【第三話~オカマの次は〇〇〇!?~】
ルルとココールが旅団のメンバーに加わってくれた事で最低限ギルドの依頼を受けられるようになった。
ギルドランクがB以上にならなければ基本的に一人での依頼は受けられず、三人以上でないと駄目なのだ。
ルルとココールを迎えた翌日、俺たちは三人でギルドに来ていた。
因みにココールの宿が幸いにも俺の泊まっている近くの宿だったため待ち合わせが楽だった。
「おう! 昨日は散々だったな。 だがまぁ仲間が見つかったみたいで良かったな!」
ギルドの親父がそう言って俺に話しかけてきてくれた。
俺はそれに素直に頷きながら一応確認のために募集の事を聞いてみた。
三人は最低限の人数で、出来ればもっと数が欲しい。
後は前衛とバックパッカー系の能力があるやつがいると大概の所に行けて良いのだが其処まで都合よく見つかるものかどうか。
案の定ギルドの親父からは「募集にはやっぱり反応はねぇよ」という答えしか返ってこない。
解っていた事なのであまり落ち込まず「そうか」とだけ返事をした。
まぁ今回はルルとココールという仲間が二人もいたおかげもある。
とりあえず俺たちはギルドの依頼が貼られている掲示板の前に行ってどんな依頼が良いかを話し合った。
「ん~マスターはまだレベルも1だし、ランクだって1何だから確実にこなせるような簡単な依頼からにした方が良いわよ」
一番の経験者であるココールがそう助言をしてくれたので、俺達は街はずれに農家のモンスターからの護衛の依頼を引き受けた。
モンスターとの戦闘がある可能性があるので難易度が其処まで低いのかと思われがちだが、実際あそこに出現するモンスターと言えばスライムが大半であり、時折ちらちらとコボルトが出る程度だ。
コボルトといっても低レベルのコボルトであり、実際は子コボルトと呼ばれる奴らだ。
身長も50センチくらいの小ささで武器も持っていない。
満足に二足歩行もできないので、ぶっちゃけ下手をしたら犬と勘違いしてもおかしくは無い。
ギルドランクはEの依頼だ。
報酬は一日10L。
冒険者の報酬としては高くはないが、一般的な報酬にして見れば高額な方だ。
何せ一日一人暮らすのに掛かる基本金額は1L。
節約すれば半分の50M程度で済む。
10Lあれば場所によっては宿屋で一カ月の契約を結ぶ事だって出来るのだ。
因みに100L、つまり1Pで豪華な最高級の宿に一カ月止まる事が出来る。
100Pあれば小さな家が建てられる。
因みに1000P貯めれば1G、詰まるところの金の延べ棒と交換してもらえる。
一種のステータスになる為必死に貯めてそれを手元に置きたがる奴は多い。
何であんな重たくて盗まれやすそうな小さな物に変えたがるかは俺には解らない。
まぁそんな感じでその依頼を受けた俺たちはさっそくその農家の場所まで行く事にした。
農家のおじさんとおばさんは良い人っぽい人達でギルドの仕事で来たというのに来た事にわざわざ礼まで言ってくれた上食事などまで出してくれた。
ほんわかと暖かい気持ちにさせてもらいながらの仕事は意外と楽で、実際出てきたのはスライムが15匹程度だった。
因みにスライムなら一般的な青年であれば武器さえあれば始末可能なモンスターだ。
ただし少し年がいって体力がなかったり、小さな子供の場合は危険がある為、その時は周りに頼んだ方が良いのだ。
何せ動きが鈍く弱いくせに繁殖能力が高いので、倒すのに時間がかかればいつまでも増え続けて終わらないからだ。
倒した後さらにお礼を言われ、逆に恐縮しながらその日の依頼を終えた。
流石にあれだけで10Lも貰うのは気がひけたので半分の5Lだけ貰って帰ってきた。
帰りに食事まで貰ったのだ、それくらいで丁度良いところか多いくらいだろう。
そして今回のこの依頼は一週間の契約で結ばれているので後六日もあるのだ。
正直ココールにとっては退屈な依頼で申し訳ないとも思ったが、ココールはそんなそぶりを一切見せず、それどころかこういう依頼は好きだと言って笑ってくれた。
本当に良い奴だ。
未だに少女に間違えそうになる事以外問題は無い。
俺たちは貰った5Lを一人1Lずつ配り、残り2Lを何かあった時の緊急の為の費用にするために貯める事にした。
勿論個人で持っていては勝手に使ってしまう心配もあるのでギルドの金庫に預ける。
ギルドの金庫は個人個人での物と旅団纏めての物があるので、今回は旅団の方にだ。
そして俺たちは一週間何事もなく農家の護衛を達成出来た。
と言いたかったのだが、最後の日に何故か問題が起こった。
ルルに「お兄さんの才能は本当に凄いですね」と言われ、ココールに「本当にマスターはトラブルホイホイねぇ」と言われた。
俺のせいなのか?
確かに何かトラブルに巻き込まれる可能性は高いが、俺は意図していないぞ?
まぁ意図して引いていたら大問題なんだけどな。
とりあえず、最後の日に起きた問題とはコボルトの集団の来襲だった。
「マスター! 下がって!」
一番早くに気がついたのはやはりココール。
まだ姿も見えないうちにそう言われ、俺は良く解らないがすぐにココールの後ろまで下がった。
声にいつもの余裕がなかったので緊急事態だと判断したからだ。
俺が何事かと声をかける前に何故そう言われたのかが解った。
少し離れた森の中から土煙を上げながら数え切れないほどのコボルトがこちらに向かって走ってきているのだ。
「守護の盾、我が仲間の身を守れ」
ルルがそういうとルルと俺とココールの体が白い光に包まれた。
「ふふ、ありがとう」
「助かる!」
俺とココールはそう言ってルルに声をかける。
ルルが唱えてくれた魔法はボディーシールド。
武器や防具には効果がないが、全身に掛けられる防御魔法だ。
それもルルの話によるとオーガの一撃位なら防げるというのだから物凄い。
もしかしてルルってかなりの実力の持ち主なのか?
カードも何故か見せてくれないし……まさかなぁ。
とりあえず俺はとにかく邪魔にならないような位置に行き、ココールがコボルトを殲滅する姿を見ていた。
「燃えなさい!」
その一言で横幅10Mはありそうな炎の壁がコボルト達の目の前に現れ、最初の方を走っていたかなりの数のコボルトが燃え尽きた。
コボルトは燃えているというのに地面の草や他の木々は一切燃えていない。
どういう事なんだ?
「ふふ、対象をコボルトだけにしているだけよ」
魔法ってすげぇ。
そんなことも出来るのか。
俺がそんな事に感激しているとコボルト達が後ろから来る何かに怯えたように我先に左右に走って逃げだした。
ん?
逃げ出した?
ってことはこの農家への襲撃が目的じゃなかったのか?
どういう事なのかと思い様子を見ていると、森の中から一人の少女が大剣を振り回しながらコボルトを斬り倒していた。
「っっ! す、すいません! 其処の人達逃げてください!」
少女はこちらが最初のコボルトを焼いたところを見ていなかったらしく焦ったようにそう声をかけてきた。
どうやらこのコボルトの集団はあの少女が追い立てた結果らしい。
だがはたして一人の剣士だけであの数のコボルトを森から追い立てる事が出来るのか?
「お兄さんあの人一人っきりですよ。 仲間に見捨てられたみたいですね」
やはりそうか。
明らかにあの数を追い立てるには魔法を使える奴が必要だし、その後にも援護するために最低限二人は必要だろう。
おそらくあまりの数の多さにあの少女を置いて逃げてしまったのだろう。
あくまで予想だが、そうだというのであればあまりにもあまりな話だ。
「お願いします! 私ひとりじゃ全部をフォローする事が出来ないんです! 逃げてください!」
それだというのに少女は一人必死に被害を少なくしようと頑張っているのだろう。
もうすでに予測と言っていながら俺の中ではそうだと決めつけていた。
「ルル、ココール大変だと思うが」
「解っているわ、むしろ此処で見捨てるなんて言っていたら怒ったわよ」
「お兄さんならそうするって解ってました。 大丈夫です!」
俺が言いきる前に二人は笑いながらそう言ってくれた。
ああ、畜生、なんか恥ずかしい。
「とにかく助けるぞ!」
「ええ!」
「はい!」
俺たちはそう気合を入れると即座に動き始めた。
「風よ逃すな、土よ阻め!」
ココールがそう声を上げると左右に逃げたコボルト達に風が襲いかかりその足を止め、その眼前に土の壁が現れ行く手を遮った。
「癒し活力を! 頑張ってください、私達がフォローします!」
ルルはコボルトの後ろから来た少女にヒールとフォースの魔法を唱えた。
「っ! ありがとうございます!」
少女はそう言いながらも凄い勢いでコボルトを殲滅していく。
一振りで少なくとも五匹。
多い時では十匹近くを一撃で葬っているのだ。
数でいえばダントツでココールだ。
一度の攻撃で数十から百数十匹を倒している。
一体どれだけのコボルトがいるんだ?
明らかにあの森のコボルトの巣があったのだろう。
それにしても多い。
俺はコボルトの後ろから追いかけてきていた少女の直ぐ傍まで近寄り声をかけた。
「大丈夫か? とりあえずこれを」
俺はそう言って一つの腕輪を渡す。
これはココールに渡された通常攻撃を範囲攻撃に帰る腕輪だ。
剣による攻撃であれば振った剣から衝撃波が出るらしい。
拳であっても範囲が短いが同じ衝撃波が出ると言っていた。
俺が使うより明らかにこの少女が使った方が良いだろう。
「!? なっ! い、いつから其処にいたんですか!?」
それは酷い。
俺は其処まで存在感がないですか?
俺ががっくりとしているのを見た瞬間急いで謝ってきてその腕輪を受け取ってくれた。
「すいません、ありがとうございます! 少しお借りします!」
そう言って腕輪を付けた少女の活躍はまたすごい物があった。
腕輪の効果は使用者の力量で変わるらしく、俺が使った時は1M先までしか衝撃波が出なかった。
少女が使うと5M程度先までその衝撃波が届いている。
俺の五倍、全く俺とはレベルが違うのが良く解る。
にしても、俺は本気で存在感がないのか?
少女に近づくまでコボルトの横等をすり抜けたというのに一匹として俺に見向きもしなかった。
というよりも、ルルもココールも俺の存在を忘れているっぽい。
いや、ルルに関しては忘れているというよりも俺が何処にいるのか解っていないらしい。
「お、お兄さん何処ですか! まさか、そんな筈は! お、お兄さん!?」
酷く慌ててそんな声をあげている。
いや、ルルよ、少し距離は離れているがはっきりと見える位置に俺はいるぞ?
何故気づかないんだ。
大量のコボルトとの戦闘で視野が狭くなっているのか?
「マスター? 一体どこに」
ってココールまで俺の存在に気づかない?
どういう事だ。
俺とココールは実際2Mくらいしか離れていないぞ?
「ココール此処だ。 俺は此処にいるって」
俺がそう声をかけると酷く驚いた表情で俺の方に振り返った。
「いつから其処にいたのかしら?」
おいおい、戦闘に集中しすぎて気づかなかったのかよ。
「いや、いつも何も、ルルが騒ぎ始める少し前からずっと此処にいるぞ」
やべぇ、これいじめかと思うくらい俺の存在が無視されている気がした。
「……もしかしたら。 それは後で考えましょう。 今は先にコボルトの殲滅ね」
最後にルルに安心するように伝えるように言われ、ココールはコボルトの殲滅に戻った。
俺は言われた通りルルの近くまで注意しながら進んだ。
コボルトから攻撃を受ければ躱せるように。
今の俺であればこの通常のコボルトには攻撃したところで大したダメージが与えられない。
ならば邪魔にならないように逃げるのが一番だ。
俺はまたもやコボルトに一切見向きもされずすぐ横を通りながらルルの直ぐ傍まで近づいて声をかけた。
「ルル俺は此処にいるから大丈夫だって。 だから落ち着いて」
俺がそう声をかけると体をビクッと震わせて俺に視線を合わせ始めた。
ちょいまってくれ。
俺はいま目の前、ルルの目の前に立っているんだぞ?
なのに何だその反応。
今気づいたみたいな反応だったぞ。
「お、お兄さん!? えっ! い、いつから目の前にいたんですか!?」
やっぱり気づいてないのか。
俺、存在感そんなになかったんだな。
がっくりと肩を落としながら「比較的真っ直ぐ前に進んできたからさっきからルルの前の方にはいたよ」とだけ答えた。
俺がそんな風に肩を落としている間に戦闘は終わっていた。
あれだけいたコボルトが全滅している。
ココールが後始末でコボルトの死骸をその場で埋葬している姿が見えた。
全てが終わると先ほどの少女と俺達三人は合流して挨拶を交わしていた。
「本当にすいませんでした。 私達のミスでご迷惑をおかけしました。 そしてありがとうございました!」
少女が言うには森にできたコボルトの巣の討伐依頼を受けてここに来たらしい。
今回新しく入った旅団での初めての戦闘だったので頑張っていたらしいが、コボルトの数が予想以上に多い事に気付いた他のメンバーが一目散に逃げ出してしまったという。
かといって暴れだしたコボルトを放っておける訳もないので一人奮闘していたという。
予想通りだった。
俺は憤りを隠さずに「ありえねぇ!」とだけつぶやいていた。
ココールは少し考えた後、その少女に一つの話を持ちかけた。
「ねぇ、もしよかったら貴方マスターの旅団に来ないかしら? マスターのレベルや旅団のレベルは低いけど絶対に仲間を見捨てたりするようなことは無いわよ。 マスターも嫌何て言わないわ」
そう言って少女を見た後ちらっと俺を見る。
俺は勿論だと言わんばかりに頷いた。
「えっ? で、でも、今入っている旅団が」
「仲間を一人見捨てて逃げるような人達の所にいる意味あるんですか? ないですよね。 ええないです。 そんな人達に義理立てする必要はありません。 ですので本当に嫌だと思わないのでしたら是非私達の旅団に入ってくれませんか?」
俺が何か言う前に怒ったような表情のルルがそう言っていた。
俺も同じ気持ちだったのでその後に頷いた。
「えっと、嫌何て事は無いです。 さっきの戦いとか見ててもお互いを本当に大事にしているのは解りました。 正直羨ましいなぁって感じたりもしたくらいです。 だから入れて貰えるなら是非入らせてもらいたいです」
少女がそう言ったので俺がそれに言葉を返した。
「勿論歓迎するよ。 まぁとりあえずギルドに戻って旅団の退団申請をしてからになるけどな。 まぁ気持ちで俺達の仲間になってくれるって言ってくれたんだ、もうすでに君も……えっと」
「あっ! すいません、私はマイ=レイニーって言います。 よろしくお願いします!」
「私はルル=エリシャです。 これからどうぞよろしくお願いします!」
「私はココール=ノイスよ。 宜しくねぇ」
と各自自己紹介を済ませ、俺は言葉をつづけた。
「うん、全員の自己紹介も終わった事だしマイも俺達の仲間だ。 旅団申請で何かいざこざがあると困るから一緒に行こう」
俺がそういうとルルとココールも頷いてくれた。
マイはありがとうございますという言葉と共に嬉しそうに微笑んだ。
とりあえず俺たちは農家のおじさんとおばさんに話をして、最後の日の依頼を終えた。
ついでに三人分とマイの分までお弁当を作ってくれた。
本当に良い人達だった。
そして俺たちはそのままギルドに戻り、其処には丁度タイミング良くマイを見捨てて逃げた旅団のメンバー達がいた。
マイの帰還を驚いた後に心配した等という言葉を吐いているのに本気でイラついたが、その後マイが抜けたいと言った後、旅団の誰もが引きとめはしなかった。
表情には気まずさが浮かんでいたので、マイから言い出さなくても近いうちに旅団から退団させられていた可能性がある。
こんな奴らの所にいるくらいなら絶対に俺達の旅団の方が良いと断言できる!
いやまぁ、確かにレベルとかは低いけど、仲間を見捨てたり等は絶対にしないと断言できる。
こうして新しい仲間が加わった。
「改めて宜しくお願いします!」
マイがそう言って微笑むのと同時に俺達も互いによろしくと声を掛け合った。
私は非常に焦っていた。
気づけばお兄さんがいないのだ。
ついさっきまで私の直ぐ傍にいたはずなのにいない。
どういう事!
私は必死に声を上げお兄さんを呼んだ。
もしかして、いや、そんな筈はない!
あっていい訳がない!
お兄さん、お兄さん何処にいるの!?
「ルル俺は此処にいるから大丈夫だって。 だから落ち着いて」
私が一人慌てていると突然目の前にお兄さんが現れた。
そう突然目の前にお兄さんが現れたのだ。
つい今までいなかった筈なのに急にだ。
どういう事!
でも、そんな事よりお兄さんが無事でよかった!
お兄さんは存在感が無いのかとかつぶやきながら落ち込んでいたけど、後で慰めてあげれば良いよね。
とにかく無事だった事が嬉しい。
本当に良かった。
そんな感じでホッとしていると戦闘は終わっていた。
本当に流石としか言いようがない。
ココールさんの力が凄まじい事は知っていたけど此処までとは思いもしなかった。
魔法の同時詠唱にあの範囲の広さ。
本当に凄い。
凄いと言えばあの女の人も凄い。
一人であれだけのコボルトを殲滅したにもかかわらずまともな傷一つ負っていなかった。
私が掛けたヒールも多少の疲労回復程度の効果しか与えていないだろう。
そんな事を考えている間に私達は合流を済ませ、ココールさんの提案で女の人も仲間に入るという話になった。
女の人は義理がたい人で、人が良いようだ。
見捨てて逃げた仲間なんかをまだ気にしているのだから。
だから思わず言ってしまった。
だけど私の素直な思いなので後悔は無いし、本心からそう思っている。
お兄さんだって頷いているから私は間違っていない。
なんだかんだで女の人マイさんも仲間になってくれる事になった。
だけど一つだけ釘をさしておかないと駄目だよね。
「マイさん、あの一つだけこの旅団でやってはいけない事があります」
私がそう声をかけると不思議そうに私を見つめて「何ですか?」と尋ねてきた。
「お兄さんの事です。 お兄さんは私のお兄さんなんです。 だから絶対に手を出すのは許しません」
私がそういうと驚いたような表情の後笑われました。
あれ?
どうして笑われるのかなぁと思っていると驚きの発言が飛び出てきました。
「あはは、大丈夫ですよ。 私の恋愛対象は20歳以上の素敵な女性だけですから」
あ、あはは、そうなんですか!
ああ、良かった!
それなら安心です。
私もまだ17歳だから範囲外ですし安全ですね!
まぁお兄さんに手を出さないのであれば本当に何も問題はありません。
これから宜しくお願いしますねマイさん。
ルルちゃんが大声でマスターがいない事に混乱している声が聞こえ、私も周りを確認してみた。
これでもある程度経験を積んだと言えるだけの場数は踏んでいるし、その手の感覚だって其れなりに自信がある。
だというのに感覚だけではなく、しっかりと目でも確認したというのにマスターの存在が確認できなかった。
そんな、まさか!
私にそんな考えが浮かび思わず言葉が漏れるとすぐ近くからマスターの声が聞こえた。
慌てて振り向くと其処には若干物悲しそうな表情のマスターが普通に傷一つなく立っていた。
私のいつからいたのかという質問にルルちゃんが騒ぎだす前からいたという。
全く気がつかなかった。
ありえない。
この距離だ。
この距離で存在に気づかないわけがないし、私自身しっかりとつい今しがた確認したばかりだ。
だというのにマスターは其処にずっといたという。
どういうことだ?
と考えている時にふと思い浮かぶ事があった。
もしかして、特殊技能?
特殊技能とは基本的にその人が元々持っている技能の事だ。
これは才能というか、生まれついての物が大半なので後から自力で取得したりするのはほとんど無理に近い物がある。
マスターの事に気がつかなかったのもマスターの特殊技能のせいかもしれない、そう考えたが今はとりあえずモンスターを殲滅する事を優先しなければいけない。
先程からモンスターを追いかけてきた女の子は一騎当千の勢いで頑張っているのだから私だって負けていられない。
それに少しくらいマスターとルルちゃんに良いところも見せたいしね。
さて、もうひと頑張りだわ。
頑張りましょうか!