【第五話~ルルの正体判明~】
新しい仲間を迎えてから三カ月ほどが経った。
俺達の旅団のランクが漸くBに上がり、紹介される依頼も増えてきた。
それにしても本当に漸くといった感じだ。
ルルやココール、マイにリクであれば実際問題ランクA以上なのが当たり前なのだ。
それを俺が脚を引っ張っているせいで未だにランクがB。
情けないものだ。
それでも最近はギルドの親父が時々紹介してくれる割の良い上のランクの依頼を受けているおかげで前よりは成長できていると思う。
実際問題前回Cに上がるのに三カ月掛かり、今回のBに上がるまでも三カ月でこれたというのはこの上の依頼を受けられた事が大きい。
Cに上がるまでとCからBに上がるまででは難易度が全然違う。
俺がCに上がるまでに受けた依頼は全部ランクD以下の物であり、その場合上のランクに上がるにはそれ相応の信頼と実績が必要になる。
D以下の依頼達成の数100が最低条件になるのだ。
そしてCからBに上がる時に同じ要領でやり続けるとなるとC以下の依頼達成の数1000が最低条件になり、ギルドからの戦力評価も受けなければいけない。
今回俺達はギルドの親父の紹介でランクAの依頼やBの依頼を何度か受けさせてもらったおかげで比較的早くここまでこれたのだ。
そして戦力評価は実際問題ココール、マイ、リクの三人だけで実質AAランクの評価を貰っている。
俺は普通に受けてぎりぎりCランク、ルルは教えてもらえなかった。
そう教えてもらえなかったのだ。
何度聞いても俺と同じくらいという返事しか返ってこない上に、周りの仲間に聞いても困ったように笑われて本人が言わないのに言えないとはぐらかされてしまう。
と言っても、ルルに無理やり問い詰めるような真似をしたくもなければ、其処までして知りたい訳でもない。
何となく気になると言った程度だ。
ただ、何となくというよりもこれだけ依頼を受け、共に戦場をくぐり抜けてきたのだ、ルルが明らかに俺より強いのは解っている。
ルル自身はどうにか其れを隠そうとしているようだが、隠しようが無いほど俺と差がありすぎる。
ほぼ間違いない感じでココールやマイ、リクと同程度の実力はありそうだ。
今まで実際問題冒険者として生活をしていなかった筈のルルが何故それほどまでに強いのかは解らないが、今現在一番弱く足手まといになっているのは間違いなく俺だ。
ああ、改めて考えると切なくなってきた。
頑張らないと。
本当に頑張らないと。
皆に失望されないように、皆が他の奴らに笑われないように。
とりあえず、周りから一つのしっかりとした旅団と認めてもらえるように拠点を手に入れるのを第一目標にしてきたのだが、それがもう少しで叶いそうなのは良い事だ。
資金がもう少したまれば目星をつけている物件があるので其処を手に入れたい。
一応前金を渡して予約だけはしているのだが、いかんせん時間をかけ過ぎればそれも意味がなくなってしまうだろう。
後一カ月以内になんとかしなければいけない。
俺が目星を付けた拠点は大きさはそれほどでもない。
と言っても普通の家とかと比べれば全然大きいのだが。
ただ、作りがしっかりとしていて中も良い感じであるから値段は予想していた金額よりも高い物になっている。
場所が場所だけにそれでもその作りや中身にしては値段が下がっているがそれでも850Pもの価格になっていた。
今現在の旅団で貯めているお金は780P。
こまごまとした物や、最低限必要なアイテムをそろえる事を考えると最低限の70Pの他に50Pは余裕を持って欲しいところだ。
とりあえず最低限必要な残りの70Pを稼ぐ事が第一優先なのは当たり前だが。
そんな事もあり、今回は最初からギルドの親父に金額の良い依頼が無いかを聞いているのだ。
「ん~あるっちゃあるが、ランクAAAの物になっちまうんだよな。 この依頼を達成できれば3ランクオーバーの依頼達成という事でランクAに上がる依頼必要数が一気に半分になるし、この依頼達成の報酬金額は150Pだ。 でもな、何というかん~少し譲ちゃんと話しさせてもらってもよいか?」
ギルドの親父はそう言うとルルを連れて奥の部屋に言ってしまった。
「ルルに話って何なんだか、解る?」
俺が三人に尋ねると三人は「あー何となく予想はつく」といった感じの返答だった。
どうやら解らないのは俺だけらしい。
少し疎外感を感じる。
少ししてギルドの親父とルルが帰ってきた。
ルルは少し困ったような表情で何か決めたような感じで俺に近づいてきた。
「お、お兄さん! 少し、少し良いですか、大事なって訳でもないんですけど、今回の依頼を受けるのにあたって話しておかないといけない事があるんです」
最初俺に挑むように声をかけてきたが直ぐに恥ずかしそうに小さな声で俺だけを呼ぶ。
三人をチラッと視線を向けるとなにやら漸くかといったような感じの表情でルルを見ていた。
何なんだ?
とりあえず俺はルルに頷いた。
「今日の夜お兄さんのお部屋にお邪魔しますね」
そう言ってギルドの親父にその依頼を受ける胸を伝えに行った。
あれ?
俺一言も受けるなんて言ってないんだけど、もう何かきまっちゃってるよね。
いや、まぁ報酬を聞いた時点で受けられるなら受けたいと思っていたけど普通俺が受けると言いに行くべきじゃないのか?
ギルドの親父も慣れた手つきでそのまま受領しちまうし、ああもういいや。
どっちにしても受けるんだし。
とりあえず今はルルからの話の方が気になるしな。
今回の依頼はとある小さな村付近の洞窟に住み着いたモンスター退治とその村の負傷者の治療プラスアルファーと書いてあった。
プラスアルファーが何なのか気になるが、その事も含めて夜俺に話をすると言うのでその時まで待とう。
依頼を受けた俺達はとりあえず出発が三日後の朝になるのでそれまでにそれぞれ準備を済ませる為にばらばらになった。
それぞれ修理の為に預けてある装備品や足りないアイテムを買いに行ったり、受け取りにいったりしている。
俺もとりあえず足りなくなった回復アイテムを補充するために雑貨屋に向かう。
装備類は明日出来上がるので明日の夕方にでも取りに行こう。
俺は必要な物を買い宿屋でルルが来るのを一人待つ事にした。
「お兄さん、これが私のカードです、見てください」
そして差し出されたカードに書かれているのを見て俺は心底ぶったまげた。
いや、レベルや強さは解っていた。
というか、ココール達に近いくらい強いのは何となく予想していた。
だがこれは予想外だ。
こんな事があるとは一切想像すらしていなかった。
カードに普通なら表記されない称号名が記されていたのだ。
称号名とはいわば周りの者達から認められ、その上でギルドにまで認められた上で付けられる称号だ。
二つ名と良く呼ばれる。
例えばココール。
ココールも実は称号を持っている、称号名『神秘』だ。
ココールを知る者は、彼を神秘のココールと呼ぶ。
因みにマイとリクも称号を持っている。
マイは『鬼人』、リクは『疾視』という称号だ。
勿論俺は持っていない。
俺だけ称号を持っていない。
というより普通は持てない物だ。
持っている方が凄いだけで持ってないのが悪いわけではない。
でも情けない気がしないでもない。
あー話がそれたが、ルルにもその称号があり、その称号名に俺は心底驚いた訳だ。
称号『聖』。
つまり、つまりだ。
噂の聖少女というのはルルだったという事だ。
あっはっは。
本気でかー。
本気でびっくりした。
俺が一人呆然と驚いているとルルが酷く慌てながらあたふたと俺に言葉を掛けてくる。
「お、お兄さんごめんなさい! 隠すつもりじゃなかったんですけど言いだせなくて」
まぁそう簡単に言える事じゃないよな。
というよりも先ず、俺がルルの事を知らない事が大問題だったのではなかろうか?
大概の奴らは直ぐにルルが聖少女だという事が解ったらしい。
というのも冒険者の多くは大きなけがを負う事があり、その場合教会に治療を頼むのだが、その時にルルに治療を受けた奴が結構いたらしい。
そういう奴らから情報が流れに流れてルルが聖少女というのは比較的早い段階で知れ渡ったらしい。
どうして俺がそれを知らなかったかというと、俺自身其処まで大きな傷を負った事がなく、教会のお世話にならなかった事と、ルルがなるべく俺にそういう話題を近づけないようにしていたからだ。
とりあえず必死に謝るルルの頭をなでながら「まぁ驚いたけど、謝る事じゃないだろう?」と言って落ち着かせた。
実際問題、酷く驚いたものだがそれだけだ。
ルルが噂の聖少女だからと言って今更態度を変える気もなければ、だからと言って仲間から外す気もない。
聖少女だろうが無かろうがルルはルルであり、俺の大事な仲間なのだ。
それさえ履き違えなければ問題ないだろう。
うん問題ない。
俺だけ齢の何てきっと問題ないさ。
その後少し話をした後に依頼の事を確認した。
今回受けた依頼は村人たちの傷の手当ての他に、死んだ者達を天に送る作業も入っているらしい。
だからこそ、ある程度知名度があり、その知名度で納得できる人でなければ相手方も受け入れられなかったらしい。
なんともまぁな話だ。
とりあえず俺はその話が終わった後、気づけばなくなっていた飲み物のお代わりを取りに行き、戻ってきてみればルルはスースーという寝息を立てて寝てしまっていた。
俺が考えている以上にルルにとってこの話をするのは緊張したんだろう。
あんまり目立ちたがりの娘じゃないからな。
なのにわざわざ俺に打ち明けてくれたのだから嬉しい物だ。
その気持ちに答えないとな。
俺は少しだけ笑うとルルを抱きかかえ俺のベッドに寝かしつける。
「ルル、ありがとうな」
俺はそれだけ言って最後にルルの頭をなでると宿屋のおじさんに毛布だけ借りて床で寝る事にした。
色々驚く事はあったけどやる事に変わりは無い。
明日からまた頑張らないとな。
俺はそう考えながら眠りに落ちた。
ギルドの親父さんに呼ばれて奥の部屋に入った後聞いた話は予想した通りの物だった。
「譲ちゃんがあいつに秘密にしておきたがっているのは解るんだが、今回の依頼を受けるならどうやっても譲ちゃんの正体があいつに解っちまう。 それでも良いかと思ってな、先に譲ちゃんに確認しとこうと思った訳だ」
私は小さく溜息をつきながら仕方のない事だと思っていた。
いつまでも隠しておけるわけでもないし、隠しておきたい訳でもない。
お兄さんに知られてそれで今までと違う態度を取られたり、旅団から外されたりするかもしれないのが怖いのだ。
勿論お兄さんに限ってそんな事は無いと思う。
無いと思うけどそれでも怖いのだ。
「どうする?」
ギルドの親父さんが改めて効いてくる。
この人も良い人だ。
本当なら私にこんな事確認しないでそのまま渡せば良いだけだというのに、私に気を使ってこうまでしてくれているのだ。
出来る事なら知られたくない。
それでも今回のこの依頼の報酬があればお兄さんが必要だと言っていたお金が全部足りる。
お兄さんの喜ぶ姿を想像してしまった時点で私の答えはきまってしまった。
「しょうが、ないですよね。 実際いつまでも隠しておける訳じゃないですし、何よりこれでお兄さんが喜んでくれると考えると私は拒否する事出来ないですよ」
私が苦笑しながらそう言うとギルドの親父さんは「あいつもまぁなんというかなぁ」と同じように苦笑を洩らした。
その後私はお兄さん達の所に戻りお兄さんに話があると切り出した。
何だかんだで気づけば夜お兄さんの部屋に行く事になってしまった。
緊張していてあまり深く考えていなかったけど夜にお兄さんの部屋に行くのだ。
どうしよう。
そ、そうだ、まずは準備しないと。
新品の下着、かわいいのを用意して、しっかりお風呂に入っていかないと。
そういえばココールさんが良い匂いのする香水を持っていた筈、何処で売っているのか聞いておかないといけないよね。
って、私は一体何の準備をするつもりなの!?
ああ、でもこれくらいは最低限何かあっても困らないように準備だけは大事だよね?
うん、これはおかしい事じゃない、当たり前のことの筈。
お兄さんの部屋に行くのだ、これくらいは当たり前よね。
出来れば雰囲気の良くなる香なんかあればって、だから私は一体何を考えているの!
こ、今回はお兄さんに私の事を話しに行くだけなんだからそんな事ある訳ない。
無い筈。
だからそんな準備は必要ないの!
……でもまぁ、準備だけはしておいて損は無いし、急いで買い物に行かないといけないかな。
先ずは服屋さんからだ、夜まであんまり時間ないし急がないとね!
夜私はお兄さんの部屋の中でかちんこちんに固まっていた。
は、話をしないと。
でも私の目線にはお兄さんがいつも使っているであろうベッドに、脱ぎ捨てられた普段着。
ああ、お兄さんの服。
お兄さんが飲み物を取りに行ったすきに思わず近づいて手に取っていた。
少し汗で湿っている。
お兄さん私が来る前に着替えたのかな?
少しだけ匂いを嗅いでみるとお兄さんの匂いがした。
ベッドからもお兄さんの匂いがしてくるみたいでああ、どうしよう。
私が一人そんな事をしていると廊下から足音が聞こえてきた。
お兄さんが戻ってきちゃった!
あわあわとしながら急いで服を元あった場所に戻し、私も座っていた場所に座りなおす。
「ごめんな、遅くなった。 とりあえずお茶を貰ってきたから、ついでにこれも」
そう言ってお兄さんはお茶とお菓子を私に出してくれた。
ああ、でも私の鼻にはまださっきのお兄さんの匂いが残っている。
手にもお兄さんの衣服の感覚が残って、まだそれをなくしたくない。
「あ、ありがとうございます」
それだけ言ってとりあえずはお兄さんのさっきの感覚をまだ味わい続けた。
しばらくそのまま黙っていたのだがお兄さんが「それで話って?」と言ってきたので我に返った。
そうだった、私はお兄さんに話をしないといけなかったんだった。
思い出した私は違う意味でやはりかちんこちんになってしまった。
それでも話さなければいけないので少し時間がかかってしまったが、胸元からカードを取り出しお兄さんに差し出した。
「お、お兄さん! これ、これを見てください!」
私が震える手で其れを差し出した。
お兄さんが不思議そうにそれを見つめる。
「お兄さん、これが私のカードです、見てください」
もう一度そう言った。
お兄さんが私の手からそのカードを受け取り中を確認する。
次の瞬間お兄さんが今度は固まってしまった。
ああ、やっぱり。
今まで隠していた聖の称号にやっぱり驚いてます。
どうしようどうしようどうしよう。
話してしまった。
お兄さんに避けられたらどうしよう。
嫌われたらどうしよう。
もうそんな事になったらイキテイケナイ。
ああ、お兄さん、おにいさんおにいさんおにいさん!
私はその後自分で何を言っているか解らない程何でもかんでも言い訳をしたと思う。
その後すぐにお兄さんは私を抱きしめながら頭をなでてくれた。
お兄さんに頭をなでられるのは大好き。
凄く気持ちが良い。
何よりお兄さんに抱きしめられている。
さっきお兄さんの衣服よりより強いお兄さんの匂いとぬくもりが私を包む。
ああ、今なら死んでも良い。
でも死にたくない。
お兄さん。
私がそんな幸せを感じながら呆然としているとお兄さんがゆっくりと私がどんな人物であっても私は私であってお兄さんにとっての私は変わらないと言ってくれた。
嬉しかった。
それから私はお兄さんと色々とお話をした。
何故隠していたのかとか、やっぱり強かったんだという事等。
お兄さんはうすうす私のレベルが低くない事に気づいていたらしい。
それを聞いた時は私も驚いた。
なんとか隠し通せてると思っていたのに隠せていなかったのだ。
私もお兄さん関係になるとまるで駄目駄目みたいだ。
そのあとひと段落ついてから依頼について説明を始めた。
今回の依頼はモンスター退治の他に村人たちの傷の治療、それに死者の鎮魂をしないといけない。
死者の鎮魂は高レベルの神聖魔法のレクイエムが使える者にしかできない。
それも今回は死者が百人を超えているらしく、短時間で全ての者達にレクイエムを掛けないといけないのだ。
教会でも私の知る限り其れが出来るのは十数人程度しかいなかった。
ましてや冒険者の中にいる人で出来る人がどれだけいるのか疑問に思った。
とりあえず私であれば五百人程度までであれば一度でレクイエムを掛ける事が出来るのでその点は問題ない。
そして今回の依頼者はその村の長老らしいのだが、村人たちを納得させるためにある程度知名度のある人物じゃないといけないということらしい。
その分依頼の金額に上乗せしたという事だ。
これでも聖の称号を持つ私は一応有名人だと思う。
だからギルドの親父さんもこの仕事を紹介してくれたのだろう。
その事をお兄さんに話したら成程と納得してくれた。
その後少し何でもないような事を話していると、お兄さんが飲み物やお菓子が無くなっている事に気づいて取りに言ってくれた。
私が行くと言ったけど今回は私がお客さんだからという事でお兄さんが取りに行ってくれた。
やっぱりお兄さんは優しくて素敵な人だな。
私はほぅと改めてお兄さんの事を好きになっていると、ちらっとお兄さんが普段使っているであろうタオルが目に付いた。
思わず手にとってまた匂いを嗅いでみた。
やっぱりお兄さんの匂いがする。
私はそれを顔に抱きしめるような感じでいるとだんだん眠くなってきた。
お兄さんに抱かれているような気分で凄く居心地が良い。
ああ、お兄さん。
お兄さん、お兄さんいい匂い。
お兄さん、大好きです。
そのまま気づけば私は寝てしまっていた。
【ステータス】
・主人公
レベル15
冒険者ランクC
旅団ランクB
・ルル
レベル87
冒険者ランクS(聖の称号がある為AAAから始まり、この六カ月でワンランク上昇)
旅団ランクB
・ココール
レベル96
冒険者ランクS
旅団ランクB
・マイ
レベル83
冒険者ランクAAA
旅団ランクB
・リク
レベル92
冒険者ランクAA
旅団ランクB