「あ~・・・うざってぇ・・・」
とある軍艦の上。
一人の海軍将校の青年が甲板の上でつぶやいた。
陽気な太陽が穏やかな海を照らす。
それに呼応するがごとく、海からは暖かい風が吹く。
男だらけの、男だらけによる、男だらけの生活。
青年が視点をずらせば、風に靡いている下着、ふんどし、シャツ、etc・・・
「くっっくっく・・・」
女っ気一つない軍艦生活。
それを青年は、とても気に入っていた。
様々な経験が青年の頭の中をよぎり、それを思い出して笑い声を上げる。
だが、将校としての仮生活は終わりを告げようとしていた。
勤務地の変換。
教育を受けた将校が誰もが通る、卒業にして巣立ちの時。
それがあと1週間後に迫っていた。
「いいか貴様らぁ~!貴様ら127名!!栄誉ある少尉への道を切り開き、1週間後にはそれぞれの勤務地へ配置されることになる!!」
教官である大尉が怒鳴り声を上げる。
それに、不動の姿勢を持って真摯に聞き入る将校たち。
が、そこに。
「ふあぁああぁあ・・・」
「こら!!大神ぃ~~!!!貴様、それでも帝国軍人かぁ~~!!!」
空気を読まない一人の欠伸。
大神と呼ばれた、ツンツン頭に切れのある瞳。
作業衣から白いシャツが顔を覗かせ、それが教官の怒りに拍車をかける。
「首席卒業間違いなしの貴様が何故だらしないんだぁ~~!!!」
「・・・んぁ?だりぃよ・・・早く陸に着かないんかね?早く旨い飯食いに行きてーんだけどさ」
「き・・・き・・・きさ・・・!!」
怒りに顔を真っ赤にさせた教官が、人波を掻き分けて大神に迫る。
その手には『精神注入棒』と書かれた竹棒が。
周りを見れば、軍曹数人が包囲を狭めようとしている。
「おっと、説教はゴメンだぞ。んじゃあ加山。あとは任せた」
「っておい、大神ぃいいぃ!?」
「加山、貴様も同犯か~!!」
「え・・いぇ・・ちょっ・・・」
さっと身を翻して逃げる大神。
哀れにも名指しされた加山。
あっという間に教官たちが加山を取り囲み、粛清の嵐をぶつけていく。
なぜ大神の方に軍曹が向かわないのか。
答えは簡単、以前大神が返り討ちにしたことがあったのだ。
普通軍隊で言えば上官抗命罪で処罰されるが、行き過ぎた指導をされ、大神が切れ、それで返り討ちにしたことを艦隊司令が知ったことから、教官連中は大神に対して苦手意識を持っていた。
それだけ大神の腕っ節が強いということになるのだが。
それに加えて我流とも言える、独特の『剣術』。
それが更に拍車をかけていた。
同期の者は、いつものことだとばかりにニヤけた表情をそのままに、不動の姿勢を崩さない。
「なんでオレがこんな目にぃいいいいぃ!?」
口ではそんなことを言いながらも、加山は持ち前の素早さを以って教官たちの攻撃をいとも簡単にかわしていく。
忍びの家系も混ざる加山家。
怒りの感情のみの攻撃など、加山にとっては児戯に等しい。
大神一郎。
加山雄一。
後に、帝国を守る一員として名を馳せる二人のほんの一コマである。
Q:「あなたは大神一郎について、どう思いますか?」
このような質問を、彼の同期たちにしてみるとする。
A:「え?大神?ん~・・・あいつは頭も良いし腕っ節も強い。それは認めるけどよ・・・なんつーか、素で付き合いたくない種だな」
A:「くっ、あいつの所為でボクが首席を取れなかったんだ!何故!何故だぁ!!あいつは勉強なんかしてる感じじゃなかったし座学中も熟睡してるし興味なければ居なくなるし適度に女にモテるしそれに気づかないし風呂場で見たイチモツも首席だったし・・・」
A:「あいつは意地悪な時もあるし、口も悪い。物事に対して無関心なことも多かったし、絶対関わりあいたくないって思うことも常だった。でもな・・・困った時には絶対あいつが何とかしてくれたな・・・そしてそれだけの引率力、行動力がある。多分同期全員がそう思っているはずだぜ?」
そんな風に同期に言われている張本人の大神一郎。
大神は、陸に着いてその翌日に学長室に召喚された。
もちろん、首席卒業である大神に対して異動命令を通達する為であった。
「うっし、やっとオレの出番かよ・・・しっかし時間かかったな?他の奴はさっさと教官に異動命令受けてたのによ」
そう、大神だけは教官から言い含められていたのだ。
「お前には個別に通達がある」と。
それがまさか打ち上げも終わり、卒業した気分で一杯の解散式の日とは思わなかった。
しかも江田島帝国海軍学校学長室において。
「まぁいいか・・・ウン・・・ウン!っし!・・・大神一郎、入ります!!」
学長室では。
二人の男性が書類を片手に話し合っていた。
「しっかし・・・この男が霊力の素質あるのか?確かに成績は優秀だけどよ・・・そこんとこどうなんだ?え?ウチの事情も知ってんだろ・・・若い乙女が戦力となる、『帝国華撃団』の隊長としてふさわしいのかね?」
「ふっふ・・・それはどう化けるかはあの若者次第だよ。そう思わんか、米田」
「むぅ・・・」
「若いが故の過ちもあろう。だがそれを乗り越えてこそ隊員たちとの絆が深まるんじゃないのかい?」
「・・・一理あるな・・・けっ、こんな問題児をオレに押し付けやがって!上等だぁ、大日本帝国に大神有りと誰もが言う男に育ててやろうじゃねぇか!!」
「それでこそ我が親友だよ」
「それにしても・・・」
米田が書類を見やる。
そこに書かれていたのは
『 名前 大神 一郎
年齢 20歳
出身 栃木県
成績 座学 1/127(点数のみの考察)※授業中はほとんど就寝
剣術 1/127 ※元もとの経験に本人の性格が上乗せ
戦術 1/127 ※邪道、外道と言える考察を持つ
偵察 1/127 ※周囲を置いていき、独断で情報を入手
射撃 15/127 ※二日酔いの為本調子とは程遠
格闘 8/127 ※相手の拳が頬に掠り、それに怒って反則の嵐
総合:身体、頭脳共にずば抜けた能力を持つ。しかしながら任務における協調性は
まるで無し、独断専行が目立つが結果をしっかり残すので協調性の重要さを
説く指導のみ実施される。
私時においては、悪道に周囲を巻き込みひたすら邁進する。
私的時間においては、女子の関係は真っ白であり、そこは軍人としての自覚がうかがえる。
以上のことから、性格を矯正すれば立派な帝国軍人になるのは間違い無い。
異動する部隊においての更なる成長、そして上方の『徹底した』指導を願う。
江田島帝国海軍学校指導教官 大尉 高村 浩二
「花小路さんよ、お前さんは反対しなかったのかい?性格に難有り、しかも素行も悪いときたもんだ・・・マリアのでぇっきれぇな奴じゃねぇか」
「はは、それについては懸念はしていないよ。マリアはあれで現隊長を務める才媛。案外マリアが大神君とやらを矯正しそうで楽しみだよ」
「まぁ、あんたがそういうならオレは何も言わねぇよ」
『大神一郎、入ります!!』
「お、奴さんが来たみてぇだな。よし、オレは隠れて実物を見ていることにするぜ」
「お、おい米田・・・」
「ほれ、早く呼ばないと奴さん、待ちくたびれちまうぜ?」
「あ、よね・・・ったく・・・。あぁ、入ってくれ」
「お、やっと来たな・・・まぁ楽にしてくれ」
「はっ」
不動の姿勢から足を肩幅に開いて『休め』の体勢をとる大神。
(くっくっく・・・オレの持ってきこのた霊子測定器で量らせてもらうとするぜ・・・おめぇの霊力をな!)
そう米田が邪笑を浮かべて見守る中、大神に対する異動命令は達せられていく。
最初は真面目な表情を浮かべてそれに聞き入っていた大神だったが、次第にその顔から表情が消えていく。
(・・・?何だ?ちっとは反応すると思っていたんだが・・・っと、測定器を・・・!!な、何だこの数値は!?)
「・・・以上を以って、大神一郎少尉を、帝都所在、『帝国歌劇団』へ異動を命ずる!!」
(・・・はっ!?)
ツカツカツカと聞こえる足音、そして閉まるドアの音。
遠ざかっていく足音が消え、米田はごそごそと這い出してくる。
「米田、何も隠れなくても良かったんじゃあないのかい?」
「そう言いなさんな、オレもちょっと気になっちまってよ」
「ほう?」
笑いを隠しながら米田に文句を言う。
だがいつもは茶化すところを硬い表情で受け流す米田に、佇まいを正す。
「オレが元どこに所属していたかは知っているな?」
「愚問を。『帝国陸軍対降魔部隊』・・・たった4人の少数精鋭で降魔戦争を終わらせた伝説の部隊。今の『帝国華撃団』の前身だな・・・何故それを?」
「オレぁそこに居たせいか、少々霊力察知に長けていてな・・・奴さんが来た瞬間に鳥肌が立ったわけだ・・・だからこの測定器で量らせてもらったぜ。だが・・・」
「だが?」
「こいつが全く反応しやがらねぇ。大神に霊力があるのは間違いねぇんだが、こうも反応しないとなると・・・」
「なると?」
「・・・オレにも分からねぇ。この測定器の故障かもしれねぇし・・・。こいつぁ本気で奴を見定める必要が出てきたってことだ。・・・『光武』に搭乗できるかどうか、そして『あいつら』がうけいれるかどうかは霊力の有り無しに大きく関わってくるからな」
「ふむ・・・じゃあどうする?」
「とりあえず、あいつらの中で新入りの、『さくら』に大神を迎えに行ってもらう。それでさくらの印象が悪ければ他をあたる。もし劇場まで連れてきたなら・・・合格だ。徹底的に教育してやる」
「ほう、さくらといえばあの・・・」
「あぁ、『一馬』の一人娘だよ。あいつの真っ直ぐな瞳は人となりを見抜く。真宮寺の、そして『破邪』の血を受け継ぐさくらにはうってつけさね」
「なるほど・・・もしお眼鏡にかなわない様ならウチで面倒を見るとしよう。書類の準備を忘れないでくれ」
「へいへい・・・ったく、隠居して楽して暮らすはずがよぅ・・・」
「はっは、備えるに越したことはないよ、米田」
「分かってらい!」
その後も3人の談笑は続く。
先ほどまで緊張した空気が霧散しているのは、さすが数10年を共に歩んできた間柄である。
その空気を楽しむように、米田ら3人は酒宴へとうつっていった。
あぁ、やっと運命の人に出逢えた。
桜舞い散る歩道の上、私と大神さんが初めての・・・!
絶対に逃がしませんからね、大神さん!?
次回、サクラ大戦 『私と桜と破邪剣聖』
大正桜に、浪漫の嵐!!
あとがき:えっと、皆さんご存知「サクラ大戦」の再構成SSです。私事になるのですが、以前書いていたSSのストックがPCの故障により全消去されてしまうという惨事に見舞われまして・・・w「妻みぐい」は12作分、「リリなの」は8作分・・・外付けHDに保存しなかった自分を恨む日々が続く中、さすがにすぐに復旧していくのも心が折れて心機一転、このようなSSを書いてみることに^^
もちろん、前2作のストックも作り直していきますが、それまでつなぎとしてお読みいただければ光栄です。
※修正
※指摘に基づき、題名を修正