部屋から出てきた大神。
それを目ざとく見つけて声をかけてきたのはさくらだった。
「あ、大神さん!ちょうどいいところに」
「あ?何か用なんか、真宮寺」
首をバキバキいわせながら話す大神に、さくらは眉をひそめて問いかける。
「えっと・・・さっき紅蘭から相談されたんですよ。大神さんと何かあったとか何とかで。荷解き終わってから
すぐ私の所にきたみたいで、相当参ってますよ?紅蘭・・・」
「はぁ?オレが知るわけねーだろうがんなもん。まぁあれだ、腹減ってんだろ?メシ食わしとけば治る」
「それは大神さんとカンナさんだけです!」
どうやら、さくらも大神の性格の影響を受けているみたいだ。
言わなくても良いカンナのことまで口走る。
「・・・オレも大概言われるがお前ぇも大概だな・・・」
「へ?何のことですか?」
「・・・おまけに自覚なしときたか・・・厄介だ」
自分の発言は棚に上げ、さくらの豹変振りに頭を悩ます大神。
「もう、そんなのは置いといて!紅蘭と何かあったんですか?」
「・・・まぁあれだ。ヤツが加害者、オレ被害者。オレから言えんのはそれくらいだ」
「全然分かりませんよ!?」
「分かった分かった・・・そこまで言うんなら、あ~・・・その、りこうら・・・佐藤と話してみるわ」
「さ、佐藤!?それって紅蘭のことですか?」
「あぁうっせ。んで、佐藤はどこいやがんだ?」
「うぅ・・・無視された・・・んんっ、紅蘭なら格納庫に行くって言ってましたよ?」
「そうか」
短く返事し、格納庫へ続く階段へと踵を返す大神。
「大神さ~ん?佐藤じゃなくて紅蘭!後、くれぐれもケンカしないようにお願いしますね~?」
さくらの大声を張った忠告は最早、大神の耳に届いていなかった。
【紅蘭】
あぁ、ウチの愛しの光武達・・・
やっぱり光武の持つ独特の空気て言うんかな、これは何物にも代え難いわ。
さっきまでさくらはんの部屋で凹んでたけど、ここに来たら話は別やで。
うん、ちゃんとみんな丁寧に使うてくれてるみたいやな。
霊子機関部、動力部、そして収束機。
全てにおいて負担が制限内や。
・・・
・・・・・・
・・・・・・ん?ちょお待ってや?
今までみんな、数回の出動とは言えかなりの数の敵を屠ってきたはずや。
だとすれば、この光武のどこかしらに無理な負担がかかっているところが一つや二つあるはず・・・
これも・・・うん、これもや。
一番初めから戦闘に参加しとるはずのさくらはんとすみれはんの光武に至っても、寧ろ綺麗すぎるくらいや。
どうなっとるんや・・・?
・・・そういえば、ウチが花やしきに居る間に由里はん達から依頼が来てたな・・・
確か、隊長はんの光武の出力がどうとかこうとか・・・
あの時確か、何も不自然な部分は無かったんやからウチが本部異動で来た時に詳しく見るって話やったな・・・
最近忙しすぎて忘れとったわ。
よっしゃ、ちょお隊長はんの光武、調べてみよか。
まずは霊子機関部チェック、と・・・
うん、汎用の機能と全然変わらへんな。でも・・・霊気の通りが若干やけど良いみたいや。
えぇと、次はと・・・
動力部やな。
・・・ふむ、操縦席からの神経配線にも傷一つなし、負担も全然かかってない・・・
そして動力伝達の速さがやっぱり、コンマ数秒くらいは速くなってるみたいやな。
霊子収束部は、と・・・
これも異常無し。あくまで機械的に、ってことや。
でも・・・異常や。
戦闘記録を見てみてもさくらはん達以上に敵を殲滅し、尚且つ補助にも奔走しとるのに、異常なしというのは『異常』。
そしてウチが居らんかったのに性能の底上げなんて真似、出来るわけあらへん。
しかも隊長はんが乗ってる光武のみ、や・・・
何物なん?隊長はん・・・
ん?操縦席に何か見覚えがある物が・・・
!!こ、これは!?
「よう、んなところに居やがったか」
「た、隊長はん!?」
うわぁ、吃驚したわ。
隊長はんがいつのまにか光武の下まで来とった。
「何回言やあ分かるんだ?オレぁ隊長『代理』だ。隊長じゃねぇ」
「んなこと言われても・・・」
「んで?オレの光武で何調べてやがったんだ?」
あ、良い機会や。『コレ』の事を聞かな。
「隊長は・・・やなかった、大神はんと呼ばせてもらうで?ウチから聞きたいんやけど、『コレ』、どこで手に入れたん?」
ウチが持ってる物。
これは嘗て数年前にウチが出会い、むっちゃ感銘を受けた代物や。
『携帯型一○式蒸気爆弾』。
小型でありながら上々の威力を持つ、いわば爆発の芸術がつぎ込まれた至高の一品。
「あ?そいつぁオレが爺ぃからもらったやつだ。今となっちゃあ量産はできねぇが思い出深い一品でな・・・
そいつを身近に持っとくことで戦意を高めたりするんだ。後、生身の時に襲われたときの自衛用にもしてるがな」
爺ぃ・・・ってことは、大神はんのお爺さんなん?
あ・・・ウチ、ひょっとして大神はんの傷口広げたんちゃうか?
「あ・・・ご、ごめんなさい・・・ウチ、お爺さんの遺品とは知らんくて」
「あ?遺品??・・・勘違いしてんな・・・まぁ良いか。まぁアレだ、あんま気にすんな」
「えらいすいません」
大神はんが途中、ぼそぼそと何か言ってたけど聞き取れへんかったわ。
あぁ、これから自重せなな。
「にしても、お前ぇこれをどこで見たんだ?あまり世に出ていないはずなんだが」
大神はんが質問してくる。
まぁ当然やな。
「ウチ、2年前にある人に助けられたんよ。上海から日本に来る途中にいろいろあってな?」
「・・・」
「詳しくは言えへんけど、ウチが乗ってた船が海賊に襲われてな・・・もうダメか思うたけど、
その爆弾を持った人が海賊船を沈めてもうて、そして海賊達をしばき倒して・・・後ろ姿しか見えへんかったけど、
あの時の恩は忘れられへんのよ。いつか会ってお礼言いたいんやけど」
「・・・・・・」
「大神はん?」
どないしたんやろ?大神はんの顔色どんどん悪うなってきてるんやけど。
「あ?・・・あぁ、いや。何でもねぇぞ?それよりもだ、オレが教えたんだからお前ぇも教えろ。オレの光武、何かあったんか?」
強引な話の持っていきかたやけど、まぁ流されといたろ。
「向こうに居るときからずっと気になってたんや。大神はん、何者や?この光武の基本性能の底上げといい、
検出されない霊気といい・・・はっきり言って異常すぎるわ」
大神はん、ちょっと難しい表情したけど、ここは科学者として真相を追究せなな。
Side out
【大神】
くっくっく、花組はお人よしが揃ってるんかと思ってたがこれで安心できたぜ。
お人よしばっかりだと、何かあったときにすぐに精神的に潰れる。
この前の戦闘が良い証拠だ。こいつらは精神的に弱すぎる。
本来なら戦争やるのはオレ達軍人仕事。
軍人には夢想的思想なんて無ぇ。だからいつも最悪のことを想定して動ける。
現実は現実。これが全てだ。
今ある現実を変える為、そして守る為に精進していく。
だから・・・こうやって現実を見てその原因をとことん追究してくる気質・・・嫌いじゃねぇ。
だがよ・・・まさか2年前の海軍学校での初めての航海。
その時にオレ達海軍将校含む軍艦『穂波』が民間船を救出したときこいつが居たとは・・・
あのとき確か、オレは配食当番が鍋の中にゲロったのに切れてて鬱憤晴らしにこいつを使って海賊船を沈めたっけ。
あの時は教官共も指導がしつこくて精神的にむしゃくしゃしてたんで、悪い時期が重なったんだ。
んでそれだけじゃあ物足りなくなって海賊共を加山と一緒に半殺しにしてやったんだよな。
さすがにあの時、やりすぎだと艦長に呼び出されて指導された。
海軍的には何も無かった、ということにしてこの事は徹底的に緘口令が敷かれた。
そしてあの時を境に、教官共がオレにちょっかい出す頻度が激減した、と。
あ~、懐かしい・・・
って、こいつにも口止めしとくべきだよな?
「大神はん?ウチの質問に答えてくれるか?」
っと、昔を懐かしんでる場合じゃねぇ。
まずは・・・
「一つ確認しとく。お前ぇ、この間の洋館での戦闘記録、見てないんか?」
「戦闘があったということは聞いとる。あのときは引継ぎ始めたばっかりやったで、詳細は見てないんや」
ふむ、だとしたらオレが使った技も見てないっつーことか。
あれを見てたらさすがに、もっと違う、もっと掘り下げた質問が来たはずだ。
そういえばこいつ、オレ達の光武を整備する専門だと聞いた。
・・・こいつには話しておくべきか?
「ふむ・・・お前ぇを口の堅い科学者と信じて話す・・・聞いてもらうぜ」
あの時、米田のおっさんにも報告してなかったこと。
全てじゃねぇが、こいつにはそのへんも覚えてさせて光武を改造してもらう必要がある。
顔色が変わったな、話の重要性を認識している証拠だ。
良い感じだ。
「まずは・・・」
Side out
結局、大神と紅蘭が格納庫から出てきたのは二人が篭ってから2時間後のことだった。
上がってきた大神の表情は無表情。
そして紅蘭の表情は、若干であるが青ざめていた。
そのことに対して、さくらを筆頭に花組全員。そして最後にはあやめも出てきて問いただすのだが、紅蘭は「言えへん」の一点張り。
大神が話し、そして紅蘭が秘匿に徹した事は、全てが終わった時に判明することになる。
「なぁなぁ、大神はん?」
「あ?んだよ、今忙しいんだ」
「まぁそう言わんと。今から米田はんとあやめはんを入れて麻雀するんやけど、良かったら面子に入らへん?」
「な、何ぃ?麻雀だと!?・・・くっくっく・・・軍人舐めんなよ?船の中でどれだけ稼いできたと思ってやがる」
「ほぉ?大した自信やな。よっしゃ、決まりや」
そして格納庫での1件以来、大神を毛嫌いしていた紅蘭の態度が180度変わり数日経った今では娯楽に誘うまでになった。
それを見て、危機感(?)を募らせたのが他の花組隊員。
「むぅ・・・大神さんたら紅蘭とばっかり・・・」
「ふ・・・ふふふ・・・そう、少尉・・・そんなに賭け事がお好きなんですの・・・そう・・・」
「おにいちゃん・・・アイリスにも構ってよ~・・・」
「な、なぁマリア。こいつら、いつのまにこんな感じになりやがったんだ?」
「さくらとアイリスは最初から、すみれは会って少し経ってからよ」
「あれ?んじゃあマリアは?」
「吊り目と呼ばれる度に殺意が沸くわ」
「そ、そうか」
さくらとアイリスは焼餅を焼き、すみれは賭け事の言葉に反応して良からぬ妄想をしたのか、頬を赤くして両手で押さえている。
マリアは氷のような冷たい視線を大神の後姿に浴びせ、カンナは4人の変わりように若干引く。
「少尉・・・あんた本当に修羅場作るのが上手いよな・・・まぁあたいは見てて楽しいから良いけどよ」
そう呟くカンナの耳に、紅蘭の悲鳴が聞こえる。
どうやら勝負がついたみたいだ。
「しかも紅蘭より強ぇとは・・・すげぇよ」
かつて花組結成時、給料全てを持っていかれたカンナは改めて、大神に敬意を表するのであった。
あとがき:お久しぶりです、ようやく更新です^^
今回の話、何か閑話っぽくなっちゃいましたね^^;
まさかの紅蘭と大神のニアミス。大神はあの性格なので自分からは言い出さないでしょう。
今回の話で先に繋がる伏線を少しばかり張りました。多分皆さんの予想通りの結末になると思いますが^^;
感想、拝見させていただきました。初見の方から思いのほか良い評価を頂き、非常に嬉しく思います。
誤字報告をしてくださる俊さんにも、とても感謝です^^
また、リクエストにあったあやめの18禁SSですが、完成度は50%です。
並行して書いているので、たまにこちらのSSがシモネタになったりするのでその修正に追われているせいか、完成するのは来週末になるのではないかと・・・^^;
初めてのリクエストなので、頑張りますよ!!
それでは次回の更新にて。