃっきゃっとはしゃいでいる。こういう女は簡単に落とされるんだよねぇ。
適当に服を買った私たちはホテルにチェックインし、明日行く遊園地のアトラクションを回る順番の議論に明け暮れた。
3月21日(火)
私は枕投げで寝不足ぎみになっているのにみんなはやけに元気だ。最近の同世代は元気がいいなぁ……
東京の隣にある大きな遊園地に着き、遊び回る。一瞬レールが外れるあのコースターは何なの。まじで何なのですか。
お化け屋敷も行ったけど全然リアルじゃないから怖がることはなかった。かなり前にどこかの遊園地がリアルなお化け屋敷を作ったところ、ショックで死者が出てしまったらしい。そのためリアルなお化け屋敷は禁止という法律ができた。
何をもってリアルかそうでないかの基準が曖昧なのはお偉いさんの昔からの宿命である。
みよこはこのお化け屋敷でも怖がっていたが。なんだこいつ可愛い。
3月22日(水)
最終日。二手に別れて自由に行動することに。
私はみよこを連れて秋葉原に繰り出した。コスプレとやらをするためである。
みよことなんかよくわかんないキャラのコスプレをしながら秋葉原を歩いていると写真を撮られた。撮ってもいいけどお金取るよと言うと1000円でどうかなと言われた。安いので2000円で手を打たせる。
1人撮るとわんさか人が集まる。お昼までいただけなのに20万円も集まったのにはちょっとというかかなり引いた。みよこと山分けしてその場を去る。
モブたちがお金を羨ましがり「あたしも秋葉原行けばよかったー」と言っていた。いやぁ……あなたならむしろ罰金もいいところでしょう。
3月23日(木)
家族と別れ入寮。同居者はまだ来ていないらしい。
驚いたのが食堂だ。山本系は無かったが、アレウス系以外に橋本系が大量に揃っていた。これが格差社会か。
食堂で1人で食べているとやたらと男が話しかけてきた。食べているときに用事もなしに他人にいきなり話しかけてくるなんて非常識すぎる。
大体その顔でナンパするのかお前は。冗談は顔だけにしろ。
「一緒に食べよう。」とか誘ってくるので「私親しい人以外とは食事は一緒に取らない家庭で育ったもので。おほほ。」とはね除けた。
しかしこんな風に明らかに断ってるのに言葉通りにとる奴もいる。大体が「俺モテるから~」みたいなオーラ出してるやつである。勘違いキャラだ。
そして「ちょっとやめてあげなよ困ってるじゃん。」と乱入してくる『僕は救世主風ナンパ』が更にたちが悪い。「ありがとうございます。」と言ってさっさと撤収させようとすると
「大丈夫だった?」
と聞いてくるわけだ。別に何もされてないですわよおほほ。「大丈夫ですよ。ありがとうございます。」と答えると
「最近ああいうの多いからさ、気を付けなよ。」だって。
今現在気を付けてますってんだ。
食べ終わったのでさっさと失礼して寮に戻った。
早くナンパ避けのためにもヤツが来てほしい。
3月24日(金)
同居者あらわる。
鳥井 佐奈って言うらしい。学年順位は421位。可もなく不可もなくといったところか。
外見は青色のボブカットに青色の瞳でなんだかお嬢様という感じ。B寮だからお嬢様なわけないんだけどね。
なんでも自分の学校からは1人しか受からなかったから友達ができるかどうか不安だったとか。
私もとりあえず学内では少しはナンパ避けになるアイテムを手に入れたので心が躍る。
佐奈を連れて自分も新入生ながら案内をすることに。
なんかいろんなことに無駄に驚いてるから可愛らしかった。きっと田舎から来たんだろう。田舎っ子イイ。
みよこからメールが来ていた。「学校の様子はどう?」ってさ。「みよこより大人しい子が同居者になった。すごく可愛い。」とメールすると「襲っちゃだめだよ。」と返ってきた。
私はどんな目で見られていたんだ。
3月25日(土)
主席挨拶がどうとかで1人先に教師たちと顔合わせをすることに。
中学のときとは違い私を見ていやらしい顔をするやつはほぼ皆無だった。ほぼ。
入学式の組み立てとか何分話せばいいかとかを話してもらった。
何分も何分も話すとか嫌だなぁ……しかも報酬なしなんて。
3月26日(日)
佐奈に暇かどうか聞いて一緒に主席挨拶の内容を考えることにした。
どうせならおもしろい挨拶にしようと散々悩み、意外といい出来になったのではないだろうか。
佐奈が微妙な顔をしていたのはきっと気のせい。
3月27日(月)
暇すぎる。
3月28日(火)
暇すぎたので勉強した。
3月29日(水)
佐奈が午後からどっか遊びに行った。
私は暇すぎたのでゴロゴロ寝転んで一日を過ごした。
3月30日(木)
暇すぎたので佐奈と一緒に挨拶回りを決行。隣の部屋をノック。元気な声が聞こえた。
隣の部屋の住人たちもやることがなくて暇だったようで4人でゲームをすることにした。
チームプレイにしたら佐奈が弱すぎて負けた。このゲームおんちめ。
3月31日(金)
今日も隣人とゲーム。ハイパーニート状態。
ゲームの持ち主である南ちゃんが私たちって青春してないねぇと言っていたのがすごく身に染みた。
ちなみにみんな彼氏がいなかった。優等生タイプだったらしい。そして恐ろしいことに佐奈以外猫を被っていたんだそうだ。女ってこえー
4月1日(土)
明後日が入学式。制服買ってなかったことに気付き急いで購買へ。気付いてよかった。
こんなバカ話を隣人にすると隣人たちも買い忘れていたらしい。佐奈はきちんと買っていた。一見抜けているように見えるのに……
4月2日(日)
みよこからメール。「私は9日に入学式だよー」だって。嫌がらせですねわかります。
4月3日(月)
それは歌えない校歌が流れ主席挨拶のフェイズ、私が挨拶のために壇上に立ったときのことだ。
バーン! と勢いよく講堂の戸を開いてヤツが入ってきた。
「セーフ!」
何がセーフなんだろう。
講堂一同はみなヤツを注視し、ヤツはそれを何とも思っていないような感じで自分の席へと向かった。正直言って流石にこれはないわ。
私がコホンと咳をすると今度はみなが私を注視する。
「まず初めに、私たちのような若輩者のためにこのような式典を開いていただき、ありがとうございます。
さて、先ほどばかでかい音を立てて厚かましいことに堂々と席についた不届者は一体誰か……という疑問を持つ方も多いでしょう。そこでその疑問に答えます。
彼の名前は草壁直哉。この学年順位はなんと1000位。聞くところによれば1001位と1点差で合格したとか。なんと言いましょうかミラクルというか奇跡ですね。
それと私の母校の同級生でもあります。おかしな話ですね。ピンキリが同じ中学出身なんて。
まぁそういうわけですので彼に代わり私がここで謝罪申し上げます。教師の方々、来賓の方々、平に、平にご容赦ください。」
と頭を下げる。
「いやいや、悪いのは彼であって君は悪くない。気にせんで話を続けてくれ。」
こう言ったのは校長。甘いな。甘すぎるぞ校長! 私はケロリと表情を変える。
「では続けますね。と、まぁこのように今現在先生方の私への心象を彼の存在を使って上げたわけです。
種明かし致しますと彼と私は友人でして、入学式にちょっとしたパフォーマンスをやろうということになり、彼はノリノリで演じてくれました。いわゆるグルですね。うふふ、校長すみません。」
何がなんだかという顔をしている校長。
「今のパフォーマンスで何が言いたいかと言いますと、3つあります。
1つ、形式や常識に囚われると新たな発見ができない。
常識を打ち破り新しいことをする。そういうことができるのは常識で凝り固まってない若者の特権であると私は考えます。よって式典の常識をぶち破ってみました。
2つ、人を騙し騙されないようにすること。
どんなに綺麗事を言っても人は時に人を騙し、時に人に騙されることがあります。
尤も相手を突き落とすような騙しではなくWIN-WINとなるような関係の騙しを行い、自分が不利になるような騙しをされないようにするべきだと私は思います。そのためにも普段から人を適度に疑い、相手のことを理解する必要があります。
3つ、人を利用すること。
このパフォーマンスは私1人では不可能でした。彼なくしてこの挨拶はあり得ません。その点では感謝しています。少しやり過ぎていたような気がしますが。
また、帝開高校は県内トップで、日本でも有数な進学校なわけです。そのため人を利用する方が多いと思います。
まとめますと、私はこの学校で常識を打ち破り、騙したり騙されたり利用したり、そして何よりおもしろい、愉快な友人を作りたい。
そして日本有数のこの高校で学べることを誇りにして精進していきたいと思います。
最後に、このようなパフォーマンスを何の許可もなくしてしまい大変申し訳ありませんでした。罰は受けますのでこの場では一先ずお許しください。
以上、新入生代表、如月さつき。」
こんな感じで入学式を終えた。パフォーマンスの罰は特になしなんだって。校長が久しぶりに感動したとか言ってた。
甘いな、甘すぎるぞ校長!
寮に帰って隣人たちと共に爆笑した。このことを知っていたのは佐奈とヤツだけだったので隣人たちも騙されたらしい。私の演技力のおかげだよね。
佐奈は渋い顔してたけどガリ勉ばっかの高校なんて嫌だからこれでいいんだよ。